日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 最近の中共を眺めていておや?と思った動きがありました。大したことではないかも知れませんが、そこはまあ日曜日ということで御勘弁を。

 主人公は張保慶・教育副部長(1998年4月より現職)です。日本でいえば文部科学省次官、といったところでしょうか。もう免職扱いになってしまったので前副部長というのが正確です。先月末にその旨が中国国内メディアに流されました。

 ●「新華網」(2005/10/28)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/28/content_3695522.htm

 張保慶を教育部副部長より免ずる、
と公報ですから簡潔に書かれています。

 張保慶は定年である60歳を超えたので免職自体は筋が通っています。ただ、ある意味とても有名で評判のいい官僚だったために余波を呼ぶことになるのです。

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 江沢民時代に「教育の産業化」という名目のもとに大がかりな大学改革が行われました。私のチナヲチ空白期に起きた出来事だったので詳しくは知りません。ただ教育改革ではなく大学改革であり、称して「教育の産業化」です。

 要するにこれからは大学も自力更正しろ、ということでしょう。独立採算制に移行したのかどうかはわかりませんが、基本的には国はもう余り面倒をみないから自活しろ、ということだと思います。

 私が留学していたころの中国人学生は、基本的に学費がタダでした。宿舎や食事といった賄いも多くが無料か、とびきり安値で済んでいたと思います。以前の国有企業と同じで、赤字は中央ないし地方当局が面倒をみるという形だった筈です。

 だから大学は留学生を呼び込んで外貨を巻き上げることに必死でした。大学の外資導入ですね(笑)。私も「外資」のひとりだった訳です。

 ところが、江沢民時代になって「教育の産業化」が打ち出されました。中国人学生の学費も無料でなくなり、賄いや教材費、維持費などで大学が学生からカネをむしりとることができるようになります。経営能力の劣る大学は淘汰される、という競争原理が持ち込まれた訳です。

 それでも度が過ぎなければよかったのですが、淘汰されると聞かされれば目の色が変わります。しかも銭ゲバ中国人。あれこれ名目をつけて学生から料金を徴収する風潮が一般的になりました。いわゆる「乱収費」の問題です。余りに度が過ぎるので学生が暴徒と化した事件が起き、それがデモに発展したという情報も流れました。

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 それ以上に問題となったのは、低所得層、特に農民や都市の失業者の家庭からは大学生が出にくくなってしまったことです。もちろん、学費をはじめ諸費用を負担できないからです。詳細は既報しておりますので御参照頂ければと思いますが、何でも
大学生1人を1年間通わされるのにかかる費用が農民の平金収入の3年分だそうです。

 でも親兄弟は一族を代表する秀才が出たのですから、何とか大学に通わせてやりたいと思う。ですから事件も起こります。

 これも以前ふれましたが、大学生になった妹にノートパソコンを持たせたいと盗みに走った兄、企業経営者を営利誘拐して子供の学費を捻出しようとした父、それから自分に生命保険をかけて自殺し、その保険金で娘を大学に通わせようとした母子家庭の母親。幸い自殺未遂に終わりましたが、この母親は甲斐性がなくてゴメンね、と娘に泣いて謝ったそうです。

 しかも貧富の格差が仕送りに反映されますから、大学に入れたとしても金持ち組と貧乏組では天と地の差ということになります。貧乏組は毎月100-150元、金持ち組は1000元以上。これでは消費性向から何から違ってきますから、まさに別世界。友達付き合いが分かれてしまうのも自然なことでしょう。

 パソコン、携帯、ファッションから女子大生なら化粧品に至るまで、金持ち組は消費社会の先端をゆく存在です。クレジットカードまで持っています。かたや貧乏組は慎ましい生活を送ることになりますが、それだけならまだしも、旧正月のある冬休みに帰省できなかったり、水商売のバイトをしたり、ひいては節約のため残飯をあさったりという例も報じられています。

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 この状況をみれば憤慨せずにはおれないでしょう。その代表格が張保慶・教育部副部長(当時)だったのです。早くからこういう状況に陥ることを見通していたのか、張保慶は江沢民時代から「教育の産業化」に公然と異を唱え、大学の「学費高過ぎ」「諸経費取り過ぎ」を事あるごとに批判してきました。

 ●大学の学費水準の安定を、これ以上の値上げは許さず――教育副部長(経済参考報2004/11/11)
 http://jjckb.xinhuanet.com/www/Article/20041111151455-1.shtml

 「学費水準の安定を」の「学費」には諸経費も含まれており、記事本文ではやはり「乱収費」の問題が語られています。標題にある「教育部副部長」というのが張保慶です。

「北京の大学生一人当りの生活費は毎月300元(人民元、以下同)。それに学費や帰省旅費ほか諸経費など4000元前後が加わり、1年で1万元以上になる」

 とし、現在の国情(国民の収入水準)に照らせばこれは高すぎる水準で、金持ちしか大学に通えないというなら、これは共産党国家の教育ではない、と指摘しています。

 また、8月に開かれたある記者会見で張保慶は一部の地方政府や大学、銀行が国家の奨学金制度を実行していないとし、その地区を名指し批判もしています。それによると未だに400以上の大学がこの制度を実施していないそうです。

 別の機会には、

「私と妻の収入を合わせても、子供ひとりを何とか大学にやるのが精一杯だ」

 とも語っています。自分の身をかばわずに直言・諌言を繰り返す党官僚に、民衆は拍手を惜しみませんでした。

 ●香港紙『太陽報』(2005/10/30)
 http://the-sun.orisun.com/channels/news/20051030/20051030025658_0000.html

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 その張保慶が免職されたことが、社会に波紋を広げました。定年退職とはいえ、実際には60歳を超えても退職しない党官僚もいるからです。

 その空気を拾い上げて、マスコミが動き出しました。香港紙『蘋果日報』(2005/11/05)によると、南京市の地元紙『現代快報』は、

「剛直で直言を厭わない教育官僚だった」
「民衆が注目するスター官僚だった」

 と張保慶を評価し、

「その免職の真の原因について公衆には知る権利がある、政府はそれにちゃんと応えるべきだ」

 とまで踏み込んでいます。

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 私がおや?と思ったのは、『人民日報海外版』(2005/11/04)までがこの動きに同調し、張保慶を取材した記事を大きく掲載。張保慶が「教育の産業化」だけでなく、農村部で小・中学校への就学率が下がっていることを指摘し、実際に現地を視察。原因は貧困にあるとして、

「新たな文盲を生み出してはならない」

 と訴えたと報じています。これを「新華網」(国営通信社電子版)が間髪入れずに掲載しているのも興味深いところです。

 ●自らのスタイルを貫いた張保慶――前教育部副部長インタビュー(新華網 2005/11/04/07:42)
 http://news.xinhuanet.com/edu/2005-11/04/content_3728177.htm

 さらにその日の「新華網」には張保慶に関する北京紙『新京報』の古い記事も並べてありました。異例のことです。

 ●張保慶教育部副部長が直言、中国の教育界にはびこる五大問題(新華網 2005/08/30/15:11)
 http://news.xinhuanet.com/edu/2005-08/30/content_3422181.htm

 これは上述した記者会見のようで、海南省、天津市、黒龍江省、内蒙古自治区、青海省、寧夏回族自治区、甘粛省、新疆ウイグル族自治区が名指し批判されています。

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 異例とも異様ともいえる免職後に流れたマスコミの張保慶礼讃報道は、張保慶がいかに庶民に慕われていたかを示すものですが、同時に「免職は政治的しがらみの結果ではないか」という民衆の疑念を反映したものであり、マスコミもまたそれに同調したということもあるでしょう。『蘋果日報』(2005/11/05)によると、ネット世論も「免職」に反発したようです。

 江沢民時代から教育部副部長だった張保慶、「教育の産業化」に断固反対の姿勢を貫いた訳ですが、当初の上司で「教育の産業化」を推進したのが陳至立・教育部長(当時)でした。上海閥と目される人物です。そもそもこの改革自体が新たな腐敗の温床を生むものではないかという見方があり、実際に諸経費徴収や「高いくせにマズい学生食堂」などを通じて大学当局の横領疑惑が取り沙汰されてもいます。

 今回はどう話を結んだらいいのでしょう。免職後の張保慶報道に、私はマスコミの良心や庶民の意思をみた思いがしました。ただ、『人民日報海外版』や「新華網」といった最大手までが足並みを揃えたというのは、単なる愛惜ではなく、政治的な色彩もあるのではないかと勘繰りたくもなるのです。



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