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素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)
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生誕90周年――換骨奪胎合戦でも胡錦涛敗北か。
中国観察
/
2005-11-19 12:41:08
胡耀邦生誕90周年記念式典が昨日(11月18日)、北京で開催されました。
終わってみると、何のためにやったのかよくわからないイベントでした。毒なのか薬なのか、はたまた毒にも薬にもならないのか。……何もやらないよりはマシのようでもありますし、やったことで禍根を残すことになったようでもあります。
ともあれこのイベントの企画・立案者であり推進者だった胡錦涛総書記は韓国訪問中のため欠席。式典は江沢民派とされる呉官正・党中央紀律委員会書記が主宰し、江沢民の大番頭である曽慶紅・国家副主席が記念演説を行いました。そして庶民派を偽装した悪代官(たぶん)の温家宝首相、「胡耀邦をやるなら趙紫陽は?」と胡錦涛のこの企画に異を唱えた当人なのですが、出席することで式典に格式を持たせました。
――――
胡耀邦というと1989年4月に急死して、その葬式のとき遺体が人民服(中山装)でなくスーツ姿だったのが印象的でした。ちょうど中国に留学していた私は留学生宿舎の1階にある接客室、ここにテレビがあったのでみんなで葬儀のニュースを観ていたのですが、へーえスーツなんだ、どうしてだろうと不思議に思ったものです。
いまでも胡耀邦と聞くと背広姿の亡骸がまず思い浮かびます。無論そのときはまさかその追悼運動がタネ火になって全国に燃え広がるとは思ってもみませんでした。
より正確にいうと死去したのが4月15日、その3日後に私は
学生の決起集会に居合わせる
破目になり、翌日は授業をサボってデモ見物。……てなことはどうでもいいのですが、葬儀は22日に行われ、趙紫陽総書記(当時)が弔辞を読み上げました。
で、今回の式典に対する主催者側の気合の入れ方、そのバロメーターとなったのが曽慶紅の演説です。注目されていた胡耀邦に対する評価は、何と16年前の葬儀で趙紫陽が読み上げた弔辞そのまんまだったのです。
――――
名誉回復云々と事前に香港紙などが書き立てましたが、何が胡耀邦の不名誉かといえば、それは総書記だった1987年に失脚を余儀なくされたことでしょう。
当時学生の民主化デモや政治制度改革を求める知識人の声が高まったことで、その反動として「反ブルジョア自由化」という思想引き締め&風紀粛正を目的とした政治キャンペーンが保守派主導で展開されました。そのキャンペーンへのヤル気がなさ過ぎ、という批判の集中砲火を保守派から浴びせられ、トウ小平もかばい切れずに胡耀邦は総書記をクビになりました。
このために総書記時代の功績は全てスルー。16年前もスルーなら今回もスルー。
皮肉なものです。「反ブルジョア自由化」運動なんてやっていたのが、いまや資本家でも中国共産党員になれる時代。中共政権がイデオロギーの呪縛から自由になったことを示すものですが、それでどうなったかといえば、利権追求集団という地金がモロに出てしまい、それを十数年続けたために社会状況が沸点寸前にまで達しています。
もう江沢民時代のように「反日」で国民の不満をそらす手も使えなくなりました。そういう土壇場でババを引いてしまい総書記に就任したのが胡錦涛です。
――――
その胡錦涛が言い出したのが今回の胡耀邦生誕90周年記念活動です。もちろん胡耀邦はダシであって、胡耀邦生誕記念イベントで何らかの政治的果実を得ようとしたのでしょう。思い付くままに並べてみると、
(1)共青団人脈(団派)を主力とする胡錦涛派の存在感を顕示する。
(2)党長老との関係修復を図る。
(3)風紀粛正・汚職抑制の強調。
(4)50代以上の世代の支持とりつけ。
(5)開明派的イメージ定着。
といったところでしょうか。まず(1)は胡耀邦が「団派」の大先輩なので、これを担ぐことで胡錦涛派の意気を高めようというものです。敵対勢力に対する一種の示威活動ですね。
(2)については少し説明を要します。趙紫陽死去によって浮上した生前の事蹟をどう評価するかという問題で疎遠になってしまった胡錦涛の支持母体・党長老連との関係を修復しようというものです。
長老連は趙紫陽の時代に第一線にいた世代ですから、趙紫陽の功績が全否定されると自分たちも功績がなかったことになり、トウ小平が始めた改革開放は胡耀邦・趙紫陽時代の1980年代をすっ飛ばして全て江沢民の業績、ということになってしまいます。
ところが江沢民は趙紫陽が失脚したおかげで総書記になれたのですから、総書記としての趙紫陽を評価すると自分の正統性が失われてしまいます。このため胡錦涛は趙紫陽再評価を強く求める長老連と江沢民の板挟みのようになり、なかなか葬儀が開かれなかったのは記憶に新しいところです。
結局玉虫色の妥協案(一部の業績を認める)で事態を収拾したのですが、この問題がシコリとなって胡錦涛と党長老連が疎遠になってしまいました。そこで胡耀邦を再評価すれば長老連の機嫌も直るだろう、という狙いです。
――――
(3)(4)(5)についてはどれほど効果があるかは疑問ですが、開明派で清廉なイメージのあった胡耀邦のキャラを胡錦涛が継承するように見せたいということです。それに胡耀邦は文化大革命で冤罪に泣いた人々の救済に非常に積極的で、それが庶民に慕われた最大の理由でした。ですから胡耀邦を持ち上げることで、その恩恵を受けた世代が胡錦涛をより支持するようになれば、ということです。
まあ(1)(2)以外はどうでもいいようにも思えます。開明派を装って知識人の歓心を買ったところで権力闘争に直接プラスになることはありませんし、文革世代からの支持率が高まっても、これまた権力掌握の足しになるとは思えません。
ともあれ、胡錦涛は「胡耀邦生誕90周年」イベントをやることで、自らの指導力強化を図る狙いがあったのだと思います。かなり前から練られていた策であることは確かです。企画自体が浮上したのは夏ごろでしたが、シロアリに喰われてかなり傷んでいた胡耀邦旧宅を、地元政府が40万元余りを投じて4月11日から修繕しています。一般市民も見学できるように、ということですが、要するにその時点にはすでに胡錦涛の頭には「90周年」を利用するアイデアがあったのでしょう。
●『香港文匯報』(2005/09/05)
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0509050003&cat=002CH
――――
とはいえ、これは余りにミエミエな企画です。他の派閥から、
「そんな団派だけが得するようなイベントにカネを使えるか」
と反対の声が出るのは自然ですし、
「じゃあ趙紫陽はどうします?」
と聞くことで胡錦涛に同調しなかった温家宝も何事かを胸に秘めていたのでしょう。
――――
という訳で「換骨奪胎」合戦なのです。胡錦涛は胡耀邦イベントを利用して上述したような政治的目標を達成しようとする。これに異を唱えた温家宝、そして上海閥の現役代表格ともいえる曽慶紅は逆にこの企画に賛意を示しましたが、結果からみれば、両者が狙ったのはいずれも胡錦涛の目論見を崩すということであり、イベントを骨抜きにしてしまうことでした。
ここでも様々な綱引きがあって妥協が行われたのでしょう。式典は開催する。開催するけれども胡錦涛が外遊中で出席できない時期を選ぶ。……と、ここまではいいのですが、
●式典に対し胡錦涛が書面によるメッセージを寄せなかった(寄せるのを阻まれた?)。
●胡耀邦に対する評価が結局従来のままだった。
……この2点は明らかに胡錦涛の敗北を示すものだと思います。また、温家宝と曽慶紅が出席することで格式の高さは保たれていますが、正確にはこのイベント、記念式典ではなく座談会というやや軽い形式をとっていますし、出席者の顔ぶれもかなり限定されているという印象を受けます。
どうも換骨奪胎を狙った胡錦涛が、逆にその策を施されてしまったような格好です。
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