おお、久々にビビッときました。
●靖国サイトへの攻撃を報道、反日機運高まる恐れ(サーチナ・中国情報局)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050114-00000005-scn-int
政争です。これは強烈に政争のニオイがします。結論から言ってしまいますと、政争だとすれば、たぶん下記のどちらかでしょう。
(1)胡錦涛政権による党内強硬派(あるいは軍部)への迎合。
(2)江沢民の地盤である地域で主導権を握ろうとした胡錦涛政権に、江沢民が反撃。
あるいは、両者が絡み合った可能性もあるでしょう。ええ、もちろん私の邪推に過ぎません。でも邪推したくなる材料は揃っていますよ。ああ、心なしか浮き立つような気分です(笑)。
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まずは上の記事(サーチナ)を読んで頂きたいのですが、「靖国サイトへの攻撃を報道」なんて、何をいまさらという感じでしょう。
日本ではこのニュース、今月6日未明に読売新聞(電子版)が報じています。
http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/seiji/20050106/20050106ia02-yol.html
このときからもう1週間経っているのです。全くもって「何をいまさら」でしょう?
でも実は違うんです。中国国内の各メディアは今までこのニュースを放っておくことなく、読売の報道が出てすぐ速報しています。いちばん早かったのはたぶん大手ポータル「捜狐」(sohu.com)のニュースサイト、ここが6日夕方、「今日の日本主要紙」みたいな記事の中で、上の読売の記事に基づいて報じています。
翌日には「靖国」単体で記事になりました。これも読売の同じ記事が元ネタです。
●靖国神社HPにハッカーの攻撃 毎分90万ヒットの猛攻
http://news.sohu.com/20050107/n223821137.shtml
「捜狐」だけでなく、中国の他の各メディアも同じように読売報道を基に報じています。これが1月7日。
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じゃあどうして今さら改めて、となるのですが、その理由は上記「捜狐」の記事を読めばすぐわかります。「捜狐」をはじめとした1月7日の中国メディアによる報道内容には、規制がかかっているのです。中国メディアの全てが元ネタにしている読売の記事でいうと、
「警察当局は、中国のハッカー集団などによる組織的攻撃との見方を強めている。」
「靖国神社がネット上の住所に相当する「IPアドレス」を調べたところ、ほとんどが中国のものだった。昨年2月から被害相談をしている警察当局も、不正データの発信元は中国が大半と見ている。」
「靖国神社はHPに掲載した声明で、『国家のために尊い生命を捧(ささ)げられた250万柱の御祭神に対する攻撃であり、日本国に対する悪意に満ちた挑戦だ』と攻撃を非難している。」
といった部分には全く言及せず、単に靖国神社のHPがハッカーに攻撃されたという内容の記事になっています。もちろんハッカーが何者かにも言及していません。言及してはいけなかったのでしょう。
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それが昨日(14日)になって、規制が解禁となったらしく、主要メディアの大半がこのニュースを改めて報じました。冒頭のサーチナの記事はそれを伝えたものです。『北京晨報』からの転載という形で「新華網」をはじめ大手ポータルの「新浪網」(sina.com)などが足並みを揃えています。新聞からの転載ということなら、紙媒体でも広く報じられていることでしょう。
みな同じ内容のようなので、「新華網」のURLだけ出しておきます。
http://news.xinhuanet.com/world/2005-01/14/content_2457684.htm
サーチナによると、
「靖国神社は、『(靖国神社が)昨年9月から、しばしばサイバー攻撃を受けている』『靖国神社のアドレスを詐称した中国語のスパムメールが大量に発信されている』『(それに関連した)エラーメッセージが中国国内のメールサーバーから、大量に送られてきている』としているが、これらの部分に関しては、中国側の報道も、靖国神社の発表をほぼそのまま紹介した内容になっている。」
とのことですが、確かに靖国神社HPに出た声明を引用しています。ただし、大人しい引用の仕方ではありません(笑)。
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例えば「新華網」の記事の後段からかいつまんで訳しますと、
「この文章(訳者註:靖国神社の声明文)は、送りつけられたメールの大半が中国語で書かれており、大量のエラーメッセージが中国のメールサーバーから送られたものだと悪意を込めて強調している」
「厚顔無恥にも、『国家のために尊い生命を捧(ささ)げられた250万柱の御祭神に対する攻撃であり、日本国に対する悪意に満ちた挑戦だ』と書かれている」
と、「引用」はここまで。そしてここからはお約束の内容が展開されます。
「靖国神社に行ったことがあるか、あるいは同神社のHPを見たことがある人なら知っていることだが、靖国神社の境内では戦争を賛美・宣伝するものを至る所で目にすることができ……(後略)」
と続いて、話題は「遊就館」にも及ぶのです。及ぶのですが、なぜか零戦の美しさや海軍コーヒー、海軍カレーに全く言及されていない。遺憾の極みです(笑)。
まあ、マクドナルドのHPがやられたときも中国側の報道はハッカーを非難も賛美もせず、「よくやった」という言葉を行間から溢れさせていましたが、今回はさらに踏み込んで、「よくやった。もっとやれ!」とけしかけているような気迫を記事のあちこちから感じ取ることができます。ええ、民度でしょう。民度としか言いようがありません。
ところで「新華網」の記事、タイトルの下にドーンと神社の写真がレイアウトされていますが、これって本当に靖国神社?
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さて、7日時点ではNGだった部分がなぜ一週間を経て解禁となったのか。
内容が濃くなった(笑)とはいえ、一週間前の旧聞を改めて持ち出してくるのも不自然な感じがします。だいたい当ブログ(「『靖国』は国内問題。だから国民には内緒」2005/01/13)でも紹介したように、少なくとも13日付の記事までは、中国側は「靖国」について報道統制をしていたフシがあります。
そしていちばん不自然なのは、足並みを揃えていないメディアがあるということです。それもあろうことか、
「人民網」(党中央の機関紙『人民日報』のサイト)
「中青在線」(胡錦涛の広報紙『中国青年報』のサイト)
の2つです。私の見落としでなければ、肝腎の両サイトが今回の靖国報道を黙殺しているというのは異様です。先例に照らして素直に考えれば、今回の靖国報道はどうやら胡錦涛の本意ではない、と読めることになります。
そこで政争ということになる訳ですが、これは胡錦涛の進退がかかった……というような、天下分け目のようなものではないように思います。でも重要な局面です。権力を掌握していく過程で超えなければならない壁に、いま胡錦涛がぶつかっている、という種類のものでしょう。冒頭にも挙げた、
(1)胡錦涛政権による党内強硬派(例えば軍部)への迎合。
(2)江沢民の地盤である地域で主導権を握ろうとした胡錦涛政権に、江沢民が反撃。
あるいは、
(3)上記(1)と(2)の両方が絡んでこうなった。
……そのいずれかではないかと私は考えています。
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妥当な考え方としては(1)ということになるでしょう。江沢民もかつてやった軍部の機嫌取り、あるいは党内の対日強硬派への迎合です。大体そういう政治勢力がバックにいなければハッカーも存分には暴れられないでしょう。
それが江沢民一派である可能性もあります。ただその場合、動機となっているのは政策論争でも胡錦涛イジメでもなく、利害絡みではないかと思うのです。すなわち(2)ということになります。
江沢民の地盤といえば上海ですね。そして上海市に隣接しており、江沢民の故郷(楊州)を含んだ江蘇省もまた重要な根拠地といえるでしょう。……ところがその江蘇省で、いま「政変」が進行しつつあるのです。それも僅々10日前ぐらいから、にわかにメディアの注目を集めるようになった動きです。
●中国・江蘇省住民、行政に「満足」99%…批判呼ぶ(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050112id26.htm
政変といっても下克上ではありません。江蘇省のトップ、読売の記事が言うところの「胡錦濤総書記派」である李源潮・江蘇省党委員会書記が、「大掃除」を始めたというところでしょう。江蘇省内では昨年から汚職で摘発される幹部が相次いでおり、報道されている「万人評議」はこうした「政変」を強く印象づけるための仕上げのイベント(デモンストレーション)だと私は捉えています。
例えば幹部にとっての「悪魔の錬金術」、その方法のひとつに開発区設立があります。農民から土地を取り上げて企業に転がすだけで大金が入ってくる。江蘇省(李源潮省党委書記)はその開発区を昨年から整理にかかり、同省内の各種開発区の77.5%に当たる合計544カ所を閉鎖。戻ってきた土地のうち8367ヘクタールは再耕地化されました。同時にこの過程で汚職などにより170人が処分を受けています。
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-01/14/content_2458905.htm
最近では姜人傑・蘇州市副市長を汚職(収賄など)で解任。上海市のミシン工場の党幹部を務めていた時期がちょうど江沢民が上海を治めていた頃に重なるため、多少の縁があるとみられていた人物です。
http://news.xinhuanet.com/legal/2005-01/12/content_2447859.htm
いずれにせよ、自分の狩り場である筈の江蘇省をこうも「胡錦涛派」に荒らされては沽券にも関わることですし、江沢民も黙ってはいられないでしょう。院政を敷けない甲斐性なしではありますが、引退したからといって政治的に全く無力になった訳でもありません。あちこちに手を回してちまちまと動けば、今回の「靖国報道」くらいの「反撃」も出来るでしょう。
結局そのくらいの事しか出来ない、ということもできますけど。
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いずれも邪推ではありますが、報道の内容やタイミング、さらに足並みの乱れなど不自然な点が多々あるのは事実です。少なくとも「何事もない」と言い切るには説得力に欠ける状況ではないでしょうか。……何だか尻すぼみで終わりそうなので、
「政争です。これは強烈に政争のニオイがします」
と、最後に改めて強調しておきます(笑)。いや、たまには香港の政論誌を真似てみても、いいのではないかと思いまして。
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