日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 いやー驚きました。今日も今日とて「反日報道」が出るわ出るわで大変です。「新華網」(国営通信社の電子版)、「人民網」(『人民日報』の電子版)、「中国青年報」(電子版)、「解放軍報」(電子版)あたりで11月22日付の記事を漁ってみたら、日本関連の記事が21本という大漁です。

 もちろん、同じ記事が違うサイトに出ていたりする重複分はこの「21本」に含めていません。例えば「新華網」と「人民網」で同じ記事が掲載されていたなら、カウントは1本。で、合計21本のうち2本以外は「反日」に傾いた記事でした(笑)。

 本当はもっとたくさんあるのです。例えば前回紹介した『嫌韓流』『マンガ中国入門 やっかいな隣人の研究』を叩いた記事は内容はそのままで22日付に改まって掲載されています。そういう再放送的な記事をカウントしなくても21本。ですから実際にサイトを回っていると、何かキャンペーン(政治運動)でも始まったかのような、ちょっと異様な印象を受けます。

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 だいたいいま第一線で記事を書く世代というのは江沢民による反日成分たっぷりの「愛国主義教育」を身体全体に浴びて育った世代です。何らかの制約から解き放たれたとばかりに、伸び伸びと筆を躍らせています。記者をやるくらいですから「反日」以外にも自分の属する社会に対する問題意識をいろいろ持っているだろうと思うのですが、

「日本」
「日本人」

 と聞いた途端に情緒不安定になってしまう。そういう面があるのではないでしょうか。正しく教育の賜物です。何だか日本なしでは精神的にやっていけなくなってしまったという観があります。中国国内メディアはこの1年でずいぶん「対日ストーカー」化が進んだように思えるのです。ですからいったん対日報道に関する規制を緩和させると、わらわらと一斉に「反日」記事が湧いて出てくる、という状態になってしまいます。

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 今回は個別の記事を追うことは避けますが、まず「新華網」トップページの大見出しからして、

「日本が改憲草案を発表、軍隊保有の禁忌を強行突破」

 です。日本の報道でいうと、

 ●自民50年「改革の党」強調、新憲法草案を発表(読売新聞 2005/11/22/13:54)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20051122i104.htm

 のことなのですが、この「強行突破」という親記事に関連記事4本+掲示板つきという念の入れ方です。掲示板の内容は説明不要ですね(笑)。

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 それから外交部報道官定例記者会見。今回は劉建超報道官でしたが、麻生外相の「遊就館」関連発言、

 ●「遊就館」戦争美化でない 事実を展示と麻生氏(Sankei Web 2005/11/21/15:18)
 http://www.sankei.co.jp/news/051121/sei051.htm

 これについては、

「中国側はこのような発言が公然と行われたことに驚愕している」
「遊就館は靖国史観を宣伝する核心的施設だ」
「日本の指導者が靖国神社を参拝することは中国人民にとって絶対に受け入れられないことだ」

 などと発言しています。

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-11/22/content_3818963.htm

 なんと憎々し気な物言いでしょう。政治的信条と関係なしに、都心で暮らす身である私にとって靖国神社はいちばん癒される場所です。参道を歩いて四季を感じ、参拝して様々なことに思いを馳せ、そして遊就館で零戦を眺めつつ一服。心が洗われるというか鎮まるというか、落ち着くのです。

 それなのに、せっかく遊就館にまで話が及んでいながら、劉建超はなぜ零戦や海軍コーヒーの話をしないのか。記者もどうして、

「ところで海軍カレーの味について中国政府はどう評価するか」

 といった質問をしないのか。私は憤慨するのです。劉建超も劉建超で、

「ときどき薄味になり過ぎる点は日中間で取り交わした3つの政治的文書の精神に反する」

 と切り返すぐらいの余裕があってもいいじゃないですか。……とまあ余太はともかく、外交部の定例会見で「靖国」という固有名詞が復活していることに留意しておきましょう。「遊就館」への言及はたぶん初めてでしょう。「靖国史観」という言葉も初耳のように思えます。

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 歴史問題に対する中国側の基本姿勢について劉建超は、

「中日関係が現在、困難な局面に陥っている責任は中国側にはない。その根源は日本国内の一部右翼勢力が日本軍国主義が発動した侵略戦争を美化し、侵略の罪を認めないことにあるからだ」

 と、ここは1972年の国交正常化以来の姿勢を保っています。たぶん靖国神社を参拝した小泉首相やそれを支持する安倍官房長官も「一部の右翼勢力」に入るのでしょう。

 で、その「右翼」たる小泉首相を衆院選で圧倒的に支持し、その後継候補には安倍官房長官を断トツで推している日本国民はどういう扱いになるのでしょう?民意が「右翼」を支持したことには頬冠りですか。そりゃ日本人の大半を敵認定しちゃったら国内世論(日本人狩りが始まるかも)や外資導入も含めて中共政権としては都合が悪いでしょうからね。

 だいたい前から言っているように、右翼左翼を切り口にする時代ではないと思うのですが、どうでしょう。党中央が右翼左翼と言っている間は、それがドグマになって専門家による日本研究の発展が束縛されます。そこから選ばれて胡錦涛や温家宝のブレーンになる者が出る訳ですから、日本としてはどうぞそのまま、右翼左翼を堅持し続けて下さい、というところですね。

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 しかし、いかに中共といえどもこうした「反日報道」の洪水をずっと続ける訳にはいかないでしょう。世論が変に盛り上がってしまっては困りますから。たぶん何日か続けた後で適宜ブレーキを強めていく、という思惑なのでしょうが、果たして今回はそれがうまくいくかどうか。

 というのは、今回は「火消し役」不在の「反日キャンペーン」なのです。過去の事例に照らしていうと、まず2003年の珠海集団買春事件と西安の寸劇事件で高まった反日気運に対しては胡錦涛の御用新聞『中国青年報』が、

「極端な民族主義はよくない」

 という元駐日大使の談話を紹介して諌める役を務めました。昨年夏のサッカーアジアカップで日本国歌にブーイングした中国サポーターに対し、

「そんな愛国には誰も喝采を送らない」

 と署名論評でブレーキ役を演じたのも『中国青年報』(ネット世論の集中砲火を浴びて大破炎上しましたが)。そして今春の「反日騒動」で終始火消し役の立場に徹したのも『中国青年報』なのです。

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 ところが今回はその『中国青年報』が先頭に立って旗を振っている観すらあるのです。

 フェニックスTVの反日基地外との対談シリーズを打ったり、ブッシュ米大統領が訪中時に靖国批判めいた言動とった、など都合のいい記事を掲載したり。それが「新華網」「人民網」などに漏れなく転載されていきます。その奮闘ぶりには、本来なら基地外という点で他者の追随を許さない『環球時報』もお手上げです(笑)。

 http://news.xinhuanet.com/comments/2005-11/18/content_3797435.htm
 http://news.xinhuanet.com/comments/2005-11/21/content_3809962.htm
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/22/content_94693.htm
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-11/22/content_94688.htm

 火消し役の定番だった『中国青年報』がこうなってしまうと、どうやってブレーキをかけていくのか興味津々です。軍主流派の動向も前回紹介したように党執行部とは微妙に異なる、しかし巌然たるスタンスをとっています。

 このままネット世論に火がついて……ということもあるかも知れませんが、「愛国者同盟網」「中国民間保釣連合会」といった自称民間組織が軸になって働かないとムーブメントにはならないでしょう。ところがここの連中の本音は「組織防衛>>反日」で、当局から睨まれたら潰されかねないことをすでに何度か学習しているので、迂闊には動きません(しかも「愛盟」は告訴されちゃってるしw)。

 あるとすれば、そういう総本山格の反日サイトではない、知名度の低い泡沫組織がひと旗揚げようとすることです。怖いもの知らずで若さに任せて走り出す、といったところでしょうか。ネット署名のようなバーチャル空間でのお遊びなら人畜無害ですが、現実世界でデモや署名を始めると、不満を抱える民衆を引き寄せて膨張した挙げ句暴徒化し、思いがけない事件に発展する恐れがある。……というのは今春の「反日騒動」でみた通りです。

 現在のような悪化した社会状況のもとで民衆が「反日」に動くことは中共政権を揺るがしかねない、というのも今春の「反日騒動」で実証済みですね。では民衆を動かさずに「反日」をやって政権に対する民衆の不満をそらし、政権支持率もアップさせる、という魔法のようなことは可能でしょうか。

 あるいは可能かも知れないのが、ちょっとした軍事的衝突をやってみせるという方法です。尖閣侵攻でもやりますか。……まあさすがの中共も現時点でそこまでは踏み切れないでしょう。絶対に勝たなきゃいけない、という条件もつきますし。

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 冗談はともかく。

 中央たる胡錦涛政権の統制力が十分でない上に、「火消し役」が存在しない形で「反日モード」に入ってしまった。……この点が今回のポイントかと愚考する次第です。ええ、これは危険な火遊びだと思います。



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