本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

旅日記その32

2018-04-09 08:59:13 | Weblog
 ミラノ(承前)

 ドウオモの広場に立っていると、鳩がもの欲しげに寄ってくる。と、一人の男がニコニコと笑顔を向けてやってきて、紙袋からトウモロコシを一掴み取り出して話しかける。イタリア語なんぞチンプンカンプンだ。
 その男は私の手をとって水平に伸ばさせ、手のひらにトウモロコシを載せた。すると、数羽の鳩が争うようにトウモロコシを啄む。なるほど、そういうことか。親切な人だなと感じていると、その男は首にぶらさげているカメラで私を撮りだした。
 それでもわかっていない。鳩のエサを親切に分けてくれたうえ、日本人の私をモデルにして自分のカメラに撮り収めたいのだろうと思ったのだ。それで、精いっぱいポーズをとった。

 「サンキュー、さぁ、君の住所を教えてくれ、オフィスはすぐそこにあるから一緒来てくれ」
 そんな英語の意味を理解するのにたっぷり時間がかかった。しまった、と鳩が豆鉄砲を喰らった表情になっただろうが後の祭りだ。タマゴ型の顔立ちの中年のイタ公は観光客相手の写真屋なのだ。
 今さら、頼んだ覚えがないと言っても承知しないだろう。トウモロコシもさりながら結構カメラにポーズをとっていたのだ。
 えい、ままよ、と地下にあるこの写真屋のオフィスに同行した。
 「いくらだ」
 「9,000リラ」
 とんでもない「高すぎる」この言葉だけはイタリア語で強調したかったので、会話集を取り出して「エ・トロッポ、カーロ」ともう一度言った。
 「しかし3枚撮った」
 「私もカメラを持っている。仕方がない、1枚だけ買う」
 「1枚なら5,000リラだ」
 「違う、1枚は3,000リラだ」
 会話は英語だが、ポンポンとやりあったわけではない。ざっとこんな調子の会話だったに違いない。
 結局、3,000リラになったが、それでも忌々しい。おまけに切手代200リラも払った。送ってくるかどうかもあやしいものだ。

 後日談になるが、写真は届いた。白黒写真だが四つ切で写りもよい。しかも良心的に3枚ある。とはいえ、写真代は9,000リラから3,000リラまで落下した。頑張った甲斐はあるが、交渉次第で価格が決まるようでは感心しない。
 ミラノに別れを告げる。次回は行き先のヴェニス。