もう皆さん御存知でしょう。小泉内閣の誇る超攻撃型3トップ、その中でもひときわ輝くファンタジスタ・麻生外相がやってくれました。
●靖国問題視は「異な感じ」=小泉首相参拝、簡単には譲れない=麻生外相(時事通信 2005/11/13/21:00)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051113-00000059-jij-pol
麻生太郎外相は13日午後、鳥取県湯梨浜町で講演し、A級戦犯の合祀(ごうし)後も歴代首相が靖国神社を参拝したことを指摘した上で、「急に問題にされると、何となく異な感じを受けるのは私だけではない」と述べ、小泉純一郎首相の靖国参拝を問題視する中国や韓国の対応に疑問を呈した。
また麻生外相は「祖国のために尊い命を投げ出した人たちを奉り、感謝と敬意をささげるのは当然。首相としても簡単に譲るわけにはいかないと思う」と述べ、首相の参拝を支持する考えを示した。
サイドに展開してクロスを、というより堂々たる中央突破ですねこれは(笑)。もちろん3トップですから、ボールをキープしている麻生外相のフォローに回るFWがいます。
●安倍官房長官:タカ派を否定「中国の人たちは大好き」(毎日新聞 2005/11/13/19:22)
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20051114k0000m010052000c.html
さすがは有機的連携を保つ3トップ、阿吽の呼吸です(笑)。でも今回はフォローし切れていないというか、麻生外相がボールを渡さずに強引に抜きにかかったという観があります。
●麻生外相の参拝支持発言を非難=日中会談実現に影響も-新華社(時事通信 2005/11/14/01:02)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051113-00000068-jij-int
【北京13日時事】中国の国営新華社通信は13日、麻生太郎外相が鳥取県内で行った講演で、「小泉純一郎首相の靖国神社参拝を支持し、参拝を当然視した」と東京発で伝えた上で、靖国参拝に関して「日本とアジア国家の関係に影響を与えた」と非難した。
日中両国政府は15日から韓国・釜山で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議での日中外相会談に向けた調整を進めているが、麻生外相の発言に中国側が反発し、会談実現に影響を与える可能性もある。
うーん私としては日中外相会談が実現して、ファンタジスタにはその場で弾けるだけ弾けてほしかったです。ギターソロ32小節(アドリブ)みたいな。でも時事通信が報じているように、事態は流動的になってきました。
新華社の反応の仕方は、ただでさえ脇の甘い胡錦涛総書記が外遊中だったことと無関係ではないと思います。
●日本外相「小泉首相の靖国参拝を支持する。参拝するのが理の当然」(新華網 2005/11/13/20:36)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/13/content_3774945.htm
と、この記事が「新華網」(国営通信社の電子版)トップページの大見出しを飾っています。
「両手をアジア諸国人民の鮮血にまみれさせた14名のA級戦犯を祭っている……」
と、記事本文はすごい修辞です(笑)。これに「氷のような」「鋼鉄の」「冷たい」といった単語をちりばめれば、もう立派なヘビメタの歌詞。さらにオマケとして11月6日付の関連記事が1本ついているのも見逃せません。
●靖国を毎年参拝、日中関係の優先度を最低に――日本の新外相(新華網 2005/11/06/15:35)
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/06/content_3739416.htm
いやー驚きました。「ファンタジスタ。・下」(2005/11/04)の冒頭でふれた麻生外相による就任記者会見の第一声をまだ根に持っているんですね。きっと血を噴かんばかりに悔しかったのでしょう(笑)。
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でも笑ってばかりもいられません。今後数日こういうノリが続くようだと、これは明らかに政争が仕掛けられたということになるでしょう。もちろん日本に対してではありません。麻生発言を捉えてアンチ胡錦涛諸派連合が巻き返しに出た、という形です。
強引な突破を狙ったファンタジスタが考えを変えて、ボールを安倍官房長官にいったん預けてスペースへと走り込もうとしたら、運悪くスルーパスになる筈のボールをインターセプトされてしまったのです。
ところが「靖国」はもはや中国の内政問題。ボールを奪われた日本が中国のカウンターを喰うかと思いきや、なぜか中国イレブンは1カ所に集まって二手に分かれ、殴り合いをおっ始めた……という図なのです(笑)。不思議な光景ですが、政争であればそういうことになります。
改めて言いますが、かように熱い新華社の反応ぶりは、ただでさえ脇の甘い胡錦涛総書記が外遊中だったことと無関係ではないと思います。胡錦涛が中国国内にいれば何らかの手を打って大騒ぎになることは回避させたでしょう。少なくとも「新華網」トップページの大見出しにこのニュースを置かせたりはしなかった筈です。
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小泉首相による靖国参拝(10月17日)以来、中国側のリアクションは折にふれて紹介してきましたが、そこには、
(1)政府は強く反発・けどショボい報復措置(外相会談「延期」)・反日活動やデモは封殺。
(2)反日報道を主流としつつも靖国関連は次第に鎮静化させ、毒にならない別種の反日記事を主としていく。
(3)態度軟化のシグナルを日本側へ送りつつ、APECでの外相会談実現に向けた環境を整える。
というひとつの意思を感じさせる流れめいたものがあったように思うのです。もちろん胡錦涛の意思でしょう。それを面白く思わない向きは少なからずいたでしょうが、そこはお互い「中共人」。
「ここで4月みたいにデモ打たれたら中共自体がヤバいし」
「経済まで冷え込んだらダメージ大きすぎるし」
「この後にまだ李登輝の問題も控えてるし」
「とりあえず北京で1回、『なんちゃってデモ』をやっていいから」
「ガス田とかで強気に出ればいいし」
「何ならまた海軍に大名行列させてもいいから」
などと囁いて回って、一応胡錦涛の書いたシナリオに同意させたのだと思います。
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ただし基盤の脆弱な胡錦涛政権、それでも収まらない向きが「江沢民が宇宙飛行士を祝福」という異常な新華社電を飛ばしたり、「中国人女子留学生が日本で酔った警官に殴られ負傷」というニュースを流したのでしょう。
前者は江沢民あるいは上海閥健在を誇示するだけですが、胡錦涛の天下が磐石でないことも感じさせます。後者は明らかに中国人のプライドとコンプレックスを刺激し、「小日本」への憎悪を改めてかき立てるような煽動目的の燃料投下。一種の情報戦です。
そういう報道を許してしまう脇の甘さが現在の胡錦涛にはあるのでしょう。要するに指導力不足。江沢民はその全盛期に「江沢民総書記を核心とする党中央」と称されていましたが、胡錦涛は未だに「胡錦涛同志を総書記とする党中央」としか呼んでもらえず、「核心」扱いをしてもらえないことが全てを物語っています。
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……というところまでしか現時点では書けません。(1)(2)(3)とシナリオ通りに進んできた事態が一変してしまうのか、それとも胡錦涛が何とかこのピンチをしのぎ切るのか。
こうも大々的に報じてしまった以上、国民の手前もあり態度をいったん硬化させるのがセオリーかと思いますが、それでも外相会談が実現してしまうなら、中共政権はよほど苦しい立場にあることになります。日本が何らかの大譲歩を行うなら別ですが、超攻撃型3トップがそういう挙に出るものかどうか。……さてさて。
ただ最後に強調しておかなければならないことがあります。麻生外相の発言はしごく真っ当なものだということです。そもそも靖国神社に関する問題は日本人だけで議論し決するべきものであり、他国の容喙が許される性質の問題ではありません。あくまでも「日本人」の問題であり、決して「日本に住む人々」でないということもお忘れなく。
せっかく上質の燃料が投下されたのですから、私としては荒れてほしいところですね(笑)。もちろん日中関係がではなく、中共内部ひいては中国全土が、です(ていうか日中関係は荒れようがないでしょう。軍事衝突があるなら別ですけど)。仮に外相の一言が引き金となって事態が展開に展開を重ねた挙げ句中共政権が潰れてしまったら、麻生太郎は千載に名を残すファンタジスタになりますね。地下の明石元二郎もビックリすることでしょう(笑)。
それにしても、まともな時代になったものです。15年前なら麻生外相は「放言」で引責辞任というところでしょう。それがいまや外相自身はどこ吹く風。逆に中共政権がグラついてしまうのですから。因果応報とはよくいったものです。
以上、第一報として一応書いてみましましたが、本当はちょっと寝転がしておきたい性質のネタです。
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【追記】(2005/11/14/18:18)
すごいです。驚きです。半日と経たずに手が打たれました。
あの熱い麻生外相発言報道は目立たぬようレイアウト上の処理がなされた模様です。代わりに前面に出てきたのが安倍官房長官の「中国人大好き」発言。
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3777590.htm
やっぱり安倍発言はファンタジスタとの有機的な連携だったのですね。すごいフォローになってますから(笑)。中国DF陣、見事に翻弄されています。
http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/14/content_3777231.htm
これを仮に政争として観じるならば、火付け役として燃料を投下したアンチ胡錦涛諸派連合に対し、早くも火消し組(胡錦涛系列)が反撃に出た模様です。火付け役が今回もこのまま大人しくなってしまうのかどうか。
日本側からも記事が出ています。
●日中首脳会談の可能性ない 秦剛副報道局長(共同通信 2005/11/14/12:43)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MNP&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2005111401001069
【釜山14日共同】中国外務省の秦剛副報道局長は14日、韓国・釜山でで行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での日中首脳会談について「可能性はまったくない」と述べ、外相会談の可能性も極めて低いと述べた。釜山の空港で日本人記者団に語った。
中国は、先月の小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反発、APECでの首脳会談の開催は困難との立場を表明していた。しかし同じく参拝に反発している韓国が首脳会談に応じる姿勢を示しているため、外相会談の開催の可能性も含め、対応が注目されていた。
小泉・胡錦涛会談はさすがにないでしょう。この報道の限りでは外相会談も無理ぽな感じではありますが、上述したような麻生外相発言への素早い対応(火消し)などと比べると温度差があり、このあたりはちょっと微妙です。
外相会談の可能性も極めて低いと述べた。
と、共同の記事はこの一節をカギ括弧で括っていないので、これは秦剛の肉声ではありません。いずれにせよ、中国語で読まないと何とも言えません。ともあれ外相会談にせよ政争にせよ、ここ一日二日は予断を許さない状況が続きそうです。