全人代(全国人民代表大会=立法機関)が終わったのでホッとしています。中共政権における春恒例の一大政治イベントですから開催期間中は普段より集める記事の分量が増えるのです。ようやくこれでひと息つけることになります。
……と思ったらあにはからんや。何だか休ませてくれないような気配がしてきました。我らがファンタジスタ・麻生外相、ボール持ち過ぎというか飛ばし過ぎというか、どんどん新ネタを披露してくれるので中国国内メディアはもとより、香港・台湾メディアまでが翻弄されて右往左往。その動きを追っている私も右往左往の態です。
ともあれ積極果敢な麻生外相の動きは日本の政界においてどういう意味があるのかという詮索は当ブログの主題ではありません。中港台で取り上げられている話題を拾い上げてみましょう。
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まずは前回もふれた「私は中国について前向きな見方をしている。」から始まる『Wall Street Journal』紙への寄稿論文ですね。
http://www.cgj.org/en/q/japan_policies22.html(英語)
http://www.cgj.org/jp/h/100.html(日本語)
中国の将来は前途洋々といった感じで持ち上げつつ、一撃また一撃と強烈なパンチを中共政権に見舞っているといった印象の内容です。だいたいこの文章の標題が、
「日本は民主的中国を待つ(Japan Awaits a Democratic China)」
ですからね(笑)。当然ながら中国側から反発が出ています。
●麻生外相をまた非難=「歴史の適切な処理重要」-中国(時事通信 2006/03/15)
http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=060315205246X561&genre=int
【北京15日時事】中国外務省の秦剛副報道局長は15日、麻生太郎外相が13日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに「日本は民主的な中国を待望する」と題する論文を掲載、中国国防費の完全公開を求めたことに関して、「日本外交当局の最高責任者が中国政治体制にとやかく言うのは適当でない」と非難する談話を発表した。
……これはかなり端折った内容なので以下に外交部報道官発言から一部を訳出します。
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◆質問「日本の麻生外相が先日『WSJ』に『日本は民主的中国を待つ』との署名論文を発表しました。中国がかつて大躍進や文化大革命といった誤った政策を実施し、現在に至るまで理想と現実のバランス点を見出せないでいる。中国は早晩民主国家になるだろう。中国は日本が過去に犯した過ちを教訓に国内の民族主義的空気を抑え、『帝国化』することを回避すべきだ。……としています。この点に関して中国側のコメントをお伺いしたい」
◆回答「中国の特色ある社会主義を建設するというのは中国人民が自ら選択したもので、中国の国情に符合している。中国の発展は中国人民に幸福をもたらすだけでなく、アジアと世界の平和、安定と発展に重要な貢献を果たすことになる。日本の外交当局の最高責任者が中国の政治制度についてとやかく言うのは、極めて不穏当なことだ。中国は国と国の関係は互いに尊重し平等に相対するべきで、一方が教師面をすることに反対している。皆さん周知の原因により、日本の過去における過ちが他国にとって参考になることはない」
http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/15/content_4307080.htm
中共政権、キレてはいないもののかなり御機嫌斜めの様子ですね(笑)。まずは民族的病態の「高すぎるプライド&強すぎるコンプレックス」が脊髄反射して、日本が「教師面」をしてみせた、ないしは「先輩風」を吹かせてみせたことにかなりムカついているようです。
もう一点ムカつくことがあるとすれば、それはいつもの麻生発言と異なり、今回は寄稿文の全文を中国国内で明らかにできないという苛立ちでしょう。普段の「放言」「妄言」と異なって一応理路整然としており、全文を公開すれば「なるほど確かに」と一部で同調する動きが出るかも知れません。
中共政権にしてみれば、民間から自然発生する「反日」も怖いのですが、より直接的な政権への異議申し立てである「民主化」要求が「反日」とは比較にならないほど恐ろしい事態であることは言うまでもありません。このために報道官の反論も激語することができず、どこか不完全燃焼な、中途半端な形で終始している。これもムカつく要因かも知れませんね。
あとは、これが麻生外相個人の見解なのか、日本政府を代表した意見なのかを見きわめたいところでしょう。もし政府の公式見解であれば中共政権にとって深刻です。米国がやっているように「民主化しろ」と中共に迫る姿勢を日本が示した最初のケースとなるからです。
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それからこういう記事もあります。
●麻生外相が再び「中国脅威論」(新華網 2006/03/15)
http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/15/content_4306368.htm
この記事によると、参院予算委員会において麻生外相が「中共の軍事費が不透明かつ急激に膨張している」という答弁をした中で、その軍拡路線が他国に「脅威と恐怖を感じさせるものだ」と語ったことになっています。
「脅威だ」「脅威だ」と言われることに、中共はひどく神経質になっていますね。何かやましいことを考えている証拠です(笑)。まあそのうち軍部が改めて「軍拡路線のどこが悪い」と開き直ることになると思います。
あと今朝の香港紙(2006/03/16)で軒並み取り上げられていたのがこのニュース。
●本格生産なら対抗措置 外相、中国ガス田開発で(共同通信 2006/03/15)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2006031501001396
尖閣諸島問題において、軍部は相当に隠忍自重を重ねてきている、と軍部自身が感じていると私は思っています。かつては恒例ともいえた「民間団体」による、
「ボロ漁船での尖閣上陸作戦-海上保安庁の巡視船に囲まれて公開処刑」
という被虐的ミッションが2年近く行われていません。ひとつには、日本との不必要な摩擦は避ける、国内の反日気運も高まるかも知れないし。……という胡錦涛の意思が働いているのだと思います。
そしてもう一点、中国国内の反日気運を考えると、次にやるときは海軍艦艇なり巡視船なりが護衛して「民間団体」の上陸を成功させるか、それとも軍隊による奪回作戦を展開するかのいずれかでなければならないでしょう。むろん現状では無理な相談です。
軍部の発言力増大もあり、東シナ海ガス田紛争に関する協議で中国側が先ごろ示した新提案に尖閣諸島方面が含まれていたのには、そういう背景もあったのではないかと私は勘繰っています。たとえ共同開発海域が尖閣諸島の領海にかかっていなくとも、かつて問題のガス田付近を駆逐艦や潜水艦が航行して一種の示威活動をしたように、上陸や奪回は無理だとしても、海軍艦艇が大手を振って尖閣近海を遊弋できることになる、というより示威活動ができる。……これは軍部のフラストレーションをある程度散じることができるのではないかと思います。
ところが、日本側は中国側の提案を一蹴し、追い打ちをかけるように「本格生産なら対抗措置」という強い態度に出てきました。これはたとえ中国側の報道に反映されなくても、水面下で大いに制服組を刺激することになるでしょう。
しかもそれを示したのが従来の交渉窓口の最高責任者である媚中派の二階経済産業相ではなく、麻生外相。二階氏が媚中派かどうかはともかく日本側による試掘に消極的だったのは事実です。ところが麻生外相をトップに戴く外務省がこの問題の主導権を握ることになったのであれば、中国側も新たな対応を迫られることになります。
そうした中で、李登輝氏がまた仕掛けてきました。
●李前総統、訪日は5月10日に=「奥の細道」たどる-台湾(時事通信 2006/03/15/16:33)
http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=060315163303X466&genre=int
【台北15日時事】台湾の李登輝前総統は15日、時事通信などの取材に応じ、松尾芭蕉がたどった「奥の細道」ゆかりの地を訪問するため、5月10日から約2週間の日程で訪日する意向を明らかにした。実現すれば約1年半ぶりの来日となる。
これは昨年から何度か出ている話で目新しいニュースではないのですが、前回とは異なり、今回は中国国内メディアもこれを速報しました。時事電を後追い報道した台湾メディアによれば……という形でまずは「中国新聞網」が日付が変わる前に論評抜きの脊髄反射。
●李登輝、5月に2週間日本を訪問する予定だと表明(中国新聞網 2006/03/15/23:16)
http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-03-15/8/703544.shtml
きょう(3月16日)にはさらに詳細なニュースが流れました。
●李登輝が5月にノービザで訪日……日本メディア(中国台湾網-新浪網 2006/03/16/07:43)
http://news.sina.com.cn/c/2006-03-16/07438452712s.shtml
そして日本側のアクションとして今回注目すべきは、政府が李登輝氏の動きに即応したことです。
●官房長官、台湾前総統の訪日受け入れ示唆(Nikkei Net 2006/03/16/13:02)
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20060316AT3S1600616032006.html
安倍晋三官房長官は16日午前の記者会見で、台湾の李登輝前総統が5月に観光のため訪日したい考えを明らかにしたことについて「具体的な意向が示されれば、目的に応じて適切に判断する」と述べ、観光目的であれば受け入れる考えを示唆した。台湾側からの打診については「承知していない」と語った。
この安倍官房長官談話も中国国内で報じられました。
●李登輝への出入境ビザ発給も排除せず……日本高官(中国新聞網-新浪網 2006/03/16/16:56)
http://jczs.sina.com.cn/2006-03-16/1656357392.html
ビザ云々という時点で事実誤認をしている訳ですが、官房長官談話が出たこと、来日予定まではや2カ月を切っていることから、これまでは一過性でスルーされていた「李登輝氏訪日」に中共政権及び中国国内メディアが本格的に反発し、さらに連日の非難攻勢のようなものに発展する可能性はあります。いよいよ「神光臨」か!?……という訳です(笑)。
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ちなみにこれは別の話題ですが、3月14日に行われた外交部定例会見で秦剛報道局長が日本側への要望のひとつとして、
「台湾や歴史などの重大問題を穏当に処理すること」
と語ったことは覚えておいていいでしょう。ええ、「台湾」が「歴史問題」の前に置かれています。胡錦涛・総書記が小泉首相と最後に会談した際に提起した「5項目提案」では「歴史問題」の後に「台湾」という順番なので、優先度が逆転している訳です。制服組テイストかも知れません。
http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/14/content_4303748.htm
ともあれファンタジスタのスーパープレーともども続報に期待大、ということで。春なのです。