玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

完璧な味

2006年02月26日 | 日記
 うまかった。ものすごくうまかった。先日NHKの「ふるさと一番」でそれをご飯にかけて食べているのを見て「うまそうだな」と思っていたが、実際に自分で口にできるとは思っていなかった。大豆の煮汁のことだ。何の味もついていない大豆本来の味を堪能できた。煮豆の汁には醤油味がついているし、豆乳には大豆のタンパク質が含まれている。純粋な煮汁を飲むのは初めてだった。
 豆の臭みもなく素朴で、純粋で、大豆のエキスそのものが舌の上で踊っているような、そんな感じだった。塩を少し加えても、醤油を少したらしても、その純朴さが損なわれるような気がした。何を加えなくても完璧な味だった。
 高田コミセンで開かれた「味噌づくりセミナー」を取材させてもらった。かつて味噌は各家庭でつくるもので、我が家でも倉庫に大きな味噌樽があって、それを食べていたし、樽の中には季節の野菜が無造作に突っ込んであって、それを取り出しては食べていた。味噌も味噌漬けも買って食べるものではなかった。
 味噌づくりの工程を見るのは初めてのことだった。越後みそ西の中西洋司さんによれば、柏崎では味噌玉をつくってそれを吊し、麹の代わりにカビを付着させて作ったという。ここまでで十カ月。その後、カビを洗い、臼で搗いて仕込んで発酵させるが、出来上がるまで三年。“三年味噌”といったのだそうだ。まさに“スローフード”の代名詞だ。
 ところで、あのおいしい大豆の煮汁はどうなったかというと、セミナーでは惜しげもなく流しに捨てた。中西さんによると本来は煮汁を煮詰め、味噌のうま味を出すために、仕込みの時に“タネ水”としてつかっていたのだという。大量生産の味噌工場でも時間がかかるために、それは捨てられているらしい。
 あんなにうまい煮汁を生かした味噌が食べてみたい。そんな本当のスローフードが味わえる生活に戻れたらいいのにと、心から思う。

越後タイムス2月24日「週末点描」より)