日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





「上」の続き)


 意外な展開……いやいや、

「中央は『江八点』記念活動を行わず、関係各部門が各自実施する」

 という方針通りに概ね事が運んだのですから胡錦涛は満足しなければならないのですが、「関係各部門が各自実施する」ということで地味にしようという狙いが見事に外れてしまいました。各地で「江八点」11周年記念活動が相次いで、しかも予想外の広がりで実施されたのです。

 以下、「新華網」(国営通信社電子版)と「人民網」(『人民日報』電子版)で拾った記事だけに限定して並べてみます。まずはこれから。

 ●台盟主席「『江八点』は統一の前途に重大な作用を及ぼした」(新華網 2006/01/19)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/19/content_4074525.htm

 民主諸党派(なんちゃって野党)のひとつである台湾民主同盟主席が「江八点」を手放しで評価・賞賛したものです。姉妹サイト「楽しい中国ニュース」(2006/01/20)でも紹介しましたが、これは前掲した『香港文匯報』の「対台湾政策も『胡四点』時代へ」と同じ日の記事です。それだけに、私はこれを過去のものとなる「江八点」への送別の辞であり決別の辞でもある、と読みました。さもなくば「いまや時代は『胡四点』」という空気を読めない馬鹿が出てきたかと。

 ……ところがその後の流れをみるに、これはひょっとして
「あえて空気に逆らって『NO』と意思表示したもの」ではないかと疑いたくなりました。そう疑いたくなるほどの勢いで「江八点」讃歌が各方面から湧き起こってくるのです。

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 ●本紙にて「『江八点』発表11周年」コラムが今日からスタート(人民網 2006/01/23)
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/4051994.html

 何とまあ、
「中央は『江八点』記念活動を行わず」という方針だった筈なのに、党中央の機関紙である『人民日報』(2006/01/23)が記念リレーコラムを開設です。記念活動を行わない「中央」とは中央政府のことで、党中央ではないということでしょうか。「いやそんな筈は絶対……」と胡錦涛は呻いたことでしょう(笑)。

 ●台湾問題専門家、「江八点」発表11周年記念座談会を開催(人民網 2006/01/23)
 http://politics.people.com.cn/GB/1026/4051907.html

 この記事は『人民日報海外版』(2006/01/23)に掲載されました。

 ●広東省の関係各部門が「江八点」発表11周年記念座談会を開催(新華網 2006/01/24)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/24/content_4092760.htm

 ●天津市の関係各部門が「江八点」発表11周年記念座談会を開催(新華網 2006/01/24)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/24/content_4093136.htm

 ●広東省で「江八点」発表11周年記念活動(新華網 2006/01/25)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/25/content_4095694.htm

 上の広東省の記念座談会と同じイベントかと思いますが、『人民日報』に掲載されたこととマスコミ露出度をみるという意味において出しておきます。

 ●台湾中華両岸文経観光協会理事長が「江八点」11周年記念エッセイ(新華網 2006/01/25)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/25/content_4099423.htm

 ●中国和平統一促進会と黄埔軍校同学会が北京で記念活動を開催(新華網 2006/01/25)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/25/content_4099031.htm

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 まだあります。

 ●江蘇省の各界人士が「江八点」発表11周年記念座談会を南京で開催(新華網 2006/01/25)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/25/content_4096011.htm

 ●「江八点」は歴史的意義と現実的意義の両方を兼ね備えている(新華網 2006/01/26)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/26/content_4102614.htm

 上にある「記念エッセイ」を手際良くまとめた内容。

 ●江沢民の台湾に関する重要講話と中央指導者たちの関係講話が書籍化(新華網 2006/01/26)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/26/content_4103621.htm

 とうとう本が出る騒ぎになりました。これも「江八点」11周年記念だそうです。

 ●台湾問題専門家「『江八点』は現在においてもなお重要な役割を発揮する」(新華網 2006/01/26)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/26/content_4103777.htm

 この記事は
「いまでもやっぱり『江八点』」というタイトルも内容も際どくて、政治色の濃いものです。

「江沢民同志が11年前に発表したこの重要講話『江八点』は依然として対台湾政策における我々の基本的立場であり、いまなお両岸関係の発展を推進していく上での基本政策だ、という点で参加した専門家たちの見方は一致した」

 として「江八点」こそ基本政策だと謳い上げられ、「胡四点」が逆に地味に扱われています(笑)。ちなみに人民解放軍の機関紙『解放軍報』(電子版)は「江八点」に関しては唯一この記事を転載しているのが気になるところです。

 ●上海各界が「江八点」11周年を記念して様々なイベントを開催(新華網 2006/01/26)
 http://news.xinhuanet.com/tai_gang_ao/2006-01/26/content_4103790.htm

 ●南京各界が「江八点」発表11周年記念座談会を開催(新華網 2006/01/26)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/26/content_4104809.htm

 ――――

 どうです?……と私が得意になっても仕方ないのですが(笑)、胡錦涛サイドによる当初の目論みに反した、かなり異常な状況ではないでしょうか。

 だって全然地味じゃありません(笑)。「新華網」と「人民網」に限っても、1月19日の台盟主席による「江八点」への評価・賛美に始まって合計14本(私の見落としがなければ)。そのうち13本は1月23日から26日にかけての4日間にまとめて出てくるという集中豪雨的なマスコミ露出で、一種の政治キャンペーンといってもいいほどです。特に「新華網」は全国ニュース扱いで配信している訳ですから、地方紙に掲載されるケースも多いことでしょう。

 しかもこの間、『人民日報』ではリレー形式の記念コラム連載が続いている筈です。……ああ今日(1月27日)も4面に出ていますね。1面には上述した書籍化のニュースも。そして記念座談会などのニュースが今日もまた報じられることでしょう。明日28日から旧正月期間(旧暦の元日は1月29日)に入りますから今日で打ち止めになるのか、それとも11周年記念日である30日まで旧正月に構わず続けるのか、その勢い次第では新たな展開があるかも知れません。

 まあ「帝国の逆襲」といったところでしょうか。台湾問題に関する主導権争いが実際に存在するのか、それとも「江八点」をダシにした政争なのかはまだ見極めがつきません。ただ言えることは、
記念活動が行われても報道されなければ人目につかないということです。つまり、胡錦涛によるメディア掌握が不十分な証ではないかと。私自身は、胡錦涛の攻勢が続いていたのに最近その勢いが弱まった観があり、これは将棋でいう「指し切り」のようなものではないかと感じていたところです。

 その矢先に「胡四点」を脇に追いやる「江八点」の洪水、そして「氷点」潰しですから、ちょっと出来過ぎたタイミングではないかと勘繰ってしまうのです。これがある意思に基づいた政治的攻勢であるのなら、確かにこの時機を選ぶことになるでしょう。とは、県レベル以下の党幹部人事がこれから行われようとしています。今回の動きを仕掛けた側に、勢いに乗ってそれを押し切ろうという肚があっても不思議ではありません。

 ――――

 胡錦涛は「団派」と呼ばれる胡錦涛派の若手を省や直轄市、自治区のトップクラスに送り込んで「諸侯」たる地方政府への統制強化を図ろうとしていますが、地元からみれば、そうしたホープは省党委員会書記や省長といったポストを何年か務め、それを踏み台にして中央へ戻っていく連中、ということになり、馴染めないものがあるでしょう。特に胡錦涛系であれば、「中央vs地方」という利害対立が発生したときにいよいよ心許ないことになります。

 結局、省なり自治区なりの勘所を押さえているのは地方の実力者、地元のボスといった地生えの連中で、副省長や省党委副書記、あるいは県党委書記といった目立たないポストにいながら、中央から送り込まれた「雇われ首長」に対抗できる存在です。

 末端からそのクラスあたりまでの党幹部のポストが任期満了で新人事となる訳ですから、「諸侯」にしてみれば非常に重要な時期ということができます。ちょうど昨日(1月26日)、党中央組織部によってその人事に関する方針表明が行われたばかりです。

 そしてそのヤマを乗り越えれば、今度は全人代(全国人民代表大会=立法機関)で新たな五カ年計画の内容をめぐる中央政府との丁々発止。……そういうタイミングなのです。ですから今回の「氷点」潰しにしても大きな流れの中の出来事として捉えるべきで、「メディア締め付け強化」なんて紋切型で済ませていいものではないように私は思います。

 それにしても「江八点」賛美がまだまだ続くようなら困ります。外堀がなかなか埋まらないじゃないですか。肝心の話を先に進められません。そんな殺生な(涙)。



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 「氷点」といえば皆さんもう御存知でしょうが、『中国青年報』の週末版(付録)です。これが当局、具体的には党中央宣伝部によってこのほど停刊(事実上の廃刊)に追い込まれました。

 日本でも報道されていますね。

 ――

 ●中国週刊紙を停刊処分 歴史教科書批判で(共同通信 2006/01/25/19:03)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MNP&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2006012501002601

 【北京25日共同】中国有力紙、中国青年報の付属週刊紙「冰点周刊」が、先に掲載した中学校歴史教科書に関する評論記事が原因で当局から批判され、25日までに停刊処分を受けた。胡錦濤指導部によるメディア締め付け強化を示すと同時に、中国での歴史認識問題の敏感さを浮き彫りにした。
(後略)

 ――

 で、「氷点」編集長(主編)の李大同氏が海外のブログに今回の件に関する手記を発表。これを香港紙など(電子版含む)が転載するなどして、波紋が広がりつつあります。

 ●「明報即時新聞」(2006/01/26/16:55)
 http://hk.news.yahoo.com/060126/12/1kr6a.html

 内部事情を明らかにした手記を公開するというのは、中共政権においては自殺行為です。ただ海外メディアに取り上げられることが一種の保険となって、闇討ち粛清、なんてことにはならないという計算は李大同氏にもあるでしょう。

 とはいえこの挙に踏み切ったことで待ち構えている結果は、よくて軟禁、悪くて投獄。当然それを覚悟している筈ですから、李大同氏もついにキレて国際世論を背景に中央宣伝部に対してガチの勝負に出た、というところでしょうか。いずれにせよ、非常な勇気を要する行動です。

 ――――

 李大同氏の手記は私も読みました。読みましたが、それによって全容が明らかになるような内容ではありません。ただ得心がいきました。共同通信が報じているような単純明解な筋立ての事件ではない、ということです。

 そもそも『中国青年報』は胡錦涛・総書記の御用新聞です。胡錦涛の出身母体で胡錦涛人脈の中核をなす共青団(中国共産主義青年団)、その全国組織を束ねる共青団中央の機関紙が『中国青年報』なのです。胡錦涛派の大看板といっていいでしょう。

 当ブログが再三指摘しているように、中共における政争は往々にしてメディアによる代理戦争(何かのテーマに関する論争や関連記事の応酬など)の形で進行します。胡錦涛派がそういう際に代弁者として掲げるメディアが他ならぬ『中国青年報』であることは、過去に豊富な実例がありますし、当ブログも幾度もふれているところです。……ただもちろん年中無休で政争をやっている訳ではありませんから、『中国青年報』も必要なときに戦闘モード、つまり御用新聞の鎧を身につけ、胡錦涛派の拠点に徹するのです。

 「戦時下」でない、平素の『中国青年報』は比較的ラディカルな印象のある新聞です。個人的な感想をいえば、庶民派ではないものの、問題意識にあふれた編集スタイル、といったところです。将来、エリートとして国政に参与せんとする共青団中央らしい青雲の志や意気込みを反映したものかも知れません。

 それはともかく、胡錦涛の大看板である『中国青年報』の付録「氷点」が廃刊に追い込まれた、というのは尋常ならぬ事態です。合戦でいえば総大将たる胡錦涛の本陣近くまで敵に斬り込まれたといったところでしょう。

 「氷点」の首級を挙げた「敵」が中央宣伝部だと李大同氏は手記に記しています。確かにそうなのかも知れませんが、中央宣伝部が党上層部にあって屹立した、胡錦涛の御用新聞に手を出せるほどの強力な戦闘組織、という訳ではないでしょう。

 中央宣伝部は戦場を馳駆する数ある敵方の騎馬武者のひとりであり、その遥か背後に高々と馬印を掲げた総大将が控えている、と考える方が自然ではないでしょうか。……ええ、政争の香りがします(笑)。李大同氏には気の毒ですが、「氷点」廃刊は敵方にとって勝利条件ではなく、一種の見せしめとして晒し上げられた存在であるように思います。

 ひそやかではありますが、これは政争です。……となると考えることが色々あって憶測がどんどん湧いてきて、私も片っ端から思うままに書き並べたくてウズウズしているのですが(笑)、久しぶりの大ネタですからここは着実に外堀から埋めていきたいと思います。最初に申し上げておきますが、今回は外堀攻略に一意専心。本丸にまではとてもとりつけません。

 ――――

 という訳で、突然ですがここで江沢民です。……ではなくて胡錦涛の話から始めなければなりません。1月12日から16日にかけて胡錦涛は福建省を視察し、現地で重要講話も発表しています。

「これからの経済成長は効率重視でなきゃいかん。そういう方向に切り替える」

 というこれはこれで意義深い内容なのですが、本題とは関係ないので割愛。それよりも、福建省といえば対岸は台湾です。そういう特殊な地域を視察すること自体が一種の政治的デモンストレーションであり、簡単に言えば、

「台湾問題は俺が仕切る」

 と改めて宣言したようなものといえるでしょう。あるいは、殊更にわざわざそうやって宣言しなければならない政治状況があったのかも知れません。例えば対台湾政策をめぐる主導権争いが中共指導部に存在した、とか。

 ……台湾問題に長年関わってきた汪道涵・海峡両岸関係協会会長(当時)が昨年末に死去した際、告別式には江沢民も姿を現わし、中央からは曽慶紅・国家副主席(党中央政治局常務委員)が出席しました。

 曽慶紅が北京から出向いたのは故人との縁が深いためとされましたが、この曽慶紅は胡錦涛政権における香港・マカオ問題、つまり「一国家二制度」の担当者でもあります。そこで今後は台湾問題も曽慶紅に任されることを示唆しているのではないか、という観測が親中紙の『香港文匯報』(2005/12/31)に出ています。

 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0512310004&cat=002CH

 まあ親中紙といっても噂なんて煙みたいなものですから、笑い飛ばしてもいいのです。でも憶測ではなく、関係者の肉声が記事になったものには留意せざるを得ません。

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 ●対台湾政策も「胡四点」時代へ(香港文匯報 2006/01/19)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=TW0601190001&cat=003TW

 「江八点」11周年記念活動が1月19日に幕開けする。今年は大陸(中国本土)における「江八点」活動は非常に地味に扱われており、しかも中央によって統率された記念活動は行われず、北京の台湾関連各部門がそれぞれ実施する運びとなる。この地味な扱いへのランクダウンは、中国の対台湾政策がすでに「江八点」時代から「胡四点」時代へと移り変わったことを示唆している、と分析する向きがある。

 全国台聯研究室の楊陽毅・副主任は本紙の取材に対し、「『胡四点』は『江八点』の延長線上にある指導思想で、『江八点』の継続及び発展であり、現段階における対台湾政策の大方針だ」とコメント。
(中略)2006年の対台湾政策について楊副主任は、「『胡四点』の精神に基づいて、昨年やり残してまだ未完成の案件を引き続きしっかりとやり遂げ……」(後略)

 ――――

 
「江八点」というのは江沢民が総書記&国家主席だった1995年1月30日、台湾問題の解決方式について行った「八項目提案」のことで、いわば台湾統一を実現する上での8原則ともいうべきものです。これに対して台湾側は李登輝・総統(当時)が「李六点」というものを提示して素早く切り返し、「江八点」を袖にしています(笑)。

 
「胡四点」は2003年、国家主席に就任した胡錦涛が同じテーマについて「江八点」に気兼ねしつつも自己主張した「4項目の意見」が、翌2004年9月に開かれた「中国和平統一促進会」において「胡四点」として認知されたものです。江沢民が引退し、胡錦涛政権が発足して1年余りが経過したことで、対台湾政策でも胡錦涛カラーを前面に押し出したものにする、ということでしょう。

 そのために胡錦涛はわざわざ「江八点」記念日近くを選んで福建省を視察したのだと私は思います。軍主流派の支持なくしては指導力を発揮できない観のある胡錦涛にとって、旧正月手前の歳末気分のなか、「最前線」の部隊を慰労・激励するという意味合いもあったでしょう。……ともあれ、「胡四点」を掲げた中央は「江八点」記念活動を率先して手掛けることなく、目立たせずに地味に地味に扱って流してしまおう、という訳です。

 この
「中央は『江八点』記念活動を行わず、関係各部門が各自実施する」というのは台湾・中央通信が中国国務院台湾事務弁公室筋からも確認しており、

「『江八点』は過去のものとなった。忘れよう」

 という中央の意思をみてとることができます。時代は胡錦涛、そして胡錦涛の「胡四点」、という訳です。

 ●「胡四点」時代が到来、「江八点」記念活動は地味な扱いへ(中央通信 2006/01/22)
 http://tw.news.yahoo.com/060122/43/2sibb.html

 ……ところが、事態は意外な展開を迎えることになるのです。


「下」に続く)



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 当時の手ざわり、これを土台にしてつい眺めてしまうから驚倒する訳で。……いや、中国の大学生の話です。

 『中国青年報』といえば時節柄、週末の折り込み版?である「氷点」が当局よって廃刊になった、というニュースがまず思い浮かぶのですが、その前に大学生活に関する数字がまとめて出てきたのでそちらを先に御紹介します。

 ……ええ、これも『中国青年報』発の報道で、「中国通信社」(華僑向け通信社)を経て「新華網」(国営通信社の電子版)に転載された記事を私は拾いました。

 ●北京・天津地区の大学生、1年間の消費額は農民年収の3.5倍に
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2006-01/23/content_4087604.htm

 この記事によると、天津市の最高学府ともいえる南開大学の「学生課題組」(ゼミみたいなもの?)が北京・天津地区の主要大学を対象に「大学生消費状況」と銘打ったアンケートを実施したそうです。

 北京大学、北京理工大学、北京外国語大学、中国人民大学、南開大学、天津大学、天津師範大学、河北工業大学の8校の学生にアンケート調査を行ったところ、約9500名の有効回答があった、というから大したものです。

 ――――

 で、その結果判明したのは、

 ●北京地区の大学生1人当たりの平均月間消費額は615.7元
 ●天津地区の大学生1人当たりの平均月間消費額は440.0元

 という数字です。改めて念を入れておきますが「月間消費額」、生活上、1カ月にこれだけのカネが必要になっているということです。アルバイトの機会に恵まれる学生もいるでしょうが、一般的には親からの仕送り額に等しいとみていいかと思います。……これがどのくらいのレベルに相当するかを都市住民及び農民の収入に照らしてみますと、

 ●都市部1世帯当たり月間平均収入の33.7%(北京)、24.1%(天津)
 ●農村部1世帯当たり月間平均収入の56.6%(北京)、40.4%(天津)

 ……とまあ、なかなか大層な数字です。都市部住民にとっての負担も軽くないですけど、農村部住民であれば収入の約半分が仕送りに消えていくということになります。

 ところがこれはあくまでも「月間消費額」で、学費や寮費は含まれていません。それを含めて北京・天津両地区における大学生の年間平均支出額を出してみると、実に
10287.5元に達します。それを2004年の統計でみてみると、

 ●都市部住民1人当たり平均年間可処分所得(9422元)の1.1倍
 ●農村部住民1世帯当たり平均年間純収入(2936元)の3.5倍

 となって、記事タイトルの「3.5倍」がここで出てくる訳です。大学生を1年間養うのに農家の年収の3.5倍が必要、というのは以前から指摘されているとはいえ、やはり異常だとしか言いようがありません。

 ――――

 消費性向についてみてみると、この調査結果によれば「大多数の学生が基本的な生活費に消えていく」としており、他愛がありません。数字でいうと、

 ●食費+生活必需出費=513元(北京・天津両地区の1人当たり平均額)

 ということで、特に農村部の学生はこの分の支出だけでほとんど残らないようです。

 ただ当然のことながら、親がお金持ちグループが存在し、キャンパスを闊歩しています。質朴な生活を送る貧乏学生を尻目に潤沢な仕送りで消費三昧。ノートパソコン、MP3プレーヤー、デジタルカメラなどは最低限の装備に過ぎません。それから携帯電話。金持ち同士の競争意識のようなものもあって、新機種を追い求めて3年間に携帯電話を6台も買い替えた学生がいるほどです。

 恋人ができるといよいよ支出額は増えます。全体の1.5%がそのために毎月500元以上使っているとのことで、これは金持ちグループなのでしょうが、程度の差こそあれ金持ち学生でなくても出費は増えるでしょう。

 食事を含めたデートでの出費、携帯使用料のほか、誕生日やクリスマス、バレンタインデーのようなイベント支出(プレゼントなど)、それに服をペアルックで揃えるなど馬鹿になりません。大抵は男が払うものなので、この「恋愛費」によって「財政赤字」に陥る者も少なくないとのこと。男子学生の恨み節が聞こえてきそうです。

 ――――

 この調査はなかなか行き届いており、具体的に家電製品の保有率まで弾き出しています。それによると、

 ●ウォークマン(40.5%)
 ●テレビ(12.9%)
 ●PC(48.9%)
 ●デジカメ(28.7%)
 ●携帯電話(74.7%)
 ●CDプレーヤー(21.4%)
 ●MP3プレーヤー(45.5%)

 とまあ、みんなそれなりに持っているんだなあという感じです。MP3が約半数というのは意外でしたが、国産の廉価品でも売っているのでしょうか。最後に「資産運用」については、

 ●貯金する習慣がない(29.6%)
 ●やっても続かない(36.3%)
 ●考えたことはあるが実行していない(13.7%)
 ●定期的に貯金している(20.4%)

 ……とのことでした。

 ――――

 で、私は最近中国に行っていませんし、行っても香港経由で広州や深センあたりを徘徊するぐらいで、大学をのぞいたりもしません。それ故に伝わってくる報道で大学・大学生の変貌ぶりを知り、びっくりしてしまうのです。ええ、野暮な言い方をすりゃあ浦島ってやつです。当ブログのエントリーでいうなら、

 ●キャンパスにも蔓延する「格差」(2005/02/21)
 ●ニート出現。(2005/02/22)
 ●卒業即失業、それが嫌ならド田舎へ行くかニートになるか。(2005/07/12)
 ●21世紀型学生運動。(2005/07/02)
 ●21世紀型学生運動がデモに発展!?(2005/07/19)

 といったニュースに対して、当時の手ざわり、これを土台にしてつい眺めてしまうから私はいちいち驚倒してしまう訳です(笑)。

 ――――

 私のいう「当時」とは1989-1990年ですから随分昔のことです。留学したつもりが前半戦は民主化運動が勃発して連日嬉々としてデモ隊に加わって練り歩き、後半戦は政治・経済の引き締めと思想的な締め付け、それに民主化運動の落ち武者狩りなどを全身に浴びて過ごした日々でした。隔世の観もむべなるかな、でしょう。

 当時の中国人学生は学費・寮費が無料で、大学進学率も1割あるかどうか、という限られた俊秀のみに門戸が開かれていた時代です。クリスマスやバレンタインデーなんてイベントもありませんでしたから、学生たちは質朴そのもの。学生寮はひと部屋8人、「北方人vs南方人」や「上海人vs非上海人」また「都市住民vs農村出身」などで反目して喧嘩することはあっても、金持ちかどうかで付き合いが分かれることはまずありませんでした。

 当時は留学生食堂が別に設けてあって、私たちは普段そこで食事をしていたのですが、中国人学生は体育館ほどの広さがあって、細長いテーブルだけが無愛想に整然と並んだ学生食堂、ここに「犬皿」と私たちが呼んでいた器ひとつを持って行き、ご飯をよそってもらった上におかずを載せてもらって食べていました。

 この学生食堂、夜中も側面の大扉を開けたままの吹きっさらしなので冬はかなり寒かったと記憶していますが、夜間は消灯時間までこの場所が中国人学生によってびっしりと埋まり、雑談することもなく、予習・復習に黙々と打ち込んでいました。選ばれた連中だけに真面目だしハングリーさもある、さすがだ、とこちらは感心することしきりでした。

 冬になるとその学生食堂の一角に山のように石炭が積み上げられ、その隣にこれまた山のように白菜が積み上げられます。いや、実際中国人学生のいない時間帯にそこで缶蹴りをやれたほど立派に盛り上がっていました(笑)。消灯時間後の人気が途絶えた真夜中に、寮を抜け出してきた仲のいい中国人学生たちと寒い寒いと言いながらそこで色々な話をしたのはいい思い出です。

 ――――

 惜しいことです。

 全寮制という建前ゆえに情報の共有や意思統一、そして組織化が素早く行われるうえ、学生は全国各地から集まってきていますから同じ地区の他大学とはもちろん、他都市の大学との連携も可能。名門大学だと学生の中に高級幹部の息子などがいて意外な機密情報が容易く手に入ったりもします。

 そのうえ気鋭の若手教授などが知識人らしく理論的指導者になったりしますから、草の根からの政治運動を興す上で大学ほど都合のいい環境はないのです。実際、五四運動以来、その種のムーブメントの多くは大学生を主役に行われてきました。

 翻って現在の大学生。程度の差はあれこうも物質に恵まれ、物欲も持ってしまっていてはもはや骨抜き同然、農村暴動など社会問題に対して敏感に反応することはできないでしょう。仮に一部の学生が問題意識を持っていても、それが共有され、その問題意識で意思統一が形成されることはないのだろうと思います。

 私が経験した1989年の民主化運動のあと、「結局、市民を動かすことができなかった」という反省が学生たちの間で行われました。然るに現在、都市でも農民でも庶民が立ち上がっているというのに、皮肉にも大学生は別世界で知らんぷり。……その線を狙って「教育の産業化」(学費や寮費の有料化)が行われた訳ではないでしょうけど。

 まあ愚痴はよすとして、です。今回の調査結果で改めて明確になったのは、人口比なら全体の6割7割を占める「多数派」の農村から大学生を出せなくなってきている、ということです。

 卒業後に即戦力となるかどうかはともかく、進学率も高くなった現在の中国の大学生は、事実上ホワイトカラー予備軍=オフィスの兵隊候補といった役回りを振られている訳ですが、それが都市住民に限定されつつあるのです。現在の制度下では、自然にそういう成り行きをたどることになるでしょう。奨学金制度の充実などといった小手先の施策では到底変えることのできない流れです。「調和社会」でしたっけ。何とも空疎な響きを伴う言葉ではありませんか。



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 更新が滞ってしまいまして申し訳ありませんでした。旧正月前の年末進行、さすがに追い込みに入ると娯楽で心気を休めるどころではなくて。……ともあれ何とか乗り切りました。

 とりあえず前回の続報が入っていますのでそちらを。「SAYURI」(中国名:芸伎回憶録)の件です。

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 ●上映禁止:中国で「SAYURI」 反日感情悪化を懸念(毎日新聞 2006/01/23/18:10)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/cinema/news/20060124k0000m040037000c.html

 【香港・成沢健一】23日付の香港紙「東方日報」などは、来月10日に中国本土で予定されていたハリウッド映画「SAYURI」(ロブ・マーシャル監督)の初上映が中止されたと報じた。中国人女優の章子怡(チャン・ツィイー)さんがヒロインの芸者役を演じていることから、中国人に旧日本軍の従軍慰安婦問題を思い起こさせ、反日感情の悪化につながることが懸念されるためと同紙は伝えている。
(中略)

 中国のインターネット上では昨年から、章さんが芸者役を演じることについて「国を辱めるものだ」といった批判の書き込みが相次いでいた。報道によると、中国では来月10日に上映が始まる予定だったが、国家放送映画テレビ総局が「扱うテーマが敏感」との理由で中止を決めた。その後の上映計画についても審議しているが、許可される可能性は低いという。

 ――――

 ……とのことです。「上映禁止」と銘打ったタイトルは「初上映が中止」という記事本文と食い違うこと甚だしいのですが、まあ勇み足ということにしておきましょう。

 前回報じた通り、中国本土において「SAYURI」は2月公開の予定だったのですが、広電総局(国家広播電影電視総局)による内容審査をパスすることができず、2月公開は消えた、ということです。ただ予定通りの封切りでなくなったというだけで、まだ「SAYURI」上映が御法度になった訳ではないので、『毎日新聞』による「上映禁止」というタイトルは不適切でしょう。

 まあ私も「許可される可能性は低い」とは思いますけど。というより許可しても割に合わないのではないでしょうか。前回のコメント欄に寄せて頂いた現地情報によれば、中国本土では海賊版DVDが販売されているとのこと。ネット上でもBTという形で流通しているでしょう。娯楽として楽しむ人はそれで十分な訳ですから、後になってわざわざ一般公開しても客の入りは悪かろうと思うのです。

 『毎日新聞』が元ネタとしている香港紙『東方日報』、実は私は今朝(1月23日)この『東方日報』と姉妹紙『太陽報』の報道を先に目にしました。

 ●『東方日報』(2006/01/23)
 http://orientaldaily.orisun.com/new/new_c11cnt.html

 ●『太陽報』(2006/01/23)
 http://the-sun.orisun.com/channels/news/20060123/20060123020317_0000.html

 他の香港紙では親中紙を含め関連報道はありませんでした。ただ上記『東方日報』『太陽報』の報道内容も確定報道といえる内容ではありません。姉妹紙ですから情報を融通し合っている部分があるかと思いますが、当ブログが前回報じたような「審査パスは難しい」という話に加え、英紙『ガーディアン』の記事に頼っている部分もあり、あくまでも伝聞調です。

 ただ『太陽報』は「SAYURI」が審査をパスできず、中国本土市場とは無縁になった、という広電総局筋の話を紹介していますが、これは中国国内紙である『深セン商報』(2006/01/22)に拠ったもので、消息筋情報でしかありません。

 ――――

 その『東方日報』などに頼ったとする上記『毎日新聞』の記事ですが、「上映禁止」が勇み足っぽいのに加えて、いまや日本の歴史教科書(中学生)にも出てこないとされる
「従軍慰安婦」という言葉が使われているあたりが面目躍如といったところです(笑)。

 「慰安婦」という単語は元ネタでも使われているのですが、これを翻訳したら「従軍慰安婦」になってしまう、という記者の認識は「これぞ毎日クオリティ」としか言いようがありません。

 さらにいえば、普段はノロノロしているくせに、この頼りない『東方日報』『太陽報』の伝聞調報道をソースにすぐ記事にしてしまうあたりが軽率といえば軽率。

「上映禁止:中国で『SAYURI』 反日感情悪化を懸念」

 というタイトルは確定扱いでしょう。初上映が中止になっただけで禁止決定ではないのですから、

「上映禁止か」

 とでもして含みを持たせておけばいいのに、決めつけてしまうのは如何なものか。「いつもは腰が重いくせに動いたと思ったらこれだ」という声が聞こえてきそうです(笑)。

 まあ、記者とこの記事を採用したデスクは、今回は大ハズレだった訳ではないので恥をかかずに済んだ、という僥倖に感謝すべきでしょう。

 ――――

 ところでこのニュース、私自身は当初確報が手に入らなかったので明日の香港の親中紙あたりに出たら取り上げようか、と思っていたのですが、その明日が来る前に中国国内メディアで報じられているではありませんか。

 ●「新華網」(2006/01/23/09:15)
 http://news.xinhuanet.com/ent/2006-01/23/content_4087327.htm

 ●「新浪網」(2006/01/23/19:05)
 http://ent.sina.com.cn/m/c/2006-01-23/1905969083.html

 「新華網」は北京紙『京華時報』からの転載、「新浪網」はオリジナル記事で、いずれもエンタメ情報・映画編、といった内容です。

 「新華網」の記事では、

「『SAYURI』の撤退で2月上旬の映画市場は新作不足になってしまったが……」

 という書き方でサラリとふれられています。これが「新浪網」の記事になるとタイトルに、

「《芸伎》無縁内地」(「SAYURI」は中国本土とは無縁に)

 という文字が躍っていて一目瞭然。そして記事ののっけから、

「バレンタインデーの時期に上映が予定されていたハリウッドの大作『SAYURI』は、もはや中国本土市場とは縁のないものになってしまったが……」

 と、これまたはっきり書かれています。あとは記事の中段で、

「この作品は12月9日に北米で上映されたが、興業成績は平凡な結果に終わった。注目される中国人女優3名が主要なキャラクターを演じているが、ある種の原因によってバレンタインデーのシーズンには無縁のものとなってしまった」

 とあります。公式発表は出されていないものの、中国国内のエンタメ系記者の間では確定情報とされているようです。ただ、この記事でも「上映禁止」なのか「公開延期」なのかははっきりしません。ともかく2月公開はなし、ということです。

 ちなみに香港ではすでに上映されています。かつて「セブン・イヤーズ・イン・チベット」が中国本土・香港ともにNGだったのを考えれば、「香港はOK・中国本土はNG」という今回の措置で自ずと浮き彫りになるものがあるかと思います。

 ――――

 最後に『毎日新聞』の前掲記事に戻りますが、

「中国人に旧日本軍の従軍慰安婦問題を思い起こさせ、反日感情の悪化につながることが懸念されるためと同紙は伝えている」

 というのはあまりに紋切型で、しかもこの部分までも香港紙に頼ってしまっているという点で、読んでいてこちらが恥ずかしくなります。……ああでもこれは私個人の感じ方でしかありませんね。まあ「反日感情の悪化につながることが懸念されるため」という見方が存在してもいい訳で。

 私の見方は前回書いた通りです。当局は反日感情の悪化を懸念しているのではなく、この映画による反日感情の高まりが起爆剤となって、もはや沸点近くまでに悪化している中国社会のあちこちから火の手が上がり、中共政権を揺さぶりひいては突き崩す可能性を怖れているのだ、ということです。これすなわち「新浪網」の記事がいうところの「ある種の原因」。

 当局が懸念しているのは反日感情ではなく、そこから始まる「反日」とは全く別種のストーリー、とでもいいましょうか。たかが映画1本にここまで神経質にならざるを得ない当局の姿勢に状況の深刻さがみてとれるかと思います。

 もう一点挙げるとすれば、これは大晦日にも書きましたが、「反日」が逆効果になりつつあることが改めてはっきりしたということです。社会状況が悪化し、「民」による「官」(中共政権)への不満のボルテージが高まっていく中で、「反日」がそれを後押ししている部分が少なからずあるように思います。

 後押しさせないために、当局は「SAYURI」に待ったをかけたのではないでしょうか。「反日」にしても、昨年4月の騒動を最後に、「民間団体」による活動は一切封じられ、10月に小泉首相が靖国神社参拝を行った際にも、十数名による日本大使館への「なんちゃってデモ」が許されただけでした。しかも、それが中国国内で報道されることはなかったと記憶しています。

 1989年の天安門事件で地に堕ちた中国共産党の求心力、これを回復させるために講じられた措置のひとつが「反日」風味満載の愛国主義教育ですが、いまから振り返ってみると、経済がほぼ軌道に乗った2000年あたり、遅くとも胡錦涛が総書記になる2003年までに路線転換をしておくべきでした。それをしなかったためにいまや「反日」が踏み絵となり、映画や小説、テレビドラマや広告などはもちろん、外交の世界でも対日政策における選択肢を狭めてしまっています。

 一種の動脈硬化的な状態、これは江沢民が残した負の遺産だと思うのですが、いまや「SAYURI」1本でビクつくくらいですから、もう後戻りはできないのでしょう。



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 皆さん映画の話で盛り上がっているようですね。南京虫だか何だかの。

 どうせ映画ならもっと旬な話をしましょう。「SAYURI」ですよ「SAYURI」。先日タクシーに乗ったら、

「ニッポンが嫉妬するJAPAN」

 なんていう不遜なコピーが窓に貼られていて私をひどく不快にさせたものです。「ヒュンダイを知らないのは日本だけかも知れない」とかいう鮮人自動車のCMがありましたが、不覚にもあれを連想してしまいまして。

 まあキャッチの話はどうでもいいのですが、この「SAYURI」が中国本土、つまり中共政権下で上映禁止になるかも知れないそうです。少なくとも一般公開の大幅延期は確定の模様です。

 ……ええ、実は私も少しは期待していました。でも主演女優の章子怡が国際映画賞をとるかも、なんて中国のネット上では騒がれていましたからね。延期とか上映禁止だとか、まさか本当にそんな動きがあるとは(笑)。

 ――――

 中国のネット上で「SAYURI」が物議を醸していた、というのは随分前からの話です。概ね、

「どうして中国の代表的女優が日本人の役を演じなければならないんだ。しかも売女の」

 みたいな論調でしたね。売女じゃなくて芸者なんですけど。

 ともかく日本人を演じることを不満とする向きが大勢いる、ということで、章子怡らが「SAYURI」についての弁明を行う破目になりました。姉妹サイト「楽しい中国ニュース」でも紹介した通りです。

 ――

 ◆「日本人以外は芸者を演じちゃ駄目なの?」章子怡らが「SAYURI」を語る。
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/15/content_4053464.htm

 5年前から原作を読んでいるとか役作りでの苦労話とか、こういうことをいちいち弁明しなきゃいけない中国はやっぱり不自由。ていうか自由以前の問題。20年前なら必要のなかった作業だから民度が退行しているってことか?まあこっちだって芸者まがいの「なんちゃって女郎」なんざ観たくない訳だが。

 ――

 ……民度が退行している、というのは鏡に映った自分の姿を見ることができなくなった、という意味で江沢民の推進した反日風味満点・中華万歳の「愛国主義教育」の成果でしょうね。20年前でも多少の反発はあっかも知れません。でも拒絶反応といった激しいものにはならなかったでしょう。

 少なくとも拒絶反応が発生して、それに対して政治が配慮しなければならない、なんてことはなかったと思います。ところが、現在は違います。現実に拒絶反応が出ていて、政治(統治者たる中共)がそれに配慮しなければならない。むしろ政治レベルでも拒絶反応が起きているように思えたりします。

 という訳で今回の核心となるのが以下の記事です。

 ――――

 ●「SAYURI」上映に黄信号、審査不合格の可能性も(新華網 2006/01/13)
 http://news.xinhuanet.com/ent/2006-01/13/content_4067704.htm

 「中国経済網」からの転載記事ですが、AFP通信の配信記事(2006/01/18)に基づいたもののようです。……何だか外電と「新華網」(国営通信社・新華社の電子版)の掲載時間がおかしなことになっていますが、記事は確かに1月18日に出てきたものを私が拾ったので、恐らく「新華網」側の「01/13」はタイプミスかと思われます。

 さてこの記事、中国メディアや政府筋からの消息筋情報として、ハリウッドを湧かせた「SAYURI」の中国本土における一般公開が怪しくなった、と報じています。元々は2月19日封切りというスケジュールだったのが、広電総局の審査をパスできず、どうもそれは無理らしいとの情報も。

 広電総局(国家広播電影電視総局)はテレビ・ラジオ番組やCM、また映画の内容などについて事前審査を担当している国家部門です。

 この記事はさらに消息筋の話として、「SAYURI」が審査をパスできなかった主な原因は、この映画が中国人の反日感情を激発させることを関係部門が懸念したため、だとしています。

 この消息筋は、問題はストーリーの中心を担うヒロイン2名の役どころが日本人芸者で、それを中国本土の人気女優が演じるところにあると指摘。芸者は日本の伝統文化における重要な一部分とみられてはいるものの、米国人監督の手によるこの映画に登場する芸者には西洋人のイメージが混入されており、ストーリーの一部は事実から甚だしくかけ離れているとのこと。

 本物の芸者なら絶対にしないよそんなこと、という場面が出てくるということです。「芸者」ではなく「ゲイシャ」といったところでしょうか。ともあれ、中国の人気女優が日本人芸者を演じることは、第二次大戦期における「慰安婦」を連想させやすい……という向きもあるとのこと。ありがちな展開です(笑)。

 ――――

 この記事によると、中国国内メディア『東方早報』と『上海青年報』は、審査を行った広電総局は当初はゴーサインを出したものの、この作品の上映許可を出したことで公衆の非難を浴びることを恐れて考えを変えた、つまり「合格」を撤回したとしています。

 その広電総局の責任者はAFP通信の取材に対し、

「この映画に関する審査活動はまだ終わっていない。一般公開が禁止されるかどうかはまだ断言できない。最終決定はまだ下されていないのだ」

 とコメント。さらにこの件は「極めて複雑」な問題であり、

「非常に敏感な性質の話題だから私も多くを語ることができない」

 と話したそうです。……どうやら外電の引き写しのようですが、「新華網」に掲載されたということは、この内容を民草に広く知らしめてよろしい、との判断が下されたのでしょう。

 こういうニュースが流されるほど「SAYURI」は物議を醸している、ともいえます。あるいはこういうニュースを流して民草の反応をみてみよう、という意図があるのかも知れません。

 ちなみに台湾メディアによると、公開延期だけでなく内容の大幅カットが行われる可能性も、とのこと。

 http://tw.news.yahoo.com/060119/47/2s2bn.html

 ――――

 という訳で、これは映画の話のようでありながら、実は政治問題であり、社会問題なのです。上で「拒絶反応」という言葉を使いましたが、ネット世論レベルならそれは単純な反日感情でしょう。

 ところが政治レベル、つまり統治者の立場になるとそうではなくて、反日気運が高まって社会を揺るがしかねない、という危機感が根っこになった「拒絶反応」なのではないでしょうか。

 誤解のないよう申しておきますが、広電総局レベルで「物議を醸した」というのは、中国社会における反日感情の強さによるものではありません。

 確かに反日感情は強いかも知れない。しかし広電総局を窓口とした統治者が心配しているのは、この映画が反日気運を高め、その「反日」を起爆剤に各所で火の手が上がり、ひいては中共政権を突き崩しかねない、ということです。「物議を醸した」ほど現在の中国は社会状況が悪化している、燃え上がりやすい、ということなのです。

 私がまだ香港にいたころ(中国返還後の時期)、人民解放軍のチベット侵攻とその暴虐ぶりが描かれているために
「セブン・イヤーズ・イン・チベット」が中国全土はおろか、香港でも上映禁止となったことがあります。これは統治者にとっては政治問題、しかも「分離・独立」という限定的なテーマです。中国本土の観客がこの映画を観ることで当局にとって有り難くないムーブメントが起きる、ということはまずないでしょう。

 ところが「SAYURI」は違います。ちょうど昨春の反日騒動、あれをヒートアップさせた歴史教科書問題ほどではなくても、起爆剤となり得るポテンシャルを秘めています。秘めている、と当局はみているのでしょう。随分神経質なようでもありますが、そうならざるを得ない社会状況が存在しているのだと思います。

 ――――

 「SAYURI」が起爆剤となってドカーン、というのは楽しい想像です。とすれば、章子怡はさしずめジャンヌ・ダルクといったところでしょうか。末路も同じになったりして(笑)。

 折角なので余太話ついでに楊子削りを。


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 一言でいえば、

 事態は当事者の思惑を超えた速さで展開している。それが如実に出てしまったのが今回の件。

 ということかと思います。

 ――――

 中国外交部による日本メディアに対する電波発言が相次いでいますね。

 ●電波発言の裏にチラつくは制服組の影?(2006/01/10)
 ●続・電波発言。(2006/01/12)

 と、当ブログでも既報しております。……と思ったら、おやおやまたですか。

 ――

 ●「産経は言論暴力団」 中国誌、名指し批判(『産経新聞』2006/01/17)
 http://www.sankei.co.jp/news/060117/kok030.htm

 【北京=福島香織】中国外務省傘下の半月刊誌「世界知識」(16日発行)は3ページをさいて産経新聞などを名指し批判した。中国メディア上で産経が批判対象となることは珍しくないが、「言論暴力団」「保守御用喉舌(宣伝機関)」と呼ぶなど、ここまで激しい論調は珍しい。今月上旬、日中協議の席で、中国側が日本側に報道規制を求め断られた経緯があるが、当局が日本メディアの中国報道にいかに敏感になっているかがうかがえる。
(後略)

 ――

 ……この記事は後段により詳細な批判があったり、『朝日新聞』がその対極として「いい子」扱いされていることが出てきたりと盛り沢山で読みごたえ十分。是非全文を御一読なさるようお勧めします。

 ――――

 ただ最初にお断りしておきますが、私は『世界知識』誌の当該報道、つまり原文をまだ入手しておりません。以下はそれを前提とした上で、すなわち『産経新聞』の報道(上記記事)のみに頼って話を進める、という私にとっては実に頼りない状況であることを御理解下さい。

 さらにいえば、私の頭の中には上記エントリーで言及した私なりの「仮説」があります。そして続々と現出する事態はその「仮説」を否定するのではなく、むしろ傍証となるものばかりです(と私はみています)。……そういう考えが念頭にありますから、ややもするとそのフィルターを通して事態をみてしまい、ある程度の傾きが出てくるかも知れませんが、そこは素人ゆえの御愛嬌、といったところで諒として頂ければ幸いです。

 ――――

 さて今回は外交部傘下の雑誌に「電波記事」が出たということですが、まず言えることは、これが「電波発言」に続く一連の動きで、連携されたものだろうということです。「日本のメディア叩き強化」攻勢を発動せよ、という指示がどこからか出され、外交部がそれに従った(渋々と?)結果が「電波」3連発という訳です。

 崔天凱・アジア局長(当時)の発言が1月9日、孔泉・報道局長の発言が翌1月10日、とたて続けに中国外交部から飛び出した「電波発言」に比べ、今回『世界知識』誌は1月16日発行とされています。ジェットストリームアタックと呼ぶには間合いが開きすぎているようにも思えますが、当事者(外交部)にしてみればそうではないでしょう。

 ……とは、『世界知識』が半月刊であり、16日発行とされているからです。これは16日発売、という仮定で言うのですが、1月16日から逆算すれば、『世界知識』の「電波記事」は崔天凱発言・孔泉発言と同時期に執筆され、編集作業のデッドラインギリギリに滑り込ませたもの、と考えられます。黒いかどうかは李肇星・外相あたりに聞いてみないとわかりませんが、外交部にとっては「三連星」なのだろうと思います。

 中国は旧正月を控えて歳末気分が高まりつつあるようです。そうしたなか、

 (1)まず外交部に「日本のメディア叩き」をやらせる。
 (2)それに並行して中国国内メディアに離島防衛をテーマとした日米合同軍事演習を叩かせる。その際はお約束として尖閣諸島や台湾問題を絡めて日本(ひいては米国)への非難を加える。
 (3)最後に台湾有事に際して中国は日米の介入を断固として拒むという姿勢をオフィシャルな形で改めて示す。
 (4)お正月。

 というのが当初描かれたタイムテーブルだった……のかどうかはわかりませんけど。

 ――――

 わからないと言えば、対日外交にせよ、内政面にせよ、ひとつひとつの意思決定がいま現在どういう形でなされているのか最近は非常に不透明だということにもふれなければなりません。ちょっと常軌を逸している観があるからです。上記エントリーにも書きましたが、特に対日外交については動脈硬化ともいうべき、内政面への配慮を含めた利害得失を度外視したかのような、国際社会で顰蹙を買い、笑いものにされることを敢えて無視するかの如き暴走ぶりが目立ちます。

 一方、国内では『解放軍報』(人民解放軍の機関紙)がやたらに胡錦涛・総書記及び胡錦涛の提唱する「科学的発展観」を礼讃する報道を連日行い、それが『人民日報』など他の主要な中国国内メディアをも強引に引きずるような形となって、気がついたら胡錦涛の活動、また胡錦涛風味のキャンペーンが前面に出てくるようになりました。

 ……ええ、「仮説」はそうしたこと一切に関する私なりの回答ということになります。とはいえ証拠不十分ですから、まあ憶測とか勘繰りとか、まだそんな程度ですけど。

 で、上述したタイムテーブルについて。『世界知識』が1月16日発売なのであれば、外交部(というより外交部に命令した筋)は1月下旬まで日本メディア叩きを続けるつもりだったのでしょう。例えば電波記事について日本の御注進メディアなり新華社の記者あたりが外交部定例会見で質問を発する。すると報道官が得たりとばかりに語りに語りまくるという予定調和。……ところが、そこで降って湧いたような事態が発生してしまいました。

 ●李登輝氏「奥の細道」散策、5月10日来日で調整へ(読売新聞 2006/01/11/03:05)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060111i301.htm

 これですね。靖国参拝や歴史認識などと比較にならない、軍部を一気に沸点近くまで熱くさせてしまう出来事が出現したのです。台湾問題、しかも他でもない李登輝氏の訪日計画ですから(笑)。それから「周辺事態法」改正の一件。ある程度予想されていた動きだとは思うのですが、こちらも台湾有事に関わる中共政権(特に軍部)にとって坐視できない由々しき事態です。

 ●周辺事態の空港・港湾使用も米軍優先…法改正検討
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060111i105.htm(読売新聞 2006/01/11/14:34)

 『世界知識』の電波記事が間延びしてみえるのは、崔天凱・孔泉両者の電波発言から約1週間も時間が経過しているということもありますが、それ以前に、舞台がガラリと変わったところでノコノコと出てきた観があるからでしょう。中共は晩御飯の並んだちゃぶ台をいきなりひっくり返されたようなものです。

 ――――

 前回の李登輝氏来日の際には日本政府による発表が第一報となり、中共政権がこれに非常に強い反発を示しながらも手も足も出せなかった(笑)という経緯があります(左サイド「CATEGORY」欄の「李登輝氏訪日」参照)。

 今回は外務省が現時点では「まだ正式に聞いていない」と一応コメントしているため、正式発表になるまでの間にそれを阻止せんとする前哨戦(中国側の抵抗)があるかも知れません。本決まりとなれば、中国側のボルテージはいよいよ高まることでしょう。

 と「続・電波発言」の末尾に書きましたが、その前哨戦はすでにスタートしており、外交部定例記者会見でさっそく脊髄反射が行われました。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/12/content_4044959_1.htm

 「人民網」(『人民日報』電子版)も李登輝氏訪日計画に対する記事を特典付き(コスプレ写真)で掲載しています。李登輝氏が靖国神社を参拝するのではないかという憶測も。それ、いいですねえ。是非実現してほしいものです(笑)。

 http://tw.people.com.cn/GB/14812/14875/4027874.html

 それから「中国通信網」(華僑向け通信社・中国通信社の電子版)も米国の華字紙からの論評を転載。

 http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-01-16/8/678893.shtml

 さらに『解放軍報』が台湾有事に対する日米両国の介入姿勢を批判する署名論文を掲載、李登輝氏については書かれていませんが、「人民網」が転載しています。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-01/16/content_385560.htm

 同様に、「新華網」(国営通信社・新華社の電子版)も似たような内容の記事を掲載しています。これは基地外反日紙『環球時報』(2006/01/13)からの転載。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/16/content_4057695.htm

 『解放軍報』などは「戦時動員態勢」や「予備役の充実」を論じる署名記事がどんどん出てきていよいよ剣呑な雰囲気、ピリピリしています(笑)。以前にも書きましたが、やはり台湾問題となるとキレてしまう向きが飛び出して来ますから(笑)、霧がゆっくりと晴れていくように中共政権のお家事情が次第に明らかになりつつあるように思います。

 ――――

 ……という訳で、「産経は言論暴力団」という記事に反応してそれを吟味するのは必要なことですが、現在の日中関係はむしろ「台湾」がキーワードになりつつあります(中国側も目算が狂って対応に苦慮しているところでしょう)。在上海日本総領事館職員自殺事件や日本メディアの対中報道などに関する中国側からの動脈硬化的な反応、たとえば電波発言や電波記事……といったひとつひとつの点をつなぎ合わせて、一筋の線として眺めてみる必要もあるのではないかと愚考する次第です。



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 香港・台湾を相手に仕事をしていると、旧正月を前にいよいよ歳末気分が高まってきた、という実感があります。いや他でもない年末進行(涙)。「出稼ぎ農民を乗せた帰省列車第1便が出た」なんていう中国国内メディアの報道を目にすると、そんなにプレッシャーかけなくてもいいじゃないか、と泣きたくなります。

 前にも書きましたが、本業の方はともかく副業(中文コラム)の方が曲者でして、掲載誌が大陸(中国本土)の印刷工場を使っているために旧正月は早めに休み=操業停止となるのです。このためにスケジュールがもう滅茶苦茶になっています。

 編集部の連中もそれぞれ仕事を抱えて大変なのですが(寝袋常識)、私の書くものもちょうど当ブログのように現実の動きを眺めつつそれを俎に乗せてあれこれ料理する性質なものですから、まとめて3本書けとか言われても無理なのです。もう少し待てば昨年の統計が出てそれを検証することもできるのですが、もちろん締め切りは情け無用。白紙のページをつくる訳にはいきませんから懐旧・雑談ネタなどに逃げたりするのですが、それとてストックにも限りがありますし。

 ……とまあ、いま現在はそういう状況下で苦吟しているところです。たくさんコメントを頂いているのにまともにレスをつけることができず、本当に申し訳ありません。

 ――――

 中国は今日も今日とて官民衝突、さもなくば環境汚染のニュースが流れています。

 環境汚染については中国国内メディアを含むマスコミ側に「旬な話題」という認識があるため、いままで見過ごされていた、あるいは黙認されていた事例にスポットライトが当てられ、さらには積極的に新ネタの発掘までされているという印象です。……いや、環境汚染は決してここ1~2年で出現した新事態という訳ではない、ということを言いたいのです。

 官民衝突、新しいところでは広東省中山市・三角鎮で数日前から何やら起きていて、武警さん(武装警察=準軍事組織)が催涙弾を放ったり警棒で村民を殴りまくり、負傷者多数が出ている模様です(死者1名との情報もあります)。原因は例によって土地収用に絡む補償&幹部の汚職疑惑。

「この土地は売却したから出ていけ」

 と突然言われても出ていける訳がありません。毎月出る補償金も糊口をしのぐには少なすぎるし、田畑をとられた農民に対する再就職の斡旋などもない。そのくせ幹部の銀行口座には数百万元が振り込まれている……ということで農民は怒髪天。出ていくもんか、泣き寝入りはしないぞと頑張っている状況が以前から続いていたのですが、ここに来て武警さん出動による官民衝突と相成った訳です。

 事態の詳細はまだ明らかではありませんが、これも年末気分ゆえかな、とふと考えたりします。当局側に「旧正月前に片付けておこう」という心理が働いたのかどうかは興味深いところです。

 http://hk.news.yahoo.com/060114/12/1kef4.html
 http://hk.news.yahoo.com/060114/12/1kefu.html
 http://hk.news.yahoo.com/060115/12/1keuk.html
 http://hk.news.yahoo.com/060115/12/1kewx.html

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 広東省は香港に隣接するという地の利がアダとなって、香港を含む海外マスコミの可視範囲内にあるという点で割を食っていますね。土地強制収用にせよ環境汚染にせよ然り、といったところです。

 ただ土地収用問題については同省トップである張徳江・省党委員会書記が今月初めに簡単なガイドラインのようなものを示しています。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/04/content_4005049.htm

 中山市のケースはこれに引っかかる筈なのですが、地元当局は問答無用で事を進めているようです。……そもそもこの張徳江によるガイドライン自体、不祥事続きで中央から睨まれている張徳江が「真面目にやってます」というポーズを示すためのもの、という疑いがありますけど。

 例の武警による農民射殺事件たる汕尾市の「12.6」事件、広州市番禺・太石村で生起した農民による民主化運動の武力弾圧、また仏山や中山では土地収用にまつわる官民衝突が起きていますし、一方で北江のカドミウム汚染など環境汚染問題も最近次々に明るみにされています。不祥事を数え上げたらキリがありません。

 しかも人事でいえば、広東省トップの張徳江が江沢民系で、ナンバー2たる黄華華・広東省省長が胡錦涛派と目されています。要するに胡錦涛派からみれば張徳江は目の上のタンコブ。広東省の地生えならともかく遼寧省出身でもあります。中央がその気になれば、本来なら「12.6」事件で地元の汕尾市首脳ともども更迭されても不思議ではないところです。

 もちろん、その気になっても広東省に介入するほどの指導力・統制力が中央になければ話は別です。

 ――――

 ところが、最近になって時事週刊誌『亞洲週報』が興味深いニュースを報じました。その張徳江が先ごろ北京に出頭させられ、「12.6」事件に関し党中央政治局の口頭査問を受けた、というものです(張徳江は党中央政治局員を兼務しています)。

 http://www.singpao.com/20060113/international/802271.html
 http://tw.news.yahoo.com/060112/43/2r8xt.html

 口頭査問とは一種の自己批判の場だということですが、張徳江は事件の責任は地元幹部にあるという旨の弁明を行い、自らに責任はないとしたようです。

 言うも言ったりですが、報道によると張徳江はこの口頭査問をパスできなかったとのこと。パスできないとどうなるのか私にはわかりませんし、口頭査問があったかどうか自体も確認できていないのですが、事実だとすれば面白いニュースだと思います。

 ……とは、中央と地方の関係においてのことです。

 ●広東省という「大諸侯」のトップに対し党中央が口頭査問を開くことができた。
 ●口頭査問の開催まで時間がかかりすぎている。
 ●「12.6」事件に関する公式発表は広東省当局と汕尾市当局によるもののみで、現時点に至るまで、中央からは何の発表も行われていない。

 胡錦涛・総書記の活動、あるいは胡錦涛主導のキャンペーンが最近急に目立つようになってきた観があります。それ自体注目すべき動きなのですが、この口頭査問が事実であればそれに華を添えるともいうべき興味深い出来事だといえるかと思います。

 もちろん、なぜ最近になって胡錦涛が威張り出したかについても考える必要がありますし、実はそれこそが一番大きなテーマでもあります。「年の瀬だから」なんて回答はなしですぜ、旦那(笑)。



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 中国に『環球時報』という時事国際紙があります。確か当ブログコメント欄の重鎮である「大丈夫?」さんが悪趣味にも現地滞在中に御愛読だった筈です(笑)。ありていは反日基地外紙でして、ここの反日電波報道を読んでも平然としていられるなら免許皆伝、てなもんです。という訳で「大丈夫?」さんはすでに達人の境地。

 もちろん国際紙を謳っていますから紙面の全てが反日報道で埋まっている訳ではありません。その『環球時報』が一昨日(1月11日)掲載した記事なんですが……。

 ●西側メディア、軍の兵員20万名削減を悪意に解釈(『環球時報』2006/01/12)
 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-01/12/content_4041459.htm

 「また電波かいw」と笑って済ませられないような気がしますので、一応紹介しておきます。

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 人民解放軍の兵力削減というのは、従来の伝統的な人海戦術から転じて機械化やハイテク武器の装備が必要になったことで軍部が行った口減らし、というものです。農作業の人手を減らして赤いトラクターを買う、資金は浮いた人件費で。……といったところでしょう。

 人民解放軍は中越戦争、すなわち中国が無名の帥をおこしてベトナムに攻め入ったところ散々やられて痛い目に遭った、というあの戦いで懲りて人海戦術と決別し、その後はトウ小平とその忠実な手足である軍高官によって近代化に向けた動きに入ります。

 そのために欠かせない兵員削減もトウ小平主導で進み、江沢民が総書記になった後もトウ小平がリストラを継続。一方で後ろ盾となって江沢民による軍部懐柔を助けつつ、天安門事件(1989年)で武力弾圧を担当し株を上げた楊尚昆・楊白氷兄弟の台頭を阻みもしています。

 トウ小平は1997年に死去しますが、兵員削減はトウ小平の敷いたレールに乗って進み、1985年に423.8万名もいたのが、今回完了した2005年末までの削減で約230万名へとスリム化。もちろんトウ小平の鶴の一声だけでなく、国防予算増大といった見返りがあってこそ実現したものでしょう。

 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-01/12/xinsrc_4420103120907750825716.jpg

 ――――

 で、中国側はこれを「平和的発展戦略の一環」だとし、「スリム化」は世界的なトレンドでもあると強調しているのですが、『環球時報』の記事タイトルにある通り、欧米や日本のメディアはそう捉えてはくれません。「赤いトラクターをたくさん買ってブイブイ言わせようという魂胆だ」と報じられてしまいました。

「軍備拡張によって対外的伸長を図ろうとする表れ」
「周辺各国との間に緊張を呼ぶもの」
「今回の20万名削減が国際社会における中国の軍事的台頭という不安を打ち消すことはない」

 などと書き立てられ、いわゆる「中国脅威論」が改めて持ち出されたりしました。

 するとどうなったでしょうか。「悪意に解釈」された軍部は逆ギレというべきなのか、ともあれどうやら開き直ってしまったようなのです。

 ――――

 「開き直った」というのは非常に重要な出来事です。

「わかったよ。好きに言ってればいいじゃん。こっちも勝手にやらせてもらうから」

 ということに他なりません。『環球時報』の記事によると、

「現在、世界で数多くの国家が自身の国防上のニーズに基づいてスリム化による軍備増強を行っている。米国、ロシア、英国、フランスなどの国も兵員削減を実施した。それなのに中国の軍隊の兵員削減に限っては国際社会において反中勢力があれやこれやと言い立てている。これは冷戦型思考だ。この思考の下では、中国の軍隊がどうしようと、相手はそれを脅威と捉えるだろう。以前の兵員数を維持したままでも中国の軍隊は巨大である、脅威だ、と言われるし、今回のように積極的に軍縮を行っても、中国はハイテク化を強め、戦闘力を高めようとしている、脅威だ、と言われる。じゃあ中国はいったいどうすればそういった声を封じることができるのか?」

 ……ということになります。かなり感情的になっている模様です(笑)。この部分の小見出しは「中国の軍隊がどうしようとも、必ず脅威とみる向きがいる」です。その前段でも、

「中国の兵員削減は完全に中国の主権の範囲内における基本的な権利であり、よそから容喙されるいわれはない」

 というくだりがあります。そして記事の最後には、

「中国は自らをの主権と安全利益を保護する必要から、『中国軍事的脅威論』に手足を縛られるようなことは断じてあり得ない」

 と高らかに宣言することで結語としています。

 ――――

 こうした開き直りの台詞を語るのは中国国防大学戦略研究所の楊毅所長(海軍少将)や、中国軍事科学院世界軍事研究部の羅援・副部長といった人物で、台湾問題に関しても他国の介入を許さずといった啖呵を切っているのですが、いったい軍部の中でどういったポジションにあるのか、報道官的な立場からの公式発言ではないにせよ、もし軍主流派を代表した非公式な意思表示だとすれば、大きな意味を持つことになるでしょう。

 ともあれ私と同じような感想を持ったのか、台湾の中央通信社も『環球時報』のこの記事をかいつまんで紹介しています。

 http://tw.news.yahoo.com/060112/43/2r8xx.html

 こういう種類の文章が『解放軍報』(人民解放軍機関紙)に掲載されるようだと、いよいよキナ臭い事態、ということになってくるかと思います。

 以上、ちょっと見には断片的な出来事な上に電波ゆんゆんたる『環球時報』の記事ながら、実は重大なシグナルかも知れないということで、一応留意しておくべきかと。


 ――――


 【追記】
この『環球時報』の記事、考えてみたら私は「新華網」で拾ったんですね。つまり国営通信社・新華社の電子版に転載されたという訳です。さらに1月13日付で「人民網」(『人民日報』電子版)にも出ていました。

 http://world.people.com.cn/GB/4023831.html

 ひょっとして「新華網」「人民網」に出たとなると、『環球時報』のこの記事、ちょっとオフィシャルっぽいのでしょうか。だとしたらこれはちょっと怖いですね……。(2006/01/14/04:50)



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 孔泉をはじめとした中国外交部の報道官による定例記者会見、ときどき日本のテレビにも登場するようですが、あいにく私はそれを目にする機会にほとんど恵まれません。記事漁りをしつつの仕事中はもちろん、当ブログ用の駄文を書いているときも気が散るのでテレビはつけません。

 それに完全夜型生活です。「すぽると」を観ながら「朝食」を喫していることも珍しくありませんから。いまは年末進行の真只中ですから、昼も夜も関係なくなってしまっていますけど(笑)。

 もちろん機会が少ないだけで、定例会見をテレビで観たことはあります。一緒に観ていた配偶者が、

「何これ。馬鹿じゃないの」

 と嫌悪感丸出しで申しておりました。配偶者は横着者なので字幕を追ったりせず、ビジュアルと語調から受けた印象を口にしたのでしょうが、香港人の目にもそう映るようです(ちなみに北京語は発音から何から配偶者の方が下手です。最近は中共礼讃の国情教育なるものが学校で実施され、北京語を操るガキどもも増えているようですが、本来の香港人というのはそういうものです)。

 ――――

「いや、あいつらは芸人なんだ。これはお笑い番組なんだよ」

 と、私はつい孔泉たちを弁護してしまいます。演技者とか俳優というほどのものではないでしょう。独り漫才で、ただネタがつまらないだけだと。とはいえ喋り・表情・身ぶりの三位一体が成立してはじめて味が出るものですから、一応は芸としてみてやっていいのではないかと思います。

 現役の報道官3人(孔泉・秦剛・劉建超)についていえば、この三位一体が辛うじて成立して何とか鑑賞に耐え得るのは孔泉くらいのものでしょう。それだけ奥の深い、修業の必要な芸なのです。これは何も中共政権だけでなく、欧米の首脳や報道官の会見を観ていてもそう思います。

 ただ一党独裁で民度も低いため、中共政権の場合はどうしてもネタがつまらなくなるのが難点。中世レベルの民度な上に政治的畜類である中国人民と同列に扱われているようで不愉快にもなります。あと当人は巧みにアドリブを利かせたつもりでも、こちらは逆に不快になったり、観ていて恥ずかしくなってしまったりしますね。……あれ?弁護してやっていたつもりなんですけど。

 ――――

 前フリが長くなりましたが、前回の続報のようなものです。

 ●中国、日本に「報道規制」を要求・マイナス面の報道多い(Nikkei Net 2006/01/09)
 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060109STXKB032609012006.html

 1月9日に北京で開かれた日中政府間協議で中国外交部の崔天凱・アジア局長が、

「日本のマスコミは中国のマイナス面ばかり書いている。日本政府はもっとマスコミを指導すべきだ」

 と言ってのけ、日本側を唖然とさせた件です。私はこの発言自体よりも、こうした私たちを唖然とさせるような動脈硬化ともいえる事例が最近の中国の対日外交に相次いで出てきていることの方に興味があって、その原因として、「指導力不足の胡錦涛と取引した制服組(軍主流派)が、胡錦涛を擁護する見返りに外交に口を出せるようになったからではないか」という仮説を立てているのですが、未だに十分な確証を得ないままです。……というのは前回書いた通りです。

 「政府がマスコミを指導しろ」というのは一党独裁制の社会で呼吸している中国人にとってはごく自然な感覚でしょうし、ごく自然な感覚であるだけに知識人のような学識を身に付けた人でもそれを払拭するのは難しいと思います。「小日本」といった対日感情もあるでしょう。前回も書きましたが、中国のメディアは「党と政府の代弁者」たることが義務付けられており、言うなれば御用新聞や機関紙・広報紙といった存在です。

 ――――

 マスコミ論専門の学者とか日本研究者なら「日本のマスコミは違う」という知識があるから別でしょうけど、それでも「中国のように日本政府がマスコミを指導しろよ」という感覚は頭のどこかに残っているかも知れません。外交担当者も同じようなものだと思います。知識として日本や欧米のマスコミが中国のそれとは全く違うということは理解している。とはいえ「ごく自然な感覚」が抜け切れずに残っていたとしても不思議ではないでしょう。

 ただそこは外交の専門家、国際社会でうっかり
「日本政府はもっとマスコミを指導すべきだ」なんて言ったら「やっぱりお里は争えないものだな」と笑われることもわかっていますから、個人の立場で論文などを書くのならともかく、国家なり党なり外交部なりを代表する立場ではそれを口にすることはありません。これも前回書いた通り、せいぜい「日本のメディアも騒ぎ過ぎる」という程度です。

 ああそういえばこの点で失敗した阿呆が一人いましたね。江沢民です。まだ総書記のころ、香港記者の執拗な問いかけにマジギレして記者たる者は云々……と説教を始めたことがありますが、当然のように香港メディア(親中紙除く)に馬鹿扱いされ、大笑いされました。これと反対にメモを用意せずに記者会見に臨み、瀟洒なアドリブも交えた受け答えに終始して好評を博したのが首相時代の朱鎔基です。

 ……ところが今回、崔天凱がやってしまいました。そう言うように強要されていたのか、ついうっかり地金を出してしまったのかはまだわかりません(私は前者の線を疑っているのですが)。いずれにせよ、これは日本メディアが報じたものです。

 ――――

 発言がニュースになってしまうくらいですから崔天凱は実際にそう言ったのだろうと思いますが、中共政権は翌1月10日、外交部定例記者会見でそれを否定しました。孔泉・報道局長の登場です。記者が崔天凱発言を持ち出したのに対し孔泉は、

「あなたが言う中国官僚の話だが、私はそれが正確なものではないと考えている」

 と、きっぱりと否定してみせたのです。さらに、

「(日本の一部のメディアは)なぜ中日関係において出現した摩擦や問題を騒ぎ立てることに熱中し、また歴史問題を含めた重大な原則問題について再三再四にわたって騒ぎ立てることに熱中して、中国人民を含むアジア人民の感情を傷つけるのか」

 と逆襲に転じました。むろん孔泉の一連の発言には「日本政府がマスコミを指導すべきだ」というような言い回しは登場しません。例によって「日本のメディアが騒ぎ過ぎ」で鉾を収めています。……ただし、これは台本からそうなっているのでしょうが、孔泉は自分の発言がトチ狂って
「電波」発言になってしまっていることに気付いているのか、どうか。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/10/content_4035033_3.htm

 従来の、例えば中国人犯罪(2003年)やサッカーアジアカップにおける中国サポーターの振る舞い(2004年)で使われた「日本のメディアが騒ぎ過ぎ」というのは、いずれも
「日本のメディアが騒ぎ過ぎることで日本人の対中感情悪化を招いている」という文脈で使われた言い回しです。

 ところが、今回は違います。
「日本のメディアが騒ぎ過ぎ」ることで「中国人民を含むアジア人民の感情を傷つける」とのこと。……私はこのくだりで前回に続いて再びコーヒーを噴く破目になったのです。だって孔泉の言の通りだとすれば、「中国人民を含むアジア人民」が例外なく日本語の読解力やヒアリングに長じていることになりますから(笑)。

 少なくとも日本語を解さない絶対多数の「中国人民」についていえば、その感情を傷つけているのは日本のメディアではなく、日本を悪しざまに書き立てることに熱中している中国国内メディアでしょう。どうやら孔泉までが動脈硬化の仲間入りをしてしまったようです。……もちろん孔泉だけではなく、孔泉のために漫才の台本を書いた中国外交部もそれに含まれます。

 ――――

 上述したように、その動脈硬化の原因について私は仮説を立ててみたのですが、制服組が青筋を立てるとすれば、やはり歴史問題より軍の職域に直接関わる台湾問題であろうと思い、「李登輝氏訪日」とか「森喜朗氏訪台」といった報道が流れれば脊髄反射などがあって状況がより明確になるのではないか……と前回書きました。

 すると、天に祈りが通じたのです(笑)。前回のコメント欄で「kolgo13」さんが速報して下さった通り、『読売新聞』が打てば響くように応じてくれました。

 ●李登輝氏「奥の細道」散策、5月10日来日で調整へ(読売新聞 2006/01/11/03:05)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060111i301.htm

 いやーやはり普段の行いが違うということでしょうか(笑)。台湾・香港のマスコミはこれを引き写す形で速報しましたが、中でも台湾・中央通信社は李登輝氏に近い筋の話として、

「今回の訪日計画については主に李登輝氏自身が様々なルートを通じて根回しを行い、日本の友人の協力も得ている」

 と報じ、同筋は『読売新聞』のスクープについても
「信憑性がかなり高い」と語った、と伝えています。

 http://tw.news.yahoo.com/060111/43/2r2hi.html

 ――――

 一方の中国は?……というと、こちらも台湾・香港に遅れることなく「中国新聞網」(華僑向け通信社・中国新聞社の電子版)が11時24分に速報し、それを大手ポータル「新浪網」などが即転載しています。

 http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-01-11/8/676716.shtml

 「新浪網」はさらに午後になって「中国台湾網」からの記事を掲載。前者同様に『読売新聞』の記事を主としていますが、こちらは2004年末の訪日などにも言及し、

「李登輝は台湾島内では急進的な『台独』勢力の総代表であり、国際的には徹頭徹尾のトラブルメーカーである」
「先ごろ中国外交部報道官は、日本政府が李登輝の日本行きを認めれば、中日関係が損なわれることになるだろうと厳しく指摘した」

 とキナ臭い解説めいたものが加わっています。

 http://news.sina.com.cn/c/2006-01-11/15457955393s.shtml

 またこれは偶然でしょうが今日(1月12日)「中国新聞網」に出た『瞭望』誌による日中関係を論じた記事にも、

「中日関係では李登輝らの『台独』勢力が訪日などを通じて火に油を注ぐ可能性も」

 という一文があり、期待は膨らむ一方です(笑)。

 http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-01-12/8/676996.shtml

 ――――

 前回の李登輝氏来日の際には日本政府による発表が第一報となり、中共政権がこれに非常に強い反発を示しながらも手も足も出せなかった(笑)という経緯があります(左サイド「CATEGORY」欄の「李登輝氏訪日」参照)。

 今回は外務省が現時点では「まだ正式に聞いていない」と一応コメントしているため、正式発表になるまでの間にそれを阻止せんとする前哨戦(中国側の抵抗)があるかも知れません。本決まりとなれば、中国側のボルテージはいよいよ高まることでしょう。

 いずれにせよ、前掲したように中国でもすでに報じられているニュースなので、中共政権がどういう食い付き方をしてくるか。「電波」度の高まりを鑑賞する楽しみも含め、これはなかなかの見物になるかと思います(笑)。


 ――――


 【注意】最近、読者の方から「サイトが汚染されているのでは?」との御指摘を受けました。それによると、

 「日々是チナヲチ。」を一旦ロードし終わったあと、不審なロードが間欠的に繰り返され、そのままブラウザがビジーになってしまうことがある。この場合、ブラウザを強制終了させないとビジーの状態から抜け出せない。

 とのことです。似たようなケースまた別種の不具合に遭遇された方は御一報願います。



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 以前にも書いたことがあるかも知れませんが、ニュースというのは中国ネタに限らず、一定期間放置しておくことで関連記事が集まり全容が明確になる、という種類のものがあります。

 今回のニュースもそれに類するものかと私自身は考えています。ただ前回、前々回の当ブログコメント欄で取り上げている方が多いので、不本意ながら現時点での情報をもとに取り組んでみたいと思います。

 そのニュースというのは他でもありません。

 ――――

 ●中国、日本に「報道規制」を要求・マイナス面の報道多い(Nikkei Net 2006/01/09)
 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060109STXKB032609012006.html

 【北京9日共同】中国外務省の崔天凱アジア局長は9日、北京での日中政府間協議で「日本のマスコミは中国のマイナス面ばかり書いている。日本政府はもっとマスコミを指導すべきだ」と述べ、日本側に中国報道についての規制を強く求めた。

 メディアを政府の監督下に置き、報道の自由を厳しく規制している中国当局者の要求に対し、日本外務省の佐々江賢一郎アジア大洋州局長らは「そんなことは無理」と説明したという。

 日本側によると、崔局長はまた、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題や日本国内での「中国脅威論」の高まりなども挙げ「(日中間にあるのは)日本が起こした問題ばかり。中国は常に守りに回っている」と批判した。

 佐々江局長は「日本だけが一方的に悪いという主張は受け入れられない」と反論したが、双方の隔たりの大きさに、日本の外務省幹部は「これが日中関係の置かれている実態」と苦笑した。

 ……ちょっとのぞいたら某巨大掲示板の東亜板でも関連スレッドが現時点で第6弾にまで伸びていました。反響の大きさを感じさせます。まあ内容が内容ですから当然といえるでしょう(笑)。……と笑って済ませていいのかどうかが問題です。

 いや、最初に読んだときは私も「そんなことは無理」のあたりでコーヒーを噴いてしまったのです(笑)。ただ落ち着いて考えてみると、これはやはり異常です。日本側を唖然とさせた中国外交部・崔天凱アジア局長の発言、これは崔天凱自身が、

「何でこんなこと俺が言わなきゃならないんだよ。やってらんねーよ」

 と思っているのではないでしょうか。

 ――――

 過去にも中国人犯罪問題(2003年)やサッカーアジアカップ(2004年)などの機会に、似たような発言が中国側から出ています。でもそれは、

「日本のメディアも騒ぎ過ぎる」

 というもので、「指導すべきだ」までは踏み込んだことがありません。その理由は明白です。中国においてはあらゆるメディアが「党と政府の代弁者たること」と義務付けられ、要するにお上の御用新聞とか広報紙といった役割に徹するよう求められています。しかしたとえ中共政権がいかにトチ狂っているとしても、日本におけるメディアはそうではない、報道の自由がある、ということぐらいは理解しているから「騒ぎ過ぎる」で鉾を収めているのです。

 たとえ中共政権のブレーンたる日本研究者たちのレベルが低かろうと、あるいは政治的方針という枠や「反日」という踏み絵に縛られて自由な研究発表ができない状況であろうと、これは専門家でなくても外交の担当者であれば常識として有している知識でしょう。

 日本どころか、自国の特別行政区である香港ですら報道の自由が認められているのですから、そのくらいのことはわかっている筈です。それを「指導すべきだ」なんて言ったら国際的なお笑いネタにされてしまいます。外交部がそれをわからない筈がありません。

 それなのに、「指導すべきだ」と言ってしまいました。トチ狂っているとしか思えません。在上海日本総領事館職員の自殺事件でも同じことを感じました。そこまで踏み込むよう外交部が強要されたのではないかと。例えば日本総領事館事件について日本側に反論するのはいいとして、国内メディアにまでその一切を報道させてしまったのはどういうことでしょう。国民に広く知らしめることで、中共政権にとって得になることがあるのでしょうか。

 10年前に比べれば、日本における親中派メディアや政治勢力の退潮が著しく、中共指導部がそれに苛立ち焦燥している、ということはあるでしょう。しかし、ただそれだけの話なのでしょうか。こと対日外交については、一種の動脈硬化ともいえる状況が最近続いているように思えてならないのです。

 ――――

 中国国内メディアに対する報道統制の強化というのは、最近確かに目立つ動きが相次いでいます。『新京報』『南方都市報』『百姓』に対する弾圧がその好例です。

 ●マスコミ弾圧?珍しくもない――とは言えないぞこれは。(2005/12/30)
 ●来年はいよいよ……かも。(2005/12/31)

 ●米MS、中国人ジャーナリストの人気ブログを閉鎖(読売新聞 2006/01/07)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060107i306.htm

 胡錦涛・総書記は「中国映画産業生誕100周年記念式典」や「創刊50周年を迎えた『解放軍報』視察」などで発表した重要講話で報道統制強化を示唆しています。国務院(中央政府)新聞弁公室が当局からの情報発信強化に努めると強調していましたが、これは情報発信の主導権を政府がメディアから奪回しようという動きの表れとみていいでしょう。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/29/content_3983955.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/29/content_3986231.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/29/content_3986381.htm

 以下のニュースも同じ文脈で読むことができます。

 ●中国、環境汚染事故などの危機管理指針を発表(読売新聞 2006/01/08)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060108i113.htm

 ●中国政府:緊急対応マニュアル発表、実施 指導部に危機感(毎日新聞 2006/01/09)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20060110k0000m030053000c.html

 中国では重要なニュースに関しては、国営通信社・新華社から配信された記事だけを使い、メディアが独自の報道を行ってはならない、という不文律?があります。その新華社の役割に、政府が割り込んでいこうという動きかと思います。昨年春の反日騒動当時のように、新華社も政争になると国営通信社という立場をかなぐり捨て、一方に与する場合があるからかも知れません(笑)。

 また、新聞には全国クラス、省クラス、都市クラスといった格付けがあるのですが、省クラス以下の地方紙は、地元以外のニュース(例えば炭鉱事故)を独自に報じてはならない、という約束事も昨年か一昨年に加わったようです。

 上記「緊急対応マニュアル」は突発的な事件に対する迅速な対応強化を謳ったものですが、情報発信の主導権を当局が握れば、逆に事件・事故を隠蔽したり、報道を遅らせたりすることが可能になるのです。

 ――――

 情報統制という意味では、インターネットに対する規制や削除職人の活動、ネットカフェに対する営業時間や未成年者の利用に対する制限強化、またテレビやラジオで流される番組や広告の事前審査厳格化、さらには携帯電話の実名登録制導入に向けた動きも進んでいます。

 前にも書きましたが、中国は一党独裁制ですから権力に対するチェック機能がありません。統治者は中央であろうと地方当局であろうと汚職でも何でもやりたい放題なのです。ところが改革開放政策によって競争原理と分権化が導入されました。

 例えば新聞の世界も競争原理の導入、つまり市場経済化によって販売部数競争がヒートアップし、特典をつけたり値下げしたりするだけでなく、スクープをものにして市民の支持を得ようという動きに流れていきました。ごく自然な成り行きだと思うのですが、市民の喝采を浴びるスクープというのは往々にして汚職告発など権力を脅かす性質のものですから、統治者にとっては面白いことではありません。

 当ブログで再三再四指摘しているように、統制強化というのは胡錦涛自身の好みでもあるようですが、大なり小なり権力や利権を手にしている者にとっても、報道統制強化は歓迎される措置でしょう。

 ……という訳で、最近急に動きだした観のあるマスコミへの締めつけですが、私はこれを政争の反映とはみていません。ただ冒頭に紹介した「日本政府はもっとマスコミを指導すべきだ」発言や上海総領事館事件にみられる動脈硬化のような対応ぶり、そこに私は変化を感じるのです。
「李登輝氏が春に訪日予定」なんてニュースが流れれば、事態はより明確なものになるでしょう。

 ●握ったか・握られたのか・胡錦涛。(2006/01/05)

 ……このエントリーで勘繰った通りです。指導力不足の胡錦涛と人民解放軍主流派が取引をして、その結果、軍機関紙『解放軍報』が胡錦涛支持の姿勢を強化して礼讃報道にいよいよ力を入れるようになり、軍主流派の胡錦涛擁護を内外に印象づけることとなりました。

 ただその見返りとして、制服組が政治の世界、特に外交問題に口出しする、ひいては大きな影響力を行使するようになったのではないか、その現実的表現のひとつが上海総領事館事件であり、今回の「日本政府はもっとマスコミを指導すべきだ」発言ではないか。……と私は思うのです。

 ただこれも冒頭で述べた通り、裏付ける材料が揃っていないのでまだ勘繰りの段階にすぎません。「少し寝かせておくべきネタ」たる所以です。

 ――――

 見極めのつかない「勘繰り」段階のまま話を続けますと、トチ狂った、動脈硬化ともいえる現在の外交部の対応ぶりは、対日強硬姿勢とイコールで結べるものではありません。強硬的対応にしても、外交上あるいは内政面への影響をも考慮した上での利害得失、これを度外視した「電波」型のゴリ押しは、相手国あるいは国際社会を唖然とさせ、大笑いさせ、ひいては眉をひそめさせることになってしまいます。

 中共政権の中でも、外交部はそれを理解しているでしょう。しかし制服組(軍人)というのは往々にして、逆に問答無用で押し切るスタイルに傾きがちなものです(主流派でなければ、劉亜洲中将、朱成虎少将といった超電波型の将官もいますね)。

 中共政権の対日外交がそういう制服組のニオイがする「電波」傾向に転じたと仮定すれば、分水嶺はどの辺りにあるのか。……これはなかなか難しい問題ですが、昨年12月27日に行われた外交部報道官による定例記者会見ではすでに外交部が「転向」させられているように感じます。

 会見に出てきたのは秦剛・報道副局長ですが、内閣府の調査で「中国に親しみを感じる」と回答した日本人が32.4%と過去最低を記録した一方、「中国に親しみを感じない」が63.4%と過去最高記録を叩き出したことについて、

「中日人民の感情が冷え込んでいる根本的原因は、日本が台湾、歴史問題などにおいて絶えず過った言行を繰り返しているからだ」

 と秦剛は回答しています。「原因は日本にある」という決めつけは相変わらずですが、「台湾、歴史問題」というのは興味深いところです。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/27/content_3976500.htm

 「台湾」が「歴史問題」の前に置かれています。単に台湾は内政問題だから先になった、ということならそれでいいのですが、そういう理由でないとすれば、「台湾」を前に置いた点に制服組の気配が感じられるように思えます。「台湾>歴史問題」というのは軍部の優先順位とも一致するでしょう。

 ――――

 そもそもこの一年余りにおいて、軍部が対日関係で敏感に反応したのは靖国問題などではありません。日本の新防衛大綱、李登輝氏訪日、尖閣諸島の灯台国有化、日米安保2プラス2……これらが切実な問題なのです(ちなみにこれらに「靖国」「歴史教科書」「安保理改革」などの諸問題が加わって胡錦涛政権への「手ぬるい」という不満が高まったことで、昨年春の「反日」を掲げた政争につながっていきます)。

 最近では『解放軍報』が評論員論文として日本は軍備拡張を急いでいると非難しましたが、「抗日何たら60周年記念」といったイベント絡みのものを別とすれば、同紙が対日問題で重要論文を掲載するのは珍しいことで、それだけ危機感を強めているといえます。また昨日(1月9日)には離島防衛をテーマとした日米合同演習にも同紙は速報型の署名論評を掲載しています。かなり気になるのでしょう(笑)が、自分の職域に関する問題ですからピリピリするのは当然ともいえます。

 http://news.xinhuanet.com/mil/2006-01/09/content_4026902.htm

 そしてこれも日米合同演習への脊髄反射なのか、『解放軍報』(2006/01/09)は上述した署名論評を掲載する一方で、予備役、交通機関、メディアに対する戦時動員態勢について論じた署名論評が3本出ています。どうも穏やかではありませんね(笑)。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-01/09/content_379941.htm
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-01/09/content_379943.htm
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-01/09/content_379944.htm

 ――――

 職域で論ずれば、歴史云々ではなく台湾問題こそが軍の守備範囲であり、現実問題であることは言うまでもありません。ですから、

「李登輝氏訪日、念願の『奥の細道』たどる旅へ」
「森喜朗・前首相が台湾を再訪」

 といった出来事が起きれば、状況がよりはっきりとしてくるのではないかと思うのです。いや、そういう趣旨の飛ばし記事が流れるだけでも十分な観測気球になるかと。……李登輝さん、森さん、そういう訳ですからここはひとつ、

「近いうちにまた行ってみたい。あそこは実にいいところだ」

 という程度のコメントでもいいですから、探索射撃をして中共政権の出方をうかがってみてくれないものでしょうか(笑)。



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 香港紙『明報』(2006/01/09)が「男たちの大和」特集を組んでいます。

 http://hk.news.yahoo.com/060108/12/1k7z0.html
 http://hk.news.yahoo.com/060108/12/1k7z2.html
 http://hk.news.yahoo.com/060108/12/1k7z3.html
 http://hk.news.yahoo.com/060108/12/1k7z4.html
 http://hk.news.yahoo.com/060108/12/1k7z5.html

 英紙『ガーディァン』を引き写した内容などを交えているのですが、わざわざ転載するくらいですから共鳴するところがあったのでしょう。いや、「都合がいい」という方が正確かも知れません。

 もちろんネガティブな捉え方なのはお約束です。いや、あの映画には私も失望したのですが、『明報』は当然ながら別の意味で気に食わなかったようで(笑)。

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「『愛する人を守るため』というのは決して悪いこととは言えないが、実質的には一種の洗脳状態だ」

 とするネットユーザーの声も紹介されています。「日本網民」と書いていないので国籍不明ですが、考え方は人それぞれですから、日本人であろうとホロン部であろうと(笑)、そういう見方があってもいいでしょう。

 ただ本当に「洗脳状態」なら、水上特攻で死ぬ意義について学徒出陣組と海軍兵学校卒グループが言い争う場面が出てくることもなければ、第二艦隊・第二水雷戦隊上層部が特攻命令に反発するシーンも登場しないだろう、と私は思いますけどね。

 前にも書きましたが、筋金入りの撃墜王である坂井氏も米機動部隊への体当たりを命じられて動揺したと吐露していますし、特攻隊員にしても思い悩み、親しい人の面影を慕いつつも出撃していった人は少なくないでしょう。

 思い悩んだ上で「もう会えない君を、守る」と自分を納得させて死地に赴く。……自らを納得させる理由は他にも様々あったでしょうが、これらを洗脳と称する向きには呆れて物が言えません。中共政権下と違ってここは日本ですから、そういう見解の相違があっても構いませんけど、私は到底同意できませんねえ。

 ――――

 まあそういったことは放置するとして(笑)、重慶の衝突事件に続報がないので気楽に「楊子削り」をさせて頂きます。

 標題の通り、幼稚園のころ『ゼロ戦 坂井中尉の記録』にハマり、零戦ファンとなった私はそれ以後関連書籍を読みあさるようになり(子供が読める程度のものですけど)、やがてその対象も零戦から日本海軍、太平洋戦争(大東亜戦争でもいいです)へと範囲を広げていきました。

 でも軍オタとかマニアという境地には達しておりません。『公刊戦史』のようなものには手をつけませんし、いまでもせいぜい文庫本で売られているものを読む程度です(……あ、故・坂井三郎氏の著作に関しては別です。文庫本かどうかを問わず刊行されているものは全て持っています)。

 途中から並行して故・司馬遼太郎氏の小説、そして散文も愛読するようになりました。戦記とか歴史モノは読み方によっては色々と応用がきくので重宝します。例えば戦記にしても、単なる体験記や専門家の手による読み物ではなく、坂井氏の著作のように現代を生きる者にとっても示唆に富んだ作品に傾くようになりました。歳を重ねるうちに自然とそうなっていました。

 以前紹介させて頂いた『ガダルカナル戦記』(全3巻)などはその好例です。「戦記」と銘打ってあることでチャンバラを期待された向きにとっては失望されること疑いない内容ですし、作者がガ島戦体験者という訳でもありません。でも、読んでいてうーんと考え込んでしまえるところが随所にある。それがいいのです。

 そういう示唆にあふれた「戦記」をもう2冊。戦時中に日本海軍の各種艦艇の艦長を務めた人たちへのインタビュー集です。「艦長」といっても、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦から海防艦に至るまで、バラエティに富んだ内容となっております。これも読み方次第ですが、体験記であっても考えさせられる部分があって私にとっては勉強になりました。学生さんよりも社会人の方にお勧めしたいです。

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艦長たちの太平洋戦争―34人の艦長が語った勇者の条件

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艦長たちの太平洋戦争〈続篇〉―17人の艦長が語った勝者の条件

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 今回は軽く雑談でと思ったのですが、つい勢い込んでしまいます。

 いやあ新年早々、というか中国は旧正月前の歳末気分でしょうが、ともあれ盛り上がって参りました。

「今年は『武装農民vs武警』というシチュエーションが増えそうで楽しみです」

 と前回書いたその筆が乾かぬうちに、何と自爆農民がついに登場。いや、自爆テロ自体は前々から起きていて一部が「自殺」扱いで報道されていますが、今回は明々白々、しかも「官」に対する怨恨絡みとみられるケースです。

 もちろん日本でも報道されていますから御存知の方も多いでしょう。

 ●農民が裁判所で自爆、5人死亡 中国・甘粛省(Sankei Web 2006/01/07/18:31)
 http://www.sankei.co.jp/news/060107/kok049.htm

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 繰り返しますが、「官」への怨恨という動機が明白である点が大きな意味を持っていると思います。「明白」というのは中国国内メディアでも「裁判所の処置に不満」であることが原因だと報じられているからです。

 ●『重慶晩報』(新華社電 2006/01/08/03:40)
 http://www.cqwb.com.cn/webnews/htm/2006/1/8/178794.shtml

 ●「中国新聞網」(2006/01/08/09:12)
 http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-01-08/8/675126.shtml

 香港紙の報道によると、中国国内のネット世論は自爆した農民に同情的だったとのことです。

 ●『明報』(2006/01/08)
 http://hk.news.yahoo.com/060107/12/1k77b.html

 ●『太陽報』(2006/01/08)
 http://the-sun.orisun.com/channels/news/20060108/20060108015637_0000_1.html

 ……あ、中国の大手ポータル「網易」(NETEASE)だと大量のレスをまだ読むことができます。

 http://news.163.com/06/0107/03/26R7AQ3A0001122B.html

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 「官民衝突」かどうかは別として、明確な意図を持った爆破事件は他にも起きています。

 ●炭鉱同士の「械闘」で爆薬使用、山西省で8死4傷(「新華網山西チャンネル」2005/12/03)
 http://www.sx.xinhuanet.com/jryw/2005-12/03/content_5733146.htm

 ●新疆炭鉱の「11.8」爆発事故、報復目的の爆破事件と判明(「新華網」2006/01/07)
 http://news.xinhuanet.com/legal/2006-01/07/content_4021666.htm

 「械闘」というのは農民が刃物や農具などの武器を手に村同士で戦うもので、水争いや境界線画定など村落間に生じた問題が衝突の原因。歴代王朝時代から続いている伝統的なものですが、今回はこれを炭鉱同士でやってしまい、業界柄爆薬を持ち出したため、かくなりました。

 事故から事件に昇格した新疆の一件は、14死27傷。新疆ウイグル自治区公安庁責任者によると、労使紛争や経済的利益に関する対立などから「私憤・報復」的爆破事件がしばしば発生しているとのこと。一例として2005年1月20日にバスの中で爆薬を爆発させ、11死7傷という被害を出した事件を挙げています。「私憤・報復」は公式発表ですから実際の動機がその通りかどうかは別として、新疆では爆発事件が結構起きているようです。

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 炭鉱は全国各地にありますし、しかも政府が闇炭鉱を閉鎖させたりしていますから爆薬は手に入りやすいことでしょう。武具や銃器類も地下工場や横流しルートがあり、闇市場で入手可能です。「武装農民」や「自爆テロ」が出現する素地は十分に整っているといえるでしょう。

 ですから「武装農民」が今年のトレンドかな、と考えてみたりするのです。昨年は当局の雇われ暴徒が丸腰の農民を襲撃した定州事件(6月)や、武警(武装警察)がついに実弾射撃を行って農民を射殺した広東省汕尾市・紅海湾の「12.6」事件という実例が発生。とうとう一線を越えてしまったという観がありますから、「民」の当事者としては覚悟を新たにせざるを得ないのではないでしょうか。

 「官逼民反」(「官」の横暴により追い詰められた「民」が、成否を問わずに立ち上がる)

 という言葉を、ここ数年の中国国内の掲示板ではよく目にします。官民対立がある程度の段階に達したとき「もはや武装して蹶起あるのみ」という気分になるかも知れませんし、自衛目的で武装することもあるでしょう。ともあれ、武装化しやすい空気になったのではないかと思います。

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 これとは別に、重慶市では住宅の強制収用で官民衝突が発生しているようです。共同通信によると、労働者数千名が警官隊数百名と衝突して警官1名が死亡、とのこと。

 ●中国の重慶で労働者と警官が衝突・香港紙報道(Nikkei Net 2006/01/07/18:08)
 http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060107STXKG029307012006.html

 ●中国 不満噴出、相次ぐ衝突 農民が自爆/2000人暴動(産経新聞 2006/01/08)
 http://www.sankei.co.jp/news/060108/morning/08int002.htm

 ――――

 実はここからが本題なのですが、記事タイトルの「香港紙報道」というのは『太陽報』(2006/01/07)であることがいずれの記事文中でも明らかにされています。ところが同紙電子版(無料版)に飛んでみたものの、該当記事を見つけられませんでした。『太陽報』のこの記事、御覧になった方があれば御一報下さい。やはり原文にあたってみたいのです。

 ちなみに反体制系ニュースサイトで探してみたところ、「博訊網」と「大紀元gb」が報じていました。どちらも元ネタは米国系ラジオ局「RFA」(自由亜洲電台)の報道でした。

 ●「大紀元gb」(2006/01/07)
 http://www.epochtimes.com/gb/6/1/7/n1181019.htm

 ●「博訊網」(2006/01/08)
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/01/200601080108.shtml

 となると、『太陽報』も「RFA」報道を引き写したものなのかも知れません。親中紙を除く香港の新聞が「RFA」や、やはり米国系ラジオ局である「VOA」(美国之音)をソースに記事を書くことは珍しくなく、「大紀元」や「博訊網」が元ネタとして明記されていることもままあります。

 ――――

 で、素朴な疑問が浮かぶのです。毎度毎度のことなのですが、日本の大手メディア、特に新聞や通信社の香港特派員は、どうして「RFA」が報じた時点で動かず、香港紙(今回は『太陽報』)が報道してから記事にするのでしょうか。

 香港紙の流す情報自体、その確度は「RFA」などと大差ないのです。むしろ上述したように、「RFA」などを元ネタにさえしています。この場合、「香港紙が報じたから」という言い分が手堅さの証にならないことは言うまでもありません。

 紙媒体が報じたから間違いない、という根拠のない安心感のようなものがあるのでしょうか。インターネットによる報道がかくも一般的になった時代にそういう考えでいるのなら、ちょっと信じ難いアナクロぶりということになります。

 ――――

 いや、私は「RFA」が報じた時点で動け、と言っている訳で、その時点で記事にしろと主張しているのではありません。動けばいいじゃないですか。「RFA」とのパイプがあれば、相手方の記者に確認するなどしてタイムリーに情報の確度をチェックできます。そこから先はプロの記者として記事とするに値するかどうかを判断するだけです。そういうネットワークを、香港各紙や大手誌も含めて張り巡らせれば済むことではないですか。

 私は香港在住時代の初期に趣味でチナヲチをしていたとき、素人ながらその真似事をしていました。疑問のある報道にぶつかれば新聞社に電話して、その記事を書いた記者に直接確認したりしていました。当時の香港紙は中共政権の官職名や組織名について大ポカをすることが少なくなかったので、「その名前は本当か?」などと問いただしたりしたものです。

 以前にも書きましたが、それが重なるうちに飲茶をするような関係になった香港紙記者や政論誌編集者もいますし、図々しくも親中紙の資料室を使わせてもらったりもしました。素人でもマニアめいた執着心があればそのくらいできるのですから、難しいことではない筈です。時代が変わったので、それを紙媒体からネットメディアに範囲を広げるだけのことではないですか。

 ――――

 それが歯がゆい、ということだけを雑談として短切に書くつもりだったのが、血を騒がせる事件が報じられてつい長くなってしまいました。

 歯がゆいのです。中国語の原文にあたれる人ならともかく、一般的日本人はやはり日本語メディアに頼ることが多くなるでしょう。プロの方々にも色々な事情があるのかも知れませんが、もう少し働いてほしいものです。



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「上」の続き)


 「上」で紹介した「人民内部の矛盾」、これに関して前掲の『星島日報』(2006/01/05)の記事は、

「公式統計によると、内地(中国本土)で発生した比較的大規模な集団的抗議事件は一昨年(2004年)、7万4000件以上に達し、昨年(2005年)はさらに増加傾向にあった」

 としています。こうした「人民内部の矛盾」を「妥当に処理」「適切に処置」しなければならない、というのが武警(武装警察)の課題であり使命なのですが、「人民内部の矛盾」は「人民」によるものである以上、これは敵視・撃滅する対象ではありません。武警にとっての敵対勢力というのは別に存在しています。論文から訳出しますと、

 目下のところ世界はいまなお不穏であり、各種の矛盾が複雑に錯綜し、平和と発展に影響を及ぼす不安定・不確定要素が依然として存在している。西側の敵対勢力はわが国の西洋化、分化を図るという政治的陰謀を未だ放棄しておらず、様々な手段を通じてわが国に対し浸透、破壊、転覆活動を行っている。

 民族分裂勢力、宗教極端勢力、そしてテロリズムを奉じる勢力がわが国周辺の一部の地区で依然としてかなり活発に活動しており、特に「台湾独立」「チベット独立」「東トルキスタン独立」「民主化運動」「法輪功」などの敵対勢力は、手を換え品を換え攪乱活動、破壊活動を行っており、わが国の国家安全と社会の安定にとって直接的な脅威となっている。

 ……ということで、これが殲滅すべき対象ということになります。ちなみに「民主化運動」とは海外の反体制系組織などのことで、広東省・番禺の太石村で起きた「農民の民主化運動」(村長改選・汚職疑惑究明運動)のように法に則った活動とは別物です。もっとも一党独裁の中共政権ですから、たとえ法に則った活動であっても党にとって都合の悪いことなら容赦なく叩き潰します。太石村事件は正にその好例でしょう。

 あるいは、上で「敵」について規定しているので、そのレッテルをかぶせてしまえば相手が「人民」でも殲滅可能となります。「攪乱分子」「破壊分子」「政権転覆分子」などにしてしまえばいい訳で、広東省汕尾市・紅海湾で発生した「12.6」事件にしても、市当局の発表では「少数の『××分子』に煽動された村民が……」ということになっています。

 ――――

 法制あれど法治なし。法律よりも党の意思が優先される国は怖いですねえ。……ということで武警が人民解放軍同様、中華人民共和国よりも中国共産党を優先する、つまり国家ではなく党(中共)に従属する武装組織であることにふれておきたいと思います。再び論文から訳出しますと、

 武警は(中略)党中央、中央軍事委の指示と胡錦涛主席の武警部隊建設に関する一連の重要論述を思想的・理論的な武器とし、部隊建設における重大な現実問題を真剣に解決しなければならない。

 ……と、武警が国家ではなく党に従属するという原則が示されます。さらに、

 「永遠に党と人民の忠実なる衛士たること」との要求を断固貫徹し、思想・政治建設の強化に力を注ぎ、部隊が一貫して党中央と中央軍事委の指揮に従うことを保証しよう。永遠に党と人民の忠実なる衛士たることは、武警部隊が新世紀・新段階の歴史的使命を履行する上での根本的保証である。

 ……と畳み掛けます。「党と人民の忠実なる衛士」ときましたが、ここには国家のニオイがしません。「人民」は「国民」に等しいのかどうか私にはわかりかねますが、例えば中国国籍を有する李さんや張さんが「人民」かどうかを判定するのはあくまでも中国共産党であって、中華人民共和国政府ではないでしょう。

 ――――

 (武警は)党の絶対的指導を永久不変の警魂とし、「軍隊の非党化、非政治化」及び「軍隊の国家化」などの誤った観点の影響を断固排除して、党が思想・政治・組織の各面から部隊をしっかりと掌握することを確保し、広範なる官兵が断固として党中央と中央軍事委の指揮に従うことを確保しなければならない。

 (武警は)終始一貫して党の基本理論で官兵を武装し、党の路線・方針・政策と重大な決定を以て部隊の思想と行動を統一するよう部署しなければならない。

 ……ここまで来ると「武警は党に従属する組織」というだけでなく、「武装警察」とはいえ実質はやはり「警官の制服を着た軍人」なんだなあ、という印象が強くなります。

 さらにいえば、武警も軍同様、少将、中将……といった階級があります。階級自体は警察官にもあるでしょうが、少将、中将といった軍と同じ呼称を用いていることからも「制服を脱げば軍人」という本質を垣間見ることができるといえるでしょう。また、

「党の絶対的指導」
「『軍隊の非党化、非政治化』及び『軍隊の国家化』などの誤った観点の影響を断固排除して」

 という言い回しは、八一建軍節(人民解放軍の誕生日とされる8月1日)恒例の軍機関紙『解放軍報』の社説そのまんまです。

 ●兵隊さんが揺れてます。――解放軍報八一社説。(2005/08/03)

 ――――

 ところで今回発表された論文のタイトルは
「政治的に揺るぎない人民の模範となるような部隊の建設に努めよう」となっています。これは、

「政治的に揺るぎない武警」
「人民の模範となる武警」

 というイメージと実態がともに揺らいでいることを示唆するものといえるかも知れません。実はこの論文、三部構成なのですが、「人民内部の矛盾」とか「敵対勢力」が語られるのは第一部だけで、第二部・第三部は、

「党中央の絶対的指導に従え」
「思想を堅固にせよ」
「部隊の高度な安定と集中・統一を維持せよ」
「大局眼を持て」

 ……といった内部向けの説教に費やされています。ニュースあるいはトピックとしては共同電などの伝える「人民内部の矛盾」云々が重視されるでしょうが、タイトルと内容からいえば、この論文の重点が第二部と第三部に置かれていることは明らかです。

 これまた意地悪な見方をすれば、
「党中央の指導に従わない」「思想的に動揺している」「部隊の安定と集中・統一が十分でない」「大局眼を持たない」といった武警が増えつつあることを、武警トップ筋ひいては胡錦涛政権が深刻視していることを暗示しているといえます。「人民内部の矛盾」も問題だがむしろ武警自体の乱れっぷりの方が深刻ではないかと。ここでいう深刻視される「武警」とは個人のことではなく、武警の下部組織、末端組織といったニュアンスです。

「上有政策,下有對策」(中央で決めた政策が地方・末端レベルでは骨抜きにされてしまう)

 という現象が、武警においても坐視できない状況になりつつあるのかも知れません。

 ――――

 言うなれば武警も「諸侯」化している、ということです。いや「諸侯」の走狗と化しているというべきでしょうか。具体的には党中央や中央軍事委を疎かにし、地元当局の意を汲むことを専らとしている、全国的な観点という大局眼を持つことなく、地元優先志向に傾く、といったことです。

 上海市など特に沿海部の地方政府がデベロッパーと結託して不動産開発で荒稼ぎしましたが、武警も末端レベルで地元当局と利権の面などで一蓮托生(癒着)の関係となっているのではないでしょうか。極端な言い方をすれば、地元当局の私兵同然になっている。実例はいくらでもあるでしょう。

 例えば、無茶な土地収用や工場による河川・大気汚染といった環境破壊が地元当局によって隠蔽され、農民の抗議には全く取り合わない。農民の健康や生命なんかより土地売却益や企業からの税収の方が当局にとっては大事だからです。最後にキレた農民が暴動を起こすと、そこで武警さんの出番。時代劇でいえば悪徳商人に飼われている浪人先生のようなものです。

 そういうケースが時代劇でなく実際に多発していることは当ブログで再三紹介しているところですが、それも氷山の一角、運悪くバレてしまった事例に過ぎないのでしょう。「12.6」事件における武警の役回りなどは正に悪徳商人に飼われている浪人先生、定州事件の雇われ暴徒そのものではありませんか。

 ただ実弾射撃で農民たちを薙ぎ倒してしまったこと、これは私たちの視界外にある僻地だとセオリーなのかも知れませんが、香港の目と鼻の先である広東省、しかも海外メディアが以前から注目していた案件でやってしまったのは勇み足でした。農民も爆弾などを用意して武装していたようですから、緊迫した局面で現場指揮官がつい逆上してしまったのかも知れません(余談ながら、今年は「武装農民vs武警」というシチュエーションが増えそうで楽しみです)。

 この現場指揮官も責任を問われて刑事拘留されたと発表されていますが、その後は音無しですね。汕尾市当局が庇い、それを広東省当局が保護しているのでしょう。「親民路線」を掲げ、「調和社会の実現」を目標とする中央の胡錦涛政権がそれに介入できず、せいぜい武警トップに説教調のかような論文を発表させることしかできないのですから全くお笑いです。乱れています。

 ――――

 上下に分けた長文なのにとりとめのない内容になってしまい申し訳ありません。とりあえず原題の「武警も動揺している模様。」は撤回しておきます。この実態は動揺なんて高級なものではありませんね。とうとうバラけてしまったというか地金が出てしまったというか、本卦帰りしたという観があります。これもまた中共による統治システムが軋み始めていることの証左ということになるのでしょう。



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 硬い話題が続いてしまいますが、人民解放軍の次は武警(武装警察)です。

 武警といえば広東省・汕尾市の紅海湾で土地収用をめぐるトラブルに抗議活動を行っていた地元農民たちに対し、突撃銃で実弾射撃して死者を出した「12.6」事件がまず思い浮かぶでしょう。当局発表で3死8傷。現場にいた農民の証言では発砲というより掃射、薙射というべき射撃で、ダーン、ダーンではなくズダダダダ……という感じだったそうです。

 この事件に対し地元当局(汕尾市政府)が公式発表を出してそれが広東省の新聞(南方日報、広東省党委員会機関紙)によって報じられたものの、北京の中央政府は現在に至るまで沈黙しており、国営通信社・新華社も全国ニュース扱いで報道していません(電子版である「新華網」だと、地方面たる「広東チャンネル」に出ただけです)。

 北京の沈黙は中央の統制力の弱体化、つまり広東省という「諸侯」に介入できないことを示したものなのか、「人の噂も七十五日」でみんなが忘れてくれるのをじっと待っているのか、それとも他の理由があるのか。世界中に報道されてしまった事件だけに、政府(中央)がだんまりを決め込むという対応には首をひねります。

 ……というのは、やはり土地収用に絡むトラブルで、当局の雇われ暴徒が抗議する農民たちを襲撃して6死48傷という被害を出した昨年6月の定州事件、これは襲撃シーンを捉えた映像が流出して国際的にも大きな反響を呼んだ事件となりましたが、これについては中央が動いて同市トップのクビを飛ばし、他に実行部隊などにも逮捕者が出て被告合計27名の初公判が最近開かれました。こちらは事件発生から初公判に至るまで全国ニュース扱いだったのです。

 これに対して「12.6」事件は実弾射撃(警告射撃の誤射だそうで)に関して「官」の現場責任者が刑事拘留される一方、農民側にも逮捕者が出ているというのが公式発表です。定州事件と違って「民」の側からも悪役が出た訳ですから、中央政府も胸を張って全国ニュースにすればいいのに、地方面でこっそり掲載しておしまい、です。この扱いは、広東省とそれを後ろ盾に公式発表を行った汕尾市、さらにその発表内容に対し、中央はやはり何か含むところがある……のかどうかはわかりませんが、そういう勘繰りをしたくなる奇妙さです。

 ともあれ、この「12.6」事件を直接の契機として執筆されたと思われる論文が発表されました。前回のコメント欄で「h333」さんが報じて下さったように、日本でも記事になっていますね。

 ――――

 ●中国「内部矛盾」が深刻化 武装警察トップが危機感(共同通信 2006/01/05/18:15)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=GIF&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2006010501002339

 【北京5日共同】中国で暴動鎮圧など治安維持を主な任務とする中国人民武装警察部隊の呉双戦・司令官は5日までに、中国の経済、社会発展の不均衡による「人民内部の矛盾」が深刻化、各種抗議活動が急増し「規模も不断に拡大している」とする論文を発表した。

 治安部隊トップが治安問題の深刻さを認めるのは極めて異例で、胡錦濤指導部内の危機感を示すものとみられる。論文は中国共産党の政治理論誌「求是」1月号に隋明太・武装警察政治委員とともに執筆した。

 論文は、急速な経済発展が続く現在の中国の治安情勢について「刑事犯罪が頻発、矛盾が突出」とした。さらに「西側敵対勢力は中国を西洋化、分裂する政治的陰謀」を放棄せず「破壊、転覆活動を実施している」と決めつけ、特に台湾、チベット、新疆ウイグル自治区独立運動に強い警戒感を表明した。

 ――――

 このニュース、私は昨日(1月5日)朝の香港紙『星島日報』及び親中紙『香港文匯報』の報道で知りました。

 ●『星島日報』(2006/01/05)
 http://www.singtao.com/yesterday/chi/0105eo02.html

 ●『香港文匯報』(2006/01/05)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0601050005&cat=002CH

 おおっと思い早速論文を掲載した『求是』の関連サイトに飛んでみると、目次だけしか出ていなくてガッカリしました。ところが「新華網」が全国ニュースとして流しているではありませんか。執筆者は武警の実務責任者と党務責任者のようですから重要論文扱いです。

 ●「新華網」(2006/01/05/08:39)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/05/content_4010516.htm

 前掲の『香港文匯報』はこの論文を「2006年の指導思想のようなものだ」としています。武警トップによる年頭所信表明というところでしょうか。ちなみにこれを掲載した『求是』はかつて社会主義バリバリの保守派の巣窟としてブイブイ言わせていたのですが、保守派が壊滅した現在は御用雑誌的な臭みがとれて、正統派の理論誌、というポジショニングに落ち着いている模様です。

 そういえば武警とは何ぞやという説明がまだでした。武警は公安部と人民解放軍に両属する準軍事組織で、いわば警官の制服に身を包んだ軍隊、といったところです。国内の騒乱や暴動などに対処するのが本務ですから火力をはじめとした各種装備や戦闘力は軍隊に劣りますが、丸腰あるいは棍棒を手にしたりや投石を行う暴徒に対しては警棒、スタンガン、催涙弾といった一応暴動鎮圧用としては十分な攻撃力を有しています。

 かの天安門事件(1989年)も当時の中国人学生の手記を読むと、軍隊が動き出す前段として武警が催涙弾を放ち、それに対して学生や市民が瓦礫を投げつけて反撃する場面が登場したりします。現在もそうですが、中国はどこに行っても投石に手ごろな石や瓦礫が路傍に転がっています(笑)。ただし「12.6」事件のように、場合によっては突撃銃といった殺傷兵器の携帯及び使用も許されているようです(まあ催涙弾も至近距離で発射されたものが頭などに直撃すれば即死する場合がありますけど)。

 ――――

 で、この論文。かなりの長文ですが、「今年の武警はこんな感じ」という所信表明として、武警内部に向けて書かれた側面と、外部向けに意思表示した側面の両方を併せ持っているように私は感じました。『星島日報』、『香港文匯報』そして共同電は期せずして同じ部分を紹介していますが、これは論文のごく一部に過ぎないくだりです。以下に原文(論文)からかいつまんで訳出しつつ私なりの注釈を織り込んでみることにします。

 現在、わが国は正に発展における重要な戦略的好機を迎えている。だが同時に人民内部の矛盾が突出し、刑事犯罪が頻発し、敵との闘争が複雑になる時期でもある。

 人民内部の矛盾の突出・頻発という事態はわれわれ(武警)に対し、大規模な集団的事件において妥当な処置を行い「安定維持」を全うする重要勢力、という役割を求めている。突発事件、特に大規模な集団的事件を適切に処置することは、武警部隊が国家の安全と社会の安定を守るという憲法と法律によって裏打ちされた重要な使命である。

 ……所信表明とはいえ、決して新鮮味のある内容ではありません。「現在、わが国は正に発展における重要な戦略的好機を迎えている。だが同時に人民内部の矛盾が突出し、刑事犯罪が頻発し、敵との闘争が複雑になる時期でもある」というのは昨年から言われていることで、3月の全人代の政府活動報告も言及していますし、共産党員の「先進性教育活動」に関して中央組織部の李景田・副部長が7月に行った記者会見でも同じ認識を示しています。

 ●政府は「集団的事件」に打つ手なしかよオイ。(2005/07/16)
 ●庶民も国家も食い物にする連中。(2005/07/29)

 例えば都市再開発に伴う転居強制とか、農村での土地収用とか、それに伴う補償の薄さ(往々にして当局側の汚職に起因する)、そしてそれらを原因とする官民衝突などが「人民内部の矛盾」ということになるのでしょうが、観じ切ってしまえば「一党独裁制の弊害」とする方がしっくりするように私は思います。広東省・番禺の太石村で発生した「農民の民主化運動」を当局が無理やり叩き潰した一件、あれも「人民内部の矛盾」ですか、そうですか。

 現段階におけるわが国の経済・社会発展面での不均衡や利害関係の複雑さは、人民内部の矛盾が様々な形で多発するという傾向を呼んでおり、各種集団的事件の発生件数は明確に増加し、その規模も絶えず拡大しつつある。集団的事件は往々にして様々な矛盾が相互に混ざりあっており、状況は複雑で処置する上での難度は高い。

 ……まあ、上述したような以前からあった現状認識が武警トップによって語られたところは新しい点です。「状況は複雑で処置する上での難度は高い」という泣き言(笑)は外向けのものでしょう。これをきれいに表現すれば、共同電のように「胡錦濤指導部内の危機感を示すものとみられる」ということになります。

 武警部隊はこうした新しい状況に応じた新たな挑戦に対し、胡主席(胡錦涛)の要求に照らして部隊を整備して、真の「突発事件を適切に処理する非常に戦闘力を有する部隊」として、「安定維持」を全うする重要勢力という役割を果たさなければならない。

 ……「泣き言」と上に書きましたが、実際武警さんも苦労していると思います。都市暴動にせよ農民暴動にせよ、投石で怪我したり警察車両を燃やされたりしながら(いまでも「武警」=「wujing」=「WJナンバー」なんでしょうか?)、「妥当に処理」「適切に処置」するため非殺傷型の装備で立ち向かわなければなりません。つい使いたくなると思うんですよねえ突撃銃を。掃射して憎き暴徒をバタバタと薙ぎ倒す。実に爽快じゃありませんか。

 汕尾市の「12.6」事件はたまたまパパラッチ型取材に長じた香港紙記者の庭ともいえる広東省で起きてしまったので騒がれましたが、実弾射撃は海外メディアの可視範囲の外で結構行われているんじゃないでしょうか。あるいは利害絡みや境界線争い、水争いなどで「A市の武警vsB市の武警」といった実戦が発生したりしているかも知れません。「12.6」事件に対する私の第一印象は、
「武警が地元当局の私兵化しているのでは?」というものでした。

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 ところで文中にある「胡主席」というのは胡錦涛のことですが、「主席」とは国家主席ではなく「党中央軍事委員会主席」でしょう。武警は形式上は公安部と人民解放軍(具体的には中央軍事委員会)に両属していますから、そこに「胡主席」が出てくるとすれば党中央軍事委主席でしかあり得ないからです。この点は読んでいて私も虚を衝かれたような感想を持ったのですが、人民解放軍が中華人民共和国ではなく中国共産党の軍隊であるように、
武警もまた国家よりも党(中共)を優先する武装組織なのです。

 まあ中共優先とか私兵化とか、そういったことは後半で。とりあえずハーフタイムです。


「下」に続く)



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 正直、どうもわかりません。いやなに人事の話です。

 昨年末に人民解放軍において近年にない規模での高官の異動が行われました。この話題、人事&軍部ということでキナ臭いものであることは間違いないでしょう。つい多忙に紛れて扱えないまま年を越してしまいましたが、自分の中では未だに確たる結論が出ていません。ただ事態は進んでいますので、わからないまま取り組んでみることにします。

 一連の異動は12月中旬から下旬にかかる辺りで香港紙などにより報じられましたが、日本の報道でまとまっていたのは『産経新聞』(2005/12/30)の記事でした。ここでは一部を引用するにとどめますが、全文に目を通しておいいて損はない、価値ある記事です。

 ――

 ●中国・胡主席が大型人事 軍掌握へ本格始動――政治将校・2世異動/「陸」偏重是正
 http://www.sankei.co.jp/news/051230/morning/30int003.htm

 【北京=野口東秀】中国人民解放軍幹部の人事調整が、このほど判明した。将官クラスの異動では、胡錦濤国家主席が昨年九月に軍トップになってから最もまとまった規模で、中国筋によると、江沢民時代から軍事外交の“顔”を務めた熊光楷副総参謀長(大将)の後任に章沁生少将が内定した。政治将校や高官二世が異動の要であり、軍歴のない胡氏が本格的な掌握に乗り出した動きとして注目される。

 異動にともなう退役組には情報機関出身の熊大将が含まれており、後任に内定した章少将は総参謀長補佐。章氏は北京軍区司令部の軍事訓練部長を経て総参謀部の中枢機関、作戦部部長を歴任した。二十九日付の中国系香港紙「文匯報」(電子版)によると、熊氏は常設議会である全人代常務委員会の役職に転じる。
(後略)

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 記事のタイトルにある通り、今回の異動のポイントは、

 ●政治将校(党務担当幹部)
 ●海軍・空軍からの登用=陸軍偏重の是正
 ●二世組の抜擢

 というのが特徴です。香港の最大手紙『蘋果日報』(2005/12/19)によるともう一点、
「東北閥(瀋陽軍区出身者)の台頭」というのも無視できないそうですが、党内人事にも通じていない私が軍部の動きをみて云々できよう筈がありません。それでも「銃口から政権が生まれる」という国ですし、そもそも人民解放軍は中国の国軍ではなく中国共産党軍。国家よりも党の命令を優先させるとの大原則があります。……要するに中国政治というのは軍隊を握った者の勝ち、という世界ですから、スルーできない話題なのです。

 「東北閥」はともかく、上記3点の特徴についてはすんなりと理解できるように思います。「政治将校」の入れ替えは党による統制の強化、いや胡錦涛政権による統制強化を狙ったものでしょうし、「陸軍偏重の是正」はトレンドに乗ったものです。支那事変や国民党との内戦をはじめ、朝鮮戦争、中ソ紛争、中印紛争、中越戦争などはいずれも陸軍が主役を務めたものですが、いまや冷戦構造は崩壊。大平洋への野心、そして台湾への武力侵攻を考えると、海軍と空軍の比重を強めておくというのは頷けるところかと思います。

 「二世組の抜擢」は、今回の異動における代表例として劉源中将(劉少奇・元国家主席の息子)、張海陽中将(張震・元党中央軍事院会副主席の息子)の名前が挙がっていますが、香港紙などの情報を総合すると、他にも今回抜擢されなかった「二世組」として彭小楓中将(彭雪楓の子)、粟戎生中将(粟裕の子)、張翔中将(張愛萍の子)などがおり、電波系文人将軍として有名なあの劉亜洲中将も李先念・元国家主席の女婿です。ただ軍内部で「二世組」とも言うべき派閥が形成されているかどうかは不明です。

 で、「二世組」抜擢の動機は恐らく胡耀邦生誕90周年イベントなどと同じで、二世を大事に扱うことで党長老連の御機嫌とりをしたのではないかと私は思います。当ブログで何度か指摘していますが、元々胡錦涛を支持していた(というより江沢民への憎悪が動機か)党の長老連や物故した元老の二世などが、昨年1月に死去した趙紫陽・元総書記への評価をめぐる騒ぎで胡錦涛と疎遠になった観があり、胡錦涛は事あるごとにその関係修復に努めてきた形跡があります。今回もその一環かと思われます。

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 一連の異動は現職者の定年による退役(65歳)、または「同一等級のポストを10年以上務めてはならない」という軍高官に対する規定に則る、という穏便な形で事が運ばれたのですが、波風が全く立たなかったという訳ではないようです。昨年、「台湾問題介入なら対米核戦争も辞さず」発言で物議をかもした基地外将軍・朱成虎少将が昇進停止1年という処罰を喰らったという外電を香港紙『明報』のネット速報 「明報即時新聞」(2005/12/22/19:50)が報じました。

 http://hk.news.yahoo.com/051222/12/1jt52.html

 処罰としては軽い部類のようですが、これで朱成虎は出世街道から転落したも同然、との解説つきです。同じ内容を翌日の親中紙『香港文匯報』(2005/12/23)が記事にしていますから、確度の高い情報といえるでしょう。

 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0512230005&cat=002CH

 ところが朱成虎に先立つこと約10年前、米国高官に対し、

「台湾問題に米国が介入したら中国は核を使うことも辞さない。台北の心配よりロサンゼルスの心配をすべきではないのか」

 と言い放った電波将軍がいます。それが熊光楷・副総参謀長で、今回の異動で退役させられました。全人代(全国人民代表大会=立法機関)の名誉職的な閑職に回されることになりそうです。

 この総参謀部ナンバー2という実力者の退役が今回の目玉であり、キナ臭いところでもあります。とは、熊光楷は1939年3月生まれで「65歳定年」規定を1年以上オーバーしています。副総参謀長に就任したのが1996年1月ですから、これも2006年になれば「10年規定」に引っかかります。それを今回の人事で引きずり下ろした訳で、朱成虎への処罰と絡め、失脚説も流れたほどでした。「電波系対外強硬派」の追い落とし、といったところでしょうか。

 ところがこの電波将軍・熊光楷、軍とは別に「中国国際戦略学会会長」を務めており、退役報道とほぼ同時にその肩書きで中国国内メディアに突如登場しました。

 「新華網」の記事。「副総参謀長」との肩書が並記されなかったことで退役が確認されました。
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/21/content_3952208.htm

 以下4本も「新華網」の記事ですが、こうしてその後も一種のデモンストレーション(健在アピール)とも思える熊光楷のマスコミへの露出が続きました。失脚したのならこんな真似はできません。あるいは胡錦涛・軍主流派は失脚させるつもりだったのに、息の根を止めるには至らなかったのかも知れません。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/27/content_3973752.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/27/content_3975929.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/28/content_3980992.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/28/content_3981608.htm

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 上でうっかり「胡錦涛・軍主流派は」なんて書いてしまいましたが、果たしてそう表現していいのかどうか。

 あるいは「軍主流派・胡錦涛」と順序を逆にする方がふさわしいのか、それとも胡錦涛の意をある程度汲みつつも、基本的には軍主流派主導で異動が行われ、胡錦涛がそれに服したのか。……今回の軍高官人事のポイントがそこに隠されているように私には思えてなりません。

 要するに胡錦涛が軍部を掌握したのか、胡錦涛が軍部に掌握されたのか、ということです。冒頭で書いたように、私は、未だその点についての見極めが出来ておらず、自分なりの結論が下せないでいるところです。

 一連の動きを素直にみれば、『産経新聞』の報道のように「胡主席が大型人事・軍掌握へ本格始動」ということになるのですが、昨年春の反日騒動以降、呉儀ドタキャン事件などのグラつきでその指導力に疑問を呈され、10月の「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)でも党内人事に手をつけることが全くできなかったように、胡錦涛はこれまでずっと「ヘタレ認定」でした。小泉首相による靖国神社参拝後の対日外交も、中国国内メディアに対する日本関連報道制限を含め、年末近くになってようやく腰が据わったような体たらくです。

 あるいは胡錦涛は、自らの権力を守るために悪魔(軍主流派)に魂を売ったのではないか、と思えなくもありません。懐柔ではなく軍主流派への従属です。

 江沢民は軍部に階級昇進やポスト昇格などによる「位打ち」を行って懐柔に成功したとされていますが、背後にトウ小平がいて睨みをきかせていたからこそ「位打ち」の効果も出たのではないでしょうか。1989年の天安門事件で軍隊投入・武力弾圧という血しぶきを浴びたことで台頭した楊尚昆・楊白冰兄弟による影響力拡大を防ぎ、叩き潰したのもトウ小平がいなければできなかったでしょう。この間、軍の近代化に向けた大幅な人員削減もトウ小平の手で行われています。

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 このトウ小平に相当する後ろ盾を持たない、というのが胡錦涛の痛点でしょう。昨年7月あたりから派手な「位打ち」をやったりしており、昨夏以降、人民解放軍の機関紙『解放軍報』も胡錦涛礼讃記事を続々と掲載するようになりましたが、こうも早く懐柔策の効果が出るものなのでしょうか。

 党中央の内外に対する動きに照らせば、「懐柔」あるいは「従属」の効き目は昨年11月あたりから出ているように思います。最近の『解放軍報』は胡錦涛礼讃の勢いを一段と強めており、江沢民はもはや「過去の人」扱いです。

 1月3日には同紙創刊50周年を記念して胡錦涛が同紙編集部を訪問しました。例によって軍籍にないため階級章のないのっぺりとした軍服姿で、それに同行したのは党中央軍事委メンバーなど制服組ばかり。何だか取り込まれてしまっているように見えなくもありません(※1)。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/03/content_4003750.htm

 その胡錦涛来訪記を『解放軍報』が裏話などをまじえて大々的に報じているのですが、何やら『中国青年報』を脇に追いやる勢いの御用新聞テイストです(笑)。ただ胡錦涛の御用新聞化しているのか、それとも軍主流派が胡錦涛という錦の御旗を掲げ、担ぎ上げることで、軍事だけでなく政治への介入を試みようとしているのか。

 ……このあたりは正直、わかりません。現在の軍主流派の主要メンバーと思われる人物、例えば郭伯雄(党中央軍事委副主席)、曹剛川(国防部長兼党中央軍事委副主席)や徐才厚(党中央軍事委副主席)は、かつての楊尚昆・楊白冰兄弟に比べれば全くキャラが立っていませんし存在感も及びません。

 ただ軍主流派は電波系でこそないものの、やはり対外強硬論に傾きやすい軍人であることには変わりありません。ですからもし軍主流派の影響力が胡錦涛を取り込むほど拡大しているのなら、政治面、とくに外交に関しての姿勢に今後明確な変化が出てくるのではないかと思います。

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 駐上海日本総領事館員の自殺事件に対する中共政権の対応などをみていると、つい上のようなことを勘繰りたくもなるのです。脊髄反射というか動脈硬化というか、中国側にとってこの件はスルーするのが最良だったと思うのですが、売られた喧嘩を買ってしまいました。

 そりゃ国際的イメージもあるでしょうから喧嘩を買うことにメリットが全くないとは言いませんが、それなら国内向けには報道統制を敷いて然るべきところ、何と中国国内メディアにも報道させてしまった。それで何か得することがあるのかといえば、敢えて言うならまあ「日本憎し」でネット世論をはじめ国民の意識をひとつにまとめようというところでしょうか(現実には無理でしょう)。ただそういう硬質な対処の仕方に、そこはかとなく制服組の気配を感じてしまうのです。

 ……いやいや、単に私が過敏なだけかも知れませんけど。ともあれ胡錦涛は「握った」のか「握られた」のか、私の中での結論は未だに出ないままなのです。


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 【※1】ちなみにこの視察で発表された胡錦涛のコメントは「中国映画産業誕生100周年記念式典」での談話同様、マスコミ及び文芸に対する統制強化を示唆する内容です。『新京報』や『南方都市報』にしてみれば恫喝されたような気分でしょう。

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