中国の耕地面積が著しく減少しているようですね。報道(※1)によると、1996年の19.51億ムー(1ムー=約6.67アール)が、2003年には18.51億ムーに。中国は国土が広大な割に使える土地が少なく、人口1人当たり平均耕地面積が意外に低いことは知られていますが、現在この数字は1.43ムー。世界平均の半分にも満たないそうです。
どうして耕地が減るのか。砂漠化などが言われていますが、一方で全く人為的なもの、例えば開発用地への転用なども大きな原因で(砂漠化にも人為的側面があるのでしょうが)、むしろ近年はこちらの方が主流といえるでしょう。
やや具体的にいうと、地元政府が耕地を取り上げ、そこに外資を導入して工場を立てたり道路を引いたりします。あるいは水力発電所を建設するために土地収用を行い、水没させてダムにしたりとか。
……四川省漢源の農民暴動はこのダム建設に絡んだ問題が発端になっていますし、三峡ダムではより大規模な土地収用・住民移転が行われ、その移転者を多数吸収したのが重慶市万州区だと言われています。例の万単位による市民暴動が発生したところです。
開発用地確保のために耕地が減少するということは、取りも直さず、代々そこを耕してきた農民が、土地から引き剥がされることを意味します。もちろん移転に際しては補償金が支給されますが、新しい土地で以前の生活水準を維持できるだけの金額には程遠いようです。
いきおい元農民の移転者は日雇い労働などでその日暮らしの生活を強いられることになります。その仕事にしても需要がたくさんある訳ではありません。土地を離れて流浪するに等しい生活を送るという点では、一種の流民化ともいうべき状況です。
だいたい、移転に伴う補償金(土地代金+移転関連手当)がまともに出ているのかどうか。関連記事を例によって適当に全訳します。
●土地収用補償費、未払い分は年内にメドをつけよ(経済参考報 2004/12/10)
http://jjckb.xinhuanet.com/www/Article/2004121093620-1.shtml
【王一娟記者】国土資源部と監察部はこのほど、各地とも土地収用補償費の未払い分については今年末までに支払いを完了しなければならない、と強く呼びかけた。年内に支払いが完了しない地区、新たな未払い例が出た地区は、2005年度における農地転用計画指標(目標値)が暫定的に引き下げられ、農地転用及び土地収用に関する許認可作業も暫時停止されることとなる。
王世元・国土資源部報道官が9日、国土資源部と監察部を代表して全国の土地収用補償費の支払い状況を明らかにしたところによると、1999年以来、全国の農民集団所有地の収用補償費は175.46億元。このうち160.45億元がすでに支払われ、支給率は91.4%に達している。
今年11月末時点では、河北、内蒙古、遼寧、上海、福建、山東の各省・自治区・直轄市においては支給率が90%を超え、広東、河南、湖南、重慶、陜西の各省・直轄市の支給率は80%から90%の間、一方で江西、四川、新疆、寧夏、貴州、山西、甘粛、青海、海南、チベットの各省・自治区の支給率は依然として80%より低い水準となっている。
全国平均の支給率は91.4%……本当かなあ、という率直な感想の一方で、実情を的確に反映しているようにも思います。これは当局による支給状況であって、農民や市民の受給実績ではないからです。別の言い方をすれば、
●91.4%(160.45億元)が支払われたのは事実としても、ちゃんと農民・市民の手に渡っているとは限らない。
●補償金額を決める評価が正しく行われているか。不当に低い土地評価をなされてはいないか。
ということをこの記事は語っていません。
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実際には、
●役人が開発業者から賄賂をもらい、土地評価を不当に引き下げて補償金を低くする。
●補償金が各部門を通じて農民・市民の手に渡るまでにあちこちで着服され、たたでさえ低い補償金がいよいよ少なくなる。
ということが行われています。例えば漢源農民暴動はその両方が行われたケースで、農民が決起するのも無理はないでしょう。
推測に過ぎませんが、漢源に限らず、全国各地で似たような汚職が行われているのだと思います。北京の担当部門に陳情(上訪)に来る人が年間延べ20万人にのぼるとか、各地で暴動や官民衝突が後を絶たないのもそのためでしょう。
逆に幹部にとって、これは無から有を生む悪魔の錬金術ともいうべきものです。土地を取り上げて業者に転がすだけで莫大な利益が懐に入る訳ですから、こんなにオイシイ話はありません。補償費用の着服はいい小遣い銭になるでしょう。
重要なのは、この錬金術は内陸部と沿海部、また農村と都市を問わず通用するということです。ですから、全国各地で遍く行われています。
農民が騒ごうものなら武警さん(武装警察)出動で鎮圧。都市部では「再開発」という大義名分で強制収用が実施されます。さすがに武警を呼ぶと大事になりますから、警官を使ったり、チンピラを雇って住民を追い払わせます。
北京では警官投入、西安ではチンピラを使ったケースが最近あり、いずれも反政府系ニュースサイト「大紀元」が写真つきで生々しく報じていたのですが、いまちょっとURLが見当たらず、提示できなくてすみません。これは後日見つけ次第補足します。
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関連のケースとして付記しておきますと、中国はいま電力不足ですが、それに目をつけた内陸各省では「発電所だ発電所を作れ」と各地で一斉に大小様々な水力発電所を建設にかかっています。
積極的なのは、地元政府のトップにとってはプロジェクトという目に見える実績を残せるということ、また幹部にとっては建設による住民移転で懐が暖まるからです。
「いまは××が売れ筋だ」というと一斉にそれへとなびく……この点では日本も中国のことを笑えませんが、中国は人口・国土に見合った分の資源がありません。各地方政府の開発欲求が強い割には資源が足りないのです。
同時に、市場システムもちゃんと機能しているとはいえません。本来審判であり調整役である党官僚がプレーヤーとしてゲームに加わったり、調整役の立場を利用して悪徳ブローカーに変じたりするからです。一党独裁の弊害です。
ともかく以前から特に経済加速期にみられる現象として、「一斉になびく」ことで各地の投資内容が重複し、それが深刻になることで資源の争奪戦が起きたり審判たる党官僚の汚職が蔓延したりします。今回の水力発電所の建設熱も然りで、中央の担当部門や専門家からは深刻な重複投資になっているとの声が出ています(※2)。建設資材など限られた資源も浪費される訳です。
そして、農民が土地から引き剥がされて流民同様の生活に墜ちます。電力絡みでいえば、炭坑をどんどん掘らせるのも「一斉になびく」一例でしょう。安全基準なんてもちろん無視してやりますから連日事故が起きます。今年1~11月における炭坑事故は3413件、死者は合計5286人です(※3)。
耕地転用に関しては最近ようやく見直しが行われ、地方に乱立した開発区の閉鎖などと並行して転用された土地を再び耕地に戻す作業が行われています(※1)。ただ私は農業に疎いのでわかりませんが、転用された耕地が耕地として以前の水準まで回復するのは簡単なことなのでしょうか?
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また長くなってしまったのでそろそろ締めないといけませんが、いま中国各地で都市・農村を問わず上記のことが行われ、特に農村ではその傾向が甚だしく、土地から引き剥がされた多数の農民が、腐敗した党幹部への怨を含みつつ「流民化」していることは、社会状況を捉える上で見逃せない事実だと思います。
さらにいえば、これは中国の経済成長が農村(土地提供)と農民(超廉価労働力、しかも無尽蔵)、そして内陸部の犠牲の上に、膨大な外資導入を行うことで成立しているということの一例でもあるでしょう。
日本のテレビに出てくる上海など大都市の繁栄ぶり、市民の豊かな暮らしぶりは、農民たちが辛うじて下支えしている繁栄であり、豊かさなのです。この「不公平」「不均衡」「格差」といった言葉で括り得るかくも危うい社会構造が、いつまでも保たれるものでしょうか。私にはちょっと信じられません。
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【※1】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-12/16/content_2342831.htm
【※2】http://news.xinhuanet.com/fortune/2004-12/14/content_2331541.htm
【※3】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2004-12/14/content_2333249.htm
まぁ人間なんて何世紀経とうがやってることはそんなに変わらないってのは昔の本とか読むと分かりますけど…。
中国は春秋戦国時代から何も進歩していないってよく言われてますしね。
今は「魏」が天下統一してますけど「呉」の動きもあわただしいですね、ところで「蜀」って今どうなってるんでしょう?
あと耕地再生ですけど楽じゃないでしょうね。除草して、土をおこして、肥料やって、土も生き物ですからね。あー中国の農産物と言えば出鱈目な農薬かー、んー畑を耕すのに苦労するだけで生産効率はあまり変わらない、かも?
近年、日本の知識人が全く影響力をもっていないのは、彼らのうちに若いうちにまともに「中国体験」をしたものがいないということです。御家人さんに多くの若者が食い付いてくるのも、他にそういう大人がなかなかいないからです。
96年19.51が03年18.51億ムーに減少(-5%)として、農民の就業者数に占める割合を考えると、7億の全就業者数の47%(99年―00年:国勢社「世界国勢図会」 数字は97年のもの)が農業従事者です。単純には3.3億人がいます。彼らの5%の土地が農業以外に転用されたとき、1,645万人の農民が、新たな土地に引越し、収入を得るため畑を作る必要があります。もしその一割以上が政府から補償を受け取れないとしたら、200万人以上の不満を持つ農民が存在します。数字が古いものを基準にしているのであくまで大まかなものであくまで統計が正しければの話ですけれども。農民だけに的を絞ればこのような数字ですがそれ以外に国営企業の失業者がおります。
数字に戻りますと99年から04年の6年間で160.45億元。その内の1割が消えたとして1元が12.5円として総額200億円が消えた計算です。実際に支払っているとして、この数字で計算すると1人あたり1,212円の支給です。いくら物価が安いとはいえ1600万人以上の農民をこの平均額で救えるはずがありません。関係ないのですが日本のODAはこの金額をみれば結構重要と言えるかもしれません。他のところから聞こえてくる話では、立ち退き農民は3500万人を超え、補消費用は総額1000億元を軽く超えていると言われています。政府支出金額が正しいとして、この金額では補償にならないとすると基本的に地方政府が大部分を負担していることになります。しかし地方政府は農民にお金を支給する体力はまったく無いのが普通のようなので、この差額はどういう理由で手に入り、そして何に使われてしまったのか、ここに壮大な腐敗のからくりの一部の実態が隠されているようです。
年内に補償を完了するように指示しているとの事ですが、実際は地方が負担すべき分を指しているのかもしれません。政府補償金は地方の借金の返済(主に給料)、着服、土地バブルへとすでに消費あるいはやむ終えなく消費済のはずですので、実態調査、補償制度そのものの矛盾点を大至急改善し、言葉のとおり汚職を追放し、政府が責任を持って追加支援をしない限りは絶対に無理という状況と思われます。もっとも既にやっていれば暴動も陳情も無いはずですが。長々と書いてしまいました。数字等に間違いがあるかもしれません(3回ほど計算したのですが)。済みませんがそのときはご指摘ください。
「蜀」はいちばん大変です。西部大開発の恩恵があるかと思っていたら、窓口の重慶を天領(直轄市)として召し上げられるし、農民暴動(漢源)があるかと思えば、炭坑労働者の鉄道線路封鎖や大学生の騒動もあったり。一方で大小様々な水力発電所の建設(つまり農民を土地から引き剥がしている)に血道をあげているのも「蜀」です。トップが胡錦涛系列のホープのようですから何かと中央から目をかけてもらっていますが、「農村・農民・内陸部」の悲哀を一身で象徴している観があります。
対中認識という点では、変なシンパシーや思い入れがない分、若い世代の方が正確な見方を持っていると思います。世代交代を待つことなく、その正確な対中認識を何とか世論の主流へと育て上げていってほしいです。それは日本にとっても、台湾にとっても、ひいては東アジア(ASEAN含む)にとっても有益なことだと思います。
数字を以て色々裏付けて下さって有り難うございます。農民の流民化と同時に、失業者も問題ですね。当局発表の失業率でいうと今年は4.3%になる見通しとのことですが、この失業率もカラクリがありまして、失業者が役所の担当部門へ出向いて失業者登記なるものを申請(すぐ通るものではないようです)、それが却下されなければ政府公認の失業者となります。これが4.3%であって、登録申請が却下されたり申請していない失業者はこの数には入りません。
「実態調査、補償制度そのものの矛盾点を大至急改善し、言葉のとおり汚職を追放し、政府が責任を持って追加支援をしない限りは絶対に無理という状況と思われます。」そうなんです。それは胡錦涛の構造改革の一環でもありますが、既得権益層の抵抗は生半可なものではないでしょう。そのための「強権政治・準戦時態勢」なのですが、これが思惑通り確立できるかどうか、いまちょっと微妙な情勢になっています。
中国の農民暴動についていろいろ調べていたらたどりつきました。とても参考になりましたので私のブログでの引用記事とさせていただきました。
これからもよろしくお願いいたします。
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