やっぱり寝かせてみるものですねえ。APECの件、1日放置しておいたら様々な動きが出てきました。ただし総じての印象は「複雑怪奇」、これに尽きます。
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とりあえず時系列で追ってみますか。事の発端は10月17日、小泉首相が靖国神社を参拝したこと。……ではありません。大事なことなのに勘違いしている人も多いので一応念を入れて強調しておきますが、
「小泉首相の靖国参拝に中共政権が容喙し内政干渉を行った」
というのがそもそもの発端です。日本の内政に属する案件ですからスルーしなければならないのに、中共が勝手に口をはさんで騒いだからゴタゴタし始めたのです。
ただし今春の反日騒動に比べれば、今回のゴタゴタは非常に抑制されたたものでした。具体的には、反日万歳の自称民間組織や一般市民を締め出してメディアと政界のみで事態を展開させ、日中双方が歩み寄る形への流れを形成させたのです。以前にも書きましたが、大雑把には、
(1)中国政府は当初強く反発・けどショボい報復措置(外相会談「延期」)・民間の反日活動やデモは封殺。
(2)反日報道を許容しつつも靖国関連は次第に鎮静化させ、毒にならない別種の反日記事を主としていく。
(3)外交部報道官会見や関連報道によって態度軟化のシグナルを日本側へ送りつつ、APECでの日中外相会談実現に向けた環境を整える。
というもので、基本的にとりあえず事態を鎮静化させるという胡錦涛総書記の意に沿ったシナリオだと私は感じました。「靖国参拝をされて黙っていることができるか」などと異を唱える相手には、様々な訴えかけでとりあえず納得してもらい、一応合意局面を形成したのです。
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ところが政権基盤の脆弱さ、胡錦涛自身の指導力不足から、ときに反日感情を煽ったり一種の嫌がらせをしたりといった小反発があったことも以前書いた通りです。(1)(2)(3)……と筋書き通りに何とか話は進んだものの、何かがあれば一気に崩れてしまいそうな脆さのある危ういシナリオでした。
危うさ・脆さをはらんだ台本になってしまったのは、ストーリー自体に無理があったからでしょう。無理とは胡錦涛の統制力が、このシナリオをこなすには不十分というリスクを抱えていたことです。そして実際に「小反発」が何度か発生しています。
さらにもう一点、これは中国側だけの独り芝居ではなく、日本という相手のある出し物だということです。その日本は9月の選挙で圧勝し再信任された小泉首相が内閣改造を行って、以前より強面の陣容にパワーアップしていました。
……ええ、それを象徴するのが「小泉首相+安倍官房長官+麻生首相」という靖国参拝支持派で形成された「超攻撃型3トップ」です。例えば麻生外相が十年前なら引責辞任に追い込まれかねない「放言」をすると、小泉首相と安倍官房長官が即座にそれとは逆の優しい物腰をみせてフォローに回る。あるいはFW3枚が足並みを揃えて強硬姿勢をチラリと垣間見せる。小刻みにポジションチェンジを行って相手を翻弄し、崩していく見事な連携ぶりでした。
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幸い、胡錦涛はAPEC直前まで何とか筋書き通りにことを運ぶことができましたが、そのAPEC直前の外遊(訪欧)期間中に足をすくわれることになります。
●靖国問題視は「異な感じ」=小泉首相参拝、簡単には譲れない=麻生外相(時事通信 2005/11/13)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051113-00000059-jij-pol
●安倍官房長官:タカ派を否定「中国の人たちは大好き」(毎日新聞 2005/11/13)
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20051114k0000m010052000c.html
……と、麻生-安倍ラインによる硬軟とりまぜた攻勢です。一種の「釣り」ですが、胡錦涛不在の中共側は猛然とこの餌に食い付き、釣り上げられてしまいました。よせばいいのに、またスルーせずに騒ぎ立ててしまったのです。
槍玉に挙がったのはもちろん麻生外相の靖国発言です。果たせるかな、「新華網」(国営通信社の電子版)トップページの大見出しを飾るという特別待遇を受けました(笑)。胡錦涛の描いていたシナリオはちゃぶ台をひっくり返された形です。日中両国の歩み寄りによって「延期」扱いになっていた外相会談をAPECで実現する、という構想が崩れてしまいました。
というより、胡錦涛の不在を奇貨としたアンチ胡錦涛諸派連合が、わざと釣られて騒ぎ立て、胡錦涛構想を崩してしまったというのが実情に近いのではないかと思います。この出来事の原因も「麻生発言」ではなく、「麻生発言」を捉えてことさらに騒ぎ立てた中国側にあると言うべきです。
APEC出席のため韓国に入りした李肇星外相に随行した秦剛・外交部報道副局長は日中首脳会談については「可能性はまったくない」と語り、外相会談の可能性も極めて低いとしました。
●日中首脳会談の可能性ない 秦剛副報道局長(共同通信 2005/11/14)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MNP&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2005111401001069
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前にも書きましたが、強引な中央突破を狙ったファンタジスタ・麻生外相が翻意して、フォローに回った安倍官房長官にボールをいったん預けてスペースへと走り込もうとしたら、運悪くスルーパスになる筈のところをインターセプトされてしまったのです。
ボールを奪われた日本が中国のカウンターを喰うかと思いきや、そこで摩訶不思議な光景が現出します。中国イレブンがなぜか1カ所に集まって二手に分かれ、殴り合いをおっ始めたのです(笑)。「靖国」をタネにアンチ胡錦涛諸派連合が政争を仕掛けたとすればそういう構図になります。
水泡に帰したかと思えた胡錦涛構想。ところが、胡錦涛は外遊中ながら留守部隊が北京に残っています。その面々が即座に反撃に転じました。殴り返した訳です。ネット上の動きに限っていえば、「麻生発言」関連記事を目立たない位置に移してしまい、代わりに安倍官房長官の「中国人は大好き」発言を前面に押し立ててみせたのです。
●安倍官房長官「自分はタカ派ではないし、中国の人たちは大好きだ」(新華網 2005/11/14)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3777590.htm
これに対し、政争を仕掛けた側ももちろん黙ってはいません。
●韓国外相、日本政府に正確な歴史認識を持つよう促す(新華網 2005/11/14)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3779976.htm
という記事を皮切りに、王毅・駐日大使が「靖国問題が日中関係をもつれさせる原因の全て」といった記事を『日本経済新聞』に寄稿したというニュースを流して抵抗。さらにペルーのフジモリ問題に関する報道や画像集までを持ち出してきました。
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●王毅が日本紙に寄稿「靖国問題が日中関係をもつれさせる原因の全て」(なぜかリンク切れ)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3782196.htm
●フジモリ問題でペルー国民が反日活動、「日本との断交も辞さず」(新華網 2005/11/14)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3779166.htm
●ペルー国民の反日活動画像集(新華網 2005/11/14)
http://news.xinhuanet.com/photo/2005-11/14/content_3777588.htm
アンチ胡錦涛諸派連合は民衆の反日気運に頼ろうとしたのかも知れませんが、「反日」とは全く無関係にデモや暴動が頻発している社会状況ですから、これは危険な賭けともいえるものでした。
ともあれ、試合そっちのけで唐突に始まった中国イレブン同士による殴り合いを、日本側は手をつかねて眺めているしかありません。ドリンクを補給しながら、
「試合はどうすんの?こっちはいつでも歓迎だけど、別にやりたくないならそれでもいいよ」
という姿勢です。もちろん「試合」とは外相会談、ひいては首脳会談です。ところが中国側は仲間割れで始まった喧嘩の決着がつかないままです。「試合」再開に否定的な報道は流れるのですが全て外電の引き写し。仕方がないので私も放置して13年前の昔話に興じていたのですが、ようやく外交部がこの件に公式な回答を示しました。
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●外交部「APEC」での中日首脳会議はない(新華網 2005/11/15)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/15/content_3784115.htm
劉建超報道官の記者会見によるもので、日中首脳会談の予定がないことを明言。その理由は、
「いまは両国の指導者が会談する空気や条件がまだ整っていない」
ということになっており、要するに時期尚早。「一切の責任は中国側にはない」というトーンでないことが意外です。しかも時期尚早ですから首脳会談はいずれ実現するという含みも持たせており、会談拒否のような強い姿勢ではありません。そして「小泉首相」「靖国」といった固有名詞はやはり一切出てきません。
ちょっと興味深かったのはそのページの下に並んだ関連報道の中に、
●中日関係は共倒れを避け、勝利を分かち合わなければ(国際先駆導報 2005/11/05)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/05/content_3734868.htm
という記事があったことです。何やら胡錦涛風味の標題ではありませんか。
(「下」に続く)
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