玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

E・T・A・ホフマン『悪魔の霊酒』(6)

2015年05月03日 | ゴシック論
 これまで“ゴシック的構成”ということについていくつか書いてきた。それを最もよく示している作品はマチューリンの『放浪者メルモス』であったと思う。失われかけていた手記が奇跡的に発見されるというような設定もその一つであった。
『放浪者メルモス』(1820)よりも5年前に書かれた『悪魔の霊酒』(1815)もそのような構成によっている。第一に『悪魔の霊酒』は「カロ風幻想作品集」の著者、つまりはホフマン自身がB市のカプチン会修道院で見せてもらったメダルドゥスの手記によっているという設定になっている。
 またゴシック的構成の一つに、入れ子式の物語構造ということもあった。それを徹底して追求したのは言うまでもなくマチューリンであったが、『悪魔の霊酒』にもそうした構成を見ることが出来る。
 第二部では「アウレーリエの書簡」と「老画家が羊皮紙に綴った手記」が、メダルドゥスの長大な手記の中に入れ子式に挿入されているからである。「アウレーリエの書簡」はメダルドゥスとは別の視点から事実関係を振り返るという要素を持っていて、ジェイムズ・ホッグの『悪の誘惑』(1825)における編者と罪人による同じ事実の二つの視点からの解釈という構成を先取りしてもいる。
 また「老画家が羊皮紙に綴った手記」は魔女と結婚した異邦の画家フランチェスコが一族の歴史を解き明かすという意図の元に書かれていて、前回示した凄まじい相姦関係というものも、この手記によって明らかにされていくのである。 
 多くの謎がこの手記の中で解明されていく。ゴシック小説は最初に謎を設定しておいて、徐々にその謎が解き明かされていくという物語構造を持っている。それがのちの推理小説につながっていく要素の一つなのである。
 ホフマンもまたそのような物語構造を構築した。ホフマンは「マドモアゼル・スキュデリ」というポオに先駆けた殆ど推理小説といってもいいような作品を書いた人でもあったのである。

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