玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

鏡なしに自画像を

2008年02月27日 | 日記
 今月二日、NHK教育テレビ「アートのちから」に画家・木下晋さんが出演するというので、朝七時からテレビのスイッチを入れた。子供向けの番組で、木下さんが出演するには不向きではないかと思っていたが、決してそうではなかった。
 木下さんは子供たちに「一番身近なものを描け」という。子供たちは、「家族? 友だち?……」と迷うが、木下さんはそうではなく「自分だ」と言い、しかも「鏡を見ないで自画像を描け」と言うのだった。子供たちには無理難題と思ったが、結果はどうだったか。鏡を見て描くよりも、鏡を見ないで描く方が“正確”というか、自分の“本質”をより的確に掴まえて描くことができたのだった。
 この実験にはびっくりしてしまった。モデルの心の奥まで覗き込んで描いたような木下さんの作品を思い起こす。最も深くまで覗き込むことができるのは、自分の心の中に他ならず、“鏡を見ないで自分を描く”というのは理にかなっているし、木下さんの人物画の基礎になっていたのだと理解できた。
 十七日のNHK新日曜美術館にも出るというので、それも見せてもらった。特集「よみがえる大正の鬼才、洋画家・河野通勢」の中で、ほんの二~三分の出演だったが、岸田劉生の同時代人という長野の画家・河野通勢を初めて知り、その微細な線が無限に増殖していくようなカワヤナギの絵に感銘を受けた。
 三月二日には、新日曜美術館の「絶対孤独の表現者たち││アウトサイダーアートの世界││」に出演するという。木下さんにすれば、こちらの方が本命だろう。また新しい世界を見せてくれることを期待している。

越後タイムス2月22日「週末点描」より)


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