日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 
人民服、中国語では「中山装」でしたか。私の世代だと「人民服」と聞けばYMOなのですが……あ、今回は大した話ではないので(いつもそうですが)気楽にいきましょう。

 いまは中国でも目にする機会が激減していると思いますけど、先代の江沢民もいまの胡錦涛も普段はスーツ姿なのに、軍のイベントに参加するときは決まって人民服みたいな格好で登場しますね。あれが正規の人民服なのかどうか……1989年の天安門事件のころでさえ大都市ではほとんど見かけなかったものですから、私には判別がつきかねます。

 軍権を握る
党中央軍事委員会主席だといっても、江沢民も胡錦涛も軍籍を有している訳ではないでしょうから、軍服ではないとは思います。まあ人民服ということにして話を進めます。

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 いや標題の通りなんです。『人民日報』(2005/05/30)の一面トップに人民服姿の胡錦涛の写真がドーンと出ていたので驚きました。子供達に囲まれています。笑顔です。マイクを握っています。その手は小指だけ半ば立てています。なるほどこれが胡錦涛スタイルという訳ですか。おっとその背後には
軍服姿の小父さんやお姉さん。ああ道理で人民服なんですね。

 http://www.people.com.cn/pdf/200505/30/0530A1.pdf

 六月一日は中国では子供の日(児童節)、ということで、そのころになると国家指導者が子供関係のイベントに顔を出すのです。正確には
国家指導者の「児童節」向けネタとしてイベントが組まれる訳ですが、それで胡錦涛は「総政治部小紅星幼児芸術団」を訪問し、子供達の歌や踊りを観て御満悦、というところなのでしょう。

 でも、人民服です。当然ながら制服組のお偉方を引き連れている訳ですが、訪問先も「総政治部」を冠していることからわかるように、
人民解放軍の傘下にある子供歌舞団なのです。つまり胡錦涛のお供が軍人なら、胡錦涛を囲んでいる子供達も大袈裟に言えば「軍関係者」(笑)。軍部といえば最近キナ臭い話題が続いているので、小指を立てて御機嫌の写真も、何だか胡錦涛が軍に軟禁されてしまったかのように見えてしまいます。

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 キナ臭いといえば、国営通信社・新華社のウェブサイトである「新華網」、ここの軍事ニュースに飛んでみると、異様です。最近になって
「抗日戦争」ネタや「侵略国家・日本」ネタが急増しているのです。もちろんあの「呉儀事件」を巡る初動期の混乱が終息し、中国国内メディアが対日強硬路線で足並みを揃えてからのことです。胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』が靖国神社に祭られているA級戦犯を断罪する連載を始めたのもそうですが、この「新華網」軍事ニュースもまた然りです。

 http://www.xinhuanet.com/mil/xwzx_js.htm

 まず基本として「抗日戦史における今日」という記事があります。靖国神社の遊就館、あそこの入口の受付の上にある電光掲示板「御祭神ゆかりの出来事(×月×日)……」みたいなものです。ちなみに昨日(30日)は「東郷平八郎元帥の命日」でしたがそれはともかくとして、「新華網」の軍事ニュース。

 私はこのページが記事漁りのコースに入っているので毎日のぞいています。それで気付いたのですが、5月27日になって突然、
「日本による初期の対中侵略」と銘打った記事がわらわらと涌いて出たが如くまとめて9本も登場しました。

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日清戦争とか日露戦争とか対華21カ条といった出来事をそれぞれ紹介しているのですが、たぶん中国の学校で教えられている内容と大差ないものでしょうから、私は貴重な資料として即保存しておきました。東郷元帥つながりで言いますと、この中共の掲げる「史実」によれば、何と「日露戦争」には日本海海戦が登場しないのです(笑)。

 あとガタルカナル攻防戦の記事も2本この日に出ています。第二次大戦史のような写真中心の記事はときどきあるので唐突な印象は受けませんけど、あの日本海海戦を「なかったこと」にしてしまうのですから、第一次ソロモン海戦も南太平洋海戦もルンガ沖夜戦も出てくる訳がありません。その代わり、日本海軍にとっての負け戦だったサボ島沖夜戦にはちゃんと言及されています。あ、でもなぜか伊19潜による米空母ワスプ撃沈だけは出ています。謎です。……ともあれこれが27日。

 翌28日と30日(29日は特別な記事はなし。日曜はいつもそうです)には趣向を変えたつもりか、今度は
A級戦犯のオンパレード。一人ずつが独立した記事になっているのですからよほどの粘着です。これにいわゆる「抗日戦争」での英雄の記事も数本加わります。

 こんな集中豪雨的な記事投入を毎日続けられるほどネタがあるのかこちらが心配してしまいます。それとも軍部にとって何か特別に嬉しいことがあってつい浮かれてしまったのでしょうか。

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 軍部で思い出しましたが、人民解放軍の機関紙『解放軍報』(2005/05/30)に日本批判の署名論評が出ました。「呉儀事件」以降、新華社電などの使い回し記事は掲載されたりしていましたが、オリジナルはこれが初めてです。

 ●中日関係を発展させていく上で戦略眼は欠かせない
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2005-05/30/content_216293.htm

 内容は型通りで目新しいものは特にないのですが、これを読むと軍部にとってはやはり「靖国」など歴史問題よりも
台湾問題の方がずっと大事で、そちらにより神経を尖らせているな、という印象を受けます。

 台湾といえば、前回「クーデターも辞さない」若手将官たちの中心的存在として名前の出ていた
劉亜洲・中将に関する記事が香港紙『成報』(2005/05/30)に出ていたので驚いたのですが、その内容にもびっくりです。

 ●連戦、宋楚瑜の訪中は劉亜洲の建言によるもの
 http://www.singpao.com/20050530/international/718837.html

 台湾の連戦・国民党主席と宋楚瑜・親民党主席の訪中はまだ記憶に新しいところですが、この二大イベントによって中台間に融和ムードが一気に広まった観がありましたね。
実はその影の立役者が劉亜洲だというのです。二人を相次いで訪中させることで台湾独立派の出鼻を挫く一方、アジアでの影響力維持のために台湾を重要な手駒と考えている米国の戦略をも動揺させ得る、という発想によるもので、軍上層部にこの策を建言し、それが容れられて歴史的な訪中が実現したというのですから、私はもうあんぐりです。

 その一方で、未確認ながら前回紹介したような動きをみせているのですから、得体が知れません。さすがは
江沢民の「戦略参謀」(『産経新聞』2005/05/27)、一筋縄ではいかない軍師といったところでしょうか。「連・宋訪中」では胡錦涛自身も大いに得点を稼げましたし、「江沢民の政治力+若手将官麾下の武力」が劉亜洲の後ろ盾になっているのですから、胡錦涛もおいそれと手を出すことはできないのかも知れません。

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 ひょっとすると「児童節」記念で胡錦涛に人民服を着せて軍傘下の子供歌舞団を訪問させた、というのも劉亜洲あたりの献策かも知れませんね。これで『人民日報』の一面トップですから、
軍部の存在感を高める政治活動と言えなくもありません。

 胡錦涛といえば
温家宝なのですが、こちらは北京市のトップらを引き連れて障害を持つ子供たちの施設を慰問したようです。これも胡錦涛人民服バージョンがトップを飾った日の『人民日報』の一面にやはり記事が出ています。こちらはもちろん人民服ではなく、ラフな私服姿です。記事内容も「庶民派総理と子供達の心暖まる交流」風味でまとめられており、温家宝のイメージアップに貢献したことでしょう。

 以下は下衆の勘繰りなんですが、両者の記事の長さを比較すると、実は胡錦涛より温家宝の方がかなり上回っています(温家宝の記事は1面から4面へと続いています。胡錦涛は1面だけです)。しかも温家宝は自分の好感度向上につながる報道をしてもらっている。一方の胡錦涛はといえば、確かに珍しく朴訥そうな笑顔を見せてはいるものの、その記事が軍部に貢献する部分はあっても、温家宝ほど自らのイメージアップには直結していないのではないでしょうか。

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 いきなり胡錦涛の人民服姿を見せられて、余談から余談へと飛び歩くような散漫な内容になってしまいました。しかも話を落とさないまま強引に締めるという情けなさ。睡眠不足(というか寝ていない)のせいにしてもいいですか?いつもながらお粗末で申し訳ありません。






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 またその話?……なんてそんな嫌な顔しないで下さい(笑)。

 ひとつのテーマに上中下と3回も使ったので、主題はほぼ書き尽くした観があります。ただ資料等につき新たに判明した内容などを補遺として並べておきたいのです。特に今回は組織の内側から生起したキナ臭い動きが存在している模様ですから。

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 その気になる軍内部の動きについて、出典などを集めてみました。

 ●くすぶる権力闘争「靖国」にすり替え――中国指導部
 (『産経新聞』2005/05/27・3面)

 web上には出ていない記事です。「aquarellisute」さんが以前のコメント欄に要約文を寄せて下さっています。あるいは記念碑的な記事になるかも知れないと思い、私はすぐコンビニに走って購入してきました。「aquarellisute」さんに大感謝!です。

 あとはここにも記事の大意が出ています。

 【中国】副首相緊急帰国、対日強硬派軍部の”不穏な動き”が原因か[05/28]
 http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1117248427/l50

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 面白いのは、『産経新聞』のこの記事に対し中共当局からすぐにリアクションがあったことですね。翌日付の同紙(2005/05/28)、これはweb上で読める記事です。

 ●日中摩擦、Wストリート・ジャーナル紙論評「対日要求は横柄」――反日の動機「国連や台湾」
 http://www.sankei.co.jp/news/050528/morning/28pol003.htm

 この記事自体読み応えがあっていいのですが、その末尾に本題とは関係なく、こうあるのです。



■中国大使館、本紙に抗議
 中国の呉儀副首相が小泉純一郎首相との会談を取りやめた背景に、中国軍内の動静が関係したとの情報を伝えた本紙記事(二十七日付三面)について、駐日中国大使館の黄星原参事官(報道担当)は同日、産経新聞社に対し、「報道内容は事実無根だ」と抗議した。




 記者が中国大使館に取材したのではなくて、相手から抗議という形で素早く反応してくれたのです。無表情な文面に
「これでウラが取れたも同然」とニンマリする記者の顔が浮かびます。さすがは王毅・駐日大使、昨秋の着任以来いい仕事をしています。安打製造機です(笑)。

 それにしても、中国大使館から日本の新聞への抗議ってそんなに頻繁にあるものなんでしょうか。あるいは、このリアクションについてはもう一歩深読みしてもいいかも知れません。抗議することで記事の正確であることを間接的に認め、胡錦涛・総書記が窮地に立たされていることを日本国民に広く知らしめる。……でもそれなら日本政府関係者に耳打ちすれば済むことですし、ガセネタであれ事実であれ、中国側が認めたくなければ抗議などせず沈黙していればいいことですよねえ。謎です。

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 さて、『産経新聞』の問題の記事は、

「日本の公安当局などが把握したところでは、『不穏な動き』に関する情報は23日以降、ネットなどを通じて流れ始めた。」

 としています。そのネット上の情報、反体制系ニュースサイト「大紀元」(日本語版)にも流れましたが、元ネタは同じく法輪功系で「大紀元」よりもさらに濃い(笑)「SecretChina」に出ているものだと思います。

 ●対日強硬路線に転じなければ胡錦涛はクビだ――少壮将官など軍が最後通牒(2005/05/23)
 http://www.secretchina.com/news/gb/articles/5/5/25/115047.html

 「対日外交を強硬路線に改めなければ、署名活動などによって胡錦涛を党中央軍事委員会主席(軍権を握るポスト)から引きずり下ろす。場合によってはクーデターも辞さない」
という威勢のいいものです。日付が一致しているのですが、もしやこれが『産経新聞』や「日本の公安当局」の元ネタ……?

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 いやいや、より具体的な情報があるのです。いつもいつもお世話になっている「1読者」さん(有難うございます)が前回のコメント欄でそれを明示して下さいました(ヤハリタダモノデハナイ……)。

 ●軍部がシンポ:尊重されたくばまず自らを磨くべし――日本人はなぜ中国に暴慢なのか?
 http://www.qian-ming.net/gb//viewarticle_gb.aspx?vID=818

 「簽名網」(www.qian-ming.net)
という署名活動専門サイトに出た一種の「檄文」です。冒頭には劉亞洲中将、彭光謙少将、劉鴻基少将など現役将官の名が並んでいます。これがいわゆる「少壮将官」なのでしょう。

 この檄文が「簽名網」に出たのは4月14日。署名は4月24日から8月1日までに期間を区切って募集することとなっています。

 面白いのはこの「簽名網」、色々なテーマについての署名募集が行われており、閲覧者は署名募集内容が並んだ一覧を見てこれはと思えば署名ページに進む……という仕組みになっているのですが、これは明らかに
反体制系・民主化活動系のサイトです(笑)。テーマも大半が政治犯の釈放要求などといったもので、例えば昨秋安徽省のお爺さんお婆さんデモ(())をレポートするなど海外の民主化運動系論壇に数々の文章を発表し、今年1月に逮捕された張林氏の放免要求もあります。

 そこに人民解放軍内部からの署名募集が出るというのはどうみても場違いに思えますが、このテーマは意外にも、

「軍部の政治制度民主化改革要求を応援する署名、緊急募集」

 と銘打たれており、他のテーマと一緒に並べられても違和感がありません(笑)。対日強硬路線要求じゃなかったの?というところですが、要するに
「政治制度の民主化を断行することで富国強兵を実現し、日本に舐められない中国になろう」ということなのでしょう。

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 「日本が中国を舐めている」という当人たちの認識ですが、そこは軍人ですから陣取り合戦しか眼中にありません。尖閣諸島、沖ノ鳥島の問題、それに台湾を対応範囲内とする日米安保、といったところで「舐められている」と感じるのでしょう。中国を仮想敵認定(新防衛大綱)、自衛隊による沖縄・尖閣方面への配備強化といった動きなどにも青筋を立てている筈です(笑)。

 「日本は米国と組んで一歩一歩着実に、祖国統一(台湾)の阻止と中国封じ込めの動きを強めつつある」と、危機感を募らせているのに違いありません。これは対外強硬派の基本認識とも一致すると思います。

 この檄文については稿を改めて取り組むことにしますが(いまちょっと時間的余裕がないのです)、それにしても少壮将官たち、

「首謀者は空軍首脳の一人で前政治委員。国家主席も務めた李先念氏に近く、江沢民前国家主席の『戦略参謀』といわれる人物だ。」

 と『産経新聞』(2005/05/27)が報じているのは劉亞洲中将のことでしょうが、いかにそういう後ろ盾がいるとはいえ、こういう反体制系サイトで公然と署名募集活動なんかやって大丈夫なのでしょうか。それとも胡錦涛・総書記、軍権を握るポストにあるとはいえ、現在はそういう活動を一喝してやめさせ、関係者を処分するほどの実力もないのでしょうか。署名募集の締め切り期日が人民解放軍の誕生日ともいえる
8月1日(建軍節)というのも何やら意味ありげで気になります。ええ、無責任な野次馬としてはクーデターを見てみたいのです(笑)。

 ただ「1読者」さんが前回のコメント欄で指摘されている通り、核の扱いが問題になりますし、「日本に舐められている」と火に焙られるように焦りまくっている連中ですから、軍事政権になったら中国国内の日本資産凍結とか進出企業の施設接収なんてこともやりかねません。前にも書きましたが、軍人にはそういう特有の思考法と行動原理があるからマトモな国にはシビリアン・コントロールという制度が存在しているのです。

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 とりあえず現時点においても中国はすでに対日強硬路線に転じていることを思うべきです。

「A級戦犯分祀と日本の常任理事国入りセットで一件落着」

 なんて声が自民党の幹部クラスから出ているようですけど、そんな甘いことを言っていたら痛い目に遭いそうで不安です。

 ……ところで素朴な疑問ですが、神社の世界に「分祀」という手法は存在しているのでしょうか?(無知ですみません)。




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「中」の続き)


 さて、党上層部で「何かが起きた」ことを反映するかのように、中国国内メディアは呉儀事件の翌日である24日から対日強硬色を強めていきます。「何かが起きている」ではなく「何かが起きた」なのは、呉儀事件の初動で乱れたマスコミの足並みが、翌24日にはもう「日本には強腰」で揃っているからです。

 中国の権力闘争は往々にして自分の掌握するメディアに敵方のメディアと代理戦争(論争)をさせることで進行し、片方の論調がもう一方に同調した時点で白旗を掲げたこととなり、政争に終止符が打たれたとされます。ですから24日に足並みが早くも揃っているというのは、一方がすでに白旗を掲げたものと理解できるのです。

 具体例でいきます。24日は先月の反日騒動でも火に油を注ぐ役を務めた、つまり対外強硬派の陣地であった「新華網」の署名論評記事(2005/05/24/11:15)が「新浪網」や上海の『解放日報』電子版などで使い回されます。

 ●世論は小泉首相が改善への転機を迎えた中日関係に水を浴びせたとみている(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/24/content_2995027.htm

 これに加え、外交部報道局長・孔泉が定例記者会見でみせた独演会のダイジェスト版数バージョンも登場。また日本発の情報として、公明党の冬柴幹事長や経団連の奥田会長が小泉首相に慎重な対応を求めた(靖国には行くなということ)といったニュースが流されます。さらに、

 ●日本がミサイル迎撃用に配備した新型レーダーについて(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-05/24/content_2993960.htm

 ●日本は国防の重点を北から南方へと転換、海上攻撃能力の強化図る(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-05/24/content_2994446.htm

 ●日本が新たな戦争形態への転換を模索、新理論「マヒ作戦」(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-05/24/content_2995063.htm 

 ……など日本の軍事面に関するニュースもまとまって出てきました。これに対し、胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』はどうしたかといえば、

 ●日本が対中海苔輸入制限を撤廃、今年の輸出量は最低でも8000万トンに(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2005-05/24/content_2995347.htm

 ……という明るい話題(笑)を流して、それが一応「新華網」に転載されてもいます。現時点からみた限りでいえば、あるいはこれが胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』の最後の抵抗だったのかも知れません。

 ――――

 5月25日になると、今度は『人民日報』が日本を批判する署名論評を出し、「新華網」はじめ各メディアに転載されます。同紙は翌26日にも署名論評で日本を叩き、これも各メディアが転載。またこの前後から、発言当時にはさほど騒がれずにスルーされた観のあった16日の小泉首相発言(参拝の意向をにじませ、中韓の介入に不快感を示した)が蒸し返され、叩きに叩かれるようになります。ともあれ『人民日報』は党中央の機関紙ですから、ここが先頭に立って旗を振り始めた意味は大きいと思います。

 しかし、それより注目すべきかも知れないのは、新華社が配信した『人民日報』社長の講話です。

 ●人民日報社の王晨社長「世論を正確に導く能力の強化を」(人民網)
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/3416758.html

 この記事自体は、

「『人民日報』は今までも努力を重ね、頑張ってきた。党中央の機関紙としてこれからもしっかり仕事します」

 という内容なのですが、その「頑張ってきた」具体例として
「日本関連問題といった重大ニュースの特集制作に力を注ぎ」という一句が唐突に登場します。それまでは思想宣伝がどうのといった話ばかりだったのに、ここだけが固有名詞というか名指しです。『人民日報』トップの講話なのに新華社発で、それが「人民網」に掲載されました。下衆の勘繰りとして申し上げますと、『人民日報』はこの記事を以て白旗を掲げた、ということになるかも知れません。

 『中国青年報』も25日に白旗を掲げた、と私はみています。この日から、
「靖国神社に祭られているA級戦犯」というシリーズ記事が始まったのです。第一弾はやっぱり東条英機。

「行き過ぎた民族主義はよくない」
(2003年末の楊振亜談話)
「こんな『愛国』には誰も喝采しない」
(昨年夏のアジアカップで中国サポーターに苦言)

 などの文章をかつて掲載し、先月の反日騒動でも一貫して火消しの立場を貫いてきた同紙が、靖国神社に祭られているA級戦犯を改めて断罪するといったかくも「濃い」連載記事をわざわざスタートさせるというのは、「参りました」ということでしょう。もちろん同紙の白旗は、そのボスである胡錦涛が掲げたに等しいものです。胡錦涛は反日運動をダシにした主導権争いに優勢勝ちを収めましたが、当時のような影響力・指導力はすでに維持されていないとみるべきでしょう。

 ――――

 しかし対外強硬派、といっても主要な顔ぶれなど、その実態は謎に包まれています。ところがこれについては以前のコメント欄で「aquarellisute」さんが指摘して下さった通り、
『産経新聞』(2005/05/27)が日本の公安当局などからの情報として報道しています。具体名は出ていないながらも、一派の顔ぶれや政治姿勢、また胡錦涛に対し圧力をかけ、一時はあわやクーデターという状況でもあったことなどが報じられています。

 この記事の内容は反日騒動に関するエントリーで当ブログが紹介した香港紙『明報』の消息筋情報と符合するもので、また「1読者」さんがやはり以前のコメント欄で明かして下さった消息筋情報とも平仄がピタリと合っています。「1読者」さんはこの報道を受けて追加情報も提供して下さいました。

 実はこれで私も氷解したことがあるのです。人民解放軍の機関紙『解放軍報』に出た2本の署名論評、

 ●軍隊の組織慣性を重視せよ
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2005-05/26/content_214082.htm

 ●法を以て軍を治めることは軍事闘争勝利の重要なる保障だ
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2005-05/26/content_214043.htm

 ……読んでみると軍内部に独自の動きが出ていることを示唆し、それを諌めるような内容に思えて、今回の急転直下ともいうべき展開と何か関連があるのではないか、しかしどんな関わり方なのだろう、と考えあぐねていたところでした。それが今回の報道などによって回答めいたものが出た観があります。

 もちろん産経報道自体、公式に確認されたものではありませんから、『解放軍報』の署名論評2本についても私の下衆の勘繰りにすぎない、ということになるかも知れません。ただ軍機関紙に出た異様な印象を与える記事について、なお情報の限られている現時点において、ひとつの解釈が成立したとはいえるように思うのです。

 ともあれ、ここまでの一連の流れを観じるに、事態は「呉儀事件」から別な、全く異質なものへと焦点が移りつつあることがわかるかと思います。

 ――――

 現在のところ、中国側の対日姿勢が一転硬化し、党上層部が何やらキナ臭くなっている気配はあるものの、胡錦涛が失脚するとか、軍部によるクーデター政権が誕生したという事態までには立ち至っていません。ただ昨日(27日)開かれた「中央民族工作会議」、午前中に胡錦涛の演説(重要講話)があったと報じられたものの、ほどなく明らかになって然るべきその演説内容が夜になってようやく公開されるなど、何か判然としないリズムで中国指導部がフラついている観があります。

 もうひとつ挙げるなら、昨日の『香港文匯報』(2005/05/27)がこれまた唐突に、
「五中全会」(党中央第16期第5次全体会議)が今秋に開かれる見通しだとして、それに関する特集記事を組んだのも奇異な印象を受けます(※1)。これは党中央、つまり党中央委員会の全体会議で、党上層部の人事任免も行われます。前回は昨年9月の「四中全会」、ここで江沢民が党中央軍事委員会主席(軍権を握るポスト)から引退し、胡錦涛政権が名実共にスタートしたことを御記憶の方も多いかと思います。

 なぜ5月末のこの時点で秋の「五中全会」の特集?という異様さに、失脚とかクーデターとかいう言葉を直接結び付けてみたい衝動にかられます(笑)。まあ飛躍し過ぎなのでそれは控えることにしますけど、『香港文匯報』のこの飛躍っぷりはどう説明すればいいのか。ヲチするこちらも中共同様、一難去ってまた一難なのです。

 ――――

 最後に、これは以前にも書きましたがくどいのを承知で改めて。

 「靖国問題さえ解決すれば日中関係はみなうまくいく」ということを中共は言っていますが、こういう形に問題を集約させてしまった時点で中共は大失策を犯していることになります。そこまで言われたら小泉首相は参拝しない訳にはいかないじゃないですか(笑)。参拝したら中共は責任問題などをめぐり党内でひと荒れせずにはいられないでしょう。それで胡錦涛が血祭りにあげられる予定調和シナリオがもう書き上がっている(笑)のかどうかはわかりませんが、

「靖国問題さえ解決すれば日中関係はみなうまくいく」

 ……という中共の言い分、まあ強盗やヤクザの理屈と言いますか、いかにも軍人の頭から出てきそうな物言いですが、これを鵜呑みにしている日本人は少ないと信じたいです(ジャスコや層化は別ですねw)。ここで譲ってはいけません。
靖国問題で譲れば次は歴史教科書、その次に尖閣諸島、東シナ海ガス田問題、沖ノ鳥島、そして台湾問題……と、ネタはいくらでもあるのです。交渉相手が軍人風味の連中に変わったのなら尚更です。まず靖国問題について内政干渉はやめろとはねつけ、日中関係の原点に戻るべきです(※2)。

 「靖国問題さえ解決すれば日中関係はみなうまくいく」というのが大ウソであることを、大半の日本人がわかっていると私は信じたいのですが、それでも中共音痴は結構いますので、念を入れずにはおれません。それで周囲の日本人に
「ここで譲っちゃダメなんだ」と私は説きまくっています。悲しいかな小市民にはこのくらいのことしかできませんが、皆さんも是非この点を徹底して頂ければと思います。


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 【※1】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505270001&cat=002CH
     http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505270002&cat=002CH
     http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505270003&cat=002CH
     http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505270004&cat=002CH
     http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505270005&cat=002CH

 【※2】日中間で取り交わされた3つの政治的文書。戦争に関する賠償権を中国が放棄したこと、戦争問題に一切のケリがついたこと、また相互内政不干渉や、日本が厳密には台湾を中国の一部と正式に承認してはいないことが明文化されています。




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「上」の続き)


 前回は文末で余談に流れてしまいました。改めて書きますと、私が今回の事件で感じたこと、



 (1)李登輝訪日時の「口だけ」反発に比べ、外交儀礼を無視した行動に出た今回は本気度が高い。

 (2)でもこれは
「胡錦涛、いよいよガチに出た」なのか、「ガチになることを余儀無くされた胡錦涛」なのか。

 (3)報道もバラバラで論評記事にも乏しく、事前に準備されたメディア攻勢にはみえない。



 ……のうち、今度は(3)の中国国内メディアによる今回の報道ぶりについてです。これは、本来ならしっかり統制されている筈なのに、今回はバラバラと言うか意思不統一、要するに3月末から4月中旬の「反日」期間中のような(反日気運に対する「火消しメディア」と「火に油メディア」があった)、党上層部がまた2つに割れたんじゃないかと思えるような無統制さを感じさせるものでした。

 ただし、初動は無統制で混乱したもののその時期は短く、数日ですぐに足並みが揃いました。これは前回の反日騒動を巡る動きとは対照的な点です。
足並みの乱れが党上層部の意思不統一を示すものだとすれば、今回は主導権争いがあったものの、比較的短時間で決着がついた、ということになります。

 で、まず初動なのですが、呉儀のドタキャン、これを中国国内メディアが報じるのが実は
恐ろしく速かったのです。第一報は5月23日、つまりキャンセル当日のしかも午前中。共同電を引用する形で『人民日報』のウェブサイト「人民網」に掲載されました。それを素早く10:54に大手ポータル「新浪網」(sina.com)が転載しています。これはたぶん呉儀が経団連会長(トヨタの奥田氏)と会食する前の時点でしょう。

 ●呉儀・小泉会談は中国側がキャンセル――日本メディア(新浪網)
 http://news.sina.com.cn/c/2005-05-23/10545963090s.shtml

 第2報はシンガポールの『聯合早報』のウェブサイト「早報網」です。これは中国国内からも見ることのできるサイトかと思います。
11:05と、ここも速いです。しかも呉儀のドタキャンを伝えた後に、「自公幹事長vs胡錦涛」会談において、胡錦涛が政治家の靖国参拝停止を求めたことにも言及されています。胡錦涛の靖国言及初暴露です。

 ●呉儀、小泉首相との会談をドタキャン(早報網)
 http://www.zaobao.com/special/realtime/2005/05/050523_09.html

 続いて中国国内の通信社・中国新聞社のウェブサイト「中国新聞網」が共同電を引用する形でごく短いニュースにしたものを、『北京青年報』系列のウェブサイト「ynet.com」が
11:07に掲載しています。

 ●呉儀、小泉首相との会談をキャンセル――共同通信(ynet.com)
 http://www.ynet.com/view.jsp?oid=5366860

 ――――

 内容が副首相の外遊、それも外交儀礼に反する振る舞い……とにかく訪日前は重視されていた小泉首相との会談をキャンセルするという異常事態ですから、国営通信社・
新華社から記事が配信される前に別口からこのような重大ニュースが流れるのは異例に思います。政争めいたものが党上層部に存在していたなら、「非公式ルート」でこのニュースを流させたのはどの政治勢力なのか、という勘繰りも必要になるでしょう。

 ところで胡錦涛の靖国発言を暴露したシンガポールの「早報網」ですが、仮にこのサイトが中国国内から見ることのできないものでも構いません。というのは、日付が改まった24日00:40に
『中国青年報』のサイト「中青在線」がより詳しい内容を報じているからです。呉儀のドタキャン、それに対する小泉首相の反応、また胡錦涛の靖国言及も暴露していますし、スルーした筈の16日の小泉発言(「上」参照)までここで蒸し返されています。

 ●呉儀訪日終える、小泉首相との会談はキャンセル――日本側は靖国問題との関連性を否定(中青在線)
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-05/24/content_8282.htm

 この記事を「新浪網」(05:09)、「捜狐網」(07:38)、「tom.com」(10:18)と大手ポータルが次々に掲載していきました。胡錦涛の広報紙『中国青年報』の発したこの記事、私は今回の騒動においては現時点までで5本の指に入る重要な記事だと考えています。新華社に先駆けて全てを洗いざらい「暴露」したこともさることながら、記事が奇異にも映る物言いで終わっているからです。

「現時点において、中国政府は呉儀の繰り上げ帰国に関する公式なコメントを出しておらず、国営の新華社通信も呉儀帰国の原因についてまだ言及していない」

 『中国青年報』ですよ。日本や香港の新聞じゃないんですから。中国国内メディアは「党・政府の代弁者」と定義され、その役割を全うするよう厳格に求められているというのに、この「非公式」な視点はどうしたことでしょう。
「中国政府」や「新華社」に対しはっきりと一線を画しています。異様なスタンスです。この記事文中には、

「呉儀が『緊急の公務』で小泉首相との会談を急遽キャンセルし、前倒しでの帰国となった」

 という一文もあるのですが、その前には
「日本メディアによれば」と但書きがついています。つまり日本のマスコミは「公務」と言っているが、実は非公式(政府や新華社から発表がないため)ひいては私的な性質のドタキャン&繰り上げ帰国なんだ、ということを匂わせようとしたものでしょうか。正直、私にはわかりません。

 とにかく「中国の公器」らしくないこの最後の一行が引っかかります。対外強硬派の台頭が感じられ、胡錦涛の対日路線が大幅な修正を余儀無くされた観のある時期です。御用新聞だけに、胡錦涛の何らかの意思表示がこの一行に込められているように思います。

 ……込められているように思うのですけど、私にはどうにも読み解けないのです。無能ですみません。

 ――――

 中国国内メディアの初動の足並みの乱れはまだあります。呉儀ドタキャンの23日(13:51)に新華社系時事週刊誌『国際先駆導報』の靖国参拝批判記事が「新華網」に掲載されました。この時点では胡錦涛が自公幹事長との会談で靖国問題に言及したことは、シンガポール紙である『聯合早報』(電子版)しか報じていません。

 週刊誌の記事ですからタイミングでいえば自公幹事長の訪中前に書かれたものかと思います。例えそうでなくても、自公幹事長の訪中までは「上」で書いた通り日中歩み寄りムードで、訪日中の呉儀も日本側に対して前向きのリップサービスを繰り返していたのです。そして胡錦涛の靖国言及はまだ「内緒」に近い段階。そういう時期に、流れを変えようとするが如く、いきなり靖国批判記事を「新華網」が掲載したというのは異様です。

 ●小泉よ、「罪を憎んで人を憎まず」はやめてくれ(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/23/content_2990579.htm

 掲載時間は前後しますが、この国営通信社である「新華網」が外交部報道局長・孔泉のコメント(23日午後の定例岸記者会見)を最初に出したのは、上に掲げた『中国青年報』の記事とほぼ同時(新華網が7分だけ早い)の24日00:33分です。

 ●孔泉「日本側が中日関係の改善に不利となる発言を繰り返したのは遺憾だ」(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/24/content_2993090.htm

 内容は、
「日本の指導者が呉儀の訪日中に靖国神社参拝問題に関する発言を繰り返したことは中日関係の改善にとって不利になるものであり、中国側はこれを大変不満に思っている」というもので、このために呉儀がドタキャン&繰り上げ帰国したとは言っていませんし、そもそも呉儀がドタキャンした、という「人民網」から『中国青年報』に至る「別口ルート」の記事が既報している事実にも全くふれていません。ちなみに日本メディアはこの発言を以て「どうやら靖国問題がドタキャンの原因らしい」と報じていましたね。

 ――――

 足並みの乱れ、ともいえますし、事態が事前に準備されていなかったことをうかがわせるものが他にもあります。北京の指示に合わせ忠実に踊ってみせる
香港の親中紙『香港文匯報』の反応です。呉儀のドタキャン&繰り上げ帰国(面倒なのでこれ以降は仮に「呉儀事件」とします)については報じています。

 ●呉儀が小泉首相との会談をドタキャン、繰り上げ帰国(香港文匯報)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505240001&cat=002CH

 ……が、この記事の出処は「AP通信+AFP通信+ロイター通信+台湾・東森新聞」。要するに外電の詰め合わせセットでして、北京からの指示に基づいて書いた記事ではありません。

 16日の小泉発言、参拝の意向をにじませ、また中国・韓国の干渉に不快感を示したとされるこの発言を、中国国内メディアはさほど騒ぎ立てずにスルーしましたが、『香港文匯報』だけは翌日に社説を掲げています()。ところが今回はどうやら事態の変化についていけていない。あるいは北京から統一された指示を受け取っていない。だから出先である香港の親中紙として、これほどの事態なのに旗幟鮮明な態度を示せず、今回は「事件」の翌日(24日)に社説を出せなかった、のではないでしょうか。同じく香港の親中紙である『大公報』も同様です。

 呉儀事件が社説とするに値しないと判断された訳ではありません。その証拠に、この両紙はそのまた翌日(25日付)になってから揃ってこの問題につき社説を出しているのです。北京から指示が出たのでしょう。

 ●香港文匯報
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=WW0505250010&cat=005WW

 ●大公報
 http://www.takungpao.com/news/2005-5-25/LT1-406022.htm

 政争があったとすれば、遅くともこの時点、つまり記者が社説を書いている24日には、いずれかの政治勢力(たぶん対外強硬派)が大勢を制していたのだと思います。実際、中国の対日姿勢の硬化を示すメディア攻勢(前週とは打って変わった強腰かつ恫喝的な論調)も、にわかづくりの印象ながら、24日から本格化しています。

 ――――

 対外強硬派、という言葉が出たことで先に触れておきたいのですが、日本からみると「靖国参拝+呉儀事件」と捉えられがちな今回の事態ですが、中国側の視点に立つと問題は「靖国」以外にも数え上げることができます。例えば、

 ●東京都議などの本籍地が沖ノ鳥島や尖閣諸島に置かれたという報道
 ●石原都知事による沖ノ鳥島上陸と決意表明

 の2点は日本側が投下した補助燃料のようなものですが、香港や中国国内の新聞では大きく扱われ、報道されたことを記憶しておいていいと思います。補助燃料ではありますが、恐らく軍部も少なからず加わっているであろう対外強硬派をかなり刺激したものと考えられます(クマー!のAA略)。

 対外強硬派が目下の最重要課題として考えているのはいわゆる「台湾統一」、あからさまにいえば台湾の確保(占領)でしょう。だからそれを阻む要因は極力排除しようとする。具体的には台湾内の独立派の動きを封じること、そしてより大きな存在として日米の台湾問題への介入を断固阻止すること。

 ……特に日米の介入は連中にとって「中国封じ込め」とも捉え得る事態ですから、神経を尖らせることでしょう。日米安保や日本の尖閣諸島や沖ノ鳥島に対するアクションを、そうした懸念される事態につながるもの、と考える対外強硬派からみれば、今回の現執行部の対応が「無為無策」と映り、これを批判する動きに出ても不思議ではありません。

 台湾問題最優先という立場からいえば、小泉首相の靖国発言よりも、現実に動き出している尖閣諸島や沖ノ鳥島の問題の方が憂慮すべき事態で、むしろそちらに反発した、としても不思議ではないのです。ただ、政争の具としては日本側との合意に未だ至っておらず、時期的にも旬であり、また歴史問題という誰にとってもわかりやすく反対することもできない「靖国」を持ち出して、これを党上層部に対する「踏み絵」に使った、ということなのかも知れません。

 ――――

 先の反日運動でも同じことが行われています。当初は日貨排斥、日本の国連安保理常任理事国入り反対、などいくつかの流れだった「反日気運」が、平易で明快な歴史教科書問題を持ち出すことで「とにかく反日」に一本化し、それによって行動も署名活動や不買運動からデモのようなより過激な活動へとエスカレートしていったのは記憶に新しいところです。

 それが今回は「靖国問題」だったのかなあ、と頼りなくて申し訳ありませんが、私はそう朧げに考えているところです。胡錦涛は自公幹事長との会談で「靖国参拝停止」を勝ち取ることができなかった。それによって党上層部においてヘタレ認定され、指導力に疑問を呈され、主導権を奪われたのかも知れない、というものです。

 4月の「反日」では、対外強硬派が煽ったことでデモが全国各地に飛び火して中共政権の円滑な運営に影響しかねない(反政府運動に発展するかも)というところまで盛り上がってしまいました。そこで胡錦涛優勢で進んでいた主導権争いはとりあえず手打ちとなり、一致団結して「反日」の火消しに躍起となった(そこはどちらも中共人ですから。中共が潰れたら困るのです)という経緯があります。

 しかし今回はいわば密室での政争ですから、何に顧慮することもなく、対外強硬派は「靖国」そして「台湾」という旗印を掲げて直線的な行動をとることができたのではないでしょうか。台湾問題に関する胡錦涛の翳りといえば、台湾・国民党主席の連戦、そして宋楚瑜・親民党主席の大陸訪問を実現させて「いいムード」にしたところまではよかったのですが、その直後に台湾で行われた選挙では中共にとって好ましい結果が出なかった。それに対する有効な打開策を打ち出せなかったのが響いたのかも知れません。

 とはいえ、実際のところ党上層部で何が起きているのかは、うかがいようもありません。ただ、何かが起きている、あるいは何かが起きた、という匂いや気配を各方面の報道から感じるのみです。


「下」に続く)




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 いまさらながらの
呉儀ドタキャン事件、まだ謎な部分が多く私の考えもしっかりまとまっていないのですが、随分寝かせてしまったネタですから、それなりに情報が出てきています。そろそろ取り組まないと鮮度が落ちてしまいますね。……というより、ドタキャンの鮮度は落ちてもそこから注目すべき別の話題が新たに出てきているようですが。

 内容が濃い素材だけに、ちょっと長くなってしまうかも知れませんが、そこは御容赦の程を。それから記事標題の翻訳精度もいつもの通りです。適当訳ですから当てにしないで下さい(笑)。

 さて、呉儀のドタキャン自体について当ブログは「速報・鉄腕オバサン呉儀がドタキャン大脱走。」(2005/05/23)で触れました。そのドタキャンと、その前日に行われた自公幹事長・胡錦涛会談が、最近の靖国をめぐる日中間の流れからすると非常に唐突で、中国側の姿勢が突如一変したような印象だ、ということは「靖国参拝宣言3:道は開けた。」(2005/05/24)で書いた通りです。

 その「流れ」を簡単に振り返りますと、



●5月12日
 訪中を終えた山崎拓・首相補佐官(当時)が
「中国側は(首相が)靖国参拝を完全にやめるのが難しいのは分かっている」と発言。

●5月16日
 小泉首相が国会で
靖国神社参拝の意向をにじませる。「戦没者の追悼でどのような仕方がいいかは、他の国が干渉すべきでない。靖国神社に参拝してはいけないという理由が分からない」と、中国や韓国の内政干渉への不快感も表明。

●5月17日
 中国国内メディア、小泉発言を報じるも大半は事実関係のみを伝える記事。論評記事は1本のみで、
抑制された反応という印象。

●5月20日
 小泉首相が国会で、「首相の職務として参拝しているものではない。個人として参拝しているものだ」と
発言がトーンダウン。私的参拝を匂わせる内容に変化。

●5月21日
 自公幹事長、唐家セン国務委員、王家瑞(党対外連絡部長)とそれぞれ会談。

●5月22日
 自公幹事長・胡錦涛(総書記)会談。胡錦涛が政治家の靖国神社参拝停止を強く求める。

●5月23日
 呉儀ドタキャン。繰り上げ帰国。



 ……と、20日までは双方が歩み寄る雰囲気をみせていたのに、「自公幹事長vs胡錦涛」で中国側の姿勢が一転、非常に硬質なものとなります。

「呉儀来日後も小泉首相が靖国問題に言及した(20日)からだ」
「武部・自民党幹事長が『(靖国問題への中国の口出しを)内政干渉と言う人もいる』と指摘して王家瑞を激怒させたからだ」

 という報道が日本側でなされました。でも中国国内メディアは20日の小泉発言をこれまたスルー同様に
騒ぎ立てませんでしたし、激しいやり取りがなされたという21日の自公幹事長・王家瑞会談、その翌日の自公幹事長・胡錦涛会談も特別な扱い方はされませんでした。……でもそのまた翌日になったらドタキャンです。

 ●外相、中国の対応を批判 異例の会談中止(2005/05/23)
 http://www.sankei.co.jp/news/050523/sei098.htm

 ドタキャンの当夜に出たこの記事の末尾に、



「もともと首相と呉副首相の会談は、関係改善に向けた交流拡大の象徴として、7日の日中外相会談で中国側が提案し、設定した経緯がある。訪問先の首脳との会談を断ること自体が極めて異例だが、そうした経緯があるだけに、日本側には『胡錦涛国家主席は日本との関係改善を進める意向だったはず。
中国指導部の中で何かが起きているのではないか』(外務省筋)と不満と同時に、困惑も広がっている。」



 ……と、この赤字の部分、私も同じ感想でした。この外務省筋にしたら、急に交渉相手が変わったような唐突さを感じたのではないでしょうか。そもそも胡錦涛が「靖国」を持ち出して「参拝するな」と言ったこと自体が私には意外でした。それを言ってしまうと胡錦涛が大きなリスクを負うことになるからです。

 小泉首相は参拝しても痛くも痒くもないでしょうが、「参拝するな」と言ったのに参拝されてしまえば、胡錦涛は面子丸潰れで党内から批判やら責任論も出るでしょう。もちろん国民からも軟弱とか弱腰と言った声が上がります。しかも先の反日騒動でもわかるように政治的統制力は磐石とは言い難い。それなのに、なぜそんな危ない真似をしなければならないのか。

 そこで、前回言及したような感想になりました。感想というより漠然とした疑問のようなものです。



 (1)李登輝訪日時の「口だけ」反発に比べ、外交儀礼を無視した行動に出た今回は本気度が高い。

 (2)でもこれは
「胡錦涛、いよいよガチに出た」なのか、「ガチになることを余儀無くされた胡錦涛」なのか。

 (3)報道もバラバラで論評記事にも乏しく、事前に準備されたメディア攻勢にはみえない。



 (1)の疑問は、そこまでやる必要があるのか?ということです。国際社会の目もあるし、五輪と万博の開催を控えているのに……私は取りあえず中華思想の血が騒いで突っ走ってしまったのかと解釈してみました(※1)。
【追記】様々な情報が出てきた現時点からすれば、外交儀礼を無視しても呉儀を呼び戻すしかないほど緊迫した事態が北京で発生していた、とも読むこともできますが。(2005/05/29/11:09)

 (2)については、胡錦涛の豹変、舵の切り方が余りに大きいので、4月の反日デモ同様に対外強硬派が台頭してきて、胡錦涛はその政治的圧力の下で「参拝するな」と言わざるを得なかったのではないか、ということです。ただ「余儀無くされた」のであれば、それは胡錦涛が主導権争いで敗北したことを意味することになります。

 そんなことをつらつら考えている間に外交部報道局長・ヒョットコ孔泉の独演会がありました。当人は得意満面、ネットでは「よくやった」と大好評だったようですが、あれは3月の全人代閉幕時に温家宝・首相がやったのをパクったようなものです。当時、温家宝は記者会見で、

「台湾問題は純粋に中国の内政に属することがらであり、外国の干渉は受け入れないし、望まない。また、外国の干渉を恐れるものでもない」

 と言い放ったのですが、すると
会場にいた中国人記者から嵐のような拍手が沸き起こったそうです。孔泉の独演会ははこのパクリのようなものです。でも温家宝のこのパフォーマンスも結局はパクリなんです。元ネタはやっぱりブルース・リー(李小龍)でしょう。何とかドラゴンとかいう映画で悪役日本人か誰か、とにかくラスボスを倒した後で、

「俺たち中国人はアジアの懦夫ではないぞ!」(我o地中國人並唔係東亞病夫!)

 とポーズを決める。観客は拍手喝采。温家宝のときは記者が喝采。孔泉の場合は網民(ネットユーザー)が喝采。進歩していませんよねえ。結局は痛々しいまでの自尊心の強さと病的なコンプレックス、これがブルース・リーから30年以上経っても解決されていないということでしょう。多分あと30年経っても無理でしょうねえ。


「中」に続く)


 ――――


 【※1】「靖国参拝宣言3:道は開けた。」(2005/05/24)より抜粋。

 外交儀礼に反したドタキャンという行為、それも副首相が首相を袖にするというのは極めて異例であり、国際社会での評判も芳しくないでしょう。要するに日本の得になっても中国に利することは何もない筈です。

 それでもこういう振る舞いに出るというのは、やっぱり
中華思想の発露とでも言うべきものなのでしょうか。中国からみると日本は「小日本」で、「小日本」の癖にこちらの言うことを聞かず小癪な態度だから、ゲスト(呉儀)を途中退席させて主人としての面子を潰してやろう、恥をかかせてやろう、という発想です。

 いや、実際そうとでも考えなければ私には全く理解できません。何せ
中華思想的発想で懲罰だ懲罰だと言ってベトナムに戦争を仕掛けた国(んで負けてやんのw)ですから。基地外の考えることを常人の頭であれこれ推察しても無駄ですが、中国は野蛮ながらも中華思想というカギがあるからまだマシですね。やっていることは基地外と寸分違わぬものですけど。




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 財界関係者とは会食しておきながら小泉首相との会談はドタキャンした
呉儀・副首相、予定通りモンゴル訪問を順調にこなしているようですね。「緊急の公務」で帰国、とのことですが、外交部報道官の孔泉は定例会見で記者の質問に対し、

「緊急の公務?私の口からそんなことを言った覚えはないが?」

 と、ひょっとこ口をいよいよ尖らせて得意満面の様子でした。まあ、「小泉首相との会談をドタキャンした上で繰り上げ帰国する」というのが呉儀に与えられた緊急の公務、とでも思っておきましょう。

 今回の靖国問題については前回、前々回に皆さんからたくさんのコメントを頂きまして、色々勉強させてもらいました。情報提供も非常に有り難いものでした。その上で今後の話をしなくちゃいけない、というのはわかっているのですが、如何せんまだ頭の中で考えがまとまっていません。

 例えば、中国のこれほどの強硬姿勢。外交儀礼を平気ですっ飛ばすくらいですから、昨年末の李登輝氏訪日で恫喝的言辞を弄しつつも結局行動は「なんちゃってデモ」だけだった「口だけ」のリアクションよりも
本気度を感じます。

 ガチですね。でも、
「胡錦涛、いよいよガチに出たか?」と言うべきか、「ガチになることを余儀無くされた胡錦涛」なのか、といった判断材料がまだ乏しいのです。報道もバラバラで論評記事にも乏しく、統制のとれた、事前に準備されたメディア攻勢にはちょっとみえません。

 そもそもその「攻勢」にしても、攻勢終末点をどこに置くかで事態が変わってくるでしょう。ただそのあたりもまだ私にはみえてこないのです。無能ですみません。

 ……そんな訳で、この件はあと半日か一日の御猶予を頂くとして、とりあえず暴動でお茶を濁します(笑)。ええ、某巨大掲示板に出したお古のようなものです。

 ――――

 元ネタは香港紙『星島日報』(2005/05/24)。とりあえず訳してしまいましょう。

 ――――

 中共革命ゆかりの地として有名な江西省・井岡山で先週の土曜(5月21日)、土地収用に伴う補償措置の内容を不満とした農民数百名が京九線・井岡山駅内に突入、線路に横たわるなどして京九線の運行を6時間ストップさせた。これに対し当局は武警(武装警察)を出動させて実力行使に及んで事態を終息させたが、その過程で多数の負傷者を出した。

 京九線は中国を南北に結ぶ鉄道の大動脈とされている。この事件は北京にも伝わって国務院(中央政府)の曽培炎・副首相を驚かせ、江西省指導部に対し関連レポート提出するよう急ぎ命じたという。

 事件現場は江西省泰和県の井岡山駅(吉安駅とも呼ばれている)。21日の午後、同県澄江鎮西門村の村民を中心とする数百名が駅舎に押し寄せ、駅構内に突入。駅舎の窓ガラスを割るなどしたほか、線路に横たわることで列車2本の運行をストップさせた。連絡を受けた現地治安当局は警察車両数台を出動させ、地元政府の主な指導者が現場に足を運んで説得を試みるも失敗。このとき、村民・警察双方に現場を取り巻いた野次馬を含めると1万人程度が現場に集まっていたと目撃者は語っている。

 事態が打開されないまま夜を迎え、当局は防暴警察(機動隊)を現場に投入、実力行使によって村民を排除し、列車の運行を再開させた。この間、京九線は約6時間不通になっていたことになる。

 西門村のある村民は本紙(星島日報)の電話取材に対し、武警(防暴警察?)が実力行使に及んだ際、村民との間で衝突が発生、双方から負傷者が出たのを目にしたが、いずれも軽傷のようだったとしている。昨日(22日?)午後には武警多数が西門村に現れ、村民たちは難を避けて各自家の中に閉じこもったが、逮捕された者が出たかどうかははっきりしないという。

 この村民によると、西門村は泰和県の県政府所在地(県庁所在地)から比較的近く、このため半年前から地元政府の許可のもと、開発業者が同村の井岡山大道に沿った耕地の多くを買い上げて商品房(販売用の住宅)を建設した。ただし農民に対する補償がきわめて薄く、村民はこれを不満として何度も地元政府に掛け合ったものの、満足な回答を得られないままだった。(完)

 ――――

 ……以上、暴動というより官民衝突で、それもガラスを割ったり軽傷者が出る衝突があったりした程度のものです。ヌルいと言いますかショボいと言いますか、とにかく訳していくうちにモチベーションが下がっていきました(笑)。この程度の騒動なら、いまの中国では日常茶飯事、
よくある話でしょう。

 ええ、よくある話なんです。ただ、今回のケースは香港紙に拾い上げてもらった分、他の無数の「よくある話」よりは幸運でした。村民たちの抗議行動は、まがりなりにも日の目を見ることができたのです。この記事は台湾・中央通信が転載し、それを反体制系ニュースサイト「大紀元」が掲載しています。

 さらにあろうことか和訳されて日本の片隅のこんなブログにまで載せられているなんて、村民の皆さんは夢にも思っていないでしょう(笑)。

 ――――

 
「失地農民」という言葉が昨年の中国の流行語大賞のトップ10にランクインしました。読んで字の如し、土地を失った農民です。いつからその呼び名が使われ始めたのかは知りませんが、今ではすっかり時事用語として定着した観があります。

 私のイメージするところでは、開発区の設立による土地収用や水力発電所建設で村ごとダムの底に沈んでしまうことになり、役所から補償金とは名ばかりの涙金をもらって指定された移転先で暮らすようになった農民たち……というのが「失地農民」です。代々耕してきたであろう田畑を失い、さりとて補償金では小商いひとつ立ち上げることができず、結局は日雇い労働者のような、
流民同様の境涯に堕ちてしまった人たち。

 やや具体的な像を結ぶなら、昨年秋に重慶市・万州区で発生した万単位の市民による都市暴動、その主役たちが「失地農民」だった筈です。もともと万州区自体が「移転先」として「失地農民」を数多く抱え込んでいる地区でした。

 もうひとつ実例を挙げるなら、やはり四川省・漢源農民暴動でしょう。村民にとっては唐突な水力発電所プロジェクトが降って涌いて村ごとダムに沈むことになったのですが、「失地農民」の成れの果てがわかっているだけに雀の涙ほどの補償金と移転先の条件の悪さに大反発し、断固として移転を拒否。ついに10万人規模の暴動に発展した事件です。

 この事件では警官隊との衝突で村民1名が死亡、多数の負傷者を出したのが第一段階。その後、当局が北京から派遣された要人(羅幹)の指揮のもと武装警察(武装警察の制服を着た正規軍との説も)2コ師団を現地に投入し、一体を封鎖して外部との交通を遮断し、現地では戒厳令状態(第二段階)。武警投入時点の衝突で村民に多数の死者が出たという噂もありますが、いまなお現地に入ることができないため実情は不明のままです。

 ――――

 で、今回騒いだ村民たちはどうなのでしょう。買い上げられた土地が住宅地にされるぐらいですから、西門村というのは
市街地に隣接した郊外型農村だと思います。その村民たち、耕地を失ったという点では「失地」なのですが、自宅はそのまま残っている筈です。ただ補償額が低いために転業もままならない。役所に陳情しても受け入れられない。そこで結集して駅舎を襲撃し、線路に寝転がって列車を運行させなくした、ということです。

 村民の要求が過大なものでなかったとすれば、役所と開発業者が結託して土地評価を不当に低いものとし、それに応じた少額の補償金もあちこちで少しずつ役人に着服された後、ようやく残ったほんの一部が農民に手渡された、というのがお決まりの展開です(これについては以前書いた「悪魔の錬金術」(2004/12/19)を御参照下さい)。

 中国語でいうところの「官逼民反」(お上が庶民を叛乱へと追いつめ、民衆がついに成否を問わず蹶起する)ですが、今回は命がけというような緊張感は感じられません。自宅がまだ残っているからでしょうか。市街地の外縁部である郊外型農村であり、駅までも歩いて来られたのでしょうから、列車もバスも走らない、駅やバス停まで1日がかりといった山間部の農村に比べれば恵まれた環境です。

 どうやら私は農民たちに肩入れできずにいるようです(笑)。死人は出てないんでしょ?負傷者ったってカスリ傷程度でしょ?そんなのジャレてるだけじゃん。……という翻訳時のモチベーションから回復できずにいるからだと思います(笑)。

 駅舎襲撃というのは奇矯なようでもありますが、村民たちにとっては「官」の象徴と映ったのかも知れません。警察署や政府庁舎に比べれば警備も手薄ですし。で、
線路に横になって列車の運行妨害をするというのは、結構ポピュラーな抗議方法です。昨年にやはり四川省で炭鉱夫たちが待遇改善を求めてこれをやっていますし、やはり同省の某市(ああ記憶が……)の市民たちが物価高に抗議した際に使われた方法です。

 なぜ線路にゴロリなのか、調べていけば奥が深そうで面白いようでもありますが、主題から逸れますのでまたの機会に。この村民たちは家まで取られてはいないんですから「半失地農民」というところでしょうか。郊外型農村でもありますし、大都市への出稼ぎ農民へと転化していくように思います。

 ――――

 もうひとつ「よくある話」を。広西チワン族自治区・北海市で5月22日、建材などを輸送する
トラックの運転手たち約500名が集団ストライキを起こしたというものです。抗議の対象は雇われている会社ではなく、警察です。警官たちが勝手にあちこちで積載物チェックの検問を設置し、あれこれと難癖をつけて罰金をむしり取られる。……確かによくある話です。それに堪忍袋の緒が切れたお兄さん方がとうとうストに踏み切ったとのこと(※2)。

 ただのストではなく、目抜き通りの北海大道を塞ぐ形でトラックを並べたのです。ここまでやらないと注目してもらえないからでしょう。参加者である李さんによると、とにかく積載物チェックの検問があちこちにあって、仮に重量オーバーと認定されると、取られる罰金は数百元~1800元というのですから、運転手にとってはシャレにならない金額です。北京市民1人当たりの月間平均食費額が365元ですから(※3)。警官の小遣い稼ぎも度を越しているといえるでしょう。

 もちろん、トラックによる目抜き通り封鎖というデモを兼ねたストライキをする一方で、運転手たちは北海市政府に請願書を提出しており、警官の違法行為を取り締まるよう嘆願しています。ただし目下のところ政府側からの回答は一切なし。このストライキ、市民からは結構支持されているようで、中でもオートバイを持っている面々などは噂を聞いて一同で声援に駆け付け、運転手や一般市民ともども警官の不正に憤りの声を上げているということです。

 ……以上、この記事は「大紀元」の独自報道です。「大紀元」は転載記事の方が多いのですが、オリジナル記事は法輪功関連のいかがわしいものを別とすれば、デモ・スト関連や労働争議などに強く(法輪功の地下ネットワークを生かしているのでしょうか)、しばしば香港マスコミがこれを参考にして後追い報道を行います。この記事がupされたのが昨日(24日)の23時、締め切り時点でストは2日目に突入していたそうですから、ストが事実なら何事かが起きていても不思議ではないでしょう。続報に期待したいところです。


 ――――


 【※1】http://www.singtao.com/frame.html?forcepage=/yesterday/chi/0524eo05.html

 【※2】http://www.epochtimes.com/gb/5/5/24/n932775.htm

 【※3】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/24/content_2995443.htm


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 一晩経って、日中双方から色々とニュースが出てきてはいるのですが、どうも書くべきことは概ね前回で書き尽くしてしまい、それを新しく出た情報が裏付けてくれているといった観があります。

「自公幹事長は胡錦涛・総書記との会談で明らかに位負けしていましたが、それでも訪中期間中の一連の会談において、
守るべき一線は守ったということでしょう。この訪中は中国側が日程調整までして要望し、実現した異例のものだったのですが、その結果は中国側の望んだ形にはならず、現状に対する突破口(靖国参拝中止を確約させる)にはならなかった。……と中国側は判断したのではないでしょうか。」

 ……と、これは前回の文末部、昨夜(23日)21時近くの、まだ情報が揃わない段階で勝手に書いてしまったものですが、どうやらやはりこの部分がカギだったようですね。少なくとも、数少ないカギの中の重要なひとつでしょう。ある意味、
胡錦涛に引導を渡した訳ですから。

 ――――

 「『内政干渉だ』と言っている人もいる」
と指摘して王家瑞・党対外連絡部長から平静さを失わせた武部勤・自民党幹事長、GJ!お見事です。胡錦涛・総書記相手にも位負けしながらよく踏みとどまりました。まさに守るべき一線を守り切って胡錦涛に匙を投げせしめ、中共当局の企図を挫いたのです。ハンプティ・ダンプティに似ているなんて今まで思っていてごめんなさい。……あ、隣にいた草加煎餅党の幹事長は逝ってよしです。

 胡錦涛は昨年秋に小泉首相と首脳会談を行った際、初めて靖国問題を提起しました。
でもそれが最初で最後。それ以来、胡錦涛は小泉首相との会談であろうと他の日本要人との会見であろうと、「靖国」という固有名詞を一切出さないまま、現在に至っています。……いや、中国国内ではそうなっているのです。中国国内メディアの報道では、

「歴史問題や台湾問題について意見交換を行った」

 というような漠然とした記述で済ませ、「靖国」問題が討論されたとは一文字も書かれません。

 本当は書きたいでしょうし、胡錦涛だって書かせたいのでしょうけど、万一小泉首相が今年も靖国参拝を行ったらその時点で胡錦涛の面子が丸潰れとなり、党内でも批判を浴び、中国国民からも弱腰だ売国奴だと叩かれることになります。

 だからいつも「靖国」という文字を記事に出すことができないのです。

 ――――

 そりゃあ書くことはできませんよね。「『内政干渉だ』と言っている人」のひとりが
他ならぬ小泉首相なんですから。しかも「万一」どころか、参拝にはヤル気満々(笑)。

 ●靖国参拝継続の意向 首相が中韓に不快感(共同通信2005/05/16/11:26)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=HKK&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2005051601001033

 小泉純一郎首相は16日午前の衆院予算委員会の外交問題などに関する集中審議で、今年中の靖国神社参拝の有無について「いつ行くか、適切に判断する」と参拝継続の意向をにじませた。
 同時に、首相は「戦没者の追悼でどのような仕方がいいかは、他の国が干渉すべきでない。靖国神社に参拝してはいけないという理由が分からない」と述べ、首相の参拝に反発する中国や韓国に強い不快感を表明した。
 また、首相は「中国側は『戦争の反省』を行動に示せというが、日本は戦後60年間、国際社会と協調し、二度と戦争をしないという、その言葉通りの行動によって、戦争の反省を示してきた」と強調し、靖国参拝の取りやめを求める中韓に反論した。

 ただ、中国国内メディアはこの発言に対し、ほとんど論評を加えず事実関係だけを報じました。
騒ぎ立てずにスルーしたのです()。実はこの発言が出るちょっと前に山崎拓・首相補佐官(当時)が訪中して色々と働いてきた様子でした。

 ――――

 ●中国、首相の参拝中止困難は分かっている…山崎補佐官(読売新聞2005/05/13)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050512ia26.htm

 自民党の山崎拓首相補佐官は12日夜のTBS報道番組で、小泉首相の靖国神社参拝について「中国側は(首相が)靖国参拝を完全にやめるのが難しいのは分かっている」と述べた。
 そのうえで、「日中双方が知恵と勇気を持って処理しようと提案があった。知恵はいろいろある」と語り、参拝中止以外の方法で事態打開を探る考えを示した。

 ……と、この謎めいた言葉は当ブログでも何度か繰り返し引用しています。

 ――――

 このヤマタク発言があって、その後に飛び出した上記小泉首相の談話を中国側がスルー。すると数日後(20日)の小泉発言が
微妙にトーンダウンしたのです。

 ●小泉首相:靖国参拝は私的との認識 参院予算委で答弁(毎日新聞)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20050520k0000e010070000c.html

「『首相の職務として参拝しているものではない。個人として参拝しているものだ』と述べ、事実上、私的参拝との認識を示した。」
(毎日新聞)

 ……こういう流れでしたので、
私的参拝という形で手打ちなのかな、と私は考えていました()。

 ――――

 ところが、22日に行われた自公幹事長・胡錦涛会談では全く違った展開となります。香港の親中紙『香港文匯報』(2005/05/23)によるとこの席で胡錦涛は、

「日本の政界は中日関係が損なわれないよう、A級戦犯の祭られている靖国神社への参拝をやめなければならない」
(※1)

 と、強い姿勢に一転するのです。原文が伝える語気からすれば、実に高圧的な物言いです。

 ――――

 これによって、ヤマタク訪中による根回しも吹っ飛んでしまった形です。「私的参拝で手打ち」という私の見方がそもそも誤りだったのか、中国側の方針が変わったのか、前日(21日)の自公幹事長・王家瑞会談での武部幹事長による「内政干渉」発言で王家瑞だけでなく胡錦涛までもがキレてしまい、つい翌日の自分の出番でも喧嘩腰になってしまったのか。

 とにかく胡錦涛は、この会談で日本側に靖国参拝中止を強く迫ったのです。そこで武部幹事長が折れていれば、中国国内向けの報道にも「靖国」の二文字が織り込まれていたかも知れません。しかし、武部幹事長は終始原則を崩すことなく胡錦涛の再三再四の攻勢に耐え抜きました。

 そして、今回も当然ながら、「靖国」という具体的な名前は中国国内メディアの報道には登場しませんでした。新華社電の伝える会談風景は、和気藹々とした雰囲気を彷佛とさせるものです(※2)。

 武部幹事長が胡錦涛に引導を渡したというのは、
「靖国」に関して日本側は原則を変えない、中国が何度持ち出してきても無駄だ、と胡錦涛に知らしめたという意味です。そして翌23日、訪日中の呉儀・副首相に対し、小泉首相との会談をドタキャンせよとの指令が出されることになります。

 ――――

 外交儀礼に反したドタキャンという行為、それも副首相が首相を袖にするというのは極めて異例であり、国際社会での評判も芳しくないでしょう。要するに日本の得になっても中国に利することは何もない筈です。

 それでもこういう振る舞いに出るというのは、やっぱり
中華思想の発露とでも言うべきものなのでしょうか。中国からみると日本は「小日本」で、「小日本」の癖にこちらの言うことを聞かず小癪な態度だから、ゲスト(呉儀)を途中退席させて主人としての面子を潰してやろう、恥をかかせてやろう、という発想です。

「先の大使館への破壊活動と一脈通ずるものがある」

 という「外務省首脳」改め町村外相(名前が公開されました)の発言は正に然りです。

 いや、実際そうとでも考えなければ私には全く理解できません。何せ
中華思想的発想で懲罰だ懲罰だと言ってベトナムに戦争を仕掛けた国(んで負けてやんのw)ですから。基地外の考えることを常人の頭であれこれ推察しても無駄ですが、中国は野蛮ながらも中華思想というカギがあるからまだマシですね。やっていることは基地外と寸分違わぬものですけど。

 ――――

 で、改めて申し上げますが、私は中国などが靖国参拝を云々するのは
完全なる内政干渉と考えていますから、小泉首相は堂々と参拝すればいいという意見です。参拝の是非が議論されてもいいと思いますが、その議論は日本国籍を有する者の間でのみ行われるべきです。これが大原則。

 以前、私は自公幹事長の訪中を「ヤマになるかも知れません」と懸念していましたが、確かにヤマ場だったようですね。ただ懸念は杞憂に終わったどころか、しっかり胡錦涛に学習させることができたのですから大したものです。

「靖国は内政干渉になるから言っても無駄」

 と躾けられた胡錦涛は、これを機に転じて、一体どういう芸を見せてくれるのか興味津々です。まあ、そんなに選択肢があるようにも思えませんけど。それにあのネチネチした顔立ちからして、内政干渉をこれできっぱり諦めるような爽やかさは持ち合わせていないようですし(笑)。

 ――――

 ところで「激しいやり取り」を「和気藹々の会談」に仕立て直した新華社の報道(※2)によると、武部幹事長は胡錦涛との会談の席上、

「日本は日中間で取り交わした3つの政治的文書の原則、これを改めて認識、また厳守し、一つの中国という立場を引き続き堅持する」

 とわざわざ言っています。ナイスな反応です。まず、
中国が「靖国」に口出しするのは「3つの政治的文書」が禁じるところの内政干渉ですね。それから「一つの中国」を堅持するとはいっても、「3つの政治的文書」に照らせば日本は台湾が中国の一部だと正式に承認してはいないのですから。これが、日中関係の原点なのです(※3)。

 ともあれ小泉首相の靖国参拝、今回の一件によって逆に参拝時期に関する選択肢は増えたのではないでしょうか。一難去ってまた一難という中共当局は、内憂外患でいい感じになってきました(笑)。ぜーんぶ自業自得・因果応報のような気もしますけど、気のせいでしょうか。


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 【※1】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505230023&cat=002CH

 【※2】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/22/content_2987575.htm

 【※3】ですから、「日中間で取り交わした3つの政治的文書」の遵守を自ら謳っておいて「台湾問題への内政干渉をやめろ」とする中国側の立場には何の根拠もありません。「反国家分裂法」に日本が米国との2+2で応じたのはごく当然のことですし、町村外相が「台湾は以前から日米安保の範囲内」と米国で演説したのも「何をいまさら」な当たり前のことなのです。


 ――――


 【追記】申し遅れました。私は一小市民にも出来ることとして、中国の各種掲示板に武部幹事長の偉功や、格下の武部幹事長を押し切れなかった胡錦涛の情けなさ、呉儀赤っ恥のドタキャン大脱走(海外の反応)など、事実をありのままにどんどんカキコし、情報を流していくていくつもりです。香港・台湾メディアにコピペにぴったりのおいしい記事がたくさんあります。あ、それに江沢民の植樹した紅梅が伐られた件、中共当局が反日デモに関する対日賠償に応じると表明した件、それに以前紹介した読売新聞の世論調査結果も国家機密ですからこれらのニュースを流すこともまだまだ有効です。まあ、個人的にやっている「棲息地1」の活動に普段より力を入れるということですけど。(2005/05/24/12:48)


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 いやあ驚きました。銀髪の鉄腕オバサン・呉儀副首相が反日じゃなかった半日繰り上げで帰国しちゃいましたね。午後に小泉首相との会談が控えていたのに、
ドタキャンですかあ。

「靖国参拝の件、自公幹事長と胡錦涛の会談でほぼ流れが定まったように思うのですが、一応小泉首相と呉儀・副首相の会談をみて、その日の報道をみた上で考えたいので、一日寝かせておくことにします。」

 と前回の冒頭で書いたのは、政治は所詮人間のやることですから、何かドンデン返しのような動きがないとも限らない、だから一応慎重を期して……ということだったのですが、ドタキャンは想定外でしたねえ。

 まだ報道が揃っていませんが、靖国問題なんでしょうね、きっと。

 ――――

 このオバサン副首相、午後の小泉首相との会談はドタキャンしましたが、午前中に紅の傭兵、じゃなかった
河野洋平・衆議院議長とは会っているんですね。その場でこんなことを言っています。

「今回の訪日の目的のひとつは、両国の指導者がジャカルタでの会談で合意した内容を実行に移すことについて日本側と検討することで、両国関係における目下の困難を早急に克服し、改めて正常な発展の軌道に乗せることにある。日本側が適切に歴史問題を処理し、これ以上中日友好を損ね、中国人民の感情を傷つけることのないよう望む」

 「中国人民の感情を傷つける」というのが靖国問題を暗示した部分でしょう。中国ベッタリの河野洋平に対してもこのようにオブラートでくるんだ表現をするのですから、小泉首相と会って靖国問題という具体的なテーマに話題が及ぶのを避けたのでしょうか。

 午後には民主党の岡田幹事長(ジャスコ)との会談予定もあったのですが、ここで中国側に擦り寄るジャスコから靖国参拝の非なることを持ち出されても返答に窮する、というところかも知れません。

 ――――

 この河野洋平との会談の席上、呉儀はまた、

「中国の全人代(全国人民代表大会)と日本の衆議院の間ではすでに定期的な交流制度が動き出している。これが両国議会の往来を促進し、両国人民の相互理解と信頼を深めることにもなると確信している」

 とも言っています。
そんなこと言っていて自分がドタキャンしてるんじゃ逆効果じゃないですか。まさに言行不一致。

「急用ということなら仕方ないが、日本の多くの国民は非礼との気持ちを抱くかもしれない」

 と、自民党の安倍晋三・幹事長代理が指摘する通りです(※2)。やーい呉儀が逃げた逃げた、と思われても仕方のない行為ですね。というよりマスコミはこの部分を強調し、ドタキャンの理由について追撃すべきです。

 それから呉儀に一言。
全人代を議会と呼んで衆議院と並べるのは金輪際やめて頂きたい。普通選挙が大原則の衆議院、またそのシステムで選ばれた衆議院議員への侮辱に他ならないからです。一党独裁制で普通選挙のカケラもない野蛮国と一緒にするな、ということです。



 ●日中関係修復に冷や水 憶測呼ぶ呉儀副首相帰国(共同通信)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050523-00000182-kyodo-pol

 「わたしは悪い影響を与えないようにしてきたのだが、分かりませんね」。首相は靖国参拝との関連を記者団に聞かれ、ぶぜんとした表情で答えた。外務省首脳も記者団に対して「理由を説明すべきだ。最低限の国際マナーは守ってもらいたい。先の大使館への破壊活動と一脈通ずるものがある」と中国側の対応に不快感を表明した。




 小泉首相の「ぶぜんとした表情」、それに外務省首脳の、

「最低限の国際マナーは守ってもらいたい」
「先の大使館への破壊活動と一脈通ずるものがある」

 とは実に時機を得たリアクションです。

 ――――

 これで靖国参拝に道が開けましたね。

 自公幹事長は胡錦涛・総書記との会談で明らかに位負けしていましたが、それでも訪中期間中の一連の会談において、
守るべき一線は守ったということでしょう。この訪中は中国側が日程調整までして要望し、実現した異例のものだったのですが、その結果は中国側の望んだ形にはならず、現状に対する突破口(靖国参拝中止を確約させる)にはならなかった。……と中国側は判断したのではないでしょうか。

 それにしても国内での急務ですか。呉儀は先ごろ兼任していた衛生部長のポストを後進に譲っていますから、対外貿易か香港問題で半日の猶予もならぬ突発的事態が発生した、という大事件にしてはじめて成立する言い訳なんですけど、現時点までに流れている報道を見る限り、そういうことは起きていないようですね。

 ドタキャン帰国、真の理由はどうあれ、日本側に点を稼がせることはあっても、中国側の得になることを見い出し難い行為だと思います。

 情報が揃ったらまた書きます。


 ――――


 【※1】http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/23/content_2990627.htm

 【※2】http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20050523STXKB026523052005.html


 ――――


 【訂正】呉儀・副首相、兼務していた衛生部長のポストは最近後進に譲ったものの、副首相としての担当は対外貿易・衛生方面ということで、衛生部との縁は切れていない模様です。この点、私の認識に誤りがありました(本文及びコメント欄参照)。訂正してお詫び申し上げます。(2005/05/24/14:51)





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 靖国参拝の件、自公幹事長と胡錦涛の会談でほぼ流れが定まったように思うのですが、一応小泉首相と呉儀・副首相の会談をみて、その日の報道をみた上で考えたいので、一日寝かせておくことにします。

 で、たまには人事の話をしようかと。消息筋情報なども混じっているので確度にはやや疑問符がつくのですが、こういう話はやっぱり面白いので捨てておけません(笑)。

 ――――

 福健省における人事異動が21日、中国国内で発表されました。中台交流の最前線であるアモイ市、そのトップである
鄭立中・同市党委員会書記(市党委書記=市のトップ)が北京へと栄転となり、党中央台湾事務弁公室の第一副主任及び国家台湾弁公室副主任に就任したというものです。

 中国国内では21日なのですが、この人事、香港の親中紙の筆頭である『香港文匯報』では18日付ですでに報じられていました。親中紙はこういうところで重宝します。

 同紙によると、鄭立中氏は54歳、福健省生まれでこれまでもずっと省内のポストを歴任、その仕事への精励ぶりと台湾人脈、また進出台湾企業のオーナーらの受けもよく、これらを買われての中央入りのようです。党中央台湾事務弁公室にはこれまで福健省のポストを経験した者はいても福建出身者はおらず、また定年退職してポストが空くこともあり、今回の人事となったようです。

 ……と書くと普通の異動のようです。が、台湾・中央通信が伝えた消息筋情報によると、
その背景には、江沢民時代の面子で固められていた中央の対台湾窓口(党中央台湾事務弁公室、国家台湾弁公室)をこの機に顔ぶれを入れ替え、胡錦涛が対台湾政策での主導権を握ろうとする狙いがあるということです。

 ――――

 これによって、というよりこれを契機に、というべきでしょうか。福建省内でも比較的大きな人事異動が行われました。鄭立中氏の中央入りもありますが、最近福建省で発生し、合計8名の地元党幹部が逮捕されるに至った「遠華事件」(頼昌星事件)、「陳凱事件」といった汚職事件で同省指導部が動揺しているところに胡錦涛が斬り込んだ、という側面もあるようです。

 まず、空白となったアモイ市党委書記の座には
何立峰・福州市党委書記が転任。広東人ですがアモイ大学で学び、卒業後も福建省のポストばかりを歴任しています。現在50歳で修士過程修了と学歴も高く、何よりも政治的バックボーンがしっかりしている(具体的な内容は不明)ことから、将来の福建省指導者、と目されている人物です。

 何立峰氏の後任には
袁祥同・福健省党委常務委員が就任、また劉可清・省国土資源庁副庁長がショウ州市党委副書記(ショウ=さんずいに章)に転任していますが、これらはいずれも昇格人事です。

 ――――

 香港で『香港文匯報』に次ぐ親中紙である『大公報』(2005/05/21)はまたこれ以外の注目人事として、

 陳少勇(福建省寧徳市党委書記)→福建省党委秘書長
 張燮飛(福建省龍岩市党委書記)→福建省統一戦線部部長

 を挙げています。とは、この二人が
二人とも胡錦涛派ともいうべき共青団(共産主義青年団=ユース共産党)人脈に属するのです。両氏とも福建省共青団出身で、陳少勇氏は福建省共青団委書記を務めたことがあり、張燮飛氏は共青団第十一期中央委員会委員でした。

 このため、一連の異動は相次いだ汚職事件の残像を一掃するための大幅な入れ替えであるとともに、台湾との交流の最前線である福建省の指導部に胡錦涛が見込みのある後輩を送り込んだ一面もあります。陳氏、張氏とも年齢はまだ40代、いわば若手のホープといったところです。

 ――――

 一連の人事は北京の党中央組織部と福建省党委員会の主導によって行われたとされています。個人的には、
胡錦涛派の浸透(若手の送り込み)と同時に、福建閥というものがもしあるとすれば、その台頭を予感させる人事のように思います。福建省といえば古くは王兆国、いまなら賈慶林といった名前が浮かびますが、台湾との交流が拡大・深化するなか、新進気鋭の若手官僚が一種の政治勢力を形成していくことがあるかも知れません。

 ――――

 これとは別に、昇格が噂されながら、結局はなり損ねたという話もあります。
広東省・肇慶市の林雄・党委書記、この人は以前、今をときめく温家宝・首相の秘書でした。海南島出身で当年46歳、1990年から1994年まで党中央弁公庁主任として温家宝の秘書を務め、その後は広東省に転任。東莞市党委副書記、茂名市市長を経て現職の肇慶市党委書記となっています。

 噂の出処は香港紙『成報』でした。黄麗満・深セン市党委書記が広東省人民代表大会主任へと転ずることで、その後継人事の有力候補として林雄氏の名前が挙げられたのです。市のトップである市党委書記が転任することで、その後任には現職の深セン市長・李鴻忠が昇格し、林雄はその後釜の市長に収まる、というものでした。

 ところが、広東省の人事部門は深セン市の新たな指導部メンバーとしてまず候補者21人を選抜し、ここから16人を選ぶ形をとったところ、李鴻忠の党委書記昇格は実現しましたが、
林雄はこの人選に洩れてしまったとのこと。

 温家宝はかねがね深セン市指導部の政策運営に不満があったようで、何度か視察した折にも小言を言っています。深セン側が今回の人事でこれに反発してみせたのかどうかはともかく、
自分の元秘書が一顧だにされなかったというのは、温家宝にとって面白い出来事ではなかったでしょう。

 ――――

 以上、こういう話は現地在住で地元当局と往来のある方ならいろいろ詳しく御存知なのでしょうが、東京にいる私は香港・台湾メディアや反体制系ニュースサイトの飛ばす情報に頼るほかありません。面白い情報(小道消息)があれば、人事に限らずぜひ御一報をお願い申し上げる次第です。


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【参考資料】
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/19/content_2977283.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/20/content_2979634.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/21/content_2983431.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/21/content_2984538.htm
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505180001&cat=002CH
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505180002&cat=002CH
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505180003&cat=002CH
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505180004&cat=002CH
 http://tw.news.yahoo.com/050519/19/1ugcv.html
 http://tw.news.yahoo.com/050521/43/1v0nz.html
 http://www.atchinese.com/2005/05/0519rep3.htm


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 石原慎太郎・東京都知事が沖ノ鳥島まで視察に行ってきたようですね。

 ●東京都知事、沖ノ鳥島に上陸(ロイター)
 http://tw.news.yahoo.com/050520/14/1uwit.html

 この記事に上陸後の写真が出ているのですが、年齢に似合わぬがっしりした体格にライフジャケットを纏った姿で大きな日の丸を掲げて、実にいい笑顔です。あまりに爽やかなんで画像を保存してしまいました(笑)。

 国営通信社・新華社のウェブサイト「新華網」ではこのニュースをトップページに掲載して、

「日本極右分子石原……」

 という標題をつけていますが、その「極右分子」が前回の東京都知事選において、記録的な大勝によって再選を果たしたという事実を、このタイトルを付けた記者はどう分析してくれるのでしょうか。

 ――――

 先月の「反日デモ+プチ暴動」で日本大使館が襲撃され、日本料理店も破壊され、ドライバーが中国人であろうと日本車には投石されました。日本人かと念を押されて殴られた日本人留学生もいますし、タクシーによる乗車拒否などもあったとか。ああ愚昧きわまる日貨排斥もありましたね。

 さらには北京でデモが実施された4月9日、観光で天安門広場を訪れていたフィリピン人一家が中国人に襲われ、父親が刺殺されるという事件がありましたが、香港紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』は犯人が相手を日本人と誤認して刺した可能性を指摘した記事を載せていました。

 見境なしです。

 中共当局は力づくで「反日活動」を押さえ込みましたが、こういう盲目的な行動は突発する恐れもあるので、日貨排斥の非であること、また日中関係がいかに重要かを国内メディア総動員で諄々と説いて聞かせたりしています。ただ今年は抗日何たら60周年記念。「胡錦涛政権=媚日」と目されるのも避けなければなりません。ですからその一方で、

「××(地名)で日本軍の中国侵略の新証拠発見!」

 とかいうニュースを頻繁に流している訳で、火をつけているのか消しているのかわかりません(笑)。とりあえず「反日気運」は一定のレベルで維持されているとみるべきでしょう。

 ――――

 でも見境なしにやられては困るので、「原点」に立ち返ることを国民に求めているのが目下の中共当局のスタンスのように思います。日中国交樹立時に毛沢東や周恩来がしきりに言っていたことなのですが、以前紹介した香港の親中紙『香港文匯報』の社説にそれがよく出ています。

「でも、日本の大多数の市民とごく少数の軍国主義分子は区別しないとね。大半の日本人には戦争責任はない。彼らも戦争の被害者で、中国や広範なアジア人民と友好関係をとり結ぶことを願っているんだ。」

 ……と、これです。区別です。要するに靖国に祭られている英霊の中でA級戦犯だけは分祀しろ、というのと同じ理屈です。「極右」のついた石原氏は「ごく少数の軍国主義分子」ということになるのでしょう(笑)。

 いやこれ冗談ではないんです。この社説を掲載した日の『香港文匯報』(2005/05/17)には、小泉首相を頭目とした「日本右翼の三大猛将」として小泉首相の「重臣」に町村外相、中川経済産業相、そして石原都知事の名前が挙げられ、それぞれに記事が付されています。

 ――――

 ●反中勢力を引っ張る日本の右翼三大猛将
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=GJ0505170010&cat=004GJ

 ●小泉首相
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=WW0505170002&cat=005WW

 ●石原都知事
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=GJ0505170011&cat=004GJ

 ●町村外相
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=GJ0505170012&cat=004GJ

 ●中川経済産業相
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=GJ0505170013&cat=004GJ

 ちなみにこれは売れない親中紙の記事ですけど、例えばメジャーな『蘋果日報』にこうした記事が出たとしても、香港人は底流に素朴(幼稚)な「反日感情」を有していますから、違和感なく受け止めることでしょう。

 ――――

 中国国内の報道にも毛色の変わったものが出始めました。

 ●謝罪の旅を続ける91歳の元日本兵シリーズ
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/17/content_2965920.htm(北京)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/19/content_2977645.htm(盧溝橋)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/20/content_2980415.htm(上海)

 ●八路軍の日本人部隊:抗日戦争中の「在華日本人反戦同盟」
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/3402991.html

 91歳の元日本兵が謝罪するのは個人の信条の自由ですから構わないのですが、この人は抑留中に中共に洗脳されてしまった中帰連(中国帰国者連絡会)の人ですね。でも思想の自由ですからそれも構いません。

 ただそういう背景を持った人、つまり一般人ではありませんから、強制労働の被害者に北京のホテルで謝罪したその場に偶然新華社の記者が居合わせていたりしますし、盧溝橋で跪いて懺悔する姿もたまたまそこにいた新華社のカメラが捉えています。その後上海に回った元日本兵氏は、そこでもばったり出くわした記者にその姿を写真に撮られ、言動を記事にされています。

 こうした記事も
「日本の大多数の市民とごく少数の軍国主義分子を区別すべし」という当局の方針の下に企画・制作されたものでしょう。そんな阿呆らしい手に引っかかるか普通……と思うところですが、そこはそれ、民度が違います。記事に附随した掲示板を見る限りでは、概ね好意的に受け止められているようです(笑)。ちょっと単純すぎるぞ糞青(自称愛国者の反日教徒)。まあ単純でなければ糞青にはならないでしょうけど。

 ――――

 他にこういう記事もあります。

 ●心臓発作を救われた日本人、訪中し命の恩人と8年越しの再会
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/10/content_2938090.htm

 ●阿南日本大使夫妻(夫人は米国人)、中国が縁で結ばれる
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/18/content_2971631.htm

 で、私は中国国内で出始めたこうした毛色の変わった報道、これが抗日何たら60周年記念の年における日本関連報道のひとつの流れとして定着していくなら、それは第一に「大多数の市民とごく少数の軍国主義分子を区別」させるためであり、第二に
「心の準備」をさせるためだろうと思うのです。

 小泉首相はごく少数の軍国主義分子のひとりであり、それゆえA級戦犯も祭られている靖国神社に参拝したのだ。だが憎むべきはそれらごく少数の軍国主義分子であって、大多数の日本人はそうではないのだ
……てなところでしょうか。

 江沢民が植樹した仙台の紅梅が何者かにザックリ伐られた事件は未だに報じられていませんし、反日デモ絡みで日本が謝罪・賠償要求を出していることも中国国内では内緒です。また、「小泉首相の靖国参拝反対」が61%(賛成34%)に達したTBSの世論調査(※1)は報道しても、

 ●反日デモに対する中国側の対応に納得できない=92%
 ●(反日デモによる日本側の被害について)謝罪と賠償を求めるべき=85%
 ●北京五輪に不安感=74%
 ●(対中外交では)日本の立場をもっと明確に主張すべき=77%
 ●「首相の靖国参拝」賛成48%、反対45%

 ……という『読売新聞』(2005/05/18)の世論調査は国家機密(※2)なのです(笑)。

 ――――

 そこでこの記事を改めて引っ張り出します。この発言を軸に日中の足並みが少し揃ってきたように思うのです。

 ●中国、首相の参拝中止困難は分かっている…山崎補佐官(読売新聞2005/05/13)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050512ia26.htm

 自民党の山崎拓首相補佐官は12日夜のTBS報道番組で、小泉首相の靖国神社参拝について「中国側は(首相が)靖国参拝を完全にやめるのが難しいのは分かっている」と述べた。
 そのうえで、「日中双方が知恵と勇気を持って処理しようと提案があった。知恵はいろいろある」と語り、参拝中止以外の方法で事態打開を探る考えを示した。

 ――――

 日本側でも昨日(20日)、微妙な動きがありました。

 ●小泉首相:靖国参拝は私的との認識 参院予算委で答弁(毎日新聞)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20050520k0000e010070000c.html

 ●靖国参拝「個人」を強調=私的明言せず-小泉首相答弁(時事通信)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050520-00000774-jij-pol

 ●靖国参拝は個人として 参院予算委で首相(共同通信)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050520-00000086-kyodo-pol

「『特定個人のために参拝しているわけではない。軍国主義を美化するとの批判は当たらない』と述べ、A級戦犯合祀を問題とする中国や韓国に反論した。」
(共同通信)

 と、原則的な立場は崩さないものの、その一方で小泉首相は、

「『首相の職務として参拝しているものではない。個人として参拝しているものだ』と述べ、事実上、私的参拝との認識を示した。」
(毎日新聞)

 ……と、
参拝はするけど譲る部分があるかも、というトーンになっています。

 ――――

 私は中国などが靖国参拝を云々するのは完全なる内政干渉と考えていますから、堂々と参拝すればいいという意見です。参拝反対の声が国内から上がって、議論されてもいいと思います。ただ、その議論は日本国籍を有する者の間でのみ行われるべきです。これが大原則です。

 自民党・公明党の両幹事長が訪中して胡錦涛・総書記に会うようです。小泉・呉義(副首相)会談よりも先に行われるそちらの方がヤマになるかも知れません。靖国問題では公明党の腰が砕けているのが気掛かりです。


 ――――


 【※1】http://news.sina.com.cn/w/2005-05-09/22035840975s.shtml

 【※2】報道禁止の筈なんですけど、でも「捜狐網」(sohu.com)の検索には1件だけヒットします。米国で発行されている華字紙でした(たぶん親中紙)。



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 「潰して下さい」と言わんばかりのシンポジウムが、案の定、中共当局によって潰されたという話です。

 その名も「現代中国の憲政と民主政治建設」というエグいものでした。開催予定地は北京。でも危ないイベントではなく、歴としたマトモな国際シンポジウムです。

 主催者は中国政法大学と、米国のフルブライト・プログラム及びニューヨークのフォードハム大学。法学、政治学また他の領域の学者や専門家を招き、中国と米国の学者30名の講演のほか、中国の民主政治や憲政、人権の現状について討論し、評価を下すというものでした。

 香港紙『蘋果日報』『明報』(2005/05/18)によると、開催予定日は5月19~21日と、本来ならいま正に開かれているところでした。各主催者は今年1月にこのイベントに関する告知を出して関係各方面に対し論文を募るなど準備を進めてきたのですが、つい最近になって当局から開催不許可との通達が下り、中止せざるを得なくなったとのことです。

 ――――

 中国政法大学の職員はAP通信の電話取材に対し、「シンポジウムが中止されたことは知っているが、理由はわからない」と答えたそうです。これについて出席する予定だった米国の学者らは、6月4日の天安門事件(六四事件)16周年に近いうえ、内容も際どいものだからだろうと推測しています。

 確かに際どい内容ではあります。

「民主とは上から下へと与えられるものか、下からの動きで勝ち取るものか?」
「中国の人権保障と民主的制度によるチェック機能」
「中国の憲政と民主政治建設の新思考」

 といった議題のほか、社会・経済面における不平等と民主の関係、中共の人権問題に対する見方の変化、法律改革、農村末端における民主と政治改革……など、字面だけで治安当局をピリピリさせるようなテーマが予定されていました。

 今年は折しも天安門事件で失脚した趙紫陽・総書記(当時)が1月に逝去してから初めて迎える「六四」、また先月に「デモ+プチ暴動」を含めた反日活動が全国で展開されたということもあって、当局も神経質になっているのでしょう。

 ――――

 『蘋果日報』によると、昨年12月にも「時期的に不穏当であり好ましくない」ことを理由に、労働基準に関する国際会議が流産しているそうです。これも30数カ国から政府関係者や労働組合代表などが参加する本格的なイベントでした。

 どうして12月が「不穏当であり好ましくない」のかはわかりません。ただ趙紫陽氏は12月の段階ですでに病状は重く、中共はすでに同氏逝去時の対応計画などを練るプロジェクトチームを設立させていた(一説には胡錦涛・総書記が直々に指揮)といわれていますから、事態を見越した上での「時期が悪い」なのかも知れません。

 この国際会議はともかく、上の民主を論じる国際シンポジウム、企画段階で中国側から、

「こりゃ無理だろう。絶対中止になるって」

 という声は出なかったのでしょうか。当ブログでしばしば言及していますが、私は胡錦涛政権の主題を「強権政治・準戦時態勢」型による強い統制力をテコに、困難な構造改革を成功させて中共の延命を図るもの、とみています。糞青(自称愛国者の反日教徒)や珍獣(プロ化した糞青)による「民間団体」が「反日」で先走ることすら嫌うくらいですから、民主や政治改革を論じるなどもってのほか、という対応になって当然だと思うのですが……。

 「庶民派」とか「調和社会」といった耳障りのいいスローガンに騙されていることを知識人がまだ気付いていない、とは思えません。あるいは、こうした集まりをテコに何事かをなさんとする動きが若手知識人の間にあるのでしょうか。

 天安門事件に代表される1989年の民主化運動を大学生として経験した「六四世代」が、年齢的には助教授クラスに達しています。ちなみに1989年に学生たちを引っ張り、理論的指導者の役を務めたのも現在の「六四世代」と同じ年頃の若手知識人たちでした(こちらは紅衛兵世代)。

 ――――

 以上、ただヤバい内容の国際シンポジウムが潰された、というだけの話です。

 ただ余談めいたものがあります。

 前回の本文中でリンクを張った安徽省におけるお爺さんお婆さんのデモ(昨年10月)、その舞台となった同省蚌埠市にたまたま反体制系知識人が在住していたおかげで詳細なレポートが寄せられ、私もそこから要点をまとめて当ブログで紹介したのですが、そのレポートの作者である張林氏が1月29日、地元蚌埠市の国家安全局によって「煽動転覆国家政権罪」の容疑で逮捕されています。趙紫陽氏の追悼会に出るべく上京したものの当局によって参加を阻まれ、蚌埠に戻った29日に連行されたものです。

 私は張林氏の文章を要訳しただけの縁でもちろん面識も何もないのですが、氏が逮捕されたという報道が流れたときにはやはり悠然とはしていられない気分でした。たまたま前回、当時のエントリーにリンクを張ったところに今度は上のようなニュースが入ってきたので、張林氏のことを思い出しました。まだ裁判には入っていないようなので、いまなお拘留されたままなのだろうと思います。



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 先日「棲息地その2」で質問を頂きました。

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 ●中国誤算、「民主化」若者に衝撃 連戦・宋楚瑜氏の講演
 http://www.sankei.co.jp/news/050512/kok022.htm

 【北京=福島香織】台湾野党の連戦・国民党主席、宋楚瑜・親民党主席が十一日までに相次いで北京の名門大学で講演を行った。自由主義、民主化の賛美や台湾意識を訴える内容は、学生らから強い支持があり、ネットには「国民党が中国に来て二大政党になればいい」といった反応も。
 陳水扁政権への揺さぶりが狙いの中国の筋書きによる台湾野党の北京詣でだが、中国若者の政治意識に意外なインパクトも与えているようだ。

 ……こんな動きもありますが、いかがなものでしょうか?

 ――――

 以下に私の回答を。

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 御指名にあずかり光栄です。

 この記事、私も読みました。非常に興味深い内容でした。でも大学生の中のほんの一部の、ややラディカルに走りそうな声ばかりを集めて記事にしたように思います。実際にそういう大学生はいるのでしょうが、まず多数派にはなれないんじゃないかと思います。

 ミもフタもなく言ってしまうと、「民主・自由」という言葉のハイカラな響きに気分として憧れて、一時的に酔っているだけかと。

 社会に対して問題意識があって、現状の政治制度では根本的な解決がつきそうにないと考えて強い危機感を持ち(同時にある種の不偶感もある)、その危機感に苛まれつつ試行錯誤した末に「自由・民主」へとたどり着くならホンモノでしょう。例えば一九八九年の民主化運動当時の大学生たちがそうでした。

 でも当時でさえ学生の間での温度差にはかなり幅があり、それを急進的かつ行動的な学生たちが力づくで引っ張り、かつ急き立てるようにして大きな動きへと育てていったのです。そこまで育ったのは、温度差はあれど危機感や問題意識が一同に共有されていたからだと思います。

 でもいまの大学生はどうでしょう。まず学費等を自己負担する部分があるので、学生同士に容易ならぬ貧富の差(親からの仕送りの多寡)が形成されてしまっていて、金持ち組と貧乏組では接点がないといえるような、全く異なる消費生活を送っています。当然、友達付き合いにもそれが反映されています。ですからまず団結しにくいのではないかと思います。

 それから、日本への憎悪をかき立てることで中国社会への問題意識を眠らせた江沢民の「愛国主義教育」「反日キャンペーン」のおかげで、またここ十年の中国が表面的には急成長を遂げていることもあって、大学生を含む若い世代はおしなべて現状肯定派です。心配事といえば就職問題くらいでしょう。今のままで別にいいじゃないか、という気分が大半の大学生を支配しているのではないでしょうか。政治運動を体験していないことも現状肯定の気分を補強すると同時に、社会への問題意識や危機感を生みにくくしていると思います。

 ですから、「反日」(ナショナリズム)でまとまることは可能かも知れませんが、「自由・民主」で学生を動かすことはまず無理だと思います。何事かへとつながる作用は起こるまい、起爆剤としては到底期待できない、ということです。


 ――――

 ……以上です。

「大学生を含む若い世代はおしなべて現状肯定派」
「(大学生の)心配事といえば就職問題くらいでしょう」

 という見解はいまも変わっていないのですが、ただ大学生にとって唯一の心配事であろう就職問題、これは相当深刻な模様です。共産党に対するユース組織とでもいうべき共産主義青年団(共青団)、ここの中央部門が先日、全国各地の下部組織に向けて異例の通達を発しています。

 ●共青団中央「学生の就職問題で突発的事件が発生することを断固防止せよ」
 http://www.xhby.net/xhby/content/2005-05/17/content_790334.htm

 大学生の就職や起業に対する問題を学生の身になって事細かくケアしてやれ、という内容なのですが、それがうまくいかないと「突発的事件」が起きるかも知れない、というのです。こりゃまた穏当じゃありませんね。

 「突発的事件」というのは具体的に何を指しているのか、デモや集会というより、突然キレてルームメイトを刺したり、教室で唐突に暴れ出したり、そんな気配もなかったのに自殺を図ったり、あるいは窃盗や性犯罪に……というようなケースだと思いますが、わざわざ通達が出るくらいですから「突発的事件」も頻発していて、かなり深刻な問題なのでしょう。ただ穏当でないのは「突発的事件」ではなく、就職問題の実情というべきかと思います。

 ――――

 新卒者の就職問題は某巨大掲示板風に表現すれば「人大杉」(新卒者数>就業機会)という構造的なもので、就職率100%など夢のまた夢です。昨年実績をみてみると、新卒者280万人のうち、昨年9月時点で就職できたのは204万人、就職率は73%です。簡単に言えば、卒業式が終わると約80万人が自動的に失業者(大半が貧困層)へとクラスチェンジする訳です。大学院に進む者、留学する者もいるでしょうから実数はこれを下回るでしょうが、ざっとした言い方だと10人のうち3人までが就職浪人、ということになります。

 中国の新学期は9月からスタートしますから、来月当たりから卒業シーズンに入るかと思います。今年の新卒者数はさらに増えて338万人(前年比58万人増)となる見込みで、周済・教育部長も「今年の就業圧力は例年にない強さだ」と、厳しい表情です。

 このため「西部へ行け」運動のようなことも奨励されています。経済的後進地区である内陸部では逆に人材不足で、ド田舎(島流し同然)なだけに新卒者に対する需要も高いというのです。これに応募すると奨学金制度が適用されます。

 ただ、本当に内陸部へ行けば職にありつけるのでしょうか?

 ●西部志願者の就職実績、昨年は60%に
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-04/27/content_2885782.htm

 「西部行き志願大学生計画全国プロジェクト弁公室」の責任者が4月27日に明らかにしたところによると、2004年度は志願者1770名に対し、その60%が同弁公室を通じて就職した、とのこと。じゃあ残りの4割は?ということになるのですが、別の部門を通じて職をあてがわれたのか、就職論人になってしまったのかは不明です。

 これと同じ組織のやっている活動なのかどうかはわかりませんが、今年の志願者数は5万人を超える、という記事もありました。

 ●新卒者5万名が西部での就職を志願
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-05/12/content_2969.htm

 この記事によると志願者数は全国で5万1994名、ただこのうち53.7%は地元の西部地区出身者です。

 ――――

 まあ、共青団中央が全国に通達を発するくらいですから、現状肯定派である大学生の間でも不穏ともいえる空気が出始めている、というところでしょうか。こればかりは現地に留学でもしていないとなかなか実感がつかめません。

 さて今年の就職率はどうなるのでしょう。昨年より新卒者の数が60万人近く増えて「人大杉」状態に拍車がかかっています。一方で経済は「軟着陸」(ソフトランディング)を目指した緩やかな減速基調ですから、就業機会が大きく増えるとは考えにくい。それゆえ昨年実績(73%)の水準に達するのはかなり難しいように思います。

 ……ただ、いまの中国経済、マクロコントロールで緩くブレーキをかけている筈なのに、それが奏功しているといった気配がなく、むしろ経済過熱を懸念する声が出ています。アルミやセメント、鉄鋼といった業種に各地が一様に入れ込んでいて、全国的にみると深刻な重複投資となっており極めて非効率。当然ながら資源争奪戦も起きて、それが価格に反映されることになります。

 これに対し国家発展改革委員会あたりから
「コストプッシュ型のインフレは絶対に起きない」という強気のコメントが出ているのですが、さあどうなることでしょう。春播きの穀物や野菜に関しては化学肥料の高騰が問題となり、各地で上限価格を設定するなど対応に大わらわでした。昨年も似たような状況で、そのために9月の穀物価格が前年比31.7%高と急騰、10月も同28.7%の上昇です。これに音を上げた年金生活者によるデモや座り込み()が発生したのも頷けるところでしょう。

 という訳で、就業機会が大きく増えるとは考えにくいながらも、どうやら経済面における中央の統制力が十分でなく、一方で各地方の開発欲求は強いままです。このため胡錦涛政権の目指すソフトランデイング(緩やかな減速)は実現せずに、経済は逆に過熱へと向かう可能性も低くありません。となれば、減速基調の影響で求人が減少する、ということもなくなります。……あ、でももし本当にそうなったら都市暴動のひとつやふたつは起きることでしょう。


 ――――


 【関連記事】今年は失業問題が熱い!?(上)(2005/01/13)
       今年は失業問題が熱い!?(下)(2005/01/14)
       キャンパスにも蔓延する格差(2005/02/21)
       ニート出現。(2005/02/22)


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 小泉首相の発言、もう
「靖国参拝宣言」としちゃっていいですよね?情報が集まらず中途半端になってしまった前回(そのくせ「予定調和?」などと大胆な標題)の続報です。寝て起きてみたら多少情報が出始めているようです。

 しかしまずは訂正とお詫びから。

 ――――

 ●中国側は素早く報じたものの、可燃度の高い大ネタの割には異様ともいえる静まり返ったスタンス。一晩経っても論評記事1本すら出さない(不可解)。

 ……と前回の文末で書いたのですが、「一晩経っても論評記事1本すら出さない」は間違いでした。小泉発言を伝えた『人民日報』(2005/05/17)の国際面、その右下に
「強烈的反差」(強烈なコントラスト)と題された署名論評がありまして、その中で小泉発言にも言及されていました。これはその上に位置したドイツの歴史問題に関する長文コラムの付属のような形でレイアウトされていたのでつい見逃してしまいました(言い訳)。

 ――――

 この署名論評、「新華網」にも転載されています。
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/17/content_2965898.htm

 「強烈なコントラスト」とはドイツと日本のことを言っているようです(中共は何事も善玉と悪玉に分けるのが大好きみたいですね)。ですから目新しい内容ではないのですが、

 ●小泉首相が謝罪した日に80余名の国会議員がA級戦犯を祭ってある靖国神社を参拝している!
 ●5月16日には小泉首相が将来も引き続き靖国参拝を行うと表明している!

 と、いちいち語尾にびっくりマークをつけるあたり、若手なのか基地外なのかわかりませんけど、さらに平頂山何たら事件に関し、被害者に対する日本政府の謝罪と賠償を求めた訴えが日本の司法によって退けられていることに言及したのは勇み足?なのか無知なのか無恥なのかわかりません。いやしくも党中央の機関紙『人民日報』の署名論評なのですから、とりあえずまずは過去に日中間で出された共同声明なり関連条約を読んでほしいものです。

 香港にもこういう勘違いに基づいた馬鹿がいて、それを応援する(選挙運動)トンチキな政治家がいたりします。その裁判が話題になるたびに骨董屋で売られている旧日本軍の発行した軍票の値段が上がったり下がったりするのですが、中国人が個人賠償を求めるならそれは中国政府を訴えるのが筋。香港人は英国政府に対してやって下さい。

 ――――

 そうやって「平頂山」「平頂山」って騒ぐものだから、ほーら同名の河南省・平頂山がとんだとばっちりを受けました。

 ●炭坑で落盤事故、8死122傷。
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/16/content_2963999.htm

 私はこういうことに黙祷したり哀れんだり合掌したりはしません。そんなことしてたらキリがありませんから。そもそも中国の労働現場では人死にが出るのはハナから織り込み済み。人命軽視は仕様ですから。9割が犠牲になって1割の繁栄を無理矢理ひねり出すような、そういう成長モデルで突っ走ってきた酬いがここ数年で出始めているのです(※1)。貧富の差とか失業とか失地農民とか党官僚の汚職、これらはそういった発展形式と無関係ではない筈です。

 本来そうしたアンバランスを是正するシステム(政治制度改革)が導入される筈でしたが、そのシステムを入れれば問題が解消されたかどうかは別として、導入しようとした総書記(趙紫陽)が、
中国より中共の延命を優先させた党中央の決定によって失脚させられてしまいました。16年前の話です。システム導入はもちろん立ち消え。

 それ以来中国経済は走れば走るほど様々な格差や対立が拡大・悪化していくという
「最悪の資本主義」(趙紫陽の弁)を十年以上続けてしまっているので、いまはもう軽く「反日」を煽っただけで党上層部がびっくり仰天する(政権維持に不安を感じる)ようなリアクションが返ってくるほど社会状況が悪化してしまっています。

 ――――

 ああ「靖国参拝宣言」の話でした。外交部報道局長の孔泉が昨日(17日)の定例記者会見(※2)でこれに言及していますが、

「歴史への反省を実際の行動に移し、中国人やアジアの人々、国際社会の信任を得ることを希望する」
(※3)

 と通り一遍という感じで、目新しいことは何も言っていません。語気でいえば対米貿易摩擦に関する反発の方が激しいように思えます。李登輝氏訪日時のような逆上&恫喝めいた言辞に比べれば、対日姿勢としてはごく普通の反発モードです。
「中日共同声明」など中日間で取り交わした3つの政治的文書の……」という言葉ももちろん出てきません。

 逆に日本側の自民党・公明党幹事長の訪中、国会絡みで一度キャンセルされたものが復活しましたが、これも「靖国参拝発言」のリアクションといえるのでしょうか。中国側の要請により一転、訪中となったそうです(※4)。

 ――――

 以上が現時点までの状況で、中国側の反発にはやはり
パワー不足の観が否めません。そんな訳で、

「実は靖国参拝ではもう日中合意が成立していて、あとは参拝時期の調整だけなのでは?」

 という下衆の勘繰りがまだ私の頭から消えてくれないのです。それとも、時間的にも党中央の腰が定まって然るべきタイミングですから、明日あたりから中国国内マスコミの攻勢が開始されるのでしょうか。

 そういえばさり気なく補助燃料の投下も行われていますよ(笑)。

 本籍:竹島、尖閣諸島、沖ノ鳥島の日本人数 答弁書で判明(毎日新聞)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20050518k0000m010052000c.html

 まあ、今後予定されている小泉首相と呉儀・副首相の会談も含めて、私は
下衆の勘繰りを捨て切れぬまま、様子見の姿勢を崩せないといったところです。しかし有り難いものです。「反日」の乱痴気騒ぎが収まって、こちらは中だるみになりそうでしたから(笑)。


 ――――


 【※1】関連:【貴州省】総人口の半分にフッ素中毒症状【補足編】

 【※2】http://news.sina.com.cn/c/2005-05-17/19485913692s.shtml

 【※3】http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20050518k0000m030045000c.html

 【※4】http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/seitou/news/20050518k0000m010068000c.html


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 うーん、と現状では首をひねるしかないのですが、ともあれ「靖国参拝」という燃料が昨日(16日)、日本側から改めて投下されました。

 前回()のような側近の呟きなどではなく、小泉首相直々のお達しです。格が違います。言辞もより明快な意思表示となっております。
「他の国が干渉すべきでない」とまで言っています。最近の対中関係に関する小泉首相の発言としては、抜群ともいえる可燃度の高さです。

 まずは中港台マスコミの大半が元ネタに使っている共同通信の記事をどうぞ。

 ――――

 ●靖国参拝継続の意向 首相が中韓に不快感(共同通信2005/05/16/11:26)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=HKK&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2005051601001033

 小泉純一郎首相は16日午前の衆院予算委員会の外交問題などに関する集中審議で、今年中の靖国神社参拝の有無について「いつ行くか、適切に判断する」と参拝継続の意向をにじませた。
 同時に、首相は「戦没者の追悼でどのような仕方がいいかは、他の国が干渉すべきでない。靖国神社に参拝してはいけないという理由が分からない」と述べ、首相の参拝に反発する中国や韓国に強い不快感を表明した。
 また、首相は「中国側は『戦争の反省』を行動に示せというが、日本は戦後60年間、国際社会と協調し、二度と戦争をしないという、その言葉通りの行動によって、戦争の反省を示してきた」と強調し、靖国参拝の取りやめを求める中韓に反論した。

 ――――

 ……で、中港台マスコミの反応はおしなべて速かったです。ロイター電(中文版)が流れたのは小泉首相の発言後ほどもない当日の12時41分(※1)、香港紙『明報』のリアルタイム版である「明報即時新聞」での報道が14時30分(※2)。間髪を入れずに、というタイミングです。

 中国も今回は負けてはいません。国営通信社・新華社の電子版である「新華網」が中国新聞社電を14時15分に掲載(「明報即時新聞」より速い!)、胡錦涛の広報紙『中国青年報』のウェブサイト「中青在線」は、同じ記事を15時30分に掲載しています(※3)。

 また「人民網」(党中央機関紙『人民日報』電子版)での掲載は22時35分と大幅に遅れましたが、これは東京特派員によるオリジナル記事です(※4)。前回、掲載するまでに約30時間も逡巡したのがウソのようです。ともかく入れ食い状態と言いますか、大漁です(笑)。

 この勢いで釣れたのですから、日中関係も再び大荒れ間違いなし(中国の反発は必至だ)……の筈なんですけど、
実は反応が速い割にあまり盛り上がっていません。

 ――――

 今回の小泉発言は
タイミング・内容とも中国側の感情を逆撫でするようなものなのです。バンドン会議で村山談話を持ち出し、胡錦涛・総書記との首脳会談を実現。この胡錦涛と温家宝・首相は昨年それぞれ小泉首相と会談しており、その席上でいずれも靖国参拝問題が中国側から提起されたのは記憶に新しいところです。

 先日の日中外相同士の会談では李肇星・外相から
「靖国神社には絶対参拝すべきではない」との言葉が飛び出し、秦剛とかいう外交部の報道副局長も定例記者会見で何か吠えていました。実務者レベルでは関係修復を模索する戦略対話もとりあえず緒に就いて……という矢先にこの発言です。正に機を捉えるに敏、絶妙すぎます(笑)。

 とりあえず李肇星の面子は丸潰れ(秦剛は格下だから潰される顔がまだない)。胡錦涛と温家宝にとっても顔に泥を塗られたも同然の方向で事態が進んでいる(まだ参拝した訳ではないので)ので、面子はもちろん、また対外強硬派あたりから突き上げを喰うことになるのでしょうか?

 温家宝で思い出しましたが、実は呉儀という強面のオバサン副首相がきょう(17日)、愛知万博視察のため来日するのです。元々日本側は温家宝を引っ張り出したかったようですが、昨年末の李登輝氏訪日をまだ根に持っているのか、温家宝は首を縦に振らない。それで格下の呉儀の来日、となった訳ですが、その前日に小泉首相は上の発言でお出迎えという訳です。そこまで狙ったのかどうかは知りませんが、
中国側にとっては二重三重の「意地悪構造」になっていることは確かです(笑)。

 ――――

 ところが、不思議なことに
中国国内メディアはこの話題で盛り上がっていないのです。「新華網」や「中青在線」が転載した中国新聞社電は冒頭に掲げた共同通信の記事をなぞった内容で、「小泉首相がこれこれこういう発言をした」という事実関係のみが並べられており、論評は加えられていません。

 22時半になって出た「人民網」の東京特派員電も、時間をかけた割にこれまた事実関係のみ。今朝の『人民日報』(2005/05/17)でもその記事が使われているのですが、国際面に回されて大事な扱いは受けていません。標題に憎々しさを滲ませた観があるものの、レイアウト上で色々細工して目立たせるといったようなこともなされておらず、淡々とした印象を受けます。

 中国での第一報が14時すぎですから、翌朝の新聞に載せるための論評記事を書く時間的余裕は十分にあった筈です。実際、香港の親中紙『香港文匯報』(2005/05/17)は社説でこの題材を扱っています。しかし現時点では中国国内の主要メディア(電子版)に記事以外のものは登場していません。

 そこでこちらは、うーん、と首をひねるしかないのです。ひょっとして先日の訪中でヤマタクは意外と大きな仕事をしてきたのでしょうか?中国側のこの静まり方はどうでしょう。なにやら
「靖国参拝」について日中間で何らかの合意が密かに成立しているかのようではありませんか。

 ――――

 ●中国、首相の参拝中止困難は分かっている…山崎補佐官(読売新聞2005/05/13)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050512ia26.htm

 自民党の山崎拓首相補佐官は12日夜のTBS報道番組で、小泉首相の靖国神社参拝について「中国側は(首相が)靖国参拝を完全にやめるのが難しいのは分かっている」と述べた。(後略)

 この謎めいた言葉が改めて思い出されます。

 ――――

 仕方がないので『香港文匯報』の社説(※5)にあたるしかないのですが、これがまた抑制されたトーンになっています。

「支那人+華僑+朝鮮人=アジア人民」

 という相変わらずのお間抜けな認識に立ってとりあえず小泉発言を批判しているのですが、内容は紋切型という印象で目新しいものもなければ、激しいものもありません。むしろ最後の段落いっぱいを使って、

「でも、日本の大多数の市民とごく少数の軍国主義分子は区別しないとね。大半の日本人には戦争責任はない。彼らも戦争の被害者で、中国や広範なアジア人民と友好関係をとり結ぶことを願っているんだ。中国政府と中国人民も、日本との善隣友好関係の確立を望んでいる。ここ何年かは色々と波風も立っているけど、両国関係は常に友好・協力が主流をなしている。この点ばかりは誰にも変えることはできないんだ」

 と、いよいよトーンダウンしつつ、何やら明るいまとめ方で締めに入ります。最後の最後で、

「日本政府は中日間のこの得難い友好・協力関係を大事にするべきで、アジア人民の感情を傷つけるようなことはもうしないでほしい」

 ……というお約束の文言が出て終わるのですが、何というか全体的にソフトな内容で、いつものあの恫喝めいた言辞を弄するところが全くないため、読者は満腹感を得られません(笑)。……これは違います。
いつもの中国じゃありません。

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 時間がないので情報が揃わず、この程度の内容になってしまい申し訳ありません。あと半日ぐらい様子を見れば何か動きが出てくるかも知れませんが、いま私の身体は睡眠を欲しています(笑)。夜勤明けなのです。どうか諒としてやって下さい。

 とりあえず、

 ●中国側は素早く報じたものの、可燃度の高い大ネタの割には異様ともいえる静まり返ったスタンス。一晩経っても論評記事1本すら出さない(不可解)。

 ●香港における中共の御用新聞『香港文匯報』は社説を出したものの、紋切型かつソフトな内容に終始(失望)。

 ●共同通信が今回は「中国の反発は必至だ」を使っていない(意外)。

 ……ということに非常なる違和感を感じて頭がクラクラします。ああこれは眠いせいかも知れません。床に就きます。おやすみなさい。




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 【※1】http://hk.news.yahoo.com/050516/3/1cjqa.html

 【※2】http://www.mpinews.com/content.cfm?newsid=200505161430ta11430a

 【※3】http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/16/content_2963109.htm(新華網)
     http://news.cyol.com/gb/news/2005-05/16/content_4830.htm(中青在線)

 【※4】http://world.people.com.cn/GB/1029/42354/3392226.html

 【※5】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=WW0505170002&cat=005WW


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 地味な小ネタなのですが、こういう事故、いや「事件」も拾っておいた方がいいでしょう。

 新疆ウイグル自治区のウルムチ市にある発電所で5月13日、石油タンクの爆発事故が発生しました。

 ●ウルムチの発電所で石油タンク爆発事故、5死1傷(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/13/content_2955417.htm

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 この記事によると、13日15時半ごろ、新疆紅雁池第二発電有限公司構内の石油タンクで激しい爆発が発生。火災を引き起こし、ウルムチ市内の各所から高々と立ち上る黒煙や火の手を見ることができたとのこと。報道時点での被害者は死者5名・負傷者1名。発電所のダメージも大きいものの、ウルムチ市への電力供給には影響が出ないそうです。

 この日は午後から強い風が吹いていたため、一時は延焼する勢いを止めることができず、30台近い消防車が現場に駆け付けて消火活動に当たったようです。再度の爆発を警戒して現場に向かう道路は全て武装警察が封鎖し、関係者以外の立ち入りをシャットアウト。

 鎮火後に警察関係者が現場検証を開始し、18時ごろになって封鎖も解除され、記者も現場に入ることができました。石油タンクは1基が跡形もなく破壊され、もう1基のタンクも20mほど吹き飛んでいたそうです。現場近くにいた工員の話では、ちょうど休み時間のためテント内で休息していたところ、突如として巨大な爆音、続いて石油タンクから火の手が上がるのが見えたとのこと。

 この発電所はウルムチ地区の電力供給の主力を担う存在のひとつで、タンク2基合計で1000トンの石油を入れることができるものの、爆発当時には700トンほどが残っていたものと推測されています。

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 私は記事漁りの中で一応事故関連のニュースも集めているので幸いすぐ拾い上げることができたのですが、実は今朝の香港紙『香港文匯報』にごく短い記事ですがその続報が出ていました。

 ●安全局、新疆の爆発事件調査に乗り出す
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505160026&cat=002CH

 ウルムチ市延安路に位置する新疆華電紅雁池有限公司構内の石油タンク2基(最大備蓄量1000トン、爆発当時の残量は700トン余り)で先ごろ爆発が発生し、死者5名・負傷者1名を出した。損失は現時点での推計で400万元余り。国家安全部門はこの事故を非常に重視し、国家安全局が現地へ調査員を派遣している。

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 この記事によって、爆発が「事故」ではなく「事件」の疑いが濃厚であることが明らかになりました。

 国家安全部といったらもう、反動勢力の監視とかインターネット関連の動向チェック、それに分離・独立運動や民主化運動に対処したり、人影の絶えた夜道で日本人らしい挙動不審な男を私服で尾行したり(笑)……そういう、公安(警察)よりもドスの効いた部門なのです。今回の一件は分離・独立運動勢力による破壊活動の線が強い、ということなのでしょう。

 だいたい「新華網」の記事で「武装警察が道路を封鎖」ってところから尋常でない物々しさを感じます。あるいは、死者の中に実行犯が含まれていたのかも知れません。

 以上、『香港文匯報』は香港における親中紙の筆頭ですから、記事の確度は高いと思われます。

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 ちょっと前にはバスを爆発させる事故もありましたし、つい最近、11日にも伊寧市からウルムチ市へと向かう長距離バスを爆発物を持った男がジャック。駆け付けた警官が包囲するなか爆発物に点火しバスを大破炎上させる事件もありました。犯人の男はその場で警官によって射殺されています。

 ●新疆伊寧警察、バスジャック男を射殺
 http://www.tianshannet.com.cn/GB/channel3/98/200505/13/156340.html

 犯行に及んだ原因は家庭内のトラブルによるものと報じられていますが、これはまさに死人に口なしで、本当のところは誰にもわかりません。もっとも報道によれば犯人の名前は「張宝国」で漢族めいてはいますが。

 最近、そういう活動が活発化しているのでしょうか?新疆に関しては犯行声明などが一切出ないのでわかりにくいです。

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 それにしてもウルムチ市に「延安路」があるとは知りませんでした。ひどいものですね。


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