日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 日本のマスコミ報道が余りにユルいので、つい前回、香港の有毒食品を取り上げたついでに鳥インフルエンザ情報をまとめて出してしまいました。

 そりゃ日本にも海外にも報じるべきことは色々ありますから仕方ないのですが、中国大陸には万単位の邦人が生活しているのです。マスコミに余裕がないなら、いや余裕のあるなしと全く別問題に、自国民保護の観点から外務省がしっかりフォローすべきでしょう。それなのに
(怒)

 ……などという苛立ちもあって、つい情報を並べた後に外務省海外安全ホームページへのリンクを張ってしまいました。orz(反省)。

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 今回の鳥インフルエンザ(H5N1型)が今後どういう事態に推移していくのかはわかりませんが、現時点で中共政権がよほど深刻な事態だと認識していることは、

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 ●香港紙『大公報』(2005/11/09)
 http://www.takungpao.com/news/05/11/09/MW-481758.htm

 温家宝・首相が11月8日、遼寧省における鳥インフルエンザ流行の起点となった黒山県の防疫作業を視察した。

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 ……この短い記事1本で十分すぎるほど伝わってきます。格式というものがあるからです。首相自らが現地視察に乗り出すというのは、それだけの出来事が発生しているからなのです。

 少なくとも死者百数十人単位の炭鉱事故かそれ以上の深刻さ、という認識であることは確かでしょう。「実は遼寧省でそれだけ人が死んでいた」というのではなく、そうなりかねないほど厳しい状況、あるいはこれだけは国の威信を賭けて防がなければならない、という重大な決意がみてとれるのです。

 以前紹介したように、中央のテコ入れには遼寧省トップの李克強・省党委員会書記が胡錦涛総書記の後継者と目されているという政治的な側面があるかも知れません。しかしそれはあくまでも側面であって主題ではありません。ともあれ
「首相が現地視察」(督戦)という一点からそのくらいあれこれ考えてみてもいいのではないでしょうか。

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 何やら雑談になりそうですが、今回は余談めいたテーマですので諒として下さい。まあ「汚職」あたりから本題に入るとしますか。党官僚の汚職が蔓延していることは御存知の通りです。汚職なんざ日本でもありますけど、都市や農村で暴動が起きるほどひどいものはないでしょう。

 ところが民意を政治に反映することができない中共政権下では、そういう「ひどい汚職」がいくらでもできるのです。一党独裁制が生み出すごく自然な状況といってもいいでしょう。チェック機能が政治制度に組み込まれていないか、一応あっても形骸化しているのです。そもそも「法制あれど法治なし」というお国柄にチェック機能も糞もあったものではないでしょう。

 需要に比べればはるかに少ない資源(モノに限らず許認可権の分与、高速道路や発電所などのインフラ整備許可、開発区設立認可なども含む)、これをどう配分するかは中央政府・地方政府を問わず、配分役である担当者(党官僚)の一存にかかっています。利権ですね。資源を必要とする側は当然ながら必死にそれを自分のところに回してもらおうとし、その挙げ句贈賄・収賄が発生するという訳です。

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 最近でいうと正規であれヤミであれ、炭鉱への出資で大儲けする党官僚の問題が有名でしょう。死者百名以上の炭鉱事故が広東省梅州市で発生し(8月7日)、調べてみたらヤミ炭鉱であるうえ地元当局の党官僚が出資していて、多額の配当を得ていたのです。

 ……そんなことは中央政府も先刻承知なのでしょうが、たぶん絶好のタイミングと考えたのでしょう。このカラクリに大きく驚いてみせて(笑)、8月下旬、国家機関職員と国有企業責任者は炭鉱との縁を切るよう中央政府から全国各地方政府に向け通達が出されました(ヤミ炭鉱に対しては正規化を求める)。

 ●安全生産条件と非合法炭鉱の整理・封鎖に関する通達(新華網 2005/08/23/19:36)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-08/23/content_3393421.htm

 党官僚の出資撤退には1カ月の期限が切られたのですが、多寡をくくったのか何なのか、期限を過ぎても言うことを聞かない「造反官僚」が続出しました。この問題はいまでも続いていて、

「××自治区がヤミ炭鉱×カ所を閉鎖」
「××省の幹部×名が撤退、出資総額は×億元」

 といった地方同士で競わせるのを狙ったかのような「戦果報告」記事が毎日のように「新華網」(国営通信社の電子版)に出てきます。

 ところでごく素朴な疑問なのですが、数え切れない程のヤミ炭鉱を閉鎖することで(正規の炭鉱まで閉鎖して石炭産業との決別を宣言した地区もあります)、石炭産出量や炭鉱夫の失業といった問題に影響が出ることはないのでしょうか。

 私はもちろんヤミ炭鉱をそのまま残せ、と言っているのではありません。素朴な疑問としてそういう感想が湧いた、というだけのことです。

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 もう一点気になることがあります。中国における「汚職の蔓延」は紛れもない事実なのですが、何でもかんでも「汚職」で片付けてしまうような風潮に疑問を感じます。汚職汚職と言い立てることで、お粗末な制度に由来する弊害を覆い隠してはいないでしょうか。

 例えば炭鉱ですが、党官僚が出資を引き上げたことで安全性が高まる、事故がなくなる、ということはないでしょう。ヤミ炭鉱を潰してもきっとまた大事故が起こります(死者十数人~数十人単位の事故なら現在もほぼ毎日起きています)。過去に百人単位の死者を出した炭鉱の大半は地元当局から許認可を受けて営業していた正規の炭鉱です。

 いまではもうすっかりお馴染みになった都市・農村での再開発やダム建設などを目的とした土地の強制収用、これも役人の汚職が絡んでいることは確かなのですが、制度的な問題がない訳ではないでしょう。

 その証拠にそういった点をフォローする「物権法」なる法律の制定が全人代(全国人民代表大会=立法機関)常務委員会で急がれているところです。形だけかも知れませんが、市民を集めての公聴会や提案募集も行われています。

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 改めて炭鉱で喩えれば、正規のライセンスを取得している、地元幹部の出資などはなく財務的にクリーン、安全基準も満たしている……というのに連日死者2桁単位の炭鉱事故が発生しているのです。要するに安全基準とそれが維持されているどうかの定期検査、このあたりに問題があるのではないでしょうか。

 現在今後5年間の経済・社会発展の青写真となる「十一五」(第11次5カ年計画、2006-2010年)の具体的な制定作業が中央をはじめ各地方政府で行われています。炭鉱問題については、

 ●炭鉱の大事故多発の抑制が「十一五」の安全生産面における要務だ(新華網 2005/11/09/21:01)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-11/09/content_3756949.htm

 という記事が出てきました。中央政府でこういう問題を直轄する国家安全生産監督管理総局が「十一五」草案をこのほど発表し、「重大・特大炭鉱事故の抑制」を実現目標のトップにもってきた、というものです。

 それによると、

●2010年までに石炭採掘量百万トン当たりの死亡率を今年の4分の3の水準(25%減)にまで低くする。
●死者10名以上の事故件数を今年より20%低い水準にする。

 と、実に野心的な目標を掲げています。大丈夫でしょうか(笑)。

 この記事は2001-2004年の実績についても紹介しています。この4年間における炭鉱事故死者数は年平均6282名、死者10名以上の特大事故件数は年平均50件、死者30名以上の特別重大事故件数は年平均8件。……いずれも4年間の合計ではなく年平均であることを強調しておきます。

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 これは以前にも紹介したことがありますが、中国の成長モデルの本質を衝いた実に重要な統計です。

 ●2004年の生産活動事故死者、1日平均370名
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/01/content_3160680.htm

 1日平均370名が生産活動中に不慮の死を遂げているのです。炭鉱事故もあれば、工事現場での崩落とか工場爆発とか運送業務中の交通事故などもあるでしょう。日本のスケールでいえば10分の1と考えて毎日37名ということになります。そんな馬鹿な、というところでしょうが、これが現実ななのです。

 現実であると同時に、この点に目をつぶってきたからこそ中国経済はここまで成長できた、ともいえます。……前にも似たようなことを何度か書いた気がします(笑)。

 「それでも人口は増える一方」(2005/08/09)
 「やっぱり人命軽視は仕様、ていうか国是」(2005/08/25)
 「お得意の魔法もそろそろ限界?」(2005/08/26)

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 ある程度かぶるのを承知でまたこの話題を持ち出したのは、国家安全生産監督管理総局による「十一五」の野心的なプランの概要が明らかになったからです。野心的、ていうか無理ですよそんなこと。

 事故を減らしたいのなら安全基準を強化して、機械に任せるべきところは任せて、外国並みの水準にしなければいけません。でもそんなことしたら「採掘コスト増&就業機会減少」となりますし、エネルギーコストも上がります。国民生活や生産活動にも当然影響が出るでしょう。外資企業からもブーイングが起こるでしょうし、新規の外資導入にも響くかも知れません。石炭輸出にも陰を落とします。

 要するに国家安全生産監督管理総局による「十一五」プランは、「安さが売り」(人命軽視)という中国のカンジンカナメのところをスパッと切り捨てるということです。そんなことが出来るものでしょうか。

 もとより「汚職は必要悪」だと言っている訳ではありません。胡錦涛政権は「十一五」の目標として
「調和社会の実現」「節約型社会」「科学的発展観」などを掲げました。それが如何に空疎なものであるか、その一端は上述した通りですし、過去にも少し書いています。やや具体的には、個人の貧富の格差と地域間格差の拡大、失業、党幹部の汚職蔓延といった問題が沸点に達するかというレベルに至り、生産活動の安全維持がようやく問題視されるようになりました。その一方で環境汚染、水不足、エネルギー不足が無視できない水準に達しています。

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 つまり総書記が胡錦涛であろうとなかろうと、状況は「調和社会の実現」「節約型社会」「科学的発展観」といった目標を掲げなければいけないところまできてしまったということです。

 こうした目標は胡錦涛政権の独自色であり、確かに胡錦涛と温家宝のオリジナルではあるのですが、独創的な内容とはいえませんね。単にややマトモな方向へ軌道修正しようというだけのことで、たまたまババを引いてしまった胡錦涛にその役が回ってきたというだけです。

 言い換えれば、いま中国の経済・社会は、その各方面(例えば教育問題なども含む)において粗放きわまりない従来の発展モデルと決別しなければならない、さもなくば……という岐路に立たされているようなものです。政策だけでなく制度的に比較的大きな修正を必要とすることになる問題です。当然ながら痛みを伴う改革となるでしょう。

 その最も重要な部分を「汚職」「汚職」と言い立てることで覆い隠し、後回しにしようとするようでは、胡錦涛政権の構造改革は先行きが案じられると言わざるを得ないのではないでしょうか(パワープレイ満開の結語ですみませんw)。



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