日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 先週、数日ばかり東京から離れていたため中国情報の消化が遅れております。書くべきことは色々ある上に新しい情報なども入ってきて焦ってしまうのですが、こうなると順序に従って取り組んでいくしかありません。で、ちょうど一週間前に「香港は燃えているか・下」(2005/10/25)の文末において、

 本当は香港に続いて上海の話へと飛ぶ筈だったのですが……。orz

 と書いてしまったままになっているので、まずはそれから片付けることにします。

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 中国には深刻な地域間格差というものが存在しています。「沿海部vs内陸部」というのが典型例で、言うなれば沿海部は都、内陸部は鄙ということになります。

 この格差、元々存在していたものですが、分権化と競争原理の導入を柱とする改革開放政策によって顕在化し、それだけならまだしも格差は広がる一方。「上海vs広州」といった沿海部同士の競争もあるのですが、深刻なのはやはり「沿海部vs内陸部」です。

 内陸部は元々インフラなどからして沿海部に劣っていますし、内陸という分だけ輸送コストがかかる。ですから外資導入が奨励されるようになると沿海部との差が拡大の一途をたどるのは当然のことです。

 以前にも書きましたが、内陸部はこれまでずっと(たぶんこれからも)、スタート地点の違う不平等な徒競走を強いられてきた訳です。しかも脚力においても沿海部より劣っている。ですから経済が走れば走るほど、「沿海部>内陸部」という地域間格差が拡大していきます。内陸部が10成長した間に、沿海部は40も50も成長しているので全く勝負になりません。

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 ただ翻って考えてみますと、沿海部には意外な脆さがあるといえるかも知れません。

 中国の経済成長は農村・農民という低コストかつ無尽蔵な土地&労働力を売り物に、どんどん外資を導入することによって実現されたものです。極めて歪んだ発展モデルです。

 農村と農民に犠牲を強いることで成立しているという危うさがまずあります。胡錦涛政権は「調和社会の実現を」などと呼号していますが、「信じられないくらい不調和」だからこそ中国はここまで発展することができたのです。

 それから外資頼みで外資に逃げられれば経済が失血死してしまうという点。中国の外資依存度は現在確か8割ぐらいだった筈ですが、いま探してみても典拠が出てこないので目安としてみておいて下さい。

 いまから16年前、1989年の外資依存度は現在より遥かに低かった筈ですが、それでも天安門事件に対する経済制裁によって大きなダメージを受け、給料の幾分かを天引きされてその分は国債で現物支給、ということが行われるほどでした。

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 この外資依存度という点で比べてみると、当然のことながら沿海部が内陸部よりずっと高いことになります。逆にいえば外資頼みで発展してきている訳ですから、経済制裁のような事態に再び襲われれば正に失血死するしかないでしょう。

 懐かしの「人生ゲーム」でいえば億万長者から貧乏農場へと一気に転落。これに対し外資依存度が低い内陸部はダメージも限定されます。相も変わらず貧乏農場ということになるでしょう。

 経済制裁や外資一斉引き揚げなどは可能性が低いですからリスクというほどでもありませんが、もし現出してしまえば、沿海部の都市にとっては白い高額紙幣が赤い約束手形に変わる悪夢を見ることになります。外資依存度の高い都市ほど危ない、と。筆頭に名を列ねるのは間違いなく上海市ということになるでしょう。

 かつての広東省のように独立王国的存在の大諸侯・上海市ではありますが、外資に撤退されればアウトです。阿片中毒のようなもので、外資を引き入れ続けなければ生きていけない。そのために一定以上の経済成長率を維持しなければならない。

 自転車を漕いでいるのと同じで、それが中央の定めた指標を大きくオーバーしようとも、上海市は自己保存のために成長率信仰を捨てる訳にはいかないのです。

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 ですから中央政府とはぶつかることになります。

 温家宝首相がわざわざ乗り込んで来て上海市のトップである陳良宇・市党委員会書記に激論をぶつけてきても、上海にとっては死活問題ですから服従姿勢はとれません。胡錦涛総書記がいくら説教を垂れても無駄。

 「科学的発展観」だの「協調的発展」というのは、上海の角を矯めるようなものです。少なくとも上海側にはそう映るでしょう。……という点を踏まえてみると、

「上海必死だなw」

 という情景がいくつか浮かんできます。まずは日本の報道から。

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 ●訪中の大阪府知事に「国賓級警備」、当局が反日封じ(読売新聞 2005/10/24/03:02)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20051024i401.htm

 【北京=末続哲也、上海=加藤隆則】中国政府は、小泉首相の17日の靖国神社参拝から初の週末となった22~23日、国内の日本公館周辺での反日抗議活動を抑え込んだ。対日関係の一層の悪化を避ける政治判断があったと見られる。

 上海の消息筋によると、大阪府・上海市友好提携25周年記念式典のため、24日上海入りする太田房江・府知事の警備について、上海市当局が日本側に「国賓級の態勢をとる」と伝えた。式典には、太田知事のほか、日本人250~300人が参加すると見込まれており、市警備当局は、不測の事態に備え、大量の警官を動員すると見られている。

 ……何だか今春の反日騒動の際、五四運動記念日たる5月4日のデモ再発に備えて、治安当局が日本総領事館へと通じる道にコンテナを並べて封鎖した異様な光景を思い出します。「対日関係の一層の悪化を避ける政治判断」云々ではなく、外資導入の邪魔になる要因は一切排除すべし、という上海市当局独自の意図(中国政府ではなく)がそこにあるのではないかと思います。

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 もう1本。「中国のためじゃなく、とにかく上海の死活問題だから」という点がより際立った報道です。

 ●対日関係重視せよ、上海当局がメディア工作(読売新聞 2005/10/24/23:22)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20051024i517.htm

 【上海=加藤隆則】24日付上海各紙は「友好の花は常に開き、散らない」などの見出しで、スポーツや芸術、経済活動を通じた日本との民間交流を伝える記事を一斉に掲載した。

 小泉首相の靖国神社参拝に反対するデモを力で封殺する一方、メディアを動員して反日感情の悪化を和らげ、経済への影響を極力抑えようとする市当局の意向を反映したものとみられる。

 前日の23日には、市共産党委機関紙「解放日報」が一面で、上海駐在日本人のインタビュー記事を掲載しており、市関係者は「市民の目に見える形で日本人の素顔を紹介し、日本への理解を深めてもらう宣伝に力を入れていく」と話している。上海市への外国投資は日本が最も多く、昨年は契約ベースで約15億ドル。市当局は靖国参拝後も、対日経済関係を重視する姿勢を明確にしている。(後略)

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 「新華網」(国営通信社のウェブサイト)や「人民網」(党中央機関紙『人民日報』の電子版)が靖国参拝に伴う「小泉批判」を明確に打ち出しつつも、世論を刺激して反日騒動再燃とならないよう綱渡りのメディア操作を未だに続けている。……という胡錦涛・温家宝率いる中央政府に対して、なりふりなどは構っていられない上海市当局は、小泉首相による靖国神社参拝の2日後である10月19日には焦揚・市政府報道官が定例会見でこの問題に言及。ただし、

「中国政府はすでに日本側に強く抗議した。上海市党委員会・上海市政府は中央政府のこの立場を擁護する」

 とこの一言で済ませてしまい(笑)、続いて市当局に対するデモ申請が全くないことを強調。市民が未許可デモに参加せぬよう呼びかけました。

 http://www.takungpao.com/news/05/10/20/ZM-472557.htm

 あとは『読売新聞』が報じた如く、メディア操作で綱渡りをすることもなく「友好の花」一辺倒。北京とは一線を画した報道路線をとって違いを際立たせています。

「24日付上海各紙は『友好の花は常に開き、散らない』などの見出しで、スポーツや芸術、経済活動を通じた日本との民間交流を伝える記事を一斉に掲載した」

 というのがそれに当たりますが、これがまた異様なのです。

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 ●民間交流増進で右翼を抑制――大阪バレーボール協会の上海訪問交流記(解放日報 2005/10/24/08:02)
 http://www.jfdaily.com.cn/gb/node2/node142/node200/userobject1ai1104548.html

 ●大阪ママさんバレーチーム監督の中国への想い(文匯報 2005/10/24)
 http://www.xmwb.com.cn/xwzx/shxw/t20051024_694620.htm

 ●大阪府との友好提携25周年、上海で記念行事(新聞晨報 2005/10/24/01:47)
 http://www.jfdaily.com.cn/gb/node2/node142/node200/userobject1ai1104316.html

 ●上海で大阪府との民間交流活動、バレーボールで描かれた友情の花(新聞晩報 2005/10/24)
 http://www.jfdaily.com/gb/node2/node17/node38/node70351/node70353/userobject1ai1104940.html

 ●上海と大阪のママさんチーム、バレーボール通じ友好深める(東方網/新浪網 2005/10/24:10:28)
 http://news.sina.com.cn/s/2005-10-24/10287249957s.shtml

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 ……といった記事が10月24付の上海市党委員会機関紙『解放日報』をはじめ上海各紙の紙面を一斉に飾ったのです。一斉になったのは『読売新聞』が指摘している通り、上海当局の指示によるものでしょう。

 「靖国参拝」からわずか1週間後にこの種の記事で足並みを揃えたというのがまず異様ですが、揃えさせた上海市当局がそもそも尋常ではありません。外資依存度が際立って高いであろう上海の「必死だなw」という一面を感じさせます。

 そして何よりも異様なのは、この記事が中央に黙殺されたことです。「新浪網」(SINA)や「雅虎」(Yahoo!)といった大手ポータルに一部の記事が転載されたのですが、「新華網」「人民日報」は全てスルー。完全無視です。

「そんなニュースが載せられるような状況か?少しは空気を読んだらどうだ」

 という理由もあるでしょうが、全く黙殺したというのはやはり常ならぬものを感じさせます。「中央vs上海」という対立の構図が垣間見れるともいえますし、上海の死活問題を中央が十分に察していないともいえます。

 一方で、「空気を読んだらどうだ」という状況下でも上のような「友好の花」に徹することができる上海市当局の統制力の強さもうかがわせます。


「下」に続く)



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