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日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 これはすごいですね。

 ●暴動急増、10年で7倍に=昨年は7万4000件-中国(時事通信)
  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050727-00000067-jij-int

 中国の公式発表なのですが、昨年1年間で暴動・騒乱・抗議活動などが7万4000件発生して、376万人がそれに参加しているとのことです。

 単純計算で、その種の事件が1日平均202回も起きていて、1日平均約1万人がそれに参加していることになります。公式発表でこれですから、実情はもっと深刻だと思います。

 中共指導部には「このままいけば潰れる」という感覚に似た強い危機感があるでしょう。

 ただそういう危機感にどれほどの人が同調し、行いを正してくれるかが問題です。

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 強い危機感が存在する証拠に、『人民日報』(2005/07/27)が諸名論評を掲載しました。

 ●安定を擁護し、発展を促進しよう
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/27/content_3274042.htm

「……わが国の改革・発展はまさに正念場にさしかかっている。それは『黄金発展期』でもあり、『矛盾突出期』でもある。改革が絶えず深化していくなかで、必然的に利益関係の調整にも影響が及び、異なる人、異なる集団の間で改革・発展の成果を享受する程度が違ってくるのは避けられないことだ……」

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 論調としては今年3月の全人代(全国人民代表大会)における温家宝首相の「政府活動報告」のスタンスを踏襲しています。むしろ胡錦涛政権がスタートした昨年9月の「四中全会」(第16期党中央委員会第4次全体会議)において胡錦涛総書記が発表したコミュニケ、そこからの一貫した流れと言うべきかも知れません。以前から当ブログで再三指摘していますが、この「危機感」こそが胡錦涛政権の核心をなすものだと私はみています。

 その危機感の強さ、切迫感は、恐らく1989年の天安門事件(六四事件)やベルリンの壁崩壊、また東欧各国の共産党政権が相次いで打倒されていく中で「和平演変(平和的手段の形をとって共産党政権を打倒すること)を防げ」ということが盛んに言われた当時に匹敵するといえるかも知れません。

 それにしても「矛盾突出期」という言葉、何か最近どこかで見た覚えがあると思ったら、党中央が共産党員に行いを正すよう呼びかけたとき(共産党員の先進性保持教育活動)に用いられていました(「政府は『集団的事件』に打つ手なしかよオイ」2005/07/16

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 なるほど。今度は同じことを、党員だけでなく全国民に向けて言っている訳ですね。

「改革が深化していくなかで、ある種の格差や不公平、不平等も激化していくだろうが、それは極力是正していくから、みんな心をひとつにして、社会の安定を揺るがすようなこと(暴動・騒乱・抗議活動)はしないでくれ」

 そりゃ無理でしょう。

「国家の利益、民族の利益、人民の利益は永遠に国民ひとりひとりが第一に追い求めるものだ」

 という一節がこの論評記事にはあるのですが、果たして「国家の利益=民族の利益=人民の利益」という図式は成立するのでしょうか?だいたい中共政権自体が民意に拠って成立したものではないのに、よくもまあぬけぬけと。「民族の利益=人民の利益」というのもおかしな言い方です。ここでいう「民族」とはウイグル族やチベット族などもひっくるめた「中華民族」という虚構のことなんでしょうけど、誠に空々しい限りです。

 「黄金発展期」という言葉も空々しい。学生やニートのような生活を背負わない連中はともかく、社会人がそれを心から信じているなら、かくも多くの暴動・騒乱・抗議活動が起こる筈がないですよね。仮に「黄金発展期」が事実だとしても、大多数の国民はその果実を手にすることができない。だから冒頭に掲げた「1日平均202回」という数字になるのだと思うのです。「失地農民」(※1)という、実に悲惨な語義を有する言葉が昨年の十大流行語に選ばれたのもその反映でしょう。

 「発展こそが大原則」(發展是硬道理)というお馴染みの言葉も登場していますが、発展すればするほど、経済が成長すればするほど格差が拡大していくのですから、どうにも説得力に欠けてしまいます。

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 当ブログでもしばしば紹介しているように、土地収用などをめぐる暴動が全国各地で頻発しています。暴動になるのは、主としてそこに不公平・不平等があり、汚職があるからでしょう。でも暴動にならない土地収用や住民移転だからといって、不平不満も出ずにきれいに処理されているとは限りません。

 国営通信社の電子版「新華網」が最近、新華社系の『半月談』誌に出た文章を転載しています。土地収用・住民移転という作業、その実務部門の元担当者による赤裸々な経験をまとめたものです。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/25/content_3263895.htm

 一読に値する記事です。これを読むと暴動のような騒ぎにならなくても、様々な形で党幹部による汚職がまかり通っていることがわかります。ここでいう汚職とは第一に公的資産の蚕食であり、庶民を泣かす行為でもあります。ただ泣かされ、泣き寝入りするしかない筈の庶民が汚職の片棒を担いでいるケースもあって、考えさせる内容です。

 以下にかいつまんで訳出し、その手口をみていくことにします。

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 ●移転者と結託して補償金を余計にせしめ、その分を移転作業の実務担当者と移転者で山分けする

 これはそのままの内容です。移転に伴う補償金を水増し申告。例えば本来30万元の補償金であるところを70万元にしてしまうのです。これは移転作業の実務を行う党幹部と移転者の間で話がついた際に成立するケース。70万元のうち35万元が移転者にわたり(5万元余計にもらう訳です)、残り35万元は党幹部の懐へ。その際に一部始終を目にしていた党幹部の部下に対し、口止め料が払われたりもします。

 ●不動産証明書のない住宅に証明書をでっち上げ、補償金を余計にせしめた補償金を党幹部が着服する

 移転作業に伴う汚職では最もポピュラーで、成功率の高い汚職だそうです。補償金額は移転者が住んでいた住宅の評価(等級)によってかなり変わってきます。ある移転作業では不動産証明書のない住宅に居住していた者には1平方メートルあたり268元、これが不動産証明書のある住宅だと1038元になるというように、大きな差が出ます。ここでは不動産証明書のない住宅に対して架空の売買取引をでっち上げることで不動産証明書を発行し、補償額を大きくして差額をせしめるというものです。

 ●実在しない架空の移転者をでっち上げる

 移転者の中に架空の人物を作り上げ、それに対する補償金を懐に入れるやり方です。「架空の人物」とは実在しない者だけではありません。すでに他の場所に引っ越していて移転対象地区に住んでいない住民の名前を使ったり、物故してこの世にいない住民をまだ生きていることにして関係書類を作成することもあるそうです。

 ●書類偽造

 まず上にも出てきた不動産証明書、これを「手続き資料の作成に必要だから」と騙して移転対象者から取り上げます。そて上級部門には本来の補償額で申請する一方、不動産証明書を改竄(専有面積を小さくするなど)し、移転者にはその改竄後の条件に応じた補償金を渡し、差額を着服するというものです。

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 ●住宅評価等級をランクダウンさせる

 移転者の住んでいた住宅の評価は専門の評価師が担当するのですが、すでに他の部門に転出している評価師の証明印を盗用し、評価ランクを不当に下げてからそれを移転者に通知し、一方で上級部門には本来の評価ランクで補償金を申請。その差額を党幹部がせしめるという訳です。

 ●強制収用をチラつかせて賄賂をとる

 読んで字の如しです。移転予定者の元に足を運び、「この住宅はこのままだと強制収用するしかないが、そうなると補償金は激減する。だが×万元を私に払うなら強制収用を回避するようにしてあげよう」というパワープレイ。移転予定者は泣く泣く賄賂を払うことになります。

 ●分割支給によって補償金の一部をせしめる

 これはまず住宅評価を細切れにすることから始めます。本来1件で澄むはずの評価証明書を何件かに分けて作成し、補償金の大半を移転前に支給し、残りを移転後に払うという分割支給の形にしてしまいます。例えば住宅1戸の評価証明書を6件に細切れにして移転前に5件に相当する金額を支払い、「残り1件分の金額は移転後に」という形にしておきながら、その残った1件の評価証明書を破棄して知らん顔を決め込む。破棄した分の補償金が党幹部の懐に入ります。移転者は不服でしょうが権力の報復を恐れて泣き寝入りするしかありません。

 ●暴力を以て脅し上げ、こちらの言いなりにさせる

 これは荒技の中でも最たるものです。移転を拒む住民に対し、水や電気といったライフラインをカットしたり、夜間に窓ガラスを割ったり、屋根に上がってそのあたりを引き剥がすなどの嫌がらせをします。公安(警官)や裁判所の支援を得て、罪をでっち上げて拘束した上で暴行を加えたり、司法の力によって故なく検束したりもします。それでもダメなら強制収用を断行するまでです。

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 この元担当者は最後に、

「もし移転作業が全て国の規定する補償基準にそのまま則って行われるなら、強制収用に伴う官民衝突事件などがあんなにたくさん起きる訳がない」

 と語っています。汚職があるから事件が起きる、ということです。

 確かに上に挙げたテクニックの多くは移転作業を行う「官」たる党幹部の汚職によるものですが、中には住民と結託するもの(住民の懐にもカネが入る)もありますから、根は深いと言わざるを得ません。

「みんな心をひとつにして……」

 なんて寝言同然。まさに孫文が嘆いた通り、中国人は「一盤散沙」で常にまとまらない(一握の砂の如く握っても指の間からこぼれ落ちてしまう)、という表現がぴったり当てはまるように思えます。その眼中には国家もなければ公の精神もない、と。

 ただこれはこれで歴代の統治者による苛酷な搾取ゆえに長い年月を経て自然に身に付いた知恵と言えなくもありません。庶民がいまなおその防御本能を働かさなければならないところに、中共政権の本質が透けてみえるように思うのです。


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 【※1】土地を収用され指定された移転先に引っ越す農民。移転先の土地が農業に適していないケースが多く、支給された補償金がわずかなため転業資金にもならない。いきおい移転前の生活レベルを維持できず、日雇い労働のようなその日暮らしの生活に堕ちてしまうことが多い。中国の歴代王朝が滅亡する前兆として発生する流民に等しい存在、といえなくもない。



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 連投はさすがにキツいのですが、素材の鮮度を落としたくないので眠る時間を少し削ることにします。

 ……なんて殊勝なフリをしていますが、私にとっては娯楽ですから。多少寝るのが遅くなっても「サカつく」を今日中にあと1年進めておこう、みたいな感じです。

 1年といえば昨日(7月27日)で当ブログも満1歳でした。このブログに手を染めてからプレステ2を全然動かしていません。せめて風水を良くする効能とかがあればいいのに、といまでも思います(笑)。

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 さて標題の通り、四川省の疫病続報です。「ブタ連鎖球菌かその変種」でしたね。

 とりあえず人数いきますか。中国衛生部が昨夜発表した昨日正午時点での発病者数は131名、うち実験室検査により感染が確認された者8名、臨床診断による者76名、疑い例47名。また完治して退院した者11名、危篤状態21名、死亡者27名となっています。

 私は前々回に書いた通り、病気のことは皆目わかりません。ただ中共当局の対応ぶりからみて、すでに事態がヤマを越えていると当局が判断しているように感じました。多少の齟齬はあるかも知れませんが、現状は概ね「想定の範囲内」といったところでしょう。中共当局にとって見られたくないものは過去1カ月の間に、あるいはもっと長い時間をかけて隠してしまったのだろうと思います。

 発病者何名、死者何名とかいうより、その「中共当局にとって見られたくないもの」が何なのかを知りたいです。あとはこの奇病騒動が党上層部の勢力図に影響を及ぼすか、どうか。なにせ「権力闘争の夏」なものですから。

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 ところで耳寄りな情報が。病状にもよるのですが、この奇病の治療に使える漢方薬があるそうです。香港紙『蘋果日報』(2005/07/28)によると、

「●樸夏苓湯」(●=くさかんむり+霍)
「清瘟敗毒飲」

 の2種類がお勧めとのこと。いや冗談ではなくて、「国家疾病預防控制中心」という堂々たる国家機関の御推奨です。悪寒、発熱、頭痛、倦怠感には前者「●樸夏苓湯」が、意識不明や皮膚に斑点が出る重症患者には「清瘟敗毒飲」がいいそうです(笑)。

 だからなのでしょうか。香港紙『明報』(2005/07/28)によれば、WHO(世界保健機関)の西大平洋地区報道官が昨日、この病気について「支援する用意がある」と中国側に伝えたのに対し、中国からは例によって何の返事も来なかったそうです。

 ●『明報』(2005/07/28)
 http://hk.news.yahoo.com/050727/12/1eyrz.html

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 ところで、今回疫病の感染区となった四川省・資楊市というのは同省の省都・成都市や中央直轄市である重慶市と境を接しているんですね。ド田舎という訳ではないようです。それでも今回の騒動で香港各紙の食い付きが異常に速く、記者が一斉に現地入りして取材にかかれたのは、折から成都で珠江・長江デルタ+香港・マカオの代表による経済協力会議が開かれていたからです。

 香港のトップである曽蔭権・行政長官もこの会議に出席しています。そこで香港の新聞やテレビ局が揃って成都に来ていたところに、この突然の事態。ラッキーとばかりに続々と資楊市入りした訳です。資楊市当局にとっては最悪の展開(笑)なのですが、特に厳しい報道規制もなく、記者が比較的自由に取材できたことは前々回に書いた通りです。

 集中豪雨的な取材を浴びた資楊市当局は慣れていない上に話題が奇病ときていますから気苦労がしのばれます。中国国内のマスコミに加えて香港メディアがズラリです。

 この大挙来襲に同市宣伝部は7月25日、各メディアの取材申請を全て断った(それでも記者はもちろん非公式の形で市内各所を勝手に取材して回りました)のですが、その夜には記者一同を招いて夕食会を開くなどフォローに努めてもいます。四川省は豚の生産地として有名で「回鍋肉」のような有名料理もあるのですが、さすがにこの夕食会のメニューには豚肉が一切出なかったそうです。

 ●『重慶晩報』(2005/07/26)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/26/152813.shtml

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 奇病が「ブタ連鎖球菌」とされたことで、地元の豚肉消費も激減するのは自然な流れ……の筈なのですが、香港紙『太陽報』(2005/07/28)によると資楊市における豚肉の売り上げは普段の3分の1に落ちたとのこと。発病者や死亡者が相次ぐなか、それでも3分の1の需要があることに驚きます。「検査が厳しくなった今の方が安心して食べられる」とは市民の声です。

 25日の記者との夕食会では豚肉抜きのメニューで通した市宣伝部も、27日には安全をアピールすべく、様々な豚肉料理を用意して記者を招き、当局者が「毒味」してみせてから「さあ皆さんもどうぞどうぞ」と記者に勧めたとのこと。記者たちの反応は不明です。

 ●『太陽報』(2005/07/28)
 http://the-sun.com.hk/channels/news/20050728/20050728021644_0001.html

 個人的には、突如降って湧いた重責に慣れないながらも頑張る市当局各部門の担当者に同情します(笑)。奇病発生を受けて雲の上たる中央から衛生部や農業部の専門家がやって来て、成都から内外メディアが大挙押し掛け、昨日午前には四川省のトップである張学忠・省党委書記の視察もありました。

 そのいちいちに応対するのですから骨が折れるのも無理はありません。いや骨折こそしなかったのですが、市衛生庁の謝明道・庁長が過労でバタリと突然昏倒。救急車で病院に運ばれるという一幕もありました。

 ●『香港文匯報』(2005/07/28)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507280002&cat=002CH
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507280013&cat=002CH

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 まあそうやって色々気を使い、疲労も溜まれば気分が刺々しくもなります。しかもネガティブな話題を取材されるのです。「特に厳しい報道規制もなく、記者が比較的自由に取材できた」とは上でも前々回でも書いたことですが、昨日になってトラブル発生。

 市内のホテル・錦江蜀亨大酒店のロビーで『香港文匯報』の記者が一息入れていたところ、固まって座っていた6~7人が言い争いを始めたのです。その中にいたのが地元紙『重慶晩報』の記者たちです。

「仕方がない。出て行けって言うんだからそうするしかないよ」

 と、やるせない表情。記事の内容が市党委宣伝部を激怒させてしまったようです。かと思うと、激論の渦中にいた女性がつかつかと『香港文匯報』記者に歩み寄って来るなり、

「重慶に帰る?すぐに送り返してあげるから」

 と大変な見幕です。実はこのピリピリした女性が市党委宣伝部新聞科の科長さん。どうやら『香港文匯報』の記者を『重慶晩報』取材チームの一人と誤解したようです。何でも『重慶晩報』の報道に「問題があり」、市当局に「面倒をもたらす」内容だったとのこと。そこで『重慶晩報』の取材資格を取り消し、取材チームに対しその日のうちに市外へ出るよう要求した訳です。

 もっともこの禁令は『重慶晩報』だけでなく重慶市のマスコミ全てを集めた上で申し渡したそうで、重慶メディアのある記者は、

「今日中に資陽から離れなかったら、公安の護衛つきで市外に送り出すって言われたよ」

 と話していたとのこと。まあ資陽市当局としては、これだけの騒動になってしまったのですからトカゲの尻尾切りに遭う可能性も高い訳で、保身の感覚も働いて神経質な反応になったのだと思います。

 ただ、なぜ重慶メディアだけが追い出されたのかはわかりません。狙い撃ちということは、もともと地域間の確執といったような裏事情があるのかも知れません。ああそういう内情は是非知りたいものです(笑)。

 ●『香港文匯報』(2005/07/28)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507280007&cat=002CH

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 で、気になって『重慶晩報』のウェブサイトに記事を読みに行ってみたら、なるほど資陽市当局が立腹する筈です。中国国内メディアとは思えぬ書きたい放題で飛ばしに飛ばしています(笑)。例えば以下の短い記事。

 ●資陽市当局は上級部門への報告を先延ばしにしていた?(『重慶晩報』2005/07/27)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/27/153067.shtml

 6月24日に最初の発病者が出てから、昨日までの間に奇病による死者が相次いで出ている。だが新規発病者の比率が下がっていくにつれて、誰もがこの1カ月について疑問を呈したり反省するようになってきた。この奇病騒動が今なお猛威を振るっているのはなぜなのか、ということだ。

 地元当局が発表したタイムテーブルによれば、資陽市第三人民医院が6月24日に最初の発病者を扱ったというのに、そのことが資陽市雁江区疾病防控中心に報告されたのは7月11日になってからだ。翌12日、これが流行性出血熱の疑い例として資陽市疾病防控中心に報告された。それを受けて四川省衛生庁の専門家チームが資陽入りしたのは7月15日で、7月20日には国家衛生部がこの病例を「資陽市中毒性ショック総合症」と命名。そして7月25日、国家農業部と衛生部がこの奇病をブタ連鎖球菌による感染症と診断した。

 資陽市第三人民医院が最初の患者に接してから7月11日に上級部門に報告するまで、18日間もの時間がある。この長い長い18日間において、なぜ症例報告が遅々として行われなかったのか。資陽の関連部門は本紙記者の取材を拒絶することで、人々にひとつの大きな謎を残すこととなった。だが我々は覚えている。この18日間という時間の中で、4人の発病者が資陽市第三人民医院で息を引き取ったことを。

 ……これが資陽市当局を怒らせた核心の記事なのか、あるいは追い出された後に腹立ちを込めて書いたものなのかはわかりませんが、『重慶晩報』、なかなかやるな。……という感想が湧かずにはおれません。

 ――――

 他にもまだあります(標題は内容に即したもので、原題を訳したものではありません)。

 ●重慶の封鎖措置、未だ実施されず――資陽・内江の豚は普段通り市内へ(2005/07/26)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/26/152811.shtml

 ●規定違反――個人による勝手なが招いた惨禍では?(2005/07/26)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/26/152814.shtml

 ●重慶が四川豚の市内流入を緊急封鎖――しかし抜け道も(2005/07/27)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/27/153072.shtml

 ●ずさんな管理体制――奇病が資陽・内江に集中するワケ(2005/07/27)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/27/153070.shtml

 ●病院の警備員が取材妨害――記者めがけレンガを投げる(2005/07/27)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2005/7/27/153068.shtml

 ……実にいい感じです(笑)。頑張れ、もっと飛ばせ『重慶晩報』!とつい応援したくなってしまいます。

 ――――

 また長くなってしまいましたが、最後に地獄からの生還者の話を。

 あと半月で売りに出せる筈だった豚が突然死んでしまった韓さん、仕方がないので近所の人に取り分けてもらい、近くの知人友人十数人に声をかけて豚肉パーティー。その効果はてきめん、すぐに発病し、家族に付き添われて資陽市第二医院へ入院する破目に。幸い完治して退院することができた韓さんに、

「病気の豚を食べたらよくないことを知っているのに、それでも食べたんですか?」

 と記者。韓さんの返事は、

「農村の人間は(貧乏で)何カ月か豚肉を口にできなくても、それが普通なんだ。せっかく目の前にある豚肉を(病死した豚だからといって)そのまま捨てられる訳がないじゃないか」

 ……ですよね。

 ●『香港文匯報』(2005/07/28)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507280011&cat=002CH



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 今朝はどうしたというのか、嘘のように美味しいネタがどんどん飛び込んできました。疫病に関しても興味深い続報が入っていますし、中国政治や社会の分野でも面白い動きが出てきました。

 量でいえば題材選びに一週間くらい困らないほどですが、まあネタにも鮮度がありますから、そう引き延ばす訳にもいきません。といって、私の気力体力にも限りがあります(笑)。

 で、やっぱり「とりあえず暴動」ということで。

 いや「暴動」ではなく、正確には「土地収用」に起因する典型的パターンの官民衝突が2件、内蒙古自治区と広東省で起きています。

 ……いやいや、これも正確には「少なくとも2件起きたことが報じられています」と言うべきでしょう。最近思うのですが、内外のメディアやタレ込み情報のある反体制系サイトなどに拾い上げてもらえるケースは誠に幸運で、実際には私たちの可視圏外でも無数の事件が起きている筈なのです。

「1件の官民衝突記事の裏には、実は伝わらない10件の事件があると思え」

 てなところでしょうか。

 ――――

 前置きが長くなりましたが、まずは内蒙古の事件から。ロイター通信が報じたものを昨夜(7月27日)「明報即時新聞」が掲載したのが第一報です。今朝の香港紙(2005/07/28)ですと『蘋果日報』『成報』が報道。前日に先んじていたので詳しい記事が載るか、と期待していた『明報』はなぜかスルーでした。

 さてその事件の内容ですが、典型的パターンだけに経緯と展開はお察しの通りです。

 内蒙古自治区・通遼市で先週の木曜(7月21日)、道路建設のため土地の強制収用を行おうとした市当局に地元の農民2000名が反発、これを阻む挙に出たため市当局は警官隊を現場へと派遣。村民と睨み合いになった末に衝突が発生し、数十名の負傷者が出た。

 ……というものです。以前から地上げ話で揉めていたのでしょうから、いざ強制収用となれば、警官隊は当然最初から現場にいたものと思われます。それどころか匿名を条件にAFP通信の取材に応じた農民は、

「警官の中には銃を手にした奴らもいた。発砲はしなかったけどね」

 と語っています。武装警察でしょうか。

 ――――

 やや典型的でないのはこの事件、睨み合いから農民による抗議デモ、そして衝突へと展開して事態が終息するまでに6時間も要したことです。

 この間、農民たちは2000名という多勢を恃んで警官隊と格闘し、道路建設工事のためやってきたブルドーザーをも奪取。その上で、数十名の負傷者を出しつつも何と警官隊を撃退しているのです。

「地元政府筋は『村が無政府状態になった』と語った」

 とロイター通信が報じています。何やら農民たちの勝鬨を上げる声が聞こえてきそうです。一方の警官隊には増援もあったそうですが、銃器を所持していながらよく我慢して発砲しなかったものだと感心してしまいます。

 ――――

 ところでこの事件、土地をめぐるトラブルですから、典型に沿うとすれば、お上が取り上げる土地の補償額をめぐって農民との話がまとまらない、ということになります。

 ところが今回はそれと違って、農民2000名は「嫌だ嫌だ」の一点張りなのです。売りたくない、土地から離れたくない、というのです。それが補償額アップのための駆け引きなのか本音なのかはわかりませんが、

「おれたちは何も惜しくはない。ただこの場所を守るだけだ。この場所を汚職のタネにはさせない」

 と農民は語っています。「嫌だ嫌だ」が駆け引きではないのなら、土地から引き剥がされて「失地農民」(※1)になるのはゴメンだ、そうなれば先が見えている、という思いなのかも知れません。

 ●「明報即時新聞」(2005/07/27)
 http://hk.news.yahoo.com/050727/12/1eyla.html

 ●『成報』(2005/07/28)
 http://www.singpao.com/20050728/international/741153.html

 ――――

 さてもう一方のトラブル、こちらは広東省は仏山市・南海区が舞台です。これまた土地収用をめぐる典型的な官民衝突ですが、ここは結構前から衝突が繰り返されている激戦地です。ブルドーザーなどを持ち込んで農地を無理やり造成地にしてしまおうという当局を、その都度村民(三山港村)が団結して阻止してきました。

 ただ『蘋果日報』(2005/07/28)は村民支援者の話として、ここ数カ月、村民は阻止はするものの当局側に殴られても殴り返さないというスタイルに徹してきた、としています。ところが、ついにその我慢も限界を超えてしまいました。今週月曜(7月25日)のことです。

 この日は当局側がセメント車を持ち込み、護衛の警官400名は警棒と防盾を手にした完全装備(防暴警察=機動隊かと思われます)。村民数千名と機動隊が長時間にわたって対峙した挙げ句、業を煮やした機動隊が手を出して村民4名に怪我を負わせ、1名が拘束されました。

 村民もこれでとうとうキレて、反撃に出ました。肉弾戦もあり、投石もありました。こうなると丸腰とはいえ、数が物を言います。機動隊は形成不利とみて急ぎ撤退。村民側が再び農地防衛に成功した訳ですが、それだけでは収まりません。拘束された村民1名を返せと公安局(警察署)を数千名で包囲。本格的な暴動に発展しかねないとみたのか、同日午後11時、捕えられていた村民は無事解放されました。

 ――――

 官民衝突とは直接関係がないのですが、最近ちょっといい感じの文章を目にしたので、精度不確実ながらも以下に訳しておきます。

 ――――

 ●郭松民氏:失業は「発展の結果」なのか?(『江南時報』2005/07/26)
 http://opinion.people.com.cn/GB/40604/3569173.html

 「私たちみんなが、生活が数年前より良くなったと感じている。だがなぜ仕事がなかなか見つからないのか?それは社会が今まさに発展していて、人口も増えつつあり、一方でハイテクの時代のため、人間の仕事を機械やコンピュータが代わりにやってしまうからだ。そして仕事に就けない者たちが騒ぐことになるが、これは社会発展が一定の段階に達したことによる必然的な結果だ」

 これは秦皇島市の宋長瑞・市党委員会書記が「住民に形勢を語り、報告を行い、難題を解いてみせる」という場で語ったものだ。「生活が数年前より良くなった」というその「感じ」は宋書記自身の感覚なのか、それとも我々全体の感覚なのか。この点は研究に値すると思うがひとまず措くとして、失業の原因に関する宋書記の解釈について考えてみよう。もし宋書記の言うように失業が発展の結果に過ぎないのなら、その帰結は「ヒマになる」だけであり、それなら失業は悪いことではないばかりか、喜ぶべきことになる。ヒマな時間が増えるというのは、まさしく生活レベルの向上を示すものだ。「ヒマになる」一方で、寒さや飢えや教育、医療、老後、住宅といった心配事も消えるのなら、我々は「調和社会」の段階に入ったということになる。

 時間をどう使うかについては、悩む必要などない。釣りに行ってもいいし、日光浴をしてもいいし、社交ダンスに時間を費やしてもいい。だが残念なことに、経験が我々に教えてくれている。現実の生活は、そういう素晴らしい暮らしから遥かにかけ離れたものである、ということをだ。

 それがなぜかについて、数字で例を挙げてみたい。統計によれば、1996年から2003年までの間に、中国の耕地面積はまるまる1億ムー(1ムー=6.67アール)も減少している。そのうち地上げ活動、つまり政府によって収用された土地は約6600万ムーほどになる。これによって生まれた「失地農民」は約1億人だ。こうした土地が「市場」に出されるころには、その平均価格は1ムー当たり10万元前後にもなる。然るに農民の移転のために使われる費用は、平均2万元にも達しない。要するに、総計5兆元近くにもなる利鞘という「ケーキ」が、各地方政府とデベロッパーの胃袋に収まるのだ。土地を失って、しかも生活のための創業資金もない農民は、失業者の大軍に加わるしかない。それと引き換えに得られるものは、不動産業界の「高速発展」だ。――もちろん、こうした発展のカタチは「少数の人たちの発展」でしかない。

 また統計によれば、国有企業は1997年から2002年の間に、企業総数が47%減少し、就業人数が39%ダウンしている。総計4145万人の従業員が職を失ったということだ。同じ期間に、集団所有制企業の就業人数も1000万人減っている。つまり1997年から2003年にかけて、合計6000万名近くもが職場を失っているのだ。その中で私営企業に吸収される人はほんのわずかで、残りの大半は自らの力で再就職先を見つけるか、いっそ失業するかだ。
(中略)

 秦皇島市の失業はそうした原因によるものでは全くなくて、単に「社会が今まさに発展していて、人口も増えつつあり、一方でハイテクの時代のため、人間の仕事を機械やコンピュータが代わりにやってしまう」ことに起因するものなのか?私は調べたことがないので、軽はずみな発言は控えることにしておこう。
(後略)

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 『成報』が引用した「公式統計」によると、汚職や職権乱用、土地をめぐるトラブルや貧富の格差などを原因とする抗議行動や衝突事件は、1994年時点だと、

「年間合計1万件、参加者総数73万名」

だったそうです。ところが、それから十年を経た昨年(2004年)は驚くなかれ、

「年間合計7万4000件、参加者総数376万名」

 ……にも達したとのこと。この十年の間に飛躍的な経済成長を遂げたとされる中国ですが、この数字が示す通り、それは非常に歪んだ形での経済発展(少数の人の発展)であり、中共当局は正にいま、そのツケを払わなければならなくなっているのだと思います。


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 【※1】土地を収用され指定された移転先に引っ越す農民。移転先の土地が農業に適していないケースが多く、支給された補償金がわずかなため転業資金にもならない。いきおい移転前の生活レベルを維持できず、日雇い労働のようなその日暮らしの生活に堕ちてしまうことが多い。中国の歴代王朝が滅亡する前兆として発生する流民に等しい存在、といえなくもない。ちなみに「失地農民」という言葉は昨年の十大流行語のひとつにも選ばれている。



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 前回取り上げた疫病3件(らしきものも含めて)、そのうち四川省・資陽市と内江市を舞台としたものに続報が出ているのでお伝えします。

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 この疫病、病名が完全に特定できていないのですが、中国当局は「ブタ連鎖球菌」あるいはその変種、との姿勢で臨んでいるようです。WHO(世界保健機関)も目下のところはそれに調子を合わせていて、西大平洋地区報道官から、

「ブタ連鎖球菌の罹患者としては驚くべき人数であり、史上最大規模だ」
「今回の死亡率が際立って高いことを懸念している」
「中国はこれが変種であるかどうかの確認を急ぐ必要がある」

 ……などのコメントが出ています。という訳で内外のマスコミも、

「ブタ連鎖球菌、あるいはその変種」

 という線で固まりつつあるようです。というより、実のところ誰も中共当局の発表を鵜呑みにはしていないのですが(笑)、目下のところそれを崩す有力な対抗馬(病名)とその根拠が出現していない、というところでしょう。

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 今朝(7月27日)の香港各紙を一通り眺めてみましたが、こちらも同様に「ブタ連鎖球菌、あるいはその変種」です。例えば、

 ●『明報』(2005/07/27)
 http://hk.news.yahoo.com/050726/12/1exc1.html

 この記事で香港の専門家筋が「ブタ連鎖球菌にしてはどうもおかしい」と首をひねり、変種なのかも、現場の衛生環境なども関連しているのかも、などと論じたりしています。

 とりあえず被害報告をしておきましょう。昨日(7月26日)正午の段階で感染者(感染の疑いも含む)117名、このうち感染の疑いありとされた者41名、完治して退院した者5名、危険な状態にある者21名、死者24名となっています。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/26/content_3270786.htm

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 私はあれこれ取り沙汰されている病名やその詳細に全く無知なので、症状を把握しつつそれについて論ずる資格はありません。

 ただ、例えば合戦に臨まんとする武将は当然ながら敵の構えと備えを観察しますよね。その伝で中共当局の物腰をみてみると、病名が何であれ、中共当局はすでに多寡をくくっているという印象を受けます。気を抜いてはいないものの、ヤマはすでに越えた、という一種の安堵感に似た認識が当局にあるように思えるのです。

 例えばWHO報道官の談話。驚きや懸念は表明しているものの、「こちらもすぐ支援に」といった押っ取り刀の緊張感はなく、延焼を案じつつ対岸の火事を眺めている、といった印象です。

 前回紹介した鳥インフルエンザについてのWHOによる再三再四にわたる関連情報の開示や現地調査認可の要求(いずれも中共当局に無視されていますが)、といった気ぜわしい対応はしていません。

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 それからより明確な根拠?として、取材規制らしきものが行われていないことが重要です。

 例えば今日付(2005/07/27)の香港紙『明報』によると、同紙記者が、

 ●前々日(道端に横たわる患者にその場で治療を行う防疫服着用の医療チーム)
 ●前日(各所に臨時の動物検疫所が設置されている)

 ……と、感染地区に含まれる資陽市雁江区丹山鎮に入って取材を行っています。特に「前々日」は緊迫した場面にも関わらず、取材を制止された気配はなさそうです。

 ●『明報』(2005/07/27)
 http://hk.news.yahoo.com/050726/12/1exc0.html

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 また、香港のテレビクルーが病院内にカメラを持ち込んで堂々と撮影したりインタビューしたりもしています。

 ●無線電視台「晩間新聞」(2005/07/26)
 http://news.tvb.com/630pm/2005/0726/index.html

 かなり自由に動けている、といった印象を受けるのです。一昨年の中国肺炎(SARS)に際して、北京の病院を取材するのも非常に制限されたものであったことを思えば、スカスカし過ぎです。

 このあたり中共当局は大変素直で正直でして(笑)、見せたくないものは力づくでも見せようとはしません。

 昨年秋の四川省・漢源農民暴動や河南省で発生した回族と漢族の対立、それに先月末に山東理工大学で勃発した学生間の衝突(ウイグル族vs漢族)などを考えれば、取材者にとって今回はほぼフリーパス状態といえるでしょう。

 7月23日から24日にかけて病院や遺族、それに四川省衛生庁などを取材した地元紙『重慶時報』(2005/07/25)、この記事にはまだ「ブタ連鎖球菌」が全く出てきませんが、緊迫した病院内の描写などもあり、やはり取材自体は比較的自由といった印象です(※1)。

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 中共当局によれば、最初に発病者が出たのが6月24日とされています。国営通信社の電子版「新華網」でニュースが流れたのは、「原因不明の疾病で死者が9名に達した」と伝えた7月23日の報道が初めてでしょう(たぶん)。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/23/content_3258345.htm

 「ブタ連鎖球菌らしい」との発表を当局が行ったのは7月25日の午後(夕方以降?)でした。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/25/content_3266312.htm

 それより前に行われた取材、例えば上海紙『新民晩報』(2005/07/25)の病院取材(7月24日)には入口を固めていた警官が同行しています(※2)。ただ内容は「ブタ連鎖球菌」説への流れをつくる記事になっています(上述の『重慶時報』の病院取材にも警官が立ち合ったのかも知れませんが、記事では言及されていませんでした)。

 で、敢えて邪推を試みるとすれば、6月24日からの1カ月間の間に中共当局はやることをやってしまい、つまり見せたくないものをしっかりとマスコミの目の届かない場所へと隠し終えたので、「さあどうぞ」という、ニュースの内容にしては珍しくも鷹揚な姿勢を報道陣に示すことができたのかなあ、といったところです。

 むろん1カ月ではないかも知れません。6月24日は当局がそう言っているだけで、事態はもっと早い時期に発生し、ヤマを越えていた可能性もあります。何をどこへどう隠したのか、については興味津々なのですが、あいにくまだ皆目わかりません。

 ――――

 手元の材料をこねくり回した挙げ句、結局「続報」らしいのは感染者の数だけ、という内容になってしまいすみません(反省)。ただ言い訳を許して頂けるなら、深刻な疫病が、四川省だけでなく中国のあちこちで発生しているようだ、ということは前回で書き尽くしました。

 それよりも「熱い夏」です。実際のところ私はこの疫病そのものより、疫病騒動が党上層部の政治的バランス(勢力図)に影響を与えるものかどうか、その方に興味があるのです。

 今回の騒動、規模と内容の割には胡錦涛総書記も温家宝首相もこの件にコメントしていません(談話が出るならそろそろでしょう)。ただ上に書いたように、中国肺炎当時とは異なる用意周到めいたオープンな姿勢もあり、私はそこに中央(の政治勢力のひとつ)の配慮や保護といったものを感じます。

 現場である資陽・内江両市の責任者はともかく、四川省幹部、具体的には省のトップ更迭なんてことにはならないでしょう。……更迭されたらそりゃもう大変、政局です。

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 今回の疫病騒動に前例を求めるとすれば、やはり中国肺炎ということになるでしょう。当時その実態を隠蔽した責任を問われて張文康・衛生部長(当時)のクビが飛びました。ただこの人物は江沢民派と目されており、更迭人事はその勢力を削ぐという政治的側面もあったと言われています(そして胡錦涛・温家宝は積極果断な庶民派との好印象を獲得。一石二鳥ですね)。

 前例にならうなら、四川省トップのクビが飛んでもおかしくないところです。ただし現在の四川省のトップ、つまり省党委員会書記を務めている張学忠は、1990-1994年にチベット自治区の党委副書記を務めています(※3)。当時の直属の上司たる党委書記を胡錦涛が務めていた時期(1989-1992年)と約2年重なるのです。

 昨年の漢源農民暴動、これは羅幹・中央政治局常務委員が成都まで出てきて総指揮官となり、武装警察あるいは人民解放軍2コ師団を投入してようやく鎮圧したとされる未曾有の大暴動だったのですが、それでも張学忠は責任を問われることなく、逆に中央から様々なケアがありました()。

 ですからこの疫病騒動が中央で問題視され、張学忠省党委書記に累が及ぶようだと、これはこれで権力闘争の材料、というより大波乱の政局ということになります。

 ……そういう視点で今回の騒動を眺めてみるのも面白い、とも言えるのですが、やはり今回の主題からは逸れてしまっているようです。こんな終わり方になってしまい申し訳ありません。いつものことですけど(笑)。


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 【※1】http://cqsb.huash.com/gb/cqsb/2005-07/25/content_2073490.htm

 【※2】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/25/content_3264720.htm

 【※3】http://www.people.ne.jp/2002/12/13/jp20021213_24238.html



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 相変わらず不謹慎な標題で申し訳ありません(笑)。別に魏呉蜀……って訳じゃないんですけど、いま中国大陸の最低3カ所で疫病が蔓延中、あるいはその可能性を感じさせる兆候が出ているのです。

 四川省だけじゃないんです。でもまあ、いま一番騒がれているので四川の話からしますか。

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 例の病豚から広がった謎の病気です。四川省・資陽市と内江市で6月24日からこの「奇病」患者が続出しました。すわ中国肺炎(SARS)?と騒ぎかけたらそれは否定され、続いてエボラ出血熱では?との噂も出ましたが、昨日(7月25日)午後11時すぎ、ブタの連鎖球菌に感染したもの、という当局発表が出されました。

 ●四川の原因不明の疾病、ブタ連鎖球菌とほぼ判明(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/25/content_3266312.htm

 「初歩査明」を「ほぼ判明」と訳したのですが、ニュアンスとしては多少含みを持たせている印象で、

「たぶんそうだと思うけど、もしかして、ひょっとすると違うかも……」

 ぐらいの気の弱さをが出ている感じです(笑)。ただ、今朝(7月26日)の日本・香港の報道とも「ブタ連鎖球菌」で統一されてはいます。

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 エボラ出血熱説はなかなか刺激的なのですが、反体制系のタレ込みニュースサイト「博訊網」から出た話を「大紀元」などが転載しているだけで、別方面からの報道がありません。このため、目下のところ「ブタ連鎖球菌」に比すれば確度に疑問が残ります(いや中共当局の公式発表だって疑問が残りまくりですけど)。

 「博訊網」はタレ込みがあるだけに玉石混交なところがあるのですが、中国国内のネットから丹念にニュースを拾い上げたり、タレ込みがあったりするので、過去には幾度かヒットを放っています。特に暴動関係に滅法強くて、ひと荒れするとルポとともに画像までupしてくれる(笑)頼りがいのあるサイトなのです。

 ……肝心なことを書き忘れていました。上の「新華網」に出た当局発表によると、6月24日から7月24日正午の時点までで80名がブタ連鎖球菌に感染した(あるいは感染の疑いあり)とされていて、67名が感染確定、13名が感染の疑いありで未確定、4名が完治してすでに退院、死者は19名とのことです。この時点でも危険な状態にある患者が17名いるので、死亡者はさらに増える可能性があります。ちなみに、人から人への伝染は確認されていないとのことです。

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 ところでこの資陽市というのは、何かとてもヤバいところなんでしょうか。街の掲示板に入ってみたら妙なスレが立っていて、そこにまたたくさんレスがついていました。党幹部が黒社会同然なのか、党幹部が黒社会と結託しているのか、そう思わせる何だか救いようのないことが色々書かれていました(下記)。

 http://post.baidu.com/f?kz=956190

 あとパニックめいたスレもひとつ(下記)。ひょっとして資陽市と内江市は封鎖されていて、市外に出ることも禁じられているのでしょうか?

 http://post.baidu.com/f?kz=26434297

 パニックといえば香港では昨日時点でまだ四川省の冷凍豚肉が出荷されていたので(香港にとって四川省は豚肉の主要供給源のひとつです)、大手スーパーの百佳(パークン)や恵康(ウェルカム)などでは慌てて関連商品を撤去する騒ぎだったとか。今日から資陽市・内江市産の豚肉は出荷ストップ(香港だけでなく中国全土も)となりましたが、「対応が遅い」と関係部門が叩かれているようです。

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 それにしても6月末からつい最近までよくも隠し通したものです。その間に流通した豚肉は大丈夫だったのでしょうか。なんでも今回のケースでは肉を食べた者は症状が軽かったそうですが……。一応関連記事を並べておきます。

 ●『重慶時報』(2005/07/25)※病院画像あり
 http://cqsb.huash.com/gb/cqsb/2005-07/25/content_2073490.htm

 ●『燕趙都市報』からの最新ニュース(2005/07/26)
 http://news.sina.com.cn/c/2005-07-26/02126525945s.shtml

 ●大手ポータルサイト「新浪網」(sina.com)の特集ページ
 http://news.sina.com.cn/z/sccxbjb/index.shtml

 『燕趙都市報』のタイトルは「ブタ連鎖球菌の疑い」と新華社電より慎重です。それとも真実を書かせてもらえない記者による精一杯の抵抗?……ともあれこの件は今後の展開に期待ということで(紋切型)。なにせ「疫病三国志」と謳ったばかりにあと2つこなさなければなりません。

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 2つ目はたぶん上のケースよりも早く起きていたものでしょう。青海省で渡り鳥が鳥インフルエンザに感染してバタバタと死んだというニュースです。bird-fluといえば、中国山東省から2003年に日本へと輸出されたダッグの中にH5N1ウイルスに感染していたものがあった、と最近報道されていましたね。

 ●香港紙『明報』(2005/07/21)
 http://hk.news.yahoo.com/050721/12/1er0d.html

 で、バタバタと……というのはどれくらいかというと、香港紙『蘋果日報』(2005/07/22)によれば何と6000羽。渡り鳥はこの青海省で子育てまでやってから世界各地へと飛び立っていくそうで、それによって鳥インフルエンザの伝染が大きく拡大する可能性がある訳です。

 そこでWHO(世界保健機関)が中国政府にサンプルなど関連情報を提供するよう求めているのですが、なんと現在に至るまで当局は無視。何の情報開示も行っていないそうです。去年も似たようなことがあったように記憶しています。

 ――――

 これにはさすがにWHOもムカついて、報道官があちこちで柔らかく瀟洒に不満をぶちまけ(キレてしまうと中国がいよいよ情報を出さなくなるので)、それが香港紙に出たり英国紙『デイリー・テレグラム』に出たりして、その英国紙をまた香港紙『東方日報』(2005/07/25)が転載したりしています。

 この日の『東方日報』によると、青海省の現場では鳥インフルエンザの感染により人間もバタバタと死んでいるのを、中共当局がその地区を封鎖し、情報統制を敷いて隠ぺいしている……という驚くべき事態が進行中、とのことですが、これも上述した「博訊網」のみがソースなので何とも言えません。ただ中共当局がWHOの要請をはねつけ続けていることは事実です。

 この『デイリーテレグラム』紙から引用した『東方日報』の記事によると、WHOは新疆ウイグル自治区とカザフスタンの国境付近での現地調査も要求したとのことですが、これにも音沙汰はありません。……もしこれが事実だとすれば、問題の地区は青海省にとどまらなくなる訳ですね。北京駐在のWHO代表は、

「このままでは百万に達する人命が失われるかも知れない」

 と警告を発しているのですが、中共当局がそれを聞いたら「なーんだ、たったそれだけ?」と思うのかも知れません。いや冗談ではなく。

 ――――

 そして最後の一件。これはひょっとするとまだWHOの耳には入っていないのかも知れません。広州市・天鹿湖森林公園で最近、300羽を超えるコサギが次々に死亡した、というニュースです。これは中国通信社電を香港の親中紙『香港文匯報』(2005/07/25)が報じていますから確かなことなのでしょう(実際は1000羽かも知れませんけど)。

 ●広州で謎の大量死――コサギ300羽(『香港文匯報』2005/07/25)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507250039&cat=002CH

 で、その死んだコサギを、付近の農民が天の恵みとばかりに持ち帰って食べているというのです。

「これだけ暑い日が続けば鳥だって死ぬわさ」

 と農民の多くは気にも留めないということです。バーベキュー風に焼いたり鍋にしたり。ある農家の軒下には数十羽のコサギが吊るされていたそうで、死んではいないものの気息奄々、明らかに病んでいる様子なのですが。……そういうコサギを市場に売りに行く農民もいるそうです。

 ――――

 この広州の事件はまだ何の展開もみせていません。農民がバタバタ死んだとか、調べたらコサギからH5N1ウイルスが発見されたといったことは何も起きていません。……いや「報道されていません」と言うべきでした。

 ただこの『香港文匯報』、これを報じる一方で、同日に謎めいた記事を掲載しているのです。

 ●伝染病例はひた隠し――広東省の病院(『香港文匯報』2005/07/25)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507250004&cat=002CH

 この記事によりますと、広東省の病院は伝染病患者が出てもすぐ上に報告することなく、広東省衛生庁によるインフルエンザや鳥インフルエンザに関する調査ではじめて発覚することが多い、というものです。要するに伝染病例の隠蔽が一般化している訳です。そのあとに一例として病院名がズラリと並ぶのですがそれは省略。

 驚いていいニュースだと思いますが、これを最初に伝えたのは中国国内紙(広州の地元紙)の『信息時報』。これを『香港文匯報』が転載し、また同日の『東方日報』もこの記事を掲載しています。

 で、特に『香港文匯報』のように「コサギ大量死」の記事と並ぶと合わせ技なのではないかと疑ってしまいかねない、というより疑っていいと私は思います。これが冒頭に書いた疫病蔓延中という可能性を感じさせる兆候なのですが。……下衆の勘繰りが過ぎますか。そうですか。

 ――――

 3件の記事を並べてみて興味深かったのはWHOの対応ぶりです。

 ●広州のコサギ大量死は知らないものとみえて反応なし。
 ●青海省などの鳥インフルエンザには激しい関心と危機感。
 ●四川省のブタ連鎖球菌についてはWHO西大平洋地区報道官が「中国当局は適切な処置を行っている」(※1)

 四川省の件は妙に楽観していて、どうでもいいみたいですね。何だか中国人ならいくら死んでも構わないというような、bird-fulも中国国内から出ることがなければいいと言っているような。……いやいや、まさかそんなことはありますまい。

 それにしてもコサギ食べるなよ農民。あと市場で売るなって(笑)。


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 【※1】『香港文匯報』(2005/07/25)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507250003&cat=002CH



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 追加情報なので手短かにいきます。

 前回紹介した7月に入ってからの爆発事故・事件に含まれていた太原市の児童公園における事故、

 ●太原西山児童公園で爆発1死26傷、2階建ての建築物跡形もなし(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/22/content_3251391.htm

 ……というものですが、当初ガス爆発と断定されていたこの事故、爆発で吹っ飛んだ2階建ての事務所に大量の爆薬が「私蔵」されていたことがわかり、「事故」から「事件」へと昇格しました。

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 ●太原爆発事件に新事実、原因は隠されていた爆薬の自然発火(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/23/content_3258317.htm

 爆薬を事務所に隠していたのは公園職員で、事務所のカギの管理者だそうです。この男、仲間と共同で小型の闇炭坑を開発しようと、今年6月下旬に市外で私製爆薬100kgを購入。それを事務室内の倉庫に隠していたのが、気温が急上昇し、つまり暑さのため自然発火により爆発したそうです。

 爆薬にも闇市場のようなものがきっとあるんでしょうね。

 ――――

 闇炭坑は電力不足を原因とする石炭への需要増に伴って急増しているようです。

 ●国家安全生産監督管理総局、闇炭坑5290カ所に閉鎖命令(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/21/content_3249852.htm

 と、当局も取り締まりに乗り出しているのですが、5290カ所というのは氷山の一角に過ぎないでしょう。

 闇炭坑は地元当局と結託し、その保護を受けつつ内緒で採掘作業が行われているケースが多く、作業中に爆発事故が発生するなどしてようやく明るみに出たりします。地元当局の幹部は闇炭坑からの「あがり」が懐に入るので、

「精査し闇炭坑を発見すれば速やかに閉鎖させよ」

 なんて通達が中央から届いてもどこ吹く風でしょう。これも数多くの具体例がある「中央vs地方」の一表現、といえるかと思います。

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 という訳で、爆薬は行くところへ行けば簡単に手に入るようです。ただ上の例でわかるように品質には疑問符がつくので、保存には万全を期する必要があるでしょう(笑)。

 長春のアパート爆発、ガス爆発説が退けられましたが、となると爆発のひどさから、こちらもため込んでいたか密造していた爆薬が原因なのかも知れません。



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 ロンドンのテロから間もないので「爆発」なんて不謹慎と言われるかも知れませんが、あっちはあっち、こっちはこっちです。不謹慎というならニュース番組で多用される「ロンドン」という単語につい反応してしまい、

「ロンドン・ロンドン・愉快なロンドン・楽しいロンドン・ロンドーン・ロンドーン」

 と思わず口ずさんでしまうこと。やはりこれに勝るものは無しだと思うのですが、誰も知らないCMでしょうし、まあいいです。

 ――――

 週末なので気楽にやらせて頂きます。

 私は遼寧省は瀋陽で起きたあの大立ち回り、「官」を相手に一歩も退かず、逆に相手を撃退せしめた「李某」の孤軍奮闘と幕引きの鮮やかさが未だに忘れられないのです()。あの火炎瓶男、続報は未だにないのですが、どうしているのでしょう(あの事件は「官」が全く横暴ではない珍しいケースでしたね)。

 その火炎瓶男のエントリーに「在中国2」さんがコメントを寄せて下さったのを御記憶の方も多いかと思います。

「中国の新聞の社会面を見てるとしょっちゅう、火薬工場や、爆竹工場の事故。また普通の民家の大爆爆発のニュースが出ています。もしかしたら日本よりも簡単に一般人が手にすることができるのかもしれませんね。鉄道や長距離バスに乗るときもちゃんとに持ち検査(※1)があるし、、、。」

 そうなんです。ちょっと前だと「爆弾をしかけた」とのイタズラ電話や恐喝が多かったのですが、最近はどうも爆発事故が多い。事故なのか事件なのかわかりませんが。

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 という訳で、7月に入って以来国営通信社の電子版「新華網」で報じられた「爆発」ネタを集めてみました。

 ●花火・爆竹満載のトラックが爆発、京瀋高速が8時間閉鎖される(2005/07/05)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/05/content_3176671.htm

 ●秦皇島・新開河港でタンカーが爆発、3名負傷(2005/07/08)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/08/content_3194028.htm

 ●山西省◇陽市で民家が爆発、1死7傷(◇=さんずいに分、2005/07/15-16)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/15/content_3224916.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/15/content_3225512.htm

 ●長春でアパート爆発、7名死傷(2005/07/21)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/21/content_3247055.htm

 ●西寧の住宅街で爆発、1死4傷(2005/07/22)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/22/content_3250977.htm

 ●太原西山児童公園で爆発1死26傷、2階建ての建築物跡形もなし(2005/07/22)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/22/content_3251391.htm

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 とりあえず6件ありました。見落としもあるでしょうし、「新華網」はどうしても全国ニュースに偏ります。その中の「地方頻道」をのぞけばもっと見つかるのでしょうが、これは時間的に無理。せめて地方の事件・事故も丹念に拾い上げる「捜狐網」(sohu.com)や「新浪網」(sina.com)もチェックできればよかったのですが。

 さて、このうち「事故」と断定されているものは西寧の住宅街と太原の児童公園での爆発で、いずれもガス爆発とされています。残りのケースは調査中で、長春のアパート爆発は当初ガス爆発ではないかと言われていたのが、これはどうも違うと専門家から指摘があり再調査中。

 花火と爆竹合計20トンを満載したトラックの爆発は火薬の変質か何かだと思われますが、とにかく鮮やかだったようです。それがまた深夜の時間帯で、轟音とともにパンパンパパーンと弾けつつ、七色の光が夜空に次々とスパーク。原文では「美麗景色」となっています(笑)。爆発音で飛び起きた周辺住民はときならぬ花火大会に何が起こったのかわからぬまま空を見上げていたそうです。幸い死傷者なし。

 そういえばこれに似た事件が旧正月のころありましたね()。

 ●ロケット花火?が花火屋に飛び込んで誘爆が誘爆を呼び、虹色に輝きつつ店鋪大爆発
 http://news.sohu.com/20050208/n224274902.shtml

 ――――

 どうやら破壊活動の線が濃厚、というのは5月13日、新疆ウイグル自治区のウルムチ市にある発電所で起きた石油タンクの爆発です。事件後に治安部門が調査チームを現地に派遣していることからそれがうかがえます()。

 また最近では北京で2回、怪しげな事件が起きています。

 ●手榴弾?警察がゴミ箱内の不審物を撤去――北京(2005/07/01)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/08/content_3190972.htm

 警察が現場近くにいた市民に離れるよう呼びかけたうえ、慎重に不審物をゴミ箱から取り出したそうです。拳ほどの大きさで尾部に金属の輪のようなものがついていたという目撃談があるため、手榴弾説が出ています。

 ●北京站西広場で爆発、爆弾の疑いも(2005/07/08)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/09/content_3195736.htm

 こちらは本当に爆発してしまったケース。これもゴミ箱の中に置かれていたものですが、爆発力が小さく死傷者はなし。残骸から起爆装置らしきものが発見されたことから、警察は事故ではなく爆破事件の線で捜査中とのことです。北京では実は4月にも祟文門・新世界商場で爆発物が発見されているのですが、起爆装置が当時のものと酷似していたといわれています。

 あと一昨日(7月21日)のことですが、河南省・鄭州市でも爆弾が発見されたそうです。

 http://news.tom.com/1988/20050722-2328518.html

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 書き忘れていました。前掲の山西省◇陽市の爆発は、炭坑で使用される爆薬によるものではないかと思われます。というのも同市では6月9日にも爆発事件(9死25傷)が起きており、爆発物は炭坑経営者が空家に「私蔵」していた爆薬、と報じられているので、動機は不明ながら内緒でため込んでいた爆薬だと思われます。炭坑は全国にたくさんありますから、爆薬の入手はそれほど困難ではないでしょう。

 炭坑つながりで言いますと、炭坑での爆発事故は上に掲げた7月の爆発ネタには含めておりません。炭坑事故も今月に入って大小様々な事故が発生しています。……毎月そうなのですが。

 国務院の閃淳昌・参事が7月1日、上海で明らかにしたところによると、2004年の労働災害事故による死者数(全国)は、

「一日平均370名」

 ……だそうです。「死傷者」ではなくあくまでも「死者」です。いやはやコメントのしようがありません。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/01/content_3160680.htm

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 ついでに上海の犯罪ネタを出しておきますか。今年上半期の上海における治安状況は依然厳しく、起訴件数は前年同期比で10%以上の増加だそうです。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/21/content_3247364.htm

 上海市人民検察院によると、今年上半期の犯罪の傾向としては4つの特徴があるそうです。

 ●犯罪件数の増加。逮捕者数は前年同期比で11.7%増。
 ●凶悪犯罪の増加。このうち殺人、傷害、誘拐は増加率ベスト3。
 ●事件の複雑化。傷害や殺人事件の6割は資産や経済犯罪、また民事案件のもつれによるもの。
 ●新種の事件が出現。例えば出資金を募る詐欺、知的所有権の侵害、デマ情報の発信、コンピュータを使った犯罪など。

 爆発はまだですか。証券取引所を爆破するとか爆弾を仕掛けたとかいう逆ギレ電話事件(犯人は株で大損した個人投資家)は数回起きている筈ですが。……いやいや、もちろん期待している訳ではありませんけど。

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 という訳で、中国在住のみなさん、くれぐれもお気を付け下さい。


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 【※1】私が留学していたころや仕事で香港から出入りしていた時期は、持ち物検査なんかありませんでした。ただ1989年の天安門事件後に内陸部を回った際は、宿泊する先々で必ず抜き打ちの宿泊客チェック(査房)がありました。いわゆる落ち武者狩りです。



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 人民元の切り上げを中国政府が正式発表、とのニュースが昨夜(7月21日)流れました。

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 ●人民元2%切り上げ、固定相場制を廃止(読売新聞)
 http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20050721i116.htm

 【北京=東一真】中国人民銀行(中央銀行)は21日夜、人民元レートを事実上米ドルに固定している現在の為替制度を廃止し、同日午後7時以降、それまでの1ドル=8・2765元から、1ドル=8・1100元に2%切り上げるとともに、米ドル、欧州ユーロ、日本円の3大通貨に一定割合で連動すると見られる「通貨バスケット制」を参考にした管理変動相場制を採用したと発表した。(中略)

 ただ、導入する管理変動相場制では、当面、一日の変動幅は、前日終値の上下0・3%ずつ、あわせて0・6%と、これまでの変動幅と変わらない。
 通貨バスケットに組み入れる通貨の種類、その割合についても公表しておらず、制度の不透明さはぬぐえない。人民銀行が相場を作為的に管理する可能性も残されている。このため、今後とも海外から、変動相場制移行への取り組みが求められることになりそうだ。(後略)

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 『読売新聞』は当日朝刊(2005/07/21)で「人民元改革/8月説」という大見出しの記事をドーンと掲載したのに、その夜に正式発表が出てしまうとは残念でしたね。でもこれは日刊紙の宿命ですから、そういうこともあるでしょう。ドンマイです。

 ……いやこれは読売だから朝日だからというのではなく、「なんちゃって日刊」で中国という得体の知れない相手と取っ組み合っていれば、ドンマイと言いたくなるものです。

 それにしてもショボいというかユルいというか、物足りなさの残る改革ですね。これじゃたぶん、菓子折にもならないでしょう。いや胡錦涛が9月に訪米するときに持っていくお土産のことです。「実は8月にさらに踏み込んだ措置をとる二段階改革なのだ」なんて可能性、あります?

 0.3%ずつジリジリと動いていくとは、飲み続けてようやく効果が出てくる漢方薬のようではありませんか。……以上、余談終了。

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 本題はこちら。やはり昨日流れたニュースです。

 ●中国海南省の病院、歴史問題で日本人の診療拒否・地元紙(Nikkei Web)
 http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20050721STXKE039421072005.html

 ●中国の病院・料理店で日本人に戦争謝罪求める張り紙(読売新聞)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050721i512.htm

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 海南省の省都・海口市にある病院が門前に看板を掲げました。

「日本人はまず謝ってから入ること。謝罪を拒否する日本人の立ち入りを禁ずる」

 とのことで、謝罪しない日本人の診療は拒否するそうです。一方のレストランについては2週間近く前に報道がありましたね。吉林省・吉林市の西洋レストランが、

「日本人謝罪入内」(日本人は謝罪してから入店すること)

 と書いた紙を入口のドアに貼り出したというものです。ただ民族の誇りをかけた義挙にしては、この貼り紙、注意してみないと気付かないような小ささです。どうして?

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 ともかく中国国内メディアの報道を並べておきます。

 ●吉林市のレストラン(画像あり)
 http://news.sina.com.cn/s/p/2005-07-09/01317173039.shtml

 ●海口市の病院
 http://ngdsb.hinews.cn/php/20050721/79862.php

 レストラン(吉林市)の記事は元ネタの『城市晩報』から大手ポータルサイト「新浪網」に転載されたものです。病院(海口市)の報道は元ネタの『南国都市報』から拾ってきました。いずれも電子版です。

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 あ、それからもうひとつ。その『南国都市報』の記事がやはり大手ポータルサイトの「捜狐網」を経て「東北新聞網」に転載されています。

 http://news.nen.com.cn/72340194296070144/20050721/1725383.shtml
 http://news.nen.com.cn/72340194296070144/20050721/1725383_1.shtml

 記事本文は『南国都市報』のものをそのまま使っていますが、こちらは画像付き。それも病院の写真じゃなくて、深セン市と重慶市のバーの入口の画像です。

「日本人は入るべからず」(深セン)
「日本人入店お断り」(重慶)

 いつ撮影した写真なのかは不明ですが、ここまで来るとこちらはウーンと考えてしまうことになります。

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 レストラン、病院と「日本人は謝罪してから入れ」が続いたのは単なる偶然なのでしょうか。

 偶然かも知れません。抗日なんたら60周年記念とかで、中国国内メディアは連日「愛国・反日」記事を並べてみせます。60年前に奮戦した兵士へのインタビューだの、「××で発見、日本による中国侵略の新証拠」(毎日が発見の連続ですw)だの、細菌戦の被害者がどうしただの、それが日本に行って裁判して負けただの。

 8月13日には当時に擬した模擬空戦が行われるそうですが、中共なんて当時飛行機なんか持っていなかったでしょうに(笑)。それとも飛べる零戦を持ってきて、国民党軍が当時使っていたソ連製の戦闘機を公開処刑!となる筈もなし。

 ……もちろん東シナ海ガス田紛争とか、靖国神社とか、歴史教科書とか、そういったニュースも毎日流れます。そういう「愛国・反日」に満ち満ちた情報環境の中で生活していれば、「日本人は謝罪してから入れ」と看板を掲げる粗忽者(というか基地外)が出てきても不思議ではありません。

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 ちなみに、病院は報道されたばかりなのでまだ反応が出ていませんが、レストランについては反響がかなりありました。ところがネット上を跋扈する自称愛国者の反日教徒「糞青」ども(おお久しぶりに使った気が)はともかく、報道媒体に出てきた反応はそのほぼ全てが「こういうことはよくない」でした。

 ●料理店は日本人と右翼勢力を一緒くたにしてはならない(紅網・2005/07/10/00:02)
 http://news.sina.com.cn/o/2005-07-10/00026394192s.shtml

 ●「日本人は謝罪してから入れ」を平常心で眺めてみると(紅網・2005/07/11/00:19)
 http://news.sina.com.cn/o/2005-07-11/00196399287s.shtml

 ●どうして「謝罪」を強迫できようか(人民網・2005/07/11/03:53)
 http://politics.people.com.cn/GB/30178/3531214.html

 ●来る者は全てが客、愛国にも理性が必要だ(金羊網・2005/07/11/14:58)
 http://news.sina.com.cn/c/2005-07-11/14586407413s.shtml

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 吉林のレストランについての第一報は7月9日付の『城市晩報』です。ただこの記事は同紙に掲載されると同時に「新浪網」(2005/07/09/01:31)に転載されています。夜中の午前1時半です。

 『城市晩報』は「晩報」である以上、夕刊紙の筈ですから、実際には9日未明に「新浪網」から流れた報道の方が速かったといえるでしょう。……まるで最初から全国に流すことを前提に書かれた記事のようです。

 これに対し「それはいかがなものか」とたしなめる、言わば火消し的記事もまた反応が速いのです。10日と11日にはその種の記事を連発させています。当のレストラン店主が知ったら慌てて貼り紙を剥がしかねない勢いです。

 丁々発止といった、鍔迫り合いのような情報戦のニオイがするように感じるのは私だけでしょうか。

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 そういえば書き忘れていました。吉林のレストランの一件、報道されたのは7月9日です。ただ前掲の原文記事を読めばわかるのですが、店主の田さんがこの貼り紙を掲げたのは今年3月のことなのです。

 その間にアサヒビール不買運動などがあって、日本の安保理常任理事国入り反対のネット署名活動が行われて、それが街頭活動に発展して。……さらに歴史教科書問題を契機に「反日」を掲げたデモやら集会が実施され、ついにはプチ暴動まで起こるに至って、当局から急遽ストップがかかった。

 この間、田さんが自分のレストランに掲げた貼り紙はマスコミから見向きもされなかったのです。それが7月になって突如報じられた。それも地方の話題ではなく全国ニュース扱いです。かと思ったら今度は海南島の病院が同じことをやった。病院の方はレストランに対する「いかがなものか」記事(これも全国レベルの扱い)が出た後に、

「日本人はまず謝ってから入ること。謝罪を拒否する日本人の立ち入りを禁ずる」

 との看板を掲げているのです。深センや重慶のバーに掲げられた看板がいつのものかはわかりませんが、レストラン、病院に続く第三弾があるとすれば、恐らくこれは「反日」を再び政争の具にしようという動きでしょう。

 いや、その前兆というべきでしょうか。こういう形で小手調べをしてみて、相手方がどう反応するか探ってみる。その上で本腰を入れた何かを始める、という段取りではないかと。

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 ま、邪推にすぎません。権力闘争の夏を迎えてざわつき始めたような気配に、こちらもつい下衆の勘繰りをしてしまいました。

 ただそれだけのことです。



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 暑いです。いよいよ夏本番ですね。「中共人」たちにとってこの夏は、秋に重要会議「五中全会」を控えた権力闘争の季節ということになります。

 重要会議といっても人事に関しては一種のセレモニーであって、その大勢は開催までに決まっているものです。「権力闘争」が禍々しい表現であるなら、まあ複数の政治勢力による主導権争い、といったところでしょうか。

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 もう少し寝かせて……と思っていたんですが、暑いんでもう使っちゃいましょう。前回のコメント欄で「Unknown」さん御指摘の、反体制系ニュースサイト「大紀元」が掲載した記事。その前半部は昨日付(7月20日)の香港紙『蘋果日報』に出ていた「盡論中國」という最近スタートしたコラムを転載したものです。

 ●浙江省で農民騒乱が続発、「太子党」習近平の前途はどうなる?(大紀元b5)
 http://www.epochtimes.com/b5/5/7/20/n991775.htm

 「太子党」は中国語ですが、「太子」とはプリンスのこと。つまり先代が中共の有力者クラスだった「二世」の連中で、いまや若手格ないし中堅クラスに育ったその面々が、党内において一派を形成しているということです。10年以上チナヲチから離れていた私にとっては、へぇーへぇーへぇー、てなもんです。そんな派閥が出来上がっているとは知りませんでした。

 だいたい習近平なんて耳にしてもピンと来ません。その父親で中共の元老格であり、全人代(全国人民代表大会)常務委員会副委員長などを歴任した習仲勲なら懐かしい名前なんですけど。

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 それはともかく、この日の『蘋果日報』(2005/07/20)は前回紹介した浙江省新昌県の「21世紀型暴動」(土地強制収用拒否などの従来型ではなく、環境汚染に憤激して立ち上がるというパターン)を大々的に取り上げていて、関連記事を5本並べるという気合の入れ方でした。

 で、その最後の5番目に登場するのが「大紀元」に転載された上記「盡論中國」で、今回は習近平を俎上に載せているためトリを務めることになったのでしょう。……とは、習近平の現在のポストが浙江省党委員会書記、つまり浙江省のトップなのです。

「それにしても、こういう公害騒動は規模の大小こそあれ、恐らく中国のかなりの地域で発生していると思われるのですが、なぜか浙江省のニュースばかりが拾い上げられ、大きく扱われてしまっているのはどうしたことでしょう」

 ……と前回私は書きましたが、要するに画水鎮(2005/04/10)、煤山鎮(2005/06/26)、そして今回の新昌県(2005/07/17)という浙江省での暴動3連発が習近平の出世に響くものかどうか、それを「盡論中國」が談じているのです。

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 中共の派閥の存在とか権力闘争といったものは、表面化しないだけに色々憶測なり邪推なりができて楽しいものです。香港の政論誌に人物・派閥相関図みたいなものが掲載されたりもします。今回の「盡論中國」はそれに近い作業を行ってくれています。かいつまんで訳しますと、

 ●温家宝・首相は任期満了後、続投するつもりがないと噂されている。つまり首相のポストが空くことになる。

 ●その椅子をめぐって胡錦涛・総書記直系の「団派」(胡錦涛の出身母体である共青団=共産主義青年団系の人脈)と習近平ら「太子党」が暗闘している。

 ●首相の後継人事を巡る争いは、その大筋が決まる次期党大会(2007年)まで続くとみられる。習近平はその有力候補の一人。

 ●ライバルとしては「団派」の李克強(遼寧省党委書記)や李源潮(江蘇省党委書記)、それに同じ「太子党」の王岐山(北京市長)、兪正聲(湖北省党委書記)、薄煕来(商務部長)らがいる。

 ●問題は「農民暴動3連発」が習近平の経歴にとって傷となるかどうか。

 ●暴動が起きてしまったことに着目するとマイナスのようにもみえるが、習近平は3回起きた暴動を3回とも武装警察や防暴警察(機動隊)で鎮圧している。チベットで発生した騒乱を武力鎮圧したのが一大飛躍のきっかけとなった胡錦涛の前例を思えば、あながちマイナスとばかりもいえないが、さて……。

 ――――

 このコラム、結論づける部分が煮え切らないのは、ひとつには次期首相人事を論ずるには時期尚早で情報不足ということがあるでしょう。

 それにしても温家宝は続投しないという噂があるのですか。それが事実なら、実は胡錦涛を追い出して総書記の座に就くつもりだったりして(笑)。

 あるいは、胡錦涛を失脚させて温家宝を担ごう、その方が万事やりやすい……と考えている政治勢力がいるのかも知れません。

 まあ与太話はこのくらいにして、現実の動きを振り返ってみることにしましょう。

 ――――

 この半年の中共上層部は、胡錦涛系の「主流派」(と一応呼んでおきます)に対し、対外強硬派を核とし、そこに地方のボスやアンチ胡錦涛勢力などが結集した「抵抗勢力」が揺さぶりをかける、といった主導権争いで終始した観があります。

 「主流派」と「抵抗勢力」の争いは、例えば「反日」に対する温度差に表れていましたね。ネット署名(日本の常任理事国入り反対)などで「ほどよい反日」を目指した胡錦涛らに対し、「抵抗勢力」は「反日」を煽りに煽って、ネット署名を街頭署名活動に、さらにはデモにまで発展させることに成功しました。

 ところが煽り過ぎてプチ暴動が発生してしまい、気が付けば週末ごとに全国各地でデモなどの活動が実施される危険な状況に。「反日」を主題に集まった民衆がいつの間にか中共政権に鉾先を向けていた……という可能性も十分予測される社会状況(反日とは無関係に暴動が発生している)です。

 そうなると、綱引きをしていた両派とも「中共人」の集まりであることを最優先します。中共政権の存続が大前提。それを崩される訳にはいきませんから、双方ともここで慌てて刀を収め、とりあえず手打ちを行ってヒートアップしていた「反日」気運の沈静化に努めました。当時のメディアの掌握状況からみて、この「手打ち」が行われた時点では胡錦涛ら「主流派」の優勢勝ちだったように思います。

 ただ、あくまでも優勢勝ちです。「抵抗勢力」も力を大きく削がれたりした訳ではありませんから、機を捉えて巻き返しに出ます。それについては当ブログもリアルタイムで追いかけましたが、結局訪日した呉儀・副首相が小泉首相との会談をドタキャンして繰り上げ帰国した前後が分水嶺で、そのあとは「抵抗勢力」、特に対外強硬派が他の分野はともかく、台湾問題や対日・対米外交においては主導権を握っているようにみえます。

 ――――

 一例として、朱成虎・少将の物議を醸した発言が挙げられます。

「米国が中国の主権の及ぶ場所(台湾や中国の艦艇や航空機を含む)を攻撃すれば、中国は西安から東を全て潰される覚悟で核兵器による反撃を行う」

 とかいう話でしたか、大体そういう趣旨だったかと思います。この発言には米国が当然ながら強く反発し、中共当局も外交部が「あれは個人的発言」とフォローしたりしていましたが、つまるところ放言だったとしても、それを許容する空気が党上層部や軍内部にあった、ということでしょう。

 香港の親中紙である『香港文匯報』、親中紙だけに中共に不利となる報道は一切やらない新聞ですが、同紙も朱成虎発言をすぐに報じていました。

 ちょうどあれです。以前なら一発レッドで辞任に追い込まれる筈の「放言」を繰り返す中山・文科相が一向にクビになる気配がない。それと同じことです。主導権が移った気配は日本との摩擦面での硬質な対応だけでなく、そういう事象からも感じとることができると思います。

 ――――

 実のところ朱成虎発言にしても、軍内部、若手将校から将官クラスに至るまで、共鳴する向きが少なくなかったのではないのでしょうか。胡錦涛は党中央軍事委員会主席として形式的には軍権を握っているものの、そういう如何にも軍人らしい、硬直的な思考・行動に走りがちな「危険な連中」を手なずけていかなければならず、それができなければ奪われたイニシアチブを取り戻すこともできません。

 で、姑息ながら実戦経験のない江沢民が軍部を手なずけるために行った手法を真似ることになります。大校(大佐)は少将に、少将は中将にという「昇進」あるいは「ポスト昇格」の大盤振る舞いで恩に着せようというものです。建軍節(8月1日)が間近いという絶好のタイミングでもあります。

 実例はいくらでもあります。例えば南京軍区。『香港文匯報』(※1)によれば、台湾への武力侵攻時には主戦力となるであろう第31軍の司令官をかつて務め、現在は同軍区参謀長の座にある趙克石少将が中将に昇進し、第31軍の李長才・政治委員は同軍区政治部主任に昇格。前任者の高武生はこれに伴って同軍区副政治委員に昇格しています。このほか7月14日に同軍区で行われた昇進式典では12名の将校が少将に昇進しています。

 広州軍区でも同様の式典が開かれ、軍区参謀長の房峰輝・少将が中将に昇進したのをはじめ、韓偉、楊星球ら6名が大校から少将へと階級が改まっています。

 公安(警察)と人民解放軍に両属する武装警察(武警)になるともっと派手です。これも『香港文匯報』(※2)の報道に拠ったものですが、息中朝(武警部隊副司令員)、霍毅(武警部隊参謀長)、秦懐保(武警部隊政治部主任)という3人の少将が中将に昇進したほか、合計23名を一挙に少将へと昇格させています。

 『香港文匯報』は消息筋の話として、「八一建軍節」を前に軍部でもさらなる昇進人事が行われる可能性があると報じています。香港における親中紙筆頭格である同紙の消息筋ですから、きっとその通りになるのでしょう。

 ――――

 話題があちこちに飛んでしまいましたが、要するに「中共人」たちの「熱い夏」がやってきたということです。上述した軍・武警の昇格人事は多少の例外もあるでしょうが、基本的には胡錦涛ら「主流派」の巻き返し、と捉えていいのではないかと思います。

 「熱い夏」は、同時に「キナ臭い夏」になるかも知れません。抗日なんたら60周年に「八・一五靖国参拝」(期待)が絡んで、デモなどの形で再び「反日」が政争の具となる可能性があります。一方でそれとは全く無関係に、都市暴動や農民暴動、それに労働争議などが相次ぐことでしょう。

 さらに最後に無理を承知で押し込みますが(汗)、昨日(7月20日)発表された今年上半期における中国のGDP成長率は9.5%増。本来の目標値が8%で、緩やかに減速しつつ経済を「軟着陸」(ソフトランディング)させるというシナリオだった筈です。それなのに9.5%増というのは恐らく「逆・水増し」、つまり数字を膨らませているのではなく、実際は2桁成長ぐらいなのを9.5%まで抑えて発表しているのかも知れません。

 「9.5%増」が真実でもいいのです。目標値に比べればまだ走り過ぎており、これは中央政府(国務院)によるマクロコントロールが十分に機能していないことの表れといっていいでしょう。それは取りも直さず、中央の統制力の低下を示すものでもあります。

 「諸侯」と表現されるほど割拠志向の強い各地方政府は、一応中央に遠慮する素振りを示しつつも、実際には今なお開発(GDP成長率の追求)に血道を上げているのでしょうか。……昨年から全く改善されていない失業率(今年上半期は4.2%)なども含め、これもまた歴史劇を賑わせる要因のひとつとなることでしょう。


 ――――


 【※1】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507200012&cat=002CH

 【※2】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0507190024&cat=002CH



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 これまた先日取り上げたケースと似た性質の事件ですね。環境汚染にキレた農民が立ち上がるという、当ブログがいうところの「21世紀型農民暴動」です。

 前回は電池工場でしたが、今回は製薬工場。某巨大掲示板風に、

 ま た 浙 江 省 か 。

 と表現して差し支えありません。前回は煤山鎮(2005/06/26)、今回は新昌県(2005/07/17)、さらに実は前々回がありまして、これは画水鎮(2005/04/10)。3カ月余りで3回ですから。しかもいずれも「21世紀型」、つまり環境汚染に憤激した農民による暴動です。

 ――――

 浙江省当局ないしは中国政府にとって不幸だったのは、今回の事件をすっぱ抜いたのが米紙『ニューヨーク・タイムス』。いわば世界中に知られてしまったということです。

 それを反体制系ニュースサイト「大紀元」が転載し、反共系ラジオ局VOA(美国之音)が後追い報道。さらに今朝の香港紙『蘋果日報』(2005/07/20)が村民へのインタビューなどを交えたより詳細なルポで追い撃ちをかけています。……あ、「大紀元」も詳しい内容の続報を出していますね。

 それにしても、こういう公害騒動は規模の大小こそあれ、恐らく中国のかなりの地域で発生していると思われるのですが、なぜか浙江省のニュースばかりが拾い上げられ、大きく扱われてしまっているのはどうしたことでしょう。

 ――――

 さて今回の「21世紀型農民暴動」、怒りの鉾先を向けられたのは浙江省新昌県に位置する製薬工場「京新薬業」です。同社は中国国内で上場していますので大手薬品メーカーなのでしょうか。この工場が近くを流れる新昌江の水質を著しく汚染している、ということで日曜日(7月17日)に新昌県の農民1万5000名が工場に押し寄せ、工場の操業停止と移転を要求したのです。

 数を恃んだ農民は騒ぎに駆け付けた防暴警察(機動隊)数百名とも衝突し、機動隊に投石する一方で警察車両をひっくり返すといった農民暴動お約束の展開。機動隊は催涙弾を放って農民たちを追い払ったものの、昨日(7月19日)の時点で事件は未だ解決しておらず、事態は現在進行形とのことです。

 ――――

 現場の地理をやや具体的にしておきますと、京新薬業の工場は新昌県と●州市(●=山へんに乗)の間を流れる新昌江の河畔に位置しています。この川に京新薬業が長期間にわたって悪臭の漂う汚水を垂れ流していたことで、新昌県及び下流地域の農民たちは以前から不満を募らせていたようです。

 工場側は「工業廃水は国の基準を満たしている」と強調するものの、新昌江の水質悪化とその周辺の環境汚染は覆うべくもありません。周辺住民の皮膚にアレルギー症状が出たりしているほか、新昌江から引いた水を使うこの一帯の畑でとれる農作物は「俺たちも(危なくて)食べられないよ」(農民)とのこと。

 暴動を引き起こす直接のきっかけとなったのは、7月初めに工場で発生した爆発事故でした。化学原料を扱う際に起きたもので、従業員1名が死亡。深夜に轟いた凄まじい爆発音に周辺住民の多くが眠りを破られましたが、

 ●その化学原料は致死量を超えるものだった。
 ●事故により化学原料の一部が新昌江に流出した。

 ……などといった事故の詳細が伝わるにつれ、以前からの汚水問題への不満も手伝って農民たちが立ち上がることになった訳です。

 ――――

 ただ、農民たちはいきなり暴動に出た訳ではありませんでした。環境汚染が命にかかわるほど深刻であることを認識したことで、代表チームを結成して工場側と交渉しようとしたのです。農民たちの要求は、

 ●工場側は周辺住民に対する無料での健康診断を実施すること。
 ●工場側は周辺住民への医療保障を約束すること。

 といったものでした。

 ところが7月4日、交渉のため工場を訪れた村民代表たちは、話し合いをするどころか、工場の警備員によって行く手を阻まれ、さらに殴られるなどの暴行を受けたのです。

 農民たちがこれに憤激しない訳がありません。事件の知らせが村内を走り、ほどなく農民数百名が集合して工場に押しかけ、工場を取り巻く外壁を押し倒すなどした上、警備員の詰所を襲撃、村民代表を殴った警備員をとっ捕まえました。

 工場側の責任者によると、工場は事態の拡大を避けるため、地元当局の指示によってその夜から操業を停止したそうです。

「奴ら(村民)は工場の設備とかには手を出さなかったから、直接的な損失は実はそれほどでもない。ただ生産計画には影響が出た」

 とは責任者の弁ですが、その操業再開をめぐる対立がより大きな衝突を呼ぶことになるのです。

 ――――

 先週木曜、とのことですから7月14日。それまで工場の操業をストップさせていた京新薬業が農民側に対し、「翌日(15日)から操業を開始する」という通告を発してきました。この通告も貼り紙によるもので、話し合いなどをすっ飛ばした一方的なものです。

 これに怒った農民たちはその夜、大挙して工場の外に集まり、抗議のデモ行進を行いました。『ニューヨーク・タイムス』(2005/07/19)の報道によれば、村民たちは三日三晩にわたってデモを実施した後、「もはや工場を手ひどく破壊する以外に方法はない」という結論に至ったようです。

 7月17日夜、村民1万5000名が山あいの獣道や田の畦道なども伝い、四方八方から工場の正門前へと集結してきました。

 ところが、三日三晩も断続的にデモが行われたことで地元政府にも緊張が走っており、事態の沈静化を図るべく治安当局が動き出していました。とは、バス30~40両に詰め込んだ機動隊を工場へと緊急投入し、農民たちに一歩先んじる形で工場に通じる道路の一切を封鎖させたのです。……ええ、沈静化といっても調停ではなく鎮圧です。

 ヘルメットに防盾、警棒という完全武装の機動隊数百名。これと農民1万5000人が睨み合いとなり、ついには上述したように、機動隊に投石したり警察車両をひっくり返したりといった官民衝突へと発展することになります。

 衝突自体は農民の一部による小規模なもので、機動隊による催涙弾使用によって収まりましたが、翌日である月曜(昨夜=7月18日)も雨のなか、人数は減ったものの村民たちはなお工場前に詰めたままで夜を迎えました。

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 工場移転。……村民たちたちの意思は揺らぐことなくその一点で固まっています。工場正門から100m近い場所で機動隊との対峙を続けている22歳の農民は、

「こうすることが、俺たちにとってこういう問題を解決する唯一の方法なんだ。市長だの役人だのに陳情したって、向こうは袖の下ばかり要求して、何もしてくれやしない」

 と荒い語気でまくし立てます。工場側は通告の中で「化学原料を投入した機器は一週間運転させないと爆発する可能性がある」と警告していますが、それについて別の村民は、

「そんなこと誰が信じるかい。今までだって何回も俺たちに嘘ばかりついて、まともに取り合ったことなんか一度もないんだから」

 とコメント。また「警察はどうして庶民を助けないんだ?俺たちが生きようが死のうが構わないのか?」という声もあれば、

「この件は解決できないと思うよ。奴ら(工場側)は22日の午前8時になったら操業を停止すると言っているけど、俺たちは誰もそんなこと信じない。こんなに汚染しておいてまだ操業を続けるなんてことは、俺たち庶民が許さない。省に訴えて、それから中央にも訴える。そうやって騒ぎが大きくなれば、省や中央が介入してきて、操業を止めることができるだろうよ」

 という意見も。

 ――――

 さらに20歳そこそこの若い農民は、

「東陽(画水鎮)の騒乱みたいだろ?いまは誰もがこの事件を知っている。俺たちだって人間として扱われなきゃだめだ」

 と小躍りせんばかり。事態が深刻となり、騒ぎが大きくなってようやく人として扱ってもらえる。……というのは、当人の明るい語気とは裏腹に重い言葉ではないかと思います。さすがは中国、人民は中国共産党に生殺与奪の権を握られた畜類同然という訳ですね。

「あの工場は外国人のためにあんな有毒薬品を造っているんだよ。外国人が自分の国ではとても生産できないようなものをね」

 なんて声もありました。なーんだ、よくわかってるじゃないですか(笑)。それが中国に振られた役なんですから、頑張って最後までその役をこなして下さい。

 ま、仕方ないですね。

 ――――

 大気汚染、河川・地下水の水質悪化などによる環境汚染の影響はすでに目に見える形で出ています。前述した皮膚アレルギーもそのひとつですが、新昌県と●州市では瘤のような腫瘍を患うといった奇病で入院する住民が少なからずおり、人口比でいえば、その比率は浙江省内における他の市・県に抜きん出て高いということです。

 なお、海外メディアに事件をスクープされたためか、この一件は「新華網」(2005/07/14)など中国国内でも報道されているようです。「バレちゃあしょうがねーなー」ということでしょう。ただし工場に押し寄せた農民の人数や機動隊との衝突といった具体的な情報は伏せられているようです。


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 【参考】『蘋果日報』(2005/07/20)

     http://www.epochtimes.com/gb/5/7/20/n991926.htm(大紀元)


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 先日、中国政府が大学新卒者に対する西部(内陸部)ないし末端組織、貧困地区への就業を指導・奨励する運動に本腰を入れ始めたと紹介しました。

 「卒業即失業、それが嫌ならド田舎へ行くかニートになるか。」(2005/07/12)

 その話題をフォローする記事を集めて目を通していたのですが、同じ教育問題でも刺激的な話題が飛び込んできました。前回のコメント欄で「kolgo13」さんが御指摘のニュース、香港発の共同通信電です。某巨大掲示板にもスレが立っています(東亜)。

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 ●中国で学生15万人が抗議 天安門事件以来と香港誌(2005/07/19/17:50)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=HKK&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2005071901003502

 【香港19日共同】香港誌「動向」7月最新号によると、中国江西省で6月末、同省内28大学の学生ら計15万人が、各地の役場前などで大学幹部の腐敗に抗議するデモを一斉に行った。(中略)
 同誌によると、学生らは、学費が絶えず値上げされる一方、幹部が正規の給料以外に地元の平均給与を倍以上上回る手当を受け取っているなどとして6月26日からデモや集会、ビラ配りを開始。北京大や上海の復旦大など他地域の170大学から運動を支援するメッセージが寄せられた。

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 これは内容にしても時期的にも、当ブログの「21世紀型学生運動」(2005/07/02)の後日談のようです。ただその内容を考えれば「後日談」というより「発展型」ともいうべき凄みがあります。

 事実なら香港各紙の後追い報道や台湾メディアによる転載、さらに反体制系ニュースサイト「大紀元」あたりが写真付きの記事を出してくるでしょうが、現時点でその動きはありません。

「だから続報待ちですね」

 ……なんて言ってせっかく盛り上がった空気に水を差すようなことはしたくないので(笑)、とりあえず共同通信の報道に沿って話を進めることにします。

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 今回のデモは、大学幹部の腐敗や、「教材費」「設備維持費」など何かと名目をつけて料金を徴収する大学のやり方、そして値段が高いくせに不味い学生食堂に、学生側がとうとうキレたということですね。

 学生食堂にも怒りの鉾先が向けられたことを笑ってはいけません。「高いくせに不味い」というのは学食関係者が横領めいたことをしている、ということと同義に考えられているのです。学生にしてみれば、これまたお食事券ならぬ汚職事件。

 とはいえ、民主化運動とか全国に蔓延する党幹部の腐敗撲滅を訴えるとかではなく、あくまでも自分の周辺(学内)で起きる不条理に堪忍袋の緒が切れた……というあたりが、現体制や中国の現状については肯定派が多数を占めるとみられる「いまどきの学生」だなあと思い、先日のエントリーでは「21世紀型学生運動」と名付けてみた訳です。

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 ところで今回のデモ、事実とすれば天安門事件(六四事件)まで招来した1989年の全国的な学生運動以来の規模になるそうですが、どうにも迫力に欠けます。15万人が複数のグループに分かれて、各地の役所前でデモをやったということでしょう。これが烽火となるならともかく、一発芸的な騒ぎならちょっとショボいような気がします。

 28大学で15万人。この15万人も恐らく「主催者発表」で水増しされた数字だと思うのです。「21世紀型学生運動」として先日取り上げた江西省・九江学院は、本科生の数だけで3万7000人もいますから、動員力の点では迫力に欠けるように思います。

 それから九江学院の騒動もそうでしたが、6月末というのは卒業シーズンです。4年生が最後の思い出に一花咲かせた、というお祭気分もあるかも知れません。実際、九江学院の騒動に参加した4年生というのは、今までの鬱憤晴らしという動機もあったようです。

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 ただし報道の通りなら極めて刺激的なニュースです。

 ●江西省内の28大学が結束、各地の役場前などで大学幹部の腐敗に抗議するデモを一斉に行った
 ●6月26日からデモや集会、ビラ配りを開始。
 ●北京大や上海の復旦大など他地域の170大学から運動を支援するメッセージが寄せられた。

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 「28大学が結束」「6月26日からデモや集会、ビラ配りを開始」というのは、江西省内28大学の間に有志的連携が成立したことを示すものです。党の出先機関同然である「学生会」がそんなことをする筈はありませんから、1989年の民主化運動で各大学が学生会とは別に自治組織(高自聯)を立ち上げ、大学間で結束していったのと同じことが起きたことになります。

 そこに北京大や復旦大など合計170大学から支援のメッセージ、というのもただ事ではありません。ただこの170大学にそれぞれ有志的組織があってそこからメッセージが出されたのか、それともネット上の関連掲示板で、

「おれ北京大学生だけど、江西のみんなの活動を応援してるから頑張れよ」

 というような、ごく個人的な支持表明なのかよくわかりません。

 当ブログがしばしば指摘しているように、新聞や通信社は記事の行数が制限されますので、最低限のことしか織り込めません。元ネタたる『動向』の記事を読んでみればもう少し詳しい事情がわかると思うのですが……。

 仮に実際に有志的組織が各大学にあって、それが実は3~4月の反日騒動(特に日本の安保理常任理事国入り反対署名活動)を契機に生まれたものだというなら、オチにもなりますし興味深いことでもあります。「反日」のために生まれた組織が、「反政府」とまではいかないながらも、大学当局という「官」への反発を示す行動で役立っている訳ですから。

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 ところで、「学費高すぎ」「諸経費取り過ぎ」という学生の言い分が正しいものかどうか。私が今回のチナヲチを始めた昨年夏以降の報道に限っていえば、昨年11月に教育部が全国調査に基づいて、「乱収費」(何かと名目を立てて学生からカネをとる)の存在を指摘しています。

 ●一部の地方に「乱収費」減少が依然存在――教育監督調査(新華網2004/11/11)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-11/11/content_2205530.htm

 ●大学の学費水準の安定を、これ以上の値上げは許さず――教育副部長(経済参考報2004/11/11)
 http://jjckb.xinhuanet.com/www/Article/20041111151455-1.shtml

 2番目の記事でいう「学費水準の安定を」の「学費」には諸経費も含まれており、記事本文ではやはり「乱収費」の問題が語られています。教育部の張保慶・副部長は、

「北京の大学生一人当りの生活費は毎月300元(人民元、以下同)。それに学費や帰省旅費ほか諸経費など4000元前後が加わり、1年で1万元以上になる」

 とし、現在の国情(国民の収入水準)に照らせばこれは高すぎる水準で、金持ちしか大学に通えないというなら、これは共産党国家の教育ではない、と指摘しています。

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 大学生の子を持つ世帯の負担がいかに重いかについては、ちょうど今朝の香港紙『太陽報』(2005/07/19)に英国教育政策研究所なるところが最近公開した調査結果が出ているので参考にすることができます。

 http://the-sun.com.hk/channels/news/20050719/20050719020510_0001.html

 この調査によると、大学生一人当たりの学費(諸経費その他を含む)で世界ランキングを出してみると、1位は日本で11万元。続いて2位がニュージーランド、3位が英国となります 。

 でもこれは単純な金額の羅列にすぎません。実情をみるために、一人当たり平均国民収入を基準として教育費用の占める負担を比べてみると、中国がダントツのランキング1位になるそうです。中国は一人当たりGDPが1000米ドルを超えたばかりですが、そのうち農民9億人の多くが年収3000元にも達しておらず、上述したように大学生1人に年間1万元以上かかるとすれば、農民の3年分の年収を超えてしまうことになります。

「学費高すぎ」
「諸経費取り過ぎ」

 という学生の言い分もごもっとも、という訳です。ただ学生間でも実家の貧富の差に基づいた二極分化が一般化しているようですから()、その主張にもかなりの温度差がある可能性があります。このあたりも「21世紀型」と呼ぶにふさわしい風潮といえるかも知れません。

 ――――

 さて、これだけ書けば、もう口にしてもいいでしょう。

「事実なら香港各紙の後追い報道や台湾メディアによる転載、さらに反体制系ニュースサイト『大紀元』あたりが写真付きの記事を出してくるでしょうが、現時点でその動きはありません」

 という訳で、とりあえずは続報待ちですね。



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 これは画期的です。火炎瓶です。都市部の土地収用をめぐる官民衝突でついに火炎瓶を使用する「民」が現れました。

 ただ最初に申し上げておきますが、官民衝突とはいえ、今回はこの種の事件につきものの悲壮感を感じることのできない珍しいケースです。なぜかといえば、たぶん応援したくなるような「正義」を「民」の側に感じることができないからでしょう(笑)。

 ――――

 舞台は遼寧省は瀋陽市・皇姑区。再開発事業を立ち上げることとなり、周辺住民(数千世帯)に移転命令が出ました。お約束の筋書きなのです。それにあくまでも住民が応じなかったというのもお決まりの展開なのですが、それがたったの1世帯。

 数千世帯の中の1世帯だけです。何やら香ばしくなって参りました(笑)。

 それが2001年6月といいますから古い話です。残りの住民があてがわれた移転先に続々と引っ越しつつあるなか、なぜかこの1世帯・李某だけは立ち退かない。

 ……どころか、支給された補償金で再開発計画用地内の違法建築住宅を買い取り、当局に賠償金を要求しつつ住み続けたとのこと。これはいよいよ香ばしい(笑)。

 ――――

「正常な規定によれば、違法建築住宅には手厚い特殊補償が出ないことになっています。でも事業を進める時間的都合上、李某にも移転先として面積48平方メートルの住宅を手配しました。それなのに李某はなかなかOKしないんです」

 とは皇姑行政執法分局の責任者。「時間的都合」と言うくせに役所側も変に気が長いものですが、そこには複雑な事情が絡んでいるようです。李某の家族の言い分は、

「役所は李某の移転先を手当てしてやらないから、李某も仕方なく現住所に住んでいるんです」

 と、当局とは正反対。しかも、

「それに裁判にも勝っているのに、どうしていま立ち退かなければならないんですか」

 と意外な話を持ち出してきました。計画によれば、李某の現住所は道路になる予定で、皇姑行政執法分局から李某へと移転通達が出されました。ところがこれを不服とする李某が同局を訴える挙に出たのです。その結果、李某を立ち退かせる正当性を示す「道路計画認可図」を間に合わせられなかった同局が敗訴。裁判所の出した結論は、

「李某の住宅は違法建築だが、(証拠となる『道路計画認可図』がないため)皇姑行政執法分局は李某の住宅を期限を切って取り壊すことはならない」

 というものでした。勝訴を勝ち取った李某、火炎瓶男ながら単なる蛮勇の徒ではないようです。

 ――――

 が、敗訴した役所側も対策を重ねてきました。前回間に合わずに裁判では涙をのんだ「道路計画認可図」も準備OK。李某が再び法廷闘争に出ても勝訴できる条件が揃ったのです。当の李某には動く気配がみられない、ということで、皇姑区の規定に照らして最終期限を設定した強制執行通知を李某に出しました。

 その李某、今度は裁判でも勝てそうにないとみて、せめて最後の一戦を試みようとしたのか、武装抵抗を行うべく戦備を固めて待ち構えていたのです。

 それが孤軍奮闘、10時間半にも及ぶ長丁場になろうとは、誰が予想したことでしょう。

 ――――

 そして7月15日、瀋陽市は皇姑区の現場と相成ります。時間は午前8時半。強制執行の係官が最後の説得を試みるべく李某の老父と話をし始めたところ、ほどなく李某が平家建ての屋根の上に姿を現わしました。しかも用意のいいことに、片手にはハンドマイク持参です。

「もう話すことは何もない。みんな離れていろ」
「近付くな。後悔することになるぞ」

 とハンドマイクで怒鳴る李某の右手には火炎瓶が。それに構うことなく近付こうとした係官3名に、李某はためらうことなく点火した火炎瓶を投げつけました。

 その瞬間、ボウッと上がる直径1m近い炎の塊。驚いた係官たちは10歩も進まぬうちに慌てて退きました。しばらくして李某宅を取り壊すブルドーザーが現場に到着しましたが、李某はこれに対しても火炎瓶を投げつけます。この時点で物見高いギャラリーはすでに1000人以上。火炎瓶にせよ野次馬にせよ、これでは仕事にならないと、係官は消防署に応援を頼みました。

 ――――

 皇姑消防中隊が現場に到着したのは午前8時40分。公安(警官)も加勢に駆け付けました。それを見た李某、

「近所の連中は離れてろ。あんたらに恨みはない。……オラ役人、とっとと近付いてきたらどうなんだ」

 そう言う足元には火炎瓶らしきもの40数本、さらに黄色に包まれた物体が置かれています。それにガスボンベやらガソリン缶などもあり、正に徹底抗戦の構えです。

 係官5名が再び李某宅へと歩み寄りましたが、李某が火炎瓶を投げてくるので容易に近付けません。そのうち1本の火炎瓶は狙いが外れて、取材中の地元紙『華商晨報』記者の眼前で爆発、炎が上がりました。これは至近弾とみえて、記者の頭髪の一部が炎で焼かれたそうです。

 以前「株式投資は従軍記者より危険な職業」というトンデモ記事を紹介したことがありますが、この現場取材も株式投資には及ばぬものの(笑)、従軍記者に負けない危険度といえるかも知れません。

 しかし攻め手にも策がありました。十字砲火ならぬ十字放水(死角がなくなる)を形成すべく、消防車を2カ所に分散配置したのです。

 ――――

 9時20分。警官20名以上が現場の整理(たぶん現場と野次馬との線引き)にあたるなか、頃合はよしとみたブルドーザー2台が、それぞれ南北から李某宅に接近していきました。

 李某がまた火炎瓶を投げつけます。見事北側のブルドーザーに命中、運転台前面に炎が広がりましたが、そこで消防隊の出番です。2方向からの放水で素早く火災を消し止めました。しかしブルドーザーは驚いたのか、慌てて10mばかり退却します。

 その後、李某は係官や警官にも火炎瓶を投げつけたりしましたが、全て十字放水によって直ちに消火されてしまいます。これではラチが開きません。……というのはお互いにとってです。意外な抵抗で目標に近寄れない警官や係官は、上司へ電話して状況報告。一方の李某も手持ち無沙汰となったのか、どっかりと屋根に腰を下ろし、水を飲んだり、ゆったりと煙草を吸い始めます。

 何やら長期戦の様相を呈してきました。

 ――――

 事態が動いたのは午前10時ごろのことです。作戦会議で強制執行の続行ということになり、ブルドーザー2台が再び李某宅へと前進していきました。これを見た李某も火炎瓶片手に立ち上がります。左手には例によってハンドマイクです。

「もう1回言うぞ。近寄るな。どうなっても知らないからな」

 どうやら南から接近するブルドーザーとの間合いが手頃とみたのか、李某がそれを目当てに火炎瓶を投げつけました。炎をかぶること3回。それでも十字放水で全て消し止められましたが、あと10mというところまで近付いたときに火炎瓶が運転台に命中。炎上することはなかったものの、肝を潰した作業員はブルドーザーから飛び下りるなり、一目散に逃げ出しました。

 あとは北側から近付いてくるブルドーザーです。李某が立て続けに投げた火炎瓶によりこちらも3度炎上しましたが、いずれも消防隊が素早く消火してしまいます。とうとう李某宅の目の前、1m足らずのところまで接近することに成功しました。

 ところがです。そこまで引き付けておいて李某が放った火炎瓶が運転台に飛び込んで炎上。ブルドーザーに乗っていた作業員と係官はいずれも全身火だるまとなって車外に転がりました。

 思わぬ事態に強制執行は一時中断され、負傷者は病院へと搬送されました。

 ――――

 作戦中断となると、変にのんびりした空気が現場を包みました。正午ごろ、消防隊は無情にも撤収。係官も為すところなく、ただ待ちの一手です。

 こうなると、いよいよ人数の増えた野次馬たちが大胆にもじりじりと李某へ近付き、10mほどのところまで近寄った市民もいました。

「離れてろ。俺を怒らせるなよ。話すことは何もないんだ」

 と言いつつ再び火炎瓶をかざしてみせる李某に、野次馬たちもサーッと退き、遠巻きにしながらの見物に戻ります。李某は屋根に仁王立ちのまま、今度はソーセージを食べ始めました。

 午後2時。噂を聞き付けて野次馬は増える一方です。それが近付いてこようとすると李某は怒鳴って群衆を下がらせたりしていましたが、今度は火炎瓶ではなく、足元に置かれていた黄色いビニール袋を手にしました。それを野次馬へと示しつつ、

「この中には爆薬が入っている。見ろ。ガスボンベもある。だから俺を急かすなと言ってるんだ」

 膠着状態はなおも続き、役所側にも動く気配はなし。そのまま午後6時半ごろになると、今度は雷を交えた雨が降ってきました。土砂降りです。雨足が強まる中、ふと気付くとパトカーも姿を消していました。すでに10時間の長丁場、当局も戦意を喪失してしまったようです。

 ――――

 変化が訪れたのは午後7時ごろ。大雨が降り続くなか、李某はなおも残っていた野次馬にめがけて残りの火炎瓶をどんどん投げつけていったのです。事態が動くのを待ち望んでいたギャラリーも、これで蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまいました。

 そのあと、李某はガソリン缶2つを屋根から投げ落としました。

「ここまでだな……」

 と言うなり、点火したガスボンベも投げ下ろします。李某の砦だった違法建築住宅の周囲に3本の炎と激しい黒煙が噴き上がりました。

 そして、李某は姿を消してしまったのです。

 午後7時5分、駆け付けた消防車によって火災は消し止められました。同じころ、一度は引き揚げていた警官たちがまた現れて現場検証。肝心の取り壊しは日を改めて行われることになりました。

 ――――

 当局を相手に奮戦の限りを尽した挙げ句ついにその戦意を喪失せしめたうえ、最後には野次馬を追い払って攻防戦の幕を引き、人知れずいなくなってしまった李某、何だか古武士のようで格好良すぎます(笑)。

 とはいえ火炎瓶で負傷者が出ていますし、一種の公務執行妨害ですから警察はその行方を追っているのですが、目下のところ続報はありません。

 李某が結局何をしたかったかもわからないままです。意地を示した、というところでしょうか。元々奇人臭を感じさせるキャラ(家族も持て余し気味?)ですから、理解しようとすること自体、無駄なのかも知れません。

 ――――

 ただこの事件を都市における一連の「地上げトラブル」の中で捉えてみると(捉えるべきかどうか迷いますが)、まず消防隊や警官が途中で現場を放棄してしまうようなヤル気のなさが目を引きます。

 そもそも十字放水で火がついたら消すなんて姑息なことをするよりも、最初から高水圧で李某を直接狙って放水し、反撃できないところを警官に拘束させれば済むことではないでしょうか。それなら寄せ手に負傷者も出ませんし、延々10時間以上の長期戦にもならなかった筈です。

 もう一点は、言うまでもありません。今回はかなり特異なケース(笑)とはいえ、都市部の土地収用をめぐる「官民衝突」において、「民」の側が初めて火炎瓶という武器を準備して戦いに臨んだということです。しかもそれによって大きな効果を上げています。特異なケースだけに後に続く者が出るかどうかは疑わしいのですが……。

 ともあれ、「官」が再三煮え湯を飲まされてオロオロするシーンを目にすることのできた野次馬たちは、痛快だったことでしょう(笑)。


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 【参照】『華商晨報』電子版(画像あり)
     http://www.huash.com/gb/hscb/2005-07/15/content_2047095.htm

     『明報』電子版
     http://hk.news.yahoo.com/050715/12/1ekkx.html



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 前回の続きのようなものです。本当は「火炎瓶男」(前回の追記参照)が気になって仕方ないのですが(笑)、先にこの話を済ませてしまうことにします。

 ――――

 いま中国で農村・都市を問わず、騒乱や暴動といった事件が頻発しています。その多くは土地をめぐるトラブルです。開発事業のため用地収用を迫る「官」と、補償金の少なさに「これでは移転後の暮らしが成り立たない」と、立ち退きを拒む「民」。それで「官」に雇われた(というか「官」と結託する土建屋に雇われた)チンピラが「民」を襲撃したり、逆に堪忍袋の緒が切れた「民」が警官隊と衝突したりしています。

「いかにお上とはいえ、これは余りのなされ様ではございませぬか」

 といったところでしょうか。農民があちこちで自発的に動きだした(もちろん動かざるを得ない状況がそうさせている訳ですが)という、昨年秋から際立っているこの状況、これは歴史的な出来事といっても大袈裟ではないと思います。半世紀を超える中共政権にあって、これほど農民がアクティブになる事態がかつてあったでしょうか(そういえば陳情のため北京へとやってきて、外国公館に駆け込もうとする農民もいましたね)。

 前回紹介した通り、中央組織部の李貴田・副部長が記者との質疑応答において、農村でこうした事件が群発していることを認めています。当局も認めざるを得ないほど、隠し切れない程にその種の事件が多発しているからでしょう。中共政権はこれを「集団的事件」(群体性事件)と呼びならわしています。3月の全人代(全国人民代表大会)における温家宝・首相の「政府活動報告」も、この「集団的事件」に言及していました。

 ――――

 「集団的事件」はなぜ起こるのか。中共当局は、

「人民内部の矛盾」

 という言葉に原因を求めているようです。矛盾が尖鋭化することで「集団的事件」に発展する、と。

 矛盾とは対立軸のことですね。貧乏人と金持ち、出稼ぎ者と地元住民、開発業者と立ち退きを迫られた市民や農民、公害企業と周辺住民……。ここにおいて「官」は本来矛盾の調整役である筈なのですが、その立場を忘れて欲得に走ってしまい、開発業者などと結託した「官」が、「民」と対立する当事者になっていることがままあります。

 収賄はもちろん、難癖つけての罰金徴収や故なき暴行や拘束といった横暴に、「民」は怒りをたぎらせ、警察署を襲撃したり、武装警察(武警)と衝突したり、パトカーを大破炎上させたりします。「人民内部の矛盾」というより「官民衝突」と言った方がしっくりする印象です。

 ともあれ、当局は「人民内部の矛盾を融和させなければ」ということで、前回紹介した例の「先進性教育活動」を展開してお茶を濁しています。とは、党員を再教育するという当局のヤル気を群衆(非党員)に示してみせる一方で、党員の風紀粛正を試みる(それが胡錦涛の足場固めにもつながる)というものです。

 これも前回ふれたことですが、一党独裁制だと権力の暴走をチェックしたり制御したりするメカニズムがありませんから、独裁者たる共産党員の自覚を促すしか方法がないのです。といって、それで何とかなるようなら現在のような事態には立ち至ってないでしょう。ポーズにせよ本気にせよ、もはや自覚や猛省を促してどうなるという段階ではないのです。

 ――――

 ところで「集団的事件」を考えるとき、「官民衝突」で片付けていいのだろうか、それは紋切型にすぎないか、と思うことがあります。李貴田さんの発言をもう一度引用しますと、

「末端幹部にはレベルの低い者もあり、矛盾を緩和させる能力が不足している者もあり、さらに他の原因が加わることで、集団的事件が引き起こされます」

「今回の先進性教育活動では、我々は広範な党員と末端幹部を教育しました。(中略)ああした事件も、この先進性教育を通じて大々的に減少するものと確信しています」

 ……と、何だか末端幹部ばかりが悪者にされている感じで釈然としません。

 末端幹部の出来が悪いから「人民内部の矛盾」を融和させるどころか逆にが尖鋭化させてしまい、「官民衝突」という形で「集団的事件」が起こる……という図式で片付けてしまっていいのでしょうか。

「補償額が少ないっていうけど、実は農民の方も一獲千金を狙っていて、相場よりずっと高い法外な補償金を要求しているんじゃないの?」

 という勘繰りがあってもいいのですが、それはひとまず措くとして。「集団的事件」には「官民衝突」(官vs民)というだけではなく、「中央vs地方」「地方vs地方」といった「官vs官」という対立軸も色濃く反映されているのではないかと思うのです。

 ――――

 出来の悪い悪徳末端幹部の肩を持つつもりはありません。ただ、党中央には中央の理屈があるように、末端には末端の言い分があるでしょう。

 経済のソフトランディングを目指して手綱を引き締め、マクロコントロールの重要性を連呼するのが中央です。ところが地方政府にしてみたら、これからというときに何しやがるという気持ちがある。上海の高層ビル群なんかを見せつけられたら、もともと強い開発欲求がいよいよ刺激されます。

 一例を挙げるなら河南省など中部6省の焦燥同盟です。沿海地区は十分に発展している。遅れた内陸部に対しては西部大開発がある。その真ん中にはさまれた我々は一体……という焦りが全人代期間中、地域ごとの分科会などでみてとることができましたし、決起集会のような記者会見も行われたと記憶しています。

 よーしこっちも不動産屋と組んでひと儲けだ、開発区を設立して外資導入だ、なに隣の県ではそこまでやっている?それならこっちもだ、絶対に負けるな。……これが「地方vs地方」であり、農地をどんどん潰して開発事業に血道をあげる。ところが、そうやって意気込む地方政府に待ったをかけてくるのが中央のマクロコントロールです。すなわち「中央vs地方」。

 全体に目配りをしないといけない中央にしてみたら、あっちこっちで同じことをやられては重複投資になり、ただでさえ不足気味の生産財が無駄に使われてしまいます。適度にブレーキを施そうとしている経済も逆に過熱しかねない。そんなに耕地を潰されては農業政策にも影響が出かねません。昨年の一時期、「そうだ水力発電所だ発電所を造れ」ということで、電力不足に目をつけた四川省の各地方政府が一斉にダム建設へとなびき、鋼材やセメントなどの争奪戦が発生、中央が慌ててブレーキをかけたこともあります。

 ――――

 「集団的事件」の全てにそうした「官vs官」という背景がある、とはいえないでしょうが、「人民内部の矛盾」なんて言葉で簡単に片付けていいものでもないと思います。悪徳末端幹部がいる一方で、中央の党高官はみんな身辺を清らかにしているかといえば、そんなことはないでしょう。地位相応の巨悪が行われている。……結局そこに行き着いてしまいます。

 上は党中央政治局常務委員から下は村の党幹部やヒラの警官まで、それぞれが地位相応の特権を以てやりたい放題。いつその糧道が絶たれるかわかりませんから、やれる間にここを先途と荒稼ぎです。民百姓のことなんか無論眼中にないでしょう。

 ですから「集団的事件」が起きることになります。頻発するのは、いま中央の統制力が弱まっている状況にあり、省、市、県、村といった地方政府の横車が通りやすくなっているからでしょう。耕地や住居を取り上げられた農民や市民は、以前の生活レベルを維持できずに低所得層の仲間入りをし、都市暴動の主力となるべき予備軍の列に加わります。

 ――――

 「都市暴動の予備軍」とは物騒なようですが、決して荒唐無稽な物言いではありません。例えば広州市の消費者物価指数は今年上半期、前年同期比2.1%の上昇となりました(※1)。

 ええ、たったの2.1%です。でもそれは平均したらそうなったというだけのことで、食品価格だけを抜き出すと同6.4%の上昇と、平均値(+2.1%)を上回ります。

 食糧(穀物)価格は同+5.8%。このうち米が+7.5%で、他には水産品が+7.8%。さらに豚肉(+12.7%)、家禽類(+11.8%)、タマゴ(+13.3%)と、オカズ系が2桁上昇のオンパレードです。水不足に電力不足ですから光熱費関係もそろそろ値上げされるでしょう(中央政府からの通達により、上半期の値上げは禁じられていたそうです)。

 ご飯は誰でも食べるのです。三食に関わる部分の著しい価格上昇が低所得層にとって大きな打撃となることは、想像に難くありません。今後穀物価格がどう推移するかにもよりますが、失業者や年金生活者の世帯は音を上げることでしょう。

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 ……という訳で、どこまでも救われない話です。それとも、

「いや新しいステージが準備されつつあるのだ」

 と、ここはひとつポジティブに眺めてみることにしましょうか。いや実際、打つ手はあるのです。「集団的事件」など恐るるに足りません。投入する武警の数をいつもの2倍か3倍に増やし、銃に弾を込めて水平射撃でもしてやればアイヤーてなもんです。人民解放軍の実弾演習(戦車つき)、なんてのも見応えがあっていいですねえ。……おや筆が滑り過ぎましたかな。

「とりあえず、中国に生まれなくて良かった」

 とでも締めておきますか。


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 【※1】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/15/content_3224167.htm



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 以前コメントを寄せて頂いた「仔仔」さんなら御存知かと思いますが、もうすぐ香港で年間最大規模を誇るイベントが開催されます。

 私には直接関係ないのですが、そこは義理人情などのしがらみもあって色々とお手伝いする破目になって。……あ、そういえば「香港チーム」(私の仕事仲間)がもしかしたらブースを出すかも知れないとかいう話だったような。まあ東京にいる私には関係ないのですが。

 加うるに左目が飛蚊症になりまして鬱陶しいったらありゃしません。黒い糸くずのようなものが左目の視界をフワフワと動いています。仕事で結構忙しいのに反日電波浴なんかしているから、当人は自覚していなくてもストレス過剰になったのでしょうか(ブログの更新圧力もありますしw)。連休明けに眼科医へ朝駆けする予定です。

 ……こう書いてみるとやっぱりどうみても見苦しい言い訳ですね(笑)。ともあれこれを書き終えたら久しぶりに爆睡して、夕方に九段へ行ってきます。配偶者(香港人)が「みたままつり」をどうしても見たいそうなのです(お正月のときのように出店と猿回しがあると勘違いしている模様)。私も初めてなので楽しみです。

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 さて今回は打ち続く騒乱ないしは暴動に対する中共当局の方針が明らかになりましたので、それをお知らせする次第です。

 その前にまず4月の反日デモ以降に発生している事件を拾ってみました。これは当ブログで紹介したものだけなので、実際には当ブログでは扱っていないものの報道された事件、またメディアやネットユーザーの可視圏外で発生したために知られていない事件もあるかと思います。労働争議を含めればもっとあるでしょう。要するに以下は氷山の一角、ごく一部でしかありません。

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 2005/05/05 河南省・商丘事件(再開発事業による立ち退きを拒む住民を暴徒約100名が襲撃)
 2005/05/21 江西省・井岡山事件(土地収用に伴う補償内容を不服とした農民数百名が京九線・井岡山駅内に乱入、破壊活動などにより京九線の運行を6時間ストップさせた)
 2005/05/22 広西チワン族自治区・北海事件(難癖をつけて多額の罰金をとる警官に抗議し、トラックの運転手たち約500名が集団ストライキ)
 2005/06/11 河北省・定州事件(土地収用を拒む農民を暴徒300名が襲撃、6死48傷)
 2005/06/16 北京市・石景山事件(再開発事業による立ち退きを拒む住民を暴徒約30名が襲撃)
 2005/06/25 重慶事件(再開発事業による立ち退きを拒む住民を暴徒約20名が襲撃)
 2005/06/25 江西省・九江学院事件(何かと費用を大学当局に怒った学生が構内の一部を破壊)
 2005/06/26 安徽省・池州事件(成金の横暴とカネで転ぶ警察に怒った市民が警察署を襲撃)
 2005/06/26 浙江省・煤山事件(長年にわたる大気汚染に堪忍袋の緒が切れた農民600名が電池工場を襲撃)
 2005/06/27 山東省・山東理工大学事件(ウイグル族vs漢族、流血の学生衝突)
 2005/06/29 湖南省・衡山事件(警官が妊婦を殺害、怒りの農民が遺体を掲げて警察署を襲撃)
 2005/06/29 吉林省・長春事件(佩刀の是非をめぐりチベット族と警官が衝突)
 2005/07/02 広東省・仏山事件(土地収用を拒む農民と警官隊が衝突)

 ちなみに定州事件は暴徒襲撃の一部始終を捉えた映像が全世界へと流出、定州市の党・政府それぞれのトップ(市党委員会書記と市長)が更迭され、市党委書記の方は警察に拘留されています(容疑者か重要参考人なのかは不明)。それから仏山事件は3月ごろから土地収用をめぐって「官」と「民」の反目があり、5月31日にも警官約1000名と重機を投入して強制執行を試みた当局と農民が衝突しています。事件は未だに現在進行形です。

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 で、当局の反応となる訳ですが、7月7日に行われた国務院(中央政府)新聞弁公室主催による記者会見で、中央組織部の李景田・副部長が質疑応答を行っています。記者はロイター通信の中の人です。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/07/content_3190434.htm

 
記者「ここ数カ月、中国の農村では一連の騒乱的状況が出現しているが、中国共産党はいかなる手法で騒乱事件の処理にあたるのか?先進性教育活動は中国当局によるこうした問題への対処を改善するためにどういう役割を果たすのか?」

 先進性教育活動というのは昨年から展開されている新手の政治教育活動のようなもので、要するに中国共産党員は人民の模範(先進性)にならなきゃ駄目なのだ、という胡錦涛の現状認識による危機感(こんなことやっていたら中共は倒れる)を反映した活動です。「雷鋒に学べ」とどう違うのか私にはよくわかりません。

 言うなれば往復ビンタを喰らわして、党員に活を入れ直すようなものでしょうか。一党独裁制だと権力の暴走をチェックしたり制御したりするメカニズムがありませんから、独裁者たる共産党員の自覚を促すしか方法がないのです。

 「雷鋒に学べ」は毛沢東時代に生まれたものですが、どうも胡錦涛はこういう古臭いというかダサいやり方が好きなようで、他にも人民のためによく働き、ついには病に倒れた模範的な党員の実話をミュージカル化したりしています。携帯電話にインターネット、そういう時代に革命バレエとは恐れ入りますが、そういう趣味なんでしょうから仕方ありませんねえ。

 ……ああそうでした。このロイターの記者の質問に「先進性教育活動」が出てくるのは、この記者会見の主要テーマがそれであるためで、李景田副部長はこの活動の指導チームで副組長を兼任しているからです。つまりロイターの記者は、「先進性教育活動」にかこつけて「騒乱事件」への当局の見方を引き出そうとしている訳で、なかなかのパワープレイであります(笑)。

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 そして李景田副部長の応答となるのですが、なかなか率直ではあります。まず、

「最近中国農村部で発生しているああした出来事を、我々は「集団的事件」と呼んでおり、騒乱とは呼んでいない」

 と記者の発言をガツンと訂正した上で、

「皆さん御存知のように、中国の改革と近代化建設は正念場を迎えています。一人当たり国民収入が現在の1000米ドルから3000米ドルへと飛躍する時期です」

 と、まずは大風呂敷を広げます(笑)。

「この段階は『黄金発展期』であり、『矛盾突出期』でもあります。ですから、改革が絶えず深まっていくために、発展していくために、一部の矛盾(対立軸)が集中的にまとめて出現する可能性があります。中央が『以人為本』(人民第一の政治)、科学的発展観(規模の大小より効率の高低を重視)、社会主義調和社会の構築を提起しているのも、改革と発展の過程では、社会における矛盾を絶えず融和し、社会をより調和のとれたものにする必要があるからです」

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 そして話題は焦点である騒乱、じゃなかった「集団的事件」へ。

「もちろん、末端幹部にはレベルの低い者もあり、矛盾を緩和させる能力が不足している者もあり、さらに他の原因が加わることで、集団的事件が引き起こされます。ですが、各クラスの党委員会や政府の努力を通じて、こうした事件は全てとてもよく処理されているというべきです。」

 実直な発言だと思いますが、上述したように一党独裁制ですから、「集団的事件」が群発するのは悟りの足りない幹部がいるからだ、と制度ではなく人に原因を求めているのが印象的です。それにしても、

「こうした事件は全てとてもよく処理されている」

 ということは、武装した暴徒による市民・農民襲撃、ああいうのも「全て」に含まれる「とてもよい処理の仕方」なのでしょうか?……て突っ込むところだろロイター。

「今回の先進性教育活動では、我々は広範な党員と末端幹部を教育しました。それによって、公の精神を有する党、民のための政治、全身全霊で人民に服務するという観念がより一歩深まり、党員たちの能力が高まりました。ああした事件も、この先進性教育を通じて大々的に減少するものと確信しています。もちろん、全く発生しなくなるということはあり得ないでしょうけど」

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 ……以上です。最後の最後に垣間見せた不安げな表情がいいですね。外交部報道官だとこういう弱気を見せるような可愛げがないのです。孔泉は自分に酔っているヒョットコ、劉建超は正にチナブタ、そして秦剛は発声がなっていない上にぼそぼそと早口ですから。

 冗談はさておき、騒乱事件が「先進性教育を通じて大々的に減少するものと確信しています」とのことですが、李景田さん上の事件一覧を見て下さい。確信するのはあなたの勝手ですが、先進性教育活動も第一段階を終了し、第二段階へ進もうというこの時期に、「集団的事件」が群がり起きているではありませんか。

 これはやっぱり、李景田さんの総括とは裏腹に、党員どもの悟りがまだまだ足りないということではないでしょうか。ええ、もちろん末端幹部だけでなく。

 しかしですよ。そもそも広範な末端幹部に「悟らせる」こと自体が無理ではないかと思うのです。つまりは土地転がしで得られる莫大な利鞘やお決まりの賄賂、それに勝手にでっち上げた名目による徴税や料金徴収といった「既得権益」を手放せ、ということなんですから。

 各地で続発する騒乱事件に対し、「人民内部の矛盾を緩和させる」といった御託を並べるか、「先進性教育活動」のように念仏を唱えるしかないのであれば、中共政権としては打つ手なし、ということなのでしょう。念仏唱えても事件は解決されませんからねえ。

 もちろん武警(武装警察)や防暴警察(機動隊)を大挙投入して力づくで「解決」してみても、問題の根っこは残ったまま、「官」への怨嗟がいよいよ募ることになるでしょう。

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 李景田さん、お言葉の通り、中国の改革と近代化建設はまさに正念場を迎えているのです。……わかります?


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 【追記】
お早うございます。起きて香港紙をチェックしていたらまた似たような騒ぎが2件発生。立ち退き拒否にまつわるトラブルです。

 ●ブルドーザー炎上・警官火だるま――立ち退き拒む火炎瓶男
 http://hk.news.yahoo.com/050715/12/1ekkx.html

 ●病院建設に抵抗、住民多数が衛生局を包囲
 http://hk.news.yahoo.com/050715/12/1ekkl.html

 火炎瓶男(遼寧省瀋陽市)はなかなかの素材です。こちらはその元ネタ(画像あり)
 http://www.huash.com/gb/hscb/2005-07/15/content_2047095.htm

 病院建設反対運動(山東省日照市)の記事末尾には、上で紹介した李景田・中央組織部副部長のコメントがそのまま引用されています。頑張って念仏唱えて下さいね李景田さん(笑)。それにしても都市部の土地収用をめぐる騒動でとうとう火炎瓶が登場しましたね。いよいよ盛り上がって参りました。(2005/07/16/16:24)



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 9月入学制の中国にとっては今がちょうど卒業シーズンですね。

 なるほど道理で。……とは、教育部が中央組織部や人事部とつるんで最近、「若人よ内陸を目指せ」運動ともいうべきキャンペーンを中国国内のマスコミを使って展開しているのです。ユース共産党たる共産主義青年団(共青団)なども一枚かんでいる模様です。

 そうでもしないと「卒業即失業」となる学生が続出しかねないからですね。このキャンペーン、身もフタもなく言ってしまいますと、

「北京や上海でホワイトカラーなんて甘い夢は捨てろ。それよりも内陸部の田舎へ行くか末端組織に骨を埋めろ」

 という内容なのですが、中国のキャンペーンというのは一種の騒音公害のようなものです。関連記事が集中豪雨的に、紙面をそれ一色で埋めんばかりの勢いで出てきますから。ええ、それはもう嫌というくらいの数で。

 ちょっと前にそれらしき通知を見かけたと思ったら、本腰を入れてやり出しました。実例を御覧になりたい?……ごもっともです。

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 ●大学新卒者は末端組織を目指せ――国が指導・奨励へ
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/04/content_3174897.htm

 ●人民日報社説:末端組織に目を向け功業を為すべし
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/04/content_3174374.htm

 ●新卒者が末端組織に就職することを奨励――共青団中央と全国学聯
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/05/content_3179369.htm

 ●清華大学、新卒者の半数近くが末端組織に就職へ
 http://news.xinhuanet.com/edu/2005-07/06/content_3183138.htm

 ●安徽省、7年連続で大学新卒者4000名が農村の末端組織へ
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/06/content_3183863.htm

 ●上海の大学新卒者、400名以上が西部に就職
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/06/content_3184156.htm

 ●毎年1000名の大学新卒者を選抜、農村の幹部候補生に――河北省ケイ台市
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/06/content_3184268.htm

 ●大学新卒者による末端組織への就職を積極的に指導・奨励へ――中央組織部など
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/10/content_3199160.htm

 ●福州大学、卒業生500名以上が貧困地区に就職
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/10/content_3199388.htm

 ●石家庄鉄道学院、卒業生の60%が末端組織へ就職
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/10/content_3201005.htm

 ●「西部地区での就職」に熱を上げる――重慶の新卒者
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/11/content_3203238.htm

 ――――

 ……とりあえずこのくらいにしておきます(笑)。「末端組織=内陸部の農村」では必ずしもないのですが、外資系企業の小洒落たオフィスに比べれば遥かに地味で給料も安く、「這い上がる」ための起点として適した環境とはいえない職場です。

 まあ、わざわざ「奨励」「指導」なんて言葉が使われるくらいですから、人気のない就職先なのでしょう。上に並べた記事には「志願」なんて悲壮な言葉すら出てきます。まるで人身御供か決死隊かというところですが、実際にそういうイメージなのだと思います。もちろん「奨励」するくらいですから、「志願」者には奨学金や支度金のような御馳走がついてきます。

 で、国がここまで力を入れる、というより力づくになるのは、前述した通り、そうでもしないと「卒業即失業」となる学生が大量に出てしまうからです。

 前に失業問題()でもふれましたが、大学新卒者の就職率は昨年実績が73%。実に10人のうち3人までが、実数でいえば76万名が「卒業即失業」の憂き目に遭っています(中には卒業即留学などのケースもあるでしょうが)。

 ●大学新卒者204万名の就業を実現――来年の新卒予定者数は338万名
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-12/11/content_2320263.htm

 いま正にその「来年」が卒業しつつあるのですが、総数が前年比58万名増なのに対し、その分の雇用創出がなされているかといえば、答はNOでしょう。

「今年の就業圧力は例年にない強さだ」

 と厳しい表情の周済・教育部長、一応「昨年実績を下回らないこと」との目標を掲げてはいますが、各大学が就職率の水増し報告でもしてくれないと到底達成不可能な水準でしょう。ちなみに昨年の73%もかなり水増しされた数字のようです(笑)。

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 贅沢言うな大学生、と説教してやりたいところですが、恐らく中国はスケールが違うのでしょう。「格差」のスケールです。地域間格差もあれば業種間格差もあります。生涯賃金を弾いてみれば、貧富の格差も相当なものになるかも知れません。

 雇用者側からみれば、学生が己を買いかぶって高望みしているという側面が目につくのでしょうが、女子学生はもちろん、男子学生ですらも面接で好印象を勝ち取ろうとプチ整形に走ったりする御時世です。必死なのです。

 必死になるべき方向がズレているような気もしますが(笑)、その厳しい就職状況には同情してやりたくもなります。フリーターで何とかやっていける日本は、不景気だ何だと言っても経済の基礎体力が中国とは比較にならぬほどしっかりしているということでしょう。

 かつて仕事の一環として香港を例に試算してみたことがあるのですが、実家住まいならともかく、賃貸で独り暮らしとなると、時給が低すぎて話になりませんでした。現在の中国にフリーターの存在を許容するほどの余裕はあるのかどうか、これは私にはわかりません。

 ところが、そのくせ生意気にもニートがいるのです(笑)。いや冗談ではありません。これについては以前紹介したことがありますが()、最近また関連記事がいくつか出ています。これも卒業シーズンだからなのでしょう。

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 ●成人の30%が親のスネかじり――若者のニート化は誰のせい?
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/08/content_3191461.htm

 標題の通り、驚いたことに中国の成人のうち3割は親に養われているとのことです。「ニート」という単語は何種類かの意訳があり、あるいは「NEET」とそのまま使われたりもして、まだ用語としては定着していないという印象です。

 ただニートの実質を備えた若者はたくさんいるのです。親から小遣いをもらってネットゲームに熱中したり、家でゴロゴロしたりしているようです。蝶よ花よと育てられた一人っ子世代、いわゆる「小皇帝」ですから、親もつい甘くなってしまうのでしょう。

 この記事はそのニートを「要するに無職」と見立てているようで、その類型を6種類に分けています。

 (1)就職先について高望みが過ぎて「理想の職場」と出会えないままの大卒者。
 (2)就職したものの、仕事は疲れるしストレスもたまって、と言い訳して無職へとリターン。
 (3)起業家幻想型。起業意欲はあるものの目標とノウハウがなく、さりとて人の下で働くこともよしとしない。
 (4)流転型。転職を重ねた挙げ句、最後には無職に落ち着いてしまう。
 (5)依願退職者。自分の仕事をキツいと感じ、楽な仕事を求めて退職するも、結局は一番楽な無職に収まる。
 (6)学歴もなく技能もないタイプ。3K業種しか選択肢はないが、それもイヤ。無職でいいやという結論になる。

 「若者のニート化は誰のせい?」とタイトルで問いかけているこの記事は、「小皇帝」「一人っ子」という単語が後段で出てくるように、まず親の躾に原因を求めています。次に中等教育の段階で職業・技能訓練を十分に受けていないことも原因のひとつとしています。

「だからニートは仮に短期の仕事をするにしても、サービス業の中でも若い世代が担当する店員やウエイトレスのような仕事しかできない。いきおい年齢を重ねるにつれて、就業機会はどんどん少なくなる」

 ……と指摘しています。なるほどそういうものなのかも知れません。

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 国を挙げて大卒者に就職の世話をし、「失地農民」や中高年の失業者(「4050」と呼ばれています)が出口の見えない塗炭の苦しみに喘いでいる一方で、成人男女の3割が事実上ニート化している、という現実はどう理解すればいいのでしょう。

 やはりこれも「格差」をキーワードに理屈付けるべきものなのでしょうか。とりあえず隣国で馬鹿が大量生産されているのは有り難い限りですけど。

 ニートのままでいいから、ネットを駆使して同時多発都市暴動でもやってほしいものです(笑)。



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