みんなこの街のどこかに住み、働きながら
音探しの旅を重ねている
自分が自分で在り続けるために
(石川眞理子「音市場の朝に」より)
A5判194頁 定価(本体1,000円+税)
柏崎市内書店で販売中
2022年5月享年65歳で亡くなった石川眞理子の遺稿集。柏崎で「JAZZ LIVEを聴く会」を設立し、日本海太鼓のメンバーとして活動、2007年の新潟県中越沖地震直後には、「かしわざき音市場」を立ち上げ定着させるなど、地方における音楽プロモーターとして八面六臂の活躍をして駆け抜けた石川の軌跡をたどる。石川眞理子遺稿集編集委員会の編集による一冊。
昨年5月、石川眞理子さんの訃報に接したのは游文舎で「LPを楽しむ会」を開こうとしているときでした。「まさか」の思いで自宅に駆け付けた時、彼女は既に死に装束で布団に横たわっていました。乳癌で放射線治療を受けていたため、着けていたカツラが妙に若々しくて、生きているようにしか見えませんでした。
同級生の猪俣哲夫さんとエトセトラの阿部由美子さん、金泉寺の小林知明さんが「石川眞理子遺稿集編集委員会」として、石川さんが残した遺稿の数々をまとめ、一冊の本に編集してくれました。玄文社主人は原稿の校閲・校正と年譜作成のお手伝いをしています。思い入れのある一冊です。
内容は「ジャズのこと」「太鼓・音楽のこと」「音市場のこと」「平和・原発のこと」「社会・友人・家族のこと」の5部に分かれていて、そんなにたくさんの文章があるわけではありませんが、彼女の多方面にわたる活躍を偲ばせます。そういえばいつでも忙しくしていた人でした。ひとの5倍くらい働いて、ひとの5倍くらいの成果を上げて、ひとの5倍くらい充実した人生を送って、消えていきました。
ジャズ論はプロのレベルに達していると思います。技術論だけでなく、音楽の奥にある感性や精神性にも迫っています。音楽好きの人はあまり本を読んだり、美術鑑賞をしたりしない人が多いようですが、彼女は違っていました。玄文社刊行の霜田文子著『地図への旅』についての書評やケーテ・コルヴィッツ論は、彼女の論理的な読解力だけでなく、優れた芸術的感性を示した素晴らしい文章です。
「平和・原発のこと」では、彼女の社会的活動の一端を窺うことが出来ます。反原発の集会で司会をつとめていたのを思い出します。その時は徹夜で準備したと言っていましたから、そういうことはよくあったようです。反戦の演劇や原爆の悲惨を訴える映画上映会でも司会をしていた彼女の姿が目に浮かんできます。そんなときも本業の仕事が終わってから、徹夜して準備をしていたのでしょう。
「社会・友人・家族のこと」で、父親のことを語っている文章がありますが、こうして親を尊敬することのできた人を羨む気持ちが私にはあります。また柏崎の「えんま市」のことを回顧して書いた文章は、通称えんま通りに生まれ育った人でなければ書けないもので、懐旧の念を掻き立てる文章になっています。
もっとたくさんの文章を書き残して欲しかったという思いがしてなりません。