日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





「上」の続き)


 前回は文末で余談に流れてしまいました。改めて書きますと、私が今回の事件で感じたこと、



 (1)李登輝訪日時の「口だけ」反発に比べ、外交儀礼を無視した行動に出た今回は本気度が高い。

 (2)でもこれは
「胡錦涛、いよいよガチに出た」なのか、「ガチになることを余儀無くされた胡錦涛」なのか。

 (3)報道もバラバラで論評記事にも乏しく、事前に準備されたメディア攻勢にはみえない。



 ……のうち、今度は(3)の中国国内メディアによる今回の報道ぶりについてです。これは、本来ならしっかり統制されている筈なのに、今回はバラバラと言うか意思不統一、要するに3月末から4月中旬の「反日」期間中のような(反日気運に対する「火消しメディア」と「火に油メディア」があった)、党上層部がまた2つに割れたんじゃないかと思えるような無統制さを感じさせるものでした。

 ただし、初動は無統制で混乱したもののその時期は短く、数日ですぐに足並みが揃いました。これは前回の反日騒動を巡る動きとは対照的な点です。
足並みの乱れが党上層部の意思不統一を示すものだとすれば、今回は主導権争いがあったものの、比較的短時間で決着がついた、ということになります。

 で、まず初動なのですが、呉儀のドタキャン、これを中国国内メディアが報じるのが実は
恐ろしく速かったのです。第一報は5月23日、つまりキャンセル当日のしかも午前中。共同電を引用する形で『人民日報』のウェブサイト「人民網」に掲載されました。それを素早く10:54に大手ポータル「新浪網」(sina.com)が転載しています。これはたぶん呉儀が経団連会長(トヨタの奥田氏)と会食する前の時点でしょう。

 ●呉儀・小泉会談は中国側がキャンセル――日本メディア(新浪網)
 http://news.sina.com.cn/c/2005-05-23/10545963090s.shtml

 第2報はシンガポールの『聯合早報』のウェブサイト「早報網」です。これは中国国内からも見ることのできるサイトかと思います。
11:05と、ここも速いです。しかも呉儀のドタキャンを伝えた後に、「自公幹事長vs胡錦涛」会談において、胡錦涛が政治家の靖国参拝停止を求めたことにも言及されています。胡錦涛の靖国言及初暴露です。

 ●呉儀、小泉首相との会談をドタキャン(早報網)
 http://www.zaobao.com/special/realtime/2005/05/050523_09.html

 続いて中国国内の通信社・中国新聞社のウェブサイト「中国新聞網」が共同電を引用する形でごく短いニュースにしたものを、『北京青年報』系列のウェブサイト「ynet.com」が
11:07に掲載しています。

 ●呉儀、小泉首相との会談をキャンセル――共同通信(ynet.com)
 http://www.ynet.com/view.jsp?oid=5366860

 ――――

 内容が副首相の外遊、それも外交儀礼に反する振る舞い……とにかく訪日前は重視されていた小泉首相との会談をキャンセルするという異常事態ですから、国営通信社・
新華社から記事が配信される前に別口からこのような重大ニュースが流れるのは異例に思います。政争めいたものが党上層部に存在していたなら、「非公式ルート」でこのニュースを流させたのはどの政治勢力なのか、という勘繰りも必要になるでしょう。

 ところで胡錦涛の靖国発言を暴露したシンガポールの「早報網」ですが、仮にこのサイトが中国国内から見ることのできないものでも構いません。というのは、日付が改まった24日00:40に
『中国青年報』のサイト「中青在線」がより詳しい内容を報じているからです。呉儀のドタキャン、それに対する小泉首相の反応、また胡錦涛の靖国言及も暴露していますし、スルーした筈の16日の小泉発言(「上」参照)までここで蒸し返されています。

 ●呉儀訪日終える、小泉首相との会談はキャンセル――日本側は靖国問題との関連性を否定(中青在線)
 http://zqb.cyol.com/gb/zqb/2005-05/24/content_8282.htm

 この記事を「新浪網」(05:09)、「捜狐網」(07:38)、「tom.com」(10:18)と大手ポータルが次々に掲載していきました。胡錦涛の広報紙『中国青年報』の発したこの記事、私は今回の騒動においては現時点までで5本の指に入る重要な記事だと考えています。新華社に先駆けて全てを洗いざらい「暴露」したこともさることながら、記事が奇異にも映る物言いで終わっているからです。

「現時点において、中国政府は呉儀の繰り上げ帰国に関する公式なコメントを出しておらず、国営の新華社通信も呉儀帰国の原因についてまだ言及していない」

 『中国青年報』ですよ。日本や香港の新聞じゃないんですから。中国国内メディアは「党・政府の代弁者」と定義され、その役割を全うするよう厳格に求められているというのに、この「非公式」な視点はどうしたことでしょう。
「中国政府」や「新華社」に対しはっきりと一線を画しています。異様なスタンスです。この記事文中には、

「呉儀が『緊急の公務』で小泉首相との会談を急遽キャンセルし、前倒しでの帰国となった」

 という一文もあるのですが、その前には
「日本メディアによれば」と但書きがついています。つまり日本のマスコミは「公務」と言っているが、実は非公式(政府や新華社から発表がないため)ひいては私的な性質のドタキャン&繰り上げ帰国なんだ、ということを匂わせようとしたものでしょうか。正直、私にはわかりません。

 とにかく「中国の公器」らしくないこの最後の一行が引っかかります。対外強硬派の台頭が感じられ、胡錦涛の対日路線が大幅な修正を余儀無くされた観のある時期です。御用新聞だけに、胡錦涛の何らかの意思表示がこの一行に込められているように思います。

 ……込められているように思うのですけど、私にはどうにも読み解けないのです。無能ですみません。

 ――――

 中国国内メディアの初動の足並みの乱れはまだあります。呉儀ドタキャンの23日(13:51)に新華社系時事週刊誌『国際先駆導報』の靖国参拝批判記事が「新華網」に掲載されました。この時点では胡錦涛が自公幹事長との会談で靖国問題に言及したことは、シンガポール紙である『聯合早報』(電子版)しか報じていません。

 週刊誌の記事ですからタイミングでいえば自公幹事長の訪中前に書かれたものかと思います。例えそうでなくても、自公幹事長の訪中までは「上」で書いた通り日中歩み寄りムードで、訪日中の呉儀も日本側に対して前向きのリップサービスを繰り返していたのです。そして胡錦涛の靖国言及はまだ「内緒」に近い段階。そういう時期に、流れを変えようとするが如く、いきなり靖国批判記事を「新華網」が掲載したというのは異様です。

 ●小泉よ、「罪を憎んで人を憎まず」はやめてくれ(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/world/2005-05/23/content_2990579.htm

 掲載時間は前後しますが、この国営通信社である「新華網」が外交部報道局長・孔泉のコメント(23日午後の定例岸記者会見)を最初に出したのは、上に掲げた『中国青年報』の記事とほぼ同時(新華網が7分だけ早い)の24日00:33分です。

 ●孔泉「日本側が中日関係の改善に不利となる発言を繰り返したのは遺憾だ」(新華網)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-05/24/content_2993090.htm

 内容は、
「日本の指導者が呉儀の訪日中に靖国神社参拝問題に関する発言を繰り返したことは中日関係の改善にとって不利になるものであり、中国側はこれを大変不満に思っている」というもので、このために呉儀がドタキャン&繰り上げ帰国したとは言っていませんし、そもそも呉儀がドタキャンした、という「人民網」から『中国青年報』に至る「別口ルート」の記事が既報している事実にも全くふれていません。ちなみに日本メディアはこの発言を以て「どうやら靖国問題がドタキャンの原因らしい」と報じていましたね。

 ――――

 足並みの乱れ、ともいえますし、事態が事前に準備されていなかったことをうかがわせるものが他にもあります。北京の指示に合わせ忠実に踊ってみせる
香港の親中紙『香港文匯報』の反応です。呉儀のドタキャン&繰り上げ帰国(面倒なのでこれ以降は仮に「呉儀事件」とします)については報じています。

 ●呉儀が小泉首相との会談をドタキャン、繰り上げ帰国(香港文匯報)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0505240001&cat=002CH

 ……が、この記事の出処は「AP通信+AFP通信+ロイター通信+台湾・東森新聞」。要するに外電の詰め合わせセットでして、北京からの指示に基づいて書いた記事ではありません。

 16日の小泉発言、参拝の意向をにじませ、また中国・韓国の干渉に不快感を示したとされるこの発言を、中国国内メディアはさほど騒ぎ立てずにスルーしましたが、『香港文匯報』だけは翌日に社説を掲げています()。ところが今回はどうやら事態の変化についていけていない。あるいは北京から統一された指示を受け取っていない。だから出先である香港の親中紙として、これほどの事態なのに旗幟鮮明な態度を示せず、今回は「事件」の翌日(24日)に社説を出せなかった、のではないでしょうか。同じく香港の親中紙である『大公報』も同様です。

 呉儀事件が社説とするに値しないと判断された訳ではありません。その証拠に、この両紙はそのまた翌日(25日付)になってから揃ってこの問題につき社説を出しているのです。北京から指示が出たのでしょう。

 ●香港文匯報
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=WW0505250010&cat=005WW

 ●大公報
 http://www.takungpao.com/news/2005-5-25/LT1-406022.htm

 政争があったとすれば、遅くともこの時点、つまり記者が社説を書いている24日には、いずれかの政治勢力(たぶん対外強硬派)が大勢を制していたのだと思います。実際、中国の対日姿勢の硬化を示すメディア攻勢(前週とは打って変わった強腰かつ恫喝的な論調)も、にわかづくりの印象ながら、24日から本格化しています。

 ――――

 対外強硬派、という言葉が出たことで先に触れておきたいのですが、日本からみると「靖国参拝+呉儀事件」と捉えられがちな今回の事態ですが、中国側の視点に立つと問題は「靖国」以外にも数え上げることができます。例えば、

 ●東京都議などの本籍地が沖ノ鳥島や尖閣諸島に置かれたという報道
 ●石原都知事による沖ノ鳥島上陸と決意表明

 の2点は日本側が投下した補助燃料のようなものですが、香港や中国国内の新聞では大きく扱われ、報道されたことを記憶しておいていいと思います。補助燃料ではありますが、恐らく軍部も少なからず加わっているであろう対外強硬派をかなり刺激したものと考えられます(クマー!のAA略)。

 対外強硬派が目下の最重要課題として考えているのはいわゆる「台湾統一」、あからさまにいえば台湾の確保(占領)でしょう。だからそれを阻む要因は極力排除しようとする。具体的には台湾内の独立派の動きを封じること、そしてより大きな存在として日米の台湾問題への介入を断固阻止すること。

 ……特に日米の介入は連中にとって「中国封じ込め」とも捉え得る事態ですから、神経を尖らせることでしょう。日米安保や日本の尖閣諸島や沖ノ鳥島に対するアクションを、そうした懸念される事態につながるもの、と考える対外強硬派からみれば、今回の現執行部の対応が「無為無策」と映り、これを批判する動きに出ても不思議ではありません。

 台湾問題最優先という立場からいえば、小泉首相の靖国発言よりも、現実に動き出している尖閣諸島や沖ノ鳥島の問題の方が憂慮すべき事態で、むしろそちらに反発した、としても不思議ではないのです。ただ、政争の具としては日本側との合意に未だ至っておらず、時期的にも旬であり、また歴史問題という誰にとってもわかりやすく反対することもできない「靖国」を持ち出して、これを党上層部に対する「踏み絵」に使った、ということなのかも知れません。

 ――――

 先の反日運動でも同じことが行われています。当初は日貨排斥、日本の国連安保理常任理事国入り反対、などいくつかの流れだった「反日気運」が、平易で明快な歴史教科書問題を持ち出すことで「とにかく反日」に一本化し、それによって行動も署名活動や不買運動からデモのようなより過激な活動へとエスカレートしていったのは記憶に新しいところです。

 それが今回は「靖国問題」だったのかなあ、と頼りなくて申し訳ありませんが、私はそう朧げに考えているところです。胡錦涛は自公幹事長との会談で「靖国参拝停止」を勝ち取ることができなかった。それによって党上層部においてヘタレ認定され、指導力に疑問を呈され、主導権を奪われたのかも知れない、というものです。

 4月の「反日」では、対外強硬派が煽ったことでデモが全国各地に飛び火して中共政権の円滑な運営に影響しかねない(反政府運動に発展するかも)というところまで盛り上がってしまいました。そこで胡錦涛優勢で進んでいた主導権争いはとりあえず手打ちとなり、一致団結して「反日」の火消しに躍起となった(そこはどちらも中共人ですから。中共が潰れたら困るのです)という経緯があります。

 しかし今回はいわば密室での政争ですから、何に顧慮することもなく、対外強硬派は「靖国」そして「台湾」という旗印を掲げて直線的な行動をとることができたのではないでしょうか。台湾問題に関する胡錦涛の翳りといえば、台湾・国民党主席の連戦、そして宋楚瑜・親民党主席の大陸訪問を実現させて「いいムード」にしたところまではよかったのですが、その直後に台湾で行われた選挙では中共にとって好ましい結果が出なかった。それに対する有効な打開策を打ち出せなかったのが響いたのかも知れません。

 とはいえ、実際のところ党上層部で何が起きているのかは、うかがいようもありません。ただ、何かが起きている、あるいは何かが起きた、という匂いや気配を各方面の報道から感じるのみです。


「下」に続く)




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コメント
 
 
 
Unknown (在中国)
2005-05-28 15:25:40
シンガポールの「早報網」、中国国内からでも閲覧可能です。
 
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