日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 もちろん、中国の話です。

 ここ最近、華南地区など南部沿岸から上陸した台風が猛威をふるってもう大変。福建省気象台は例年にない状況について、

 ●台風到来シーズンが平年より1カ月ばかり早い。
 ●中国本土に上陸する台風が多い。
 ●台風の破壊力が強い。

 ……といった分析を示してみせましたが、そんなこと言われなくても状況を見ればわかります。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/24/content_4873398.htm

 被害に見舞われたのは広東省、広西チワン族自治区、湖南省、江西省、福建省、浙江省など。洪水は発生するし土砂崩れで家が押し流されるし交通は寸断されるしで一時的に「陸の孤島」が随所に点在する有様。しかも河川汚染が進んでいますから水が退いたら退いたで疫病の心配もあります。

 ともあれ、国家滅災委員会弁公室が集計したところによると、7月24日午後4時現在で死者612名・行方不明者208名、避難民が実に306.8万人。さすがに大陸はケタが違いますねえ(それでも人口は増える一方)。……と感心しているうちにまた大きいのが来るそうです。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/24/content_4873384.htm

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 実はあの「中国民間保釣連合会」と並ぶ反日サイトの総本山として知られる「愛国者同盟網」から7月20日にメールをもらいました。別に格別な仲というのではなく、以前殴り込みをかけていたころのIDが消されずに残っていたようです。それでID登録者全員に向けたメールが私のところにも届いた次第。

 で、その内容が水害に対する義援活動を、というものなのです。現地で不足している食糧や衣類、飲料水、薬品を有志が集めて現場に持ち込もう、ということで、会員はもとより周囲にも呼びかけて被災地を救おう。……という趣旨に、糞青(自称愛国者の反日教徒)もたまにはなかなかやるわい……と感心しつつ読むうち、

「われわれ『愛国者同盟網』は2003年にも被災地への救援物資輸送に携わり、深セン市民政局の御墨付きをもらったことがある」

 というくだりが出てきて、その御墨付きの写真までわざわざ持ち出してきたのでおやおやと思いました。前回に当局の信任を得た実績がある、だから今回も心配することはない。……ということでしょう。こういう一筆を加えなければならないところに、中共による一党独裁体制下で「結社の自由」がいかに脆く危ういものであるかを垣間見れるように思います。

 http://bbs.1931-9-18.org/viewthread.php?tid=75868

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 この「愛国者同盟網」が今回被災地としたのは広東省の楽昌市。何だい聞かない名前だなーと地図を広げてみたら、ありました、ありました。東西に広がる広東省の中央部、その最北端で湖南省との境界線近くにある都市です。

 「愛国者同盟網」のメールによると、この楽昌市が洪水に見舞われ、交通も遮断されて陸の孤島状態なのだそうです。陸の孤島なら物資持ち込めないじゃん、というツッコミはさておき、実際にどういう状況なのか。現地からの情報発信が行われているだろうと考え大手掲示板「百度」(http://post.baidu.com/)の「楽昌」板に飛んでみました。

 果たせるかな、現地にいる家族の安否を他郷で気にかける書き込みや現地からの報告など盛り沢山。とりあえずビジュアルから入ってみますか。7月16日に貼られた写真です。

 http://post.baidu.com/f?kz=114907272

 すごいです。東洋のベニスと謳い上げたいところですが、そんな半端な状況じゃありません。街が濁水に半ば水没しています。その濁った水面に潜水艦の潜望鏡のような短いポール状のものが点々と首を突き出しているのですが、よくみればこれは街灯の先端部。

 当然のことながら1階は床上浸水どころではなくすっかり水没しており、2階もかなりピンチといった状況です。……いや、2階まで水没して3階まで床上浸水しているという報告もありました。

 この楽昌市、丘陵に囲まれた盆地状の地形ではありますが、平地の部分はかなり広いようにみえます。その広い平野部が1m以上水に埋もれるというのは、どうしたことでしょう。

「他でもない、2つの発電所のせいだ。洪水はひどくなる一方じゃないか」

 という書き込みがありました。ダムや水力発電所を建設してから楽昌が洪水体質になってしまったということでしょうか。水位が上昇する一方なので、屋上に住民が集まった建物が鉄砲水で一気に押し流されていった、という目撃談もありました。写真にも水流によるものなのか、見事に半壊した建物が映っています。

 郊外の農村だと香港と同様に3階建ての「村屋」という住宅が多くなりますから、流されたのはこうした建物かと思われます。濁流が一気に流れ込んで瞬時に2階まで水没させるような状況であれば、上の階に逃げる間もなく溺死した人もいることでしょう。

 写真をみる限り20日時点で水はほぼ退いたようですが、代わりに泥濘とゴミが街路を埋めつくしました。

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 こうなると際どい発言が出てきます。

「楽昌政府は無能、韶関政府は人でなし、中国政府は無情」

「洪水は無情だが政府はもっと無情だ」

「人間ごと建物が流されていくのを政府は黙ってみているだけで、何の措置もとらなかった。もう水が退いて数日になるのに役人どもは何もしない。奴らは人民のためでなく自分のことだけを考えているんだ。道は塞がったままで店も開けないのに連中はどこかで飲み食いして楽しんでやがるんだ」

「どうしてこうなるまで政府は住民に通知しなかったんだ?どうして水が退いた後の清掃・整理作業を政府はやらないんだ?」

「党は『お前らは党を愛せ』と俺たちに言う。『なぜだ』と俺が反問する。すると党はこう言うんだ。『なぜなら俺たちはゴロツキだからさ!』とね」

 http://post.baidu.com/f?kz=115990669

 十数年に及ぶ反日風味満点の愛国主義教育などは、所詮は薄皮饅頭の皮のようなものですね。こういう極限状況下ではその急いで取り繕ったが如き薄皮を突き破って、中国伝統の「官に対する不信感」が一気に噴出します。

「お上は俺たちから収奪するばかりだ」
「民衆のために役人が何かいいことをしたことがあるか?」

 という王朝時代以来の……まあいまも王朝のようなものですが(笑)、ともあれ数千年の歴史が育んだ「官vs民」という図式がくっきりと浮かびあがってくるのです。こうした危険なレスが削除されずに残っているというのも興味深いところです。

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 ところが、こういう状況になると待ってましたとばかりに張り切る連中がいます。官は官でも位の高い連中です。被災地に赴いて、それも本当に危険な場所には立ち入らずに「なんちゃって被災地」の安全地帯で陣頭指揮のポーズをとる。例えば広東省だとトップである張徳江・省党委員会書記が、

「救援活動に力を入れない役人はその場でクビだ」

 と勇ましいコメントを出してみせました。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-07/19/content_4856551.htm

 昨年の広東省は大規模な炭鉱事故の連発や農民暴動、さらに12月には不当な土地収用に抗議する農民たちを武装警察が突撃銃を薙射して死傷させる事件まで発生(「一二・六」事件)。この不祥事続きに一時は張徳江更迭の噂が流れたりもしましたが、そこはさすがに「大諸侯」たる広東のボス。「一二・六」事件もうまいこと闇に葬って地元当局のトップすら馘首されなかったところをみると、中央=胡錦涛からの介入を拒みに拒んでとうとう拒み切った様子です。

「救援活動に力を入れない役人はその場でクビだ」

 という言葉が活字になれば
「何はともあれ民草第一」という気合のこもったニュアンスに読めてしまいますが、行間からは「どんな天災人災もトカゲの尻尾切りで済ませる。自分は安泰、我関せず」という他人事スタンスが滲み出てくるかのようです。被災地の住民であれば、そもそもトップであるお前の責任はどーよ、と言いたくもなるでしょう。

 だいたいネット上で
「楽昌政府は無能、韶関政府は人でなし」などと地元住民が呪詛の言葉を浴びせていた両市当局を張徳江は「よくやっている」と褒めています。被災者の感情を逆撫でするようなものですが、この空々しさが、はからずも「官」と「民」を隔てる埋めようのない溝、距離感を浮き彫りにしているように思います。

 ――――

 そして災害となれば懲りない奴が中共には一匹いましたね。わざわざ着崩れした上着を羽織って現場に出かけては報道陣の前で被害者の肩を抱いたリ、ウソ泣きしてみせる。……他でもない温家宝・首相です。

 今回は湖南省に出向いて親を失った子供の頭を撫でて慰めたり家を失って涙を流す老人に優しく声をかけたりしています。ええ、やはり報道陣の前限定のパフォーマンスです。

 http://politics.people.com.cn/GB/1024/4618643.html

 今回の水害について温家宝は、

「百年に一度あるかないかの大災害」

 と表現していましたが、そうなってしまったのは天災ばかりが理由ではないでしょう。治水や土砂災害対策など防災を二の次にした乱開発のツケもあるのでは?

「百年に一度あるかないかの悪政」

 の責任は誰がとるのでしょう?政権も首相も民意に拠って立つものではないので説明責任もなし、といったところですか。

 報道陣を前にした芝居となるとまめまめしい温家宝は避難民が収容されている中学校にも足を運び、

「食事に問題はないか」
「ちゃんと食べているか」
「白湯は足りているか」
「暑い日が続くから暑気当たりしないように」

 などと声をかけて回ったようです。それに対して、

「大きなお世話だ。それより早いとこ何とかしてくれ(怒)」

 と口にするのは無理にしても、内心そう思うことができればまだマシ。……なんですが、中国の民度だとやっぱり「親民総理」降臨のまばゆさに目が眩んで平伏してしまうのでしょうね。

 水戸黄門テイスト、とすれば日本の江戸時代初期。未だに「依法治国」(法治主義)をわざわざ掲げなければならない政権ですから、まあこんなところでしょうか。

 ともあれ人口は増える一方。


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 前々回のエントリーに「foifoi」さんが気合のこもったコメントを寄せて下さいました。「中国観察の真似事(チナヲチ)」という当ブログの趣旨からは外れてしまうのですが、なかなか興味深い御意見ですし、また私にとって「ACG」(アニメ、コミック、ゲーム)は本業・副業で多少は縁のある業界でもあります。折角ですから少しばかり口をはさませて頂くことにしました(笑)。

 「foifoi」さん、コメントありがとうございます。以下がその内容です。

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 ううん、とうならされるものがありました。

 確かにアマチュア、プロのレイアーは物を作る世界では決して避けて通れないものですね。

 ただ、日本のアニメもマンガもゲームも色んな形で地盤沈下を起こし、このままだとこの三つはみんな衰退してしまうのではないかという現状があることも書いてくださいな、誰か。

 ――

 一応こちらの知る限りの日本の現状を書くとすれば…

 日本のアニメは自爆寸前、マンガは長期低落で自暴自棄に近いことになっている。ゲームはもはや産業として沈没寸前。アニメは今や日本人よりも韓国人や中国人の方が良く見られる環境。

 地方局のアニメ放映状況
 http://www.planning-ai.com/yuki/chihou/
 http://www.d-paranoia.com/anime/anime.html

 都市部からいったん離れたら、TVで放映しない、P2Pも規制されている、レンタルビデオ屋も減っている。

 十元も出せばきれいな海賊版が手に入るのに日本だと同じものを6千円から8千円も出さないと買えない。

 今のアニメ産業は萌えに狂ったオタクと、アニメそのものを支えるために犠牲になろうとするアニメ好きの篤志家によって、ようやく支えられている状態ですよ。しかも彼らの財布も尽き欠けている、棚はもう見ないDVDであふれかえっている。

 ――

 マンガは三大少年漫画誌の場合、全部併せてそれでも往年のジャンプの部数にとうてい及ばない、部数が最高期の二割程度にまで落ち込んでいるマンガ雑誌が多い。

 にも関わらず、ほとんど廃刊するためにとしか思えない無謀さでコミケ上がりや元ベテランを大量に抱えて少年向けマンガ雑誌を中堅どころが続々新規出版している。

 マンガ家の稿料も横ばいか低落傾向にあって、今まで食えていた作家もそのあおりで食えないどころか、連載にかかる自己負担のコストで借金を背負うことになった作家も出始めている。コミケがあるからどうにかなっている作家も数多い。

 ――

 ゲームはもう… 

 http://www.yukan-fuji.com/archives/2006/06/post_6167.html

 結局は任天堂頼みで、これがこけたら日本のゲーム業界にはもう後はありません。

 アーケードゲーム業界は以前と比べたらもう業界と呼べる規模ではない、一部の大規模カードゲームがどうにか気炎を吐いているほかは無いも同然。

 PCゲーム業界は滅亡。上に御家人さんがかかれたアジア産ゲームもあくまでもオフラインの話であって、今やPCゲームの主役であるオンラインゲームは、米韓台の主戦場に中狂がいかに殴り込もうかという舞台に成り代わっていて、日本はその陰に隠れているだけのていたらく。

 エロゲーなどの美少女ものもジャンル的にも売り上げも末期状態。FPSとMMORPGが主流の世界にまったく食い込めない。FFくらいしか目立ったソフトがない。

 ――

 またアマチュアそのものも、マンガ家の場合あるベテランをして「最近のマンガ家志望者の作品は、技術は極めてすばらしいのに、出てくる内容といえば翼を持ったような戦闘系美少女が男の代わりに戦ってそれで傷ついただのどうだのと言った内容ばかり」と嘆かせるほどに、似たり寄ったりが激しいと。中狂を笑えないくらい枠内に収まる傾向が強い。

 中国を笑えません。

 ――――

 ……以下は私の見方です。

 >>foifoiさん

 御指摘の件、当ブログで論ずるべき内容ではありませんが、私なりの考えを書いておきます。

 ああその前に最初に一言申し上げておかなければなりません。

 知的財産を侵害したものである海賊版の存在を肯定し、また海賊版が多数派を占めるマーケットと正規品が圧倒的に多い市場(日本)を比較して論ぜんとするfoifoiさんの立場には、私は全く同意できません。いかにアニメ・コミック・ゲーム産業の現状や前途を憂慮する言説を展開なされても、海賊版やP2Pを引き合いに出している時点で説得力を失っているということに気付いて頂きたいものです。

 ――――

 日本のアニメ産業の不振は業界の構造的変革によるものでしょう。劇場用作品で実績をあげているスタジオジブリのようなところを例外とすれば、深夜帯放送のアニメ番組が増えた時点で時代が変わった=構造的変革が行われたといえます。

 具体的には、ゴールデンにアニメだと視聴率がスポンサーが……というテレビ局側の事情ばかりでなく、作り手側がメディアミックス化や関連グッズ販売に必要以上に色気を出したことで、御指摘の通り、ユーザーが限定されてしまったという印象です。

 そうなるとクリエイターはクリエイターで、内容的にも制作時間の面でも、そうした「関連ビジネスありき」といった制約のもとで創作を行わなければならなくなります。一種の悪循環ですね。

 ある意味不幸ともいえるのは、1990年代半ばから3D表現やアニメーション利用が可能な32bit家庭用ゲーム機、特にプレステ(プレイステーション)がライトユーザー層にまで普及したことで、メディアミックス化に拍車がかかったことです(アニメ業界はむしろセガサターンを贔屓にしていましたね。あのゲーム機はアーケードに始まってアニメで終わったという観がありました)。

 メディアミックス自体は悪いことではないのですが、日本のアニメ業界はそれによって安直な方向へ舵を切ってしまったというところでしょう。他方、「宇宙戦艦ヤマト」や「アルプスの少女ハイジ」、また「ガンダム」(0079)などでアニメに魅力を感じた世代が歳を重ねていっても、その世代相応の作品を提供することができなかった制作会社やクリエイターの責任も重いのではないかと思います。

 ――――

 その点、団塊の世代という巨大なマーケットと共に歩んできた日本のコミック業界は、団塊の世代と共に歳を重ね、顧客の年相応に成熟した作品を生み出すことに成功して、「マンガ=子供のもの」というのが偏見に過ぎず、コミックがオトナの鑑賞にも耐え得る豊かな表現力を有していることを証明してみせました。

 現在のコミック業界は確かに長期低落傾向があります。ただこれは少子化や他のメディアの台頭(テレビゲーム、携帯ゲームやインターネット)による影響が大きく、避けようのない状況だと思います。業界の成熟と市場の拡大終末点到達(飽和化)となれば作り手の寡頭化も進みます。

 そもそも長期低落傾向は日本のコミック業界だけでなく台湾や香港も同じであり、むしろ紙媒体全体が直面している問題といってもいいでしょう。ちなみにコミック誌を有する日本の出版社の多くは10年ほど前から単行本だけでなくコミック誌としての中国進出を企図して動いているのですが、出版面での中共の規制が厳しく、未だにそれが実現していないのは惜しいことです。

 要するにアニメとコミックは、中国や韓国の門戸開放及び海賊版退治がある程度進めばまだ業界として発展する余地はあり、日本の業界の競争力に照らせばまだ希望はあるといえます。翻っていま現在の中国におけるアニメ・コミック産業に逆のことが、つまり日本市場に大挙来襲し一定のシェアを獲得することができるでしょうか?

 ――――

 ゲームは家庭用ゲーム機(テレビゲーム機)が端境期に入っていることを無視して現状を「地盤沈下」と表現するのは誤った見方だと思います。

 アーケードゲーム業界が終わったも同然になったのは御指摘の通りです。家庭用ゲーム機がアーケードゲームと同等の表現力を持つようになったこと、それにライトユーザーと呼ばれる一般消費者層がテレビゲームへの偏見を捨てた時点でアーケード業界の終わりが約束されたといっていいのではないかと思います。

 ただテレビゲーム業界が一見不振のように見えるのは、プレステがもたらしたバブルがはじけたのと、上述したようにゲーム機の世代交代の時期に入っているだけのことです。プレステからブレステ2への移行期、特にプレステ2発売を3カ月後に控えた1999年のクリスマス商戦期にもハード・ソフトとも市場の大幅な縮小がみられたことを御記憶でしょうか?

 ソフト業界の寡頭化(中小メーカーが潰れるか大手に吸収されるか下請けになるか)が進んでいる状況には淋しさを感じますが、これは大衆的娯楽として定着した業界が往々にしてたどる道ですから仕方ないかと思います。

 「結局は任天堂頼み」とのことですが、私の見方は正反対です。任天堂はこの十数年間、ゲーム業界への貢献度は極めて低かったと言わざるを得ません。ニンテンドウ64以来顕著になっている悪弊ですが、任天堂ゲーム機のソフトで売れているのは主に任天堂自身が開発したゲームばかりで、サードパーティーにとっては恩恵が少ないからです。

 ――――

 いまDS(ニンテンドーDS)で売れているゲームも大半が任天堂のものばかりでしょう?私はゲームボーイという地盤を引き継いだDSに比べ、ゼロからスタートしたPSP(プレイステーション・ポータブル)が結構検討していることにむしろ注目すべきだと思います(過去のゲームボーイに対する他社の携帯ゲーム機を想起して下さい)。

 いくら開発コストが安くても、ハードの台数が少なければソフトメーカーは商売になりません。またゲームボーイ時代が示したように、いくらハードの台数が多くても、「任天堂ゲーム専用機」のようなスタンスではやはりサードパーティーから敬遠されてしまうのです。

 DSのカギはかつてのプレステのように、ライトユーザーをつかまえて放さないようなゲームソフトを任天堂が今後も出し続けていけるかどうかだと思います。

 任天堂はサードパーティーに胸襟を開きつつ、携帯ゲーム機(DS)でつかまえたライトユーザーを新たな家庭用ゲーム機(Wii)へと誘導し、プレステのブランドイメージを打破できなければ終わりです。ソフトメーカーは制作コスト高でもプレステ、プレステ2と販売台数に実績のあるソニコン(SCE)になびきますから。

 実際、スクウェア・エニックスが任天堂のWiiでドラクエを出すという発表がありましたが、あれはあくまでも外伝的な作品であって本編ではありませんね。要するに模様眺めをしているのです。

 まあプレステ全盛時代は一種のバブルで当時ほどの活況は望めないとしても、新世代ゲーム機の相次ぐ発売でテレビゲーム市場は再び元気を取り戻すでしょう。ただしプレステ2同様、当初は「売れるのはハードばかりでソフトはさっぱり」という状況になるかも知れませんけど。……プレステ2が発売された2000年(03/04-12/31)、プレステ2本体の販売台数は、プレステ2専用ゲームソフト販売本数を上回っているのです。

 ――――

 PCゲームは御指摘の通りスタンドアローン(オフライン)には全く期待できない状態で、インフラさえ整えばゲームの開発コストが低くて済むネットゲームの制作にソフト業界が流れるのはごく自然なことだと思います。ただネットゲームの多くはその課金システムに由来するのですが、「やり込む」つまり長く遊ぶことを前提としているため、ライトユーザーには敷居が高いという欠点があります。

 ……となれば市場が限定される上に、その限定された市場がいくつかの有名ゲームによる寡占状態になってしまうという壁が生まれ(実際にそうなっていますが)、それを突き破るのは難しいでしょう。台湾メーカーの下請けや外資系などではなく、中国メーカーが独自開発したどのゲームが米韓台に殴り込めるクオリティを持っているのか知りたいものです。

 ちなみに私見ながら、日本が中国・台湾・香港・韓国などに比べてネットゲームが振るわないのは、単純にいえばそれらの国・地域に比べれば日本には多種多様な娯楽が存在し、ネットゲームが未だその中の有力な選択肢のひとつになり得ていないからです(テレビゲームはプレステ時代にこのハードルをクリアして「有力な選択肢」のひとつになっていますね)。

 ですから日本は総人口の割に市場規模が小さいままで、国産ゲームでいえば「FF」くらいしか必要とされないし、他社が割り込んでいく余地もない。米国は市場規模が大きいいようにみえますが、あれは実際にはマニアの世界です。総人口に占める比率でいえば決してライトユーザーなど一般層にまで普及しているとはいえません。

 ――――

 アニメ、コミック、ゲームを問わずアマチュア層に対して厳しい意見が出るのは何も最近に始まったことではなく、10年以上前から繰り返されている「いまどきの若い者は全く」調の愚痴のようなものです。私も主に副業で著名クリエイターたちと接する際に似たような話を聞きますし、アマチュア層だけでなく業界自体(プロ)への苦言を耳にすることも少なくありません。

 ただ、そうやって愚痴の対象にされながらも、アマチュア層が日本にはあるということを貴重だと思うべきです。

 日本から中国、韓国、台湾、香港……と南下していけば恐らくシンガポールあたりまでが日本の「ACG」産業にとって市場となり得る地域でしょうが、この地域でプロへの人材供給源たり得るしっかりしたアマチュア層を擁している国がどれほどあるでしょうか。

 私の可視範囲でいえば中国、香港、台湾……俗にいう「中港台」ではそれがまだ不十分で、それゆえP2PだのBTだの昔ながらの海賊版だのが市場を跋扈しています。そして、その被害者の圧倒的多数が日本の作品だという事実が示しているものは何でしょうか?アニメ、コミック、それにテレビゲームや携帯ゲームまで……。

 ――――

 「中国を笑えません」とのことですが、このテーマについて私はどちらかといえば楽観的に考えています。もちろん、ゲームがありさえすれば中共の理不尽な規制措置まで堂々と肯定してしまう某『フ×ミ通』を出している会社のヒゲ社長ほど私は脳天気で浮世離れしてはいません(笑)。

 ただ、いくつかの障壁が除去されれば、技術の蓄積に勝り、人材源としてのアマチュア層を有し、少なくとも東アジアの範囲では普遍性のある(=様々な民族に受け入れられやすい)作品を制作することに秀でた日本の業界が頭ひとつ抜けた競争力を持っていると私はみています。あちこちの国で海賊版が出てしまうという事実はそれを裏打ちするものに他なりません。この域に達するのは容易なことではないでしょう。

 日本の業界がそれぞれ問題を抱えていることは事実ですが、中港台韓の業界はより深刻な問題に悩んでいるか、さもなくば低いレベルで満足してしまっているかのどちらかでしょう。アニメ、コミック、ゲームについていえば、東アジアにおける最大の消費市場である筈の日本は、その関連産業が誕生して以来、未だ他国の作品に席巻されたことがなく、有力なシェアを持つことを許したこともないのです。



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 私は完全夜型生活で、宵の口に起き出して仕事にかかります。ながら作業になる中共関連の記事集めは午前1時から。これは中国時間午前0時なので、1日分の記事を一回で漁ることができるからです。

 それで香港紙から回っていくのですが、昨日(7月20日)は天皇だの靖国だのと何本か記事が出ていたので何事かと思えば、A級戦犯を合祀したから靖国には行かないと昭和天皇が言っていた、という元側近のメモが出現したそうで。

 なるほど、「八・一五」までもう1カ月を切っているんですね。私は昨年のその日、靖国神社で浴びた都心とは思えない凄まじい蝉時雨を思い出してしまいました。……真偽の定かでないメモで季節感を覚えてしまった訳です(笑)。

 で、そのメモについて中共がどう反応するかと眺めていたのですが、どうもいまひとつノリが悪いのです。初動としては気合不足といった印象で、これからメディアを総動員した反靖国攻勢が始まるような感じはあまりしませんでした。まあ騒げば騒ぐほど逆効果になることぐらいは学習したのでしょうか。騒げばいいのに(笑)。

 ――――

 ところでこのネタ、私にとっては中国がどう動き、中国の政情にどういう影響を与えるかということだけに興味があって、あとは関心の外です。私の場合は先人に「ありがとうございました」と言うために靖国神社に足を運んでいます。むろんその行為は天皇のためでは断じてありませんし、天皇が反対しようがなんだろうが私の知ったこっちゃありません。

 あいにく私は勤王の志士ではないので皇室には興味も関心もないのです。国民の統合の象徴だとも思っていません。実感できませんので。もしアンケートで皇室の存在について問われたら、

「別にあってもなくても……でもやっぱり残しておく方がいいのかなあ」

 と答えるでしょう。2000年以上にわたり受け継がれてきた血脈というのが事実なら、それは世界遺産のようなものですし、古来の伝統を継承してきているという価値もあります。まあその点は認めてやっていいのではないかと。トキを絶滅させるな、というようなものです。

 それにしても、天皇は参拝しなくても春と秋の例大祭には靖国神社に勅使を寄越しているそうですね。勅使!そんなものがまだこの世に存在しているとは思わなかったので驚きました。これには屋久杉もビックリでしょう。

 「天皇の発言」とされる内容について、私は言いたいことが多少あります。でもまあ、まだ証拠とされるメモ自体が怪しさ満点ですから、このくらいにしておきます。

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 さて本題。以前「義理ブクマ」なるものを御紹介したことがあるかと思います。当家の隠居とその友人などが「アフィリエイト」という甘言に踊らされて我も我もとブログを開設。ただし一切の実務は私に押し付けるという、親孝行にはなるのかも知れませんが迷惑千万な話です。

 ところが幸いなことに、最近になって隠居以下からの連絡が滞りがちになりました。思惑が外れて失望し、更新意欲が薄れてきたようです(笑)。

 ――――

 お蔭でこちらは時間的にやや楽になりました。このところ自分のブログを更新するのもままならなかったのですが、少しずつ常態に復していけるかと思います。

 当ブログは私の娯楽における大黒柱ですから別格なのですが、余暇の余暇である「楽しい中国ニュース」はなかなか連日更新という訳にもいきません(あの作業はなかなか大変なのです)。

 個人的にはむしろ、別種の情報発信を試みたいということで「御家人の中文書館」を充実していきたいとずっと考えてきました。

 ところが私が利用している中文書籍のネット通販、これはなかなか重宝するもののジャンルが限定されていて、中共関連、特に政治・経済・社会の品揃えが貧弱。雑誌も肝心のものが扱われていなかったりと、内容には不満が残るといわざるを得ません。

 ――――

 ……で、それじゃあ自分で穴を埋めてみようと考えた次第。私自身が手に入れたい、またみなさんにお勧めしたい本や雑誌、またCDやDVDなどにはネット通販がカバーしていないものがたくさんあるので、今後徐々に手を広げていくつもりです。

 ●御家人の中文書館(露店版)

 とりあえず香港の政論誌である『争鳴』『開放』『動向』の最新号を並べてみました。おヒマでしたらのぞいてやって下さい。

 m(__)m


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「上」の続き)


 「表現の自由」という問題、政治や社会問題を扱った作品やルポルタージュもこの「枠」に苦しんでいるものの、むしろアニメやコミックの方が娯楽性(面白いかどうか)という点で海外の作品との違いがより際立ってしまう。だからこの分野で海外の作品が流入することを防がなければ、中国ではたぶん日本のアニメやコミックが氾濫することとなり、視聴者や読者もまたそれを支持する筈。

 そして、いきおい中共によってようやく公認された中国国内の「アニメ・コミック産業」は日本の下請けになるか、あるいは国内市場でもそれなりの規模があることから海外では見向きもされない駄作を量産し続けることになるのではないか。ただ海外作品の大挙流入となれば駄作の量産もままならず、結局は下請けに転じることになるかも知れない。

 ――――

 という趣旨のことを「上」の文末に書きましたが、あるいは台湾がその好例といえるかどうか。……日本のコミックを入れることで地元クリエイターの水準も上がる、と当初は期待されていたものの、実際には日本のコミックが地元作品を駆逐してしまい、いまや市場の9割を占めるに至っていて、レベルアップどころか廃業に追い込まれた地元漫画家が結構いる。……とは、私が台湾の出版社にいたころ同僚(コミック編集部長)から聞いた話です。

 テレビゲームになると実力差はいよいよ歴然としてきます。ゲームシステムや世界観の考案者に始まってプログラマーはもちろん、キャラクター設定を担当するイラストレーター、ストーリーを任されるシナリオライター、それに作曲家や声優などが加わる一種の「総合芸術」のようなものですから、恐らくアニメやコミック以上に違いが際立つことでしょう。

 つまり、各面で一定レベルの人材が揃っていて、さらにそれを上手にまとめて作品に仕上げるプロデューサーがいなければならないからです。

 これまた台湾の話ですが、かれこれ十年ばかり前、PCゲームメーカー10社近くが日本のテレビゲーム業界への進出を狙ったことがありました。

 セガという会社の支援を受けつつセガサターンという家庭用ゲーム機のゲームソフト開発に取り組んだものの、結果は散々。作品完成にこぎつけたのが2社(いずれも悲惨な営業成績)、残りはPCゲームよりずっと手間のかかる作業に途中で挫折し、中には本業(PCゲーム開発)が疎かになって倒産してしまったところもありました。

 このときも私は取材者として近くで眺める機会を得たのですが、最終的に作品として完成したうちのひとつのゲームのβ版を「どうです?」とみせてもらって凍りついてしまった経験があります。言葉にすれば、

「あんたそれ本当に日本で売るつもりかい?正気か?」

 ……といったところです。テレビゲームは各方面の人材が集まって制作される一種の「総合芸術」と前述しましたが、その「総合力」の差がモロに出てしまっていたのです。

 ――――

 ところで「表現の自由がない」中国本土といっても一定の枠内での創作は許されており、例えば「ガンダム」や「名探偵コナン」はその枠内にある作品だからこそ中国国内でもアニメやコミックとして存在を認められているのでしょう。このことは重要です。

 以前、国家広播電影電視総局の担当者が報道陣を前にしたスピーチで男泣きに泣いていましたね。「名探偵コナン」をテレビで観ていた11歳の娘に、

「いつになったら中国のアニメもこれくらい面白くなるの?」

 と無邪気に問いかけられて答えることができなかった。それで自国の子供たちに申し訳ない気持ちになって……などと語ったところで涙となって、5分ほど嗚咽が止まなかったとか。

 ●国産アニメは秀作が不足 担当司長が涙の演説(人民網日本語版 2004/08/27)
 http://j.people.com.cn/2004/08/27/jp20040827_42840.html

 真面目な役人さんなのでしょうけど、この涙に報道陣からは期せずして拍手が湧き起こったそうです。もっとも拍手した方は取材者・報道者として常に中共の規制に縛られている身ですから、複雑な心境だったかも知れません。

 クリエイターの育つ社会状況、センスが磨かれる環境、そしてアニメやコミックに対する社会の肯定度に日本とは大きな開きがありますから、いくら力んでみても無駄。泣くしかありません。

 ――――

 そこで私はむしろ「表現の自由」より重要なのが「結社の自由」なのではないか、と考えるのです。

 一定レベルと規模を有するアマチュアがいて、社会がその存在に否定的でなく、さらにプロ(業界)との間にパイプがあって、アマチュアが新人として業界を補強する存在になっている。……日本の音楽業界ならストリートシンガーやインディーズが「アマチュア」に当たりますし、サブカルチャー分野での同人活動も同じ役割を果たしています。

 テレビゲームでいえばシナリオライターの卵だとか声優志望者、そして音楽やコミックのアマチュアが土台となり、新人の供給源になっている訳です。これはスポーツも同じことで、レベルの高いプロリーグを持つ国というのは往々にして有力なアマチュア層が存在していることでそのレベルを維持していられるのです。

 ところが「結社の自由」がないとなれば、特に音楽やサブカルチャーの分野において強力な業界の存在を保証する人材補給源(アマチュア)が機能せず、いきおい国際レベルで通用する作品をコンスタントに送り出せる業界を確立させることはできません。

 中国は今回発した通達によってアニメ・コミック業界(プロ)へのテコ入れを表明したものの、アマチュア育成に関してはすっぽり欠落しています。「結社の自由」が保証されていない(いま同人組織を設立できても、いつ当局によって潰されるかわからない)ことは全くケアされていません。

 反日活動で有名な「中国民間保釣連合会」「愛国者同盟網」などは相当強力な政治的保護者がバックにいると思われますが、それでも折にふれサイトの一時閉鎖のような処置を喰らっているのです。そういう不安定な環境で有力なアマチュア層を形成させるというのは無理な相談ではないかと思います。

 ――――

 唐突ながら、私が新卒で入社した商社がバブル崩壊の嚆矢となってわずか3カ月で倒産(笑)、そのあとなぜか香港の日系企業に入ってしまい、なぜか働きが良かったらしく試用期間終了後に給料がドーンとアップし、さらには旧正月休みに社長が御褒美として台湾旅行をプレゼントしてくれたことがあります。

 ●台湾と台湾人。(2005/12/19)

 1990年代前半の話です。私にとっては初めての台湾で、初めてだけに何もかも珍しく、また何もかもが香港では広東語でがんじがらめにされていた私を癒してくれました。

 旧正月期間だったのでみられるものには限りがありましたが、それでも自分なりに色々とみて回り、それらが全て私の台湾観・台湾人観の基礎となりました。その多くが当時の香港ではまず存在しないものばかり。そして、その中のひとつに「アマチュア」がありました。

 ライブ喫茶というか、大きめの喫茶店あるいはレストラン?の正面に舞台があって、そこでアマチュアのミュージシャンが代わりばんこに歌うという体裁のもので、アコースティック・ギターの弾き語りといった、ノリよりも叙情優先という雰囲気の空間です。

 台湾では行く先々でやっていた通り、そのときも私はウエイトレスをとっつかまえて「バイト?時給いくら?大学生?」などと質問責めにしていたのですが、当然ながら舞台で歌うアマチュアのミュージシャンにも話題が及びました。で、ここでのパフオーマンスを買われてプロになる例もあると聞き、ほーっと思ったものです。

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 当時の香港では人気歌手4人を「四大天王」(劉徳華、黎明、郭富成、張学友)ともてはやし始めていたころでした。それはそれでいいのですが、香港においてはアマチュアに与えられた日常的な活動場所は私の知る限りでは皆無といってよく、街角で歌う奴もいなければ楽器屋も話にならないほど貧弱。

 それだけにアマチュアに舞台が用意され、音楽業界(プロ)との間に一応のパイプがある、つまり人材供給源として機能するアマチュア層が存在している台湾の音楽業界はこれから伸びるに違いない、と考えたりしました。

 それから十数年経ちましたが、状況は歴然です。以前は「四大天王」をはじめ香港芸能界の狩り場でしかなかった台湾から少しずつ力のある若手が出始め、いまでは逆に台湾の芸能人が攻め込んで香港を席巻する始末。

 香港は「四大天王」にあぐらをかきすぎて新世代の台頭が遅れ、「F4」やジェイ・チョウ、王力宏など続々と輩出される「台流」の担い手たちに受け手一方という観があります。前途は未だ不透明ながら、「台流」が日本に静かに浸透しつつあることも確かです。

 そうした潮流を生んだ原因に上述したようなアマチュア層の存在がどれほど寄与しているかはわかりません。単なる私の思い込みかも知れませんし。ただ「台湾の音楽業界はいずれ香港を凌駕する」と言い続けてきた私を笑っていた香港の仕事仲間たちは私の前で最敬礼してくれます(笑)。

 むろん普通選挙制が敷かれている台湾とそれが未だ実現していない香港との差がクリエイティブな活動に反映され、音楽業界にその具体的表現が現れたもの、と強弁するつもりもありません(本当は強弁したいのですけど)。

 ただ、これまで「No money, no talk」の香港では職人技に敬意が払われることが少なく、金持ちになったかどうかが人生の成功・失敗を論じる上での唯一の基準であり価値観でした。

 こういう土壌ではアキバ系香港人のいう「ACG」(アニメ、コミック、ゲーム)はもちろん、音楽活動ひいては文化芸術一般について、またその道を志す者に対して社会は決して寛容ではありません。この点は台湾とはかなり違っているように思います。

 財閥二世が財界を動かし、社会階層が固定化しつつある最近になって、「香港ドリーム」と呼ばれた香港人の成り上がり願望は学歴追求へとようやく変化しつつあります。こうした地殻変動の中から価値観が多様化していけばいいなあと思っているところです。

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 例によって話があらぬ方向へと流れてしまいました。要するに現在、中国政府はアニメとコミックを「産業」として公認し、関連予算計上とか投資増という形でテコ入れしようとしているようですが、実力の伴う業界へと発展するにはそれだけでは条件不足。しかも大切な部分ががすっぽり欠落していることに中共は気付いていない、あるいは気付かぬふりをしている、という印象です。

 足りないものは「表現の自由」であり「結社の自由」。それによってアマチュア層に活動の場が与えられ、社会もまたそれを肯定するような空気を醸成させて、強力な業界たるべくアマチュア層がプロへの人材供給源として機能することです。あとはないものねだりですが価値観の多様化、といったところでしょうか。

 党の定める「表現」の枠内で日本人は「名探偵コナン」を創っているのに、中国人にはそれが創れず未だに国産アニメやコミックは十分に太刀打ちできないでいる。……やっぱり「一党独裁制」とか「普通選挙制」とか、そういう言葉でまとめる方がいいのでしょうか?



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 北朝鮮に関する国連安保理決議の件、中国国内メディアも報道しましたけどサラリと流した印象でした。2日経ったらもうサミットに軸足を移していて、安保理決議?何それ?というノリでしたね(笑)。

 お約束の自画自賛報道すら目につかなかったというのは、中共にとってよほど思惑通りに事が運ばなかった証拠。特に北朝鮮説得失敗で不機嫌なのでしょう。八つ当たりに「敵基地攻撃能力」を「先制攻撃」に故意にすり替えて日本を叩いていましたね。まあ不機嫌でなくてもセオリーな展開ですし、香港の新聞も概ねそんな感じでしたけど。

 「格」の話をすれば、説得に当たるとされて注目された武大偉・外務次官は一連の説得工作における露払いの役割でしかなかったのだろうと思います。外務次官というポストですから会える相手も話す内容も限られます。次官級協議で話題もたぶん六者協議復帰に限定、というのが実情だったのではないかと。

 その後に北朝鮮入りした回玉良・副首相が本来ミサイル発射や安保理決議を含めた北朝鮮の回答を持ち帰る役目を急遽担わされたのでしょうけど、この人も最高意思決定機関である党中央政治局常務委員ですらありません。胡錦涛・総書記がブタキムに電話ぐらいしたかも知れませんけど、結局は袖にされてしまいました。

 ……という流れだったのかなあと考えているのですが、実際どうだったのかは謎のまま。ただ中共系メディアが不機嫌ぽいので上のような展開を想像するのみです。

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 しかしやっぱり外患よりは内憂なのです。中国の今年上半期のGDP成長率が前年同期比10.9%に達していることが昨日(7月18日)正式に発表されました。第二四半期だけをみると何とまあ11.3%!「走り過ぎだろ。引き締めろよ手綱」といわれた第一四半期(10.3%)より大幅に加速しています(笑)。

 他の指標も安定成長に乗せる筈だった経済がオーバーペース気味に疾走していることを示していて、各地方勢力たる「諸侯」どもが胡錦涛率いる中央の指示を無視して突っ走っている構図が改めて浮き彫りにされた格好です。経済過熱懸念で報道もヒートアップ。

 「いやいやまだ大丈夫」と豪語するエコノミストもいますけど、増速していることで事態が香ばしい方向に向かいつつあることは確かです。以前ふれましたが、中国の場合は経済成長率が高ければ高いほど地域間格差や貧富の格差が拡大しますので、現時点での高度成長は逆に社会不安を高めることになりかねません。

 ――――

 今回はそういった旬の話題には背を向けます。アキバ系香港人のいう
「ACG」(アニメ、コミック、ゲーム)の中国国内における動きについて、鮮度が落ちないうちに取り組んでおきたいのです。……あ、ゲームには触れられていないのでアニメとコミックですね。

 ●国務院、アニメ・マンガ産業発展への「意見」発表(人民網日本語版 2006/07/15)
 http://j.peopledaily.com.cn/2006/07/15/jp20060715_61436.html

 原文はこちら。

 http://news.xinhuanet.com/newmedia/2006-07/15/content_4835442.htm

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 この記事によると、政府がこのほど「中国アニメーション・マンガ産業発展に関する若干の意見」なる通達を発しました。財政部、教育部、科技部、情報産業部、商務部、文化部、税務総局、工商総局、国家広播電影電視総局(放送事業を統括)など10部門が作成したものとのこと。

 主な内容は、

 (1)定義=アニメ・コミック産業とはいかなるものか。
 (2)中央政府・地方政府はアニメ・コミック産業振興予算を計上するように。
 (3)銀行や国内企業による投資促進とアニメ・コミック関連企業の企業制度確立を急げ。
 (4)アニメ・コミック産業の発展を支援するため海賊版など知的財産権保護を強化しろ。

 ……といったところです。「定義」から入っているところからみると、あるいは「アニメ・コミック」を初めて産業として公認した記念碑的な通達といえるかも知れません。

 ともあれ食べるのに精一杯な時代なら一顧だにされず、それゆえ商売として成立しない「どうでもいい」種類のものが「産業」として認められたことは、中国が歪んだ形ながらも経済発展を実現しつつあることの証拠といっていいでしょう。

 ただ、喜ぶべきことなのかどうかは疑問です。

 ――――

 「定義」を以て公認されたというのは、コミックとアニメ、またその関連グッズなどが「文芸」(文化芸術一般)のひとつとして中共に認知されたことになります。そして、それによって同時に枠をはめられたともいえます。

 ここで必ず持ち出さなければならないのは延安における毛沢東の「文芸講話」(1942年)です。ざっくりと言ってしまえば、

「『文芸』は人民に奉仕する存在でなければならない。クリエイターたる者は人民に奉仕する作品を創造することに一意専心、励まなければならない」

 というもの。当時は「人民」=「工・農・兵」と単純な色分けで済みました。現在はそれが複雑になり、資本家でも中国共産党員になれる時代ですから北京の紀念堂で充電中の毛沢東もビックリするでしょうが、「人民に奉仕する」という線はそのままでしょう。これがクリエイターを縛ることになります。

 「人民に奉仕する」ものしか創れないということ、それからその判断をするのが中国共産党だということ。……さらにもう一点、実は最も重要なのが現在の政治状況下ではアマチュア層が育たないということです。

 ――――

 私は副業でサブカルチャー関連業界に接する機会が多いのでこういう問題には非常に興味があります。一度反日サイトの掲示板でこの話題が出たとき例によって「なんちゃって香港人」として議論に加わった私がその「文芸講話」を引き合いにしてつらつらと上のようなことを書き連ね、

「政治的自由のない国では自由な発想が許されず、一定の枠内での創作を強いられる。だから結局いい作品は生まれない。天才が生まれることはあってもそれは例外的なケースで、海外と伍する実力を有した業界を形成することはできない」

「それに天才であれば恐らく国内の状況に嫌気がさして海外に活動拠点を移すだろう。米国のハリウッドで才能を発揮しているのが必ずしもアメリカ人とは限らないのと同じだ。より身近には、海外に出た中国人留学生の多くが戻ってこないことを思えばいい」

 という趣旨の書き込みをしたところ、稀有なことに糞青(自称愛国者の反日教徒)どもの喝采を浴びたことがあります。まあ連中にしても「ガンダム」ファンだったり「名探偵コナン」にハマっていたりしますし、劣化した糞青になると「おれは海賊版のガンダムを買ったことで反日を実行した!」という馬鹿もいます(笑)。

 糞青でなくても、「動漫節」(アニメ・コミックフェア)が開かれればコスプレの大半は日本モノだったりしますし。かつての台湾や香港がそうだったように、海賊版も相当数入っていることでしょう。

 ――――

 毛沢東の「延安講話」はいまなお聖なる掟のままですから、現在の中国にあっては表現の自由は認められていません。それで発禁本が出たり新聞が潰されたり記者が逮捕されたりするニュースが後を絶ちません。中共の枠内で創られた作品は面白くなくて海外では勝負にならない。才能のあるクリエイターは無念なことでしょう。

 ただ、そういうクリエイターがどれほどいることか。私たちが中国(ひいては香港や台湾)のテレビドラマやCMをみれば「ダサい」とか「ショボい」と思うことが多いかと思いますが、現地の視聴者の多くはそういう感想を抱かないでしょう。そもそもそういう環境で育ってきたクリエイターが海外でも通用する娯楽作品を生み出すことこそ容易ではないように思います。

 「ACG」に限定していうなら、「技術はあるけど娯楽性に欠ける」という状況が生じるでしょうし、現に副業で取材者として私が接してきた日本の著名クリエイターたちが韓国・香港・台湾の作品(中国は論外)について必ず指摘するのもその点でした。

「アイデアは悪くないし技術もある。でも作品に仕上がってみると面白くないんだよなあ」

 とのことです。

 何年か前、日本の某サブカルチャー業界でのキャリアが長い中国人を中心にチームが組まれ、香港と中国本土に一部の仕事を請け負わせてひとつの作品を世に送り出したことがあります。制作に参加したのは中国人、香港人、それに日本人です。取材者として立ち上げから完成までを眺めていた私が、

「感覚の違いなんかがあって大変だったでしょう?」

 と聞いたところ、中国人リーダーは、

「いや、本当に大変でした。日本人とは問題ないんです。それよりも香港や中国本土の連中とのギャップが大きくて苦労しましたよ」

 と答え、やはり、

「技術はあるけど娯楽性に欠ける」
「エンターテインメントに関するセンスがかけ離れていて話にならない」

 といったことを話してくれました。これは「表現の自由」に関わる問題であり、表現の自由が制限されているために生じる問題といっていいでしょう。

 政治や社会問題を扱った作品やルポルタージュもこの「枠」に苦しんでいますが、むしろアニメやコミックは娯楽性(面白いかどうか)という点で海外の作品との違いがより際立ってしまいます。

 この分野で中国が保護主義をとる、つまり海外の作品が流入することを防がなければ、中国ではたぶん日本のアニメやコミックが氾濫することとなり、鑑賞する方もまたそれを支持することでしょう。コスプレはもちろん、糞青だって「ガンダム」や「名探偵コナン」にハマっているくらいですから。

 そして、いきおい中共によってようやく公認された中国国内の「アニメ・コミック産業」は日本の下請けになるか、あるいは国内市場でもそれなりの規模があることから海外では見向きもされない駄作を量産し続けることになるでしょう。ただ海外作品の大挙流入となれば駄作の量産もままならず、結局は下請けに転じることになるかも知れません。


「下」に続く)



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 「みたままつり」に行ってきました。

 平日とはいえ連休を控えた金曜ということもあり、日が沈んで献灯が味を出す頃合にはなかなかの……というより大盛況になりました。若い人が多かったです。カップルとか仕事を終えたOL風の女性とかサラリーマン、それに学校帰りなのか制服姿の女子高生もたくさんいました。

 それから浴衣姿の若い女性も。和服慣れした足の運び方をする人には爽やかな艶っぽさがあっていいものです(もちろん美人限定)。

「あーやっぱり大和撫子だなー」

 とうっかり口にして「しまった」と思った途端、配偶者に横っ面を張られました。ちょっと痛かったです。ほっぺたをさすりながら、おれのストライクゾーンも広くなったからなあ……ではなくて、初詣のときの盛況ぶりも思い出しつつ、いわゆる「靖国アレルギー」のようなものはあまり作用していないんだなあと考えました。

 ちなみに今年の献灯では森光子さんのものがいちばん印象的でした。

 ――――

 雑談なので話題を平気で飛ばしますが、安倍官房長官に脅迫状を送りつけた犯人が逮捕されましたね。大卒の香港人男性(24)で無職。ニートなのか「隠閉青年」(ヒッキー)なのかはわかりませんが、現今の香港社会を反映した事件のように感じました。

 私はテレビのニュースで脅迫文を見たときに、犯人は香港人の糞青(自称愛国者の反日教徒)か、日本の基地外が香港で投函したものだろうと考えていました。字が下手(中国本土の人間は字だけはきれいに書けます)なのと、日本語が非常に拙かったからです。結局前者だった訳ですが、香港紙の報道によると、日本の香港総領事が香港警察の手並みの鮮やかさを賞賛していたそうです。

 実は賞賛する必要なんか全くないんですけどね。……信じられないような話ですが、犯人は脅迫文の署名に自分の本名を使い、御丁寧にも自宅の住所まで書いて投函したのです。で、香港警察がとりあえず脅迫文に記された住所に足を運んだら犯人がいてお縄にできた、というのですから、これほど手間のかからない事件も珍しいでしょう(笑)。糞青というより真性なんでしょうねえ。

 それで時事ネタに敏感な香港の某BBSに飛んでみたら、やはり犯人を基地外扱いしていました。そこで、

「君たち香港人が気にする必要はない。馬鹿はどこにでもいる。日本にもいる。香港よりたくさんいるぞ」

 と書き込みました。むろん下の句がついていまして、

「ただそれは日本の総人口が香港の20倍くらいあるからだ。総人口に占める比率でいえば、香港の基地外率は日本よりずっと高いな。まあ民度が随分違うから仕方ないよなー、呵々」

 という体裁にしたら可燃度が高かったらしく、この煽りであっけなくスレが炎上、罵詈雑言の嵐に変じたのでこちらはさっさとログアウトです。でも事実なんだから仕方ないですよねー。「副業」の中文コラムなんざ香港人向けなのでかなり内容を劣化させているのですが、それでも「さすがはプロの仕事だ」とかいって有り難がってくれます。当然のことながら褒められてもこちらは全然うれしくありません。すると、

「御家人さんは謙虚だ」
「御家人さんのように褒められるのを嫌がる人も珍しい」

 という誤解が生じて好感度がアップする(笑)という馬鹿らしさ。いや、本当は私だって褒められれば嬉しいです。でもそれは「中国語が上手だ」と言われたときに限ります(これは本当にうれしいです)。

 内容をどう評価されてもこちらにとっては飛車角落ちでやっている仕事ですから、香港の業界人として情けなくなるばかりです。こんな文章を持ち上げているようでは日本との差は広がる一方じゃないか、と義憤したりもします。

 まあ香港というのはすでに終わっている、あるいは終わりを約束された都市であり社会ですから、義憤してやるだけ無駄なんですけど。でも馬鹿ほど可愛いといいますか、あれはあれで懸命にやっているので、……また7年間住んだ場所への多少の思い入れも手伝って、いい素材は何とか一人前に育ててやろうとつい手を出してしまいます。

 ――――

 本来なら旬である北朝鮮関連で何か書ければいいのですが、あいにく私のキャパシティを越えていますのでどうにも料理ができません。ただ外交事は相手があることですからそうそう思惑通りにうまく事を運ぶのは難しかろうとは思っていました。現時点から振り返ると、日本は戦機を逸した観がありますね。

 とはいえこの一件で国民の危機感は高まったでしょう。ブタキムを敢えて保護しようとする中共と韓国の基地外っぷりも再認識されたかと思います(というか、そうであれかし)。中共に拒否権を使わせれば異質ぶりが際立ってなお宜しいかと。中共に言わせると、ミサイルを連射するより、その行為に制裁を課すことの方が東アジアの安定を損ねるそうです。これまた香港の真性顔負けの理屈ですね。

 まあ当ブログの守備範囲でいえば、北朝鮮に言うことを聞かせられない中共は使えないなーということになるのですが、この駄目っぷりが国内政治にも影響を及ぼすかどうか関心があります。「胡錦涛の代になってから北朝鮮を抑えられなくなった」なんて声が出てくると面白いんですけどね。

 ――――

 最後に、これはそのうち詳報する機会があるかと思いますが、中国の第二四半期のGDP成長率が前年同期比10.9%で、第一四半期(10.3%)より一段とペースアップしている模様です。

 http://hk.news.yahoo.com/060713/12/1q2bn.html
 http://hk.news.yahoo.com/060713/74/1q27c.html

 「諸侯」の全力疾走が続いている訳ですね。中央はどうやら戦慄してしまったようで、これに関連しては香ばしい記事もそこそこ出てきています。先行きが楽しみです。



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「四」の続き)


 なるほど、日中両国は7月8日から2日間、北京で東シナ海ガス田開発に関する第6回局長級協議を開催しました。ただこの協議でも中国側は相変わらず一貫して「領土紛争は棚上げして共同開発」なんてムシのいいことを主張しています。

 それなのに今回の協議の直前というタイミングで、日本側への事前通告なしで海洋調査船を尖閣近海の日本側EEZに侵入させるという手荒な真似をすれば、「棚上げ」も「共同開発」もいよいよ説得力を失ってしまいます。

 もしそこを日本側が衝いてくれれば胡錦涛も困るに違いないアル、とそこまで考えて「反胡連合」が事を起こしたのかどうかは知りません。

 ……と前回書きました。そういう深慮遠謀を秘めた一手ではなさそうに思うのですが、結果的に胡錦涛をはじめとする中央政権担当勢力がこの事件に虚を衝かれ、大いに狼狽し困ったことは間違いないと私は考えています。

 その慌てっぷりがなかなか面白かったので長々とここまで書いてきた訳で。以下本題。

 ――――

 今回の「尖閣事件」が発生したのは7月2日午前10時近くで、当夜のうちに日本国内では報道されました。

 ●「毎日新聞/Yahoo!」(2006/07/02/21:47)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060702-00000055-mai-int

 ●「共同通信/Yahoo!」(2006/07/03/01:42)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060703-00000014-kyodo-soci

 私は当日夜のテレビのニュース(たぶんNHK)で知ったのですが、日本側の抗議に対し、東京の中国大使館からは、

「いま事実関係を確認している」

 という反応が帰ってきたというので驚きました。「らしくない」からです。……本来なら、

「釣魚島とそれに付属する島嶼は古来中国の固有の領土であり、中国側はこれについて争議の出る余地のない主権を有している。釣魚島が日本の領土であることを前提とした日本側からのいかなる交渉も中国側は受け付けない」

 とマニュアル通りの傲然たる回答が返ってくる筈です。ところが意外にも
「いま事実関係を確認している」という頼りないリアクション。この言葉で最初に思い出したのが2004年秋に発生した中国原潜による日本領海侵犯事件でした。

 ●貴重なる周章狼狽(2004/11/13)

 中共政権が日本に向けて発したメッセージなのであれば、この「らしくない」コメントを第一声とする一連のドタバタ劇はまず起こらなかった、と思うのです。

 ――――

 香港では翌7月3日午前に論評抜きで事実関係だけの短い記事が第一報となりました。「いま事実関係を確認している」も登場しますが、こちらは北京の外交部が言ったことになっています。

 ●『星島日報』電子版(2006/07/03/11:41)
 http://hk.news.yahoo.com/060703/60/1pqcy.html

 中国国内の報道では南京の夕刊紙『金陵晩報』が3日付で報じ、それを大手ポータルの「tom.com」が夜に転載していますから、香港との時差はほとんどなかったといっていいでしょう。

 ●「tom.com」(2006/07/03/22:31)
 http://news.tom.com/2006-07-03/0021/52299174.html

 これは共同通信電となっていて、やはり事実関係のみの短い記事です。ただ中共にとって具合の悪い部分は削ぎ落としたらしく、日本側から抗議が出たことは書いてあるものの、中国側の対応には一切言及されていません。ちなみに日本側からの抗議も、

「抗議」

 とカッコ付きになっています。これは「尖閣諸島は中国のものだから日本側の言い分に根拠はない」という主張と気分を示したものです。同じ理由で台湾の外交部とか行政院、立法院といった省庁や政府関連部門名にも必ずカッコが付きます。「台湾は中国のもの」という通らない筋を無理矢理通そうと苦悶しているのでしょう(笑)。

 その翌日の7月4日は火曜日ですから外交部報道官による定例記者会見が行われました。尖閣事件についての質問も出ています。上で私が「マニュアル通り」とした
「釣魚島とそれに付属する島嶼は古来中国の固有の領土であり……」という一節は、実はこのときに報道官から出た回答です。ようやく「らしくなった」訳ですね。

 ●外交部報道官定例記者会見(新華網 2006/07/04/18:16)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-07/04/content_4793869_2.htm

 ――――

 ところが、です。実はそれより丸一日ばかり前の7月3日、訪中した民主党の小沢一郎・代表が国務委員の唐家センと会談し、この場で唐家センが「尖閣事件」に対し
遺憾の意を表明、また、

「中国政府の許可を得ずにやった」

 などと釈明しているのです。報道官談話と正反対の内容で、要するに苦しい言い訳をしつつ「すみませんでした」と日本側に詫びています。

 ●「産経新聞/Yahoo!」(2006/07/04/03:36)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060704-00000002-san-pol

 外交部報道官がカッコよく啖呵を切った同じ日には、中国政府から北京の日本大使館に公式な釈明が行われています。

「今後は事前通報の取り決めに従って処理したい」
「(侵入した海洋調査船は)山東省青島にある大学の調査船で、政府は航行を事前に承知していなかった」

 ●「共同通信/Yahoo!」(2006/07/04/23:32)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060704-00000233-kyodo-int

 ●「読売新聞/Yahoo!」(2006/07/05/03:07)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060704-00000217-yom-pol

 もちろん、こういった都合の悪いニュースは中国国内では流されません。実際には平身低頭の中共政権ですが、国内向けには報道官談話が全て。ズバリと言ってのけて無理無体の難癖をつけてきた「小日本」を斬って捨てたことになっています。

 ……ただし、同じ国内でも特別行政区は別。香港紙が6日付で「調査船は山東省の大学所属」「政府はこのことを知らなかった」と中国側が釈明し、東京の中国大使館も「今後は事前通告の規定に則って事を運ぶ」と表明したことまで書いてしまっています。

 ●『明報』(2006/07/06)
 http://hk.news.yahoo.com/060705/12/1pthv.html

 ――――

 中国側の平身低頭は、第一には直後に開かれる東シナ海ガス田開発についての局長級協議に変な影響が及んだり日本側に付け込むスキを与えないためでしょう。北朝鮮のミサイル発射は中国政府の公式回答の後のことですから直接関係はないと思います。

 あるいは目前に控えた協議よりも、日本の対中世論が硬化することを恐れたのかも知れません。胡錦涛にとっては「八・一五靖国参拝」で面子を潰されたら打撃になりますし、「反胡連合」に反撃の機会を与えることにもなってしまいます。

 対中世論の硬化が自民党総裁選の行方に影響することも懸念しているでしょう。先月に数日間ばかりものすごい勢いでフックだヨイショ記事が中共系メディアから飛び出してきたので次は安倍官房長官叩きが始まるかと思っていたら、その後はパッタリと音沙汰なし。フックだ陣営からクレームが入ったのか(笑)、多少は日本の空気を読めるブレーンが胡錦涛の本陣に新たに加わったのか。

 個人的な印象としては、中国の平身低頭ぶりが「らしくない」ほど過度のようにも思えますが、だとすればそれは不意を衝かれた胡錦涛陣営が慌てるままにオロオロと対応した結果なのかも知れません。「反胡連合」の散発安打が意外にもラッキーパンチとなって「擁胡同盟」の鳩尾にヒットした格好です。

 ただし、ヒットしたといってもパワー不足の一撃ですから、「反胡連合」は相手を一瞬狼狽させた、ただそれだけでしかありません。

 スキを衝かれた「擁胡同盟」もヘタレですが、その機を捉えて有効打を放てない「反胡連合」もヘタレ。延々とくどくどしく書いてきた割には何の結論も残らないようでもあります。まあ春からの中国の政情のおさらいと、小粒同士のバトルは見ていても面白くないな、でも荒れるかも知れない可能性はまだ残っているし、予期せぬ事態と日本からの抗議に狼狽していつもより素直になっちゃう中共ってお茶目。……とかいったところで勘弁して下さい。

 以下雑談。

 ――――

 違うのです。現状に照らして言うとすれば、私がまず目にしたいのは「擁胡vs反胡」なんてチンケなつねり合いなんかじゃなくて、経済過熱が昂じて「諸侯」同士が喧嘩し始めること。

 各地区が似たようなプロジェクトを進めることで資源争奪戦が起こり、境界線に関所を設けて地区外との物流をストップさせたり、自分の地区内を通過して別の地区へ向かう貨物列車やトラックを襲って石炭や鋼材を強奪するとか。

 ……いや20年ぐらい前には実際にそういう事態が発生して、その混乱から「諸侯経済」という経済用語が生まれたのです。それにそのくらい荒れてくれないと、チベットで戒厳令を敷いた前科を持つ胡錦涛はキレてくれないでしょう。

 それから激闘武装農民・官民衝突編です。激闘武装市民はもっと見てみたい。あの火炎瓶男みたいな奇特人がわんさか湧いてきたら素晴らしいカーニバルになるでしょう。「人肉炸彈」で「血肉横飛」。「擁胡vs反胡」ではなく「中共vs激闘武装人民」、これです。

 そして最後にはやはり尖閣の話を。「10月までに船を出す。でも資金が足りない」と記者会見を開いていた香港の「保釣行動委員会」、トップページに銀行口座番号を大書してカンパを募るあからさまなところは相変わらずで資金難は解決されていないようです。

 ●保釣行動委員会HP(率直にいえばマスコミの前だけで騒ぐ連中の選挙事務所)
 http://www.diaoyuislands.org/

 が、連中には「擁胡同盟」による妨害を排除して是非その熱い志を果たしてもらいたいものです。領海に入ったところでサクサクと拿捕、逮捕、送検、起訴、実刑判決……の満漢全席で報いてあげようじゃありませんか。劇終。

m(__)m


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「三」の続き)


 ことさらに「尖閣事件」と呼んでみたのは、日本固有の領土である尖閣諸島、その位置に基づいた日本の排他的経済水域(EEZ)内に7月2日午前、中国の海洋調査船が日本側への事前通報なしで侵入し、調査活動めいたことを行ったから。……ではありません。

 日本側からみれば「中国が日本の国家主権を侵さんとする由々しき事態」ということになりますが、中共政権にとってはどうでしょう。私の頭にまず浮かんだのは「尖閣諸島の領有権アピール」ではなく、「政争」という言葉でした。

 まあ政争といえるほどサマになっていない観もありますが。……「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)と「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)のネチネチとしたつねり合い、相手をKOするほどの実力を持たない小粒同士の中途半端な応酬、今回もその一表現とみえたので尖閣に「事件」の2文字を加えてみた次第です。

 言うまでもなく、「反胡連合」による攪乱戦術です。尖閣問題で隠忍自重を強いられている(と当人たちは思っている)ことに対する鬱憤晴らし、という意味合いもあるでしょう。

 ――――

 「口喧嘩」「腕相撲」については過去3回で脱線しつつ長々と書いてきたので多くはふれません。ざっくり言ってしまうと、中共は「まず指導理論ありき」であり、その指導理論の主導権争いを制した政治勢力が中央政府に拠って経済運営を担当します。……もちろん経済面以外の政務もあるのですが、そもそも「指導理論」自体が往々にして経済政策を主軸に据えた内容であり、現状に照らした経済政策につじつまを合わせる形で理屈をひねり出し後づけしたものも少なくありません。

 要するに経済運営で失敗しなければ勝ちという訳です。失敗すれば別の指導理論を掲げる対抗勢力によって引きずり下ろされてしまいますが、逆に大過がなければ、政権運営を担当する政治勢力は党大会などで大型人事や世代交代の主導権を握ることができます。

 いまでいえば「擁胡同盟」と「反胡連合」の争いということになるのですが、これは2004年9月に発足した胡錦涛政権が3カ月後にダメ出しをされて以来のものです。ここから党上層部のフニャフニャが始まります。

 ●分水嶺・上(2005/10/06)

 当初の胡錦涛路線にはダメ出しが行われたものの、失脚させるほどの重大な失敗ではないし、仮に失脚させたくても対抗勢力にはそこまでの甲斐性がない。さらに胡錦涛に代えられるほどの手駒もいない。……ということで2004年12月以降、胡錦涛系の政治勢力と反胡錦涛諸派連合が水面下で、あるいは表立って小粒なパンチの打ち合いを続けてきました。

 それなりに切迫した状況となって対立が表面化してしまったケースもなかった訳ではありません。昨春の反日騒動やそれに続く呉儀ドタキャン事件などがその典型例です。

 ――――

 ダメ出しから約1年間、白黒のはっきりしない、意思決定の核が見えない、そのために打ち出す措置ひとつひとつに戦略性や一貫性を感じさせることの少ない状況が続きました。その状況に変化が生まれたのは、胡錦涛が軍主流派と取引を行ってからだと私はみています。

 軍主流派が胡錦涛支持に回り、胡錦涛はその見返りに制服組が政治に容喙することを許す。……というような関係が成立したのではないかということです。これによって現在の「擁胡同盟」が明確に形成されたのは昨年11月中旬から12月にかけてでしょう。

 ●邪推満開で振り返る胡錦涛この半年・上(2006/02/04)

 それ以降、胡錦涛は軍部の台頭という不安を抱えつつも「反胡連合」に対しては基本的に優勢の形を維持してきました。むろん「反胡連合」からの反撃も何度か行われたのですが、いずれも散発安打に終わり、決定的なダメージを胡錦涛に負わせるには至りませんでした。

 散発安打に終始したのは、「反胡錦涛」ないしは「反中央政府」、また「上海閥」「広東閥」や「軍部の非主流派」といった様々な立場の勢力による諸派連合、つまりは寄せ集めの弱さによるものかも知れません。現時点で振り返ってみると、今年以来の「反胡連合」の動きで多少効果的だったのは、前回詳述した全国各地方当局という「諸侯」による猛ダッシュ。

「成長率は二の次。あくまでも効率重視」

 という胡錦涛の指導理論(科学的発展観の徹底、調和社会の実現、社会主義栄辱観の確立)に面従腹背する形で高度成長路線を突っ走り、中央政府を驚倒させたことぐらいでしょう。ただし、これは「経済過熱による混乱」のような効果が未だはっきりと出ていない段階にあります。

 ――――

 結局は巻き返されて有効打にならなかったものの、それなりに計画され準備され、ある程度まとまった攻勢を「反胡連合」が発動した時期もありました。胡錦涛が北京を留守にして米国・中東・アフリカツアーを行った前後、3月末から4月下旬にかけての時期です。

 江沢民自らが動いて上海閥が連続技を繰り出し、一方で手駒である「民間団体」をしきりに活動させるなど、これはひと波乱あるかも、と私も当時かなり期待してしまいました(笑)。いや実際に大将同士の一騎討ちという緊迫した場面もあったのです。

 ●蠢動(2006/04/14)
 ●ついに激突!――胡錦涛 vs 抵抗勢力。(2006/04/29)

 しかし結局は「擁胡同盟」がそのひとつひとつにしっかりと対処し、反撃の芽を摘んでいったことで攻勢は長続きすることなく終息しました。「漢芯事件」という不運もありましたね。デジタル家電などに使う世界的水準の半導体を独自開発したと威張っていたのが真っ赤なウソで、実は外国製の半導体に開発チームのシールを貼って、

「これです。これが『漢芯』です」

 と胸を張っていたという赤っ恥事件(笑)。そのペテンをやっていたのが何と上海の大学によるもので、開発チームのリーダーに「長江学者」という意味不明の称号を贈っていた上海閥は恥の上塗り、しかもその大学がよりによって上海交通大だったので卒業生である江沢民は面子丸潰れという体たらく。

 この事件、「あれは怪しい」と以前から噂されてはいましたが、公式調査の手が入ったのが「反胡連合」の攻勢を封殺するのに恰好のタイミングでしたから、あるいは不運ではなく「擁胡同盟」の逆襲だったのかも知れません。

 ――――

 その一方で、

「民間人を原告とする対日戦時賠償訴訟(被告は日本政府か関連日本企業の在中法人)を中国国内で実現させる」
「『水滸伝』や『西遊記』といった中国の歴史的名作を日本企業に商標登録させる訳にはいかない」

 といった「民間団体」の行動がいずれも尻すぼみになったのは、本来なら自称「民間」の強味やネットを生かして大衆動員型の攻勢をかけるべきところ、前年の反日騒動で「反胡連合」までが「中共人」として体制の危機を感じてしまい、すっかり懲りて禁じ手にしてしまったということもあるでしょう。

 実際、ああした「民間」の動きがその後どうなったのか、続報がないので皆目不透明なままです。国内訴訟に進展はあったのか、商標登録NGは果たされたのか。……仮に進展があったり素志が果たされていたとしても、「擁胡同盟」が報道統制を敷いて「なかったこと」にしてしまった可能性もあります。

 ――――

 ……今回も香ばしく脱線しつつあるようですが(笑)、要するに今回の「尖閣事件」は中共政権にとっては主に国内問題であり、上述した様々な動き同様、「反胡連合」が繰り出したパワー不足なパンチのひとつ、ということです。ちょっとした政治的示威活動といったところでしょう。でもその対象は日本ではなく「擁胡同盟」なのです。

 なるほど、日中両国は7月8日から2日間、北京で東シナ海ガス田開発に関する第6回局長級協議を開催しました。ただこの協議で中国側は相変わらず一貫して「領土紛争は棚上げして共同開発」なんてムシのいいことを主張しています。

 それなのに今回の協議の直前というタイミングで、日本側への事前通告なしで海洋調査船を尖閣近海の日本側EEZに侵入させるという手荒な真似をすれば、「棚上げ」も「共同開発」もいよいよ説得力を失ってしまいます。

 もしそこを日本側が衝いてくれれば胡錦涛も困るに違いないアル、とそこまで考えて「反胡連合」が事を起こしたのかどうかは知りません。それよりも「民間団体」による尖閣関連ネット署名活動が当局によって潰されたばかりです。

 ●どうしていま尖閣?(2006/06/13)
 ●尖閣問題に続報なし(2006/06/16)
 ●尖閣続報:民間組織の活動は断固封殺?(2006/06/20)

 大方その「民間団体」の政治的保護者やフラストレーションのたまった軍非主流派など電波系対外強硬派が鉄砲玉になって憂さ晴らしを兼ねてひと騒ぎ起こした、というのが実情ではないかと。

 ◆国家海洋局長、領土や境界線確定などの問題で「韓国の態度に学ぶべき」と発言。(2006/04/29)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0604290029&cat=002CH

 現役の公職担当者、しかも海洋局長という尖閣問題には関わりの深いポストにありながら、

「一切の代価と犠牲を惜しむことなく竹島を守るとした韓国の態度に中国も見習うべきだ」

 と親中紙『香港文匯報』に公言してはばからない馬鹿もいます。ずいぶん度胸があるものですが、たぶん「反胡連合」系の政治的保護者を持ち、仕事柄、恐らく公私両面で尖閣問題によるストレスを鬱積させているからこういう発言が飛び出したのでしょう。

 ――――

 念のために言っておきますが、私は「だから今回の件は大目にみてやろう」と考えている訳では断じてありません。いかに中共内部のお家騒動が原因とはいえ、日本との約束事が無視され、日本は迷惑を被っているのですから。

 日本政府はこれを奇貨として、タイムリーかつ強硬に、また執拗に中国を責め抜かなければならないと思います。そう、中共風情には執拗なくらいの爽やかなあくどさ(笑)が必要です。甘やかしちゃいけません。

 また国民に中共及び尖閣諸島をはじめとする領土問題について再認識してもらうように手を打つこと、そして海上保安庁や自衛隊のために関連法整備を急ぐことは言うまでもないことです。

 ――――

 次回で必ず終わらせます。m(__)m


「五」に続く)



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「二」の続き)


 前回はつい余談に流れてしまい申し訳ありませんでした。今回は「腕相撲」の現状に真っ向から取り組みます(自信はありませんけど)。

 さてその「腕相撲」。くどくなりますが、今回は軍主流派が「擁胡同盟」を支えていますから、軍部については妙な鉄砲玉が事態を引っ掻き回さない限り問題はありません(※注1)。

 ですから経済運営ということになるのですが、これは「中央vs地方」という図式で語られる性質のものですね。中央政府の胡錦涛政権、その「皇帝」たる胡錦涛が各地方勢力=「諸侯」と呼ばれる地元のボスたちをねじり伏せ、そのわがままを抑えられるかがポイントです。

 「わがまま」とは強烈な開発欲求のことです。建前はどうあれどの地区も思いっきり繁栄したいのは当たり前。本音では上海のような摩天楼の群立する大都市になりたいという思いがあります。というか実際に全国100都市以上がそういう意思表示をしています。

 ●都市化の進展阻む盲目的成長志向、百余都市が「国際的大都市」目指す(新華網 2005/10/08)
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2005-10/08/content_3591687.htm

 繁栄、成長、いいですね。地元のボスはじめ個別の党幹部にとってはその過程で利権を手にして懐が潤うことにもなります。だからいよいよ高度成長路線を継続していきたい。

 ……要するに「諸侯」たちは突っ走りたいのです。つまり従来型改革、効率二の次でGDP成長率を追求するイケイケドンドン路線(前回参照)の信者といっていいでしょう。天津市のように中央からテコ入れを約束されているところは「皇帝」に従順でしょうが、これは例外的なケース。

 ――――

 そしてこの面における胡錦涛の働きぶりや統制力はどうかといえば、甚だ心許ないというほかありません。今年第一四半期のGDP成長率は前年同期比10.2%増。昨年第一四半期(9.9%増)よりハイペースです。固定資産投資は同27.7%増で昨年第一四半期より4.9ポイント速く、特に都市部の固定資産投資は同29.8%増。

 銀行も融資年間枠の6割以上を4月末時点で消費してしまう気前の良さで、4月だけをみると前年同期比の増加額(1750億元)は国内新記録。要するにイケイケドンドンの従来型路線が逆にパワーアップされている現状が浮き彫りにされました。

 「諸侯」が走りに走っている訳です。これは過熱だ経済過熱だと慌てふためく「皇帝」胡錦涛やその周囲を尻目に、各「諸侯」は目下鋭意加速中なのです。効率重視でGDP信仰放棄の「科学的発展観」で「口喧嘩」に圧勝した筈なのに、それが経済面に反映されていません。

 「諸侯」お得意の面従腹背ということもあるでしょうし、「科学的発展観」が現実の指標として定着していないこともあるでしょう。また地方の党幹部の一斉異動が行われるのに胡錦涛型の新査定が機能していないとなれば、「とりあえずGDP成長率を稼いでおくことだ」という発想が生まれても不思議ではありません。

 が、走れば地域間格差が拡大することになります。例えば沿海部と内陸部の格差が当然拡大することになります。アドバンテージがある沿海地区とハンディを背負った内陸地区がヨーイドンで走り出せば差がつくことは自明の理。基数が違いますから走れば走るほど差が開く理屈になりますが、現実の統計もそれを証明しています。

 国家発展改革委員会の発表によると、中国を「東部」「西部」「中部」「東北部」に四分割してみると、今年第一四半期の成長率は前年同期比で東部(14%)、西部(12.7%)、中部(12.2%)、東北部(11.6%)。東部と残り3地区との間の格差は昨年の西部(0.6pts)、中部(0.8pts)、東北部(1.8pts)から今年は西部(1.3pts)、中部(1.8pts)、東北部(2.4pts)へとそれぞれ拡大しているそうです。

 http://hk.news.yahoo.com/060517/74/1nwnu.html

 こうなると地域間格差に根ざした「諸侯」同士の対立も色々あるのでしょうが、ともあれ突っ走りたい点では共通しているので中央の減速・緊縮路線には共闘すなわち揃って反対、というのが「諸侯」たちの基本的なスタンス。ただ加速も度を越せば正に過熱で、「諸侯」間での重複投資や資源争奪戦が始まります。当然ながら争奪戦の過程では分配役の党幹部が汚職に染まるでしょう。

 ――――

 そこまで熱くなるかどうかはともかく、日本でいえば日銀総裁に当たる中国人民銀行の周小川・行長は第二四半期のGDP成長率も10%台に乗るだろうとの見方を示しています。第一四半期の暴走ぶりに驚愕した中央は貸出金利引き上げをはじめとする対策を講じましたが、それが効いてくるのは第三四半期あたりからだろうという目算です。

 http://hk.news.yahoo.com/060624/12/1p5iy.html

 ところがこの周小川さん、その2日後には前言を翻して「今年の経済成長は通年で10%増ペースになりそう」と言い出しました。つい先月末のことです。中央によるマクロコントロールに自信が持てなくなったのか、一転して弱腰になったのはどうしたことでしょう。

 http://hk.news.yahoo.com/060626/74/1p6b1.html

 何はともあれ驚愕した中央からは全国に調査チームを派遣して実情把握に努める始末。

「コストプッシュ型のインフレが懸念される」
「いや光熱費の上昇で堅実志向が強まっているため国民の消費意欲が減退している。デフレになる恐れが」

 ……などと、私には難しい話はわかりませんが専門家の間でも様々な見方があるようです。が、どう転ぶにせよ「このままでは危ない」という共通認識はあるようです。

 http://news.xinhuanet.com/fortune/2006-04/25/content_4469792.htm
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0604250012&cat=002CH

 ――――

 ……というのが現時点での「腕相撲」の戦況で、胡錦涛の旗色は決して良くはありません。あの洪水のような礼讃報道とは裏腹に、といったところです。「皇帝」たるには小粒なために「諸侯」どもから面従腹背の仕打ちに遭った格好です。

 とはいえ「反胡連合」の側にも「口喧嘩」で胡錦涛の指導理論を粉砕せしめるだけのものがありませんから、面従腹背でスネつつ突っ走るのが精一杯。権力闘争から倒閣へ、と事態が進むことはないでしょう。こちらも小粒なのです。互いに小粒ですから相手をKOさせるまでには至りません。そういう決定力不足の「つねり合い」とでもいうべき局面がもう2年近くも続いています。

 ともあれ、両派が小手先技の応酬でネチネチしているのも来年の党大会での人事権掌握のため。現状から考えれば経済が多少混乱しても「口喧嘩」で圧勝した「擁胡同盟」が六分ないし七分の優勢、といったところですが、もつれるとすれば懸念されている内憂外患がそのまんま現出してしまうことによるでしょう。もっとも国家統計局などは
「10%成長程度ならまだ受容できるレベル」という見方をしています。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-07/07/content_4804337.htm

 ……あ、最新の御託宣(7月8日)によると今年上半期は10%成長ペース、通年で9%を超える水準になるとのことです。これだと通年で9.8%成長ぐらいの速報値を出しておいて、旧正月前後に10%ちょっとに修正することになるかと。年間GDP成長率の速報値を後で上方修正、というのは実は毎年のように行われていることなのです。

 http://finance.people.com.cn/GB/1037/4571613.html

 この記事からも「まあそう心配することはないけどさ」と言いつつ、オーバーペース気味の経済の現状に対する驚きと危機感がよく滲み出ています。

 そりゃ驚くでしょうとも。昨年の9.9%成長(修正後)を受けて、3月の全人代(全国人民代表大会=立法機関)では温家宝・首相が今年のGDP成長率目標を
「8%前後」とし、減速基調でソフトランディング……というシナリオが描かれていました。それが第一四半期からいきなり「10.2%」を叩き出したんですから(笑)。

 ――――

 まあ内憂外患の話をしましょう。まず「外患」といえばその筆頭は「八・一五靖国参拝」(笑)、これを受けてしまうと胡錦涛には相当なダメージになりそうです。9月の自民党総裁選の行方や秋になるといわれている台湾の李登輝・前総統訪日もまた然り。貿易摩擦や外資企業の動向(優遇措置撤廃の気配があるため)、そして降って湧いた?が如き北朝鮮の問題もあります。東シナ海ガス田紛争や尖閣諸島をめぐる突発的事態も可能性がない訳ではありません。……以上は胡錦涛及び「擁胡同盟」にとっての不安要因です。

 「内憂」であればこれは「擁胡同盟」「反胡連合」ではなく中共自体の試練となるでしょう。経済が走ってしまっているので上述したように地域間格差の拡大があり、同じ理屈で業種間格差の拡大もあるでしょう。再分配される富がごく一部に偏在しているという「中国の特色ある」歪んだ経済構造ゆえに、経済成長をすればするほど貧富の格差が深刻になっていくのです。

 収入があれば、職があればまだマシです。今年は中共自身も認める「空前の就業難」が秋にやってくるそうです。大学生は新卒者の約3割が卒業即失業、というのは昨年実績で、今年はその線を死守するのも無理だといわれています。新卒者を田舎の村役人にするというパワープレイを使っても無理。

 各大学には上級部門から就業率のノルマが課せられているようですが、達成できる見込みがないため、安徽省には学生に対し、卒業証書発行の条件として偽の就職証明調達を大学側が要求するというスーパーパワープレイも登場しています。ロスタイム突入でもはやGKも攻撃参加、といったところでしょうか。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-06/26/content_4748736.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-06/26/content_4748786.htm

 ――――

 ちょっとゾクゾクしてきませんか(笑)。……それはともかく、ようやく尖閣事件に入る土台が組み上がりました。毎度長々と申し訳ありません(※注2)。


【※注1】はいこれテストに出るからーじゃなくて次回への伏線。
【※注2】m(__)m


「四」に続く)



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「一」の続き)


 前回は「口喧嘩」の話でした。中国共産党の指導理論、具体的には改革継続は当然のこととして、では「改革」の進路をどうとるか、という舵取りをめぐる争いです。

 「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)と「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)が対立している、という当ブログの図式に照らせば、この「口喧嘩」は「擁胡同盟」の圧勝。その証拠が前回ズラリと並べてみせた「胡錦涛重要講話」及び「科学的発展観」への礼讃記事の山です。

 この久々の一大キャンペーンとも思えるメディア攻勢、一体いつまで続けるのかはわかりませんが、きのう(7月7日)もまだその勢いには陰りがみえませんでした。

 http://zqb.cyol.com/content/2006-07/07/content_1439841.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-07/07/content_4803211.htm
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-07/07/content_520289.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/07/content_4806800.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/07/content_4803243.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/07/content_4803275.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-07/07/content_4803401.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/07/content_4806463.htm
 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-07/06/content_4802628.htm

 ――――

 もう誰にも止められません(笑)。人民解放軍の機関紙『解放軍報』が昨年12月から今年1月にかけて派手な胡錦涛礼讃キャンペーンを張っていたのですが、それが主要メディアへと拡大されたという印象です。

 この雪崩のような報道攻勢に日本のマスコミはあまり着目していないようですが、これは胡錦涛側による「口喧嘩」の勝利宣言。胡錦涛個人の存在感(強いていえば「カリスマ度」みたいなもの)の高まりを示すという意味でも重要であり、政局における一大変化といっていいかと思います。

 たかが口喧嘩、理論闘争じゃないか……と言うなかれ。その「理論」が踏み絵になり、レッテル貼りの基準になり、考査のモノサシともなるのですから単なる御託じゃありません。現に上の記事の最初の3本は、

「科学的発展観に忠実で適応し得る幹部を抜擢していこう」

 という中央組織部や党中央ひいては軍部の方針表明なのです。来年の党大会での世代交代や大型人事、また任期満了に伴い今年の第三四半期(いまですね)から本格化する地方党幹部の一斉異動において、胡錦涛の「科学的発展観」が査定基準に用いられるということです。胡錦涛系のホープが抜擢される一方で、弾かれ、没落する党幹部も出てくることでしょう。

 ――――

 とはいえ前回書いた通り、口喧嘩(理論闘争)で全てが片付く訳ではないのが中共です。もうひとつ、「腕相撲」でも勝利しなければ、いつ状況をひっくり返されるかわからないという不安がつきまとうことになります。

 「腕相撲」とは具体的にいえば経済運営です。より厳密には、地方各地に対する中央のマクロコントロールが機能するかどうか、ということになります。要するに「諸侯」と呼ばれる各地方勢力を中央の「皇帝」たる胡錦涛が力づくでねじ伏せられるか、どうか。

 ……これも前回書きましたね。本来なら軍部を味方にすることが最重要課題なのですが、今回は軍主流派が「擁胡同盟」に回っているため、胡錦涛はこの点を懸念する必要はありません。要するに経済政策を大過なくこなせるかどうか、という一点のみです。

 やや余談かも知れませんが、中共政権樹立以来の権力闘争というのは、主に経済政策上の対立に根ざしています。「腕相撲」と「口喧嘩」の繰り返しといってもいいです。

 例えばA派とB派という反目し合う政治勢力が党上層部に存在していて、最初にA派が「口喧嘩」に勝ったとします。これによってA派は経済運営の主導権を握ることになりますが、A派の指導理論に基づいて実施された経済政策が失敗すると、手ぐすねをひいて待っていたB派が「口喧嘩」を仕掛けてきます。経済運営でダメ出しをされているのでA派は「口喧嘩」に勝てず、攻守が入れ代わるといった具合です。

 これは毛沢東の時代からそうで、実際このために毛沢東が第一線から身を退いたり、かと思えば無茶苦茶な「口喧嘩」を仕掛けて代わりに主導権を握った劉少奇を失脚させたり。……トウ小平も胡耀邦も趙紫陽もみんなこのパターンで没落したり復活したりしています。

 ――――

 異なっているのは「口喧嘩」の争点です。当初はあくまでも社会主義の教条に準じてやるか、それとも現実に即した調整路線でいくか。これが1978年に改革・開放政策へと転じてからは改革派か保守派か、ということになりました。改革される対象の広さと深さが対立点という訳です。

 しかしそれも前回紹介したトウ小平の人生最後の権力闘争で保守派が事実上殲滅(1992年)され、ようやく改革が大前提ということになりました。権力の禅譲もトウ小平の鶴の一声によって江沢民、そして胡錦涛へと最高指導者の世代交代が行われました。

 ただし、江沢民が形式上は最高位に就いても実際にはトウ小平が死ぬまで実質的なナンバーワンだったように、最高指導者=最高実力者ではありません。胡錦涛がいま正にその時期にきており、最高指導者から最高実力者へとステップアップできるかどうかの切所にさしかかっています。

 「トウ小平や江沢民の指導理論を基礎にさらに発展させた新世紀の戦略的指導理論」という触れ込みの「科学的発展観の徹底」「調和社会の実現」「社会主義栄辱観の確立」を以て胡錦涛はとりあえず「口喧嘩」を制することに成功しました。そこで今度は「腕相撲」となる訳です。……が、これがなかなか容易ではなく、実際に胡錦涛政権はかなり難渋している、という印象があります。

「地方各地に対する中央のマクロコントロールが機能するかどうか」

 ……別の言い方をすれば、

「『諸侯』と呼ばれる各地方勢力を中央の『皇帝』たる胡錦涛が力づくでねじ伏せられるかどうか」

 という点に尽きるのですが、毛沢東時代の中央集権・計画経済ならともかく、改革・開放政策のキモは「競争原理の導入」と「分権化」。江沢民時代の改革が実際には経済面に終始し政治制度改革が放置されていたこともあり、「改革」が深化すればするほど、中央は「諸侯」たちを縛りにくくなってきています。分権化を進める一方で本来導入すべきだった新たな「縛り」のメカニズムが組み込まれていないからです。

 ――――

 その経済面に限定された改革にしても、江沢民時代のままで未だに新たなモデルに転換できていない従来型改革は、
「大きいことはいいことだ・多少の格差にゃ目をつぶれ」というもので、トウ小平の「先富論」を錦の御旗にGDP成長率を追求するイケイケドンドン路線でした。

 誰も使わない道路やビルであっても、建設すればGDP増大、ということになります。そしてGDP信仰。……GDP成長率の多寡が地方幹部の業績査定の柱となるのですから、どこもかしこも効率無視で突っ走ることは目に見えていますし、実際そうなりました。

 ところが「多少の格差にゃ目をつぶれ」の格差、貧富の差や地域間格差の拡大が社会問題化するほど深刻となり、もはやシャレでなくなってきました。乱開発による環境汚染も無視できないところまできてしまいました。そこで江沢民からバトンを受け継いだ胡錦涛は「科学的発展観」を提唱することになります。

 これは要するに
「規模の拡大よりも効率を重視しろ」ということで、GDP成長率信仰を戒め、成長率が高くても無駄が多ければ意味はない、むしろ低成長率でも効率の高いやり方を評価する、というもの。イケイケドンドン路線の従来型改革を否定するものです。今回の「口喧嘩」の争点は正にここにありました。

 この「科学的発展観」や格差を是正した「調和社会の実現」は胡錦涛オリジナルではありますが、経済・社会がここまで煮詰まってしまった以上、この時期に政権運営を任されれば誰でも打ち出したであろう方策です。まあ、この袋小路的状況でトップを任されてしまった胡錦涛がババを引いた、ということになるのでしょう(笑)。

 ともあれ、「口喧嘩」において胡錦涛はイケイケドンドン路線を否定する「科学的発展観」を持ち出して理論闘争に勝利しました。……あれ?だから今回は「腕相撲」の話をする筈だったのでは?

m(__)m


「三」に続く)



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 7月1日は中国共産党の結党記念日だったそうです。今年で85周年とのこと。奇しくも届いた橋龍ご昇天のニュースが中共にとって痛手になったのかどうかは知りませんが(笑)。

 文化大革命発動40周年の記念活動は御法度にした中共ですが、結党記念日は大々的な奉祝行事。誕生日とあらば今後の大方針を披瀝する場でもある訳で、胡錦涛の提唱する「科学的発展観」の大安売り。

 というより胡錦涛が「科学的発展観を貫徹せよ」といった趣旨の重要談話をこの結党記念日に合わせて発表。それを各界から軍部までが持ち上げに持ち上げているのです。いま現在もその勢いは衰えていません。久しぶりにみる圧倒的なメディア攻勢です。もう祭状態(笑)。

 ●胡錦涛の重要講話(新華網 2006/07/03/11:33)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-06/30/content_4772463.htm

 ――――

 ●その他「胡錦涛重要講話」または「科学的発展観」礼讃記事

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/01/content_4775265.htm
 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-07/01/content_4776940.htm
 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-07/01/content_4776547.htm
 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-07/01/content_4777729.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/01/content_4780076.htm
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-07/01/content_514817.htm
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/03/content_4785782.htm
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 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/03/content_4785919.htm
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 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/06/content_4799323.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-07/06/content_4799275.htm
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 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-07/06/content_519277.htm
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-07/06/content_519301.htm
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-07/06/content_519278.htm
 http://theory.people.com.cn/GB/49157/49164/4565946.html

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 当ブログでは図式として中共上層部の主導権争いを「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)vs「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)といった具合に捉えているのですが、中共系メディアのこうした洪水のような怒濤の礼讃報道をみる限り、今後の党の路線に関する理論闘争、つまり一種の「口喧嘩」では「擁胡同盟」が圧勝した観があります。

 個々の言動から察するに、最高意思決定機関である党中央政治局常務委員も基本的に「科学的発展観」でまとまったようにみえます。上のズラリと並んだ礼讃記事リンクの中には上海閥の地元大番頭である陳良宇・上海市党委員会書記(上海のトップ)によるものまであります。思えば江沢民・前総書記が母校である上海交通大学を訪問したころが花だったんですねえ。

 上層部の動きという点では、特に李長春-中央宣伝部のラインがこの線で同調したことが大きいです。『科学的発展観学習読本』だか何だかといった小冊子が出版されて、それを教科書にして科学的発展観を学習せよ、という通達が中央宣伝部から発せられました。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-06/26/content_4749513.htm

 「擁胡同盟」の主力である軍主流派はそれ以前から似たようなことをやっていますし、胡錦涛の出身母体であり最大の支持勢力である共青団(共産主義青年団)も中央宣伝部の通達を受けて、勢いを得たようにその活動へと乗り出しました。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2006-07/02/content_4783812.htm

 ……時間的に間に合えば、この科学的発展観を柱とした指導理論がマルクス主義との整合性に折り合いをつけつつまとめあげられ、来年の党大会で「胡錦涛思想」などという名前で賑々しく登場することでしょう。

 ちなみに、チベット自治区など辺境部のトップ(自治区党委員会書記)やナンバー2(自治区政府主席)といったポストにも胡錦涛直系である共青団人脈のホープが就任するといった異動が行われています。

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 以上は「口喧嘩」の話ですが、つまりは理論闘争ですね。中共ではそれに勝った方の言い分を踏み絵やモノサシにしてレッテルが貼られ、権力闘争が行われることがままあります。この面で圧勝した「擁胡同盟」は、世代交代や大型人事の行われる党大会に向けて大きなアドバンテージを手にしたといえるでしょう。

 胡錦涛政権発足時(2004年9月)に比べれば、トウ小平思想や江沢民の「三つの代表」論を押しのけ、胡錦涛の「科学的発展観」が前面に躍り出して幅をきかせていることに、わずか2年足らずながら隔世の観を感じずにはいられません。

 対日関係でいえば、『朝日新聞』が「対日協調工作小組」というチームが胡錦涛の懐で設立され、現在の対日政策の立案機関のようになっていると報じましたね。

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 ●中国、「対日協調工作小組」発足 日中関係打開を模索(asahi.com 2006/07/03/23:23)
 http://www.asahi.com/international/update/0703/011.html(リンク切れ)

 中国の胡錦涛(フー・チンタオ)指導部が、日本との関係改善を目指して「対日協調工作小組」を発足させていたことがわかった。政府内で外交を統括する唐家セン国務委員(副首相級)を筆頭に共産党、政府、軍、政府系研究機関など日本と関係する各部門が参加。昨春の反日デモへの対応の遅れや統率の乱れへの反省も踏まえ、指導部への提案や各部門への指示を一本化させ、系統立てた対日政策の立案と実行を目的としている。
(後略)

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 この記事は親中紙『香港文匯報』も転載しているので確度はかなり高いものでしょうが、胡錦涛が対日政策で主導的に切り盛りができるようになった、というのも「擁胡同盟」優勢の証といえるかと思います。

 ●『香港文匯報』(2006/07/05)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0607050007&cat=002CH

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 とはいえ、口喧嘩(理論闘争)で全てが片付く訳ではないのが中共です。もうひとつ、「腕相撲」でも勝利しなければ、いつ状況をひっくり返されるかわからないという不安がつきまとうことになります。

 腕相撲、具体的にいえば経済問題です。より厳密には、中央の地方各地に対するマクロコントロールが機能するかどうか、ということになります。要するに「諸侯」と呼ばれる各地方勢力を中央の「皇帝」たる胡錦涛が力づくでねじ伏せられるか、どうか。

 本来は「銃口から政権が生まれる」お国柄ですからこれに「軍部の掌握」という項目が加わるのですが、軍主流派が「擁胡同盟」の主力であることから、今回はこの点を無視していいと思います。ただ、胡錦涛が軍主流派を掌握しているのか、それとも軍主流派が胡錦涛をマリオネットにしているのかは興味深いところですが、これは余談。

 昔の話になりますが、例えば1988年、「口喧嘩」では優勢だった趙紫陽・総書記(当時)をはじめとする改革派が経済面で「諸侯」を押さえ切れずにスーパーインフレを招来してしまい、その秋に李鵬・首相(当時)ら保守派に政策運営の主導権を握られてしまいました。「腕相撲」で失敗したために「口喧嘩」での勝利を失った例です。

 ちなみにこのインフレや経済制度の不備を衝いた汚職、また改革派の頽勢といった状況が、全て翌年4月に始まり天安門事件(六四事件)で終息する民主化運動の火種となるですが、これも余談でした。

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 もうひとつ「例えば」を挙げるとすれば1992年でしょうか。上述した1988年秋の保守派台頭(経済政策の運営権奪取)、その後の天安門事件で西側諸国から経済制裁を受けたこともあって引き締め路線を続けていたのが、

「そろそろ少しは改革やろか」

 という雰囲気になったのが1991年の秋です。この時点では保守派が「口喧嘩」と「腕相撲」における優勢を手放さないままで、改革についても
「やるけれども慎重に、漸進的に、大局を重視して」などと様々な枠をはめていたのです。

 ところが明けて1992年の1月末に、トウ小平が当時は経済改革の象徴的存在だった経済特区・深セン市に忽然と現れ、
「大胆に改革をやれ」と改革加速の大号令。

 これが引き締め政策下で息をひそめていた各「諸侯」の背中を大きく押すこととなり、保守派の「慎重に、漸進的に、大局を重視して」などといったただし書きも一気に粉砕。「腕相撲」「口喧嘩」の両面で改革派が一転して勝利を握ることになりました。

 ●13年前の観察日記から。・上(2005/11/15)
 ●13年前の観察日記から。・下(2005/11/15)

 ちなみに……とまた書いてしまいますが、この1992年は秋に5年に1度の党大会が開催された年です。トウ小平が人生最後の権力闘争ともいえる政治活動を展開したのは、この党大会における人事権を改革派によって掌握しておきたかったからでしょう。この1992年の党大会において三段跳びの大抜擢を果たし、サプライズ人事とされたのが他ならぬ胡錦涛です。

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 という訳で、来年に党大会を控えてやはり人事権の争奪戦がこれから熱を帯びようとしている現在、「口喧嘩」の面では「反胡連合」を制して圧勝した観のある胡錦涛、「皇帝」としての統制力の方はいかがなものか、ということになりますが、これが実は甚だ心許ないのです。……と「腕相撲」に話題を転じたいのですがもう長々と書いてしまったので、まずは寝ます。


「二」に続く)



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