日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 いや、本当です。中共政権下で12月4日に大規模民主化デモを行う計画が進められています。ただし中国本土ではなく、特別行政区なんですけど。――香港の話です。

 この数カ月、香港は政治改革案をめぐって揺れに揺れています。現行の制度では非民主的なので、これを改善していこうというものです。その歩幅と歩みの速さに議論が集中しています。

 単純明快にいうと、立法会議員と香港のトップである行政長官(特首)選出に普通選挙制度実施を求めるデモです。正確には、全面直選、ということになります。

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 何が非民主的かといえば、現行の選挙制度にあっては民意が十分に反映されないところにあります。現在の香港においては、立法会議員の直接選挙枠は総議席数の半数以下に抑えられ、残りは有権者を限定した業界別の議席枠となり、金持ちや親中派が当選しやすいようになっています。

 ええ、金持ちもおしなべて親中派です。親中派という政治的スタンスの方が商売(対中投資)に有利ということもありますし、民主派が議会を制すると福利厚生など労働条件を手厚くする方向へと改善させられかねないので、搾取志向がきわめて強い香港の資本家たちはコスト増を恐れているということもあります。……これに対し、業界枠議席を廃して全面直選、つまり全議席直接選挙に改めよというのが民主派の主張です。

 現行の行政長官選出はもっとすごい制度です。400人の選挙委員を選んで、その投票によって行政長官を選出するというものです。たった400人の「民意」で香港のトップを決めるというのです。800人にする、という改革案もあるようですが、いずれにせよ人口700万人の香港にあって、これでは民意も糞もあったものではありません。この選挙委員も親中派中心で構成されます。要するに中共お好みの出来レースをするための400人です。

 「普選」「全面直選」という言葉が最近の香港紙に躍っていますが、つまり立法会議員全議席を直選化し、行政長官も香港の有権者全員による直接選挙で選べるようにしろ、というものです。

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 この動きを端的に言ってしまうと、植民地の奴隷だった香港人が、市民として覚醒する段階に入ったということです。その変化を呼んだ原因について、多くの香港人は1997年の中国返還を指摘するかも知れませんが、全て中共の責任に帰するのは誤りだと私は思います。

 確かに中共が選んだ初代行政長官(董建華)は無能であり無為無策、かといって主体的に動けば市民からブーイングが巻き起こるような愚劣な施策に終始しました。あまりの不評ぶりに胡錦涛が衆目の前で董建華を面罵し、今年春には病気か何かの理由を構えて中共によって更迭されてしまいました。

 ただ、それだけが原因ではありません。この間にアジア通貨危機やネットバブル崩壊があり、また中国経済の軸足が広東省などの珠江デルタから上海を中心とする長江デルタへと移りつつあったということもあります。中国進出の拠点としての香港の役割が小さくなった訳です。そこへ追い打ちをかけるように、2003年には中国肺炎(SARS)が流行し、多数の死者を出しました。

 ――――

 よせばいいのに……と当時私は思ったのですが、これも中共の指示なのでしょう。董建華政権はその時期に香港基本法(ミニ憲法)第23条に基づいた「国安条例」を制定しようとしました。国家分裂や政権転覆を図る行動を取り締まるという、いかにも中共が急がせたい内容の条例ですが、その中身は当局の恣意的な解釈でいくらでも政治犯を量産できるようなグレーゾーンに満ちており、市民から広く反対の声が上がりました。

 条例制定自体への反対もありましたが、お粗末すぎる草案が条例になってしまうことへの反対の方が強かったと思います。親中派が多数派を占める立法会で採択されれば条例成立です。その時期が2003年の初夏、ちょうど中国肺炎が終息し、疫病流行の一因となった董建華政権の対応のマズさが指摘され始めた時期と重なりました。

 そして、本来なら中国返還6周年を祝うべき2003年7月1日に、歴史的な50万人デモが発生することになります。人口700万人の香港で、炎天下に50万人を動員したという参加率の高さに驚くべきです。それは市民の危機感の高まりと同時に、もはやデモをする以外に方法がないという政治的自由のなさが原因だと私は考えています。

 ちょうど返還6周年記念式典で温家宝首相がゲストとして香港に来ていたときです。

「香港人は香港の主人であるということを大切にしなければならない」

 と温家宝が演説してみせたその日に、その顔に泥を塗るかのような50万人デモが発生しました。

「香港の主人であるおれたちに普通選挙権すらなく、自分たちのトップを選ぶ権利もないというのはどういうことだ」

 という温家宝ひいては中共政権への反論を、香港人は行動を以て示したのです。

 このデモが中共に与えた衝撃は大きく、国営通信社・新華社は3日経ってから外交部報道官記者会見の中で間接的にデモが発生したことを認めました。ざっとした言い方になりますが、香港で50万人というのは、東京だと100万人ということになります。この凄まじい民意の圧力はついに立法会で多数派を占める親中派の翻意を実現させ、「国安条例」は廃案となりました。

 ――――

「植民地の奴隷だった香港人が、市民として覚醒する段階に入ったということです」

 と私は書きましたが、要するに香港人はかつてない不景気にぶつかって政治に目覚めたということです。1980年代以降、天安門事件(1989年)による一時的な落ち込みを別とすれば、香港経済は基本的に右肩上がりで伸びてきました。

 それが中国返還の行われた1990年代末期に上述したような経済を冷え込ませる事態が立て続けに発生し、そのたびに董建華政権の対応のマズさが際立ってしまいました。こうなると報道の自由、言論の自由、そして経済活動の自由度も世界有数という環境を謳歌してきた銭ゲバの香港人たちも、董建華による政権運営の拙さに気付き、そんな董建華をクビにする権利すら自分たちの手にないことを実感し、政治的自由がないことにようやく思い至ったのです。

「結局は普通選挙制だよ。お前らにその権利がないからこういうことになる。そのことをよく考えろ」

 と私は副業の中文コラムで書きました。専門誌の分野と「50万人デモ」は一見無関係ながら、政治的自由のないところでは創意が制限され、クリエイティブな環境はないし人材は育たない。仮に天才が出現することがあってもそれは例外で、政治的自由のない国は結局のところ国際水準の業界を形成することはできない。だから恐らく天才が出てもより自由な環境へと活動を海外に移すことになるだろう、と専門誌の範疇から飛び出さないようにしつつ、

「つまり結局お前らに足りないのは政治的自由であって、具体的には普通選挙制だよ」

 と指摘したのです。密かに誇ることを許してもらうとすれば、いつまでもデモの熱気から覚めやらぬ香港のメディアにあって、最も速く普通選挙制に言及したのが私のコラムだったということです。

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 その後、香港でもようやく普通選挙制が広く論じられることとなり(もちろん拙文とは無関係にです)、それが政治的目標として確立されました。民主派は2007年の行政長官選挙、2008年の立法会議員選挙での「全面直選」を求めています。中共はもちろんそれに反対しています。直接反対すると香港市民に嫌われてしまうので、間接的にあの手この手で切り崩し工作を行っています。

 香港が再び熱い政治の季節を迎えた、というところでしょうか。そういう中で民主派が企画したのが、「一二・四」デモです。冒頭に「政治改革案」と書きましたが、董建華の辞職に伴い自動的に行政長官に昇格した曽蔭権・新行政長官は、民意を受けて普通選挙制導入へのロードマップを作成しました。

 ただしそこにはタイムテーブルが付されていませんでした。タイムテーブルがない以上、それは具体案とは認められない、と民主派が怒号し、一方で78歳の老人が、

「わしが生きている間に普通選挙制の実現をみることはできないのか」

 という新聞広告を出したことが話題を呼び、民主派への追い風となっています。デモは今度の日曜日。民主派は警察にデモ届を出す際、「参加者5万人」としたそうですが、天気が良ければ10万人以上集まるのではないかと私は思います。その人数次第では曽蔭権政権が揺さぶられるでしょう。

 北京の中共もグラつくことになるでしょう。言うまでもないことですが、香港に対する「一国家二制度」が十分に機能しなければ、台湾の独立派に「それ見たことか」という口実を与えることになるからです。

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 以上は、配偶者(香港人)の姉、つまり義姉からの、

「香港人の思いを是非日本の人にも伝えてほしい」

 というリクエストに応じたものです。仕事仲間(香港チーム)や副業の編集部からは、

「御家人さん、香港に来て一緒にデモしようよ」

 と誘われているのですが、冗談じゃありません。香港在住ならともかく、わざわざ日本から助太刀に駆け付けて外国人である私が親切を示す必要はないでしょう。香港人は自分で未来を決めて生きるなり死ぬなり勝手にしろ、というところです。ただ、今回もデモに絡めた内容のコラムにするよう頼まれてしまいました。そのくらいは承けてやろうと思います。



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 12月も目前となりました。この時期になるとどの業界も忙しいのでしょうが、私の属する世界もまた然りです。副業の世界には「年末進行」という言葉があります。週刊誌がお正月に合わせて合併号を出したりしますが、要するに編集部が正月休みをとるために10日間で2号分(最新号+合併号)を無理して仕上げてしまうのです。

 いや、日本ならまだいいのです。私の副業だと旧正月前が「年末進行」となる訳ですが、競争の激しさもあり、頑として合併号を出さないのです(涙)。「年末進行」という言葉自体は無味無臭ですが、そこには難行苦行、そして編集者やコラム書きたちの血の涙が隠されていると思って下さい(笑)。

 という訳で、合併号を出さない私の書いている専門誌は2週間で3回分を仕上げてしまいます。印刷は中国本土で行われていて、工場は出稼ぎ労働者によって稼動していますから、旧正月は帰省とUターンを織り込んだ長期休暇となります。それまでに3号分を2週間で編集するのですから地獄です。

 本業には年末進行めいたものはないのですが、日本の年末の忙しさが私のスケジュールに反映されます。おかげで日本の年末は本業の方が立て込む上に正月三が日でも副業の原稿書きがあり、旧正月前は副業が悪夢の締め切り地獄。そして旧正月中は日本側が動いているので私だけは本業の仕事をしなければなりません。何かが間違っています(笑)。でもこういう境遇、駐在員の方なら御理解頂けるかと思います。

 ――――

 以上が言い訳です。多忙をきわめる時期に入ったので土日は気楽に書くようにしようと考えていたのですが、きのう(11月27日)は日曜にも関わらず仕事がどっと入ってきてブログを更新できませんでしたので、順延とさせて頂きます。今日も今日とて打ち合わせが控えているので眠らずに起きています。私の感覚ではまだ日曜日です(笑)。折角近くまで行くので時間があれば靖国神社にも立ち寄るつもりです。遊就館で海軍カレー&海軍コーヒー&零戦です。

 もちろん遊就館へ行く前に参拝を済ませます。近くに行くたびに靖国神社へ詣でるのは、私にとっては朝起きて顔を洗うようなものです。前に書きましたが癒される場所ということもあります。お願いをする神社ではないと考えているので、二礼二拍一礼の間に、

「ありがとうございました。本当にありがとうございました」

 と心で唱えます。

 そして零戦です。私の零戦好きは幼少のみぎりからのもので、都市対抗野球より古い趣味です。幼稚園のときに母親と書店へ行った際、「仮面ライダーの本がほしい」と言ったのに駄目だと言われたので、飛行機が表紙の本を選んだらそれならいいというので買ってもらいまた。
『ゼロ戦――坂井中尉の記録』というもので、ふくろうの本とか何とかいった小学生向け書籍シリーズの1冊でした。

 説明するまでもありませんが、坂井中尉とは日本を代表する撃墜王のひとりだった故・坂井三郎氏のことです。氏の著作では
『大空のサムライ』が特に有名ですが、私が買ってもらった本はそのベースとなった『坂井三郎空戦記録』を下敷きに書かれているようです。

 いまでは歳を食って零戦関連や対米戦争関連の書籍も多少は読んだので(マニアとか軍オタというほど詳しくはありませんけど)、遊就館で海軍コーヒーを飲みながら零戦を眺めていると、当時の日本の技術力と職人技の素晴らしさ、そして国力の限界を一身で象徴しているように思えて、心打たれるものがあります。その美しい機体のラインも芸術としかいいようがありません。

 ――――

 どうやら脱線してしまったようですが、小泉首相の靖国参拝に関してです。今回の参拝(10月17日)後に記者団に対し、

 ――

「今日の平和というのは我々生きている人だけで成り立っているんじゃない。心ならずも戦争に赴いて命を失った方々の尊い犠牲の上に成り立っているんだということを、片時も我々は忘れてはならないと思う。平和な時代を続けていきたいと、戦没者の皆さんに敬意と感謝の気持ちを伝えることが意義あることだと思っている」

 http://www.sankei.co.jp/news/051018/morning/18pol001.htm

 ――

 と、小泉首相は語っています。私個人は特別な政治的信条に拠って靖国神社に行く訳ではないので、このコメントに素直に同意できます。ただ参拝反対ではなく、「心ならずも」という部分に異を唱える方もいるようです。西尾幹二・電気通信大名誉教授のブログでたまたま目にしたのですが、

 ――

 今回の参拝は邪心あるパフォーマンスにすぎず、評価できない。行くのであれば、自らが当初約束していた8月15日に実施すべきだった。首相は今夏に発表した談話で「戦争によって心ならずも命を落とされた多くの方々」との表現を使ったが、自ら進んで出かけていった将兵たちの心をまったくわかっていない。そんなことを言う首相の心がこもっていない形だけの参拝など、むしろしてもらいたくないぐらいだ。

 http://nishio.main.jp/blog/archives/2005/10/post_240.html

 ――――

 私は難しいことはわかりませんけど、確かに自ら進んで出かけていった人々もたくさんいると思います。でもその一方で、社会人であれ大学生であれ、心ならずも日常生活から引き離され、戦地に赴いた方々もまた少なくないのではないかと考えます。進んで出征した人々にしても、そこには戦死という可能性があるとはいえ、多くの人は死ぬためではなく、死ぬかも知れないことを覚悟しつつ、日本を護るために出陣したのではないかと思うのです。

 坂井氏の著作の中にも、硫黄島沖に接近した米機動部隊に対し体当たりするよう命じられて出撃する話が出てきます。坂井氏はその一員として発進し、幸いに機動部隊に接敵できずに生還するのですが、坂井氏のような筋金入りの戦士でも、「体当たりしろ」(=死ね)と命じられたことに対し、心の動揺があったことを吐露しています。

 60年余り前、あるいは毅然と、あるいは思い悩みつつも、自らの命と引き換えに日本と日本人の未来を護らんとした先人たちがいます。

 懐かしい人たち、忘れ得ぬ人たちの面影を慕いつつも、その一方で自らの生命を投げ出して護らんとした日本と日本人の「未来」というのは、5年先や10年後といった短いタームのものではなく、いまを生きる私たちにつながるような、次世代、そのまた次世代といった長い時間を見据えたものではなかったかと思うのです。

 ……という趣旨のことを以前書きましたが、散華された先人は特攻隊の隊員ばかりではありません。軍上層部の無能無策や前線指揮官による無理な作戦を押し付けられたことで戦死を強いられた方々も大勢いるでしょう。サイパン島にバンザイクリフという場所があるように、あるいは沖縄戦のように、民間人が巻き込まれ犠牲になったケースもあります。

 戦場、特に最前線の士気というのは平和な時代に生きる私たちには恐らく実感することのできないものでしょう。望んだものであれ、強制されたものであれ、追い詰められた環境の下で散華された先人たち全てに、私は「ありがとうございました。本当にありがとうございました」と念じます。ですから私は、小泉首相のコメントに素直に頷くことができます。

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ピアノは知っている―月光の夏

自由國民社

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 実話に基づいたエピソードを絵本にしたものです。遊就館の売店で偶然目にして購入しました。私は人の親ではありませんが、もし子供がいたら、きっとこの本を読んで聞かせただろうと思います。


ガダルカナル戦記〈第1巻〉

光人社

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ガダルカナル戦記〈第2巻〉

光人社

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ガダルカナル戦記〈第3巻〉

光人社

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 『ガダルカナル戦記』、こちらは絵本以上に御家人推奨です。「戦記」とタイトルにありますが、戦記めいた内容ではなく、一種のルポルタージュのようなものです。対米戦争の転換点はミッドウェー海戦だと語られることが多いのですが、実質的にはその直後に生起したソロモン諸島・ガダルカナル島をめぐる陸海軍の消耗戦が戦争の帰趨を決したと思います。

 一種のルポだと書きましたが、ガ島戦に関わった旧陸海軍の一兵卒から現地司令部の要員、さらに大本営参謀に至るまで幅広く取材し、そこで語られる内容は戦記よりも生々しいものがあります。

「軍上層部の無能無策や前線指揮官による無理な作戦を押し付けられたことで戦死を強いられた方々も大勢いるでしょう」

 と上述しましたが、その典型例といってもいいのがこの本に書かれている内容です。ざっとした言い方をすると、陸軍は3万人を投入して2万人が戦死。……とされますが、実際には米軍との交戦による戦死よりも、補給不足による餓死や病死が多かったとされています。

 日本と、いまの日本の繁栄の礎となった先人たちを思うとき、特攻隊だけではなく、この本で語られる人々のことも忘れてはいけないと私は思うのです。

 むろんガ島攻防戦のような不条理な実例は、対米戦争で発生した数多くのケースのひとつにすぎないことは言うまでもありません。ただ著者による取材と構成の綿密さにおいて、この本は同ジャンルの作品における白眉だと言えるかと思います。



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 週末は雑談に逃げます(笑)。

 さしもの「反日報道」の洪水もようやく一段落した模様です。量・質ともに低下傾向が否めません。『環球時報』のような反日基地外紙が主役を張るようになっているので、なお「反日」の気配が続くとしても、メディアレベルではすでに峠を越えている観があります。

 とはいえ、計画的・戦略的なニオイがせず、釈然としない部分も少なくなかった今回の「反日報道」の奔流については、一応気に留めておく必要があると思います。

 現時点で振り返ってみると、アジア太平洋経済協力会議(APEC)からブッシュ訪中あたりまでは「靖国参拝」を絡めた「小泉叩き」や日本の外交路線批判(アジア軽視だそうで)が主流でしたが、その後は「改憲=自衛軍創設」で足並みが揃い、このネタを柱にした扇情的な報道が続きました。

 この間、印象的だったのは従来とは違って「火消し役」的なメディアが存在しなかったこと、政府(外交部)とメディアの間で対日姿勢に関し相当な温度差やズレがあったことなどです。私は現地にいないのでつかみにくいところですが、恐らく庶民の感覚とも温度差やズレがあったのではないでしょうか。

 ――――

 で、終わってみれば(と言ってしまいますが)「日本が改憲へ/自衛軍創設!/軍国主義復活!」といった印象だけが残った観があります。
「自衛軍創設>>麻生発言」とは以前指摘したところですが、麻生外相による遊就館に関する発言こそ中共史観に関わる重大事件だった筈です。

 中共政権にとって麻生発言は少なくとも未だ国会にも持ち込まれていない「新憲法草案」などよりは叩くべき話題の筈なのに、実際には
「自衛軍創設>>麻生発言」だった。最も釈然としない部分ですが、一見すると計画的・戦略的ではないようでも、これを何かの伏線とすべく狙ったものと理解すれば、わからなくもありません。「自衛軍創設」を煽りに煽ることで、誰が得をするかという話です。

 ……ただ目下のところそれを裏付ける動きがないために、「伏線だったのかも知れない」といった程度で忘れないでおこうと考えているところです。

 ――――

 それから、この1~2週間ばかりの間に、
「靖国参拝をやめれば関係改善」という中国側の主張が、一気に説得力を失っていったのも印象的でした。

 仮に小泉首相が靖国参拝をやめたとして、では
外交部報道官が「靖国史観の核心」と決めつけた「遊就館」を肯定する麻生外相発言を許容したままで首脳会談ができるのか。「憲法改正・自衛隊から自衛軍へ」という動きに構うことなく、首脳会談なり関係改善なりが可能なのか。

 尖閣諸島や東シナ海ガス田紛争もありますし、とにかく中国側にとって「関係改善の前提」とすべきものがまとめて出てきてしまい(というより中国側が勝手に騒いだ)、ハードルが高くなったという観が否めません。お蔭様で「靖国問題が解決されれば全てがうまくいく」と未だに言っている王毅・駐日大使の発言を虚しいものと感じ、一笑に付す日本人が増えたのではないかと思います。

 ――――

 当ブログでは「糞青」と呼んでいる自称愛国者の反日教徒どもも、馬鹿かも知れませんが溢れんばかりのパワーは持っています(ネット上限定かも知れませんけどw)。そのベクトルの鉾先が「反日」から別の面に向かえば、それなりに面白いことになります。

 実例があるのです。昨年9月の胡錦涛政権の実質的な発足後しばらく、メディアやネット上での反日言論に統制が加えられた時期がありました。その間の反日サイトの動きが面白く、「反日」を呼号できなくなったために、行き場を失ったパワーが中国国内に対する問題意識へと転化されました。

 いまでも印象的なのは、
「内憂外患という言葉があるが、いまの中国にとって優先すべきは内憂か外患か」というスレが立って、それにレスをつけた者のほぼ全てが「内憂」と応じたことです。何が「内憂」なのかについての議論もありました。

 また、とある「なんちゃって香港人」(笑)が
「日本人が上海で集団買春したぞ」というニュースを流して煽ったのに対し、「幹部とか警察もやってるじゃないか。珍しくもない」と冷めた反応が返ってきました。別のサイトで同じことをやってみたら、よりラディカルな政権批判というべきものまで続々と飛び出してきて、こちらが慌てたこともあります。

 ちょうど中国とロシアが国境確定作業を終えたころで、ところがその詳細がなかなか明らかにされないため、
「政府の連中は石油欲しさに祖国の領土を売ったんだ」という論調も出ました。

 ――――

 そういった動きが昂じて、
「党上層部や長老、それに物故した元老の子弟、現職一覧」という趣旨の一覧表を掲載したスレが立ち(「なんちゃって香港人」が立てたものではありません。念のためw)、高級幹部の世襲や特権階級化に対する怒りの声が上がったこともありました。さすがにこのスレは半日か1日程度で削除されましたけど(笑)。……僅々1年前のことですが、現在のネット規制強化を考えれば一時的ながらも楽しめた、牧歌的な期間でした。

 1989年の民主化運動を中共政権が軍隊を投入して武力弾圧(天安門事件)したことで、それまでにも問題視されていた中国共産党に対する衆望がいよいよ地に堕ちました。ときあたかもベルリンの壁崩壊、東欧の共産主義政権消滅、そしてソ連解体と中共には衝撃的な事件が群がり起こった時期です。

 そこで民衆の不満の鉾先をそらすため、当時総書記だった江沢民が始めたのが反日風味満点の虚偽に満ちた「愛国主義教育」であり、それを全身に浴びて育った世代が「糞青」や多くの「珍獣」(プロ化した糞青)なのです。……が、「反日」の皮を剥いでやると、上述したような意外な意見が頭をもたげてくるという訳です。もともと不満をかわすために始めた「反日」ですから、それを規制してしまうと、純粋培養された糞青たちでも自分たちの属する社会に目を向けることになるのでしょう。

 ――――

 吉林の化学工場爆発事故に端を発した河川汚染問題、80kmとも100km以上ともいわれる汚染帯が松花江を下っていく事件でいま中国は大騒ぎです。これも「愛国主義教育」と経済成長(歪んだ発展モデルですが)である程度回復した中共の威信を再び低下させる要素となるでしょう。

 松花江を給水源とするハルピン市の断水問題が注目されていますが、上流の吉林省・松原市ではそれ以前から断水措置がとられ、それが1週間に及んでいたことは、ずっと隠蔽されてきました。そもそも化学工場の爆発が11月13日、それによる松花江の汚染が明らかにされたのは10日後の23日のことです。

 松花江はロシアとの国境線である黒龍江(アムール川)に合流しますからもはや国際問題。ロシア側からは中国に賠償を求めるべきだとの声も出ているようですが、それ以前にいま中国のネットユーザーの間で、こうした隠蔽体質に抗議するネット署名をやろうという動きが一部に出ています。

 隠蔽は今回だけでなく、2003年の中国肺炎(SARS)やブタ連鎖球菌によるとされる奇病、そして鳥インフルエンザ問題でも行われてきたものです。炭鉱事故なども同様でしょう。それだけ痛い目に遭ってもまだやるのか、という怒りがあるのだと思います。今回も「通報の遅れ」(中央政府の言い分。隠蔽ではないそうで)に対し、「決して遅すぎたものだとは思わない」と中央政府における担当責任者が記者会見し、庶民の怒りの火に油を注いでいるようです。

 ――――

 そもそも……とまた言わせて頂きますが、今回の騒ぎの原因となった化学工場(吉林石花公司)にしても、爆発事故(爆破事件かも知れませんが)が起きる前から、それも前世紀の1980年代に、工業廃水が付近の河川を汚染し、下流の黒龍江省の漁民の多くが水銀中毒を患った、これは日本の水俣病のようなものだった、というニュースを黒龍江省の地元紙『生活報』が報じたようです。この問題に対しては黒龍江省当局がとりあげて調査し、原因が件の化学工場によるものと断定されたそうです。

 どうもこの話題はもう少し寝かせておいた方が暴露ネタや責任問題、それにロシア側の反応も加わって香ばしさを増してくるようです。ただ一言でいってしまうなら、珍しくもない。……という事件でしょう。今回はたまたま騒ぎが大きくなり隣国にも絡む問題となっただけで、似たようなことはこの二十年来、中国各地で開発の名のもとに行われてきたものです。

 粗放きわまりない経済成長、歪んだ発展モデル、と当ブログでは表現していますが、農村を潰して開発区を設立し、そこに外資を導入して搾取OKの無尽蔵な廉価労働力(農民)を投入することで中国は現在の「発展」を実現させました。その代価として農村や農民に犠牲を強いている訳ですが、そればかりか環境自体にも問題が及んで奇病百態、いずれも当ブログにて既報していますが、今年はとうとう工場からの排水・排煙による河川や大気汚染を原因とした健康被害に忍耐も沸点に達し、浙江省などで農民暴動が発生しています。

 もちろんそうしたケースの多くは中国国内では報じられません。地元当局は重要な税収源である工場側の肩を持ち、武力に訴えてでも農民の抗議を封殺してしまうからです。むろん税収だけではなく、個別の党幹部の懐が潤っているからでもあるでしょう。

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 河川が汚れれば当然ながら付近の土壌も汚染され、農作物にも影響が及ぶことは、これまでも「重金属野菜」(2005/03/25)を何度も例にひいていますから説明不要でしょう。吉林省や黒龍江省でも今後似たような事態が発生することになると思います。古いエントリーを御覧になっていない方には、これまた一種の公害として、
貴州省の総人口の半分がフッ素中毒を患っているという現在進行形のケース()にも目を留めて頂ければと思います。

 中国における鳥インフルエンザの被害隠蔽疑惑についても様々な怪情報が飛び交っています。世界保健機関(WHO)の腰がまだ定まっていないので確報はありませんが、
「地元は平穏」「住民はパニック状態にならず」といった報道が中国国内からわざわざ流されるので隠蔽疑惑がいよいよ強まっている格好です(笑)。

 いかに「愛国主義教育」に毒されているとはいえ、死者3名という中国当局による発表を素直に信じている者がいれば、それは珍重するに足るキャラといえるでしょう。政治ならともかく、生活レベルの問題となればいかに愚民教育を施されているとはいえ疑い深くなるものです。

 これは根拠のない邪推にすぎませんが、最近遼寧省で鳥インフルエンザ問題への対応が消極的だったとして地方幹部が7名ほどクビを飛ばされました。これを炭鉱事故の場合と並べてみたらどうでしょう。10名、30名、50名、100名……と事故死者数が増えるほど馘首される地元幹部の位が高まり、また人数が増えていきます。クビになった遼寧省の地方幹部7名がどの程度のポストに就いていたのか、それで何事かが測れるかも知れません。邪推ですけど(笑)。

 ――――

 中国がどう荒れて中国人が何人死のうと所詮は対岸の火事ですが、今回のように隣国にも直接被害を及ぼす事件が出てくると、だんだん他人事と笑っていられなくなくなってきます。

 仮にロシアが賠償を求めれば中国は応じるかも知れませんが、相手が日本だったらどうでしょう。公用車や大使館が中国人によって故意に損壊されても謝罪ひとつしない国です。こと自然環境の問題となれば、謝罪はおろか原状回復もままなりません。そして賠償請求にはやはり歴史問題で対応してくるのでしょうか。



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 昨年の秋ごろでしたか、重慶市の都市暴動や四川省の漢源農民暴動、それに河南省での回族漢族流血の衝突事件や退職労働者のデモなどがあり、当ブログが期せずして暴動・デモ専門ブログのようになっていた時期がありました(笑)。何だか最近は「反日報道」日記と化している観があります。そろそろ区切りをつけたいところです。

 印象でいえば、今回の「反日報道」の洪水は焦点が不鮮明なまま成り行きで大きな流れとなったところ、最近になって自民党による新憲法草案が発表され、これが燃料になって「自衛軍創設/軍国主義再び!」のようなお祭にまとまったようにみえます。

 ただあくまでも自民党の試案にすぎませんし、続報が出る性質のものでもありませんから、このネタで騒ぐのにも限りがあります。実際、きのう(11月24日)の中国メディアによる「反日報道」は前日より随分減った観があり、対象は相変わらず「自衛軍創設」ネタなのですが、特集やニュースではなく署名論評やコラムといった形の記事ばかりでした。

 その一方で麻生外相の遊就館に関する発言がありましたね。外交部報道官が「衝撃を受けた」と語るほど極上の燃料なのにも関わらず、中国メディアはお好みではない様子。スルー同然の扱いをされました。

 まあ騒ぎ始めてからもう1週間を超えていますから、そろそろ踊り疲れるころなのかも知れません。ネタ切れでもあります。前回ふれたように、戦略的あるいは計画的に仕掛けられた形跡が見当たらない、というのが今回の「反日報道」の特徴です。

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 そんなところに飛び込んできたのが、
「中国漁船が日本の排他的経済水域(EEZ)内での違法操業で海上保安庁に拿捕された」というニュース。

 ●明報即時新聞(2005/11/24/13:10)
 http://hk.news.yahoo.com/051124/12/1iyzr.html

 EEZ。中国漁船。日本が拿捕。……おおお。これで新ネタ登場か、と思ったのですが、
「日中双方が漁業協定の関連規定と慣例に基づいて事件を処理し、漁船も船員も釈放された」とのプレスリリースが中国外交部から出され、これでおしまい。

 ●新華網(2005/11/24/19:58)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-11/24/content_3830566.htm

 外交部といえば、報道官記者会見で「自衛軍創設」など改憲ネタにどう食い付いてくるのか、という楽しみがありました。……が、

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 質問「自民党が憲法改正の草案を発表したが、中国側はこれについてどうみているか?」

 回答
「歴史的な原因により、アジアの国々は日本の改憲に関する動向に一貫して注目してきた。日本が平和的発展の方針を堅持することが、日本自身の根本的利益になり、この地域の平和と安定、発展につながると我々は考えている」

 ●新華網(2005/11/24/18:00)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/24/content_3830221.htm

 ――――

 と、これだけです。「反対する」とか「軍国主義復活を懸念する」といった言葉のカケラすら出てきません。軍機関紙である『解放軍報』も目下のところ動きはなし。「反日報道がシューソク」は、「集束」から「終息」へと変わりつつある印象です。……ああそういえば関連ニュースとして王毅・駐日大使の外国人記者クラブにおける記者会見がありました。

「日本の指導者の靖国参拝は受け入れられない。私人としての参拝でも受け入れられない」

 といった内容で、靖国参拝をしないなら首脳会談の可能性があると示唆したようですが、まだそんなことを言っているとは(笑)。相変わらず空気が読めていませんね。

 ●新華網(2005/11/24/20:34)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/24/content_3830729.htm

 さらに王毅は大ボケ発言をかましています。面目躍如ですが減俸1カ月ですね。

「中国の立場は一貫している。1985年にA級戦犯が靖国神社に祭られていることが公にされて以降、我々はずっと日本の指導者による参拝に反対し続けている」

 ダウト。公にされたのは1979年4月19日です(新聞報道)。それ以降も大平首相や鈴木首相が参拝しているのに、中国は何ひとつ文句をつけませんでした。それが1985年の中曽根参拝になって騒いだ。はてさて何が一貫しているのやら(笑)。部下や新華社もそっと修正してやればいいのに、そんなに王毅が嫌いですか、そうですか。

 ――――

 本題に戻ります。「終息」とはいえ、です。アジア太平洋経済協力会議(APEC)前には対日報道に対する制約が垣間見られましたが、今回の騒動でそれがとっ払われました。それが今後も継続されるなら、中国メディア、あるいはメディアを使って政争を仕掛けんとする政治勢力にとっては得るものがあったお祭、ということになるでしょう。それにしても、もう少し盛り上がるかと期待していたのですが。「火消し役不在」でも勝手に息切れして座り込んでしまうとは思いませんでした。

 ひとつ目立っていたのは、「麻生発言」がスルー同然だった一方で、歴史ネタ、例えば「抗戦期間における日本軍の残虐行為」とか今年上半期に流行(笑)した「侵略の新証拠発見」など……もまるで出なかったことです。私のみた範囲では1本だけでした(毒ガス実験)。戦略的・計画的な色彩は帯びていないようにみえる今回の「反日報道」の洪水においても一応は制約があったのか、それとも「自衛軍」だけに目を奪われてしまったのかはわかりません。

 ……ともあれ「終息」の気配です。実のところ、「終息」は踊り疲れたこともあるでしょうが、むしろ日本とは無関係ながら、食欲をそそられるまたとない大ネタが登場したからでしょう。

 ●ハルピン:4日間断水、吉林爆発事故で汚染の恐れ(サーチナ・中国情報局 2005/11/22/22:34)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051122-00000016-scn-int

 吉林省の化学工場で先日発生した爆発事故で汚染物質約100トンが松花江に流れ込んだというものです。そのドロドロした感じで灰色の帯状になった汚染物質が、松花江を下ってきていよいよハルピンに接近しつつある。……ということで中国メディアはカウントダウン状態(笑)。いまもこれで騒ぎっぱなしです。

 で、中国メディアは「反日ネタ」から離れ、それを眺めていた私もそろそろ食傷気味……というところで、前回のコメント欄にて質問を頂きました。私にとっても関心のある問題なので、取り組んでみることにします。

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 ●ご教授ください (G10改) 2005-11-24 21:55:21

 はじめまして、勝手にブックマークさせていただいております、コンペジターG10改と申します。

 ずうずうしいとは思いますが。

 【自衛隊と自衛軍、一字の違いはなにか】
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/23/content_3825105.htm

 こちらの中にあります。「日本上上下下能gou不忘侵略戦争」(gouは句に多)これはどう解釈すべきでしょう?上上下下が日本にかかるのか、不忘にかかるのかですが。

 もし日本にかかるならかなり頭に血が上ったかなと思えたので。

 ――――

 「G10改」さん、はじめまして。ブックマーク恐縮です。23日は本当に「自衛軍創設」関連ばかりで、しかも「わずか一字の差ながら云々」というタイトルを掲げた記事が多くて辟易しました。同じ記事を使い回しているかといえばそうでもない様子なので、似たものばかりとはいえ全部拾い上げなければなりませんからね。

 御指摘の部分は段落の先頭から読むべきかと思います。端折って訳しますと、

「現行憲法の理念を堅持して平和発展の道を歩むのか、それとも憲法第9条を改正して軍事力を増強し、政治大国の道を歩むのか、これが日本の護憲勢力と改憲勢力による闘争での一貫した焦点であった」

 そのあとに、国際社会特にアジアの国々は
「かつての侵略戦争が当事国たる日本の人々やアジアの他の国々の人民に深刻な災難をもたらしたことを、日本国民みんなが忘れずにいられることを切に願う」と続きます。つまりこれは「日本上上下下」への要望であり、日本の現状については「護憲vs改憲」で闘争中、という認識です。前々回にふれましたが、

「悪いのは一部の右翼勢力」

 という国交正常化以来の中国側の基本姿勢から外れていません。この現状認識が「解放網」(『解放日報』系列紙の電子版)では、

「日本政界の右傾化が加速する状況にあって……」

 と、あくまでも政界の右傾化とされており、「上上下下」と同様、「一億総右傾化」のような論調にはなっていません。これも基本姿勢のままです。

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/23/content_3822020.htm

 ――――

 それがちょっと際どくなっているのは『南方日報』(広東省党委員会機関紙)の署名論評です。最後の小見出しが、

「総体的な右傾化で迷走状態」

 と、「右傾化」を政治家に限定していません。本文から一部を訳出しますと、

「近年における日本の政治路線は常に広く注目を集めてきた。一体『右へ向かう』のか『左へ向かう』のか。観じるに、小泉政権を代表とする日本社会の右傾化思潮はどうやら追い風に乗ったようだ」

 「日本政界」ではなく「日本社会」だそうです。中共政権の基本姿勢からすれば逸脱気味です。まあ問題はこの部分だけで、最後の段落は、

「小泉は言った。日本の腰はもう据わった。今後20~30年以内に、日本と中国・韓国との関係が良くなることはない。政治家というのは、本来なら理性的に思考して国民を導いていくべき筈だ。それなのに政治家が普通の国民よりも盲目的な頭脳になっているようでは、その国が過ちに過ちを重ね、自らの方向性を見失うといった状況を避けられる訳がない」

 という形で政治家の問題に帰していますから、たぶん逸脱解消ということになるのでしょう。この文章は全体的にほとばしる感情を抑えかねているような筆致で、「糞青」(自称愛国者の反日教徒)傾向が高いように思います。ああ記者ですから「珍獣」(プロ化した糞青)ですね。ペンネームなのか実名なのか、とにかく署名が「中国人」と同じ発音である「鐘国仁」なのも「らしい」ところです(笑)。

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/23/content_3821937.htm

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 それから中国側の基本姿勢に徹する態度については、前回のコメント欄で「p」さんから鋭い御指摘を頂きました。

「昨日と本日のエントリを読んでふと思ったのですが、この中国のマスコミの人達は日本の「議会制民主主義」を全く理解していないのでは、と思いました。」

 そうなのです。「右翼小泉」が選挙で圧勝なら票を投じた有権者の多数派も右翼じゃないか、という話になるべきところが、中国ではそうなりません。中共政権としては敢えて避けているのでしょうが、私たちが「一党独裁制で普通選挙なし、法制あれど法治なし、全ては党の思うがまま」という社会環境を実感としては捉えにくいように、中国でも似たようなことになっているのだと思います。

 記者であれば大学時代に「西側の民主主義制度」を一応知識として吸収しているとは思うのですが、愛国主義教育でイカレてしまっていますから、否定的な捉え方をしている可能性があります。教える方も「いい制度ではない」「中国の国情には適さない」といった姿勢でしょうし。これが庶民レベルだと中国の常識、つまり一党独裁制に当てはめて考えますから、「悪いのは一部の右翼勢力」という論法にあまり疑問を感じない可能性があります。まあ庶民にとってはどうでもいいことでしょうけど。

 でも、ひと昔前はこうではなかったのです。私が留学していてた時期(1989-1990年)は「党の言うことはまず疑ってかかれ」という認識が庶民レベルであり、大学生は「西側の民主主義制度」をありのままに理解していました。問題意識のある真面目な学生になると西側の制度に憧れ、またそうした制度を導入して民主化を図らないと中国は世界の潮流から取り残される、という強い危機感を持っていました。それが1989年の民主化運動の一因となっていく訳です。ひと昔でなくふた昔前の話ですね(笑)。

 ――――

 当時を体験しているせいか、物質面では比較にならないほど豊かになったとはいえ、いまの中国人は以前より民度が退行しているように思えてなりません。「小日本」という意識は20年前にもあったでしょうが、反日風味満点の虚偽に満ちた愛国主義教育などというカルト宗教じみたものに毒されていない分、昔の中国人はまだ健全で、等身大の自分をみることができていたように思います。……何だか余談に流れてしまい申し訳ありません。



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 私はいつも午前1時から記事漁りを始めます。現地時間だと日付が変わる時刻なので、この時間からとりかかると前日のニュースをまとめて拾えるから楽なのです。香港-台湾-中国の順に回るのですが、ギャップの激しさに茫然とすることがあります。

 もちろん「香港・台湾vs中国」です。今回の主題でいえば反日報道への熱の入れ方、ということになるのですが、記事の分量もさることながら、畳み掛けるような一種の執拗さが中国国内メディアにはあります(笑)。11月23日付を扱った今回は分量に加えて憎悪の混じった執拗さのようなものに辟易しました。

 中国国内メディアの日本関連報道は前回(11月22日付)よりひと回り増えています。即物的な言い方になりますがA4に9ポイントで詰め込んでも16頁あります。本数は面倒だから数えていません。むろん全てが反日記事という訳ではなく、例えばプーチン訪日に絡んだ話題で、

「領土問題がネック、日露関係は前途多難」
「中国との資源争奪戦、日本に勝機なし」

 といった趣旨の記事が出て、見下したような態度で日本にダメ出ししたりしているのですが、これは反日記事とは別物でしょう。日本人が読めば気分が悪くなるでしょうけど。

 ――――

 今回の反日報道の洪水は計画的に仕掛けたというより、「気付いたらそうなっていた」というような行き当たりばったりの観を拭えません。当初は抑制され散発的な動きに限定されていた反日報道が、APECの途中からガラリと変わって主流というか奔流となり、外交部報道官の定例記者会見を含め、以前とは一変して大量の反日記事が飛び出してきたという格好です。

 当初の散発的な反日は「靖国参拝」への対処が甘過ぎる、とするアンチ胡錦涛諸派連合の抵抗と私はみていたのですが、これが本流かつ奔流に一変したのがなぜかは謎のままです。主導権が胡錦涛総書記の手から奪われたのか、小泉首相の独演会などによって胡錦涛自身がマジギレしたのか。

 ……ともあれ16日から22日までの一週間は、解き放たれたかのように様々な反日記事であふれ返った観があります。胡錦涛の御用新聞で従来は反日気運が高まると常に「火消し役」に徹していた『中国青年報』が逆に「反日」を率先しているかのような印象がありました。

 戦略的というよりは脊髄反射のような勢いで、しかも「火消し役」不在の「反日」で突っ走って大丈夫なのだろうか、とは前回指摘した通りです。

 ――――

 上述したように、きのう(23日)も「反日」の勢いは止まりません。ただ印象として、標題にあるように反日報道が「シューソク」しつつあるように思えます。終息ではなく集束、と取りあえず言っておきましょう。具体的には改憲問題です。

 ●自民50年「改革の党」強調、新憲法草案を発表(読売新聞 2005/11/22/13:54)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20051122i104.htm

 22日もこれで騒いでいた中国メディアは、翌23日もこのネタを掴んで放しませんでした。もちろん「自衛軍創設」にピンポイントです。22日が速報に近い内容で急いで取り揃えたのに対し、23日の報道は腰を据えて特集を組んできたというところでしょうか。

 前日は「新華網」(国営通信社の電子版)の大見出しを飾ったこの話題、それが今度(23日)は「人民網」(『人民日報』電子版)トップページのトップニュースとして特集されました。これは北京の地元紙『新京報』の特集をベースに署名論評を加えた形です。

 上海市の「解放網」(『解放日報』系列紙の電子版)、広東省の「南方網」(『南方日報』系列紙の電子版)も足並みを揃えています。反日基地外の『環球時報』も報道&論評で存在感をアピールするようになっています。真打ち登場です(笑)。

 ――――

 ただちょっと不思議なのは、反日報道のほとんどが改憲問題に力点を置いていることです。前回もふれましたが、22日の外交部報道官記者会見で大きく扱われた麻生外相の遊就館発言、

 ●「遊就館」戦争美化でない 事実を展示と麻生氏(Sankei Web 2005/11/21/15:18)
 http://www.sankei.co.jp/news/051121/sei051.htm

 これに食い付くメディアが少なかったのが私には意外でした。せいぜい改憲問題の中で言及される程度で、私がみた範囲でいえば、単独で取り上げたのは「新華網」が転載したマカオ特別行政区の『澳門日報』だけです。

 ●『澳門日報』社説(2005/11/23)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/23/content_3823974.htm

 憲法問題は確かに大ネタではありますが、まだ新憲法草案を自民党が発表した段階でしかありません。それよりも10年前なら引責辞任間違いなしの内容といえる麻生発言、これは歴史認識の問題で中共にとって絶対譲れない部分に絡んできている由々しき事件です。

 外交部報道官の会見でも「靖国参拝」「遊就館」「靖国史観」といった固有名詞を引き出したほどですが、メディアにおいては意外に扱いが小さい。

「自衛軍創設>>麻生発言」

 ……という印象なのです。

 ――――

 自民党の新憲法草案については今度の外交部報道官会見で言及されることになるのでしょうが、どういう形で語られるかに注目したいところです。「自衛軍創設>>麻生発言」という優先順位には制服組のニオイがしないでもありませんので。

 肝心の『中国青年報』はといえば、今日付(2005/11/24)で反日基地外との対談シリーズが最終回を迎えています。相変わらずのノリです。ただ今回は「中日関係の改善は可能なのか?」というタイトルになっており、あるいはいつものキャラ(火消し役)に戻って「シューソク=終息」を狙っているのか、と勘繰りたくなる物腰です。隣に松阪牛がいかに高価で手をかけて飼育されているか、という脱力系の記事が並んでいるのも気になります(笑)。

 ●反日対談(中国青年報 2005/11/24)
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/24/content_95889.htm

 ●松阪牛(中国青年報 2005/11/24)
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/24/content_95879.htm

 とはいえ一方でなお憲法問題の特集や記事がどんどん出ていますし、外交部報道官会見の内容にもよります。『解放軍報』(人民解放軍機関紙)あたりから「自衛軍創設」に関する署名論評が出る可能性もあるので、あと数日様子をみる必要がありそうです。

 ――――

 軍部の話になったところで最後にブッシュ米大統領の訪中にふれておきたいのですが、例の「胡耀邦生誕90周年」イベントを骨抜きにされた胡錦涛の頽勢が、ブッシュ訪中でより強まったように私は感じています。少なくとも指導力強化の助けにはなっていないでしょう。中共は自画自賛していますが、実質的な成果は不十分。反対派からブーイングが出ていてもおかしくない状況だと思うのです。

 とは、ブッシュが外遊直前に中共の仇敵たるダライラマと会談していることがまずあります。続いて京都では日本の成熟と日米同盟の絆を謳い上げ、台湾の民主化を礼讃してもいます。舐められているかどうかはともかく、中共にしてみれば大事にされているとは感じないでしょう。

 日本でそれだけ騒いだのだから中国では大人しくなるだろう、と思いきや人権問題や民主化などで強く切り出され、日曜礼拝への参加というパフォーマンスで「宗教の不自由」について当てこすりまでされる始末。一方でライス国務長官には軍拡路線に懸念を示されてもいます。来春の胡錦涛訪米ということになったものの、国賓扱いになるかどうかはまだ未定。さらにブッシュはそのあと訪問したモンゴルでも改めて同国の民主化を賞賛しています。

 加うるに面子の問題があります。中国を訪問するだけではなく他国にも寄り道をしたこと、しかも中国より先に日本を訪問していること。これは悔しいでしょう(笑)。

 ――――

「使えないな胡錦涛は」

 という批判が出ても不思議ではありません。実際に軍主流派が党中央による自画自賛とはひと味違う署名論評を『解放軍報』に掲載したことは以前紹介した通りです。また、米中首脳会談でブッシュにかなり押し込まれたことを裏付けるかのように、『人民日報海外版』(2005/11/22)の一面に署名論評が出てもいます。

 ●21世紀における中国共産党の方向性(人民日報海外版 2005/11/22)
 http://politics.people.com.cn/GB/30178/3877008.html

 冒頭で米中関係の重要性にふれたあと、中共政権が独自の路線を歩むこと、でもそれはあくまでも平和的な台頭(和平崛起)であり、対外伸長や国内での専制強化を図ったりはしない。……という、何やら米国はじめ国際社会に対する一種の弁解、あるいは改めての姿勢表明といった内容になっています。作者は胡錦涛のブレーンである鄭必堅・元中央党校常務副校長です。疑念を解かんとするようなこの文章は、胡錦涛がブッシュを納得させるに足る何事かを示せなかったことを暗示しています。

 それでもさすがに中共と思わせるのは、この署名論評の後段において国家としての目標を掲げ、

「第一に国家の主権及び領土の保全、第二に発展と近代化の実現」

 としていることです。発展と近代化を後回しにしても台湾を確保する、尖閣諸島を奪回する、という意味でしょう。弁解めいた措辞を並べつつも米国をさり気なく牽制しています。これだから疑念を持たれてしまう、ということにもなるのですが(笑)。



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 いやー驚きました。今日も今日とて「反日報道」が出るわ出るわで大変です。「新華網」(国営通信社の電子版)、「人民網」(『人民日報』の電子版)、「中国青年報」(電子版)、「解放軍報」(電子版)あたりで11月22日付の記事を漁ってみたら、日本関連の記事が21本という大漁です。

 もちろん、同じ記事が違うサイトに出ていたりする重複分はこの「21本」に含めていません。例えば「新華網」と「人民網」で同じ記事が掲載されていたなら、カウントは1本。で、合計21本のうち2本以外は「反日」に傾いた記事でした(笑)。

 本当はもっとたくさんあるのです。例えば前回紹介した『嫌韓流』『マンガ中国入門 やっかいな隣人の研究』を叩いた記事は内容はそのままで22日付に改まって掲載されています。そういう再放送的な記事をカウントしなくても21本。ですから実際にサイトを回っていると、何かキャンペーン(政治運動)でも始まったかのような、ちょっと異様な印象を受けます。

 ――――

 だいたいいま第一線で記事を書く世代というのは江沢民による反日成分たっぷりの「愛国主義教育」を身体全体に浴びて育った世代です。何らかの制約から解き放たれたとばかりに、伸び伸びと筆を躍らせています。記者をやるくらいですから「反日」以外にも自分の属する社会に対する問題意識をいろいろ持っているだろうと思うのですが、

「日本」
「日本人」

 と聞いた途端に情緒不安定になってしまう。そういう面があるのではないでしょうか。正しく教育の賜物です。何だか日本なしでは精神的にやっていけなくなってしまったという観があります。中国国内メディアはこの1年でずいぶん「対日ストーカー」化が進んだように思えるのです。ですからいったん対日報道に関する規制を緩和させると、わらわらと一斉に「反日」記事が湧いて出てくる、という状態になってしまいます。

 ――――

 今回は個別の記事を追うことは避けますが、まず「新華網」トップページの大見出しからして、

「日本が改憲草案を発表、軍隊保有の禁忌を強行突破」

 です。日本の報道でいうと、

 ●自民50年「改革の党」強調、新憲法草案を発表(読売新聞 2005/11/22/13:54)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20051122i104.htm

 のことなのですが、この「強行突破」という親記事に関連記事4本+掲示板つきという念の入れ方です。掲示板の内容は説明不要ですね(笑)。

 ――――

 それから外交部報道官定例記者会見。今回は劉建超報道官でしたが、麻生外相の「遊就館」関連発言、

 ●「遊就館」戦争美化でない 事実を展示と麻生氏(Sankei Web 2005/11/21/15:18)
 http://www.sankei.co.jp/news/051121/sei051.htm

 これについては、

「中国側はこのような発言が公然と行われたことに驚愕している」
「遊就館は靖国史観を宣伝する核心的施設だ」
「日本の指導者が靖国神社を参拝することは中国人民にとって絶対に受け入れられないことだ」

 などと発言しています。

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/22/content_3818963.htm

 なんと憎々し気な物言いでしょう。政治的信条と関係なしに、都心で暮らす身である私にとって靖国神社はいちばん癒される場所です。参道を歩いて四季を感じ、参拝して様々なことに思いを馳せ、そして遊就館で零戦を眺めつつ一服。心が洗われるというか鎮まるというか、落ち着くのです。

 それなのに、せっかく遊就館にまで話が及んでいながら、劉建超はなぜ零戦や海軍コーヒーの話をしないのか。記者もどうして、

「ところで海軍カレーの味について中国政府はどう評価するか」

 といった質問をしないのか。私は憤慨するのです。劉建超も劉建超で、

「ときどき薄味になり過ぎる点は日中間で取り交わした3つの政治的文書の精神に反する」

 と切り返すぐらいの余裕があってもいいじゃないですか。……とまあ余太はともかく、外交部の定例会見で「靖国」という固有名詞が復活していることに留意しておきましょう。「遊就館」への言及はたぶん初めてでしょう。「靖国史観」という言葉も初耳のように思えます。

 ――――

 歴史問題に対する中国側の基本姿勢について劉建超は、

「中日関係が現在、困難な局面に陥っている責任は中国側にはない。その根源は日本国内の一部右翼勢力が日本軍国主義が発動した侵略戦争を美化し、侵略の罪を認めないことにあるからだ」

 と、ここは1972年の国交正常化以来の姿勢を保っています。たぶん靖国神社を参拝した小泉首相やそれを支持する安倍官房長官も「一部の右翼勢力」に入るのでしょう。

 で、その「右翼」たる小泉首相を衆院選で圧倒的に支持し、その後継候補には安倍官房長官を断トツで推している日本国民はどういう扱いになるのでしょう?民意が「右翼」を支持したことには頬冠りですか。そりゃ日本人の大半を敵認定しちゃったら国内世論(日本人狩りが始まるかも)や外資導入も含めて中共政権としては都合が悪いでしょうからね。

 だいたい前から言っているように、右翼左翼を切り口にする時代ではないと思うのですが、どうでしょう。党中央が右翼左翼と言っている間は、それがドグマになって専門家による日本研究の発展が束縛されます。そこから選ばれて胡錦涛や温家宝のブレーンになる者が出る訳ですから、日本としてはどうぞそのまま、右翼左翼を堅持し続けて下さい、というところですね。

 ――――

 しかし、いかに中共といえどもこうした「反日報道」の洪水をずっと続ける訳にはいかないでしょう。世論が変に盛り上がってしまっては困りますから。たぶん何日か続けた後で適宜ブレーキを強めていく、という思惑なのでしょうが、果たして今回はそれがうまくいくかどうか。

 というのは、今回は「火消し役」不在の「反日キャンペーン」なのです。過去の事例に照らしていうと、まず2003年の珠海集団買春事件と西安の寸劇事件で高まった反日気運に対しては胡錦涛の御用新聞『中国青年報』が、

「極端な民族主義はよくない」

 という元駐日大使の談話を紹介して諌める役を務めました。昨年夏のサッカーアジアカップで日本国歌にブーイングした中国サポーターに対し、

「そんな愛国には誰も喝采を送らない」

 と署名論評でブレーキ役を演じたのも『中国青年報』(ネット世論の集中砲火を浴びて大破炎上しましたが)。そして今春の「反日騒動」で終始火消し役の立場に徹したのも『中国青年報』なのです。

 ――――

 ところが今回はその『中国青年報』が先頭に立って旗を振っている観すらあるのです。

 フェニックスTVの反日基地外との対談シリーズを打ったり、ブッシュ米大統領が訪中時に靖国批判めいた言動とった、など都合のいい記事を掲載したり。それが「新華網」「人民網」などに漏れなく転載されていきます。その奮闘ぶりには、本来なら基地外という点で他者の追随を許さない『環球時報』もお手上げです(笑)。

 http://news.xinhuanet.com/comments/2005-11/18/content_3797435.htm
 http://news.xinhuanet.com/comments/2005-11/21/content_3809962.htm
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/22/content_94693.htm
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/22/content_94688.htm

 火消し役の定番だった『中国青年報』がこうなってしまうと、どうやってブレーキをかけていくのか興味津々です。軍主流派の動向も前回紹介したように党執行部とは微妙に異なる、しかし巌然たるスタンスをとっています。

 このままネット世論に火がついて……ということもあるかも知れませんが、「愛国者同盟網」「中国民間保釣連合会」といった自称民間組織が軸になって働かないとムーブメントにはならないでしょう。ところがここの連中の本音は「組織防衛>>反日」で、当局から睨まれたら潰されかねないことをすでに何度か学習しているので、迂闊には動きません(しかも「愛盟」は告訴されちゃってるしw)。

 あるとすれば、そういう総本山格の反日サイトではない、知名度の低い泡沫組織がひと旗揚げようとすることです。怖いもの知らずで若さに任せて走り出す、といったところでしょうか。ネット署名のようなバーチャル空間でのお遊びなら人畜無害ですが、現実世界でデモや署名を始めると、不満を抱える民衆を引き寄せて膨張した挙げ句暴徒化し、思いがけない事件に発展する恐れがある。……というのは今春の「反日騒動」でみた通りです。

 現在のような悪化した社会状況のもとで民衆が「反日」に動くことは中共政権を揺るがしかねない、というのも今春の「反日騒動」で実証済みですね。では民衆を動かさずに「反日」をやって政権に対する民衆の不満をそらし、政権支持率もアップさせる、という魔法のようなことは可能でしょうか。

 あるいは可能かも知れないのが、ちょっとした軍事的衝突をやってみせるという方法です。尖閣侵攻でもやりますか。……まあさすがの中共も現時点でそこまでは踏み切れないでしょう。絶対に勝たなきゃいけない、という条件もつきますし。

 ――――

 冗談はともかく。

 中央たる胡錦涛政権の統制力が十分でない上に、「火消し役」が存在しない形で「反日モード」に入ってしまった。……この点が今回のポイントかと愚考する次第です。ええ、これは危険な火遊びだと思います。



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 ブッシュ訪日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、ブッシュ訪中。……という一連の重要な外交日程が消化されて何となく一段落という気持ちになってしまうのですが、なかなかどうして、気になるニュースは目白押しなのです。散漫になることを承知の上で点描してみたいと思います。

 ――――

 まずは前々回に紹介したAPEC首脳全体会議における小泉首相の独演会についてですが、中国側は嘲笑して済ませればいいものを、
「中日関係悪化の責任を中国になすりつけるものだ」と真面目に反発しています。

 ●新華網(2005/11/21/08:00)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/21/content_3809947.htm

 ●新華網(2005/11/21/11:16)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/21/content_3811391.htm

 上の記事が『人民日報/江南時報』からの転載で、下は新華社オリジナルです。ただ独演会についての部分はほぼ同じ内容なので、後発の新華社がその部分はバクったのではないかと思います。

 笑って済ませられないようですから相当ムカついたのでしょう(笑)。小泉政権はどうやら首脳会談拒否などでは挫けないらしい、ということも学習したと思われます。

 ――――

 で、そうしたことを踏まえた上で中共政権の対日路線はどうなるか、ということですが、

 「何かが始まった?」(2005/11/16)
 「ひとまず流れが変わった模様」(2005/11/17)

 において紹介したように、メディアに制約をかけて反日報道を抑制する、といった従来のやり方とは正反対の、対日強硬路線に転じたように思えます。

 反日サイトを潰したり掲示板を閉鎖させたり、あるいは掲示板は存続させても反日的内容の書き込みを規制したりする一方、中国国内メディアにも反日報道に制約をかける、といった胡錦涛政権発足当初(2004年9月)の姿勢からみれば、胡錦涛にとっては不本意な方針修正でしょう。あるいは小泉政権と1年付き合ってみて、胡錦涛も何事か悟るものがあったのかも知れません(笑)。

 胡錦涛自身の主動的なアクションなのか、それとも主導権を相手に握られ受け入れざるを得なくなった結果なのか。……その辺りはわかりませんが、いずれにせよ中国の対日路線は強硬風味へと傾いたようです。「ひとまず変わった」流れが主流になるという訳です。どこまで傾くのか、江沢民時代にまで回帰するのか、といったところは今後の動向でみえてくると思います。

 そうした政策転換と恐らく無関係ではないでしょうが、反日サイトの総本山格も相次いで息を吹き返しています。長いことメンテ中状態(仮死)だった「中国民間保釣連合会」は平常に復していますし、サイトごと潰された(斬首)「愛国者同盟網」もここ数日で復活を遂げています。「糞青」(事象愛国者の反日教徒)や「珍獣」(プロ化した糞青)の跋扈する季節が巡ってきたということなのでしょうか。

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 遠慮のない反日報道も出てきています。小泉首相や麻生外相の発言を捉えては批判する記事もありますし、『嫌韓流』『マンガ中国入門 やっかいな隣人の研究』を叩きまくっている記事もあります。

 ●新華網(2005/11/21/08:15)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/21/content_3809927.htm

 一方で
「対日外交の要諦は民意をこちらに引き寄せることにある」という提言めいた文章も出てきました。注目に値するのは、従来は基本的に「日本の右翼政治家と右翼勢力が」という形で語られていた日本の変化を、「政治家の右傾化=民意の右傾化」と捉えるに近い視点で語り、「だから民心をつかまないと」と結論づけているところです。

 ●『国際先駆導報』電子版(2005/11/21/12:09)
 http://news.xinhuanet.com/herald/2005-11/21/content_3811481.htm

 でもいまさら遅いですよね。その前に
まず日本での中国人犯罪と不法滞在者を何とかしろ、と私は言いたいです。

 中国人犯罪で思い出しましたが、中共政権は折にふれては「日本のメディアが煽りすぎ」という言い方をします。在日中国人犯罪報道についても、昨年のサッカーアジアカップでの騒動についてもそうでした。基本的には、

「中国が急速に台頭したことに脅威を感じた日本がメディアを動員して中国脅威論を宣伝したり、ネガティブに中国を捉えるニュースを流して煽っている。その結果日本人の対中感情が悪化した」

 という論法のようですが、自意識過剰のせいか的外れなことを言うなあ、というのが私の感想です。日本人の対中感情の悪化というのは、互いの距離が近付いたからこその結果ではないかと思うのです。

 仕事でも生活でも中国・中国人が絡んでくることが日常的になった一方、身の回りで中国人犯罪が多発するようになった、その挙げ句の反中感情だと。付き合っていた相手の本当の姿をみて幻滅した、気持ちが冷めた、というようなものです。……もちろん海洋調査船の違法行為や原潜の領海侵犯などもありますが、柱となっているのは手触りレベルでの嫌悪感ではないかと思うのです。

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 日本で報じられたニュースもあります。

 ●中国、教育・宣伝強化 66カ所追加、「愛国拠点」266カ所に(産経新聞 2005/11/22)
 http://www.sankei.co.jp/news/051122/morning/22int002.htm

 【北京=野口東秀】二十一日付中国共産党機関紙「人民日報」によると、党中央宣伝部は国民の愛国心育成を目的とする「全国愛国主義教育拠点」の第三次指定リスト六十六カ所を公表した。愛国教育拠点は、江沢民前政権時代の一九九七年と二〇〇一年に計二百カ所が指定されたが、胡錦濤政権下では初めて。胡政権は前政権の路線を踏襲し、愛国主義の教育・宣伝を強化する考えを示している。
(中略)

 追加指定された拠点の中には、平北抗日戦争烈士記念館(北京)、平頂山虐殺旧跡記念館(遼寧省)、中国侵略日本軍東寧要塞(ようさい)旧跡(黒竜江省)など日中戦争関連の遺跡や記念館が相当数含まれている。

 中国外務省関係者は、「中国の愛国教育拠点は『反日』ではない」と強調しているが、現在の中国で愛国主義発揚は「反日教育」と表裏一体となっている面があり、青少年層を中心に反日感情を刺激する可能性がある。

 今年春に北京など各地で発生した反日デモでは、九〇年代以来の愛国主義教育の影響を受けた青年たちが「愛国無罪」などと叫んで騒動をリードした。

 「全国愛国主義教育拠点」の詳細についてははこちらを。

 ●新華網(2005/11/20/11:10)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-11/20/content_3806657.htm

 「胡錦涛政権下では初めて」といってもそれは「拠点」の追加は初めてという意味でしょう。胡錦涛時代になって従来のいわゆる「愛国主義教育」が改められた訳ではありません。まあ今後も愚民の大量生産に励む、ということですね。民度は退行するし社会不安のリスクも増すし、墓穴を掘っているようでもあります。

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 ●民主化で溝埋まらず 米中首脳会談、日中関係改善促す(Sankei Web 2005/11/20/21:35)
 http://www.sankei.co.jp/news/051120/kok061.htm

 という報道もありますが、私のみた限りでは「日中関係改善促す」に関して中国メディアが言及しているものはありませんでした。

 ブッシュ訪中についていえば、中国国内メディアは「重要な成果があった」「中米外交が一段と強化された」などと囃すばかりですが、人民解放軍の機関紙にはちょっとドスのきいた意見(署名論評)も出ています。最後の段落を端折って訳出してみます。

 ●『解放軍報』電子版(2005/11/21/06:40)
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2005-11/21/content_343852.htm

 あえて言うなら、中米関係にはいまなお数多くの障壁と困難が存在している。その最たるものは米国が冷戦思考から完全に脱しておらず、中国に対する警戒と押さえ込みの姿勢が改まっていないことだ。
(中略)台湾問題において、米国は未だに中国への内政干渉を堅持し、『台湾関係法』と中米間で取り交わされた3つの共同コミュニケを同列に置いている。それによって米国は台湾問題を利用することで中国の内政に干渉し、中国の発展を阻害するという誤った立場をとり続けている。米国側がこうしたイデオロギー上の食い違いを改めない限り、中米関係における一部の構造的な矛盾が解消されることはない。これではたとえブッシュ政権の対中政策が積極的な方向へと調整され変化しようと、両国の関係発展は順風満帆とはいかないだろう。(後略)

 『解放軍報』をがっちりと掌握して胡錦涛礼讃をしてみせる軍部主流派からも、こういう声が出てくるのです。台湾問題が軍部にとっていかに重要で神経質になるテーマかということがよく出ていると思います。

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 そこで李登輝氏の訪日ですよ(笑)。


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 【余談】共同通信によるこのニュース、

 ●鳥インフルエンザ「感染死」14人の名簿掲載 中国語サイト(Sankei Web 2005/11/21/15:18)
 http://www.sankei.co.jp/news/051121/kok052.htm

 元ネタはこちらです。どこかの掲示板に出た名簿を反体制系ニュースサイト「博訊網」が未確認情報と断って掲載したものですが、共同もたまには度胸のあることをするものです。

 ●博訊網(2005/11/20)
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2005/11/200511200016.shtml

 この名簿、姓名、年齢、本籍地、病名、死亡後の処理(火葬)まで具体的に出ているので見ていて寒気がします。香港紙では『蘋果日報』(2005/11/21)などが掲載。真偽は「?」ですが、中国衛生部が
「人から人へと感染した証拠はまだない」なんて含みを持たせた言い方をするから当局による隠蔽を勘繰りたくもなるというものです。

 ●新華網(2005/11/20/20:26)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-11/20/content_3808568.htm



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 えーと前回のエントリーで思いがけず粗悪炭を釣り上げてしまいました(笑)。

 キムチの話が餌になったのでしょうか。以前都市対抗野球のテーマでチョソ話になったときも必死な人が1名いたようですが、今回も似たような展開になっていますね。

 まあ折角ですから腑分けしてあげましょう。釣り上げた粗悪炭に釣られてみることにします。

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Unknown (日本の常識)
2005-11-20 22:25:35

さすがにこれは乗れないですわ。
「はだかの王様」みたいになってきましたね。「小泉首相のビジョンは馬鹿には見えないのです」とね。
実際は、小泉さんが多国間協議の場で議題を無視して中国にラブコールを送らねばならないほど追い込まれてるってことじゃないですかね(公にされてないがブッシュに何か言われたとか)。

従来は靖国があっても首脳会談には応じていた韓国まで応じなくなったし(今回はホスト国としての儀礼)、明らかに関係が悪化してます。小泉さんは「長い目で見れば理解してもらえる」なんて言ってますが、それにかかる時間は10年~30年ですか(笑)。世間一般なら見通しの甘さが物笑いの種になるような発言ですね。
サル以下の中国人も「30年後には問題は改善してるはずです」なんて指導者は支持しないでしょうなあ。日本人はそんな政治家に感激しちゃってますがね。

30年後、みなさん生きてらっしゃいますか?それまでの長い道のりは忍耐できますか?30年経っても上手く行かなかった場合、小泉さんが責任とるんですか?死んでるかもしれませんよ。

もっと危機感を持って、権力チェックという民主主義国家に住まう国民の特権を活用した方がいいと思いますよ。「偉大なる指導者」を崇拝しなくちゃいけない共産主義国じゃないんだから。

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 ……という御意見ですね。それでは早速解剖にかかることにします。

「実際は、小泉さんが多国間協議の場で議題を無視して中国にラブコールを送らねばならないほど追い込まれてるってことじゃないですかね」

 賛成しませんけど、そういう解釈もあっていいと思います。あの小泉首相発言に対する私の見解は前回のエントリーに書いた通り、中韓に対し従来のやり方がもう通用しないという意思表示です。さらに加えるなら、他国、特に中国に市場としての魅力を感じるとともに、中国が覇を称え君臨することを懸念するASEAN諸国に対して向けられたメッセージという意味合いもあるかと思います。

「従来は靖国があっても首脳会談には応じていた韓国まで応じなくなったし(今回はホスト国としての儀礼)、明らかに関係が悪化してます」

 何を根拠に「明らかに関係が悪化している」と断じることができるのかはわかりませんが、ホスト国の儀礼であれ何であれ、韓国は実際に日本と首脳会談を行い、外相会談もやっています。ホスト国の儀礼ということであれば、韓国の大統領や外相はマカオとか香港とかを含めた参加国・地域の全てと個別会談を行ったのでしょうか。

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「小泉さんは『長い目で見れば理解してもらえる』なんて言ってますが、それにかかる時間は10年~30年ですか(笑)。世間一般なら見通しの甘さが物笑いの種になるような発言ですね」

 国家というものは目先の利益を追求するだけでなく、長期的なビジョンを持たなければなりません。現在の国民のためだけでなく、次世代やそのまた次世代を益することも考えなければならないからです(そのために現在の国民に痛みを強いることすらあります)。10年、20年、30年というのは国政の担当者として当然持っていなければならない視点だと私は思います。

「世間一般なら見通しの甘さが物笑いの種になるような発言ですね」

 とのことですが、そんなことはありません。例えば日本がやっているサッカー選手の育成プログラムなどは10年から15年、ひいては20年先を見据えて、小学生のころから好素材をみつけては育てていきます。日本企業が新人研修に始まって、見込みのある人材には幹部候補生という教育を行い、またそのための経験を積ませていくのも5年や10年の視点でやっていることではないでしょう。いわんや国家戦略です。物笑いの種になるのは、むしろ目先のことしか考えない、甘い見通しに終始する向きだと私は考えます。社会人であれば「物笑いの種」などという言葉や発想は出てこないでしょう。「日本の常識」さんは実社会とは疎遠なのかも知れませんね。あるいは学生さんとか。

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「サル以下の中国人も『30年後には問題は改善してるはずです』なんて指導者は支持しないでしょうなあ」

 ここに対中認識の誤りがみてとれますね。支持するもしないも、中共政権下の国民にはそんな権利が与えられていないのです。支持する権利もなければ、支持しない権利もない。ですから私は連中を「政治的畜類」だと呼んでいます。蔑称ではなく現実にそうなのです。法制あれど法治なし、であり、合法であろうとなかろうと、党のさじ加減ひとつでどうにでも料理されてしまう。生殺与奪の権を握られてしまっているのですから。

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「30年後、みなさん生きてらっしゃいますか?それまでの長い道のりは忍耐できますか?30年経っても上手く行かなかった場合、小泉さんが責任とるんですか?死んでるかもしれませんよ」

 民意は9月の衆院選における「小泉圧勝」で明らかです。続いて行われた内閣改造に対し、世論調査で支持率は激減しましたか?30年間忍耐できないかも知れないし、30年経っても上手く行かないかも知れない。でも民意は小泉首相のやり方を支持したのです。

 私個人でいえば、子を持つ親の立場にはありませんが、仕事において多くの後進を育てる立場ではあります。その立場に照らしていうなら、次世代やそのまた次世代のためになるのなら、またその時代の日本のためになるのであれば忍耐は厭いません。

 先人が礎になってくれたおかげで日本が繁栄し、現在の自分と現在の生活があります。心ならずも礎の役を負わされた先人もたくさんいるでしょう。別に戦争や生き死にの話だけではなく、よりよい日本と日本人のかたちを後進に残せるのなら、私は礎になることを厭いません。こういう心境は政治的信条というようなものでなく、単に年齢を重ねたことによるものだろうと自分では考えています。

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「もっと危機感を持って、権力チェックという民主主義国家に住まう国民の特権を活用した方がいいと思いますよ」

 「上手くいかなかった場合」の責任は小泉首相だけでなく、小泉路線を支持した有権者も負うことになります。さらにいえば、現在の政権のあり方を善しとしないのであれば、選挙によって民意が修正を求めるでしょう。中国とは違って、日本の政治のシステムはそれを保証していますから。

「『偉大なる指導者』を崇拝しなくちゃいけない共産主義国じゃないんだから」

 今回の話題に照らせば中国のことを指しているのでしょうが、ここにも認識の誤りがあります。中国における個人崇拝は文化大革命(1966年-1976年)、つまり約30年前で終わっているのですが、そのことを御存知ないのかも知れませんね。また、現在の中国において「偉大なる指導者」という言葉が現役政治家に冠されることもありません。そもそも「偉大なる指導者」がいるのなら不徹底な政争が起きたりはしませんし。

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 まあ、ざっとこんなところです。ちなみに私のいうところの「粗悪炭」というのは、黒煙ばかり噴き上げて石炭として課せられている燃料の役割をロクに果たせず、火力レベルが合格ライン以下のもののことです。



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 いや、さすがに「超攻撃型3トップ」のエースストライカーですね。アドリブの切れ味ではファンタジスタ・麻生外相に遜色あるものの、そこはかとなく凄みを漂わせるコメントには風格が感じられます。

 そしてあの人を食った態度。でも「決めるのは俺だ」と言わんばかりのこの姿勢こそが、ストライカーに不可欠な資質なのです。

 ……他でもないアジア大平洋経済協力会議(APEC)の首脳全体会議における小泉首相の発言です。『毎日新聞』が詳報しています。

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 ●小泉首相:独自の「日中友好論」展開 APEC全体会議(毎日新聞 2005/11/19/20:18)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20051120k0000m010027000c.html

 【釜山・伊藤智永】アジア太平洋経済協力会議(APEC)の21カ国・地域の首脳がそろった18日の全体会議で、小泉純一郎首相は議題と関係なく独自の「日中友好論」を展開した。中国に胡錦濤国家主席との会談を断られたが、胡主席も列席する国際会議の場で、一方的に自分の立場を主張してしまう政治パフォーマンスだった。
(中略)

 米中タイ3カ国の冒頭発言後、各国数分ずつ順に発言。小泉首相は議題の経済問題を外れ、唐突に日中関係を論じた。

 「一つの意見の違いとか対立で、全体の友好関係を阻害してはならない。中国、韓国と政治的首脳の交流は途絶えているが、他の関係は良好だ。どんなに批判しても結構だ。私は何らわだかまりを持ってない」

 ブッシュ米大統領、プーチン露大統領の来日について紹介。ペルーのトレド大統領と「フジモリ問題」があっても握手したことなど、円卓を囲む各首脳との関係を引き合いに持説を強調。中国の会談拒否を当てこするかのような論法だったが、会議後、何人かの首脳から「いい話だった」と声を掛けられたという。

 胡主席は反論できず、議長の盧大統領も聞き役に回るしかない状況。小泉首相は記者団に「してやったり」の表情で高揚感を隠さなかった。
(後略)

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 中国の胡錦涛国家主席(兼総書記)が反論できないのは元々アドリブの才能に欠けているからで、朱鎔基前首相のような座談の妙を期待しても無理というものです。

 胡錦涛の演説の神髄は聴衆を眠らせるところにあります。さらにいえば、温家宝の演説の魅力はどう語っても必ずウソ臭さが漂ってしまうこと。聞いているうちになぜか気分が悪くなってくるのは江沢民でしたね。あれはルックスの関係もあるでしょう。「アジア諸国人民の感情を傷つけた」に足る醜悪なる容貌。道理で世界中で告訴されている訳です(笑)。

 でもむっつり胡錦涛、言い返せずに黙って聞いていてもエース・小泉首相の独演会に腹は立ったのでしょう。反撃できない自分への情けなさもあるかも知れません。……ということで、ヒョットコ孔泉に反論させました。

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 ●小泉首相:「心配いらない」発言 「原因は日本」――孔泉・中国報道局長が不快感
 毎日新聞東京朝刊(2005/11/19)

 【釜山・成沢健一】小泉純一郎首相が「日中関係は心配いらない」と発言したことに対し、中国外務省の孔泉報道局長は18日、記者団に「困難な状況が生じた根本的な原因は、日本の指導者が意地を張って靖国神社を参拝したことにある」と述べ、不快感を示した。孔局長は「中国は中日関係の発展に一貫して努力してきた」と強調。
(中略)「我々は日本側が実際の行動で応えることを希望する」と語った。

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 いや、困難な状況が生じた根本的な原因は靖国参拝に対する中共政権の内政干渉と歴史認識における中共史観の押しつけにある訳で、それがもう日本ではすっかりバレちゃっていますから、いくら不快感を示しても無駄なのです。それに関係ないけど日本にいる中国人は犯罪者多いし。

「中国は中日関係の発展に一貫して努力してきた」

 というのは反日教育や反日報道のことですね。もしかして日本での中国人犯罪も含むとか?……そりゃもちろん、努力してきたことは認めてあげますとも。

「我々は日本側が実際の行動で応えることを希望する」

 とは、4月の反日騒動みたいな乱痴気騒ぎを日本側でもやってほしいと?……それは無理でしょうねえ。民度が違うのだよ民度が。

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 水面下でどんな交渉が行われたのかはともかく、日本側は公の場においては、

「こっちは首脳会談も外相会談も anytime OK だよーん」

 という余裕の姿勢を貫いてきました。それを小泉首相が全体会議の場で改めて道理を説いて示してみせた訳で、孔泉がムキになればなるほど、意地を張ってきたのはどちらかが明白になるというものです。

 それにしても、中国国内メディアの報道に接していても感じるのですが、ハイレベル協議拒否というものが対日カードとして有効だという誤った認識がいまなお中国側にはあるようです。

「会談拒否だぞザマーミロ。靖国に固執したばかりに孤立してしまった哀れな小泉(笑)」

 という、いかにもな構図ばかり中国メディアが描いてみせるのは政治的畜類な愚民相手だからだと思っていたのですが、まさか国家指導者も畜生レベルだったとは思いませんでした。前から何度も言っているじゃないですか。

「こっちは首脳会談も外相会談も anytime OK だよーん」

 てことですよ。もはや会談拒否ぐらいでビビッたりはしないということ、かつまた「譲れないものは譲れないのだ」という考えが多くの日本人に浸透し始めていることに気付いていないのです。

 ――――

 それを親切にも小泉首相が今回のアドリブで改めて教えてやったということに、胡錦涛は気付いたかどうか。まあ気付いても手札が欠乏している上に、国内政界での立場も押され気味ですからねえ。頼みの胡耀邦イベントは骨抜きにされたうえ、中国国内メディアでもサラリと流されてしまった観がありますし。

 まあ仮に胡錦涛がサルだとしても、手足がいるでしょう手足が。日本国内の大学に中国人学者をバラまいている割に空気が読めないんですね。世論の動向についていえば、

「江沢民はヒトラーだ」(ヒトラーに失礼すぎw)

 とのたまった石原都知事が2003年に圧倒的大差で再選されたあたりで何事かを感じるべきだったと思うのですが、やっぱり所詮は雑兵、宣伝用として中共に雇われた御用学者じゃ役に立ちませんか。

 そして孔泉のパフォーマンス。拙いとしかいいようがありません。それで報道局長の職にあるとは笑わせるというものです。せめて、

「日本必死だなw」

 と一言で斬って捨てるくらいのセンスが欲しかったですねえ(笑)。

 ――――

 『毎日新聞』がどういう意図で小泉発言を記事にしたかは知りませんが、私は上のように理解した次第です。靖国神社は日本人の問題。日本人の心の問題です。当然ながら他国の容喙を許してよいものではありません。歴史認識もまた然り。日本が中共史観を受け入れなければならない必要がどこにあるのか、知りたいものですねえ。

 そして小泉首相の自説である「10年、20年、30年」という長期的観点から日中関係を眺めるとすれば、報じられたようなパフォーマンスになっても不思議ではないと思うのです。

 そういえばファンタジスタも頑張っていましたね。

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 ●盧大統領の訪日こだわらず 麻生氏、靖国譲歩に否定的(Sankei Web 2005/11/19/18:26)
 http://www.sankei.co.jp/news/051119/sei065.htm

 麻生太郎外相は19日午後、大分県別府市で記者会見し、韓国釜山で18日に行われた日韓首脳会談で盧武鉉大統領の年内訪日が確定できなかったことに関連して、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題で譲歩してまで実現を図る必要はないとの考えを示した。

 麻生氏は「来てもらうために日本は何を譲るかという話になり、それが靖国の話になるのは果たして正しいか」と強調した。ただ「日本は通常通り声はかける」と述べ、今後も大統領来日の要請は続ける意向を表明。

 新たな国立戦没者追悼施設の建設関連費を来年度予算案に計上すべきだとの意見については「世論が割れている話に税金を使うのは慎重に考えないといけない」と、消極的な姿勢を示した。

 また、日韓間では経済、人的交流がかつてなく高まっていると指摘した上で「両首脳の波長が合わないからといって、すべて具合が悪いわけではない。話を(悪い方向に)広げない方がいい」と述べ、靖国問題が存在しても関係改善は可能との認識を表明した。(共同)

 ――――

 いい感じじゃないですか(笑)。

 さてこのメッセージが相手に届いたかどうか。大統領は忙しいですからね。いまごろ一生懸命にキムチでも食べているのではないでしょうか。ええ、もちろん卵入りの極上品を、です。



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 胡耀邦生誕90周年記念式典が昨日(11月18日)、北京で開催されました。

 終わってみると、何のためにやったのかよくわからないイベントでした。毒なのか薬なのか、はたまた毒にも薬にもならないのか。……何もやらないよりはマシのようでもありますし、やったことで禍根を残すことになったようでもあります。

 ともあれこのイベントの企画・立案者であり推進者だった胡錦涛総書記は韓国訪問中のため欠席。式典は江沢民派とされる呉官正・党中央紀律委員会書記が主宰し、江沢民の大番頭である曽慶紅・国家副主席が記念演説を行いました。そして庶民派を偽装した悪代官(たぶん)の温家宝首相、「胡耀邦をやるなら趙紫陽は?」と胡錦涛のこの企画に異を唱えた当人なのですが、出席することで式典に格式を持たせました。

 ――――

 胡耀邦というと1989年4月に急死して、その葬式のとき遺体が人民服(中山装)でなくスーツ姿だったのが印象的でした。ちょうど中国に留学していた私は留学生宿舎の1階にある接客室、ここにテレビがあったのでみんなで葬儀のニュースを観ていたのですが、へーえスーツなんだ、どうしてだろうと不思議に思ったものです。

 いまでも胡耀邦と聞くと背広姿の亡骸がまず思い浮かびます。無論そのときはまさかその追悼運動がタネ火になって全国に燃え広がるとは思ってもみませんでした。

 より正確にいうと死去したのが4月15日、その3日後に私は学生の決起集会に居合わせる破目になり、翌日は授業をサボってデモ見物。……てなことはどうでもいいのですが、葬儀は22日に行われ、趙紫陽総書記(当時)が弔辞を読み上げました。

 で、今回の式典に対する主催者側の気合の入れ方、そのバロメーターとなったのが曽慶紅の演説です。注目されていた胡耀邦に対する評価は、何と16年前の葬儀で趙紫陽が読み上げた弔辞そのまんまだったのです。

 ――――

 名誉回復云々と事前に香港紙などが書き立てましたが、何が胡耀邦の不名誉かといえば、それは総書記だった1987年に失脚を余儀なくされたことでしょう。

 当時学生の民主化デモや政治制度改革を求める知識人の声が高まったことで、その反動として「反ブルジョア自由化」という思想引き締め&風紀粛正を目的とした政治キャンペーンが保守派主導で展開されました。そのキャンペーンへのヤル気がなさ過ぎ、という批判の集中砲火を保守派から浴びせられ、トウ小平もかばい切れずに胡耀邦は総書記をクビになりました。

 このために総書記時代の功績は全てスルー。16年前もスルーなら今回もスルー。

 皮肉なものです。「反ブルジョア自由化」運動なんてやっていたのが、いまや資本家でも中国共産党員になれる時代。中共政権がイデオロギーの呪縛から自由になったことを示すものですが、それでどうなったかといえば、利権追求集団という地金がモロに出てしまい、それを十数年続けたために社会状況が沸点寸前にまで達しています。

 もう江沢民時代のように「反日」で国民の不満をそらす手も使えなくなりました。そういう土壇場でババを引いてしまい総書記に就任したのが胡錦涛です。

 ――――

 その胡錦涛が言い出したのが今回の胡耀邦生誕90周年記念活動です。もちろん胡耀邦はダシであって、胡耀邦生誕記念イベントで何らかの政治的果実を得ようとしたのでしょう。思い付くままに並べてみると、

 (1)共青団人脈(団派)を主力とする胡錦涛派の存在感を顕示する。
 (2)党長老との関係修復を図る。
 (3)風紀粛正・汚職抑制の強調。
 (4)50代以上の世代の支持とりつけ。
 (5)開明派的イメージ定着。

 といったところでしょうか。まず(1)は胡耀邦が「団派」の大先輩なので、これを担ぐことで胡錦涛派の意気を高めようというものです。敵対勢力に対する一種の示威活動ですね。

 (2)については少し説明を要します。趙紫陽死去によって浮上した生前の事蹟をどう評価するかという問題で疎遠になってしまった胡錦涛の支持母体・党長老連との関係を修復しようというものです。

 長老連は趙紫陽の時代に第一線にいた世代ですから、趙紫陽の功績が全否定されると自分たちも功績がなかったことになり、トウ小平が始めた改革開放は胡耀邦・趙紫陽時代の1980年代をすっ飛ばして全て江沢民の業績、ということになってしまいます。

 ところが江沢民は趙紫陽が失脚したおかげで総書記になれたのですから、総書記としての趙紫陽を評価すると自分の正統性が失われてしまいます。このため胡錦涛は趙紫陽再評価を強く求める長老連と江沢民の板挟みのようになり、なかなか葬儀が開かれなかったのは記憶に新しいところです。

 結局玉虫色の妥協案(一部の業績を認める)で事態を収拾したのですが、この問題がシコリとなって胡錦涛と党長老連が疎遠になってしまいました。そこで胡耀邦を再評価すれば長老連の機嫌も直るだろう、という狙いです。

 ――――

 (3)(4)(5)についてはどれほど効果があるかは疑問ですが、開明派で清廉なイメージのあった胡耀邦のキャラを胡錦涛が継承するように見せたいということです。それに胡耀邦は文化大革命で冤罪に泣いた人々の救済に非常に積極的で、それが庶民に慕われた最大の理由でした。ですから胡耀邦を持ち上げることで、その恩恵を受けた世代が胡錦涛をより支持するようになれば、ということです。

 まあ(1)(2)以外はどうでもいいようにも思えます。開明派を装って知識人の歓心を買ったところで権力闘争に直接プラスになることはありませんし、文革世代からの支持率が高まっても、これまた権力掌握の足しになるとは思えません。

 ともあれ、胡錦涛は「胡耀邦生誕90周年」イベントをやることで、自らの指導力強化を図る狙いがあったのだと思います。かなり前から練られていた策であることは確かです。企画自体が浮上したのは夏ごろでしたが、シロアリに喰われてかなり傷んでいた胡耀邦旧宅を、地元政府が40万元余りを投じて4月11日から修繕しています。一般市民も見学できるように、ということですが、要するにその時点にはすでに胡錦涛の頭には「90周年」を利用するアイデアがあったのでしょう。

 ●『香港文匯報』(2005/09/05)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0509050003&cat=002CH

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 とはいえ、これは余りにミエミエな企画です。他の派閥から、

「そんな団派だけが得するようなイベントにカネを使えるか」

 と反対の声が出るのは自然ですし、

「じゃあ趙紫陽はどうします?」

 と聞くことで胡錦涛に同調しなかった温家宝も何事かを胸に秘めていたのでしょう。

 ――――

 という訳で「換骨奪胎」合戦なのです。胡錦涛は胡耀邦イベントを利用して上述したような政治的目標を達成しようとする。これに異を唱えた温家宝、そして上海閥の現役代表格ともいえる曽慶紅は逆にこの企画に賛意を示しましたが、結果からみれば、両者が狙ったのはいずれも胡錦涛の目論見を崩すということであり、イベントを骨抜きにしてしまうことでした。

 ここでも様々な綱引きがあって妥協が行われたのでしょう。式典は開催する。開催するけれども胡錦涛が外遊中で出席できない時期を選ぶ。……と、ここまではいいのですが、

 ●式典に対し胡錦涛が書面によるメッセージを寄せなかった(寄せるのを阻まれた?)。
 ●胡耀邦に対する評価が結局従来のままだった。

 ……この2点は明らかに胡錦涛の敗北を示すものだと思います。また、温家宝と曽慶紅が出席することで格式の高さは保たれていますが、正確にはこのイベント、記念式典ではなく座談会というやや軽い形式をとっていますし、出席者の顔ぶれもかなり限定されているという印象を受けます。

 どうも換骨奪胎を狙った胡錦涛が、逆にその策を施されてしまったような格好です。



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 ちょっとレイアウトをいじってみました。みなさんのコメントが以前よりは読みやすくなったのではないかと思います。ずっと気になっていたことですが、素人なのでなかなか手を出せませんでした。不都合・不具合な部分もあるでしょうから、その際は御一報下さい。

 また、私の可視範囲内における才能の横溢した若い人を応援する意味で右サイドに古谷充子さんの作品を掲げられるようにしました(詳細は「御家人口上書」を御参照下さい)。

 他にも世界を股にかけて活躍している演奏者など有力候補がいるのですが、如何せんCDでのメジャーデビューを果たしていないのでお手伝いできないのが残念です。

 その一方で、機会があれば御家人推奨の品なども紹介していければと思います。ええ、こちらは下級幕臣の定番、楊子削りの内職のようなものです(笑)。m(__)m



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「上」の続き)


 とりあえず、胡錦涛シナリオにおいては抑えられていた動きが中国国内メディアにおいて早くも出てきています。まずは当ブログコメント欄の常連で情報通のaquarellisuteさんから教えて頂いたニュース。

 ●学生・教師が中国人留学生3名を集団暴行――日本の専門学校、教師は謝罪(捜狐 2005/11/16/17:55)
 http://news.sohu.com/20051116/n227515205.shtml

 『北京青年報』-『法制晩報』と転載されたものを大手ポータル「捜狐」(SOHU)が拾い上げて報じたものですが、日本のある専門学校で中国人留学生が集団イジメにあったような内容になっています。元ネタは『関西華文時報』という私は聞いたことのない華字紙です。これは「中国人女子留学生」と同質のもので、中国人のプライドとコンプレックスを刺激し、反日感情を高める非常に直接的な燃料です。

 この記事に付属する掲示板は私がのぞいた時点(19:45)すでに996レスに達していました。どういうレスがついたかは推して知るべしです(笑)。それにしてもどうすればこんな良ネタを発見できるのですか?>>aquarellisuteさん。

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 それからもうひとつ。

 ●盗人猛々しい理屈――日本が捏造、中国空軍機が領空侵犯と(新華網 11/17/09:13)
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-11/17/content_3792318.htm

 「日本は一方的に防空識別圏を設定し」云々、「日米の軍用機はしばしば中国領空付近で挑発行為を」云々、「日本のこうした捏造は尖閣諸島の実効支配強化や中国脅威論盛り上げのために」云々。

 これは日本側の報道に反論するものですね。

 ――

 ●空自、対中の緊急発進が最多に 上半期30回 ガス田付近周回
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051109-00000006-san-pol(産経新聞 2005/11/09/02:52)

 航空自衛隊の中国軍機に対するスクランブル(緊急発進)が急増し、今年度上半期(四-九月)だけで計三十回あったことが八日、空自の内部資料で明らかになった。十月以降も数回あったため、対象機の国別集計を始めた平成七年度以降で、過去最多だった平成十年の三十回を既に超えた。中国がガス田開発を進めている日中中間線付近で、中国の洋上哨戒機Y8Xなどによる周回飛行が続いているためで、空自幹部は「交信、電波情報を収集している」と分析している。
 中国軍機以外を含むすべての緊急発進回数も、今年度上半期は昨年同期(九十二回)を上回る計百三回にのぼっており、年間回数も昨年度(計百四十一回)を超えるいきおい。(後略)

 ――

 この報道に対して中国は外交部報道官記者会見で11月15日、

「中国の航空機が東シナ海上空を飛行することは全く正常なことであり、国際法や国際慣例にも符合する」

 ……とごく簡単に回答していました。

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3784123.htm

 ところが今回の報道はこれを1本の論評記事に仕立て上げ、日本側の言い分を捏造扱いする一方、逆に日米こそ挑発的行為を繰り返しているという逆ギレから、尖閣問題や中国脅威論にまで及んでいます。

「外交部のあの反応では生ぬるい」

 という声が軍部あたりから出たのかどうかは知りませんが、「靖国」とは無関係ながら、よりパワーアップした形で問題を蒸し返してきたという意味で注目しておくべき内容だと思います。

 ――――

 そしてこのネタです。

 ●中国人留学生を故なく殴打、騒ぎ起こした警官は厳重処分に――日本(新華網 2005/11/17/08:07)
 http://news.xinhuanet.com/overseas/2005-11/17/content_3791842.htm

 「中国人女子留学生」報道の続編ですね。前述したように中国国内では事実確認が行われないままの散発記事になっていました。日本では11月11日に報道されたこのニュース(事実確認がされた)が今になって報じられたのは、政局の変化と無関係ではないでしょう。報道規制が解除されたのです。もちろんこの記事、第一報となった当時の散発報道へのリンクも張られています。

 http://news.xinhuanet.com/overseas/2005-10/20/content_3653263.htm

 ――――

 いずれも李肇星の「ヒトラー&ナチス」発言が中国国内で報じられた後に出てきたニュースです。こうした色彩の記事が今後も続くのかどうかはわかりませんが、「流れが変わった」ことを感じさせる動きです。

 日中関係でいえば、目下のところは中国側が独りで勝手に馬鹿踊りを続けていて、日本側は特に痛痒を感じていないというところが印象的です。小泉首相以下が、

「日中首脳会談や外相会談をやりたい」

 ではなく、

「こちらとしては会談はいつやってもいいよ」

 というスタンスをとり続けているので(麻生外相などは記者会見で「(外相会談には)別に期待していない」という趣旨の発言をしていましたね)、APECで日中首脳会談・外相会談が行われなかったことで敗北感を受けたということもないでしょう。逆に「ざまあみろ」と誇らし気な中国側が浮いてしまっているように思います。

 もっとも、流れが変わり、胡錦涛から主導権が奪われた観があるとはいえ、現今の社会状況に照らせば「中国人留学生が暴行された」というような庶民レベルでの反日感情を高めるようなニュースは不測の事態を呼びかねないので、今後は抑制されるかと思います。下手に「反日」を煽ることの危険さは、アンチ胡錦涛諸派連合も今春の「反日騒動」でわかっている筈です。

 そういう意味である種の示威活動としては東シナ海ガス田紛争などが恰好の舞台となってくるかも知れません。国民を煽れない状況ですから、何らかの実力行使といえば天然ガス採掘開始なり軍部による示威活動ということになるのではないでしょうか。上で紹介したスクランブル云々を改めて蒸し返してきたあたりはその伏線、という気がしないでもありません。

 党上層部における政争については「胡耀邦生誕90周年」という恰好のイベントがありますから、それを軸とした綱引きに注目したいところです。



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 ここ数日仕事とヲチともにハードな日々が続いたので今日は気楽に書きます。……と言いたいところなのですが、気楽に雑談している場合ではないようでもあります。

 とりあえず娯楽ながらも毎日チナヲチをする身としては、小泉首相による靖国神社参拝に対して中国政府が出した声明(10月17日)、それに外相会談まで流れた今回のAPEC、この2点だけを以て「当然の帰結」と結論づけることはできません。その途中の約1カ月間、中国側に様々な動きがあったからです。

 基本的には、「靖国参拝」は許せないけど、いま「靖国」で騒ぐことは得策でないとし、関連報道を段階的に鎮静化させつつ、内外に「歩み寄り」のシグナルを送ってAPECでのハイレベル協議実現(外相会談)に向けた環境を整えよう、という流れです。

 ――――

 この1カ月、中共政権はこの流れを主流として動いてきました。胡錦涛の意思だと思います。ただ胡錦涛の指導力が十分でないため、これに反発するかのような逆向きの動きもありました。重複を恐れずに書きますと、

 ●「江沢民が宇宙飛行士を祝福」という異様なニュースが新華社から流された。
 ●「中国人女子留学生が東京で酔った警官に殴られて負傷」報道。

 がその典型例です。ただ、指導力不十分ながらも胡錦涛は何とかこうした火種を揉み消し、延焼して新たな流れが生まれることを防ぎました。

 「靖国」以来の流れにあって江沢民のニュースは唐突で無関係ともいえますが、これは胡錦涛の権力基盤がいかに脆弱であるかを示した出来事で、本来なら近く開催される「胡耀邦生誕90周年」イベントが当初の予定より規模を縮小されたことと同じ文脈で語るべきものでしょう。

 「中国人女子留学生」に関するニュースは反日気運の盛り上げに直結する危険なニュースです。今年3-4月のような反日騒動が起きた場合、胡錦涛政権どころか中共自体がどうなるかわからないという意味での「危険物」であり、ですからこの事件は事実であったことが後日判明しても中国国内では報道されませんでした。規制がかかったのでしょう。

 他にも胡錦涛政権は靖国神社参拝に抗議して行われた北京日本大使館前での「なんちゃってデモ」を中国国内メディアに報道させなかったり、同じ目的で上海の日本総領事館を訪れようとした糞青(自称愛国者の反日教徒)が警官に拘束・連行されたり、深センでの同様の企画が治安当局によって押さえ込まれたりしています。

 ――――

 これら諸々の出来事は、統制力に不安が残るものの、胡錦涛政権が一応中共における主流であることを示しています。一方で、中共にとっては一大事である筈の「靖国参拝」が生起してもマトモなデモひとつ打てなかったことは、中国の社会状況がこの半年余りでさらに悪化していることの表れといえるでしょう。

 余談としていえば、このことは同時に、胡錦涛の権力基盤が当時より弱体化していることを示しているのかも知れません。タネ火のうちに揉み消してしまわないと、いったん燃え広がったら今春のように胡錦涛派が有効な「火消し役」を務められるかどうかわからない、ということです。

 ――――

 ところで今日(11月17日)「棲息地その2」をのぞいてみたら、

「御家人さんのブログを見てるとあまりにもドラマチックなので、『ホンマかいな』という気になるし、別の解釈の仕方はあるんじゃないかなと」

「御家人さんは新たな展開を望みすぎてるようなところがあるのは事実だと思う。というか、チャイナヲチャってそんなもんだろ?バブルがはじける、もうすぐ国が分裂する、というような本がどれだけたくさん出版されていることか。御家人さんも天安門事件を経験した世代だから、『歴史は繰り返す』という期待感が大きいようだしね」

 という書き込みがあって、なるほどと私も思い、これはいいクスリになりました。ほぼ1日単位で動静を追っていると、小さな事象が大きな変化にみえてしまうことがあります。針小棒大にならないよう常に戒めているつもりですが、脱線してしまうこともあるかも知れません。むろん、流れの捉え方なり記事の読み方なりには様々な解釈があることでしょう。

 あと私は常々「荒れてほしい」(笑)とここでも書いていますから、新たな展開を望んでいることは確かです。ただその願望が観察に影響しないよう自戒してはいるつもりですけど。それから私は1989年の天安門事件を経験したうえ、先日紹介した13年前の本格的な権力闘争を観察する機会に恵まれましたので、今度大波が来たら歴史は繰り返さないだろうと考えています。それは「いままでの中共政権にはなかった全く新しい局面となる」という意味です。ただ、過去数千年の歴代王朝の興亡に照らせば、確かに「歴史は繰り返す」といえる事態だろうと思います。

 「ドラマチック」という言葉にこだわるとすれば、私は個々の事件ひとつだけを取り上げて云々しているのではなく、出来事の大小にかかわらず、一連の流れの中にその出来事を置いて眺めてみるように心がけています(それが徹底しているかどうかは別として)。前回紹介した新しい動きについていえば、たぶん「あまりにもドラマチック」なのは、変化に興奮して私の筆致が熱を帯びたのではなく、動き自体がそれだけ劇的なものだったからです。

 異常といっていいのは、そういう「あまりにもドラマチック」な出来事が、今回を含め、今年はもう3回も発生していることです。今春の反日騒動、呉儀ドタキャン事件、そして今回のケースです。いずれも主役は党上層部でしたから、胡錦涛の統制力不足と同時に、中共政権そのものが不安定な状態になっている証かと思います。

 ……で、今回の劇的なケースの続報ということになります。

 ――――

 ●ヒトラー例え小泉首相批判 靖国参拝で中国外相(Sankei Web 2005/11/15)
 http://www.sankei.co.jp/news/051115/kok077.htm

 中国の李肇星外相と韓国の潘基文外交通商相は15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の会場である釜山で会談し、李外相は小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反対する考えを強調、両外相は再度の参拝は許されないとの意見で一致した。先の小泉首相の靖国参拝について、中韓外相が協調して反対の意思を表明するのは初めて。

 また李外相は同日、釜山のホテルで「ドイツの指導者がヒトラーやナチス(の追悼施設)を参拝したら欧州の人々はどう思うだろうか」との表現で、靖国参拝を重ねて非難。参拝中止に向け「基本的な善悪の観念を持つべきだ」と訴えた。

 韓国側によると、李外相が参拝について「アジアの人々の感情を傷つける。再度の参拝はいけない」と切り出した。(後略)

 ――――

 劇的なのは、流れが変わったということです。李肇星外相から上記「放言」「妄言」(日本側も正式に反発していますね)が飛び出しました。それだけならともかく、このニュースが中国国内でも報じられたことで、胡錦涛の描いてきたシナリオが一挙に崩れ去ってしまいました。

 ●中韓外相が靖国参拝反対で一致、日本の首相による今後の参拝は断固許さず(中国青年報 2005/11/16)
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/16/content_92054.htm

 という記事が中国国内バージョンですが、「ヒトラー」「ナチス」はもちろん、最近の外交部報道官記者会見において使われなくなっていた「小泉」「靖国」という固有名詞も登場するのです。この記事が、

 ●「新華網」(2005/11/16/08:10)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/16/content_3786415.htm

 ●「人民網」(2005/11/16/08:48)
 http://world.people.com.cn/GB/1029/42354/3860205.html

 ●「新浪網」(2005/11/16/04/49)
 http://news.sina.com.cn/o/2005-11-16/04497448984s.shtml

 ……と、主要サイトにどんどん転載されました。これでこの1カ月、胡錦涛主導で動いてきた流れはリセットされたことになります。要するに中国側は、10月17日の段階に戻って改めて仕切り直しだ、という姿勢です。

 ――――

 今回の事態は麻生外相による以下の発言、

 ●靖国問題視は「異な感じ」=小泉首相参拝、簡単には譲れない=麻生外相(時事通信 2005/11/13/21:00)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051113-00000059-jij-pol

 麻生太郎外相は13日午後、鳥取県湯梨浜町で講演し、A級戦犯の合祀(ごうし)後も歴代首相が靖国神社を参拝したことを指摘した上で、「急に問題にされると、何となく異な感じを受けるのは私だけではない」と述べ、小泉純一郎首相の靖国参拝を問題視する中国や韓国の対応に疑問を呈した。

 また麻生外相は「祖国のために尊い命を投げ出した人たちを奉り、感謝と敬意をささげるのは当然。首相としても簡単に譲るわけにはいかないと思う」と述べ、首相の参拝を支持する考えを示した。

 ……これを中共(というよりアンチ胡錦涛諸派連合)が捉えて騒ぎ立てたことが発端ですが、李肇星の「ヒトラー&ナチス」発言その他にこの麻生発言が全く出て来ないことをみると、アンチ胡錦涛諸派連合は当初から、機会あらば10月17日(靖国参拝)の時点まで時計の針を逆戻りさせよう、という思惑があったように感じられます。

 時計の針をそこまで戻してどうするのか、といえば、胡錦涛シナリオとは別の筋書きで対日外交を進めよう、ということになるでしょう。


「下」に続く)



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「上」の続き)


 ところで、前述した劉建超報道官の記事は定例会見の中から日中首脳会談に関する部分を抽出して短い記事に仕立て上げたものです。でも靖国参拝後間もないタイミングでの首脳会談は当初から望み薄とみられており、外相会談が開けるかどうか、というのが本来注目されていた点です。

 ……で、定例会見の質疑応答(国内で公開できるものだけ)を全て収録した記事に飛んでみました。すると次のようなやり取りを発見しました。

 問「さっき両国の首脳会談を釜山(APEC)で行う予定はないということだったが、外相会談を行う予定は?」

 答「両国外相の会談が行われるかどうかについては、いまのところ私の手元に情報は来ていない」

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3784604_2.htm

 ……と、いよいよ胡錦涛テイスト。まだ少しはやるつもりがあるのでしょう。でも、それなら今回の主導権争いは胡錦涛派優勢で進んでいるのか、と問われれば、現時点で手元にある材料では首を横に振るしかありません。とは、きのう(11月15日)夜までに以下のようなニュースが流れたからです。

 ――――

 ●ヒトラー例え小泉首相批判 靖国参拝で中国外相(Sankei Web 2005/11/15)
 http://www.sankei.co.jp/news/051115/kok077.htm

 中国の李肇星外相と韓国の潘基文外交通商相は15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の会場である釜山で会談し、李外相は小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反対する考えを強調、両外相は再度の参拝は許されないとの意見で一致した。先の小泉首相の靖国参拝について、中韓外相が協調して反対の意思を表明するのは初めて。

 また李外相は同日、釜山のホテルで「ドイツの指導者がヒトラーやナチス(の追悼施設)を参拝したら欧州の人々はどう思うだろうか」との表現で、靖国参拝を重ねて非難。参拝中止に向け「基本的な善悪の観念を持つべきだ」と訴えた。

 韓国側によると、李外相が参拝について「アジアの人々の感情を傷つける。再度の参拝はいけない」と切り出した。(後略)

 ――――

 私からみると、李肇星外相はアンチ胡錦涛寄りではないかと思えます。少なくともアンチ胡錦涛諸派連合からの受けは悪くない筈です。あの軍部過激派によるクーデターの噂すら流れた呉儀ドタキャン事件のころ、和気藹々とした家族風景を『中国婦女』誌に紹介され、それを上海の「東方網」や『文匯報』が転載しているからです。好感度アップを狙ったイメージ作戦のようなものです。

 ●李肇星夫人の語る家庭と息子、そしてロマンあふれる夫婦の思い出(新華網 2005/05/28)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/28/content_3014591.htm

 それにしても、いかに放言や挑発的言動で知られる李肇星とはいえ、ヒトラーとナチスを喩えに持ち出して靖国問題に言及するとは大雑把すぎます(言及すること自体内政干渉ですし)。まるで糞青(自称愛国者の反日教徒)が鬱憤晴らしをするかのようで、これは示威ではなく自慰。日本側の反発を呼ぶことは確実ですし、この言動が国内に報道されれば反日気運が高まり、その挙げ句突拍子もない事態に発展する可能性もあります。

 ですからこれも李肇星らしい妄言の類だろうと私は思いました。外交部報道官の記者会見でも外相会談に含みを残していましたし。会談相手も麻生外相ではなく、歴史認識に関しては価値観を共有する韓国の外相です。この問題で中韓は共闘するぞ、という対外的メッセージの意味合いもあるでしょう。

 鬱憤晴らしで飛び出したものだとしても、この反日気運を呼びかねない危険な言動を中国国内で報道させなければいいのです。あるいは市民レベルで報じられなくても、党上層部レベルにのみ流れる内部情報にすれば、特に軍部や対外強硬派に広がっているであろう対日ストレスを散ずることもできるでしょう。

 実際、中韓外相会談はシンガポール、ニュージーランドとの個別外相会談とまとめて報じられました。もちろんヒトラーやナチスを引き合いに出した乱暴な言動、あるいは「小泉」「靖国」といった固有名詞は全く出てきませんでした。

 ●李肇星外相、韓国・シンガポール・NZの外相と個別会談(新華網 2005/11/15)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3782888.htm

 ――――

 ところが、です。日付がきょう11月16日に変わってから事態が急に動きました。

 『中国青年報』が中韓外相会談を単独で報じ、それもヒトラーやナチスを削除することなく、また「小泉首相」「靖国」といった固有名詞も登場する形で記事になっているのです。

 ●中韓外相が靖国参拝反対で一致、日本の首相が今後参拝することは絶対に許さない(中国青年報 2005/11/16)
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/16/content_92054.htm

 タイトルからして殺気立っています。確認したところでは「新華網」や「人民網」(『人民日報』電子版)といった大御所サイト、それに大手ポータル「新浪網」(SINA)が即座にこの記事を掲載しています。となればこれに追随する動きが続くことでしょう。

 ●「新華網」(2005/11/16/08:10)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/16/content_3786415.htm

 ●「人民網」(2005/11/16/08:48)
 http://world.people.com.cn/GB/1029/42354/3860205.html

 ●「新浪網」(2005/11/16/04/49)
 http://news.sina.com.cn/o/2005-11-16/04497448984s.shtml

 ――――

 あまりの急展開に私も正直、戸惑っています。中国イレブンが二手に分かれての殴り合い、つまり政争だったとすれば、この結果は明らかに胡錦涛側の敗北を示しています。でもそれならなぜ胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』が一番槍をつけたのでしょう?

 敗者である胡錦涛の御用新聞に敢えて先陣を切らせた、ということでしょうか。胡錦涛と『中国青年報』を掌握した、というアンチ胡錦涛諸派連合による一種の示威活動です。両軍ともに小粒な連中の集まりですから、そういう嫌がらせ・見せしめのような狭量きわまる挙に出ないとも限りません。

 とりあえず言えることは、胡錦涛が筋を書いた脚本はあえなく崩壊し、時計の針が10月17日、つまり小泉首相が靖国神社を参拝した時点にまで巻き戻された、ということです。「麻生発言」には全くふれられていないことから、小泉首相を柱とする日本の政治勢力に対する宣戦布告と言えるかも知れません。

 「靖国」はこちらにとっても譲れない原則問題だ、ということを日本側に知らしめるということです。一種のリセットといっていいでしょう。「靖国」を許容した上での首脳会談や、外相会談延期などという手ぬるい報復措置もリセットされます。

 ――――

 仕切り直しという訳です。あるいは、こういう布陣を敷いた上で麻生外相との対決に臨む、ということでしょうか。……署名論評などが出てくればこの突発した事態の機微を少しはうかがうこともできるでしょうが、現時点では『中国青年報』が陥落し、「新華網」や「人民網」それに「新浪網」なども足並みを揃えた、という事実しかお伝えすることができません。

 ごく個人的な印象で言うことを許してもらえるなら、こうした主要メディアの慌ただしい動きは、5月末の呉儀ドタキャン事件当時のそれを彷佛とさせるものがあります。ヒトラーやナチスを持ち出すといった乱暴な比喩は李肇星の個性といえるかも知れませんが、一方で武断的かつ硬質なものを感じずにはおれません。そういう印象だけに頼れば軍部が動いた?と勘繰ることもできますが、結局は感想にすぎず、それを示唆する材料もまだ出ていません。

 何かが始まったのではないか。……そう思わせる気配を感じることができるのみです。



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 やっぱり寝かせてみるものですねえ。APECの件、1日放置しておいたら様々な動きが出てきました。ただし総じての印象は「複雑怪奇」、これに尽きます。

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 とりあえず時系列で追ってみますか。事の発端は10月17日、小泉首相が靖国神社を参拝したこと。
……ではありません。大事なことなのに勘違いしている人も多いので一応念を入れて強調しておきますが、

「小泉首相の靖国参拝に中共政権が容喙し内政干渉を行った」

 というのがそもそもの発端です。日本の内政に属する案件ですからスルーしなければならないのに、中共が勝手に口をはさんで騒いだからゴタゴタし始めたのです。

 ただし今春の反日騒動に比べれば、今回のゴタゴタは非常に抑制されたたものでした。具体的には、反日万歳の自称民間組織や一般市民を締め出してメディアと政界のみで事態を展開させ、日中双方が歩み寄る形への流れを形成させたのです。以前にも書きましたが、大雑把には、

(1)中国政府は当初強く反発・けどショボい報復措置(外相会談「延期」)・民間の反日活動やデモは封殺。
(2)反日報道を許容しつつも靖国関連は次第に鎮静化させ、毒にならない別種の反日記事を主としていく。
(3)外交部報道官会見や関連報道によって態度軟化のシグナルを日本側へ送りつつ、APECでの日中外相会談実現に向けた環境を整える。

 というもので、基本的にとりあえず事態を鎮静化させるという胡錦涛総書記の意に沿ったシナリオだと私は感じました。
「靖国参拝をされて黙っていることができるか」などと異を唱える相手には、様々な訴えかけでとりあえず納得してもらい、一応合意局面を形成したのです。

 ――――

 ところが政権基盤の脆弱さ、胡錦涛自身の指導力不足から、ときに反日感情を煽ったり一種の嫌がらせをしたりといった小反発があったことも以前書いた通りです。(1)(2)(3)……と筋書き通りに何とか話は進んだものの、何かがあれば一気に崩れてしまいそうな脆さのある危ういシナリオでした。

 危うさ・脆さをはらんだ台本になってしまったのは、ストーリー自体に無理があったからでしょう。無理とは胡錦涛の統制力が、このシナリオをこなすには不十分というリスクを抱えていたことです。そして実際に「小反発」が何度か発生しています。

 さらにもう一点、これは中国側だけの独り芝居ではなく、日本という相手のある出し物だということです。その日本は9月の選挙で圧勝し再信任された小泉首相が内閣改造を行って、以前より強面の陣容にパワーアップしていました。

 ……ええ、それを象徴するのが「小泉首相+安倍官房長官+麻生首相」という靖国参拝支持派で形成された「超攻撃型3トップ」です。例えば麻生外相が十年前なら引責辞任に追い込まれかねない「放言」をすると、小泉首相と安倍官房長官が即座にそれとは逆の優しい物腰をみせてフォローに回る。あるいはFW3枚が足並みを揃えて強硬姿勢をチラリと垣間見せる。小刻みにポジションチェンジを行って相手を翻弄し、崩していく見事な連携ぶりでした。

 ――――

 幸い、胡錦涛はAPEC直前まで何とか筋書き通りにことを運ぶことができましたが、そのAPEC直前の外遊(訪欧)期間中に足をすくわれることになります。

 ●靖国問題視は「異な感じ」=小泉首相参拝、簡単には譲れない=麻生外相(時事通信 2005/11/13)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051113-00000059-jij-pol

 ●安倍官房長官:タカ派を否定「中国の人たちは大好き」(毎日新聞 2005/11/13)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20051114k0000m010052000c.html

 ……と、麻生-安倍ラインによる硬軟とりまぜた攻勢です。一種の「釣り」ですが、胡錦涛不在の中共側は猛然とこの餌に食い付き、釣り上げられてしまいました。よせばいいのに、またスルーせずに騒ぎ立ててしまったのです。

 槍玉に挙がったのはもちろん麻生外相の靖国発言です。果たせるかな、「新華網」(国営通信社の電子版)トップページの大見出しを飾るという特別待遇を受けました(笑)。胡錦涛の描いていたシナリオはちゃぶ台をひっくり返された形です。日中両国の歩み寄りによって「延期」扱いになっていた外相会談をAPECで実現する、という構想が崩れてしまいました。

 というより、胡錦涛の不在を奇貨としたアンチ胡錦涛諸派連合が、わざと釣られて騒ぎ立て、胡錦涛構想を崩してしまったというのが実情に近いのではないかと思います。この出来事の原因も「麻生発言」ではなく、「麻生発言」を捉えてことさらに騒ぎ立てた中国側にあると言うべきです。

 APEC出席のため韓国に入りした李肇星外相に随行した秦剛・外交部報道副局長は日中首脳会談については
「可能性はまったくない」と語り、外相会談の可能性も極めて低いとしました。

 ●日中首脳会談の可能性ない 秦剛副報道局長(共同通信 2005/11/14)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MNP&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2005111401001069


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 前にも書きましたが、強引な中央突破を狙ったファンタジスタ・麻生外相が翻意して、フォローに回った安倍官房長官にボールをいったん預けてスペースへと走り込もうとしたら、運悪くスルーパスになる筈のところをインターセプトされてしまったのです。

 ボールを奪われた日本が中国のカウンターを喰うかと思いきや、そこで摩訶不思議な光景が現出します。中国イレブンがなぜか1カ所に集まって二手に分かれ、殴り合いをおっ始めたのです(笑)。「靖国」をタネにアンチ胡錦涛諸派連合が政争を仕掛けたとすればそういう構図になります。

 水泡に帰したかと思えた胡錦涛構想。ところが、胡錦涛は外遊中ながら留守部隊が北京に残っています。その面々が即座に反撃に転じました。殴り返した訳です。ネット上の動きに限っていえば、「麻生発言」関連記事を目立たない位置に移してしまい、代わりに安倍官房長官の「中国人は大好き」発言を前面に押し立ててみせたのです。

 ●安倍官房長官「自分はタカ派ではないし、中国の人たちは大好きだ」(新華網 2005/11/14)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3777590.htm

 これに対し、政争を仕掛けた側ももちろん黙ってはいません。

 ●韓国外相、日本政府に正確な歴史認識を持つよう促す(新華網 2005/11/14)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3779976.htm

 という記事を皮切りに、王毅・駐日大使が「靖国問題が日中関係をもつれさせる原因の全て」といった記事を『日本経済新聞』に寄稿したというニュースを流して抵抗。さらにペルーのフジモリ問題に関する報道や画像集までを持ち出してきました。

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 ●王毅が日本紙に寄稿「靖国問題が日中関係をもつれさせる原因の全て」(なぜかリンク切れ)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3782196.htm

 ●フジモリ問題でペルー国民が反日活動、「日本との断交も辞さず」(新華網 2005/11/14)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3779166.htm

 ●ペルー国民の反日活動画像集(新華網 2005/11/14)
 http://news.xinhuanet.com/photo/2005-11/14/content_3777588.htm


 アンチ胡錦涛諸派連合は民衆の反日気運に頼ろうとしたのかも知れませんが、「反日」とは全く無関係にデモや暴動が頻発している社会状況ですから、これは危険な賭けともいえるものでした。

 ともあれ、試合そっちのけで唐突に始まった中国イレブン同士による殴り合いを、日本側は手をつかねて眺めているしかありません。ドリンクを補給しながら、

「試合はどうすんの?こっちはいつでも歓迎だけど、別にやりたくないならそれでもいいよ」

 という姿勢です。もちろん「試合」とは外相会談、ひいては首脳会談です。ところが中国側は仲間割れで始まった喧嘩の決着がつかないままです。「試合」再開に否定的な報道は流れるのですが全て外電の引き写し。仕方がないので私も放置して13年前の昔話に興じていたのですが、ようやく外交部がこの件に公式な回答を示しました。

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 ●外交部「APEC」での中日首脳会議はない(新華網 2005/11/15)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3784115.htm

 劉建超報道官の記者会見によるもので、日中首脳会談の予定がないことを明言。その理由は、

「いまは両国の指導者が会談する空気や条件がまだ整っていない」

 ということになっており、要するに時期尚早。「一切の責任は中国側にはない」というトーンでないことが意外です。しかも時期尚早ですから首脳会談はいずれ実現するという含みも持たせており、会談拒否のような強い姿勢ではありません。そして「小泉首相」「靖国」といった固有名詞はやはり一切出てきません。

 ちょっと興味深かったのはそのページの下に並んだ関連報道の中に、

 ●中日関係は共倒れを避け、勝利を分かち合わなければ(国際先駆導報 2005/11/05)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/05/content_3734868.htm

 という記事があったことです。何やら胡錦涛風味の標題ではありませんか。


「下」に続く)



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