日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





「上」の続き)


 この「学芸会」に対する日本側の対応は鮮やかでした。ここでいう「日本側」はもちろん小泉政権のことで、いそいそと北京まで胡錦涛の靴を舐めに行った連中ではありません(笑)。

 今回の「学芸会」にピンポイントと思われる動きが2つ出ていますね。まずは文部科学省による教科書検定、具体的には尖閣諸島についての記述を「日本の固有の領土」ひいては「領土問題は存在しない」と明記するように修正させることで胡錦涛側の足並みの乱れを狙いました。

 ところが、中共政権は穏忍自重したのです。同じく教科書検定で修正された竹島に関する記述については韓国が脊髄反射して日本大使を呼んで抗議していますが(3月30日)、同日開かれた中国外交部の報道官定例記者会見においては尖閣諸島に関する舌鋒は鋭さを欠き、

「中国側の厳正な立場を日本が正視するよう望む」

 というコメントが出たのみでした。不満は示したものの、これでは正式な抗議の内には入りません。穏忍自重と感じたのは、人民解放軍機関紙『解放軍報』(電子版)が竹島問題での韓国の抗議を報じていながら、自国のしかも軍部が神経質になりやすい尖閣問題についてはスルーしたからでもあります(翌日付の紙面でようやく報道)。「学芸会」を翌日に控えていることに配慮したのかどうかはわかりません。

 それでも1日遅れでやることはやりました。外交部アジア局副局長が今日(3月31日)、駐北京日本大使館の堀之内公使を呼んで外交ルートを通じた正式な抗議が行われています。

 ●「新華網」(2006/03/31/15:53)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-03/31/content_4368676.htm

 ただ格式の問題があります。韓国は外相が大使を呼んで抗議したのに対し、中国の抗議は外交部アジア局副局長が日本公使に対して行っています。新任の宮本大使が不在だったのでしょうか。「強烈抗議」と上の記事には出ていますが、外交部報道官のコメントを含め、韓国に比べると一段階ソフトな反応という印象を拭えません。

 ――――

 ピンポイント攻撃その2は『読売新聞』によるスクープです。駐上海日本人総領事館職員が中国当局者に機密漏洩を執拗に求められた挙げ句自殺した事件、その遺書の全容なるものが「学芸会」当日にドカンと報じられました。

 ●中国側、機密執拗に要求…自殺上海領事館員の遺書入手(読売新聞 2006/03/31/03:02)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060331it01.htm

 これだけでも十分な爆撃なのですが、今日の『読売新聞』は冴えていましたねえ。「学芸会」の進行に合わせるが如く続報連発です(笑)。

 ●遺書判明、閣僚から中国批判相次ぐ…上海総領事館事件(読売新聞 2006/03/31/14:00)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060331i206.htm

 ●上海総領事館事件、中国が改めて関与否定(読売新聞 2006/03/31/19:31)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060331i212.htm

 ●外務省、上海総領事館員の遺書報道で調査委設置(読売新聞 2006/03/31/20:13)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060331i112.htm

 遺書の全容が判明した、その内容は中共政権にとっていよいよ不利となるものだった、これに対し小泉政権では閣僚から批判が相次いだ。……外務省のアクションは遺書の内容が洩れたことを問題だとする調査委設置ですが、これに対しては国民から隠蔽体質への批判が出るとともに、生々しい遺書の内容に接して対中感情の悪化が強まることになるでしょう。

 教科書問題とこの遺書暴露報道が「学芸会」とタイミング的に重なったのは偶然なのか必然なのか。ともあれ「学芸会」が行われることを承知の上で、しかしそれに配慮することなく相次ぐ燃料投下が行われたところに小泉政権の意思をみてやってもいいのかも知れません。

 つまりは、「構造改革」です。日中関係の構造改革。上下関係のない対等な二国間関係の実現。相手が一党独裁で軍国主義を奉じる基地外国家であることを踏まえた上での関係再構築。……やはりそうした話題に話が落ちることにならざるを得ません。

 ――――

 何せ最近はネタ満載ですから私たちはともすればそれに目を奪われかねません。「学芸会」に合わせた上記2つのアクションだけでなく、例えば、

 ●離島奪回作戦を主眼とする日米合同軍事演習やミサイル防衛システムの共同開発
 ●台湾の「終統宣言」に対するひそやかな支持表明
 ●防衛大学校卒業式における中国を暗に批判した小泉首相演説
 ●「外交青書」における中国軍拡路線批判
 ●政府開発援助(ODA)凍結という「経済制裁」
 ●靖国参拝に関して常に原則を揺るがせない小泉首相の発言

 ……と、これだけでもお腹一杯の対中攻勢ですが、「構造改革」そのものはごく最近始められたものではなく、小泉政権の成立当初からの基本方針だったように思います。つまり江沢民時代からのことなのです。日中首脳会談で江沢民と激論に及びながらも原則は頑として譲らず、毎年1回のペースで続けられた靖国神社参拝はその象徴ともいうべきものです。ODAの大幅減額なども行われましたね。

 ところが印象でいえば、日本の対中外交は胡錦涛政権が発足してから大きく舵を切ったように思えます。事実その通りなのですが、恐らく「構造改革」の原則を堅持し続けた小泉政権は、中共政権の新指導者である胡錦涛が意外に権力基盤が脆弱で、要するにヘタレであることを見抜いた上で、いよいよ本格的な手を打ち始めたというところかと思います。

 2004年には日中首脳会談で靖国参拝継続の意向を示し、ODA打ち切りを決め、新防衛大綱で中国脅威論を示唆。中共の猛反発の中で李登輝・前台湾総統の訪日も実現させました。翌2005年には中国にとって最もおめでたい旧暦の元日に尖閣諸島の灯台国有化を発表し、日米安保2プラス2で台湾有事への介入を明示、10月には小泉首相が靖国神社を参拝しています。

 こうした相次ぐ日本側の仕掛けに対し、胡錦涛は防戦一方の態。そのヘタレっぷりに対する内部の反発が政争を呼び、2005年に反日騒動呉儀ドタキャン事件という形で表面化しました。しかも有り難いことに、反日デモの乱痴気騒ぎや外交常識を無視した呉儀の行動が日本人の対中嫌悪感をより強いものにしていきました。

 対中感情の悪化を喜んでいるのではありません。2003年の中国人犯罪や西安寸劇事件、2004年のサッカーアジアカップにおける中国人サポーターの基地外ぶりや中国原潜の日本領海侵犯、そして2005年の東シナ海ガス田紛争などと相まって、「パンダ」「シルクロード」「大黄河」「素朴な人々」といった従来の誤った対中認識がこれで一掃され、日本人はより正確に中共政権というものを捉えることができるようになったのです。

 そのことが「構造改革」への追い風となったことは言うまでもありません。

 ――――

 そして、気がつけば、ということになります。「執政能力の向上」などと叫んで当初国内向けに独自色の濃い政策を積極的に次々と打ち出していた胡錦涛は、対日外交でつまずいたところをアンチ勢力に付け込まれて一頓挫。

 いまでは軍主流派に鼻面を引き回されるマリオネットと化し、日本では頽勢が歴然としている媚中派を呼びつけて、……「呼びつける」という前近代的な宗主国気取りの振る舞いに出て、そこで相も変わらぬ出し物を披露するという情けない存在に堕ちてしまっていたのです。

 でも、私は胡錦涛に拍手を惜しみません。鳴り物入りの「学芸会」で注目されたところで持ち出したのが「参拝やめれば会談応じる」というのは実に傑作でした(笑)。これもまた「構造改革」の追い風となるであろうことは想像に難くないからです。

 最後に今回の「学芸会」に対する小泉首相のリアクションを掲げておきます。

 ――

 ●胡主席の会談拒否を批判 首相、靖国参拝めぐり(共同通信 2006/03/31/20:39)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=KCH&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2006033101004352

 小泉純一郎首相は31日夜、中国の胡錦濤国家主席が、小泉純一郎首相が靖国神社を参拝しなければ首脳会談に応じる考えを示したことに対し「靖国参拝するから首脳会談に応じないというのは、私はいいとは思っていない」と批判した。

 首相は「どこの国(同士)でも一部の意見の違いや対立はある。それを乗り越えて友好関係を発展していく方がいい」と反論。胡主席が靖国神社のA級戦犯合祀を問題視していることに関しては「(私の参拝は)それとは関係ない」と強調した。
(後略)

 ――

 ……ね?「またそれかよー」な出し物なものですから小泉首相もいつも通りの返答しかできないのです(笑)。



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 胡錦涛の重要談話なるものが今日(3月31日)、予定通り発表されました。

 これまた予定通りと言うべきか、ショボい内容です。……いや、傑作というべきなのかも知れません。はからずも現在の中共上層部における胡錦涛の統率力の低さを露呈してしまったようでもあるからです。

 ――

 ●参拝やめれば会談応じる 靖国問題で胡主席(共同通信 2006/03/31/20:28)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=main&NWID=2006033101004028

 【北京31日共同】日中友好議員連盟など日本側友好7団体の代表団(団長・橋本龍太郎元首相)は31日午後、中国の胡錦濤国家主席と北京市内の人民大会堂で会談した。

 胡主席は「A級戦犯が祭られている靖国神社を日本の指導者がこれ以上参拝しなければ、首脳会談をいつでも行う用意がある」と表明。小泉純一郎首相の靖国参拝について「個人的な気持ちは分かるが、被害国の気持ちも尊重しなければならない」とも指摘した。

 胡主席は、代表団の訪中に関し「中日関係が困難に直面した状況下であえて訪中され交流することは、関係を改善、発展させていく両国国民の切なる願いを表している」と、関係改善に意欲を示した。

 ――――

 
「参拝やめれば会談応じる」というのは、さきの全人代(全国人民代表大会=立法機関)閉幕後の温家宝・首相会見に比べれば、中共政権側から具体的な問題点及び首脳会談開催条件の提示があり、より踏み込んだ内容ということはできます。

 それが外交部報道官などではなく、最高指導者である胡錦涛の口から直接出たことはトピックです。ただし新鮮味に欠けること甚だしいと言わざるを得ません。

「重要談話っていうから何が出てくるかと思えば、結局はまたそれかよー」

 というのが日本側の大方の感想ではないでしょうか。小泉首相が前回靖国神社を参拝したのが昨年(2005年)の10月17日。「参拝やめれば会談応じる」というのは、その翌月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)前後から中共政権が外交部報道官などを通じて再三、公式に表明あるいは示唆してきたことです。要するにそこから一歩も前進していません。

 前進できないでいるところに、胡錦涛政権の権力基盤の脆弱さ、より端的にいえば最高指導者である筈の胡錦涛のヘタレっぷりがはっきりと出てしまっているように思います。胡錦涛はいまなお自分ひとりで仕切れない状況にあるということです。

 ちなみに国営通信社・新華社からもこの会見についての速報が出ています。

 ――

 胡錦涛「日本の指導者がもう参拝しなければ、対話に応じたい」(新華網 2006/03/31/18:58)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-03/31/content_4369336.htm

 新華網速報:胡錦涛中国国家主席は31日、日本の指導者がA級戦犯を祭っている靖国神社を二度と参拝しないという決断を明確に打ち出せば、中日関係の改善と発展について日本の指導者と会見し対話したいと語った。

 ――――

 この新華社電と上の共同通信の記事を比べるのはなかなか興味深い作業といえるかと思います。新華社電はズバリ「参拝やめれば会談応じる」という点だけを報じました。今後どういう詳報が続くかわかりませんが、第一報がこの内容ということは、現時点における党内の力関係や勢力図に照らした上での合意案として出てきたのが「参拝やめれば会談応じる」なのでしょう。いわば中共側の建前です。

 ところが共同通信の記事には後段が附随しています。

「(胡錦涛は)小泉純一郎首相の靖国参拝について『個人的な気持ちは分かるが、被害国の気持ちも尊重しなければならない』とも指摘した」

 というこの部分、「参拝やめれば会談応じる」というある種断固とした姿勢に比べれば、ちょっと弱気な物言いでフニャフニャしています(笑)。胡錦涛自身の対日路線の本音がチラリと顔をのぞかせた部分かも知れません。今後、中国国内メディアがこの一節を報じるかどうかは注目に値するかと思います。

 胡錦涛本来の対日外交についての私見は以前紹介しましたが、党内における統率力の低さやそれを補うべく軍主流派と手を組まざるを得ないといった諸事情によって、胡錦涛は独自路線を打ち出すことを放棄せざるを得ませんでした。

 独自色を出せないとなると、パートナーである軍主流派や抵抗勢力たる「アンチ胡錦涛諸派連合」の意向が対日外交に反映されることとなります。その結果、日本側の仕掛けに右往左往したり、動脈硬化的な対応に終始して、日本に対し主導権を握れないまま現在に至っています。

 中共政権が日本に対し受け身一方であることは、今回の胡錦涛談話が発表された「場」をみれば明らかです。日本から召集できたのは橋本元首相や高村元外相を含む媚中派7団体のみ。この媚中派7団体に代表される政治勢力が日本国内で民意の支持を得ているかどうかは言うまでもないでしょう。

 仲良しグループだけを集めることしかできず、しかも集めてみたところで「参拝やめれば会談応じる」という古臭い一発芸しか披露できない。そのあと弱気な姿勢が垣間見られたことから、その一発芸が胡錦涛の本意かどうかはどうも疑わしい。そこで「マリオネット胡錦涛主催の学芸会」(笑)という今回の標題になる訳です。


「下」に続く)



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 実にタイムリーな記事が出てきてくれました。有り難い限りです。

 ――

 小泉政権の「日中関係の構造改革」路線に右往左往する一因は、中共政権下では自由な日本研究ができないという事情も影響しているでしょう。近代史研究と同じで、党の定めたドグマから外れた観察や意見を公にすると叩かれ、下手をすると学者生命を断たれるかも知れない。義和団事件に対して党とは異なる評価を下した歴史学者の論文、それを掲載した『中国青年報』の週末版付録「氷点週刊」が停刊処分を喰らったのはその一例です。

 対日戦争についても昨年の8月15日の時点では共産党が孤軍奮闘したように評価されていた(『人民日報』2005/08/15)のが、わずか2週間後の9月3日(反ファシズム何たら60周年記念式典)に突然「戦争は国民党が正面を、共産党が後方を担当した」(胡錦涛演説)ということに歴史が塗り替えられてしまいました。そんなことは中共の歴史教科書のどこにも書かれていなかったでしょうから、学校の先生たちは大慌てしたに違いありません(笑)。

 日本研究もまた、そういう硬直化した政治主導の枠組みの中でのみ息づくことを許されています。指導部にレクチャーを行うブレーンはさすがに違うのでしょうか?……いやいや怪しいものです。日本側の一挙手一投足に右往左往を繰り返し、ほぼ受け身一方に終始している胡錦涛政権の対日外交をみると、そう思わずにはいられません。

 ――

 ……なんてことを先日書いたばかりですが、

 義和団事件に対して党とは異なる評価を下した歴史学者の論文、それを掲載した『中国青年報』の週末版付録「氷点週刊」が停刊処分を喰らったのはその一例です。

 というニュースに続報が出てきました。まあ予想されたことではありましたが。

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 ●中国指導部 学術論争も封じ込め 袁教授の反論文 氷点週刊が掲載拒否(産経新聞 2006/03/30)
 http://www.sankei.co.jp/news/060330/morning/30iti001.htm

 【北京=伊藤正】中国紙「中国青年報」の付属週刊紙「氷点週刊」の停刊処分事件で、停刊の直接原因になった中山大学哲学部の袁偉時教授の歴史論文に対し、同紙は今月一日付の復刊一号に袁論文を批判する論文を掲載したが、袁教授が執筆した反論を同紙が掲載を拒否したことが二十九日分かった。胡錦濤政権が、厳しい言論統制に加え、学術論争も封じ込める姿勢を示したといえ、知識人層の反発を招きそうだ。

 産経新聞が入手した袁教授の論文(華字約一万五千字)は「何のために、いつ、いかに“反帝反封建”?」と題し、復刊号に掲載の中国社会科学院近代史研究所の張海鵬研究員の論文「反帝国主義、反封建主義は近代中国史の主題」に全面的に反論している。

 一月十一日付の同紙に発表された袁教授の「現代化と歴史教科書」は、清朝末期の義和団事件などについて、清朝政府の専制下で、排外主義による暴力行為を肯定して愛国主義、民族主義をあおったことなどを指摘、革命唯物史観に立ち、中国人の行動をすべて正義とする風潮に警告した。

 これに対し、張海鵬研究員は、義和団事件を含め清末の出来事は人民の「反帝反封建の愛国的戦い」とする共産党の歴史認識に基づき、袁論文は西側列強の中国侵略を擁護するものと批判した。

 中国近代史研究の権威である袁教授は、張論文を「史実の誤りが多く、論理も混乱している」とした上で、義和団事件や第二次アヘン戦争などについて、詳細な史料を引いて張研究員の主張に反論。特に義和団事件以降、文化大革命でも吹き荒れた暴力行為を「左派の害毒」と決め付け、張氏を批判した。
(後略)

 ――――

 
「学術論争も封じ込め」と記事のタイトルにありますが、これは日本人の感覚でしょう。古代史や理系の分野ならともかく、現在の中共政権における日本研究や中国近現代史、また政治改革などについては、前述したように党の定めた政治的ドグマという枠組みからはみ出すと叩き潰されます。

 要するに中共政権下においてこれらの分野は「学術」ではなく、政治の都合に合わせて奉仕するよう義務付けられているものなのです。むしろ「宣伝工作」といった言葉が似合う実情にあります。

 ですから党中央の意向に沿って歴史が塗り替えられたり歴史的評価がひっくり返ることは珍しくありません。上でふれたように、昨年には対日戦争についての位置付けが2週間で大転換しています。まずは「対日戦争何たら60周年記念」で出された『人民日報』特約評論員による重要論文、ここでは対日戦争で中共ばかりが頑張ったように描かれています。

 ●中国共産党は全民族が団結して抗戦する中での精神的支柱だった(人民日報 2005/08/15)
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/3614204.html

 7000字近い長文なのですが、「国民党」が出てくるのは1回だけ。しかも、

「国民党軍を主体とする正規軍による戦争は副次的な地位に退き、共産党の抗日武装闘争を中心とする敵後方でのゲリラ戦が主導的地位にあった。抗戦勝利に至るまで、抗日根拠地は終始抗日戦争の主戦場であり、中国共産党の指導による抗日武装闘争が常に抗日の中軸であり主要勢力だった」

 ……と、標題ともども中共ばかりが頑張った、中共が主役だった、といったような書かれ方をしています。ところがこの重要論文が発表されてからわずか2週間ばかり後に、こうした歴史的評価がガラリとひっくり返ります。2005年9月3日に開かれた「反ファシズム何たら60周年記念式典」における胡錦涛・総書記の演説です。

「中国国民党と中国共産党が指導する抗日軍隊は、正面の戦場と敵の後方での作戦任務をそれぞれ担い、共同して日本の侵略者に抵抗するという戦略的態勢を形成した。国民党軍を主体とする正面戦場においては一連の大会戦を展開し、(中略)敵の後方では中国共産党に率いられた広範なる人民によるゲリラ戦が展開された。」

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-09/03/content_3438800_3.htm

 ……という全く新しい見解が示され、中共と国民党が対日戦争で果たした役割が「五分五分」に一変しているのです。

「中共は精神的支柱だった」
「国民党軍を主体とする正規軍による戦争は副次的な地位に退き」
「中国共産党の指導による抗日武装闘争が常に抗日の中軸であり主要勢力だった」

 といったそれまでの評価は、国民党を篭絡するという対台湾政策の必要上あっさりと放棄された訳です。まさに「宣伝工作」であり、政治に奉仕するのが「中国近現代史」の本務なのです。今年の新学期(9月)から使われる中国の歴史教科書はこの部分が大きく書き換えられているのではないかと思います。

 ――――

 日本研究もまた党中央の定める政治的位置付けという「教義」から外れることは許されません。対日戦争での被害者数が年を追ってどんどん水膨れし、南京何たら事件の死者が30万人にも40万人にも膨れ上がり、「重慶空襲」が「重慶大空襲」に格上げされる。……中国国内に身を置いている研究者がそれに異論を唱えるには、学者生命を断たれるかも知れないというほどの悲壮な覚悟が必要となります。対日政策で「新思考」の必要性を唱えた馬立誠が香港へと飛ばされたことを御記憶の方も多いでしょう(それが干された結果なのか、飛ばすことで馬立誠を保護したのかはわかりませんが)。

 ――

 ●「歴史を基礎にするな」中国政府系元所長が対日転換論(読売新聞 2006/03/28)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060328id01.htm

「中国が歴史問題で対日圧力を強める中、政府系研究機関・中国社会科学院の元日本研究所長で国際問題専門家の何方氏が、『歴史問題を日中関係の基礎にしてはならない』との見解を、中国の専門誌『社会科学論壇』(3月上期号)に発表した。何氏は歴史偏重の対日政策を批判し、事実上、歴史カードの放棄を主張。中国で『対日新思考』が封殺されて以降、対日政策の大胆な転換を訴える意見が公開されるのは極めて異例で、論議を呼びそうだ。」

 ――

 というニュースが最近流れましたが、これが事実で私の調べに間違いがなければ、この何方氏は1922年生まれで当年とって84歳。「氷点週刊」の停刊処分を批判する文章を発表した党長老のひとり胡績偉・元人民日報社長が齢90にならんとしていたのと同じで、片足を棺桶に突っ込んでいるからもはや弾圧を恐れる歳でもない、という心境が大胆な行動になったのではないかと思います。

 2003年に中国肺炎(SARS)が北京で流行していることを当局が隠蔽している、と告発し、その後1989年の天安門事件での体験記(負傷者の治療に当たった)と同事件の名誉回復を求める公開書簡を発表した蒋彦永医師もまた高齢ですね。知識人としての良心とともに、似たような気持ちがあったのかも知れません。

 天安門事件といえば、当時上海に留学していた私はその前段である大学生による民主化運動の真只中にいました。中国人学生が授業をボイコットし、教師もストライキに入ったために授業が行われず、これ幸いとばかりに嬉々としてデモに参加したり、自分なりの記録を残そうと取材したりしたものです。

 その合間、外灘(バンド)に面した和平飯店のロビーのソファーでひと休みしつつ、状況をチェックすべく常に携帯していたラジオで中波の地元局(上海人民広播電台)を聴いてみると、もはや定時ニュースや番組といった態をなしておらず、著名人による民主化運動支持声明が延々と読み上げられていました。その異様さに戦慄しつつ、支持声明の中に中国の代表的作家のひとりである巴金氏(昨年逝去)の応援メッセージもあったことが強い印象となっていまも記憶に残っています。……1989年5月のことですが、ああいう放送の記録もきっと消されてしまい、今は放送局にも残っていないかも知れません(私は録音してありますw)。

 天安門事件に対する評価も「反革命暴乱」と規定した「教義」がいまなお有効であるために、研究者にとってはタブー同然のテーマとなっています。日本研究もまた然りで、まず歴史認識が「中共史観」で固定され、日本に対してもその歴史観を奉じるようしつこく強要しているという硬直化した「教義」があるために禁忌満載。南京何たら事件なども「教義」から離れて自由に検証することは許されていないでしょう。

 現実的な「対日新思考」もなおその範疇にあるかと思います。指導部のブレーンもこうした枠組みから逃れられないのであれば、胡錦涛の統率力が不十分で果断な措置に出られない以上、中共の対日外交も動脈硬化的な対応に終始せざるを得ないでしょう。

 ――――

 何やら勢いに任せてここまで書いてしまいましたが、要するに「氷点週刊」での中国近代史をめぐる見解の対立は「学術論争」ではなく、心ある研究者が一党独裁政権の定めた「教義」に挑んだ勇気ある行動、ということです。前掲記事では、

「胡錦濤政権が、厳しい言論統制に加え、学術論争も封じ込める姿勢を示したといえ、知識人層の反発を招きそうだ」

 とありますが、近現代史や日本研究、また政治改革などの分野においては学術論争はおろか、自由な研究発表すら保証されていない環境にあるのです。
「知識人の反発を招きそうだ」ではなく、すでに今回の「氷点周刊」をめぐる一連の動きが反発そのもの。やや極端な表現をするなら、これも「官民衝突」の一形態といっていいかと思います。理不尽な独善に対する嚆矢、いや「官民衝突」と規定するなら、「民」の側から次々に放たれている矢の1本ということになるでしょう。

 独善は、それを維持するための硬直的なアクションが往々にして綻びとなり、そうした無理の蓄積がついには滅びを呼ぶことになるものです。



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 以前、李肇星・外相の記者会見を俎上に乗せて漢民族特有の病態を主題にしたことがありますが、今回も同様の症状がみられるケースです。

 1週間ばかり前なのでニュースというには古いのですが、外交部報道官定例記者会見で皆さんお馴染みの孔泉・報道官(新聞司司長)が欧州司司長へと異動になりました。欧州司司長というポストの格がどれほどのものかわかりませんが、以前報道官を務めていた章啓月(リック・ドム系熟女)がベルギー大使に転出したのに比べると地味な感じがします。ただ欧州司司長というのが在欧州の中国大使館や総領事館を統括する役目だとすれば、章啓月以上の栄転ということになるのでしょう。

 ともあれ私たちの前から姿を消してしまう訳ですから、孔泉追悼会というかお通夜というか、今回はそういう気分でいきましょう。

 私などはこうして連日電波浴をしていますから、孔泉が会見でみせるパフォーマンスなどはヌルいヌルい。「ああいう芸風」と片付ける程度で何とも思わなかったのですが、憎体面がテレビで流れることで日本人の対中嫌悪感の強化に結構貢献していたのかも知れません。

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 ●孔報道局長、欧州局長に転出 中国外務省(Sankei Web 2006/03/21)
 http://www.sankei.co.jp/news/060321/kok045.htm

 (前略)
国家指導者が記者会見に応じる機会が少ない中国で、外務省スポークスマンは政府の意思を対外的に伝える「顔」。孔氏は悪化する日中関係を反映し、時に顔を赤らめ、身ぶり手ぶりも交えて日本を批判した。孔氏の強い口調に、日本側からは「日本国内の感情を逆なでした」(日本外務省筋)と批判する声も上がった。2003年9月には日本人団体旅行客の集団買春をめぐり「日本政府が自国民を教育するよう希望する」と発言、話題となった。

 ――

 「日本国内の感情を逆なでした」のですか。道理で押さずに相手国民の感情を逆なでしてしまうのなら外交官として失格ですね。でも李肇星同様、孔泉のパフォーマンスは多分に内向き、つまり自国民の眼を意識し、自国民に溜飲を下げさせるためのもののような印象がありました。要するにエンタテインメントという範疇に入れるべき振る舞いなのですが、そうなってしまうあたりが「医学が扱う問題」となる訳です。

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 ともあれ、お通夜ですから故人への思い出を語ることにしますか。孔泉会見の中で私にとって印象深いものは2回あります。いずれも過去にとりあげていて笑える内容のものです。重複を恐れずに書きますと、1回目は2005年1月、李登輝氏が来日し、その行程を消化して台湾に帰ったあとの会見です。

 李登輝氏訪日に対しては事前の中国側の反発が近年にないトーンのものでした。

「『中日共同声明』など中日間で取り交わした3つの政治的文書の基本原則に背いた」
「トラブルメーカーが戦争メーカーになる」
「中日関係にダメージとなるだろう」(日本にダメージ、ではなく日中関係w)
「必ずや自業自得という結果を招くだろう」

 などなど、来日前は激語連発でしたから事後の報復措置もさぞや凄いものが出てくるだろうと期待していたのですが、口では色々言えても、いざ報復措置となると気付いたら中共政権には手札が皆無に等しい状態でした(笑)。そこで李登輝氏帰国直後の孔泉会見となるのですが、これが来日前の過激な言辞とは裏腹の、ひどく淡白な内容になってしまうのです。

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 ●中国:李登輝氏訪日への対日報復見合わせ 外務省局長示唆(毎日新聞 2005/01/06)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050107k0000m030056000c.html

 【北京・上村幸治】中国外務省の孔泉報道局長は6日、日本訪問を終えた台湾の李登輝前総統について「台湾独立を急ぐ人物は、あらゆる正義感を持つ人に唾棄(だき)されるだろう」と批判した。しかし、李氏の日本での行動には言及しなかった。

 また査証(ビザ)を出した日本政府への報復措置にも触れず、報復を見送ることを示唆した。李氏が日本で注意深く政治活動を避けたため、追及するとっかかりを得られなかった模様だ。

 李氏の訪日問題は中国外務省が激しく反発し騒ぎを大きくした。しかし報道局長はこの日の会見で「一部のメディアが関心を持っているらしい」と人ごとのように述べ、記者団の失笑を買った。中国外務省としては、これ以上問題を引きずりたくない模様だ。
(後略)

 ――――

 記事文中に
「一部のメディアが関心を持っているらしい」とありますが、この部分、原文では「一部のメディア」ではなく、言うも言ったり、「一部の日本のメディアはこの人物(李登輝氏)についてとても『関心』を持っているようだが……」と孔泉は語っています。避けたい話題なのですが質問が出たので澄ました顔で嫌味に逃げた、というところでしょうか。

 ●「新華網」(2005/01/07)
 http://news.xinhuanet.com/zhengfu/2005-01/07/content_2427134.htm

 そこで記者もよほどムカついたのか、

「人ごとのように述べ」
「記者団の失笑を買った」
「これ以上問題を引きずりたくない模様だ」

 と、珍しくも反感を露わにしたような筆致になっています(笑)。

 ――――

 もうひとつの笑わせてもらった思い出は今年初め、2006年1月10日の定例会見でのことでした。その前日、1月9日に北京で開かれた日中政府間協議で中国外交部の崔天凱・アジア局長(当時)が、

「日本のマスコミは中国のマイナス面ばかり書いている。日本政府はもっとマスコミを指導すべきだ」

 と言ってのけ、日本側を唖然とさせています。

 ●中国、日本に「報道規制」を要求・マイナス面の報道多い(Nikkei Net 2006/01/09)
 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060109STXKB032609012006.html

 ――――

 私はその発言のぶっ飛んだ内容からして、外交部が従来の運動律から外れて電波モードに入ったのではないか、その背景には統率力不足の胡錦涛・総書記と取引した軍主流派の台頭があるのではないか。……といったことを思ったのですが、翌10日に孔泉が定例会見で足並みを揃えてしまうのです。崔天凱発言についての記者からの質問に対し、

「あなたが言う中国官僚の話だが、私はそれが正確なものではないと考えている」

 と孔泉はきっぱりと否定してみせました。その一言で斬って捨てればよかったのですが、そこは芸人、オイシイ場面で笑いをとらずにはいられませんから、つい観客にサービスしてしまうのです。

「(日本の一部のメディアは)なぜ中日関係において出現した摩擦や問題を騒ぎ立てることに熱中し、また歴史問題を含めた重大な原則問題について再三再四にわたって騒ぎ立てることに熱中して、中国人民を含むアジア人民の感情を傷つけるのか」

 ●「新華網」(2006/01/10)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/10/content_4035033_3.htm

 これには笑わせてもらいました。「日本のメディアが騒ぎ立てること」で「中国人民を含むアジア人民の感情を傷つける」とは実に素晴らしい展開です。だってその言の通りであれば、「中国人民を含むアジア人民」が揃って相当な日本語力を持ち合わせていることになるではありませんか(笑)。ツッコミを入れるなら「お前ら中国メディアの偏向報道が自国民の感情を傷つけているんだろうボケ」といったところでしょうか。

 ――――

 ……お通夜終了。病気の話をしないといけません。李肇星会見や孔泉会見に共通しているのは、その独特の芸風である派手なパフォーマンスが主に自国民を酔わせるためのものだということです。澄ましたり表情をつくったりしながら誠意のない愚にもつかぬ発言で外国人記者を転ばせてみせる。それを見て中共政権下の国民は溜飲を下げる訳です。

 病気なのです。中華を自認してはばからないプライドの高さに加え、アヘン戦争以来の強烈なコンプレックス。そのいずれもが病気と診断されるレベルである上、一人格または一民族にその2つの症状が同居している。漢民族特有の病態です。この種のエントリーでは毎回言及していますが、ブルース・リーのある映画で最後に彼が叫ぶ、

「俺たち中国人はアジアの懦夫ではないぞ!」(我o地中國人並唔係東亞病夫!)

 というパフォーマンスから、演じ手も観客も全く進歩していません。詳細は李肇星編を参照して頂ければ幸いなのですが、漢民族特有の病態がはっきりと出てしまうのがこういう会見という訳です。

 今回の孔泉の異動を報じる記事にもそれが反映されてしまっています。

 ●「新華網」(2006/03/21)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/21/content_4327651.htm

「新聞司司長に就任して5年このかた、孔泉はユーモアや機知、また鋭い舌鋒で(定例会見を)湧かせてきた。ある外交部定例記者会見において、日本の国連安保理常任理事国入りに関する問題に対し孔泉が『国連は会社の役員会ではない。払っている会費の多寡でその地位が決まるものではないのだ』と語ったことは内外に強い印象を与えた」

 ……と、転出元、転出先、経歴紹介のみで終わることの多い異動記事が、異例ともいえる一節を加えています。その発言に快哉を叫んだ国民がよほど多かったのでしょう(笑)。

 ――――

 最後に、これは李肇星編でもふれたことなのですが、重要だと思えるので改めて強調しておきます。……とは、中国人には「反日」と「侮日」の両者が同居しているということです。

 上述した病態にたとえれば、「反日」はコンプレックスの反映であり、「侮日」は中華思想のなせる業ということになるでしょう。「反日=日本鬼子」なら「侮日=小日本」です。いわゆる「愛国主義教育」で「反日」が大々的に強化されましたが、一転して「親日教育」を何十年か続ければあるいは消すことができるかも知れない、というのが「反日」です。

 ところが数千年の歴史の蓄積に裏打ちされた「侮日」はそうはいきません。実に厄介なものですが、要するに基地外国家と基地外国民な訳ですから、外交での常識を当てはめてマトモに考えることはありません。例えば隣国なのに首脳会談が途絶えてしまっている、なんてことを憂慮することこそ間違いであり、基地外に同調してしまっていることになります。

 ……と、やはりこういう結語に落ち着ついてしまいました。ちなみに前回紹介した「日中関係の構造改革」を今回の主題に当てはめて表現するなら、隣国が基地外であることを認識した上での二国間関係を再構築しよう、というものだと私は理解しています。



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「上」の続き)


 ところで、この「日中関係の構造改革」という日本側の戦略転換についていけないでいるのが他ならぬ中共政権です。新事態に戸惑い、あるいは脊髄反射し、挙げ句の果てに政争やら反日騒動まで引き起こす右往左往ぶり。もちろん、その背景には胡錦涛・総書記の統率力不足で党上層部を一枚岩にすることができない、という要因があります。

 一枚岩ではないから、対日融和路線を打ち出すと弱腰だと叩かれる。かといって強硬路線に転じれば日本側が硬化して事態がますます困難なものになる。前回述べたように、最近はとうとう日本に「経済制裁」までされる始末。胡錦涛には御愁傷様と言うほかありません(笑)。

 そのODA2006年度分の凍結、という「経済制裁」に対して、中共は未だ有効な反撃ができないままです。

「日本が一方的に決定先送りを決め、『経済援助』を外交カードに使うのは、『政冷』が『経涼』を加速させるものだ」

 ……というのが現時点では精一杯のようです。

 ●『人民日報』(2006/03/27)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/27/content_4348139.htm

 ――――

 一方で中共にしてみれば、「ポスト小泉」には「構造改革」路線を継承してほしくない。そこで最近は福田・元官房長官を持ち上げる動きが中国国内メディアで出始めています。

 ●福田康夫の支持率が右肩上がり、安倍晋三を急追する人気に(新華網 2006/03/27)
 http://news.xinhuanet.com/herald/2006-03/27/content_4349463.htm

 新華社系国際時事週刊誌『国際先駆導報』の記事ですが、タイトルからして露骨ですね(笑)。これによると、

「ポスト小泉の人気ランキングにおいて、安倍氏の支持率は47%と相変わらずトップだが、すでに50%を割り込んで、その人気に陰りが見え始めている。これに対し、福田氏の支持率は上昇傾向にあり、過去の1桁台から20%にまで伸びてきている」

 だ、そうです。支持率調査を行ったのはもちろん『朝日新聞』(笑)。福田氏は谷垣氏と並んで「親中派」と評価されていますが、2Fじゃあるまいし、日本人の対中感情が悪化している現在、中共にこんなレッテルを貼られたら有難迷惑かも知れませんね。福田氏が首相になれば日中関係は改善されるだろう、とこの記事は予測していますが、要するに「日中関係の構造改革」を放棄してくれるだろう、と期待しているのでしょう。

 ――――

 ……それにしても胡錦涛が発表するという対日関係についての「重要講話」ともども、この旧態然とした宣伝工作は何とかならないものでしょうか。だいたい媚中派の面々を北京に呼びつけて「講話」を発表するという宗主国めいた説教気取りからして現実に対応できていません。中国人学者を日本にバラまいて活動させるというのも古臭いやり方で、実際、対中感情の悪化には好転する気配がみられません。

 そしてそういうカビ臭い種の割れた手品を見物させられるこちらとしては、政治的畜類たる中共政権下の国民や、準畜類である香港人などと一視同仁にされているようで誠に不愉快です。民度が違うのだよ民度が。

 ややイマ風の策として打ち出された「女子何たら楽坊」も終わっちゃってますし、「漢流」という言葉が最近出てきてはいるものの、その実態は「台流」ですし。……いやそれ以前に国内の政治勢力をまとめ上げないと胡錦涛はまた足元をすくわれることになるでしょう。

 ――――

 小泉政権の「日中関係の構造改革」路線に右往左往する一因は、中共政権下では自由な日本研究ができないという事情も影響しているでしょう。近代史研究と同じで、党の定めたドグマから外れた観察や意見を公にすると叩かれ、下手をすると学者生命を断たれるかも知れない。義和団事件に対して党とは異なる評価を下した歴史学者の論文、それを掲載した『中国青年報』の週末版付録「氷点週刊」が停刊処分を喰らったのはその一例です。

 そこで「明治維新とともに対外侵略を目標とする富国強兵策に邁進した日本は……」みたいな硬直的な見解しか許されず、政治の都合によって南京何たら事件の死者数が突如激増したりします。重爆数百機~1000機単位による連合軍の対日・対独本土空襲に比べれば、たかだか中型攻撃機数十機によって繰り返された実にショボい重慶空襲がいつの間にか「重慶大空襲」に格上げされたりもしましたね。

 対日戦争についても昨年の8月15日の時点では共産党が孤軍奮闘したように評価されていた(『人民日報』2005/08/15)のが、わずか2週間後の9月3日(反ファシズム何たら60周年記念式典)に突然「戦争は国民党が正面を、共産党が後方を担当した」(胡錦涛演説)ということに歴史が塗り替えられてしまいました。そんなことは中共の歴史教科書のどこにも書かれていなかったでしょうから、学校の先生たちは大慌てしたに違いありません(笑)。

 日本研究もまた、そういう硬直化した政治主導の枠組みの中でのみ息づくことを許されています。指導部にレクチャーを行うブレーンはさすがに違うのでしょうか?……いやいや怪しいものです。日本側の一挙手一投足に右往左往を繰り返し、ほぼ受け身一方に終始している胡錦涛政権の対日外交をみると、そう思わずにはいられません。

 ――

 一、さくら さくら 今、咲き誇る  刹那に散りゆく運命(さだめ)と知って

 二、さくら さくら ただ舞い落ちる  いつか生まれ変わる瞬間(とき)を信じ

 三、さくら さくら いざ舞い上がれ  永遠(とわ)にさんざめく光を浴びて

 ――

 御存知、森山直太朗氏のヒット曲「さくら」の歌詞から抜き出したものですが、中共政権下の日本研究者どもは、日本の若い世代がこういう詩を書き、それが広範に支持されたという点に深い考察を加えた方が、いまさら『菊と刀』を熟読するよりためになるのではないか。……と私は昨日(3月27日)、海軍カレーを食べ零戦を眺めつつ思いました。

 ――――

 ●胡政権、対日政策で対立も 防衛研が中国情勢分析で(共同通信/goo 2006/03/27)
 http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/seiji/20060327/20060327a1770.html

 防衛庁のシンクタンク「防衛研究所」は27日、日本周辺の安全保障環境を分析した「東アジア戦略概観2006」を公表し、中国の胡錦濤政権内で対日政策をめぐり意見が対立している可能性を指摘した。
(中略)中国の対日外交については「関係重視の方針を確認しているが、厳しい対日世論を反映して政権内で意見対立が起きている可能性がある」との見方を示した。(後略)

 ――

 ●対日政策巡り、中国内対立も・防衛研が分析(Nikkei Net 2006/03/27)
 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060327AT3S2700627032006.html

 防衛庁のシンクタンクである防衛研究所は27日、2006年度版の「東アジア戦略概観」を発表した。中国の対日外交に関して「歴史問題などで厳しく批判し、他方で関係重視の方針が不変であることを強調するという二律背反する政策を実施している」と指摘。胡錦濤政権内で対日政策を巡り、意見対立が起きている可能性があるとの見方を示した。
(後略)

 ――

 遅ればせながら、日本の「官」からもようやくこういう分析が出てくるようになりました。ただ私からみると、これだけでは不足です。

「歴史問題などで厳しく批判し、
反日色の濃い『愛国主義教育』を10年以上続けながら、他方で関係重視の方針が不変であることを強調するという二律背反する政策を実施している」

 ……とすべきでしょう。「厳しい対日世論」がどうやって形成されたかを考えれば、「愛国主義教育」は外せませんし、対日政策において胡錦涛がいま直面している問題の根っこもそのあたりにあるからです。

 ――――

 第四代最高指導者として胡錦涛に振られた役割も、実は構造改革なのです。改革・開放で走ってきた20余年で生じた歪みや矛盾、例えば「貧富の格差」「沿海部と内陸部の格差」「都市部と農村部の格差」、それに「失業問題」「失地農民」「党幹部の汚職蔓延」「教育問題」。……これらを構造改革によって何とか改善していこうというのが胡錦涛の使命であり、そのために「科学的発展観」だの「調和社会」といった目標が空疎ながらも掲げられています。要するにトウ小平と江沢民の尻拭いをする、というババを引いてしまった不運なキャラが胡錦涛です。

 対日外交においても胡錦涛は江沢民の尻拭いをしなければなりません。中共一党独裁という体制維持のために始められた反日風味満点の「愛国主義教育」が、いまや負の遺産となって自縛状態となり、対日政策における選択肢が限られてしまっているのです。

 融和路線に出れば党内から異論が噴出し、さりとて強硬姿勢を続けていけるほどの手札もない。本来ならここでも構造改革を断行すべきなのですが、党上層部を一枚岩にする実力のない胡錦涛としては、進退に窮するのみです。

 ――

 ●「歴史を基礎にするな」中国政府系元所長が対日転換論(読売新聞 2006/03/28)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060328id01.htm

「中国が歴史問題で対日圧力を強める中、政府系研究機関・中国社会科学院の元日本研究所長で国際問題専門家の何方氏が、『歴史問題を日中関係の基礎にしてはならない』との見解を、中国の専門誌『社会科学論壇』(3月上期号)に発表した。何氏は歴史偏重の対日政策を批判し、事実上、歴史カードの放棄を主張。中国で『対日新思考』が封殺されて以降、対日政策の大胆な転換を訴える意見が公開されるのは極めて異例で、論議を呼びそうだ。」

 ……云々、という新しい動きが出てきましたが、こういう意見が指導部の方針としてすんなり採用されるほどの統制力が胡錦涛にあるとは思えませんから、構造改革の前途は険しいというしかないでしょう。「政争の再燃は必至だ」なんて言ってみたりして(笑)。



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 小泉首相が対中外交において目指しているのは「日中関係の構造改革」ではないか、と前回書きました。やや具体的には麻生外相のいう「上下関係のない対等な二国間関係」。国際社会の枠組みの中で二国間関係に上下関係が出現することはままあるでしょうが、日中関係についていえば「対等な関係」というのはしごく真っ当なものでしょう。

 国交正常化以来30余年に及ぶ対中外交を振り返れば、「対等な関係の実現」というのは戦略的転換といってもいいでしょう。その意識を日本国民に浸透させ、同時に中共政権に知らしめるべく行われたいくつかの試みのひとつが、小泉首相による靖国神社参拝です。

 靖国問題に関しては日本国民の中から異論が出るのは自然なことです。ですからそれを議論するのは大いに結構だと思います。ただしあくまでもこれは日本国内の問題であり、日本国民のみが議論する資格を有しているものです。

 日本国内の問題である以上、他国の干渉はもちろん許されません。日本国民の問題ですから、日本在住の外国人がとやかく言う資格が全くないことも言わずもがなです。それなのに中国はその内政干渉を幾度となく繰り返してきた。小泉首相は靖国神社を参拝するという行動を以て、その都度それを跳ね返してきました。……いっそ、

「中共政権の行為は日中関係の原点たる日中共同声明に違反するものである」

 と踏み込んで一喝すればいいのです。「日中共同声明」の第6項に以下の文言があります。

「日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する。」

 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html

 ――――

 「八・一五参拝」を公約したのに期日をずらすのは姑息だ、という意見もあるでしょうが、何はともあれ毎年1回の靖国神社参拝を貫き、中共の批判に頑として応じなかった小泉首相の姿勢は、過去の日本の総理大臣にはみられなかったものです。その一貫した姿勢を支えているのが「日中関係の構造改革」という目標ではないか、と私は思うのです。

 ――

 ●小泉首相:在任期間中に靖国参拝示唆 首相官邸で記者会見(毎日新聞 2006/03/27)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060328k0000m010087000c.html

 小泉純一郎首相は27日夜、06年度予算案成立を受け、首相官邸で記者会見した。首相は、9月の自民党総裁選の争点に浮上しているアジア外交と自らの靖国神社参拝について「私の靖国参拝を批判する中国、韓国の政府がいまだに理解できない。中国の言うとおりすればアジア外交が展開されるものではない」と強調。両国の対応を改めて批判、今年も「年1回」参拝の前例に沿い、首相在任期間中に参拝を行うことを示唆した。

 首相は靖国参拝について「適切に判断する」としながら「これは心の問題だ。靖国参拝をやめれば中国、韓国との関係がうまくいくというのは、突き詰めれば中国や韓国の言うとおりしなさいということにつながる」と強調した。
(後略)

 ――

 ●小泉首相が靖国参拝批判に強く反論(Sankei Web 2006/03/27)
 http://www.sankei.co.jp/news/060327/sei090.htm

 小泉純一郎首相は27日夜、
(中略)首相の靖国参拝を中国や韓国が批判していることについて「意見の違いがあるから首脳会談を行わない国はほかにない」と述べ、厳しく批判した。

 さらに、首相は「日本の首相が日本の施設に行くことに対して、『中国の言うとおりにしなさい、韓国の言うとおりにしなさい』という方々も私は理解できない」と述べ、国内の一部マスコミや言論人の批判に強く反論した。

 ――

「これは心の問題だ。靖国参拝をやめれば中国、韓国との関係がうまくいくというのは、突き詰めれば中国や韓国の言うとおりしなさいということにつながる」

「日本の首相が日本の施設に行くことに対して、『中国の言うとおりにしなさい、韓国の言うとおりにしなさい』という方々も私は理解できない」

 首相の口からこうした実にわかりやすい、国民一般にも素直に頷いてもらえるような発言が出るようになったのも、毎年1回の参拝という事実が積み上げられたからこそ、だと思います。ODA(政府開発援助)の今年度分凍結(決定先送り)という強硬措置も、4~5年前なら到底実行することができなかったものでしょう。

 ポスト小泉の条件とされる「小泉政権の改革路線を継承する」という中に、「日中関係の構造改革」が含まれていることを祈るばかりです。


「下」に続く)



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「上」の続き)


 一方、今回の「経済制裁」に対する中国側の反応も速かったですねえ。間髪入れずに外交部報道官が定例会見でこの事態に言及しています。

 ――

 ●「一方的」とけん制=円借款供与決定見送りを非難-中国(時事通信 2006/03/23/19:01)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060323-00000110-jij-int

 【北京23日時事】中国外務省の秦剛副報道局長は23日の定例記者会見で、日本政府が2005年度の対中新規円借款に関して年度内の供与決定の見送りを決めたことについて「中日双方の合意に基づき、円借款問題の円満な終了は双方の利益に合致する」とした上で、「日本側の一方的な決定は日中関係改善の雰囲気につながらない」と非難した。さらに、双方の対等な協議によって一致を得る原則に基づき適切に問題解決を図る方針を示し、日本ペースの動きをけん制した。

 ――

 でも実はこれよりも早く、中国国内では「チャイナ・デイリー」(中国日報)電子版が速報しています。

 ●日本が今年度対中円借款の決定延期へ……安倍官房長官(中国日報 2006/03/23/16:17)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/23/content_4336501.htm

 16時17分ですよ。正に間髪入れずといった様相です。そして上の秦剛副報道局長による外交部報道官談話となります。原文はこちら。

 ●日本の一方的な対中ODA凍結は中日関係のためにならない(新華網 2006/03/23/20:00)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/23/content_4337546.htm

 
「ODAは一方的な施しではない。互利互恵のプロジェクトだ」という台詞がここで出てくるのですが、こういう啖呵を切るシーンを秦剛に任せるのはまだ無理でしょう。転出した孔泉がいてくれたら……といったところです。無理といえば頭を下げて援助されるべき側が「カネを出さねえとはどういう料簡だ」と凄んでいるのも無理無体ですねえ(笑)。

 ――――

 これに続いて胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』(2006/03/24)が東京特派員発の記事を掲載していますが、これがなかなか面白いのです。

 http://zqb.cyol.com/content/2006-03/24/content_1341936.htm

 ここには前日に秦剛が言い放った「ODAは一方的な施しではない」調の文言は全く出てきません。援助凍結の原因は日中関係の悪化で、それは先のガス田関連会議における中国側の提案が尖閣諸島方面を含んでいたことによって日本側の態度が硬化したため、とあります。日本の新聞と違って靖国神社が登場しません。まるで中国側の提案がこういう事態を招いた、といわんばかりの記事です(笑)。

 ……これは特派員の怠惰でしょう。日本の新聞を買い集めてそれを基に記事を作らない限り、なかなかこうは書けないものですから(笑)。さらに秦剛談話とは掌を返したかのように、円借款の貢献度がいかに高かったかなどというある意味「哀願」調の部分があったりもします。

 『新京報』は逆に「これは右翼の策動だ」という専門家の意見を記事にしています。これはこれで秦剛談話の内容とは一線を画しており、どうも統一がとれていません。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/24/content_4338585_1.htm

 中国国内メディアの足並みが揃っていないのは、まだ党中央の動揺が続いているということなのでしょうか。確かに「援助凍結」による直接的なダメージを除けば、中国側には戦慄すべきポイントが3点あり、それが脊髄反射や関連報道の混乱にもつながっているように思います。

 第一は前述した通り、日本が「経済制裁」という予想外の強硬策に出たことへの驚きです。第二にその措置を発動するに至るまでの時間が短かったこと(=中共による日本政界分断策が全く機能していない)。そして第三としては、先の全人代(全国人民代表大会=立法機関)閉幕後の首相記者会見で温家宝が日中関係の促進策として、

 ●政府間戦略対話を継続し、中日関係の障害を除去。
 ●民間交流を強化し、相互の理解と信頼を増進。
 ●両国の経済貿易関係を安定、発展させ、双方が利益を得られる協力を拡大。

 という3提案を行いましたが、今回の「経済制裁」にはそれを踏みにじるニュアンスがあるということです。要するに温家宝の面子が丸潰れといったところでしょうか。

 ――――

 中共のリアクションに対して、日本側は涼しい顔をしていますね。こういうときはやはりファンタジスタの出番でしょう。

 ――

 ●対中円借款(外務大臣会見記録 2006/03/24)
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_0603.html#7-C

 (問)中国に対するODAですが、年度内の閣議決定を見送る方針を昨日発表しましたが、判断された理由について教えて下さい。
 
(外務大臣)確か、官房長官から諸般の事情と言われたのではないですか。
 
(問)大臣としてはどのようにお考えですか。
 
(外務大臣)同じです。
 
(問)中国からこれに関して反発が出ていますが、それについては。
 
(外務大臣)出ていないと思います。

 ――

 外相就任後の最初の記者会見もそうでしたが、澄ました顔で無視同然の扱いを受けるというのが中共にはいちばんこたえるのではないかと思います(笑)。

 ――――

 最後に、やはり「楽しい中国ニュース」(2006/03/24)で既報しているこの記事。

 ●中国が日本の国連分担金修正案に猛反発。
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/23/content_4337486.htm

 日本も中国政治が不安定になりがちな全人代直後のこの時期、結構色々と仕掛けているようですね。これもまた「構造改革」の一環とみてやっていいでしょう。

 ……あ、5月10日に来日予定の李登輝氏の扱いについて「一民間人なのだから特に問題としない」という政府の態度もそうですね。中国が最も目にしたくないのは、ポスト小泉政権もこうした「構造改革」路線を継承することでしょう。

 それにしても「経済制裁」とは妙手でしたね。対中外交において、まことに良き前例を開いたものだと思います。



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 前回のコメント欄で話題になっていた対中ODA(政府開発援助)凍結の話でもしますか。実は姉妹サイトの「楽しい中国ニュース」(2006/03/24)でもう扱っているのですが、とりあえずそこでの適当コメントを臆面もなく引き写します。

 ――

 別に「白樺」への反発ではないんだけど、中共による相次ぐ不埒な悪行三昧への鉄槌でしょうな。「ODAがなくてもやっていける」と言ったのは温家宝か李肇星か忘れたけど、そりゃこれまで巨額の援助を受けた後だから平気でそんなことを口にできる訳だわな。……にしても舐めた振る舞いでしょこれは。

 とはいえ中共がカナーリ戦慄しているのはこの件を速報した上に外交部報道官がすぐコメントを発表したことでもわかる。少しは余裕みせたらどーよ。「ODAは一方的な施しではない。互利互恵のプロジェクトだ」なんて言ってたけど、日本にとってはもはや互利互恵じゃないから施しを止めたまでで。

 それにしても今回、日本側はサクサクと事を進めて決定・発表したね。中共の戦慄も援助云々よりそのあたりに起因しているに違いない。

 ――

 ……今回はもう少し踏み込むことにします。問題はこの出来事をどう捉えるかということです。純粋に援助凍結とみるなら、前回コメント欄で「774」さんが指摘して下さったように、ODAだけじゃなくアジア開発銀行をはさんだ迂回融資のような形で日本のカネが中国に入っていることを考えなければなりません。ODAを語る上で忘れてはならない重要なポイントです。

 http://turbulent.seesaa.net/article/9414067.html

 ただ今回のケースについていえば、私はその角度から切り込むと問題を見誤るように思うのです。

 今回のケース、これは
「対中経済制裁」ではないでしょうか。

 援助額の多寡とか他の援助ルートの有無とは関係なく、日本政府が昨今の日中関係に鑑み、自ら決断して対中円借款の凍結に踏み切った。きわめて政治的なアクションです。

 1989年の天安門事件に対する経済制裁は西側諸国の動きに同調した、ある意味受動的な措置でした。でも今回は違います。「対話と圧力」でいうところの「圧力」を明確に行使したもの、と私は捉えています。

 その効果がどれほどのものになるのかはともかく、これは経済制裁なのです。先走って言ってしまうと、日本がそれを即断というに近い速さで決定し、実行へと移したことも大きなポイントであり、大きな変化ではないかと思います。

 ――――

 ともあれ時系列で事態を追ってみましょう。私のみた限りでは、このニュースを最初に伝えたのは『毎日新聞』(電子版)でした。3月23日の自民党外交関係合同部会で本決まりになる前に、外務省がその肚を固めたという報道です。

 ――

 ●対中円借款:関係悪化で、閣議決定は当面見送り 05年度(毎日新聞 2006/03/23/03:00)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20060323k0000m010174000c.html

 (前略)
外務省は05年度についても今月末に閣議決定する予定だったが、今月7日に北京で開かれたガス田協議で中国側が尖閣諸島周辺海域の共同開発を提案したことに自民党内から反発が噴出。当面の円借款決定を見送り、ガス田協議などでの中国側の対応を見極めながら検討することにした。

 ――

 ……と、あります。このあと決定が出て各紙が報じることになりますが、『読売新聞』『毎日新聞』の記事を挙げておきます。

 ――

 ●05年度の対中円借款、年度内の新規決定見送りへ(読売新聞 2006/03/23/13:11)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060323it04.htm

 (前略)
対中円借款は例年、年度末に新年度以降に実施する分を閣議決定している。しかし、今年度は、小泉首相の靖国神社参拝問題や東シナ海のガス田開発などを巡り、日中関係がぎくしゃくしているため、自民党内から「供与決定は慎重にするべきだ」という声が強まっていた。外務省によると、対中円借款の決定が年度をまたいだのは、過去、1979年度分がずれ込んだ例があるのみで、異例という。

 外務省筋は23日、「今、自民党内で決定できる雰囲気ではない。新年度に改めて協議するが、ガス田協議などでの中国側の対応などを見ながら決めていくことになるのではないか」と語った。塩崎副大臣は同日の記者会見で、「資金が先方にいくのは1、2年先なので、(決定先送りによる)大きな影響はない。与党内には日中間の様々な問題について様々な意見があり、(決定には)日中双方の努力が必要だ」と述べた。

 政府は対中円借款について、中国が急激な経済成長により、開発資金を自力調達できると判断し、北京五輪が開かれる2008年度をメドに、新規供与を終了する方針を、昨年3月に決定している。

 ――

 ●対中円借款:閣議決定、当面見送り ガス田で関係悪化受け(毎日新聞 2006/03/23/12:52)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20060323k0000e010071000c.html

 塩崎恭久副外相は23日午前の自民党外交部会で、05年度の対中円借款について年度内の閣議決定を見送る方針を表明した。東シナ海のガス田開発をめぐる日中協議の難航などで自民党内の対中感情が悪化していることを受けたもので、塩崎副外相は同日の記者会見で「双方の努力がいる問題」と指摘し、ガス田協議などでの中国側の対応を見極めながら「06年度のしかるべき時期」の供与を検討する考えを示した。
(中略)

 これに関連し、安倍晋三官房長官は23日午前の記者会見で「日中関係の今後の状況を踏まえつつ、早期の供与が可能となるように政府内の調整を進めていく」と述べた。

 ――――

 凍結の原因のひとつとされた東シナ海ガス田紛争、具体的には3月6~7日に開かれた日中協議において、中国側が「白樺」(春曉)などに関するデータ提示を拒否した上に日本側の共同開発案も一蹴。その一方で、日本の固有の領土である尖閣諸島方面を含む共同開発案を新たに提案してきたことかと思います。これで日本側の態度が硬化しました。

 ●中国のガス田共同開発案は尖閣・日韓大陸棚周辺(読売新聞 2006/03/08/12:06)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060308it03.htm

 中国側の舐めた振る舞いには明確な意思表示が必要、ということで「対話と圧力」、つまり協議は今後も継続していくものの、一方で対中円借款凍結という前例のない「経済制裁」に踏み切ったのではないかと私は考えています。

 それにしても、決断までに1カ月すら要しなかったこと、しかも公明党など少数意見を除けば異論が出ずにすんなりと凍結案が通ったところに、日本側の変化を感じずにはおれません。構造改革の成果ではないでしょうか。

 私は小泉政権の掲げる「構造改革」には実は対中外交も含まれていて、具体的には麻生外相のいう「上下関係のない対等な二国間関係」の実現、という真っ当な課題に一貫して取り組んできたとみています。言うべきことは言う。やるべきことはやる。譲れない一線は絶対に譲歩しない。……極めて異例とされる今回の「経済制裁」も、その一表現ではないかと思うのです。


「下」に続く)



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 第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)における日本の劇的な優勝、ということに目も心も奪われていたのですが、熱狂した分、一種の虚脱感のようなものに包まれつつ考えてみれば、日本のプロ野球はこれからが本番なんですよねえ。

 中国政治もどうやらその様子です。つい先日「ドタバタ全人代も終了、真の政治の季節へ」(2006/03/15)という消化不良気味のエントリーを書いてしまいましたが、安定団結をアピールするというお約束の全人代というイベント(全国人民代表大会=立法機関)が終わってからこそが各政治勢力が本格的に蠢動する時期なのです。……昨年(2005年)がその好例でしたね。全人代終了後に色々な形で出た「反日」の動きが最後に集約されてデモやプチ暴動といった乱痴気騒ぎになりました。

 実際にいま現在いくつかのゴソゴソした動きが出始めています。「火消し役が連日の登板、胡錦涛の真意は?」(2006/03/17)でふれた、排外的民族主義が台頭するたびに胡錦涛の意を受けてその鎮静化に努める呉建民・中国外交学院院長はその後もなお『中国青年報』(胡錦涛の御用新聞)を拠点に言論活動を続けています。火消し役が働かないといけない状況があるか、その萌芽がみられるため胡錦涛が予防線を張っているのでしょう。

 問題は何に対する予防線か、ということですが、それがまだ明らかではありません。最近は一時期の「反台湾独立」報道に代わって再び反日報道が増えてきていますが、昨春の反日騒動で掲げられた、

「日本の安保理常任理事国入り反対」
「歴史教科書問題」

 といった「反日の焦点」というべきものがまだ出てきていないので、報道も分量の割には散漫な印象です。ただ呉建民が連投している以上、「反日」強化の動きがあるなら胡錦涛の敵対勢力が動き出しているのかも知れません。あるいは4月に予定されている胡錦涛訪米での成果があまり期待できそうにない(特に台湾問題や中国脅威論)という観測があるのでしょうか。……ともあれ、「真の政治の季節」を予感させる空気は確かに出てきています。

 ――――

 政治勢力というのも色々あるのでしょうが、面倒なので当ブログは一応「胡錦涛派vsアンチ胡錦涛諸派連合」という風にざっくりと斬ってしまっています。

 胡錦涛直系の「団派」といわれる共青団人脈(共産主義青年団=Jリーグでいうサテライト。胡錦涛の出身母体)ばかりがここでいう「胡錦涛派」ではありません。例えば人民解放軍も機関紙『解放軍報』を掌握しているような軍主流派が胡錦涛を担いでいるのに対し、対外強硬色をより明確に打ち出している電波型将官たち=非主流派は「アンチ胡錦涛」かと思われます。

 その「アンチ胡錦涛」にしても上海閥に代表されるような「中央vs地方」という対立軸を持つ「諸侯」たち(各地方勢力)が多くその旗の下に結集しているように思えるのですが、中央がテコ入れしているような地区は逆に胡錦涛側についているケースもあるでしょう。また、ひとつの「諸侯」の中でも中央から送り込まれたトップクラスは胡錦涛派なのに対し、それを補佐するポストにいる地元生え抜きの連中が実質的にはボスで、トップを棚上げして真の「諸侯」の支配者だったりします。

 ……まあイデオロギーなどではなく主に利害得失での合従連衡ですから、色々込み入っています。「アンチ」に集まった勢力の動機や狙いが様々であれば、胡錦涛擁護に回っている勢力も擁護する理由は様々でしょう。とりあえず言えることは、党上層部は一枚岩ではない、ということです。特に「アンチ胡錦涛諸派連合」は普段は各々の行動原理によって動いていますが、恰好の錦の御旗があれば大同小異でそこに一大結集、そして政争、ということになります。

 大同小異というのは動機が様々ということ、それに設定している勝利条件も十人十色で、党上層部における主導権奪取や自らの利権拡大を目標とする向きがある一方、倒閣までを視野に入れている勢力もあるだろうということです。改めて例えに引きますが、昨年の反日騒動もまたその好例かと思います。

 ――――

 で、話がややこしくなるのを避けるために当ブログではざっくりと「胡錦涛派vsアンチ胡錦涛諸派連合」という色分けにしてしまっています。あえて付け加えるなら、本当は両者とは別の空間に「党長老グループ」という口うるさい爺の集団があります。齢90など棺桶に片足を突っ込んでいる面々ですから権力には興味がありません。……ただ、

「胡耀邦や趙紫陽のころはよかったのう」

 みたいなことを言って1980年代の改革に対する公式評価をより重くするよう求め、トウ小平の威を借りて90年代以降の改革路線を主導した江沢民の手柄ばかりが強調されるのを嫌います。1980年代の改革路線を軽視することは当時第一線にいた自分達の名誉・功績にも関わりますから。

 この長老連が騒ぎ出すと、胡錦涛にとっては江沢民と長老連の間で板挟みになってしまいます。一例を挙げれば昨年1月の趙紫陽・元総書記の死去に伴う故人への評価をめぐる騒ぎがそれにあたりますし、今年1月に『中国青年報』付録誌の「氷点周刊」が一度潰された際にも批判文を発表するなどして意思表示をしています。長老とはいえ政治改革にまで踏み込もうとした胡耀邦・趙紫陽時代の感覚の持ち主たちですから、意外にもかなりの開明派だったりするのです。

 この「党長老グループ」が中間派からやや胡錦涛寄りかな、というのが現在のスタンスです。元々江沢民嫌いですから以前はより明確に胡錦涛寄りだったのですが、趙紫陽の歴史的評価に関するゴタゴタを契機にやや疎遠になった観があります。昨年秋の「胡耀邦生誕90周年記念式典」を胡錦涛が打ち出した理由のひとつはこの長老連との関係修復だと私は考えています。ただこの胡耀邦イベントに関していえば、「アンチ胡錦涛諸派連合」が動いて骨抜きにしてしまい、胡錦涛の狙い通りには事が運びませんでした。

 ――――

 いかに口うるさくても権力には未練がないのだから爺共は放っておけばいいじゃないか。……という訳にはいかないのが面倒なところです。連中の子女がいま党の中堅から上層部にあたる要職に就いていて、まとまった政治勢力なのかどうかはともかく、

 「太子党」(二世組)

 として無視できない存在になっているからです。胡錦涛としては何としても味方につけておきたいところでしょう。胡耀邦イベントがその一環なら、昨年冬の軍幹部の人事異動で軍主流派の二世組(劉少奇の息子など)が抜擢されたのもその反映かも知れません。同じ二世組でも非主流派で電波型将官の代表格・劉亜洲中将は故・李先念(元国家主席)の女婿であるのに放置されましたし、非主流派の親分格である熊光楷上将は退役させられています。

 この軍高官人事は軍のトップ(中央軍事委員会主席)である胡錦涛の意思というより、その胡錦涛を取り囲み担ぎ上げている軍主流派の意向によるものでしょう。昨年12月以来の軍主流派と胡錦涛の力関係をみていると、そう思わずにはいられません。それについては面倒なので重複を恐れず過去の関連エントリーをあげておきます。

 ●電波発言の裏にチラつくは制服組の影?(2006/01/10)
 ●続・電波発言。(2006/01/12)
 ●中国脅威論に軍部が開き直った!?(2006/01/13)
 ●邪推満開で振り返る胡錦涛この半年。(2006/02/04)
 ●ほーら外交部がまた電波モードに。やっぱ制服組でしょ。(2006/03/12)

 ――――

 で、ここからが本題です(笑)。最近の報道なのですがスルーするには勿体ないので。

 ――

 ●中国:胡錦濤政権初の「司令部条例」公布(毎日新聞 2006/03/21)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/china/news/20060321ddm007030018000c.html

 新華社通信は19日、中国の胡錦濤・中央軍事委員会主席(国家主席)がこのほど、中国軍の任務に関する基本法規「中国人民解放軍司令部条例」に署名、公布されたと報じた。同条例公布は、前中央軍事委主席の江沢民政権時代の96年以来、10年ぶり5回目。胡錦濤政権では初で、軍での胡主席の基盤固めが進みつつあると言える。条例は「突発事件への組織的な指揮と処置」が新たに加わったほか、胡主席が提唱する「科学的発展観」を重要な指導指針とした。【中国総局】

 ――

 ●胡政権初の「司令部条例」公布=基盤強化の表れ-中国軍(時事通信/Yahoo! 2006/03/19)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060319-00000033-jij-int

 ●情報ハイテク化を推進 中国が軍事法規を改定(共同通信/Sankei Web 2006/03/19)
 http://www.sankei.co.jp/news/060319/kok061.htm

 ……と他の日本メディアでもやや地味めに取り上げられているのですが、『毎日新聞』が
「軍での胡主席の基盤固めが進みつつあると言える」としたように、

「軍内でも胡主席の基盤が固まってきた表れと言えそうだ」
(時事通信)
「軍に対する胡主席の指導力を一層強化する狙いがある」
(共同通信)

 という解説を行っています。要するに胡錦涛の軍部掌握が進んでいる証拠、という訳です。……それに対し、上に延々と書いてきたことからもわかるように、本当かなあ、と疑問視しているのが当ブログであります(笑)。

 昨年の軍高官人事が主として胡錦涛の意向でなく、胡錦涛の名の下に軍主流派主導で行われたのではないか、と疑っているのと同じ理由で、軍主流派の都合で軍主流派の主導によって「司令部条例」が出されたのではないか、というものです。むろん根拠のない憶測にすぎませんが。

 ――――

 胡錦涛の提唱する「科学的発展観」を「司令部条例」に加えたというのは軍の法規として明文化した訳ですから胡錦涛にとってみれば得点です。ただそれを短絡的に「胡錦涛の軍部に対する指導力強化」と結論づけていいものか、どうか。科学的発展観については、昨年12月以来の『解放軍報』の突出した礼讃ぶりをみていると、「司令部条例」での明文化はごく自然な流れのように思えます。それよりも前掲の『毎日新聞』による記事の中で

「条例は『突発事件への組織的な指揮と処置』が新たに加わった……」

 とあることに私は注目しています。「突発事件」とは何でしょうか。「新華網」(国営通信電子版)の原文にあたっても明確な定義はなされていません。

 ●「新華網」(2006/03/19)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/19/content_4318189.htm

 とはいえ軍隊の法規ですから、「突発事件」といえば時節柄まず台湾問題が頭に浮かばざるを得ません。それに続くは尖閣有事か朝鮮有事か。ともあれ今回の「司令部条例」においては、この「突発事件」に際しての軍部のフリーハンドが強化された、という点こそが重要なのではないでしょうか。香港紙も「突発事件」云々が新たに書き加えられたことに注目している様子がうかがえます。

 ●『明報』(2006/03/20)
 http://hk.news.yahoo.com/060319/12/1m6qv.html

 ●『成報』(2006/03/20)
 http://www.singpao.com/20060320/international/823461.html

 ●『香港文匯報』(2006/03/20)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0603200010&cat=002CH

 ●『大公報』(2006/03/20)
 http://www.takungpao.com/news/06/03/20/ZM-540580.htm

 ――――

 「突発事件への組織的な指揮と処置」が加わったことで具体的にどうなるのか、というのが公式に説明されていないので歯がゆいのですが、前掲した「新華網」の記事によれば、今回の「司令部条例」改正は「情勢と任務の変化・発展に伴って」行われたもので、この改正を経ることによって、

「軍事活動とりわけ各レベルの司令部の整備と軍事闘争の準備に対して、必ずや積極的な推進的役割を果たすことになろう」

 としています。要するに最前線から軍中枢に至るまでのニーズに伴う処置、ということでしょう。剣呑ですよこれは。

 私の解釈は、むろん根拠のない憶測にすぎません。ただ軍主流派台頭の気配ありという傍証は過去のエントリーで幾度もふれている通りです。結局のところ、

 ●台湾からの一撃に軍部猛反発 / いやいや日本もなかなか。(2006/03/04)

 で紹介した台湾の「終統」宣言(国家統一委員会と国家統一綱領の運用終了)に対する『解放軍報』(=軍主流派)の一大反発、その物凄い勢いが胡錦涛を引きずって台湾問題を全人代の重点議題にさせ、外交部を電波モードにし、また胡錦涛に軍服を着せて軍を持ち上げる「重要講話」を発表させたのではないか。さらに「司令部条例」を改正させて「突発事件」の一項を明文化するに至っているのではないか。……と私は考えているところです。

 胡錦涛の軍部に対する指導力強化?……とんでもない。胡錦涛と軍主流派が手を組んでいる気配は濃厚ですが、一連の報道などで滲み出てくる空気から察するに、両者の力関係は決して対等なものではないように思います。いざというときに軍部に対する抑えが効かなくなる可能性は大かと。

 「いざというとき」でなくても、しばしば見られるようになった動脈硬化的な外交路線への傾きがいよいよ強まる恐れがあります。むろんそれは、中共ひいては中国全体を不幸な方向へと引っ張っていくことになるでしょう。



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 感無量です。

 本当に、どうもありがとう。

 率直な感想としては、他に何も申し上げることはございません。

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 ……とはいえ、さすがに3行で終わらせてしまうと一斉に石が飛んで来そうなので、雑感を少々。

 ――――

 個人的には、2004年に中国で開催されたサッカーアジアカップ。畜類サポの常軌を逸した基地外的振る舞いの中を物ともせずに勝ち上がり、開催国中国を見事決勝で決勝で撃破し優勝した日本代表の魂に通じるものを感じました。

 あのときはサッカーの神様が日本代表に舞い降りたとしか形容のしようのない快進撃でしたが、今回は野球の神様が味方してくれました。

 むろん、日頃の精進があったればこそ、です。

 ――――

 こうして野球をすることができて、海外遠征にも出ることができて、私たちはそれを米国からのライブ映像で観戦し、声援を送ることができる。日本から現地へと駆け付けたサポーターも相当数いたようです。むろん、特別なお金持ちとかではなく、普段は市井の一隅で生真面目に日々を暮らすごく普通の人たちがその大半です。

 全てが積み重ねであること。先人たちの犠牲と蓄積と、復興への努力があったればこそ今日の繁栄があることに、私は思いをいたさずにはおれません。

 ――――

 神風特別攻撃隊で散華された石丸進一投手。ビルマの激戦地で誰よりも遠くにしかも正確に手榴弾を投げる活躍を見せつつも戦死した吉原正喜捕手。そして台湾沖で乗船を撃沈されついに還ることのなかった沢村栄治投手。

 他にも戦没した野球関係者は多いでしょうし、選手として貴重な時期を戦争で無駄にした人も多いでしょう。

 また、戦後に活躍した名選手も、今回のようなイベントに際会することのなかった人を数えたらきりがありません。現在現役のプレーヤーにしても、たまたま全盛期と重ならなかったために、あるいは故障などの理由で、代表に選出されるチャンスを逸した選手も少なくないでしょう。

 正力松太郎氏をはじめ、今回のような大会を夢見ながら、この日をみることなく、物故した野球関係者やファンの存在も忘れてはならないと思います。

 ――――

 日本にプロ野球が誕生してすでに70有余年。今回、日本代表選手たちが背負った「日の丸」には、そういう重みも含まれていることを代表選手たちが意識していたかどうかはわかりません。ただ、それにふさわしい高い技術に裏打ちされた勝利への執念を私たちにみせてくれたことは確かです。

 選手に限っていえば、少なくとも独りだけは。……常ならぬ感情を表に出した言動と持ち前の素晴らしいプレーでチームを引っ張ったイチロー選手には、まだまだ日本人プレーヤーの数が少ないメジャーリーグという特別な環境、しかしながらその米国でも超一流の折り紙をつけられたというプライドとともに、たとえ当人が意識していなくても、先人たちによって積み重ねられてきた想いが心のどこかにあったような気がしてなりません。

 ――――

 以上、勝手な思い込みで御託を並べてみました。酔っ払いが飛び出してきたとでも思って下さい。御一笑下されたく。

 サクラサク、なのです。靖国神社の標準木の蕾がほころんで、東京にも開花宣言が出ました。



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 何だかいつの間にか、ですよ。我らが麻生外相が日中関係の主軸、台風の目になっている観があります。

 ひとつひとつの行動が緻密な計算に基づくものなのか、それともやりたいようにやっていたら期せずしてそうなっていたのか。現実には前者なんでしょうけど、私は後者であれかしと願っています。思うままにプレーする姿が観客を魅了してしまう。……ファンタジスタというのはそういうものでしょう?(笑)

 前回紹介しませんでしたが、以下のようなやり取りもありましたね。

 ――

 ●貿易拡大「北朝鮮を助けている」=中国に説明要請-麻生外相(時事通信/Yahoo! 2006/03/15)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060315-00000174-jij-pol

 麻生太郎外相は15日の参院予算委員会で、中国と北朝鮮の貿易額が増えていることについて「(中国が北朝鮮を)助けているのではないか。何の目的か理解できない」と述べ、強い不快感を示した。その上で「きちんとした理由を提示してもらいたいと中国に申し込んでいる」と語り、中国に説明を求めていることを明らかにした。黒岩宇洋氏(民主)への答弁。

 ――

 ●日本の要請拒否=麻生外相の「対北貿易」発言を非難-中国外務省(時事通信 2006/03/16)
 http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=060316183130X751&genre=int

 【北京16日時事】中国外務省の秦剛副報道局長は16日の定例記者会見で、麻生太郎外相が中国と北朝鮮の貿易拡大は「北朝鮮を助けている」として中国側に説明を求めたと述べたことについて「こうした申し入れは受け入れない」と反発するとともに、「外交当局の最高責任者が外交常識に反する発言を繰り返すことは理解しがたい」と麻生外相を強く非難した。

 ――――

 それから前回言及した東シナ海ガス田問題。

 ●本格生産なら対抗措置 外相、中国ガス田開発で(共同通信 2006/03/15)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2006031501001396

 中国外交部報道官(秦剛報道副局長)のリアクションは次の通りです。

「東シナ海ガス田問題において、我々はすでに繰り返し日本側に中国の立場を伝えている。中国の東シナ海地区におけるガス田開発は日本との争議が存在しない中国近海で行われるもので、主権権利を行使する正常な活動だ。東シナ海における中日境界線に関する争いは、協議によって解決されるべきだと我々は主張している。日本がもし紛争地区で一方的な行動をとるのであれば、それは中国の主権権益に対する侵犯であり、我々はこれに断固反対する。我々は話し合いによって東シナ海に関する問題を処理することで、状況がより複雑化するのを避けようと呼びかけている。」

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/16/content_4309971.htm

 ――

 今朝の香港紙(2006/03/17)はこれを中共政権による警告だと揃って報じ、一触即発の雰囲気を匂わせています。日本が動いたら軍事衝突も辞せずと言わんばかりです。

 秦剛も恐らく軍主流派の突き上げもあって強腰のポーズをとらなければならないのでしょうが、臆面もなく中華を自任する「ブライド高過ぎ&コンプレックス強過ぎ」な中共政権が、連中からみたら辺境の一島国に過ぎない日本の外相の一言一言に脊髄反射し、翻弄されている構図は面白いものです。

 いや、時代は変わったなあ、と。10年15年前なら麻生外相はとっくに引責辞任で詰め腹を切らされていたでしょうから。

 ただ今回の
「中国の東シナ海地区におけるガス田開発は日本との争議が存在しない中国近海で行われるもので、主権権利を行使する正常な活動だ」としていることは注目しておくべきでしょう。これが尖閣諸島方面を含む「新提案」のことを指しているのであれば、尖閣諸島を「中国固有の領土」とする主張を下敷きに行われているようにも思われるからです。

 ――――

 ……どうもファンタジスタは主役を食ってしまいますね(笑)。主題に入りましょう。実は最近、党上層部の中で何か起きているのか、それとも軍部の台頭があまりに著しいので胡錦涛・総書記が少しブレーキをかけようとしているのか、ともあれ妙な奴が活発に動き出していることに私は注目しています。

 「妙な奴」とは呉建民・中国外交学院院長です。その肩書が示すように、かつては豊富な経験を持つ外交官であり、現在は第一線から引退して後進の育成にあたっています。雰囲気は温厚そのもので李肇星・外相とは対極にあるといったところでしょうか。

 しかし政治的にみれば、呉建民は常にかなり重要な役回りを演じさせられています。一言でいうなら胡錦涛の切り札、火消し役です。「反日」でも「反米」でもいいのですが、国民レベルで排外的民族主義が台頭してくると、いつもこの呉建民が出てきて『中国青年報』(胡錦涛の御用新聞)あたりでやんわりと説諭するという「型」が胡錦涛のセオリーになっています。

 欠点はその物腰が示すように相手の横っ面に水をぶっかけることができず、やんわりと説諭する以外の手を持っていないところです。ですから火消し役として登板しても機能しないことがあります。一例を挙げれば昨年春(2005年3月下旬-4月)の反日騒動のときがそうでした。

 で、その火消し役・呉建民が最近活発に「新華網」(国営通信社の電子版)など全国ネットのメディアに登場しては例によって諄々と説諭しています。いくつか記事を並べてみましょう。

 ――

 ●いまこそ「弱国心理」の殻を破るとき……呉建民・龍永図・沈国放(新華網 2006/03/09)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/09/content_4277891.htm

 ●平等で礼儀正しく包容かつ他者をも思いやる。そんな国民イメージの形成を(新華網 2006/03/15)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-03/15/content_4306975.htm

 ●中国の国際的地位向上を実見しての感想……呉建民・龍永図(新華網 2006/03/16)
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2006-03/16/content_4307802.htm

 ――――

 これらの記事に共通している内容を身もフタもなく言ってしまうと、

「思い上がるな。謙虚であれ。等身大の自分をちゃんと見つめろ。それが大国の国民らしい態度というものだ」

 ということになります。農村と農民に強烈な負荷をかけてようやく達成したという歪んだ経済発展。その歪んだ部分を見ようとせず軽躁に浮かれている、あるいはともすれば感情先行型のナショナリズムに走りがちな自国民を戒めている、とでもいいましょうか。漠然とした言い方なら、上述した「プライド高過ぎ&コンプレックス強過ぎ」という漢民族特有の病態の是正を試みている、といってもいいでしょう。

「平等で礼儀正しく包容かつ他者をも思いやる」

 という点については、「協議で強硬姿勢をとることは容易だが幼稚だ」と、国連大使や外交部報道官を歴任したこれまた外交畑のベテランである龍永図が述べています。

「強硬姿勢は愛国を意味するものとは限らない。譲れない原則は何か、弾力的に対応すべきものは何か、妥協すべきものは何かをまず見極めなければならない」

 というその発言も、呉建民のスタンスにぴったりと符合しています。いやその呉建民などは実例まで持ち出しているのです。それも他でもない中国で開催されたサッカーアジアカップ(2004年)。一部の中国サポーターの日本チームに対する過激な行為(あれって一部でした?)を例にひいて、

「こういったことは礼に反する行為で、中国の発展に対し他国が脅威を抱くようになる。我々は自らの行動で他人を傷つけたり、あるいは他人に悪いイメージを残すような振る舞いをすべきではない」

 と批判しています。実にわかりやすい(笑)。さらに日本ネタが続きます。

「包容の精神は寛大な懐の広さと大度によって体現されるべきものだ。例えば日本の指導者がA級戦犯を祭る靖国神社を参拝したといった事件に際しては、合法的かつ適切な方法で自らの思いを表現すべきで、その対象もしっかりと区分けしないといけない。参拝したのは一部の日本の指導者だ。日本人や日本製品を目にして反発してはならない。日本人を殴ったり日本のものを壊したり略奪したりするのはもってのほかだ」

 言い切ったものですねえ(笑)。他にも貿易摩擦問題で相手国を敵視するのはおかしい、大国の国民にふさわしくないといった発言があります。

 ちなみに1本目の記事に左遷された沈国放が出てきてコメントしていることにも一応留意しておきましょう。

 ――――

 いま呉建民が出てきてこういう話をする意図が奈辺にあるのか。「反日」に向けた動き、例えば民間による対日戦時賠償訴訟が活発化しそうな雰囲気はありますが、今回語られている内容はそれに向けられたものではなさそうです。

 政争めいた図式を描くとすれば、胡錦涛が呉建民という手札を使って、アンチ胡錦涛諸派連合に属する疑いの濃い李肇星外相や、胡錦涛よりアンチ胡錦涛に近いスタンスといえそうな温家宝・首相を牽制したと言えなくもありません。

 メディアによる「反日」に目を転じれば、いま現在はまとまりがない、流れを形成しない散発的な記事が多く、方向性が示されるのを待っているような気配があります。それで靖国問題のような特にいまが旬、という訳でもない分野やこれまたお約束ネタである小泉叩き、そして麻生外相への脊髄反射に終始している、という印象です。

 例えば「李登輝氏訪日」といったような中核となる攻撃対象があればそれを軸にひとつの流れを創り出せる(=神光臨)のですが、そういう確たるものがないため、ネガティブに日本を捉えた記事が豊富に出てきている割には「反日度」を感じさせない、といったところです。中核となる攻撃対象が出現していないのであれば、それは党中央において意思統一が行われていない証左かも知れません。

 他に考えられるとすれば、軍部に対する牽制でしょうか。軍主流派が外交面にまで口を出すようになった形跡がありますが、それが度を過ぎたため胡錦涛が呉建民を使ってそれを抑えようと試みたのか。

 胡錦涛が汚職に対処する部門である中央紀律検査委員会の呉官正・書記(中央政治局常務委員)を使って汚職摘発の名目で軍内部にも査察の手を入れ、軍部に対する掌握度アップに努めている、という観測が香港筋にあります。実際に呉官正は軍内外に諸通達を発したり汚職撲滅に関しては根っこから切る(高級幹部にも容赦しない)という趣旨の重要論文を発表するなどしてそれを裏付けるような行動をしてはいます。

 ただこの種の情報は一面、煙のように実体のないものですから参考程度にとどめておくべきかと思います。まあ東シナ海ガス田紛争をめぐる中国側の提案や外交部報道官の発言などからして、軍部の発言権が増大する一方、胡錦涛が持ち上げなだめすかしたりしながらそれを抑えていこうという動きがあるようにみえるのは事実ですけど。

 ――――

 ともあれ、この一連の呉建民談話はその内容からして胡錦涛が何事かへ向けて一歩踏み出したことを示すものでしょう。あるいは早晩盛り上がることが確実な「李登輝氏訪日」への予防線なのか……まあ邪推はもう少し材料が揃ってからの方がよさそうですね。



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 全人代(全国人民代表大会=立法機関)が終わったのでホッとしています。中共政権における春恒例の一大政治イベントですから開催期間中は普段より集める記事の分量が増えるのです。ようやくこれでひと息つけることになります。

 ……と思ったらあにはからんや。何だか休ませてくれないような気配がしてきました。我らがファンタジスタ・麻生外相、ボール持ち過ぎというか飛ばし過ぎというか、どんどん新ネタを披露してくれるので中国国内メディアはもとより、香港・台湾メディアまでが翻弄されて右往左往。その動きを追っている私も右往左往の態です。

 ともあれ積極果敢な麻生外相の動きは日本の政界においてどういう意味があるのかという詮索は当ブログの主題ではありません。中港台で取り上げられている話題を拾い上げてみましょう。

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 まずは前回もふれた
「私は中国について前向きな見方をしている。」から始まる『Wall Street Journal』紙への寄稿論文ですね。

 http://www.cgj.org/en/q/japan_policies22.html(英語)
 http://www.cgj.org/jp/h/100.html(日本語)

 中国の将来は前途洋々といった感じで持ち上げつつ、一撃また一撃と強烈なパンチを中共政権に見舞っているといった印象の内容です。だいたいこの文章の標題が、

「日本は民主的中国を待つ(Japan Awaits a Democratic China)」

 ですからね(笑)。当然ながら中国側から反発が出ています。



 ●麻生外相をまた非難=「歴史の適切な処理重要」-中国(時事通信 2006/03/15)
 http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=060315205246X561&genre=int

 【北京15日時事】中国外務省の秦剛副報道局長は15日、麻生太郎外相が13日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに「日本は民主的な中国を待望する」と題する論文を掲載、中国国防費の完全公開を求めたことに関して、「日本外交当局の最高責任者が中国政治体制にとやかく言うのは適当でない」と非難する談話を発表した。

 ……これはかなり端折った内容なので以下に外交部報道官発言から一部を訳出します。

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 ◆質問「日本の麻生外相が先日『WSJ』に『日本は民主的中国を待つ』との署名論文を発表しました。中国がかつて大躍進や文化大革命といった誤った政策を実施し、現在に至るまで理想と現実のバランス点を見出せないでいる。中国は早晩民主国家になるだろう。中国は日本が過去に犯した過ちを教訓に国内の民族主義的空気を抑え、『帝国化』することを回避すべきだ。……としています。この点に関して中国側のコメントをお伺いしたい」

 ◆回答「中国の特色ある社会主義を建設するというのは中国人民が自ら選択したもので、中国の国情に符合している。中国の発展は中国人民に幸福をもたらすだけでなく、アジアと世界の平和、安定と発展に重要な貢献を果たすことになる。日本の外交当局の最高責任者が中国の政治制度についてとやかく言うのは、極めて不穏当なことだ。中国は国と国の関係は互いに尊重し平等に相対するべきで、一方が教師面をすることに反対している。皆さん周知の原因により、日本の過去における過ちが他国にとって参考になることはない」

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/15/content_4307080.htm




 中共政権、キレてはいないもののかなり御機嫌斜めの様子ですね(笑)。まずは民族的病態の「高すぎるプライド&強すぎるコンプレックス」が脊髄反射して、日本が「教師面」をしてみせた、ないしは「先輩風」を吹かせてみせたことにかなりムカついているようです。

 もう一点ムカつくことがあるとすれば、それはいつもの麻生発言と異なり、今回は寄稿文の全文を中国国内で明らかにできないという苛立ちでしょう。普段の「放言」「妄言」と異なって一応理路整然としており、全文を公開すれば「なるほど確かに」と一部で同調する動きが出るかも知れません。

 中共政権にしてみれば、民間から自然発生する「反日」も怖いのですが、より直接的な政権への異議申し立てである「民主化」要求が「反日」とは比較にならないほど恐ろしい事態であることは言うまでもありません。このために報道官の反論も激語することができず、どこか不完全燃焼な、中途半端な形で終始している。これもムカつく要因かも知れませんね。

 あとは、これが麻生外相個人の見解なのか、日本政府を代表した意見なのかを見きわめたいところでしょう。もし政府の公式見解であれば中共政権にとって深刻です。米国がやっているように
「民主化しろ」と中共に迫る姿勢を日本が示した最初のケースとなるからです。

 ――――

 それからこういう記事もあります。

 ●麻生外相が再び「中国脅威論」(新華網 2006/03/15)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/15/content_4306368.htm

 この記事によると、参院予算委員会において麻生外相が「中共の軍事費が不透明かつ急激に膨張している」という答弁をした中で、その軍拡路線が他国に「脅威と恐怖を感じさせるものだ」と語ったことになっています。

 「脅威だ」「脅威だ」と言われることに、中共はひどく神経質になっていますね。何かやましいことを考えている証拠です(笑)。まあそのうち軍部が改めて「軍拡路線のどこが悪い」と開き直ることになると思います。

 あと今朝の香港紙(2006/03/16)で軒並み取り上げられていたのがこのニュース。

 ●本格生産なら対抗措置 外相、中国ガス田開発で(共同通信 2006/03/15)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2006031501001396

 尖閣諸島問題において、軍部は相当に隠忍自重を重ねてきている、と軍部自身が感じていると私は思っています。かつては恒例ともいえた「民間団体」による、

「ボロ漁船での尖閣上陸作戦-海上保安庁の巡視船に囲まれて公開処刑」

 という被虐的ミッションが2年近く行われていません。ひとつには、日本との不必要な摩擦は避ける、国内の反日気運も高まるかも知れないし。……という胡錦涛の意思が働いているのだと思います。

 そしてもう一点、中国国内の反日気運を考えると、次にやるときは海軍艦艇なり巡視船なりが護衛して「民間団体」の上陸を成功させるか、それとも軍隊による奪回作戦を展開するかのいずれかでなければならないでしょう。むろん現状では無理な相談です。

 軍部の発言力増大もあり、東シナ海ガス田紛争に関する協議で中国側が先ごろ示した新提案に尖閣諸島方面が含まれていたのには、そういう背景もあったのではないかと私は勘繰っています。たとえ共同開発海域が尖閣諸島の領海にかかっていなくとも、かつて問題のガス田付近を駆逐艦や潜水艦が航行して一種の示威活動をしたように、上陸や奪回は無理だとしても、海軍艦艇が大手を振って尖閣近海を遊弋できることになる、というより示威活動ができる。……これは軍部のフラストレーションをある程度散じることができるのではないかと思います。

 ところが、日本側は中国側の提案を一蹴し、追い打ちをかけるように「本格生産なら対抗措置」という強い態度に出てきました。これはたとえ中国側の報道に反映されなくても、水面下で大いに制服組を刺激することになるでしょう。

 しかもそれを示したのが従来の交渉窓口の最高責任者である媚中派の二階経済産業相ではなく、麻生外相。二階氏が媚中派かどうかはともかく日本側による試掘に消極的だったのは事実です。ところが麻生外相をトップに戴く外務省がこの問題の主導権を握ることになったのであれば、中国側も新たな対応を迫られることになります。

 そうした中で、李登輝氏がまた仕掛けてきました。



 ●李前総統、訪日は5月10日に=「奥の細道」たどる-台湾(時事通信 2006/03/15/16:33)
 http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=060315163303X466&genre=int

 【台北15日時事】台湾の李登輝前総統は15日、時事通信などの取材に応じ、松尾芭蕉がたどった「奥の細道」ゆかりの地を訪問するため、5月10日から約2週間の日程で訪日する意向を明らかにした。実現すれば約1年半ぶりの来日となる。




 これは昨年から何度か出ている話で目新しいニュースではないのですが、前回とは異なり、今回は中国国内メディアもこれを速報しました。時事電を後追い報道した台湾メディアによれば……という形でまずは「中国新聞網」が日付が変わる前に論評抜きの脊髄反射。

 ●李登輝、5月に2週間日本を訪問する予定だと表明(中国新聞網 2006/03/15/23:16)
 http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-03-15/8/703544.shtml

 きょう(3月16日)にはさらに詳細なニュースが流れました。

 ●李登輝が5月にノービザで訪日……日本メディア(中国台湾網-新浪網 2006/03/16/07:43)
 http://news.sina.com.cn/c/2006-03-16/07438452712s.shtml

 そして日本側のアクションとして今回注目すべきは、政府が李登輝氏の動きに即応したことです。



 ●官房長官、台湾前総統の訪日受け入れ示唆(Nikkei Net 2006/03/16/13:02)
 http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20060316AT3S1600616032006.html

 安倍晋三官房長官は16日午前の記者会見で、台湾の李登輝前総統が5月に観光のため訪日したい考えを明らかにしたことについて「具体的な意向が示されれば、目的に応じて適切に判断する」と述べ、観光目的であれば受け入れる考えを示唆した。台湾側からの打診については「承知していない」と語った。




 この安倍官房長官談話も中国国内で報じられました。

 ●李登輝への出入境ビザ発給も排除せず……日本高官(中国新聞網-新浪網 2006/03/16/16:56)
 http://jczs.sina.com.cn/2006-03-16/1656357392.html

 ビザ云々という時点で事実誤認をしている訳ですが、官房長官談話が出たこと、来日予定まではや2カ月を切っていることから、これまでは一過性でスルーされていた「李登輝氏訪日」に中共政権及び中国国内メディアが本格的に反発し、さらに連日の非難攻勢のようなものに発展する可能性はあります。いよいよ「神光臨」か!?……という訳です(笑)。

 ――――

 ちなみにこれは別の話題ですが、3月14日に行われた外交部定例会見で秦剛報道局長が日本側への要望のひとつとして、

「台湾や歴史などの重大問題を穏当に処理すること」

 と語ったことは覚えておいていいでしょう。ええ、「台湾」が「歴史問題」の前に置かれています。胡錦涛・総書記が小泉首相と最後に会談した際に提起した「5項目提案」では「歴史問題」の後に「台湾」という順番なので、優先度が逆転している訳です。制服組テイストかも知れません。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/14/content_4303748.htm

 ともあれファンタジスタのスーパープレーともども続報に期待大、ということで。春なのです。



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 毎春恒例の政治イベント、全国人民代表大会(全人代=立法機関)が昨日3月14日に閉幕しました。全人代のトップである呉邦国・全人代常務委員長が閉幕を宣言し、その後に温家宝・首相が記者会見をやって一本締めです。

 順序は逆になりますがその温家宝会見から入りますか。対日関係について温家宝はこう言っています。

 ――

「現在中日関係の発展は確かに多くの困難に直面している。これは我々が目にしたくないものだ。現在のかような状況がもたらされた原因は中国にはなく、日本人民にもなく、日本の指導者にある。第二次大戦のA級戦犯を祭っている靖国神社を日本の指導者が幾度も参拝することで、中国人民やアジア人民の感情は非常に大きく傷つけられた。この問題が解決しない限り、中日関係の順調な発展は難しいだろう」

 ●『香港文匯報』(2006/03/15)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0603150040&cat=002CH

 ――

 『読売新聞』(2006/03/15)の報じた会見要旨によると、そのあと日中関係の促進策として、

 ●政府間戦略対話を継続し、中日関係の障害を除去。
 ●民間交流を強化し、相互の理解と信頼を増進。
 ●両国の経済貿易関係を安定、発展させ、双方が利益を得られる協力を拡大。

 の3点を温家宝は提起した、とのことです。何だか靖国問題についてはポスト小泉の参拝継続を覚悟しているようですね。だから「この問題が解決しない限り、中日関係の順調な発展は難しいだろう」と言いつつも関係促進の3点セットを提案しています。でもこの3項目、小泉首相や麻生外相、安倍官房長官が常々口にしていることと大差ないように思うのですが、如何でしょう?

 それにしても「感情を傷つけられた」ですかあ。江沢民の「下衆面」や「善人を装った悪党」なのがミエミエの温家宝のルックスによって「日本人民の感情は非常に大きく傷つけられた」と言うこともできる訳で。それより2004年のサッカーアジアカップでの中国サポーターの醜態とか昨年春の反日騒動とか日本での中国人犯罪とかについては?そうした一切をスルーするならこちらも、

「だいたい中国メディアが騒ぎ過ぎ。中国のマスコミは国と党の代弁者なんだろ?ならお前らちゃんと指導しろ」

 ……て返してやるしかないですね。まあ先日書いた通り、中国人民の感情云々は漢民族特有の病態のなせる業であって日本は全く気にする必要はありません。

 「アジア人民」てのは特亜限定なのか、そうでなければ特亜+東南アジアの華僑ということになるのでしょう(笑)。だいたい昨年10月に小泉首相が靖国神社を参拝したときにすぐ抗議したのは中国と韓国だけです。台湾も控え目な抗議声明を発表しましたけど、それを認めたら「一つの中国」に抵触してしまいますからね(笑)。

 ――――

 この温家宝会見については『毎日新聞』の記事がいい味を出していましたねえ(笑)。

 ――

 ●中国:温首相、日本の次期首相へ強い警告(毎日新聞 2006/03/14/23:52)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20060315k0000m030130000c.html

 温首相が日中関係冷却化の原因は「中国でも日本国民でもなく、日本の指導者にある」と決め付けたのは、台湾政策と類似する。中国は独立志向を持つ陳水扁総統への非難を続ける一方、台湾住民には柔軟路線を示し、陳総統の孤立化を目指している。日本にも小泉首相個人の責任として非難する戦術だ。

 温首相は昨年3月の全人代閉幕後の会見で、靖国参拝問題には直接触れなかった。今年、正面から取り上げたのは参拝を継続する小泉首相への不信感を改めて明示したものだが、小泉首相と「日本」を切り離し、中国での対日感情のさらなる悪化を防ぐ狙いもあるとみられる。

 ――

「温首相が日中関係冷却化の原因は『中国でも日本国民でもなく、日本の指導者にある』と決め付けたのは……」
「日本にも小泉首相個人の責任として非難する戦術だ」
「小泉首相と『日本』を切り離し」

 いまさらそんな解説をされてもねえ。近年の日中関係に関して「原因は日本国民にある」とした中国の公式声明を私は寡聞にして知りません。靖国参拝問題についても、その主語が「日本の指導者」「日本の政界」「日本の右翼勢力」などという表現はされますが、「日本国民」と表現されたものがあれば教えてほしいものです。要するに新味がありません。温家宝発言にもこの解説記事にも。

 前にも書きましたが、いわゆる「日本の右傾化」についての公式声明でも「日本国民の右傾化」としたものは全くない筈です。理由は単純明快、日本国民に責任を負わせたら中国が手を組む相手が日本にいなくなってしまうからです。手を組む相手がいないなら敵視するしかないですからね。

 でも日本全体を敵視しちゃったらそりゃもう大変。日本の対中投資やら観光客やらが瞬時に激減します。記者の御高説の如く、国内の反日気運も抑えられなくなるでしょう。それにしても「強い警告」ですか(笑)。まあ感じ方は人それぞれですからねえ。それならスポニチ調で「日本の次期首相へ宣戦布告!」ぐらいにすればよかったのに。どうせ部数少ないんだからそのくらい冒険してみてもいいでしょう?(笑)

 まあ、新聞ですから沢山行数もらっててもこの程度でOKなんでしょうね。でもこのレベルと内容なら北京まで行かなくても書けると思いますけど。どうせ行ったのなら温家宝会見あたりでお得意のボム攻撃でもすりゃいいのに(笑)。……もう一紙、『西日本新聞』の社説はいよいよ電波です。

 ――

 ●温首相会見 日中関係改善のサインだ(西日本新聞 2006/03/15)
 http://www.nishinippon.co.jp/media/news/news-today/syasetu.html

「ただ、これまでと異なる表現があったのは、関係悪化の『責任』は『日本国民にはない』という言葉である。小泉首相が自民党総裁を辞任する九月まで、四年以上も途絶えている首脳相互訪問を復活させるのは絶望的な情勢だが、温首相の言葉は反中、嫌中感情が高まる日本国民や、「小泉後」に向けた関係改善へのシグナルと受け止めるべきだ。」

 ――

 いやだから日中関係について「責任は日本国民にある」という公式声明が出た事実が過去にあるのなら是非教えてほしいのです。>>無知蒙昧な論説委員殿。だいたい「関係改善のサインだ」てタイトルが笑わせますね。まあそういうスタンスの新聞なんでしょう。『環球時報』日本語版とか(笑)。構いませんからもっともっと中共の靴を舐めてやって下さい。

 ――――

 さて今回の全人代ですが、例年に比べればドタバタしたところが見ていて面白かったと私は思います。本来は昨年の全人代で提起された「調和社会」の実現を最終目標に、「十一五」(第11次5カ年計画)をまとめ上げてバラ色の未来を描いてみせるのが主題だったことでしょう。

 一方で「調和社会」と「安定団結」を強調することで、「諸侯」(地方政府)なり既得権益層なりといった「抵抗勢力」の暴走を牽制する、という目的もあった筈です。……まあ全人代でクギを刺してもあまり意味がないのは毎度のこと。一例として経済成長率が毎年全人代で設定された目標値をかなり上回っています。開発欲求がいずれも高い「諸侯」に対する中央の歯止めが効いていない証拠です。

 「十一五」における年間平均成長率は7.5%とか。無理無理無理無理(笑)。去年だって8%を掲げたのに実際には9.9%で、適度に減速しつつの「軟着陸」(ソフトランディング)が全人代で声高に叫ばれていたのに結局は誰もそれに従いませんでしたし、「軟着陸」という言葉自体いつの間にか誰も口にしなくなりました(笑)。

 この2005年の「9.9%」というのも怪しいもので、実際はもっと高い数字ではないかと勘繰りたくなります。逆水増しの疑いがあるのでは?という訳です。

 で、事前に描いた筋書きを大幅に書き直すことになって今年の全人代がドタバタした、その最大の要因は開幕直前の2月27日に台湾の陳水扁・総統が「終統」(国家統一委員会と国家統一綱領の運用終了)を宣言したことにあります。これは「最終的には統一を目指す」という建前を台湾政府が放棄した、つまり「独立という選択肢もあるよ」という意思表示。加えるなら「台湾の将来を決めるのは台湾人だ」というアピールも含まれているでしょう。

 これを受けた中共政権では軍部がマジギレして『解放軍報』で怒濤の非難攻勢。その激昂の勢いに引きずられるようにして全人代でも「台湾独立反対」が色濃く打ち出されることとなりました。そういう意味では、軍部に台頭する機会(発言力増大)を与えた全人代、といっていいかと思います。

 胡錦涛・総書記が軍服を着て軍代表の分科会に出席し、軍主流派の意向に沿った「重要講話」を発表したのも制服組の顔を立て、なだめるための行動でしょう。全人代開幕時の温家宝による「政府活動報告」、呉邦国による「全人代常務委活動報告」、そして閉幕後の温家宝会見も、本来の予定稿に比べればいずれも「反台独」色を強化したものに改められていただろうと思います。

 ――――

 その結果、本来の主題である「十一五」がちょっと影の薄いものになってしまいました。

 いや原因は台湾問題だけではありません。全国から集まった人民代表たちがいま現在の社会状況のひどさに耐えかねてどんどん問題提起したことも無視できないでしょう。

 ●失業問題
 ●汚職問題(特に党幹部)
 ●地域間格差(沿岸vs内陸、都市vs農村)
 ●貧富の格差
 ●法制あれど法治なし
 ●環境汚染
 ●出稼ぎ農民の権益保護
 ●失地農民の救済
 ●就学難(学費高騰によるもの)
 ●通院難(医療費と薬代が高すぎるために病気になっても医者にかかれない)

 ……などなど、

「5年先の空中楼閣を語る前にまずこういった問題を何とかしろボケ」

 という本音を秘めた意見発表が相次いで行われました(笑)。人民代表は民選制ではありませんが、かくも悪化した社会状況を目の当たりにすればさすがに沈黙していることはできなかったのだろうと思います。

 でも、誰でもわかっているように即効薬などある訳はなく、結局は打つ手なし(笑)。だから
「社会主義新農村」なんて政策で目先を変えてみせたのでしょうが、農村救済に予算を投入しても結局は地元当局による汚職と不必要な建物や道路が増えるだけのような気がします。もちろんやらないよりはマシですけど、投じた資金が有効利用されるかどうかをチェックするメカニズムが欠落している一党独裁制度ですからねえ。

 もう1点、ここはひとつ政治キャンペーンでごまかそうというつもりなのかどうか、よせばいいのに胡錦涛が新たに
「八栄八恥」(社会主義栄辱観)なるものを打ち出してしまいました。以前もふれましたが「栄光」と「恥辱」のペアを8通り揃えた道徳教育モノです。『読売新聞』(2006/03/15)によると、

「『八栄』とは『祖国熱愛』『人民奉仕』『科学尊重』『勤勉労働』『団結互助』『誠実信用』『法律遵守』『刻苦奮闘』。『八恥』はそれとは逆の『祖国損壊』『人民背離』『愚昧無知』『安逸怠惰』『私利私欲』『道義忘却』『法律無視』『贅沢淫乱』」

 ということになります。こういう時代錯誤的なキャンペーンを「よし名案だこれでいこう」と考えて本気で実行させてしまうあたりが胡錦涛の可愛気というか計画経済型キャラとでも言うべきところで、少なくとも悪党のくせに善人とか庶民派を偽装している温家宝のような小賢しさがない点は評価できますし(笑)、土壇場での度胸もありそうです。時代錯誤と書きましたが、来るところまで来てしまった現在の中国社会には胡錦涛型の指導者が必要だと私は思います(理想的には朱鎔基ですが、あれほどの能力と実行力を現在の現役指導者に求めるのは酷というものです)。

 ただ胡錦涛型が必要といっても、「諸侯」や既得権益層を力づくでねじ伏せるような抜群の指導力を持っていることが前提です。それを以て愚直な一徹さで構造改革に驀進すれば少しは救われる部分があるのではないかと思うのですが、現実の胡錦涛はその「前提」がなくてヨタヨタしていますからもう何も申し上げることはございません。

 ――――

 最後に日中関係に話を戻したいのですが、「関係改善のサインだ」などと書くような新聞が描いている日中関係というのは恐らく従来型なのでしょうね。私は、小泉首相が目指しているのは麻生外相が外国人記者を前に講演したときに提起した、

「上下関係のない対等な二国間関係」

 だとみているので、「土下座・言いなり・中国サマサマ」という従来型の関係を志向するくらいなら放置して悪くなるところまで悪くなればいいと考えます。様々なレベルで密接な往来や交流のある日中関係ですから、どうせ放置したってこれ以上悪くなるのはなかなか難しいと思いますし。

 麻生外相といえば、前回のコメント欄でも話題になっていた『Wall Street Journal』紙への寄稿が中国に対する小泉政権のスタンスをよく示していると思います。あれ、ライス米国務長官が書いたといっても通りそうな内容でしたね。「もはや帝国の存在する余地はない」とは名文句。もっともそういう凄みのある内容以前に、旗幟を鮮明にしたという点だけをみても日本から中国への強烈な一撃だと思います。

 http://www.mofa.go.jp/announce/fm/aso/contribute0603.html

 ただ現状に照らせば民主化は100年待っても無理でしょう。中国がいくつかにバラケないと難しいと思います。……むろん、麻生外相も先刻御承知で吹っかけているのでしょうけど。

 ――――

 この全人代期間中にはまず開幕前に台湾政府の「終統」宣言に対する中国大使館からの非難哀願にはじまって、李肇星外相のハッタリ発言や東シナ海ガス田紛争での新提案、麻生発言への抗議、王毅駐日大使のトンズラや中国大使館の爆笑コメントなど中共は色々な手品を見せてくれました(笑)。見せてくれましたけど、結局日本は最後までブレませんでしたね。ブレることなく、涼しい顔をして上記『WSJ』紙での強烈な意思表示。国連での分担金変更提案などもありました。

 サクサクと仕事をこなしていくような小気味良さがいいですね。どうやら胡錦涛や温家宝風情で対応できる相手ではなさそうです。胡錦涛や温家宝では無理のようだ、という認識が中共上層部で広まったときに、またひと揺れあるのだろうと思います。



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「上」の続き)


 かくして、中国外交部の迷走が本格化することになります。まずは秦剛・報道副局長による李肇星発言への熱い支持表明です(笑)。

 ――

 ●「正義の声を代表」=李外相発言への抗議に反論-中国(時事通信 2006/03/09)
 http://www.jiji.com/cgi-bin/content.cgi?content=060309181732X326&genre=int

 【北京9日時事】中国外務省の秦剛副報道局長は9日の定例記者会見で、小泉純一郎首相の靖国神社参拝を強く非難した李肇星外相の発言に日本政府が抗議したことについて、「(李外相の発言は)個人の観点ではなく、政府の立場であり、中国国民の正義の声を代表したものだ」と述べ、日本側の非難に強く反論した。

 ――

 言うも言ったり「正義の声」だそうです(笑)。この会見に臨んだ秦剛までがトチ狂っている、というのはこの「正義の声」ばかりではありません。靖国参拝問題について、

「日本の指導者たちがA級戦犯の亡霊を参拝する問題において……」

 と、靖国神社という固有名詞を使わずに、いきなり
「A級戦犯の亡霊を参拝する問題」というより激しい表現を用いたことも挙げられます。この言に拠れば小泉首相は靖国神社に行ってA級戦犯だけを参拝していることになりますが、これも外交部従来の運動律から大きく逸脱したものです。

 ●外交部報道官定例記者会見(新華網 2006/03/09)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/09/content_4282278_3.htm

 秦剛はまた東シナ海ガス田問題で日本側が掲げている「中間線」について、

「我々はこれまで中間線なるものの立場を受け入れたことはない。今後も受け入れることはない」

 と退路を自ら断ってしまっています。潔いですね(笑)。

 ●外交部報道官定例記者会見(新華網 2006/03/09)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-03/09/content_4282278_1.htm

 ――――

 さらに前回紹介した通り、麻生外相発言に対しては「日中共同声明」の条文を改竄しての無理矢理な抗議。……いやいやまだネタはあります(笑)。
李肇星発言に抗議すべく外務省の谷内外務次官が王毅駐日大使を呼びつけようとしたところ、何と王毅は理由を構えて会見拒否。大使が働かないなら外交ルートとしての中国大使館が存在しないも同然です。

 ●中国外相発言、抗議の呼び出しを駐日大使が拒否(読売新聞 2006/03/09)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060309it14.htm

 すると今度は当の李肇星が出てきて日本政府の呼び出しから逃げた王毅を弁護するのです。

 ――

 ●李肇星「優秀な外交官だ」と王毅を賞賛(明報即時新聞 2006/03/11)
 http://hk.news.yahoo.com/060311/12/1lyej.html

「王毅駐日大使は非常に優秀な外交官であり、突発的事態への対処に長けている。その処理の仕方は正確であり、中日両国人民の友好にプラスになると確信している」

 ――

 とまあ、これは日本側を愚弄したつもりなのかどうか、ともかく現在の状況下における中国外相の発言としては軽率といえるでしょう。ところが外交部が電波モードに入ってしまっている状況にあっては、上述した秦剛の発言同様、こういう物言いがセオリーになってしまうのかも知れません。

 ……正確には、制服組に仕切られて本来の運動律から大きく逸脱してしまっている外交部においては、こういう対応こそ常道ということになるのでしょう。「問答無用のゴリ押し」です。そして、その極めつけが3月10日付で出された中国大使館による声明です。

 ――

 ●中国大使館スポークスマンのコメント(中国大使館 2006/03/10)
 http://www.fmprc.gov.cn/ce/cejp/jpn/xwdt/t239684.htm

 一部の報道機関によるいわゆる「中国駐日大使呼び出し拒否」の報道について、以下の事実を説明する:
 1、3月8日午後、外務省から中日関係について大使と意見交換したいとの連絡があった。正式の申し入れとの明示はなく、具体的なテーマの提示もなかった。
 2、たまたま当日大使主催の重要な行事などを予定していたため、双方が相談した結果、翌日に会うことにした。
 各報道機関には、今後中国大使館に関する記事を発表する際に、事実関係を当大使館と事前に確認するよう要望する。
二〇〇六年三月十日

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「今後中国大使館に関する記事を発表する際に、事実関係を当大使館と事前に確認するよう要望する」

 がはははははは。4月1日付で出すのならまだシャレになるんですけどねえ。

 一党独裁で国民に普通選挙権はなく、法制あれど法治なし。政府の上に党が君臨し、ポストに関わらず軍を掌握している者が最高実力者で、しかもその軍隊も国軍ではなく党に絶対的忠誠を誓っている……という前近代的な政権でなければ臆面もなくこんなコメントは出せないでしょう。いや確かに李肇星の言の通り、このコメントは日中両国人民の真の友好にプラスとなりますよ絶対(笑)。

 ただ多少弁護してやるとすれば、いかに中共とはいえ外交官であれば、この振る舞いが国際社会ではどういう目で見られるかを知らない筈はないでしょう。かつて李登輝氏の来日計画に反発した王毅がのたまったあの脱力系コメント、

「トラブルメーカー(李登輝氏)が戦争メーカーになる」

 というのも対外強硬派が台頭している時期のものでした。この一週間ばかり外交部がトチ狂っているのも、軍主流派に仕切られているからこその狂態だと私は思います。というかそう思ってやりたい(笑)。……まあ、

「やっぱ制服組でしょ」

 という標題ですから最後に胡錦涛に登場してもらいましょう。もちろん例によってあののっぺりとした軍服姿です。昨日(3月11日)その格好で出てきた胡錦涛が、全人代(全国人民代表大会=立法機関)の人民解放軍代表による分科会に出席、重要講話を披露しました。

 ●胡錦涛「科学的発展観を用いて国防と軍隊の建設発展を推し進めよう」(新華網 2006/03/11)
 http://news.xinhuanet.com/misc/2006-03/11/content_4291493.htm

 重要講話といっても軍を持ち上げるというかヨイショするというか、とにかく軍主流派の意向に沿って書かれた文章を胡錦涛が読み上げた、というのが正しいところでしょう。とはいえ胡錦涛は国家主席兼党総書記であると同時に中央軍事委員会主席で軍のトップですから、軍ひいては国民に向けた重大なメッセージ、ということになります。

 ちなみにこの記事における胡錦涛の肩書は
「中共中央総書記、国家主席、中央軍事委主席」という順序。全人代という政府の重要会議ながら総書記という党のポストが一番前に来る、というのがいかにも一党独裁政権らしいところです。

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 さて重要講話の内容ですが、軍主流派の意向に沿って……と上述したように、『解放軍報』に掲載される署名論文と似たりよったりで、取り立てて新しいところはありません。ただ署名論文は一介の記者なり評論員(論説委員)の名前で出るのに対し、「中共中央総書記、国家主席、中央軍事委主席」という胡錦涛名義で出るから重要であり、軍主流派にとっては軍内外に対する影響力もあるという訳です。

 主題は
「新世紀、新段階における我が軍に課せられた歴史的使命をしっかり遂行しよう」という点にあります。その「歴史的使命」とは何かといえば胡錦涛いわく、

「国家主権と安全の維持・擁護を第一とし、危機感をより高め、中国の特色ある軍事的変革の推進を加速させ、軍隊の全面的整備を強化し、軍事闘争の準備推進に一段と力を入れる。そして国家主権、統一、領土保全と安全を守るという神聖なる職責を断固としてやり遂げ……」

 ということになります。主権です。統一です。領土保全です。要するに
台湾と尖閣諸島、それに南シナ海方面の帰属未確定の島々をしっかり分捕って、分離・独立勢力には鉄槌を加えよ。その準備と心構えを日々怠るな。そのためにも俺様が常々言っている科学的発展観を公私の別なく徹底させろ。……ということに尽きます。

 当然ながらこの重要講話は「新華網」(国営通信社電子版)のトップニュースでしたし、今日付の『人民日報』(2006/03/12)の1面トップを大きく飾ってもいます。『解放軍報』はもちろん、上海の『解放日報』など各地の主要紙の多くが『人民日報』同様にこれを1面トップに掲げたことでしょう。軍部の存在感を示すには十分です。記事には軍服姿の胡錦涛の写真も添えられていますから、これもまた一種の政治的示威活動ということになります。

 とはいえ、やっぱり胡錦涛が軍主流派のマリオネット化しつつある観は拭えません。「俺様」とか「徹底させろ」なんて偉そうな物言いはきっと実際にはできないんでしょうね。この重要講話、2月27日の陳水扁による「終統」宣言に対するリアクションの決定版ということになるのだろうと思いますが、結局は当時脊髄反射した『解放軍報』による非難記事の洪水、軍主流派のあの勢いに引きずられて胡錦涛が今回の重要講話を発表することとなり、一方で外交部が仕切られて電波モードにされてしまったのでしょう。

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 あとはこの狂態が一体いつまで続くのかということですね。台湾の「終統」宣言に対する反発はいまがピークで、軍部の激昂も徐々に冷めていくでしょう。一方で尖閣諸島あたりを虎視眈々と狙っているようにみえます。ただ4月の胡錦涛訪米までは新ネタがなければ無茶をすることはないかと思います。

 台湾問題なら李登輝氏5月10日訪日、という大ネタが控えているのですが、軍部が反「終統」熱から冷めたら今度はそれに食い付くのか、それとも胡錦涛訪米が終わるまで待つのかは現時点では何ともいえません。

 アンチ胡錦涛諸派連合はいまのところ目立った動きをみせていませんが、胡錦涛の外遊期間を狙って蠢動するケースが過去に何度かありましたから、訪米したところで何か仕掛けてくる可能性はあります。

 あるいは現在開催中である全人代・政協(全国政治協商会議=全人代のオブザーバー的機関)というイベントが終われば、イベント直前のネタが蒸し返されるかも知れません。

 台湾ネタでなければやはり「反日」ということになるでしょう。民間による対日戦時賠償請求訴訟を中国国内でやる、とか「水滸伝」「三国志」「西遊記」といった歴史的名作の商標を日本のゲームソフトメーカーが押さえてしまったことへの反発を煽る動きが改めて出てくる可能性はあります(最近報道されたものの全人代記事の中で埋没状態)。

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 また無駄に長くなってしまったことを反省しつつ、台湾ネタで始めた今回のエントリーを台湾ネタで締めることにします。

 3月9日の参院予算委員会で飛び出した麻生外相による「台湾=国家」発言、中共が反発したのでその点ばかりが目立ってしまっていますが、麻生外相はこの答弁の中で、もうひとつ台湾に関する重要な発言をしているのです。

「鳥インフルエンザ(H5N1型)の爆発的な流行が懸念される中で、世界保健機関(WHO)が『一つの中国』という政治的な建前にこだわって台湾からの代表参加を制限しているのはよくない。だから1月に東京で開かれた関連国際会議では台湾から専門家を数人招いて情報を共有してもらうよう努めたのだが、WHOも台湾からのオブザーバー参加を認めてやるべきだ。人権の観点からもそうする必要がある」

 ……という趣旨のコメントをしています。さすがはファンタジスタ、マンマークしてくる相手DFの視界から素早く消えていい仕事をしています。地味なようでもこれはなかなか重要な台湾支援活動です。よくぞまあと思うのですが、内外のメディアが「台湾=国家」発言に目を奪われるなか、台湾の「民視」がこれを拾い上げて短い記事に仕立てています。

 ●日本外相が台湾のWHO大会参加を支持(民視 2006/03/11)
 http://tw.news.yahoo.com/060311/44/2xghl.html



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どうも、妙です。中共上層部における潮の流れが変わったのかも知れません。

 ……と前回の「日中共同声明・上」(2006/03/10)の冒頭で書きましたが、やっぱり大ネタは寝かせてみるものですねえ。2日間転がしておいたら早速様々ななシグナルが飛び出してきました。ただし今回のケース、政争とはちょっと異なります。

 当時私が感じた兆候として記したものに、

 ●反日色が濃くなっています。
 ●外交部がまた従来の運動律から外れた妙な動きをするようになりました。
 ●軍主流派の気配が急にまた濃くなってきた、プンプン臭う、そういう印象なのです。

 という3点がありましたが、「反日色」は前回取り上げた我らがファンタジスタ・麻生外相の「台湾=国家」発言も手伝って強まる傾向が続いています(笑)。端的には日本に対するネガティブな報道の量が急増。内容については安全保障問題や歴史問題、そして麻生批判といった記事が現在のところ主流のようですが、これについてはもう少し見極めが必要でしょう。

 あとはもう標題の通りです。2月半ば以降は媚中派に分類されるべき日本の政治家や民間交流関係者を招いたりしてポスト小泉を睨んだ友好ムード醸成に躍起になっていた中共政権。一方で小泉首相や麻生外相を叩いたりするお得意の分断策で、

「小泉・麻生抜きの日中関係ならほらこんなに仲良し」

 というアピールに努め、むろん外交部もそれに足並みを揃えていたのですが、それが3月に入ってから突如、一転して対日姿勢を硬化させました。

 強硬姿勢といっても様々ですが、いま現在の対日外交は譲歩しないとか非難攻勢といったものではなく、今年1月にみられたような、理屈を超えた電波型の強腰(笑)。相手が怒るよりもまず呆れてしまうような、無理は承知で問答無用のゴリ押しに出た、という印象です。

 この「問答無用のゴリ押し」という点に私は外交部が「従来の運動律から外れた」ことを感じるとともに、その原因として制服組すなわち軍部の発言力増大を思ったという次第です。昨年末以来の経緯からみて、台頭しつつあるのは人民解放軍機関紙『解放軍報』を掌握する軍主流派でしょう。

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 形式上は最高指導者なのに、それにふさわしい指導力・統制力を持っていない胡錦涛・総書記。中央の長として「諸侯」(各地方政府)を束ねることはもちろん、党中央をも完全に掌握できないでいる状況を打開しようと軍主流派と手を結びました。……という形跡が昨年12月から顕著になっています。『解放軍報』などを通じて胡錦涛擁護と胡錦涛の提唱する「科学的発展観」礼讃をやってもらうことで、自らの指導力強化を図ったのだと思います。

 ただその見返りとして、胡錦涛は軍主流派が本来職掌外であるべき政治の世界、特に外交面へ口出しすることを黙認する破目になったのではないかと私は考えています。外交部の運動律を崩すくらいですから、「口出し」というより「仕切る」という方がふさわしいのかも知れません。

 ですから「手を結んだ」といっても、胡錦涛と軍主流派の力関係が対等なのかどうかは微妙です。今年に入ってからの動静をみる限りでは、胡錦涛が軍部を掌握したというより、実質的には制服組のマリオネット化しつつあるようでもあります。

 対日関係についていえば、胡錦涛は本来独自の外交方針を持っていながら、様々な事情により胡錦涛政権の実質的スタート(2004年9月)から僅々3カ月ばかりでそれを曲げざるを得なくなった経緯があります。

 ●分水嶺。(2005/10/06)

 もちろん現在は「指導力を強化して対日外交で再び独自色を打ち出す」なんて贅沢を言っていられるような状況ではないでしょう。そもそも相手である日本の対中外交が大きく舵を切りつつあるため、胡錦涛も従来の独自路線に修正を加える必要があります。

 そしてそれ以前に、世代交代を含めた大型人事が行われる5年に1度の党大会を来年に控え、何はともあれまず党内での指導力強化(=人事権掌握)を優先する必要がある。そこで基本的に対外強硬派という制服組特有の傾向を持ち、対日路線もかなり異なる軍主流派と組むことを胡錦涛は選んだという訳です。

 むろん、中共歴代の最高実力者がそうであったように軍権を掌握することで名実共にした「皇帝」となる、という狙いもあったでしょうが、「掌握」できるかどうかは目下のところ甚だ心許ない、というところです。

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 さて、友好ムード盛り上げに力を入れていた外交部が3月に入ってから突如、対日姿勢を硬化させたというのも、恐らく軍主流派の意向を反映したものでしょう。きっかけは2月27日、台湾の陳水扁・総統による「終統」宣言(国家統一委員会と国家統一綱領の運用終了)かと思われます。

 要するに台湾政府が「最終的には統一を目指す」という建前を放棄した(=独立という選択肢を加えた)ことで、もともと台湾問題に最も神経質である軍部がマジギレして一気にレッドゾーン。その怒髪天ぶりは『解放軍報』による集中豪雨的な批判報道で一目瞭然です。

 ●台湾からの一撃に軍部猛反発 / いやいや日本もなかなか。(2006/03/04)

 で、なぜこれが対日姿勢の硬化につながるかというと、陳水扁のとったこの行動に対して日本政府は、

 ●わが国の立場は日中共同声明にあるとおりであり、何ら変更はない。
 ●台湾側が『現状を変更する意思はない』と表明したことに留意している。

 という態度表明(外務省報道官談話)を行い、事実上陳水扁支持の姿勢を打ち出したからです。これが中共政権の望むものでないことは前回の文末で紹介した通り。「日中共同声明」の建前上日本を公然と非難することはできないため、中共は中国大使館の参事官が足並みを揃えてくれるよう哀願するしかありませんでした。

 ●「日本は反対明確に」 台湾国家統一委廃止で中国大使館(asahi.com 2006/03/02)
 http://www.asahi.com/international/update/0302/013.html

 むろん日本側はこれを一蹴、ということで、軍主流派に仕切られた外交部による「問答無用のゴリ押し」すなわち電波モードが始まることになります。私はこのほか東シナ海ガス田紛争に関する協議での「尖閣諸島方面を含む共同開発」という中国側の新提案に軍部の意向が働いていて、日本側がそれを袖にしたことも一因なのではないかと勝手に勘繰っているのですが、これはまだその当否を裏付ける材料が何も出ていないので措きます。

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 ともあれ、これによって中国外交部の対日姿勢がトチ狂いだします。その最初の動きは言うまでもなく李肇星・外相による記者会見(2006/03/07)です。私はあの常軌を逸したパフォーマンス(日本だけでなく米国など外国人記者一般に対するもの)とそれに拍手喝采する中国国民に、

「高すぎるプライド(中華思想)&強すぎるコンプレックス(半植民地時代のトラウマ)」

 という民族的病態を感じました。香港紙まで拍手喝采を送ったことは当時のエントリーで紹介した通りですが、その後、中国国内でも拍手喝采の余韻ともいえる記事がわらわらと出てきました。

 ●李肇星外相の記者会見における表情写真集(新華網 2006/03/07)
 http://news.xinhuanet.com/photo/2006-03/07/content_4270787.htm

 ●心暖まる交流、外相の人情味あふれる一面に湖南の記者大感激(新華網 2006/03/09)
 http://news.xinhuanet.com/misc/2006-03/09/content_4280184.htm

 ●李肇星外相が新華社訪問、報道陣を慰労・激励(新華網 2006/03/11)
 http://news.xinhuanet.com/photo/2006-03/11/content_4289365.htm

 これらはかの李肇星独演会に対する賞賛と支持に他ならないでしょう。最後の記事に出てくる親爺同士の抱擁写真は「勘弁してくれ」と言いたいところですが(笑)。……ただ香港筋で外相引退説が出ています。確度には疑問符がつきますが、もしそれが事実なら「花道」記事という意味合いも持つことになりますね。

 ――――

 まあ、こうした常軌を逸したパフォーマンスとそれに対する賞賛の嵐は「病気」として片付けてしまっていいかと私は思います。ただ李肇星の発言内容、特に日本政府から正式な抗議が出たヒトラーだのナチスだのといった妄言については別の角度から吟味する必要があると考えます。

「現在直面している困難は、日本の一部の指導者が今なお侵略戦争を発動、指揮したA級戦犯への参拝を続けていることにある」
(『読売新聞』2006/03/08)

「第2次大戦後、ヒトラーやナチス崇拝を表明したドイツの指導者はいない」(『読売新聞』2006/03/08)

「日本の指導者のA級戦犯崇拝は、中国だけでなく、多くの国の国民が受け入れられない」(『読売新聞』2006/03/08)

「あるドイツの政府当局者は私に、『日本の指導者がどうしてこのような愚かで不道徳なことができるのか理解できない』と語った」(『読売新聞』2006/03/10)

 ……アドリブなのか台本があったのか、ともかく海外プレスをも前にした場での中国外相の公式発言で、事実誤認であるばかりか、でっち上げと言われても仕方のない「あるドイツの政府当局者」など個人名の出ない根拠のない話が飛び出したことはやはり尋常ではありません。

 実は李肇星は昨年11月にも靖国参拝批判の中で「ヒトラー&ナチス」発言をかましています。偶然ながら、その発言も潮目と位置付けていいものでした。その発言をきっかけに党上層部の主導権争いに変化が訪れたからです。

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 ●ヒトラー例え小泉首相批判 靖国参拝で中国外相(Sankei Web 2005/11/15)
 http://www.sankei.co.jp/news/051115/kok077.htm

 中国の李肇星外相と韓国の潘基文外交通商相は15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の会場である釜山で会談し、李外相は小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反対する考えを強調、両外相は再度の参拝は許されないとの意見で一致した。
(中略)また李外相は同日、釜山のホテルで「ドイツの指導者がヒトラーやナチス(の追悼施設)を参拝したら欧州の人々はどう思うだろうか」との表現で、靖国参拝を重ねて非難。参拝中止に向け「基本的な善悪の観念を持つべきだ」と訴えた。

 ――

 この昨年11月の発言に比べると、今回の記者会見における李肇星談話は嘘臭さと電波度倍増(当社比)といった観があります。トチ狂っているのです。……ところがその発言に日本側から抗議が出たことに対し、外交部報道官(秦剛報道副局長)が定例会見で反発、これまた電波ゆんゆんの態で李肇星発言を支持することになります。


「下」に続く)



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