ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子 「浮遊霊ブラジル」 文芸春秋社

2017-06-14 10:02:21 | 津村記久子
 7編の中・短編集。『給水塔と亀』は、第39回川端康成文学賞を受賞したらしい。自分の中で純文学ってこういう作品というイメージにぴったりな作品。The純文学。
 定年後、子供時代を過ごした土地に戻ってきた独身男の日常を描いた短編。退屈と言えば退屈だが、端正。なぜこの作品名をタイトルにしなかったのかな?と考えたが、売れないからだろう。『給水塔と亀』と背表紙に書いてあっても、誰も手に取らない。まだ『浮遊霊ブラジル』の方が、どれどれ、何が書いてあるんだろう?と読んでもらえそう。

 『給水塔と亀』以外の6編も、みな純文学系の作品。津村記久子特有のゆるーーーいユーモアがあって、読んでいて楽しい。

 津村さんは関西の人だから、やっぱりうどんが好きなんだ。『うどん屋のジェンダー、またはコルネさん』という変わったタイトルの短編もある。(この方が背表紙にピッタリのような気もする)
 評判の良いうどん屋へ、パンのコルネのような髪型の若い女性が、たびたび来店する。このうどん屋は、味も良いが店主の食べ方指南トークも人気で、特に若い女性客に店主は話しかける。
 その日も、店にコルネさんが、読者モデルのようにきれいな格好だが疲れ切ったような様子でやって来て、うどんを注文するが…。

 ミステリではないが、この先は書かない。津村記久子って、本当に働く女の事をよくわかっていると思う。すごいよ。自分も目いっぱい働いていたからだろう。


 一番印象に残ったのは『アイトール・ベラスコの新しい妻』。主人公はスペイン語が少し分かるので、サッカー関係の翻訳の手伝いをしていたが、アイトーレ・ベラスコというサッカー選手の離婚ゴシップを訳そうとしていたら、その新しい妻が、自分の小学校時代のクラスメート・ゆきほだった事に驚く。
 クラス内では、どちらかと言えば、いじめられっ子だった彼女は、中学は遠くの私立中学に行ったので、全く音信不通になっていた。なんと彼女はスペインに留学しアルゼンチンで女優になっていて、そこでサッカー選手のアイトールと出会ったそうだ。
 主人公は、ゆきほをイジメていた綾という名のクラスの女ボスの事を思い出す。怖かった。みな、彼女の標的にならないように息をひそめて学校生活を送っていた。しかし今、綾は困難な立場にいて…。

 スクールカーストを書くのが一番上手なのは村田沙耶香だと思うけど、津村記久子もなかなか秀逸。『アイトール・ベラスコの新しい妻』中では、30歳過ぎたゆきほと綾のカーストは逆転しそうで、少し溜飲が下がる。

 しかし…スクールカーストって、そんなに強固なものだろうか?江戸時代みたいに、生まれ育った土地で一生を終えるなら、学校での階層が大人になってからも影響するだろうけど、現代では地元にずっといる人の方が少ない。
 じじばばになってるならともかく、いい年をした大人が、クラス会であまりにも昔を懐かしむというのも不気味。そんなに現状に不満があるんだろうか?
 
コメント
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