日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 すみません。興奮しているので筆致が乱れるかも知れないことを最初に謝っておきます。

 前々回紹介した例の
『趙紫陽軟禁中的談話』、自分のために確保しておいた1冊がきょう香港から届きました。仕事で外出する際にポストをのぞいたら届いていたので梱包されたままのものをバッグに詰め込み、地下鉄に乗るなり取り出してむさぼり読みました。

 もう目次だけでお腹一杯です。昔話や中共政権成立後の歩みに関する見方に始まって、トウ小平論、江沢民論、胡錦涛&温家宝論、そしてトウ小平と趙紫陽の「改革」に対する見解の相違点などが趙紫陽自身によって語られているのです。……さらに、

 ●後進国が革命に勝利した後すぐに社会主義をやってはならない。
 ●中国の特色ある社会主義とは一党独裁を強固なものにすることでしかない。
 ●いま中国がやっているのは最悪の資本主義だ。
 ●社会問題の一切の根源は全て高度に集権化された政治制度にある。
 ●この体制は事実上腐っている。問題は民主によるチェック機能がないことだ。

 といった刺激的な標題が目白押し。これらは私が端折ったり意訳したりしていますが、趙紫陽自身によってこれらのことが実際に語られているのは本文を読めばわかります。ビリビリします。震えがきます。……他にも、

「総書記とは名目だけで、実際は(トウ小平や陳雲の)秘書長にすぎなかった」

 と、トウ小平時代下の胡燿邦から趙紫陽へと続いた「総書記」職の本質を喝破。そしてあの天安門事件(1989年)当時の核心部分についての趙紫陽視点による生々しい回想も、かなりの分量で掲載されています。

 現在の最高指導者である胡錦涛について趙紫陽は、

「四中全会の講話で馬脚を露わした」

 とバッサリ。胡錦涛は中国共産党の正統的なイデオロギーという「調教道具」によって育て上げられた若手幹部だとし、毛沢東に傾倒するような胡錦涛の姿勢を評して、

「こういう正統的なイデオロギーに支配されている頭では、新たな理念を考え出し、使命感や歴史的責任感を持って中国の政治局面を改めていくなんてことは不可能だ」

「それに胡錦涛にはそれをやれるだけの気迫も力量もない。これではゴルバチョフがそうだったように、既得権益集団によって固められた現在の制度に潰されてしまうだろう」

 と厳しい見方を示しています。話題はさらに民主や自由そして台湾問題にも及ぶなど、もう緩急自在にして縦横無尽。失脚して軟禁状態にありながら、趙紫陽が時事問題に通じていること、また歯に衣をきせない鋭い物の見方は「そこまで言うか!」と予想以上でした。

 一方で、軟禁中とはいえこれだけのことを語るべき相手に語ることができる環境に、中共内部に趙紫陽を密かに保護する政治勢力(たぶん胡績偉など改革派の長老蓮)が存在していたことを感じさせます。

 ……と、ここまで乱雑に書いてはみましたが、実際には時間がないのでまだほんの少ししか読んでいません。本腰を入れて精読すれば面白い話がまだまだわんさか出てくるだろうと思うともう楽しみで楽しみで、私の読書は当分この本に没頭することになりそうです。

 ともあれ史料価値だけでも一級品の値打ちがあり、一種の「趙紫陽語録」でもあるため、いずれ和訳本が出るかも知れませんが、これは原書(=翻訳という手垢にまみれていない趙紫陽の肉声)も手元に置いておくだけの価値ある内容だといえます。

「趙紫陽とトウ小平の間には意見の対立する部分があった。民衆を鎮圧しない共産党は断じてマルクス主義の共産党ではないというのがトウ小平の見方。一方の趙紫陽は、民衆を鎮圧する共産党は断じて中国人民が求める共産党ではないという見解。そして趙紫陽はトウ小平にNoと言った。その言葉は真理であり、その姿勢は勇敢であった」

 という、趙紫陽のブレーン兼秘書だった鮑トウ(元党中央政治改革研究室主任)の序文にある一節が素晴らしいです(翻訳下手ですみません)。

 ――――

 それから先日靖国神社に立ち寄って、例によって海軍カレー&海軍コーヒー&零戦を楽しんだあと、売店をのぞいてうわーっと思いました。私が観ることのできなかったアニメ作品
『アニメンタリー決断』が、いつの間にかDVD化されているではありませんか。

 この作品に対する詳細はこちらを。

 ●君は「アニメンタリー決断」を知っているか
 http://www.h2.dion.ne.jp/~sws6225/

 私は数年前、このサイトで『アニメンタリー決断』という作品が過去に存在していたことを知り、もはや観る術がないことに切歯扼腕していたのですが、久しぶりにのぞいてみたら、DVD化などによって面目を一新していました。

 さて遊就館の売店でこれを発見した私は思わずDVD-BOXに手を伸ばしたのですが、あいにく手持ちの現金に余裕がありませんでした。レジで尋ねるとカードは使えないというつれないお言葉。そしてただなならぬ殺気に振り返ると配偶者が鬼の形相。

 ……ああ天なるかな。

 仕方がないので副業の原稿料が振り込まれるのを待つことにしましたけど、以下に紹介しておきます。拙宅は近くにレンタル店がないのですが、仮にレンタル店があってそこで借りることができたとしても、やはりDVD-BOXを買うことになると思います。『趙紫陽軟禁中的談話』と比較することはできませんが、これはこれで価値ある作品ですから(少なくとも私にとっては)。

アニメンタリー決断 DVD-BOX

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アニメンタリー 決断 VOL.1

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アニメンタリー 決断 VOL.4

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アニメンタリー 決断 VOL.5

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 勢いに任せて『アニメンタリー決断』まで紹介してしまいましたが、私の場合、これを買っても観るのは少し後になるかと思います。しばらくは一意専心『趙紫陽軟禁中的談話』にハマることになりそうですから。想像していた以上の内容、この一言に尽きます。

 何はともあれ、取り急ぎファースト・インプレッションまで。

 ――――

 ※『趙紫陽軟禁中的談話』は私のルートであと何冊かは入手できそうな気配ですが、私の地盤方面の書店はすでに軒並み品切れ状態。香港在住の方は中環(セントラル)か銅鑼湾(トンローワン)あたりの大手書店に行けばまだ手に入るのではないかと思います。

 ※先日靖国神社の帰りに神田神保町まで足を伸ばしてみましたが、「内山」や「東方」には『趙紫陽軟禁中的談話』はありませんでした。まあ「内山」は同書を出版している香港の政論誌『開放』すら置いていませんし(なぜか『開放』だけ扱っていません)、「東方」に至ってはアレですから。冗談でもレジで「党員割引はありますか?」なんて聞いちゃいけませんよ。「はい」という答が返ってきそうで怖いじゃないですか(笑)。

 ――――

 【追記2007/02/27/02:24】
4冊入手しましたのでよろしければどうぞ。とりあえず私の方はこれが最後です。偶然手に入れば散発的に出すことはあるかも知れませんけど、旧正月明けで仕事も忙しくなってきましたので。

#001『趙紫陽軟禁中的談話』
#002『趙紫陽軟禁中的談話』
#003『趙紫陽軟禁中的談話』
#004『趙紫陽軟禁中的談話』




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 どうも最近の中共政権は硬質なアクションが多いですね。ええ背景に軍部の影を感じるような類いのものです。……いや、軍部という言い方は正確ではないでしょう。軍主流派の姿勢を反映したものである場合と、鉄砲玉的な一部の跳ねっ返りによる「独断専行」というケースがあるように思います。

 共通しているのは胡錦涛路線に対するある種の異議申し立て、ということ。ただ最近の中共政権はアフリカへの露骨な急接近に代表されるように、対外伸張的スタンスや一種の野心を隠そうとしなくなってきています。軍部が台頭するようにみえて実は胡錦涛も同腹だった、という場合も中にはあるかも知れませんが、総じていえば胡錦涛政権が軍部にやや引きずられている、といった観があります。

 ただ今回のケース、これは「軍主流派」でも「胡錦涛も同腹」でもないと思います。とはいえ「鉄砲玉」にしては手が込んでいて勢いもあることから、それなりの政治勢力を後ろ盾にした「異議申し立て」ではないかと考えているところです。

 ……と、つい数日前までは思っていたんですけどねえ。ちょっと風向きが怪しくなってきました。

 ――――

 旧正月前の「事件」をいまさら蒸し返すことになりますが、ちょっと気になる動きですし、展開次第では胡錦涛政権の足を引っ張りかねない状況に発展するかも知れませんので、旧聞であることを承知でとりあげておきます。

 やや迂遠ですが今回は大手門から正攻法でいきましょう。中共政権によって「歴史」の書き換えが進められていることが「事件」の背景にある、というところから語り起こさなければなりません。

 キーワードは「愛国主義教育」。御存知、江沢民時代に十数年にわたって実施された反日風味満点な教育プログラムのようなものです。日本人からみれば「反日教育」といっても不適切ではないほどヒステリックなものでした。

 これによって「糞青」(自称愛国者の反日信者)が大量生産され、現在の中国国民でいうと30歳以下の反日度が必要以上に高まったことはいうまでもありません。2004年サッカーアジアカップにおける中国人サポーターの常軌を逸した反日姿勢、そして翌2005年春の反日騒動はその発露というべきものでしょう。

 「反日風味満点」という点において平衡を著しく欠き、またその「日本鬼子」による侵略を中共が敢然と迎え撃ってついに勝利する、といった勧善懲悪型の内容は、ステレオタイプ型の思考癖を育んでしまったという点において、愚民教育といっていいかと思います。

 なぜ「愛国主義」か、なぜ「反日」か。……江沢民に日本あるいは日本人に対するトラウマのようなものがあったためかどうかは知りませんが、基本的には1989年の天安門事件で失脚した趙紫陽の後を襲って江沢民が総書記に就任したことによります。トウ小平による大抜擢です。

 でも当時の江沢民は大抜擢を喜んでばかりはいられない状況でした。軍隊によって民主化運動を武力弾圧したという流血の惨事を引き起こしたため、西側諸国は対中経済制裁を実施。国内は国内で武力弾圧によって国民の中国共産党に対する信頼度が地に堕ちました。……いや、中共政権や社会主義に対する不信感はそれまでに十分浸透していたのですが、天安門事件でそれが決定的になったというべきでしょう。

 しかも、気がつくとお友達がどんどんいなくなっていくという非常事態。ベルリンの壁が壊され、ソ連や東欧の共産党政権がバタバタと崩壊していってしまったのです。ともあれ一党独裁である中共政権としては、国民の中国共産党に対する敵意めいた不信感を取り除き、求心力を回復しなければなりません。

 ――――

 そこで持ち出されたのが民族主義を煽ることです。中国人はすごいんだ、中華民族はすごいんだとはやし立てるキャンペーン。その
「中華民族はすごいんだ」「中国共産党はすごいんだ」へとすり替えていこうという狙いです。

 すごい証拠は3000年の歴史……だとインパクトに欠けますし中共への求心力回復に貢献しません。しかも3000年の中華な歴史の結果が19世紀以降の半植民地的な屈辱の近代史です。

 ところが、ふと横を向いたら日本という恰好の敵役がいるではありませんか。しかも「江の傭兵」のような媚中派が政権の中枢にあって言いなりにできるのです。「謝罪しろ」といえば申し訳ありませんでしたと謝りますし、「反省しろ」といえば本当にすみませんと反省してくれる。「謝罪が足りない」といえばさらに謝ってくれます(書いていて情けなくなってきますね)。

 ……この日本を歴史教育において徹底的な悪玉として描くことで、第一に国内の中共に対する敵意めいた反感を日本へとそらすことができます。しかも内戦で国民党を台湾に追っ払ったので、中共はいわゆる「抗日戦争」の勝者という地位を独占できるのです。要するに、

「あの鬼畜の限りを尽くした日本兵に対し蒋介石の国民党はヘタレていたけど、われらが中共は敢然と立ち向かって日本に勝利し、建国の大業を遂げたのだ。すごいぞ中国!すごいぞ中共!」

 という、中共にとって実に都合のよい勧善懲悪型の「歴史」を編み上げることができたのです。日本軍との戦闘で敗死した者はそれが自らの無能ゆえであっても「革命烈士」「人民のため祖国に殉じた英雄」扱い。ヒーロー物語がいくらでも量産できます。

 また「日本鬼子の蛮行」として何たら大虐殺とかいう虚構も量産可能。「動かぬ証拠」とかいって示された人骨なんて、文化大革命で殺された人の分がいくらでもありますから。

 これが「愛国主義教育」として正式に教育プログラムに導入されたのが確か1994年。そんな安手な虚構にコロリと騙される中国人の民度も問題ですが、たまには弁護でもしてやりましょうか。子供はピュアなところに刷り込みが行われますし、報道統制で接する情報が中共にとって得なものに限定されますから疑うことのできない環境にあるのです。

 1994年に小学1年生だった世代は天安門事件を記憶していませんし、それが小学校6年生(事件当時小学1年生)でも民主化運動から天安門事件への流れをしっかり認識できていた児童などまずいないでしょう。中学3年生でも事件当時は10歳前後ですから、どれほど事態を把握できていたかは甚だ疑問です。そこへ反日風味満点の徹底した「愛国主義教育」を施され、それを全身に浴びて育っていく。……育った結果、この連中が現在の30歳以下を構成しています。

 天安門事件当時の大学生、私と同世代のいわゆる「六四世代」は当然のことながら民主化運動を銃弾と戦車のキャタピラによって力づくで封殺されたことに深い挫折感があります。それより上の世代は文化大革命、より古くは反右派運動や大躍進のような人災の極みともいうべき政治運動を経験していますから、中共が嫌いでもその怖さは骨身に染みています。

 ――――

 公然と異議申し立てを行えばどうなるかは天安門事件が改めて証明してくれましたし、そんなことで損をするよりもまずは自分の生活が大事。1989年の民主化運動の担い手が結局は大学生と知識人に限定され、一般市民まで巻き込むムーブメントに発展できなかったのも、過去の政治運動という忌まわしい体験があったからでしょう。

 とはいえ国民の中国共産党やその一党独裁体制に対する憤懣が消えた訳ではありませんし、日常生活における鬱屈もあるでしょう。その中には特権を盾にうまい汁を吸ったり横車を通したりする党幹部への反感もある筈です。しかし中共に公然とは刃向かえません。……が、「反日」を掲げたものならちょっと騒いでも「反革命分子」などにされたりはしません。

 中共への不満を「日本叩き」に託すといったピュアでない「反日」とはいえ、当人にとってはいい憂さ晴らしになるのは確かです。そして、お咎めもない。実際に2005年の反日騒動対しては未だに政治的な善悪認定(定性)がなされていません。

 あの騒動の本質は党上層部における主導権争いだと私は考えていますが、実際にデモやプチ暴動に及んだ民衆レベルでは「愛国主義教育」で育った江沢民チルドレン(亡国の世代)による「ビュアな反日」と「八つ当たり的な反日」が共存していた、ということです。

 さらにいうなら、1990年代後半から中国経済は歪んだ形ながら成長軌道に乗りつつあったため国民には現状肯定的な気分が強まり、天安門事件直後に比べれば中共への反感が薄らいでいたという要素もあるでしょう。そうした中で、いわば政策として高められた「反日気運」が顕著になっていったのです。

 また、この時期が経済成長モデルの歪みが様々な格差という形で顕在化し始めた時期と重なっていることも重要かと思います。それが中共への反感かどうかは別として、「歪み」に対する鬱憤晴らしというのも「八つ当たり的な反日」の原動力となったということです。

 ――――

 ともあれ、反日風味満点の「愛国主義教育」を以て天安門事件直後の危険な状況を脱する、という江沢民の所期の目標は達成されたというべきでしょう。

 もっとも、外資依存度の高い中国にとって、お得意様である日本への国民感情をいたずらに悪化させるというのは得策ではありません。同時に、こうしたステレオタイプな硬直した思考が身についてしまうのは一種の愚民教育だ、ということは上で指摘した通りですが、愚民のままでは外資企業から得た技術やノウハウを消化して産業構造をグレードアップさせることもできません。

 素人の私がそう思うくらいですから、江沢民の後を継いで最高指導者となった胡錦涛も当然それに気付いていたことでしょう。果たせるかな、胡錦涛政権が発足するやまず反日サイトの活動が大幅に規制され、反日報道への統制が行われ、政権としての反日度も大きくレベルダウンしました。

 ……いや、これは後出しジャンケンじゃありませんよ。不肖御家人の天気予報もたまには当たるのです。

 ●江沢民引退なら「反日」はレベルダウン(2004/09/02)

 ただ、「胡錦涛路線」の重要な一項ともいうべきそうした政策がタイミングの悪さから裏目に出てしまい(江沢民のヒステリックな「反日」のおかげで日本の対中外交がようやく強腰へと転じた時期だったからです)、アンチ胡錦涛勢力からダメ出しをされて2年間の迷走を余儀なくされてしまうのですが。

 ――――

 もっとも、迷走の2年間にあっても胡錦涛が着実に推進してきたものがあります。それが「愛国主義教育」を変質させることです。詳細はこちらを。

 ●「鬼畜米英」から「ぜいたくは敵だ」へ。愛国主義教育にも胡錦涛色?(2006/10/22)

 タイトルだけで大雑把な意味はとれるかと思います。これに加えて、台湾問題における国民党との接近を図る必要から、「抗日戦争」期間の歴史を大きく書き換えることにも踏み切りました。

 2005年9月3日の「反ファシズム戦争勝利60周年記念式典」(うろ覚え)とかいうイベントで行った重要演説の中で、胡錦涛は「抗日戦争」を、

「国民党が正面を担当し、共産党が背後を担当した」

 と表現して、戦勝の功績を国民党と中共で半分ずっこにしたのです。

 ●「新華網」(2005/09/03/17:21)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-09/03/content_3438800.htm

 そんなことは中国の歴史教科書のどこにも書いてありませんでしたから、歴史の先生たちは腰を抜かしたことでしょう(笑)。

 ――――

 そもそもこの胡錦涛演説の約半月ばかり前に『人民日報』(2005/08/15)が掲載した「評論員文章」、これは7000字に及ぶ戦勝記念重要論文ですが、ここには全く逆のことが書いてあります。

「国民党が連戦連敗で状況が悪化するなか、中国共産党の奮闘が勝利を呼び込むことになった」

 という趣旨で、「国民党」の三文字が登場するのもたった1度だけ、それも従来通りのヘタレ扱いです。タイトルからして、

「中国共産党は全民族が団結しての抗戦において精神的支柱だった」

 であり、これまた従来通りの功績独り占めです。

 ●「人民網」(2005/08/14/19:11)
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/3614204.html

 それが半月後には内容がガラリと変わって……いやいや、内容をガラリと改めてしまうのですから、中共政権における「歴史」というのは実に都合のいいアイテムのようです。

 ――――

 ともあれ、「歴史」の重要な部分を党中央が大きく改めたことで、教育現場も対応しなければならなくなりました。かくして「新しい歴史教科書」が制作されることになります。もちろんその主題は「愛国主義教育」で貫かれているのですが、それは従来の江沢民型ではなく、「鬼畜米英」から「ぜいたくは敵だ」に軌道修正した胡錦涛型です。

 そして、それに対する異議申し立てとして「事件」が起きることになるのですが、……遺憾ながら「事件」そのものにふれる前にこちらの体力が尽きました。申し訳ありません。寝ます。

m(__)m




「中」に続く)




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 標題の通りです。2005年1月に逝去した趙紫陽・元総書記に関するいわゆる「趙紫陽本」において最強かつ最も正統的な一冊がこのほど香港で発売されました。

■趙紫陽軟禁中的談話

【価格】2190円

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 ●1989年の天安門事件で軍隊による大学生・市民への武力弾圧に最後まで反対し失脚した趙紫陽・総書記(当時)が、2005年1月に病没するまで、軟禁状態のなかで語った様々な話題が、趙紫陽自身の肉声によって収められています。

 ●現役時代の回顧、江沢民時代下における中国の政治・経済・社会への観察と見解などを通じて、趙紫陽の目指した中国を垣間みることのできる貴重な一冊です。失脚直前の1989年5月、訪中したソ連・ゴルバチョフ書記長(当時)との会談では「一党独裁の弊害」についてさえ意見交換した趙紫陽は、軟禁中に何を考え、何をみたのか。

 ●軟禁中に中国経済を観じて「いまの中国は、最悪の資本主義をやっている」と喝破した眼光は、尋常なものではありません。「自己批判すれば現役復帰を許す」という密書をトウ小平から3回送られながら、「私は過ちを犯していない」と、その3回とも自己批判を断固拒否したとされる趙紫陽は、硬骨・節義の人でもあります。

 ●失脚時まで趙紫陽のブレーンを務め、天安門事件では刑事判決を受けて党高官として唯一服役した元秘書である鮑トウ、また毛沢東の元秘書で開明的改革派として知られる李鋭が序文を寄せているところからも、「趙紫陽本」の正統と位置づけられていることがうかがえます。

 ●全399ページ。史料価値も非常に高く、何はともあれ手元に置いておくべき一冊です。香港の出版社はよほどのベストセラーでない限り増刷することが少ないので、「出たときに買う」が鉄則。とりあえず4冊確保しました。早い者勝ちです。

 ――――

 モノがモノだけに何だか興奮した筆致になってしまい申し訳ありません。もちろん私も自分の分を確保しました。『争鳴』『開放』といった香港の中国情報月刊誌に比べれば値が張るものの、この本だけは原書をキープしておくべき一冊です。

※手持ちがなくなってしまいましたので、現地でまだ手に入るかどうか確認してみます。

※追記(2007/02/26/00:45):とりあえず何とか2冊だけ入手しました。心当たりをもう1カ所当たっていますが、そちらで手に入るかどうかまだわかりません。入手分は下記リンクの出品一覧の最後の方(たぶん2頁目)にあるかと思います。

★★★泉河壬之助書館★★★




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 いま『産經新聞』にて「トウ小平秘録」という大型連載が掲載されています。私はその熱心な読者です(ただしネットでの立ち読みですけど)。

 現在紙面を飾っているのは「第一部 天安門事件」。言わずと知れた1989年の民主化運動に対する流血の武力弾圧です。トウ小平を語るにあたって、その最初に天安門事件を据えたのはさすがという他ありません。

 素人が云々することを許してもらうとすれば、天安門事件はトウ小平が「バランサー」から「カリスマ」へと昇格する契機でもあり、トウ小平が推進してきた中国の改革・開放政策から政治制度改革が欠落する転換点でもありました。ですからこの事件を頭に持ってくることは構成上素晴らしい着眼だと思いますし、いわゆる「つかみ」としてもインパクトがあって最適です。

 ただ実際の第一部は天安門事件からいきなり入らず、その前段である1980年代の「改革派vs保守派」から説き起こしています。新聞という大衆媒体であることからいえば、第一部の冒頭には香港紙のいう「血肉横飛」「眞人肉餅」のようなある種の毒々しさがない分、読み物としての「つかみ」はやや弱いきらいがあります。

 とはいえ社告という形でわざわざ予告してスタートした真面目な大型連載ですし、恐らく完結後は書籍として出版されるのでしょうから、天安門事件を1980年代の権力闘争から語り始めるのは正統的でいいと私は思います。

 残念ながら私はいわゆる「六四世代」で民主化運動や天安門事件の主役を担った大学生たちと同世代ですし、学生時代は香港の政論誌を読みふけっていました。

 要するに「1980年代の権力闘争」をリアルタイムで眺めていたのと、「トウ小平秘録」が引用している香港や台湾で出された書籍類はほぼ読破しているので、目下のところ、特に目新しく感じる部分はほとんどありません。ですから個人的には私がチナヲチ(素人の中国観察)から離れていた江沢民時代中期から後期におけるトウ小平の最晩年に関する内容に期待しています。

 ――――

 「トウ小平秘録」によって現在語られている1980年代後半の権力闘争について、私にとっては「懐かしい」の一言ですけど、若い世代の方には是非精読してほしいと思います。前にも書いたように、

「中共人がその私兵(人民解放軍)を以て中国人を弾圧した事件」

 と私は天安門事件を捉えています。……などといっても、あの衝撃的な事件から20年近く経過した現在、30歳以下の人にとっては「体感」していない出来事でしょう(私の世代でいえば日本赤軍が引き起こした数々の事件、てなところでしょうか)。

 歪んだ形ながらも経済成長を実現し始めたあたりから中国を認識している世代にとって、天安門事件やその前段ともいえる1980年代後半の権力闘争をおさらいすることは、中共政権の本質を知る上で非常に有意義だと思うのです。

 連載の冒頭には
「四個堅持」(四つの基本原則=社会主義の道、プロレタリア階級独裁、共産党の指導、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想)が登場しました。新聞などでは久しく目にすることのなかった単語ですが、私などはこれが身に染みていて、中共政権の背骨のように思えますし、トウ小平の愛弟子ともいうべき、やはり徹頭徹尾「中共人」である胡錦涛を考える上でも重要なキーワードだとみています。

 いうなれば、トウ小平を通じて中共政権なるものを再認識する絶好の機会、といったところです。

 ――――

 個人的には、「トウ小平秘録」を読んでいて文中に登場する保守派バリバリの暴れん坊将軍・王震の名前が懐かしかったです。20年ちょっと前、来日した王震の耳に私が連呼するシュプレヒコールが届いたのかどうか。……尋ねてみたくてもすでに物故者ですから聞く術がありません。

 という訳で標題の件ですが……と思ったら前に書いたことがあるような気もして調べてみたらやはり既出でした。orz

 ●中国語発音矯正ギプス?(2006/06/24)

 私が大学2年のときのことです。違う学部ながら親しい先輩がいて、その人やその仲間が中国の民主化運動を支援していて、保守派の王震が来日すると聞いて中国大使館前に街宣車を並べてエンドレステープに録音されたシュプレヒコールを延々と流し続けることになりました。ところが民主化運動の活動家自身の声だと大使館筋にバレてしまう恐れがあるため、たまたま私に白羽の矢が立ってしまった。……というものです。

 天安門事件以前のことですから反体制組織も少なかった時代です。録音作業で顔を合わせたのが最初で最後でしたが、あの活動家はたぶん『中国之春』系統(中国民聯)のメンバーだったのだろうと思います。その後のことを知りたくても、中国、香港、台湾と流転するうちに先輩との連絡も途絶えてしまいました。

 当ブログにしばしば登場する大学時代の恩師には当時すでに目をかけてもらっていたのですが、さすがにシュプレヒコールのことは内緒にしておきました。ただ、

「先生、王震が来日していますね」

 と話題を振ってみたら、

「ああ王震。きのう彼と一緒に食事してきましたよ」

 とサラリと言ってのけたので私はぶったまげました。恩師は血筋ゆえに文化大革命などでは相当いじめられたそうですが、その半面、血筋ゆえに中共の要路にも顔が利いたりするようです。

 ――――

 ところが。確かそれから半年近く後のことだったかと思います。大学2年だった私の学年末テストも近い1987年1月に胡燿邦・総書記(当時)が保守派の猛反撃を受けて失脚したときは、恩師は平穏ではありませんでした。

 放課後に中国語だったか中国問題だったか、とにかくそういうイベントに連れていってもらい、その帰りに駅までの夜道で恩師が胡燿邦失脚を話題にしました。

「御家人君、どう思います?中国はどうなるんでしょうか?また文革みたいな政治運動が始まるんでしょうか?」

 と尋ねられたので面食らいました。そんなこと私にわかる訳ありません。……いや、たぶん恩師も私の回答に期待するというより、私に尋ねることで不安を紛らわせたかったのだと思います。

 あのときの恩師の名状し難い表情、真剣で心配げで不安そうで何かを恐れているかのような……あの表情だけは、いまでもはっきりと覚えています。私は恩師のその表情に接して、中国の政治運動が容易ならぬものであることを悟ったような気持ちになりました。

 この胡燿邦失脚の後始末は「トウ小平秘録」がふれているように国民を巻き込んだ政治運動にはなりませんでした。ただその2年半後、私が上海に留学していたときに大学生・知識人による民主化運動が起こり、天安門事件という形で終息しました。

 ――――

 その直後のことです。上海の大手紙『解放日報』(上海市党委員会機関紙)の1面トップに「反革命暴乱」(天安門事件)で鎮圧された「反革命分子」を批判し、その同類を根絶やしにすべしという論評記事が掲載され、その大見出しの中に「階級闘争」という言葉が躍っているのをみて私は戦慄しました。

「御家人さん、ほら見てよ。階級闘争だよ。懐かしいなあ」

 と、横から顔をのぞかせた同じ日本人留学生で50年配のオジサンが、そのタイトルにホクホクしていました。若かりし頃に共産主義者だったとのことで、言葉通り単純に懐かしがっているようでしたけど、私がとっさに思い出したのは恩師のあの表情です。

 それから、留学直前に観た『芙蓉鎮』という文革を描いた名作映画のラストシーン。政治運動に身を入れすぎてその後の政策の大転換についていけず狂ってしまった文革時代の村の党幹部が、

「運動了!運動了!」
(さあ政治運動だ、政治運動だぞ)

 とドラのようなものを叩きながら叫んで回るシーン。その声に主人公たちが不安げな暗い表情をチラリとみせるのですが、それが現実のものになったような気がしました。

 以前は階級闘争のやり玉に上げられた私営企業主でも中国共産党員になれる現在からは、想像できないかも知れません。

 でも、天安門事件に立ち会ったり、「階級闘争」を見出しに掲げた文革調のトーンの高い論評記事を目にしたり、民主化運動で連日デモをかけていた際に先頭に立って積極的に活動していた先生(私たち留学生を担当)が、天安門事件後は人変わりしたかのような真っ青な顔をして、心をどこかに置き忘れたかのようなうつろな表情で授業を進めているのを私は実見してしまいました。

 うっかり実見してしまうと、中共政権というものについて、こちらも深刻に考え込んでしまわざるを得ないのです。少なくとも私はそういう性分のようです。

 ――――

 何だか標題とも関係がなく、とりとめのない昔話に終始してしまい申し訳ありません。当時の私の経験を追体験することはできないでしょうけど、「トウ小平秘録」を読むことで、中共政権の何事かを感じることができるのではないかと思います。

 中国は上海の摩天楼に代表されるような表面上の繁栄を実現したとはいえ、その土台にある中国共産党は当時の本質そのままに一党独裁制度を揺るがせにせず、批判勢力の存在を許さず、対話を認めず、いざとなれば万難を排してでも自らの価値観を押し通す。……その行動原理だけは覚えておいて損はないかと思います。隣国のことでもありますし。

 ※今回は別に「トウ小平秘録」の広告記事ではありません。念のため。でももし『産經新聞』さんがお小遣いをくれるというのなら、私は拒みません。香港上海銀行の口座にチェックで振り込んでおいて下さい(笑)。




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 いま中国・香港・台湾は旧正月の真っ最中。「大年初一」すなわち旧暦の1月1日である2月18日は、例によって時計の針が午前零時を指した瞬間から爆竹や花火で豪快に新年の到来を祝ったようです。実に華やかですね。

 香港紙『明報』(2007/02/19)の報道によると、北京ではこの年明け瞬間の爆竹や花火絡みの事故で1死124傷。死んだのは25歳の男性で、花火に点火する際に暴発したのかどうか、ともあれ頭部爆裂右眼破裂で病院に運ばれたものの死亡。「鮮血直流」という表現も祝祭ムードに彩りを添えている感じでナイスな表現です。実に華やかですね。

 ちなみに北京市当局によると、この元日の朝6時半時点で爆竹や花火の残骸、要するにゴミが900トン余りに達したそうです。

 ●『明報』(2007/02/19)
 http://hk.news.yahoo.com/070218/12/220q8.html

 ●『明報』(2007/02/19)
 http://hk.news.yahoo.com/070218/12/220pj.html

 ――――

 「大年初一」は私も「拜年」(年始回り)で忙しかったです。午前1時(現地時間午前零時)になった途端、配偶者は実家や友人知人に電話をかけまくりました。香港には帰らなかったので電話で「拜年」という訳です。私は私で自分の電話の応対に忙しかったです。私の場合は仕事柄、目下の連中ばかりなので香港・台湾から電話してきます。

 上海留学時代の友人(中国)にはこちらから電話しました。それから私の目上になる恩師や留学時代にお世話になった先生、それに香港の知人などはいずれも70歳前後なので夜中は避け、午前のまだ朝の気配が残っている時間帯に電話しました。

 やっぱり大陸の北京語はメリハリがあっていいです。私は何事につけても台湾贔屓ではあるものの、あの抑揚に乏しく語尾が甘ったるい台湾の国語(=北京語)だけは勘弁。もちろん香港人の北京語は論外です。話せる奴も少ないのですが、話せても広東語を引きずっているので聞いていて胸が悪くなります。……ああそうでした。胸が悪くなるといえば鮮人です。

 旧暦の「除夕」(晦日)にあたる土曜日、配偶者と「墨攻」という映画を観てきました。さすがに中国は人が有り余っているというべきなのか、大会戦のシーンなどは以前から人民解放軍を動員して撮影することが多く、たぶんコストも安いでしょうからCGで細工する必要がありません。戎装して見事な方陣をつくってみせるあたりは軍人だけにサマになっています。私は原作を知らないので単純に娯楽大作として楽しんできました。全編北京語というのもよかったです。癒されました。

 そうそう鮮人の話。この映画は原作者が日本人で監督が香港人、使った役者は香港、中国、韓国です。主演の劉徳華(アンディ・ラウ)は香港人ながら一応胸の悪くならない北京語を話せるのですが、この映画では声優が吹き替えていました。ところがその敵役である将軍を演じた鮮人俳優は何と吹き替えなしの北京語。

 声優いらずならよほど達者なのかといえば、これが劉徳華の200倍は下手で外国人発音丸出しで耳障りの悪いこと悪いこと。外国人というよりヒトモドキですねあれは。他の鮮人俳優は吹き替えられていたのに、一体どうしたことでしょう。あの発音に私は胸が悪くなり腹も立った次第です。北京語も楽しんでいた私には大きな汚点という印象が残りました。

 ――――

 さて、旧正月前の年末進行を終えて気抜けしているのと、たっぷり寝たのと、「拜年」で忙しかったせいで私はまだ頭の中が半分寝ている状態です。それでも一応チナヲチのネタをひとつふたつ。

 ●江沢民に「老同志」の肩書き(星島日報 2007/02/16)
 http://www.singtao.com/yesterday/chi/0216eo03.html

 香港紙の報道なのですが、中共政権では旧正月直前の歳末恒例行事として現役指導部がすでに第一線から退いている「老同志」をご機嫌伺いに訪ねる、といった活動が行われます。早めの「拜年」といったところですが、『星島日報』はその「早めの拜年」を報じた新華社電で、「老同志」の筆頭に江沢民の名前があったことに注目。

「『老同志』は中共が党内のすでに引退した元老に対して用いる尊称だ。これによって江沢民が完全引退していることがみてとれる」

 と鋭く解説しているのです。新華社電はこちら。

 ●「新華網」(2007/02/15/17:22)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/15/content_5744217.htm

 なるほど、そこに目をつけたか!……と言いたいところですが、『星島日報』によるこの観察は誤りです。だって去年のこの活動を伝えた新華社の記事においても、江沢民は現役指導部に見舞われる「老同志」の筆頭に名前があるのですから。調べごとの不徹底ぶりや詰めの甘さは香港の新聞記者の通弊。やっぱ民度なのかなー?

 ●「新華網」(2006/01/27/18:45)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/27/content_4108567.htm

 ……て素人に指摘されてどうするんだ星島さんよ。

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 もうひとつ。台湾の次期総統有力候補とされていた馬英九・国民党主席(当時)が汚職嫌疑で起訴されたのを御存知の方も多いでしょう。これに慌てたのが中共政権。対台湾政策の練り直しを視野に入れつつ、とりあえず香港や台湾では馬英九起訴は不当だとする声が強い、という報道を新華社が行いました。

 ●香港・台湾の世論紛糾、馬英九起訴に不満続出(新華網 2007/02/14/20:46)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2007-02/14/content_5740284.htm

 この記事は台湾の『中国時報』『聯合報』、香港の『明報』『東方日報』『信報』が報じたとされる内容で構成されているのですが、『明報』の報道とされている部分に注目。

「馬英九はこれまで台湾政治の清流を代表する存在だった。台湾の『高検署』が発表した起訴理由をみるに、馬英九は道義的な意味においては依然として良心に恥じることも民衆に恥じることもない。ただ法律の面で制度のワナにはまっただけだ」

 おいおいおい。違法行為の嫌疑があるから起訴されたんだよ。何だよその
「ただ法律の面で制度のワナにはまっただけだ」ってのは?……とツッコミを入れましょう。『明報』が実際にそういう記事を書いたのかどうかはともかく、新華社は堂々と記事にして報じています。そして、それを素直に読んで不足を感じないのが中共政権下の民度というものなのでしょう。

 なるほど胡錦涛が「依法治国」(法治の実現)を21世紀の現在に至っても未だに呼号してやまない訳です。




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 中共政権が先月(2007年1月)、弾道ミサイルによる衛星破壊実験を行ったことに対し国際社会でブーイングを浴びたことは記憶に新しいところです。この実験に対し最近になって「あれはもうやらない」という正式な意思表示が行われました。曹剛川・国防相が訪中した額賀福志郎・前防衛庁長官ら自民党の衆議院議員団に対し語ったものです。

 以下は日本の関連報道。


 ●「デブリは実験前からある」中国国防相 条約にも違反せずと(Sankeiweb 2007/02/12/23:34)
 http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070212/chn070212000.htm

 中国の曹剛川国防相は12日、国際的に批判を浴びた衛星破壊実験について「国際条約違反とは思っていない」としながらも「今後、実施する考えはない」と述べた。訪中した額賀福志郎前防衛庁長官に語った。中国軍幹部が、同実験に関しコメントするのは初めて。額賀氏が「日本も含め国際的懸念が高まっている」とただしたのに対し、国防相は「科学技術の実験を行った。いかなる国も対象とせず、いかなる国の脅威にもなっていない」と強調した。額賀氏はさらに「宇宙ごみ(スペースデブリ)が懸念される」と抗議したが、国防相は「宇宙には10センチ以上のものが(実験前から)1万個以上あると聞いている」と答えた。
(後略)


 ●衛星攻撃実験「行わない」 中国国防相が初めて言明(asahi.com 2007/02/13/00:09)
 http://www.asahi.com/international/update/0213/001.html

 中国の曹剛川国防相は12日、中国が1月に実施した衛星攻撃兵器(ASAT)実験に関して「今後行わない」と明らかにした。
(中略)中央軍事委員会副主席の地位にある軍首脳が同実験を行わないと言明したのは初めて。


 ●「今後、実施する考えはない」 衛星破壊実験で中国国防相(Sankeiweb 2007/02/13/09:28)
 http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070213/chn070213001.htm

 (前略)
曹国防相は実験理由について、「科学技術上の実験」とし、「いかなる国も対象とせず、いかなる国の脅威にならない」と強調、「国際条約に反するとは思っていない」との認識も示したという。衛星破壊実験で、米国の専門家は、破壊された衛星の破片は、他の衛星に当たれば損傷を与える1ミリ以上の大きさで200万個を超えるとの試算を公表しているが、曹国防相はこの点には言及しなかったという。


 ●衛星破壊実験、「今後は考えぬ」 中国国防相(asahi.com 2007/02/13/10:31)
 http://www.asahi.com/international/update/0213/006.html

 中国の曹剛川国防相は12日、訪中している額賀福志郎・前防衛庁長官に対し、衛星破壊実験について「今後は実験をする考えはない」と述べた。額賀氏が記者会見で明らかにした。実験は宇宙での軍備競争を拡大させる恐れがあると国際的な批判を浴びたが、額賀氏によると「科学技術上の実験であり、いかなる国も対象にしておらず、脅威になっていない。国際条約にも反していない」との説明があったという。
(後略)


 ●中国・対衛星兵器実験:衛星破壊「今後しない」(毎日新聞東京朝刊 2007/02/14)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/china/news/20070214ddm002030068000c.html

 【北京・大塚卓也】中国の曹剛川国防相は12日、訪中している自民党の額賀福志郎前防衛庁長官と会談し、1月に実施した衛星破壊実験について「今後は行わない」と述べた。宇宙での新たな軍拡競争につながりかねないという国際的懸念に配慮したと見られる。
 曹国防相は同実験について「科学技術上の実験で、いかなる国も対象とせず他国の脅威にはならない」と強調。実験で宇宙空間に破片ごみが飛散したとの批判に対しては、「(中国の実験とは関係なく)10センチ以上のごみがすでに1万個はあると聞いている」とかわした。
(後略)



「もうやらない」

 と言いつつも、先の実験については悪いことだとは思っていないようですし、悪かったとも言っていません。

 自分の主張をあくまでも正当だとしてゴリ押しし、批判勢力の存在を認めず、自らに非があることを認めず、謝罪することもない。……といった態度は国際社会でも中国国民に対しても全く同じで、この点見事に一貫しています。「中共節炸裂」といったところでしょうか。

 ところで、中共政権の国営通信社・新華社電によると、額賀前防衛庁長官の一行は曹剛川国防部長以外に、盛華仁・全国人民代表大会常務委員会副委員長、王家瑞・党中央対外連絡部長、唐家セン・国務委員らとそれぞれ会見しています。それぞれとの逢瀬に関する原文はこちら。

 ●曹剛川(新華網 2007/02/12/13:25)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/12/content_5730155.htm

 ●盛華仁(新華網 2007/02/12/13:25)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/12/content_5730156.htm

 ●王家瑞(新華網 2007/02/12/16:36)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/12/content_5731107.htm

 ●唐家セン(新華網 2007/02/12/20:51)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/12/content_5731938.htm

 いずれも短信ですから軽く読み流せるのですが、「おや?」と気になる部分があって引っかかりました。

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 気になったのは曹剛川との会見及び唐家センとの会見です。いずれも文末の方にさりげなく、

「中国国際戦略学会の熊光楷・会長が会見に同席していた」

 と書いてあります。曹剛川の方の記事によると、そもそも日本側はこの中国国際戦略学会の招きで来日したとのことです。後日シンポジウムでも開かれるのでしょうか。ともあれ招待主である熊光楷会長が同席していても不思議でないようではありますが、出過ぎているような気がしないでもありません。

 曹剛川は国防部長という肩書きで会見に臨んでおり、日本側は宮本雄二大使も同席しています。唐家センは国務委員としての会見です。いかに招待主とはいえ、国防部長、国務委員が出て外国からの訪問客と会見するオフィシャルな場所に「中国国際戦略学会会長」とはやや不釣り合いな肩書きのように思えなくもありません。

 ……が、いまの中国の政情に照らせば、これが不釣り合いにはならない、といった感覚なのかも知れません。あるいは一種の「お目付役」だったりして。

 私がやや過敏になっているのは、もちろん故なきことではありません。この熊光楷という人物は規定を破って人民解放軍総参謀部のナンバー2である「副総参謀長」職に居座り続けていたのを、2005年末に胡錦涛政権が何とか退役させ、引きずり下ろしたのです。

 ――――

 ところがこの熊光楷、それで政治的に終わったのかといえばそうではなく、兼任していた中国国際戦略学会の会長という肩書きで活発に活動しており、今回のように国防部長や国務委員の会見にも出しゃばってくるほどです。

 その熊光楷、江沢民に近い人物ともされていますが、それよりも電波系対外強硬派の親玉的な存在であることに注目する必要があります。電波系といえば2005年、

「台湾有事で米国が中国を攻撃すれば、中国は核兵器で反撃することになる」

 との発言を公に行って昇進停止1年の処分を食らった朱成虎少将が有名ですが、熊光楷はそれに先立つこと10年前(1995年)に米国高官に対し、

「中国は台湾海峡での衝突において核兵器を用いる用意がある。米国は台北よりもロサンゼルスの心配をした方がいい」

 という、よりドスの利いた発言をかましている「核戦争の熊さん」なのです。

 ●握ったか・握られたのか・胡錦涛。(2006/01/05)

 ――――

 この電波系対外強硬派の親玉ともいえる熊光楷が軍から退役させられても政治的になお健在で、今回のような会見にも顔を出す、つまり存在感をアピールするというのは、現在の政情を象徴しているようでもあり、軍部の相次ぐ「独断専行」めいた行動を裏打ちしているようでもあります。

 ……いや、以上は私の邪推に過ぎませんけど、退役させた熊光楷を胡錦涛が完全に潰せなかった、つまり政治的に終わらせることが出来なかったのは事実でしょう。

 熊光楷は昨年末には、

「『台独』という最大にして最も現実的な脅威に積極的に対応しよう」

 などと発言しています。それ自体は中共政権の基本方針に合致したものといえるでしょうが、そこは電波系対外強硬派の親玉ですから、「積極的に対応」の程度が胡錦涛政権と一致しない可能性はあります。

 ●「新浪網」(2006/12/29/14:54)
 http://news.sina.com.cn/o/2006-12-29/145410892324s.shtml

 他にも尖閣問題について日中間の衝突事件が「発生する可能性はある」として、それを防ぐためのメカニズムを両国政府間で構築しよう、ただ個人的にはそれと同時に政治家レベルでの危機管理体制を整えて、政治家による問題解決を図らなければならないと考えている。……とも語っています。

 ●「新浪網」(2006/05/09/08:43)
 http://jczs.news.sina.com.cn/2006-05-09/0843368961.html

 いずれにしても
「こいつが言うから危ない」のです。退役したとはいえ、この熊光楷が人民解放軍にどれだけの影響力をなお残しているかには興味があります。今回はからずも表舞台に登場した「核戦争の熊さん」ですが、今後もその動向に注意を払う必要があるのではないかと愚考する次第です。




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 前にちょっと書いたことがあるかも知れませんが、私は身体のあちこちに疾患を抱えていまして、そういう歳でもないのですが残り時間を意識せざるを得ないという星を背負ってしまいました。

 真面目な話、10年後もこのブログを続けていることができたら冥利に尽きます。そのときは「よくぞ保ったなこの命」という意味も込めて有志でオフ会でも開きましょう。

 場所はやはり遊就館の喫茶室でしょう。零戦を間近に眺めつつ海軍コーヒーに海軍カレー。できれば恩師の口利きでゲストも準備します。恩師にとっては唐家センあたりは教え子で、武大偉や王毅は子供扱いですから、仮にもしいま開くのであれば王毅を来賓にすることができるでしょう。

 そのときはむろん座興もやります。私と王毅の二人羽織、てのはどうでしょう(笑)。もちろん私が羽織に隠れる役で、海軍カレーや海軍コーヒーを王毅に食べさせてあげようという趣向です。

 ……それはともかく、年甲斐もなく香港人観光客をついイジメてしまったことに反省、というのが今回の主題です。

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 つい先週のことですが、病院で定期検診のようなものを受けてから神楽坂で仕事の打ち合わせをしました。例によって香港サイドの制作水準の低さが話題になって、毎度のことながら畜生やってらんねーなーとムカつきつつも、隠忍自重。

 私は日本人で打ち合わせ相手と同レベルの仕事くらい楽にこなせますし、私が身を置く業界における香港の制作水準の低さは10年来身に染みています。でも、あいにく香港側代表という立場なので日本人ながら日本側の苦情を受け付けるのも仕事のひとつなのです。というより本業の半分くらいはそれです。ストレスがたまりますよ。

 打ち合わせが終わってもイライラした気持ちが続いていたので、天気も良かったし靖国神社に行って気分転換しようと思い立ちました。神楽坂から東西線に乗ればすぐ九段下ですから。

 九段下から靖国神社の最寄りである1番出口で地上に出ました。ここでちょっとした「事件」が起きてしまったのです。いや、私が引き起こしたのですけれど。

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 地上に出たらいきなり広東語が耳に飛び込んできました。見るとすぐ前に香港人の家族連れがいました。両親に息子ひとりの3名。父親は私と同じくらいの年格好でした。

 父親がガイド役らしく、靖国神社の大鳥居の方を指差して何やら子供に説明しているのです。私が耳をそばだてていると、聞こえてきたのは
「軍国主義」「甲級戦犯」「小泉」「右翼」といった実に香港人らしい単語です。仕事仲間の中にも、来日して一緒に酒を飲んだりすると、

「御家人さん、言いにくいですけど日本は歴史問題を……」

 などと切り出す奴がいます。そういうときは、

「お前、日中関係の話をするなら、日中両国が取り交わした3つの政治文書ぐらいは読んでいるよな?名前を挙げてみな」

 という一言で沈黙させます。馬鹿は馬鹿なりに、一心不乱に仕事に打ち込めばそれでいいのです。

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 香港人というのは老世代は往々にして中共政権の政治運動や、そのしっぺ返しで発生した飢饉から逃れるため広東省から香港に逃げてきた連中が多いです。

 香港で生まれ育った30~40代の世代も1989年の天安門事件(六四事件)や中国返還後に受けた無理無体を通じて中共への抜き難い不信感があります。ガキの世代だと香港向け愛国主義教育である「国情教育」なるものに染め上げられているのでどう育つかは未知数ですけど。

 ただ興味深いのは中共不信ではあるくせに、こと日本に関する歴史認識では大半の香港人が疑うこともなく中共史観を素直に受け入れていることです。

 第二次大戦で日本軍に占領されたことも関係しているでしょうし、戦後陸続と香港に流入した広東人には日本軍との接触経験があるというのも理由のひとつでしょう。毒々しい虚構で塗り固められた南京虫事件や香港占領の映画を、そのまま史実と受け止めている馬鹿が多いです。

 まあ民度ですね。もともと広東省から流入した無教養な農民が多数派を形成している訳ですし、馬鹿であっても不思議ではありません。私のストレスもたまる訳です。

 ――――

 ともあれ、地下鉄を下りて地上に出たら上述したような刺激的な広東語を私は耳にしてしまいました。もちろん香港人は私を釣り上げるためにそういう話をしていたのでありませんけど、折悪くムカついていた私はねこまっしぐら。

 平素なら香港に対しては「民主化の孤塁」とか「中共の植民地という終わりを約束された土地」といった多少の同情心を持ち合わせているんですけどねえ(もちろん「いい気味だお前らにお似合いじゃねーか」と思いつつ)。それにしてもこの日の私は機嫌が悪かったですから。

「 o畏 o畏 o畏 香 港 人」
(おいおいおい香港人)

 とまず言って振り向かせておいて、

「 我 話 俾 イ尓 o地 知 , o尼 o個 地 方 係 唔 o岩 イ尓 o地 香 港 人 o架 !」
(教えてやる。ここはお前ら香港人の来る場所ではない)

 と一方的に喧嘩を吹っかけてしまいました。私は以前、靖国神社で香港のテレビクルーに説教して大感謝されたことがあります。

 ●意地悪?でも結果的には親切だしここホームだしぃ。(2005/08/20)

 が、この日は裏も表もなく罵倒一本槍。

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「大 家 都 知 イ尓 o地 香 港 人 無 セ 文 化 水 平 ,又 唔 識 歴 史 ,邊 有 資 格 講 靖 国 神 社 o架 ? 才高 × 錯 」
(お前ら香港人の民度の低さは誰もが知っている。しかも歴史も知らないくせに靖国神社を云々する資格がどこにある?【ピー】)

「 セ o野 話 甲 級 戦 犯 ? 甲 イ尓 個 死 人 頭 呀 ,收 皮 喇 仆 街 ! 快 D 返 香 港 拜 車 公 廟 睇 左 報 喇 !」
(A級戦犯だと?この糞ったれが、黙りやがれ畜類。とっとと香港に帰って寺参りでもして親中紙でも読んでいやがれ)

 相手は呆然としています。そりゃそうでしょうね(笑)。

「 行 開 喇 ! 想 教 仔 就 教 o的 六 四 o既 o野 先 喇 ! 問 イ尓 イ尓 o地 香 港 人 o既 歴 史 教 科 書 有 無 講 六 四 ? 」
(こっから消えろ。ガキに物を教えるならまず六四のことを教えてやれ。お前ら香港人の歴史教科書に六四は出ているか?)

 と言ってもまだ立ち尽くしているので、今度は大声で、

「 行 開 喇 含 家 � ! 」
(消えろこの【ピー】)

 と言ったら付近を歩いていた日本人が一斉にブンッ!とばかりに振り向いて私に視線が集中したので恥ずかしかったです。香港人家族は神保町の方へとコソコソといった足取りで坂を下っていってしまいました。とんでもない基地外に遭遇したとでも思ったことでしょう。

 ――――

 いやー反省しています。日本は個人がいかなる信条を持とうと法に反しない限り自由な社会ですから(香港はちょっと違います。)。

 それに悪い先入観を持ったまま靖国神社の境内に入ってもそれはそれで「ともあれ自分の眼で確かめる」という立派な精神です。

 連中が靖国神社に入ろうとしていたかどうかは知りませんけど、狛犬にペンキを浴びせるような基地外支那畜という雰囲気ではありませんから、もし境内をのぞくつもりがあったのなら申し訳ないことをしたと思っています。零戦も見てほしかったですし(笑)。

 年甲斐もなく馬鹿なことをしたものだと反省しています。でも香港には長く住んでいたものの嫌な思い出ばかりで、香港人らしくない配偶者や苦楽を共にしている仕事仲間は別ですけど、一般論としていえば私は、実は私にとって最も縁の深い香港と香港人が大嫌い。それでムカついていたこともあり聞きたくもない広東語とその内容についキレてしまったという訳です。

 悪かったなー>>糞香港人ども。一党独裁国家の植民地で呼吸する気分はどうだい?

 いやいや本当に反省していますよ。スッキリしなかったといえば嘘になりますけど(笑)。まあ御家人乱心の巻ということで。




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 せっかくの連休なのに楊枝削りはもちろん、雑談や昔話もできなくてすみません。いまは旧正月直前の追い込みで忙しく、ただ寝たいと思うのみです。ああ布団にくるまってたっぷり眠りたい。

 ……そういう状況なので更新が滞るのを諒として頂ければ幸いです。現時点の見込みでは本業が14日の夜で仕上がりそうです。そのあと2時間くらい仮眠してから15日夜がデッドラインの副業のコラムを書き上げてエンディング&スタッフロール。仮眠後の20時間が最後の勝負、てなところです。

 毎年のことですから忙しいのはまだいいのですけど、いつまでこういうことが続くのか茫漠たる気分にとらわれることがあります。年々体力が落ちていくのを実感させられまし、それから私は東京駐在員なので独りぼっちで忙しい。これがいちばん辛いです。

 制作部隊とか編集部とかグループでまとまってやっているなら愚痴も言い合えるし息抜きの乱痴気騒ぎもできます。食事も一緒ですし仮眠もみんなで椅子寝りか寝袋。独りだと士気を維持するのが甚だ難しいです。……以上、言い訳と愚痴でした。

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 さて、前回は曽慶紅の話を書きました。

「曽慶紅が国家主席のポストを胡錦涛に求めている」(『争鳴』2006年1月号)
「曽慶紅は賈慶林の後任で全国政協主席になりそうだ」(『亜洲週刊』とロイター電)

 という消息筋情報が出てきている中で、その精度を確認する手段として最良の方法は「当局発表」、つまり中国国内メディアの報道で裏付けをとるというものです。

 で、曽慶紅に関する消息筋情報が流れてほどなく、「当局発表」である中共系メディアがみるからに怪しげな曽慶紅主導による指導部の動静を伝えたというのは価値あることなので無視することはできず、前回拾い上げた次第です。

 個人的印象でいえば、消息筋情報という色眼鏡でこの「当局発表」を読み込んでみると、曽慶紅は国家主席のポストを狙って画策しているというより、全国政協主席という事実上の閑職に回されるのだけは何とか回避したい、という「必死だなw」的動きのようにみえます。もちろん、新たな消息筋情報や「当局発表」が出てくれば、その内容に応じて見方を修正していく必要がありますけど。

 まあ党大会を秋に控えているのですから、少なくとも消息筋情報は曽慶紅に限らず今後もどんどん出てくることでしょう。たぶんピークは夏の終わりか初秋。8月くらいに内々に非公式な準備会議が開かれれば、そこから漏れてくる情報からある程度大筋を予想することができるでしょう。

 もっとも党大会というのは世代交代や大型人事が行われ、翌年で改選となる政府指導部のポスト(国家主席、首相、外相など)にも内定が出る5年に1度の一大イベントです。野次馬をあっと言わせるサプライズ人事が行われても不思議ではありません。

 ただ江沢民や胡錦涛は天安門事件(1989年)後のトウ小平と異なり、カリスマとか独裁者といった力量の持ち主ではないので、思い切った抜擢ができるほどの指導力・政治力があるかどうかは疑問です。

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 ともあれ、任期満了ということで地方レベルでは一足早く人事異動が進められています。直轄市・省・自治区から市、県、そして鎮や郷といった末端レベルに至るまで、各地方当局の党委員会の顔ぶれを改める作業が行われています。

 党が政府の上に立つ一党独裁制ですから、地方当局のトップというのは、たとえば省であれば省長ではなく省党委員会書記です。合計31にのぼる直轄市・省・自治区レベルのトップ人事はそのうち14の地方政府ですでに完了しています。

 残る17については毎年3月に開催される全人代(全国人民代表大会)・全国政協(全国政治協商会議)を終えた4月から本格化し、5月にピークを迎えて6月に完了する見込みだ、と香港の親中紙筆頭格である『香港文匯報』(2007/02/10)は伝えています。

 ちなみにすでにトップ人事が確定した14地区は、
河北、河南、江蘇、福建、山西、遼寧、安徽、湖南、雲南、江西、新疆、西藏、宏西、內蒙古。「これから」なのは北京、上海、天津、重慶、広東、浙江、湖北、山東、吉林、龍江、青海、寧夏、貴州、甘肅、陝西、海南、四川、だそうです。

 ●『香港文匯報』(2007/02/10)
 http://paper.wenweipo.com/2007/02/10/CH0702100001.htm
 http://paper.wenweipo.com/2007/02/10/CH0702100007.htm

 ――――

 そして標題の件ということになります。これも『香港文匯報』の取材と同紙の消息筋情報に拠ったものなのですが、すでに指導部人事を終えた14地区を眺めると、現時点までのトップ人事や若手幹部抜擢の特徴は、

「少女団」

 なのだそうです。うまくまとめたものですが、要するに「少数民族」「女性幹部」そして胡錦涛直系である「団派」(共青団人脈)に光が当てられている傾向が強い、ということです。「美少女」でないことにため息をつく向きがあるかも知れません(笑)。中国語で米国は「美国」ですから、米国通や米国留学経験者も重視されれば「美少女団」だったのに残念ですね。

 「美少女団」だと私は「サクラ大戦」というテレビゲームを想起してしまいます。何とか歌劇団でしたっけ。もう10年以上前の話ですが、私が自暴自棄でヤクザな商売に関わってたのをリセットして転職した先がたまたま任天堂の現地代理店で日本のゲーム雑誌の最大手である『フ×ミ通』の香港版編集部。仕事は翻訳で要するに和文中訳係でした。

 ヤクザな話はこちらで。

 ●頑張れ健治!(2005/12/11)

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 で、私の席の隣がゲーム攻略班で、こちらが翻訳作業をしているそばでゲームを進めているのです。それが「サクラ大戦」でした。仕事ですから当然のことですし当初は問題なかったのですが、エンディング近くまで攻略が進むとグッドエンドやバッドエンドなど幾種類ものエンディングをいちいち確認しなければなりません。

 当時は日本のメーカーとの往来がなくサンプルROMや攻略資料を入手しようのなかった最後の時代でしたから(それがある日本人の東奔西走によって状況が改善されるのですが)、自分で何度も試してフローチャート(各エンディングまでのゲームの進め方)を作成しなければならないのです。

 そのためにエンディングで流れる「サクラ大戦」の主題歌をもう何度も何度も聴かされる破目になりまして、文句は言えないのですがあれは街宣車同様の迷惑。最後には1度も遊んだことがないのに歌詞まで覚えてしまい歌えるようになってしまいました(いまは忘れてしまいましたけど)。

 歌劇団といえばやはり「招き猫歌劇団」でしょう。……て皆さん御存知ないでしょうが、無理を承知で「ほらZELDAのメンバーの2人が出したインディーズ盤で……」と言いかけたら当時の同僚ども(香港人)は「ゼルダ?ああ任天堂のゲームですね」という予定調和的な回答が返ってきましたとさ。orz

 ――――

 本題に話を戻しますと、幹部抜擢においては「少女団」の他にも胡錦涛総書記が重要演説で言及した「幹部はこうあるべきだ」も基準になるそうです。いわく、

「品行方正で質素な生活を旨とし、党幹部たる矜持を持って汚職には断固たる態度で臨める人物」

 とのことですが、これはまあ建前と敵対勢力排除用の錦の御旗ですね。本気でこの基準に照らして幹部を選ぼうとしたら、上から下までポストに空席がどんどんできてしまうでしょう。胡錦涛だって息子を御用出入りの商人にしてオイシイ仕事をやらせているじゃないですか。特権ビジネスでしょうあれは。

 それはともかく、今回の人事では「効率重視」や「汚職撲滅」にうるさい胡錦涛路線らしく、党機構の膨張を防ぐため党委員会は書記の下につく副書記を2人に制限したり、省レベルでは省党委員会書記・副書記の定年は65歳、省紀律委員会書記は63歳、その他は60歳というように年齢制限が導入され、省党委書記・副書記なら63歳、省紀律委書記61歳、その他は58歳に達しているとそのポストには就けないようにしているようです。

 ●『香港文匯報』(2007/02/10)
 http://paper.wenweipo.com/2007/02/10/CH0702100006.htm
 http://paper.wenweipo.com/2007/02/10/CH0702100004.htm

 他にもすでに人事の完了した地区では「省党委員会には50歳以下の者3名、45歳前後の者1名を必ず加えること」という指示が徹底しているようで、若返りに向けた党中央の強い意志をみてとることができます。

 むろん単純な世代交代ではなく、地方当局における党指導部の顔ぶれを極力若返らせることで、利権を握っている現職者をできるだけ排除し、中央の政策に対する既得権益層の面従腹背ひいては表立った抵抗を抑えようという意図もあることでしょう。

 ……こうした前向きな施策が今後の人事でも徹底されるかどうかは胡錦涛の指導力次第。最近はちょっとアフリカに長居しすぎたきらいがないでもありませんから、全人代・全国政協を前にした3月までに存在感や指導力をアピールする何らかのパフォーマンスが行われるかも知れませんね。

 ――――

 もっとも、「前向き」とはいえ所詮この程度なんですよね。

 行政に対する党の干渉を防ぐことで一党独裁制による弊害をなるべく防ごうとした「党政分離」を趙紫陽総書記(当時)が提起したのが20年前の1987年における第13回党大会。その構想は党中央における推進者たちが天安門事件(1989年)で事実上根絶やしにされてしまったため、当時変節漢めいた巧みな政界遊泳を行っていまは首相の座にある温家宝あたりが主唱者にならないと再提起されることはないでしょう。

 もはや「党政分離」を唱えるほどの余裕が中国共産党には残っていない、ともいえます。せめて主として非共産党員や「なんちゃって野党」の集まりである全国政協に党へのチェック権能を制度として持たせればいいのですが、そこまで踏み込む度胸もない。いや、やはりこれは度胸ではなく党の求心力低下や社会の現状や党上層部の主導権争い、そして胡錦涛の指導力に起因するものでしょう。胡錦涛自身が徹頭徹尾「中共人」である、ということも関係しているかも知れません。




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 本業・副業が多忙を極めていますので今回は手短に横着にいきます。

 以前当ブログでも紹介した「『江沢民文選』学習活動」、これは省トップ・閣僚レベルの主要指導幹部を対象とした特別講座なのですが、2月7日に終了したようです。

 ●署名論文に思う:政治改革は20年前よりも退行状態。(2007/02/03)



 で、胡錦涛が留守であることと関係があるのでしょうが、アフリカツアーがスタートするなり、

「『江沢民文選』学習活動」

 なるキャンペーンが開始されました。省レベルの地方政府トップや閣僚(部長)クラスを対象に専門講座のようなものが開かれるようで、そのイベントが2月2日に北京で開催されています。

 ●「新華網」(2007/02/02/19:23)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/02/content_5688623.htm

 そのイベント、仕切り役は曽慶紅で李長春が演説、列席者には呉邦国、温家宝、賈慶林、呉官正、羅幹の名前が並んでおり、政治的に心電図ピー状態の黄菊と北京を留守にしている胡錦涛を除けば、党の最高意思決定機関である党中央政治局常務委員会のメンバーが全員顔を揃えるという格式の高さ。郭伯雄、曹剛川、徐才厚といった中央軍事委員会の主要メンバーも出席しています。

 さらにこれに華を添えるかのように、党中央の機関紙である『人民日報』が社説まで掲げるという怪しさ満点のキャンペーンです。

 ●「新華網」(2007/02/02/)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/02/content_5688641.htm

 ――――

 昨年春に胡錦涛が訪米した際にも上海閥は江沢民自らが母校を訪問して健在ぶりをアピールするなど、胡錦涛サイドに対する巻き返しを行っています。ただ今回の動きはどういう性質のものなのか、その本気度を探りつつ様子をみる必要があるように思います。

 「『江沢民文選』学習活動」自体は昨年夏にも行われ、当初は銅鑼を鳴らすかのような賑やかさでスタートしたものの、結局は尻すぼみ。最初は上海閥を主力とする「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)が一大攻勢に出たものと私はみていたのですが、その先に待っていたのは何とその上海閥の次世代を担う有力者、陳良宇・上海市党委員会書記(当時)の失脚でした。

 この例にならうとすれば、今回は江沢民を改めて持ち上げておいて黄菊あたりを血祭りに上げる、ということになりますが、さてどうなるのでしょう。江沢民を祭り上げるという政治的な取引の見返りに胡錦涛サイドにとって何かオイシイことが行われるのか、あるいは主軸の上海閥を潰されてボロボロ状態の「反胡連合」が江沢民を錦の御旗に何事かをなそうとしているのか。

 今回も銅鑼の鳴らし方が尋常でないため、しばらく注意深く見守る必要がありそうです。



 ……結局、最高指導者である胡錦涛総書記(国家主席)のいないスキを衝いてやっちまったという形になりました。わざとそういうスケジュールを組んだのだとすれば、仕切り役を務めた曽慶紅・党中央政治局常務委員(国家副主席)の意図は奈辺に?ということになります。

「曽慶紅が陳良宇斬り(上海閥のお世継ぎを汚職嫌疑で更迭)で働いた見返りに国家主席のポストを譲るよう胡錦涛に要求した」

 という消息筋情報が香港の中国情報月刊誌『争鳴』(2007年1月号)に掲載されたそうで、その記事が海外で注目を浴び、ひとしきり波紋を呼びました。私はその原文を目にしていませんし編集部とのコンタクトもないので記事の確度についてはコメントできません。

 へーそうなの?でも国家主席って外遊するときの「顔」なのに、中共政権の「最高指導者」ではあっても「最高実力者」の域には達していない胡錦涛がそれを譲るか普通?……と思った程度です。

 ただその消息筋情報の気分でもって前掲の「新華網」の記事(1本目。『人民日報』社説ではない方)を改めて読んでみると、色眼鏡をかけているだけに「何だか不穏」という印象が残りました。

 ――――

 記事に登場する仕切り役・曽慶紅の挨拶はなかなか巧みで、この特別講座の開催は、

「胡錦涛同志を総書記とする党中央が『三つの代表』重要思想を以て全党を理論武装し、また幹部を教育することを高度に重視していることを十二分に表明し、党中央が高級幹部の理論学習をしっかり行うということに対する姿勢を鮮明にしたものだ」

 と胡錦涛の名前を出し、今回の特別講座を通じて参加者が、

「『江沢民文選』の科学的体系とその示唆に富んだ豊富な内容を深く学び取り、それを胡錦涛同志を総書記とする党中央が提起した科学的発展観、社会主義和諧社会の建設といった重大戦略思想につなげ、……」

 ……つなげたりすることは、世代交代や大型人事が行われる来るべき第17回党大会に向けて好ましい環境を創出するものだ、として「江沢民に学べ」特別講座の意義と重要性を強調しています。

 ――――

 さらにこの席上演説を行った宣伝部門の総元締である李長春は昨夏の「『江沢民文選』学習活動」を引き合いに出し、しかもその活動について当時の胡錦涛が行った重要演説にふれることで、曽慶紅同様、実際はどうあれ今回の特別講座が、

「左様、総書記のお墨付きもある」

 という色彩を帯びるように仕向けています。そして『江沢民文選』と江沢民の提唱した「『三つの代表』重要思想」は、

「小康社会の全面的実現と中華民族の復興に向けて科学的な指導理論と思想面における保証を提供するもの」

 とし、それを学ぶことが胡錦涛の「科学的発展観」などへの理解を深めることにもなる、と強調。さらにはこの「江沢民セット」(『江沢民文選』と「『三つの代表』重要思想」)は、

「中国の特色ある社会主義を建設するというテーマをしっかりと把握しているもの」

 であり、「社会主義とは何か」「いかにして社会主義を建設するか」という認識を深めることにも役立つとしています。

 ――――

 いやいや、「江沢民セット」がそんなに重宝するものとは知りませんでした。確かに「江沢民セット」がなければ「七色の河川」とか「骨の湾曲した魚」とか「三つ目の牛」とか「渤海から魚類消滅」とか「重金属野菜」といった仰天ネタが現出することはなかったでしょう。魔法の杖ですね(笑)。

 それにしても、「無駄を気にせず成長率を追求」といった従来型の「GDP信仰」路線に対し、効率重視や環境保護にも目を向ける発展のあり方を、と強調する「科学的発展観」や様々な格差の是正を眼目とする「和諧社会」といった胡錦涛の提起した路線は、本来「江沢民セット」ひいてはトウ小平の「先富論」(条件のある者から豊かになっていけばいい)へのアンチテーゼなのですが。……などといった難しい話は苦手なのでやめておきますけど、ともあれこの特別講座の始業式が、

「『江沢民セット』あってこその『科学的発展観』」

 というノリだったことは伝わるかと思います。「江沢民セット」が「科学的発展観」の上に立つのです。まあ中共の建前に照らせば確かにその通りではあるものの、そういう認識を深めるための特別講座が胡錦涛の留守の間に開かれた。なるほど怪しいではありませんか。

 ――――

 そして胡錦涛がまだアフリカにいる2月7日に行われた終業式は呉官正が進行役で曽慶紅が締めの演説を務めました。ちなみに曽慶紅が常に主役を務めているのは、理論面のメッカである中央党校の校長を兼任しているからです。

 ●「新華網」(2007/02/07/19:40)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/07/content_5710623.htm

 党中央政治局常務委員では外遊中の胡錦涛と死に体の黄菊は別として、李長春と羅幹の2人が出席。温家宝・呉邦国・賈慶林の3名がいないのは地方視察のためで他意はないように思います。あとは始業式同様、政治局委員の面々や郭伯雄、曹剛川、徐才厚といった制服組の筆頭格、つまり中央軍事委員会の主要メンバーが顔を揃えています。

 また色眼鏡つきで曽慶紅の演説を読んでみると、始業式よりも「江沢民セット」の重要性がいよいよ強調されている印象です。

「第16回党大会以来、党中央が提起した一連の重大戦略思想はトウ小平理論と『三つの代表』重要思想を堅持し、またそれらをより豊かにし、発展させたものである」

 というのは、その気になれば「江沢民セット」を掲げて「第16回党大会以来、党中央が提起した一連の重大戦略思想」に枠をはめることができる、と言えなくもありません。

 ――――

 面白いのはこの、

「第16回党大会以来、党中央が提起した一連の重大戦略思想」

 という物言いです。「科学的発展観」とか「和諧社会」などのことなのですが、この終業式における曽慶紅演説には、

「科学的発展を推し進める」
「社会の『和諧』(調和)を促進する」

 という言い回しがそれぞれ一度だけ登場するものの、

「科学的発展観」
「和諧社会」

 という固有名詞は全く出てきません。さらに、始業式では「胡錦涛同志を総書記とする党中央」という表現が使われていましたが、ここでは
「胡錦涛」のコの字も登場しないのです。

 何やら曽慶紅が自分の守備範囲である理論面をよりどころにして、胡錦涛の留守をいいことに党中央を仕切らんとせんばかりの勢いです。ちなみに進行役の呉官正は曽慶紅の演説を「重要講話」と呼び、

「思想的にも理論的にも適切さにおいても指導的な色彩も、その全てがとても強力なものだ」

 とうたい上げています。

 ――――

 ちょっと香ばしくなってきたように思いませんか?いやいや気のせいでしょうか。わざわざ色眼鏡をかけて読んだからそう感じるだけ?……そうかも知れません。

 でも何かちょっと楽しみですねえ。旧正月を控え心浮き立つ年の瀬です。

 ……あれ?多忙ゆえ手短にする筈だったのに(笑)。




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「上」の続き)



「至急、事実関係を確認する」

 という日本側の抗議に対する中国側の初動、これは日本政府が東京の中国大使館を通じて中国外交部に抗議を行ったものへの回答とされていますが、やっぱり「らしくない」としか思えません。抗議された時点で事実確認ができていない……つまり海洋調査船「東方紅2号」が尖閣諸島付近で調査活動めいた動きを示したことを知らなかったことが露わになってしまっているのですから。

 たとえ時間稼ぎのためのその場しのぎの回答としても到底合格点を与えられるものではありません。そもそも時間稼ぎをしなければならないのは状況を把握できていなかったからでしょう。

 恐らく外交部ラインにとっては寝耳に水だったのだと思います。なぜなら今回の類似例といえる2006年7月2日に発生した「前回」の事件では、初動で「らしくない」様子だった中国外交部が、翌々日である7月4日の外交部報道官定例記者会見においては、

「釣魚島とそれに付属する島嶼は古来中国の固有の領土であり、中国側はこれについて争議の出る余地のない主権を有している。釣魚島が日本の領土であることを前提とした日本側からのいかなる交渉も中国側は受け付けない」

 ●外交部報道官定例記者会見・2006年7月4日(新華網 2006/07/04/18:16)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-07/04/content_4793869_2.htm

 と、まことに凛然たる調子で斬って捨てているのです。その本音をむき出しにして言うとすれば、

「尖閣諸島は中国のものじゃないか。そこで海洋調査をやって何が悪い?どうして日本に事前通報しなきゃいけない訳?」

 といったところでしょう。ともあれ今回日本が抗議してきたことに対し、本来ならこの前例たる台詞を持ち出せば済んだ筈です。……ええ、外交部が「東方紅2号」の行動を把握していれば、の話ですけどね。

 ――――

 その「らしくない初動」をみせた中国外交部が、2日後の報道官定例記者会見では一転して断固たる姿勢を示したのも「前回」との相似点です。……いや、今回は定例会見が行われた2月6日午後より早く、同日午前に外交部が声明を出しています。オフィシャルということで「人民日報日本語版」に拠ってみましょう。

 ●日本が釣魚島調査を騒ぎ立てたことに強い不満を表明(人民日報日本語版 2007/02/06/16:10)
 http://j.peopledaily.com.cn/2007/02/06/jp20070206_67613.html

 中国が実施した釣魚島(日本名・尖閣諸島魚釣島)近海での科学調査について日本側が騒ぎ立てた問題で、外交部アジア司の担当者は5日、北京の日本大使館の職員に申し入れを行った。

 外交部ウェブサイトによると、同担当者は「釣魚島およびその付属島嶼は古来より中国の固有領土であり、中国はこれに対し争う余地のない主権を有する。中国側船舶は釣魚島近海で通常の海洋調査を行っていただけで、これは中国の正当な主権の行使である」と指摘。「中国は日本側がこの件を騒ぎ立てたことに対し、強烈な不満を表明する」と述べた。

 ……その原文である6日の朝イチで出た外交部声明はこちら。

 ●「新華網」(2007/02/06/08:53)
 http://news.xinhuanet.com/world/2007-02/06/content_5702010.htm

 そして午後の定例会見でも同じ言葉が繰り返されています。

 ●「新華網」(2007/02/06/20:33)
 http://news.xinhuanet.com/world/2007-02/06/content_5705450.htm

 ともあれ今回の外交部声明、前掲の「前回」での物言いに比べて、より一歩踏み込んでいることがわかります。

「中国側船舶は釣魚島近海で通常の海洋調査を行っていただけで、これは中国の正当な主権の行使である」

 ……がその部分ですね。「前回」は隠していた本音をむき出しにした格好です。この理屈を掲げることによって、中国側は今後いつでも何度でも、大手を振って尖閣諸島近海の海洋調査を行うことができます。いやいや、やることは海洋調査にとどまらないかも知れません。ただ軍事的なアクションを起こすなら台湾侵攻が先でしょう。

 言うまでもないことですが、中国側がこういう態度に出た以上、問われるのは日本政府の本気度です。ついに野心を隠さなくなった中共政権に対し、毅然たる姿勢を言説と行動によって示さなければなりません。示すことができるように必要な準備を速やかに整えるべきでしょう。

 ――――

 それにしても、と考えてしまいます。昨年10月の安倍晋三首相の訪中によって表面的ながら日中関係の雪解けムードが演出され、今度は温家宝首相の訪日を4月に控えている時機です。さらにその露払いとして李肇星外相の来日決定がこの定例会見の冒頭で発表されています。そういうタイミングでこの無用とも思える対日強硬姿勢はどうしたことでしょう。

 胡錦涛国家主席がアフリカツアーで北京を留守にしていること、今回の件を外交部は事前に知らされていなかった気配が濃厚であること、そして中国海軍潜水艦による米空母キティホーク戦闘群追跡事件と先日の衛星破壊ミサイル実験などを並べてみると、やはり不穏なものを感じずにはおれません。

 むろん断定できるほどの根拠を持たない勘繰りに過ぎないのですが、温家宝訪日を邪魔したい、訪日時のムードをできるだけ悪くしておきたい政治勢力があると考えるのが自然かも知れません。逆に温家宝のこれまでの対日姿勢からして、訪日中にあまり笑顔を振りまきたくないから自分で険悪度を高めようとしているのではないか、という見方もできなくもありません。

 ただいずれにせよ、こういう形で日中関係の雲行きが怪しくなることで一番得をするのは安倍首相でしょうね。日本人の反中感情が再び頭をもたげることによって、支持率も回復すると思います。首相による靖国神社参拝には賛否が分かれるものの、「中国などの圧力によって参拝を中止するのはよくない」という選択肢が多数派を形成するのと同じ理屈です。

 あるいは、訪欧時に安倍首相が対中武器禁輸措置の解除に強く反対したこと、防衛庁が省に昇格したこと、台湾の教科書が中国を外国扱いする内容に改まったこと、日本とオーストラリアが軍事的結びつきを強化する傾向にあること、インドとロシアが軍事面で急接近しつつあること、そして日米同盟からのプレッシャー……などで「封じ込められるのではないか」と危機感を強めた向きが、台湾侵攻を視野に入れた予行演習に着手しようとしている可能性も考えられます。

 いや、予行演習自体は中国原潜による日本領海侵犯、あるいはそれ以前から行われているのかも知れませんが、最近はそれが露骨になりつつあるということです。例えば、あまりにミエミエなアフリカ諸国への野心や衛星破壊実験に国際社会からブーイングを浴びせられたことに対する逆ギレのひとつが今回の事件。……とみてもいいのですが、過去半年の一連の独断専行めいた出来事を考えれば、単発的なリアクションにしては材料が揃いすぎているという観があります。むしろ「ここ半年来の流れに沿った動き」と素直に捉えるべきではないかと。

 具体的にいえば制服組らしい発想とリアクションということになります。軍人は往々にして足し算と引き算しかできません。台湾に手を出すことで北京五輪や上海万博が吹っ飛んだり、外資依存度が極端に高い中国経済が失血死しかねない、といった掛け算や割り算は解けませんし、そもそも掛け算や割り算など眼中にないところが怖いのです。ただ軍部全体がそうなのか、一部の電波系対外強硬派が暴走し始めているのかはわかりません。

 もし軍部が某かの主題に沿って動いているのであれば、これは例えば昨春(2006年4月)、胡錦涛訪米の前後に展開された胡錦涛サイドvs上海閥の綱引きといった政争とは次元が異なるものです。むしろ軍内部におけるクーデターに向けた動きが噂された2005年5月末の「呉儀ドタキャン事件」に近いものといえるでしょう。

 ――――

 ……まあ、以上あれこれ書いてはみましたが、いずれも邪推や勘繰りの域を出ません。ただし、今回の尖閣事件には勘繰りでない部分もあります。「上」でも示した「前回」に関する当ブログのエントリー、

 ●口喧嘩と腕相撲、そして尖閣事件。・五(2006/07/11)

 ここでも強調してあるのですが、「前回」の尖閣事件と「今回」には重要な相違点がひとつあります。

 「前回」における中共政権は表舞台(外交部報道官定例会見)で虚喝めいた啖呵を切ってみせる一方で、中国国民の可視範囲外である楽屋裏では日本側に対し平身低頭して日中関係の悪化を防ごうとしていました。ところが「今回」はそれが行われなかったということです。当該エントリーからその部分を引っ張り出してみましょう。

 ――

 ところが、です。実はそれ(外交部報道官定例会見)より丸一日ばかり前の7月3日、訪中した民主党の小沢一郎・代表が国務委員の唐家センと会談し、この場で唐家センが「尖閣事件」に対し遺憾の意を表明、また、

「中国政府の許可を得ずにやった」

 などと釈明しているのです。報道官談話と正反対の内容で、要するに苦しい言い訳をしつつ「すみませんでした」と日本側に詫びています。

 ●「産経新聞/Yahoo!」(2006/07/04/03:36)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060704-00000002-san-pol

 外交部報道官がカッコよく啖呵を切った同じ日には、中国政府から北京の日本大使館に公式な釈明が行われています。

「今後は事前通報の取り決めに従って処理したい」
「(侵入した海洋調査船は)山東省青島にある大学の調査船で、政府は航行を事前に承知していなかった」

 ●「共同通信/Yahoo!」(2006/07/04/23:32)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060704-00000233-kyodo-int

 ●「読売新聞/Yahoo!」(2006/07/05/03:07)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060704-00000217-yom-pol

 もちろん、こういった都合の悪いニュースは中国国内では流されません。実際には平身低頭の中共政権ですが、国内向けには報道官談話が全て。ズバリと言ってのけて無理無体の難癖をつけてきた「小日本」を斬って捨てたことになっています。

 ――――

 私が今回の尖閣事件を寝かせておいたのは、これと同じことが行われるかどうかを確認したかったからです。折よく、訪中していた自民党の野田毅衆議院議員(日中協会会長)が2月5日、曽慶紅国家副主席と会見しています。

 ●「新華網」(2007/02/05/19:33)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/05/content_5700351.htm

 もちろん、外交辞令の応酬に終始している新華社電には期待していません。「前回」同様、中共系メディアが伝えない内容を日本か香港のメディアが報じてくれるのではないか、と待っていたのです。

 ……ところが、そういう報道は一向に出て来ません。それどころか、逆に外交部から日本大使館に対し、「日本からの抗議」についての抗議が行われているのです。もっとも呼びつけられたのは「日本大使館当局者」で大使や公使の実名が出ていないところから、抗議のレベルはあまり高くない様子ではありますけど。

 ――

 ●「尖閣近海は通報必要なし」中国、初めて対応表明(Sankeiweb 2007/02/06/19:51)
 http://www.sankei.co.jp/kokusai/china/070206/chn070206002.htm

 (前略)
中国外務省は談話で、同省アジア局担当官が5日、北京の日本大使館当局者を外務省に呼び、尖閣諸島での中国の「科学調査」に関する日本側の対応に抗議したことを明らかにした。

 日本外務省は4日、在日中国大使館に抗議、中国側は「至急事実関係を確認する」と返答していた。

 日中は2001年、東シナ海での海洋調査活動に関し、相互に事前通報することで合意。中国側が事前通報すべき対象海域については「日本側が関心を有する水域である日本国の近海」と明記している。(共同)

 ――

 こうしてみると、対日外交というよりむしろ「国家主権の及ぶ範囲」について、「前回」からの半年余りの間に中国側の姿勢が質的に変化しているのではないかと私には思えてなりません。

「中国側船舶は釣魚島近海で通常の海洋調査を行っていただけで、これは中国の正当な主権の行使である」

 と平然と言ってのける厚顔さが備わり、強腰になってきているということです。「国家主権の及ぶ範囲」とは要するに領土問題のことですが、尖閣諸島はあくまでも脇役であり、中国側の念頭にあるのはあくまでも台湾でしょう。

 ……「前回」は行われたフォローが、日中関係の現状からすればよりそれを必要とされる筈の「今回」は全く行われず、逆に駁論してきた、という点に拠って語るにはやや飛躍し過ぎているかも知れませんが、私にとってはこの「楽屋裏のフォロー」が欠落していたという一事が今回の尖閣事件における最大の印象でした。

 ただしこのエントリーはあくまでも第一印象的な所見にすぎません。フォローがなかったことが何を意味するのかについては、もう少し材料が出て来ないとさすがに読みにくいです。麻生太郎vs李肇星という外相会談で何かヒントをもらえると有り難いですね。ファンタジスタ・麻生外相のパフォーマンスに期待したいところです。




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 いまさら?といわれるかも知れませんが、思うところがあって速報するよりは寝かせておきたかったのです。そこで我慢して隠忍自重に徹していたのですが、今日午後(2月6日)に至り、材料がおおむね出揃った観があるので取り組むことにします。

 いうまでもなく、中国の海洋調査船「東方紅2号」が2月4日午前、日本側に事前通報を行うことなく尖閣諸島付近海域にて海洋調査活動らしき不審な挙動を示したことです。海上保安庁の巡視船による再三にわたる警告は全て無視され、同船は4日22時すぎにようやく問題の海域から離れました。事件そのものに関してはこちらを。

 ●中国調査船が尖閣近海に EEZ内、警告に応じず(共同通信 2007/02/04/23:22)
 http://www.47news.jp/CN/200702/CN2007020401000414.html

 「問題の海域」「事前通報」についてまずふれておきます。東シナ海における排他的経済水域(EEZ)の線引きについて、日中両国がそれぞれ異なる主張を掲げて対立しているのを御存知の方も多いでしょう。要するに日本と中国がどちらも「ここはうちのEEZ」と唱えて譲らない海域があるのです。この重複している部分が「問題の海域」ということになります。

 ただし現実での無用なトラブルを防ぐため、日中双方は「問題の海域」を含む相手側のEEZ内で海洋調査を行う場合は事前に相手国に通報することで合意し、2001年2月からそれが行われています。……ところが、今回はその事前通報がなかったため、中国側のルール違反だとして日本政府が中国政府に抗議しました。

 ――――

 ちなみに、日本側の主張する線引きの「中間線」、そのすぐそばで中国が天然ガス採掘活動に着手したことで、

「ガス田は日本側にも及んでいるのではないか。だとすれば日本側の資源も採掘されてしまう」

 ということで生起したのが東シナ海ガス田紛争です。

 中国側はガス田の範囲を示す資料を開示せよという日本側の要求を無視して一方的に採掘準備を始め、「中間線」付近のガス田「白樺」(中国名:春暁)はすでに本格稼働し生産活動に入っているという報道もありました。中国外交部は2月6日に開かれた報道官定例記者会見でこれを否定してはいます。しかし日本側の主張である「中間線」を認めないという立場から、

「(中国が)中国近海の大陸棚において石油・天然ガス採掘を行うことを非難されるいわれはない」

 ……とまで言っています。EEZの線引きについては「対話による解決」を強調しているものの、ガス田問題の存在を認めない姿勢といえます。

 ●「新華網」(2007/02/06/17:20)
 http://news.xinhuanet.com/world/2007-02/06/content_5704807.htm

 ともあれ、中国側がこうした姿勢であるうえ、「中間線」付近で中国側が採掘を行おうとしている各ガス田の関連資料の公開を拒否しているため、問題はいまなお解決していません。むろん根本であるEEZの線引きについても、目下のところ日中間で合意が成立する気配は全くありません。ガス田問題については、日本政府の担当省庁によるサボタージュともいえるような対応の鈍さと、この問題への消極的な姿勢が非常に気になります。

 ――――

 今回の「尖閣事件」に話を戻します。中国の海洋調査船による事前通報なしでの調査活動は前々から問題になっていましたが、尖閣諸島付近では昨年(2006年)7月にも今回と同じパターンの事件が発生し、やはり日本政府が中国側に抗議を行っています。

 私が「尖閣事件」を寝かせておいたのは、当ブログでも紹介したその「前回」との差異を見極めたかったからです。

 ●口喧嘩と腕相撲、そして尖閣事件。・五(2006/07/11)

 結論からいうと寝かせた甲斐がありました。中国側の対応が変化したのです。一言でいうと、中国側は「前回」より硬質な姿勢に転じたということになります。ただし、なぜ硬質になったのかは判断に迷うところです。

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 まあ順を追ってみていきましょう。日本のメディアが事件を速報したのは「前回」と同じです。外務省が事前通報がなかっことについて中国側に抗議したのも一緒。そして、それに対する中国側の初動も同様に「らしくない」ものでした。日本側の報道から抜き書きしてみますと、

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 ●尖閣諸島:中国船が日本の排他的経済水域内で調査活動(毎日新聞 2007/02/04/21:22)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20070205k0000m040051000c.html

 外務省は、東シナ海における海洋調査活動の相互事前通報の枠組みに反し、通報していない海域で同船が活動したとして、在日中国大使館などを通じて中国政府に抗議、調査活動の即時中止を求めた。中国側は「至急、事実関係を確認する」と回答したという。

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 ●尖閣付近に中国調査船、外務省が抗議(読売新聞 2007/02/04/23:35)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070204i312.htm

 外務省は4日夕、中国の海洋調査船の活動について在京中国大使館と中国外務省に強く抗議し、活動の即時中止を申し入れた。中国側は「至急、事実関係を確認する」と回答した。

 ――――

「至急、事実関係を確認する」

 ですよ。面倒なので「前回」について報じたエントリー(上記)からも抜粋します。……引用開始。

 日本側の抗議に対し、東京の中国大使館からは「いま事実関係を確認している」という反応が帰ってきたというので驚きました。「らしくない」からです。……本来なら、

「釣魚島とそれに付属する島嶼は古来中国の固有の領土であり、中国側はこれについて争議の出る余地のない主権を有している。釣魚島が日本の領土であることを前提とした日本側からのいかなる交渉も中国側は受け付けない」

 とマニュアル通りの傲然たる回答が返ってくる筈です。ところが意外にも「いま事実関係を確認している」という頼りないリアクション。この言葉で最初に思い出したのが2004年秋に発生した中国原潜による日本領海侵犯事件でした。

 ●貴重なる周章狼狽(2004/11/13)

 中共政権が日本に向けて発したメッセージなのであれば、この「らしくない」コメントを第一声とする一連のドタバタ劇はまず起こらなかった、と思うのです。

 ……引用終了。

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 ところで、「らしくない初動」はつい最近にもありましたね。

 ●キティホークの後方8kmにプカリと浮上した真性キティ。・上(2006/11/17)
 ●衛星破壊ミサイル実験:当局もメディアもちょっと変。・上(2007/01/21)

 また独断専行?なのかどうかはわかりません。「東方紅2号」は教育部に所属する海洋調査船で、山東省・青島港を母港に中国海洋大学が運用していることになっていますが、それを額面通りに受け取って「今回は軍部の影はない」と安易に断定していいとは思えません。

 メディアの動きは一応足並みが揃っていました。私が調べた限りでは、中国国内メディアは外交部の声明が出た6日午前までは沈黙を守っています。

 ただ香港の親中紙『大公報』の電子版である「大公網」、香港の親中系衛星放送局「フェニックスTV」のHP「鳳凰網」、それにシンガポールの親中系華字紙の電子版「早報網」などは日本発の報道を受ける形で5日朝から事態を報じています。いずれも中国国内からアクセスできるウェブサイトですから、厳重な報道統制が敷かれた訳ではありません。

 せっかくですから備忘録として並べさせて下さい。m(__)m

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 ●「鳳凰網」(2007/02/05/07:07)
 http://news.phoenixtv.com/mainland/200702/0205_17_72463.shtml

 ●「早報網」(2007/02/05/09:05)
 http://realtime.zaobao.com/2007/02/070205_02.html

 ●「大公網」(2007/02/05/10:18)
 http://www.takungpao.com:96/gate/gb/www.takungpao.com/news/07/02/05/ZM-688716.htm

 ●「早報網」(2007/02/05/10:33)
 http://www.zaobao.com/special/newspapers/2007/02/eyah070205.html

 ●「鳳凰網」(2007/02/05/12:32)
 http://news.phoenixtv.com/mainland/200702/0205_17_72678.shtml

 ●「鳳凰網」(2007/02/05/13:43)
 http://news.phoenixtv.com/mainland/200702/0205_17_72702.shtml

 ●「早報網」(2007/02/05/14:33)
 http://www.zaobao.com/special/newspapers/2007/02/others070205zl.html

 ●「早報網」(2007/02/06/08:34)
 http://www.zaobao.com/gj/gj070206_506.html

 ……要するに中国国内メディアによる速報はなかったものの、中国本土からアクセスできる外地のサイトから情報がダダ漏れになっていた形です。

 衛星破壊ミサイル実験のときはそれらを削除しようとする動きと報道させようとする動きが綱引きを展開した形跡がありましたが、今回はそれもみられません。

 ただし、当局による初動は今回も「らしくない」ものだったのです。

「至急、事実関係を確認する」

 ですからねえ。


「下」に続く)




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 前回の冒頭で台湾のクリエイターどもに秋葉原のメイド喫茶へと連れ込まれた話を書きましたが、実は後段があります。

「巫女さんを見たいです」

 というのです(笑)。メイドさんに巫女さん……さすがにACG業界人だけのことはあります。そうか巫女さんか。それなら今日は早めの晩飯でカレーを食うことになるけどいいな?古い飛行機や機関車や大砲も見ることになるけどいいな?(笑)と念を押すと連中は嬉しそうに何度か頷きました。

「よしそれでは岩本町から都営新宿線で九段下へ行こう」

 と私が先導して、やや不謹慎のきらいはありますが靖国神社へ直行です(笑)。連中は立ちはだかる大鳥居を見ても全く動じません。このあたり香港人と違って妙な先入観やアレルギーがないので台湾人はいいです。自分だけ参拝するつもりだったのですが、台湾の戦没者も祀られているのだと説明したら神妙な顔になって私の見よう見まねで一緒に参拝してくれました。

 予定通り海軍カレーを食したあと、連中は零戦や十五榴、それに蒸気機関車などをデジカメで熱心に撮影していました。色々な角度から撮っていたのは、たぶんメカ好きという他に仕事の資料になるかも知れないという理由からだと思います。

 さて肝心の巫女さんです。参拝途上やお守りなどを売る売店で見かけたのですが、連中はどうも不得要領で、

「御家人さん、あれが巫女さんですか?私の巫女さんと違います」

 などと言うのです。「そうか?」と応じつつ、当たり前だろっ!と私は思いました。恐らく連中が想像していたであろう2次元美少女のような巫女さんなどいる訳がないじゃないですか。

 ……と言いたいところなんですけど、実は今年の初詣で実家への手土産を買ったとき、私はストライクゾーンな巫女さんに遭遇してしまいました。普段は見かけないのできっとアルバイトの方なのでしょう。可愛いというより端正な美人というべきひとで、連中に理解できる話し方をするなら、2次元よりはポリゴンで表現する方がふさわしいタイプです。

 その点では連中のイメージする巫女さんにはそぐわないかも知れませんけど、瞳が実に印象的で「吸い込まれそうな……」という修辞が現実に通用することを初めて知りました。楚々とした雰囲気も巫女さんの装束によく似合っていて、

「今の人きれいだったねえ」

 と同行する配偶者にうっかり言ってしまい、言ってから私は慌てて間合いをとりました。配偶者は不意に予期せぬ方向から脛を薙いでくる蹴りを得意技としているのです。幸いすぐそばにお神酒を頂ける小屋が出ていて、お酒となると頬のゆるむ配偶者は瞬時に上機嫌になったので助かりました。正に天佑であります。

 という訳で、

「正月だよ。お前ら今度は正月に来い」

 と、やや落胆気味の連中には言っておきました(笑)。

 ――――

 ……まあ日曜ゆえの戯れ言と読み流して下さい。ここから先も楊枝削りですからスルーして頂いて結構です。


ひとつだけ/the very best of akiko yano
矢野顕子, 糸井重里
ERJ

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 私はYMOが好きです。古い世代ゆえリアルタイムでファンになり、「散開」してしまったのが確か高校2年のときでした。その周辺という感じでメンバーのソロアルバムはもちろん、戸川純やゲルニカやYENレーベル系もよく聴きました。

 ところがバンドをやったらなぜかデュラン・デュラン路線で、曲を作ってみたらリチャード・クレイダーマン風味という体たらく……orz。香港に渡るときには会社払いで運送業者に荷物を任せてしまえたのですが、土鍋ひとつ(飯も炊けるしラーメンも食える)と余暇のためにシーケンサーだけは手荷物で持っていきました。

 香港にも新星堂などがありましたし、ローカルのCD屋も様子は日本と変わりません。ただ売っているものがまるで違うだけで(笑)。でも邦楽もそれなりに揃っていて、たまにYMOのREMIX版などが入荷すると買ったりしていました。するとレジのお兄さんが、

「坂本龍一。おれも好きだ」

 などと言って「東風」のさわりを口ずさんでくれたりします。そういう嬉しくなるエピソードが何回か、別々の店でありました。その中の一人にふと、

「じゃあ『戦メリ』は好きか?」

 と尋ねてみたことがあります。

「好きだ。でもサントラより『Coda』の方がいいと俺は思う」

 と答えるのでつい嬉しくなって、

「お前、詳しいな。ピアノは弾けるか」

「まあ弾ける」

 と言うので、そのピアノスコアを日本から持ってきていた私はコピーして次の機会に渡してやったらひどく喜んでくれました。しかし楽譜は毒です。シーケンサーでは物足りなくなってしまい、とうとう私は現地でシンセサイザーまで買ってしまいました。説明書は英語だったのでヤマハに連絡して日本語版を取り寄せました。私の娯楽がチナヲチから離れてしまったのはそのためです。

 この愛機はいまも拙宅にあるのですが如何せん電圧が香港仕様の220V。変圧器を買わなくちゃなーと思い思いしつつ現在に至っています。

 ――――

 そのころ私はすでに香港のACG業界と関わり始めていて、勤務先も「独りだけ日本人」だったので日本へしばしば出張するようになっていました。ちょうどMDが普及し始めたころで、私は最初の出張で取材用にMDレコーダーを買い、ついでにCD屋をのぞいたら上記矢野顕子「ひとつだけ」のMD版があったので、おおと思い衝動買いしました。

 ほどなく、日本のテレビゲーム業界においてYMO好きで知られる著名クリエイターI氏が画面が真っ黒で音だけの「リアルサウンド」という斬新なゲームをセガサターンという家庭用ゲーム機向けに制作しました。プレイヤーの選択次第でストーリーの展開が変化するマルチエンディング方式のラジオドラマといった体裁です。偶然ながら、……まあI氏にとっては必然だったのでしょうけど、その主題歌がこの「ひとつだけ」でした。

 あるとき、出張から香港に戻るとたまたまそのゲームが発売間近で同僚たち(香港人)の話題になっていたので、「その主題歌はこれだよ」と「ひとつだけ」をMDで聴かせてやりました。聴くうちに相手の表情がみるみる変化していくのが面白かったです。

「御家人さんは……こんな音楽を……聴いているんですか?」

 と呆然たる顔で尋ねられたので、私はサカモト好きのCD屋の兄ちゃんたちを思い出して「参ったなー」と思いました。

(こいつらが聴いているのはどうせ香港歌謡とか声優のアルバムとか、まあそういう類いだからな)

 と内心少しだけ馬鹿にして……というより軽蔑してしまいました。ごめんなー>>同僚ども。

 ちなみにI氏が率いていたゲームソフトメーカーW社にも何度か仕事で訪ねたことがありますが、オフィスとは思えない和をイメージしたインテリアで行くたびに癒されました。……のではなく、私が癒されたのは常に社内に流れていたYMOの音楽です(笑)。やっぱりノリ重視なのでしょうか、ワールドツアーとか武道館とか散開ツアーとか、いつもライブアルバムだったように記憶しています。

 ――――

 この一週間はあっという間でした。地獄の年末進行と東京観光とメイド喫茶に巫女さん、それから例によって恩師との電話で慌ただしく過ごしてしまったような観があります。仕事中や当ブログを書いているときは「ひとつだけ」を流しっぱなしでした。ただ年甲斐もなく「いきものがかり」という若手のバンドに浸るという症状は前週から持続していて、ひと休みしたり一服するときには下の2枚でしみじみしました。

SAKURA
いきものがかり, 水野良樹, 島田昌典, 山下穂尊, 亀田誠治, 荒井由実, 江口亮
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コイスルオトメ
いきものがかり, 水野良樹, 田中ユウスケ, 山下穂尊, 中山加奈子, 江口亮
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 年甲斐もなくしみじみできることが我ながら嬉しいです。「よしよし、まだ乾いていないぞ」と思ったりします。そしてそう思う自分をすっかりオッサンだなあと自嘲しつつ、リポビタン(ゴールド!)をぐびりとやって再び修羅場へと戻るのです(笑)。




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 台湾からACG業界の若い衆が遊びにきたので連中の東京観光に付き合う仕儀に相至りました。みんな一応クリエイターです。旧正月商戦向け制作物のマスターアップを済ませているので正月休暇が早めに来た模様。こちらは年末進行で青息吐息だというのにこいつらは全く。……ここ数日更新が滞ったことへの言い訳であります。

 ACGですから当然のようにアキバ詣でが日程に含まれていました。香港や台湾の仕事仲間たちもそうですが、秋葉原だけは私より連中の方が詳しいのでこっちが引っ張り回される格好です。そしてとうとうメイド喫茶に連れ込まれる破目に。……何とも表現し難い空間でした。

 私は一応ACG業界に身を置いてはいますけど、個人的にはACG属性ではないので我ながら場違いというか居場所に困るというか。……ところが台湾の連中は大喜びで、小声で「ムエー、ムエー」と言い交わしているのです。しばらくしてから「萌えー」だと気付きました(笑)。

 萌えますか、そうですか。私は歳を重ねるごとにどうもストライクゾーンが広くなりつつある自分に近年気付いたのですが、さすがにメイドさんでは萌えません。あっでも「ストライクゾーン&メイドさんの格好」だったら保証の限りではありませんね。たぶん私は……いま配偶者が近くをうろついているのでこのくらいにしておきます。

 ――――

 中国は何やら多端です。それは最高指導者(国家主席+総書記+中央軍事委員会主席)である胡錦涛がアフリカツアーに出たことと無縁ではないかも知れません。

 胡錦涛は訪問先で国連の平和維持活動のため派遣されている人民解放軍の兵士たちを慰問するというアピールをソツなく行っています。外遊先ですから胡錦涛はさすがにあの階級章などの一切ないのっぺりとしした軍服ではなく、スーツ姿でした。「君たちはわれわれの誇りだ」などと持ち上げて、軍部に対し得点を稼いでいる様子です。

 ●「新華網」(2007/02/02/07:46)
 http://news.xinhuanet.com/mil/2007-02/02/content_5688855.htm

 なぜサービスをしなければならないかといえば、世代交代が進んだからです。

 トウ小平のような豊富な実戦経験を持ち革命戦を戦い抜いてきた経歴の持ち主がもはやおらず、軍部ににらみを利かせられるだけの後ろ盾がないため、軍籍のない胡錦涛はもっぱら懐柔策をとり、潰したい相手には「以毒制毒」(毒を以て毒を制する)、つまり懐柔した軍高官に潰したい相手を始末させる方法に頼るしかありません。最近軍部に対する会計監査の強化が唱えられていますが、これも「以毒制毒」が行われることの先触れといっていいでしょう。「汚職で潰す」という小道具のひとつが使われるのです。

 先代の江沢民もトウ小平が死去してからは現在の胡錦涛同様、もっぱら懐柔策及び「毒を以て毒を制する」で軍部の手綱をとってきました。結局、2004年9月に党中央軍事委主席の職を胡錦涛に譲るまで、江沢民はトウ小平と違って、「鶴の一声」で軍部を動かすまでには至らなかったように思います。

 文官ということで軽侮される点、また軍部を味方につけた者が権力闘争を勝ち抜くという点、さらにいえば軍は国家よりも党中央の命令を優先する、つまり中国共産党の私兵だという点において、21世紀とは到底思えない中共政権の異質さが垣間見えます。しかもその中共政権が軍拡路線まっしぐらで「今度はわれわれがやる番だ」とばかりに対外伸張の野心を露わにしつつあるのです。隣国である日本にとってこれ以上の迷惑はありません。

 ――――

 で、胡錦涛が留守であることと関係があるのでしょうが、アフリカツアーがスタートするなり、

「『江沢民文選』学習活動」

 なるキャンペーンが開始されました。省レベルの地方政府トップや閣僚(部長)クラスを対象に専門講座のようなものが開かれるようで、そのイベントが2月2日に北京で開催されています。

 ●「新華網」(2007/02/02/19:23)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/02/content_5688623.htm

 そのイベント、仕切り役は曽慶紅で李長春が演説、列席者には呉邦国、温家宝、賈慶林、呉官正、羅幹の名前が並んでおり、政治的に心電図ピー状態の黄菊と北京を留守にしている胡錦涛を除けば、党の最高意思決定機関である党中央政治局常務委員会のメンバーが全員顔を揃えるという格式の高さ。郭伯雄、曹剛川、徐才厚といった中央軍事委員会の主要メンバーも出席しています。

 さらにこれに華を添えるかのように、党中央の機関紙である『人民日報』が社説まで掲げるという怪しさ満点のキャンペーンです。

 ●「新華網」(2007/02/02/)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2007-02/02/content_5688641.htm

 ――――

 昨年春に胡錦涛が訪米した際にも上海閥は江沢民自らが母校を訪問して健在ぶりをアピールするなど、胡錦涛サイドに対する巻き返しを行っています。ただ今回の動きはどういう性質のものなのか、その本気度を探りつつ様子をみる必要があるように思います。

 「『江沢民文選』学習活動」自体は昨年夏にも行われ、当初は銅鑼を鳴らすかのような賑やかさでスタートしたものの、結局は尻すぼみ。最初は上海閥を主力とする「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)が一大攻勢に出たものと私はみていたのですが、その先に待っていたのは何とその上海閥の次世代を担う有力者、陳良宇・上海市党委員会書記(当時)の失脚でした。

 この例にならうとすれば、今回は江沢民を改めて持ち上げておいて黄菊あたりを血祭りに上げる、ということになりますが、さてどうなるのでしょう。江沢民を祭り上げるという政治的な取引の見返りに胡錦涛サイドにとって何かオイシイことが行われるのか、あるいは主軸の上海閥を潰されてボロボロ状態の「反胡連合」が江沢民を錦の御旗に何事かをなそうとしているのか。

 今回も銅鑼の鳴らし方が尋常でないため、しばらく注意深く見守る必要がありそうです。

 ――――

 事件といえるほどのものではありませんが、上海と深センの株式市場がいずれも暴落しましたね。これまた週明けの様子をみてみないと確かなことはいえませんが、このところの株価高騰はやや異常でバブルっぽいという認識は市場で共有されていた観がありましたし、社会科学院も最近、「どうやらバブルではないか」とのレポートを出していましたから、ある種の調整局面に入ったのではないかというのが第一印象。

 政治的要因によるものではないだろう、ということです。それから仮にバブルであって、それがはじけるとしても、中国が日本と同じような展開を迎えるかどうかは未知数です。どれほどのダメージになるかは、財力相応にバブルに湧いた層が日本ほど広範なものなのかどうか、といったところから考えていかなければならないように思います。

 まあ失業率を押し上げることは確実でしょうけど、それは放っておいても北京五輪・上海万博という特需が消えれば自然に行き着く局面でしょう。

 ――――

 ところで、胡錦涛外遊、『江沢民文選』学習キャンペーン、株価暴落と何やら物々しくなってきたところで、胡錦涛の御用新聞である『中国青年報』(2007/02/01)に興味深い文章が掲載されました。……と主題に入ります。

「石原慎太郎の公費による飲み食い2件に賠償判決が出たことに思う」

 という標題による署名論文で、直訳すると「石原慎太郎の~賠償判決が出たことから語り起こせば」となります。中国語の文章によくあるスタイルのひとつで、そこから「語り起こす」以上、話は展開し、主題は往々にして語り起こした話題とは無縁なところにあるものです。

 ●『中国青年報』(2007/02/01)
 http://zqb.cyol.com/content/2007-02/01/content_1663226.htm

 今回もその型を踏んでいて、石原都知事の一件は刺身のツマにされています。

 ――――

 出だしは「中国人をひどくムカつかせる日本の政治家」「熱狂的民族主義者」「日本極右の代表」「日本政界における反中分子ナンバーワン」と石原都知事にペタペタと毒々しいレッテルを貼りまくる実に刺激的なツカミです。

 その石原都知事を公費濫用だとする訴訟が東京地裁で行われ、石原都知事らに罰金支払いを命ずる判決が出た、これは石原のイメージを低下させるもので、ひいては政治生命を終わらせることになるかも知れない、といった内容が続きます。

 そこから、この種の文章の型通りに話が展開します。筆者によると、このニュースは石原都知事がどうこうではなく、都知事の公費濫用に対し議員が訴訟を起こしたことが重要なのだそうです。

「彼ら地方議員でもこういう案件で訴訟を起こすことができるのに、なぜ我々の人民代表(立法機関である人民代表大会のメンバー)は地方政府の役人のあれら不合理な公費による飲み食いを裁判で追及することができないのか?我々は石原という人物を嫌い抜いているとはいえ、公費による飲み食いという点についていえば、中国にはこの面で石原に『圧勝』している役人がかなり多くいるではないか!」

 と「ひるがえってわが国ではどうか?」と転じてきました。そして、

 ●公費接待については主客の実名や職業、接待理由などを明記して使途を透明化すること。
 ●人民代表に地方官僚の公費濫用に対する調査権や告発権を持たせること。

 ……の2点を実現することが肝要だとして文章は結ばれています。全体的にせっかちで青臭さの漂う筆致ですが、汚職撲滅に名を借りた民主化要求といえなくもありません。

 ――――

 しかしこの署名論文、たとえ「汚職撲滅に名を借りた民主化要求」だとしても、その限界を露呈してしまっています。

 人民代表というのは行政レベルごとに存在するのですが、国民が選挙で選出できるのは末端レベルの人民代表のみで、それも往々にして出来レースであり、民選候補が当選するとニュースになるくらいです。それ以上のレベルの人民代表となるとこれは密室政治で、要するに談合によってメンバーが決められます。

 さらにいえば、人民代表はほぼ全てが中国共産党員です。公費濫用の地方幹部も圧倒的多数が党員。陳良宇を汚職嫌疑で失脚させたのも党の機関である中央紀律検査委員会でした。人民代表大会も建前上は党の機関ではないものの、構成員は党員なのです。仮に人民代表に調査権・告発権を持たせたとしても、それは権力闘争の小道具になってしまうことでしょう。

「そもそも汚職が日本より多く程度も深刻かつ悪質なのは一党独裁制だからだ」

 と言える政治環境ではないからこの作者はあえて言わないでいるのか、それとも筆致からうかがえるようにまだ若年で、若年ゆえに「愛国主義教育」を全身に浴びて育った結果、真剣に考えてこういう結論に立ち至ったのか。……このあたりが興味深いところです。

 私と同世代で1989年当時、民主化運動の担い手となった大学生だった連中なら、まず「汚職が横行するのは一党独裁だから。自制を促して自浄作用を期待しても無駄」という認識から、党の外にチェック機能を持った機関を置くべきだとし、具体的には政協(政治協商会議=党外においてチェック機能を果たす役割を持たされるも、50年前の「反右派運動」を契機に形骸化)の機能強化を打ち出すでしょう。

 さらにラディカルな向きは「人民代表に人民の代表たる実を持たせるべき」として、末端レベルだけでなく、全ての人民代表を公選制にしろ、普通選挙制を導入しろと主張するでしょうし、さらに一歩進めて実を伴う多党制の導入を唱える者も出てくるかと思います。……いやこれは当時実際に私の前で中国人学生たちが議論していたことですし、武力弾圧に最後まで反対して天安門事件で失脚する趙紫陽総書記(当時)も、政協によるチェック機能の強化という汚職対策を準備していました。

 ――――

 人民代表に調査権・告発権を持たせても、人民代表が民選議員でなければ効果は期待できません。でも普通選挙制の導入は無理、というなら、とりあえず政協の権限強化、というのが妥当なところだと思うのですが、それも口にできないのが現在の政治環境、ということなのでしょうか。

 特に『中国青年報』が掲載した文章だけに、胡錦涛の意図をある程度反映したものかも知れないと考えることができます。トウ小平の衣鉢を継いだがごとく徹頭徹尾「中共人」である胡錦涛らしいともいえますし、トウ小平もその点を見込んで江沢民の後継者として直々に指名したのでしょう。

 ただトウ小平のような、現実に応じて必要なら飛躍的な着想で妙手を打つ「商人型」の一面は胡錦涛においてすっぽりと欠落しており、むしろそういう真似のできない、朴訥で黙々と畑を耕す「農民型」の色彩を私は胡錦涛に感じます。

 ただ単なる「農民型」でないのは、必要なときには万難を排し手段を選ばずにやることをやる、という点です。飛躍的な発想はできないけれど、暴力に訴えてでもやろうとする。戒厳令を敷いても武力を用いても構わない、とにかくやり遂げるのだ。……といった凄みを隠し持っていることでしょう。

 それにしても淋しいことだ、といわなければなりません。

 最近の胡錦涛演説でもそうでしたが、汚職撲滅を掲げるにあたり、党中央紀律検査委員会の強化ばかりをうたい、党外部門、例えば人民代表大会はもちろん、政協の機能強化にすら言及されることがない。……畸形で様々な副作用を伴いつつも飛躍的な経済成長を実現させた中共政権は、こと政治制度改革に関しては20年前よりもむしろ退行しているのです。




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