一晩経って、日中双方から色々とニュースが出てきてはいるのですが、どうも書くべきことは概ね前回で書き尽くしてしまい、それを新しく出た情報が裏付けてくれているといった観があります。
「自公幹事長は胡錦涛・総書記との会談で明らかに位負けしていましたが、それでも訪中期間中の一連の会談において、守るべき一線は守ったということでしょう。この訪中は中国側が日程調整までして要望し、実現した異例のものだったのですが、その結果は中国側の望んだ形にはならず、現状に対する突破口(靖国参拝中止を確約させる)にはならなかった。……と中国側は判断したのではないでしょうか。」
……と、これは前回の文末部、昨夜(23日)21時近くの、まだ情報が揃わない段階で勝手に書いてしまったものですが、どうやらやはりこの部分がカギだったようですね。少なくとも、数少ないカギの中の重要なひとつでしょう。ある意味、胡錦涛に引導を渡した訳ですから。
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「『内政干渉だ』と言っている人もいる」と指摘して王家瑞・党対外連絡部長から平静さを失わせた武部勤・自民党幹事長、GJ!お見事です。胡錦涛・総書記相手にも位負けしながらよく踏みとどまりました。まさに守るべき一線を守り切って胡錦涛に匙を投げせしめ、中共当局の企図を挫いたのです。ハンプティ・ダンプティに似ているなんて今まで思っていてごめんなさい。……あ、隣にいた草加煎餅党の幹事長は逝ってよしです。
胡錦涛は昨年秋に小泉首相と首脳会談を行った際、初めて靖国問題を提起しました。でもそれが最初で最後。それ以来、胡錦涛は小泉首相との会談であろうと他の日本要人との会見であろうと、「靖国」という固有名詞を一切出さないまま、現在に至っています。……いや、中国国内ではそうなっているのです。中国国内メディアの報道では、
「歴史問題や台湾問題について意見交換を行った」
というような漠然とした記述で済ませ、「靖国」問題が討論されたとは一文字も書かれません。
本当は書きたいでしょうし、胡錦涛だって書かせたいのでしょうけど、万一小泉首相が今年も靖国参拝を行ったらその時点で胡錦涛の面子が丸潰れとなり、党内でも批判を浴び、中国国民からも弱腰だ売国奴だと叩かれることになります。
だからいつも「靖国」という文字を記事に出すことができないのです。
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そりゃあ書くことはできませんよね。「『内政干渉だ』と言っている人」のひとりが他ならぬ小泉首相なんですから。しかも「万一」どころか、参拝にはヤル気満々(笑)。
●靖国参拝継続の意向 首相が中韓に不快感(共同通信2005/05/16/11:26)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=HKK&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2005051601001033
小泉純一郎首相は16日午前の衆院予算委員会の外交問題などに関する集中審議で、今年中の靖国神社参拝の有無について「いつ行くか、適切に判断する」と参拝継続の意向をにじませた。
同時に、首相は「戦没者の追悼でどのような仕方がいいかは、他の国が干渉すべきでない。靖国神社に参拝してはいけないという理由が分からない」と述べ、首相の参拝に反発する中国や韓国に強い不快感を表明した。
また、首相は「中国側は『戦争の反省』を行動に示せというが、日本は戦後60年間、国際社会と協調し、二度と戦争をしないという、その言葉通りの行動によって、戦争の反省を示してきた」と強調し、靖国参拝の取りやめを求める中韓に反論した。
ただ、中国国内メディアはこの発言に対し、ほとんど論評を加えず事実関係だけを報じました。騒ぎ立てずにスルーしたのです(◆◆)。実はこの発言が出るちょっと前に山崎拓・首相補佐官(当時)が訪中して色々と働いてきた様子でした。
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●中国、首相の参拝中止困難は分かっている…山崎補佐官(読売新聞2005/05/13)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050512ia26.htm
自民党の山崎拓首相補佐官は12日夜のTBS報道番組で、小泉首相の靖国神社参拝について「中国側は(首相が)靖国参拝を完全にやめるのが難しいのは分かっている」と述べた。
そのうえで、「日中双方が知恵と勇気を持って処理しようと提案があった。知恵はいろいろある」と語り、参拝中止以外の方法で事態打開を探る考えを示した。
……と、この謎めいた言葉は当ブログでも何度か繰り返し引用しています。
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このヤマタク発言があって、その後に飛び出した上記小泉首相の談話を中国側がスルー。すると数日後(20日)の小泉発言が微妙にトーンダウンしたのです。
●小泉首相:靖国参拝は私的との認識 参院予算委で答弁(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20050520k0000e010070000c.html
「『首相の職務として参拝しているものではない。個人として参拝しているものだ』と述べ、事実上、私的参拝との認識を示した。」(毎日新聞)
……こういう流れでしたので、私的参拝という形で手打ちなのかな、と私は考えていました(◆)。
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ところが、22日に行われた自公幹事長・胡錦涛会談では全く違った展開となります。香港の親中紙『香港文匯報』(2005/05/23)によるとこの席で胡錦涛は、
「日本の政界は中日関係が損なわれないよう、A級戦犯の祭られている靖国神社への参拝をやめなければならない」(※1)
と、強い姿勢に一転するのです。原文が伝える語気からすれば、実に高圧的な物言いです。
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これによって、ヤマタク訪中による根回しも吹っ飛んでしまった形です。「私的参拝で手打ち」という私の見方がそもそも誤りだったのか、中国側の方針が変わったのか、前日(21日)の自公幹事長・王家瑞会談での武部幹事長による「内政干渉」発言で王家瑞だけでなく胡錦涛までもがキレてしまい、つい翌日の自分の出番でも喧嘩腰になってしまったのか。
とにかく胡錦涛は、この会談で日本側に靖国参拝中止を強く迫ったのです。そこで武部幹事長が折れていれば、中国国内向けの報道にも「靖国」の二文字が織り込まれていたかも知れません。しかし、武部幹事長は終始原則を崩すことなく胡錦涛の再三再四の攻勢に耐え抜きました。
そして、今回も当然ながら、「靖国」という具体的な名前は中国国内メディアの報道には登場しませんでした。新華社電の伝える会談風景は、和気藹々とした雰囲気を彷佛とさせるものです(※2)。
武部幹事長が胡錦涛に引導を渡したというのは、「靖国」に関して日本側は原則を変えない、中国が何度持ち出してきても無駄だ、と胡錦涛に知らしめたという意味です。そして翌23日、訪日中の呉儀・副首相に対し、小泉首相との会談をドタキャンせよとの指令が出されることになります。
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外交儀礼に反したドタキャンという行為、それも副首相が首相を袖にするというのは極めて異例であり、国際社会での評判も芳しくないでしょう。要するに日本の得になっても中国に利することは何もない筈です。
それでもこういう振る舞いに出るというのは、やっぱり中華思想の発露とでも言うべきものなのでしょうか。中国からみると日本は「小日本」で、「小日本」の癖にこちらの言うことを聞かず小癪な態度だから、ゲスト(呉儀)を途中退席させて主人としての面子を潰してやろう、恥をかかせてやろう、という発想です。
「先の大使館への破壊活動と一脈通ずるものがある」
という「外務省首脳」改め町村外相(名前が公開されました)の発言は正に然りです。
いや、実際そうとでも考えなければ私には全く理解できません。何せ中華思想的発想で懲罰だ懲罰だと言ってベトナムに戦争を仕掛けた国(んで負けてやんのw)ですから。基地外の考えることを常人の頭であれこれ推察しても無駄ですが、中国は野蛮ながらも中華思想というカギがあるからまだマシですね。やっていることは基地外と寸分違わぬものですけど。
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で、改めて申し上げますが、私は中国などが靖国参拝を云々するのは完全なる内政干渉と考えていますから、小泉首相は堂々と参拝すればいいという意見です。参拝の是非が議論されてもいいと思いますが、その議論は日本国籍を有する者の間でのみ行われるべきです。これが大原則。
以前、私は自公幹事長の訪中を「ヤマになるかも知れません」と懸念していましたが、確かにヤマ場だったようですね。ただ懸念は杞憂に終わったどころか、しっかり胡錦涛に学習させることができたのですから大したものです。
「靖国は内政干渉になるから言っても無駄」
と躾けられた胡錦涛は、これを機に転じて、一体どういう芸を見せてくれるのか興味津々です。まあ、そんなに選択肢があるようにも思えませんけど。それにあのネチネチした顔立ちからして、内政干渉をこれできっぱり諦めるような爽やかさは持ち合わせていないようですし(笑)。
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ところで「激しいやり取り」を「和気藹々の会談」に仕立て直した新華社の報道(※2)によると、武部幹事長は胡錦涛との会談の席上、
「日本は日中間で取り交わした3つの政治的文書の原則、これを改めて認識、また厳守し、一つの中国という立場を引き続き堅持する」
とわざわざ言っています。ナイスな反応です。まず、中国が「靖国」に口出しするのは「3つの政治的文書」が禁じるところの内政干渉ですね。それから「一つの中国」を堅持するとはいっても、「3つの政治的文書」に照らせば日本は台湾が中国の一部だと正式に承認してはいないのですから。これが、日中関係の原点なのです(※3)。
ともあれ小泉首相の靖国参拝、今回の一件によって逆に参拝時期に関する選択肢は増えたのではないでしょうか。一難去ってまた一難という中共当局は、内憂外患でいい感じになってきました(笑)。ぜーんぶ自業自得・因果応報のような気もしますけど、気のせいでしょうか。
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【※1】http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505230023&cat=002CH
【※2】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/22/content_2987575.htm
【※3】ですから、「日中間で取り交わした3つの政治的文書」の遵守を自ら謳っておいて「台湾問題への内政干渉をやめろ」とする中国側の立場には何の根拠もありません。「反国家分裂法」に日本が米国との2+2で応じたのはごく当然のことですし、町村外相が「台湾は以前から日米安保の範囲内」と米国で演説したのも「何をいまさら」な当たり前のことなのです。
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【追記】申し遅れました。私は一小市民にも出来ることとして、中国の各種掲示板に武部幹事長の偉功や、格下の武部幹事長を押し切れなかった胡錦涛の情けなさ、呉儀赤っ恥のドタキャン大脱走(海外の反応)など、事実をありのままにどんどんカキコし、情報を流していくていくつもりです。香港・台湾メディアにコピペにぴったりのおいしい記事がたくさんあります。あ、それに江沢民の植樹した紅梅が伐られた件、中共当局が反日デモに関する対日賠償に応じると表明した件、それに以前紹介した読売新聞の世論調査結果も国家機密ですからこれらのニュースを流すこともまだまだ有効です。まあ、個人的にやっている「棲息地1」の活動に普段より力を入れるということですけど。(2005/05/24/12:48)
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こちらのBaatarism氏コメントが興味深いです。対中国&対旧田中派の、二正面作戦を勝ち抜きつつあるとは……小泉はつくづく政局に強い政治家だなと思わせてくれます。
極めて非科学的な話になりますが、小泉首相のここまでを見るに、私は「ラッキー・アドミラル」という言葉を想起するのです。小泉首相がそれに当たるものかどうかは議論もあるでしょうが、悲運の指揮官を擁する軍隊、悲運の宰相を持った国家ほど可哀想なものはありません。
余太話です。あくまでも。
中国共産党に興味を持ち、図書館で本を見つけてきたのですが、
「中国権力者たちの身上調書」と言う本で
北京から漏洩した、党中央組織部が作った内部調査報告書を元に書かれたと謳っておりますが、
そう簡単に漏洩して本になるのでしょうか?
眉唾で読むのが正解なんでしょうか?
もし、何かお知りでしたら教えていただけますか?
ちなみにいま話題の呉儀さんについては女性指導者の欄で4ページ中1.5しかありませんでした。
共産主義の割には女性指導者って少ないですね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050524-00000432-jij-int
中国がマラッカ海峡に潜水艦基地―米紙
http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/050519-175817.html
インドネシア、中国からの技術供与でミサイル開発へ
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050519i111.htm
中国、軍事協力でフィリピン国軍に120万ドルを供与
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20050523AT2M2301923052005.html
ああいう笑えるドタキャンの裏で軍事的な恫喝も同時に行っている中国のしたたかさを誉めるべき?
青年報を見に行ったら、呉儀副首相の小泉首相との会談取り止めの記事が載ってました。24日の夜1時前ごろの記事でした。
ttp://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-05/24/content_8282.htm
事実だけを記述しているようです。
ドタキャン報道などは絶好の反日行動と評価されるだろうに、ああもったいない(棒読み
とにもかくにも、胡錦涛の政治力が読めそうで少しだけわくわくって所か。まさかまた暴動に発展するほど政権基盤が脆弱とは思いたくないが…そうなったらそうなったで、日本もちょっと頭痛い。
政権初期の靖国参拝の迷走ぶりを考えると、小泉首相が最初から外交手段として靖国参拝を考えていたとは思えないんですよね。外交手段だとしたら、中韓対策を最初から考えるでしょうから。
小泉首相は田中派の遺産をぶち壊すことで姿勢が一貫してますから、あれほど靖国参拝にこだわるのはやはり遺族会対策だったと思います。
しかし、中国は反日で暴走したあげく墓穴を掘ってしまい、今や中国首脳が表だって参拝中止を要求することすらできない状況になってしまいました。
自分では何もしないうちに靖国参拝への最大の障害がなくなってしまったわけで、本当、小泉首相は運の良い人です。
経済同友会の北城代表幹事が次のような発言をしています。
>小泉首相の靖国参拝はA級戦犯を崇拝するものではなく、戦争で亡くなられた方を慰霊するために行っており、小泉首相個人の問題だ
>こうした考え方を中国にもっとよく理解してもらう努力が必要だ
http://www.reuters.co.jp/newsArticle.jhtml?type=businessNews&storyID=8583562§ion=news
この方、去年11月にはこのように話していました。
>経済界の意見の大勢だと思うが、総理に今のような形で靖国神社に参拝することは控えて頂いた方がいいと思う。
http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/pressconf/2004/041124a.html
財界に姿勢の変化があるのかな、と邪推してみました。中国首脳がこれ以上靖国参拝で日本にゴリ押ししても得るところがない、と判断したのは賢明かも。「ダメだこりゃ。次いってみよう。」ってことで次の日本イジメの材料を選んでるんでしょうけど。
A級戦犯分祀ですが、たしか中曽根元首相が直接遺族を廻り分祀を説明していて、たしか一人を除いて了承を得られたとか、一年位前田原総一郎が言ってましたね(二重に怪しいソースですいません)。
http://www.wafu.ne.jp/~gori/mt/
日本語で読める情報だけでもここまで推察できるのも凄いね。というか中国分かり易すぎ?
それにしても民主党駄目すぎ。
http://www.sankei.co.jp/news/morning/25iti001.htm
胡錦濤と温家宝の路線対立のような事が書いてあるのですが、二人の派閥(?)は異なるのでしょうか?
申し訳ありません。
今後ともよろしくお願いします。
ですから内容も何もわからず……お役に立てず申し訳ありません。
web上の記事漁りはそれなりにやっているつもりですが、仕事もあるので中国関係の書籍も全然読んでいなくて……勉強しなきゃいけないんですけど。
言い訳はともかく、この記事は極めて重要です。今回わらわらと出てきた中国側の数々の報道の中で、現時点までなら重要度は5本の指に入ると思います。
指導部内で何か起きています。というより「起きた」ことを感じさせる記事です。
胡錦涛が対日現実路線というのは昨秋以来の動きで後づけられるのですが、温家宝が対日強硬派とは初耳です。この記事だとその根拠が説明されていないので困ってしまいます。
「温家宝=対日強硬派」を匂わせる記事がない訳ではないのですが……初耳ですねえ。
>胡錦濤と温家宝の路線対立のような事が書いてあるのですが、
>二人の派閥(?)は異なるのでしょうか?
はい、異なる派閥であることは確かです。胡錦涛は共青団(共産主義青年団)出身で、経歴も党務(××省党委書記とか)が中心です。一方の温家宝、これはどういう人脈に連なるものかは私にはわかりませんが、国務院(政府)系列、つまり政務の叩き上げです。趙紫陽が天安門事件前にハンドマイクを手に涙まじりに学生に訴える有名なシーンがありますが、その隣に若手時代の温家宝がいます。
ただ「派閥が異なる=対立関係」ではありません。中共は建国以来常にいくつもの派閥が存在し、それが2つないし3つの政治勢力にまとまって暗闘を繰り返してきました。現在もそうだと思います。
それにしても胡錦涛と温家宝が一枚岩でないとすると容易ならぬ事態ですね。……それを裏付ける情報がほしいところです。
早い話が:ひょっとして8・15参拝?=金子秀敏
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2005/05/26/20050526dde012070010000c.html
「温家宝=対日強硬派」は中国通な記者の共通認識?
最近見つけた商社マンな人のコラムは逸品です。つうかもう皆知っている?
同時多発反日暴動に立ちすくむ中国
http://www.f5.dion.ne.jp/~t-izumi/china2005.htm
国務院総理、政治局常務委員略歴
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/cv/r_onkahou.html
生年月日 1942年9月生
微妙…
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