「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

心子の月命日

2005年11月18日 00時07分20秒 | 心子、もろもろ

 今日17日は心子の月命日でした。
 毎月恒例のお墓参り、墓前の心子に会ってきました。
 「境界に生きた心子」のブログを始めて、早速読者の人たちが付いてくれたことも伝えてきました。
 心子と話すのが月々の楽しみになっています。

 今の墓地はこじんまりした霊園ですが、元は別のお寺で祖父の代からのお墓に、お父さんと一緒に眠っていました。
 でも心子の家は分家だということで、お墓に入った翌年、今の場所に新しい墓石を建てたのでした。
 僕の家からは少し遠くなりましたが、とてもきれいな所で彼女も居心地がいいだろうと思います。

 心子のお母さんは墓参りに行くたび、僕の供えた花があるのを見て、
「マー君が来てくれているんだな」
 と思ってくれるそうです。

 ところが今日は、毎回花を買う駅前の花屋さんがなくってしまっていました。
 先月一杯で閉店してしまったそうです。
 いつも気持ちのいい笑顔で接してくれた花屋さんでした。
 僕のことをたまに来る客とは思っていても、毎月17日またはその前後に来る客と認識してくれていなかったかもしれませんが、本当に残念なことです。
 心子のことや拙著のことを話そうかなと、ふと思ったりしたこともありましたが、そんなこともできずじまいでした。

 今日は隣のスーパーでシクラメンの鉢を買って、心子に供えてきました。

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プロローグ(2)

2005年11月17日 10時13分43秒 | 「境界に生きた心子」

 一方で、心子は本当に人を笑わせてくれる。
 思いっきり小節をきかせまくって「いなかっぺ大将」を唸る。
 人さし指を横にして鼻の下をこするのが癖だ。わざとそうして僕に見せたりする。僕までその癖が移ってしまった。
 また、何にでもニックネームを付ける。僕・稲本雅之(四十三歳)は「マー君」になった。手袋は「おてぶ」だ。
「ん? おでぶ?」
 僕が茶々を入れる。
「おてぶゥ! おでぶはしんこ!」
 めっぽう三枚目の心子である。

 バイト先の喫茶店で、魚を三枚に下ろしてくれと言われたとき、心子はあっという間に
「できました」
 と言った。店長が驚いて見ると、魚が頭,胴体,尻尾に切断され、心子はニコニコしていた。本人は大まじめだ。
 豚肉は水で洗った。友達からは心子に料理を作らせるなと言われている。
 呆れたことに、心子は調理師免許を持っている(調理師の試験は衛生や栄養価などのペーパーテストだけだと聞く)。

(続く)

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「心子」という名前

2005年11月16日 20時51分05秒 | 「境界に生きた心子」

 「境界に生きた心子」の「心子(しんこ)」は仮名(かめい)ですが、実は実在の名前です。

 昔、ある老人ホームへ研修に行ったとき、同じく研修に来ていた介護学校の学生さんが「心子さん」といいました。
 とてもきれいな人でしたが、あまりにもいい名前なので、いつか自分の作品の登場人物に使わせてもらいたいと、長い間暖めていたのです。

 そして満を持して、僕にとって最も大切な作品の彼女に付けさせてもらうことができ、本当に良かったと思っています。

 ちなみに先日、高校の同級生がメールをくれました。
 話によると同じ高校の同級生の知り合いが、何と「心子さん」だというのです。
 その心子さんも若くして亡くなってしまったそうですが、広い日本にはやはりいるものなのですね。

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プロローグ(1)

2005年11月16日 09時25分16秒 | 「境界に生きた心子」

 <元気ですか? とても寒いね。
  暖めてほしい、あなたの心と体で……いつでも、どこにいても>
 <今電話したけどお留守でした。早く帰って。わがままでゴメンナサイ。
  そばにいてほしいの。逢いたいの。包んで欲しい>
心子(しんこ)からのメールだ。
 <マー君、マー君……辛い時いつもそう呼ぶの。マー君助けて!>

村瀬心子、三十五歳。彼女は身も心もその年齢とは無縁だ。優に十歳以上は若く見える。
 小柄でくりっとした目が愛くるしい。純情でセンチメンタルな童女の風情を漂わせる心子。
 電話で出しぬけにこんなことを言ったこともある。
「お願いがあります。一杯愛して。もうこれ以上いらないっていうくらい、一杯愛して」
 心子は限りなく満たされた、完璧な愛情を熱望している。

(続く)

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「境界に生きた心子」と心子のお母さん(2)

2005年11月15日 20時54分27秒 | 心子、もろもろ
 ところが原稿の執筆中、心子との共通の友達(「境界に生きた心子」に出てくる「沢ちゃん」)から、お母さんは変わってきたみたいで、心子のことを本に書いても大丈夫ではないか、という情報がありました。
 また時を同じくして、新風舎の編集会議で拙著の企画を拡大することが決まり、発行部数も大幅に増えることになりました。

 本がお母さんの目に触れる可能性も高くなるため、思い切って出版をお母さんに伝えることにし、本名で出すことにしたのでした。
 ただし、本が形になってからのほうが理解してもらいやすい、という企画の人の助言に従って、製本されてからお知らせすることにしました。
 もしも認められなかったとしたら、やはり全てを引き受けるつもりでした。

 そして、ついに本ができ上がり、不安を抱えながらお母さんに送りました。
 どう受け止められるか全く分かりませんでしたが、すぐにお母さんから電話がかかってきて、本のことをとても喜んでくださったのです。

 本当に良かったと、重い肩の荷を下ろした気持ちで安堵したのでした。

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ブログ事始め

2005年11月15日 11時08分35秒 | Weblog

 1週間前から暗中模索でブログを始めました。
 最初のハードルは思いも寄らず低いもので驚きましたが、まだ色々な機能など充分につかめておらず、日々試行中です。

 それにしてもブログの世界の反応の早さにカンドーしています。
 開設して2日後に早くもお気に入りブログに登録してくださる方が出てきて、毎日数十人の人が訪れてくれています。

 他の人の境界性人格障害に関するブログなども読んでいます。
 境界例など心の病を抱えている方は本当に多いのですね。
 そういう方と接している方のブログも多く、ともがらのように感じます。

 これからはこちらからも、他のブログにコメントやトラックバックを付けていきたいと思います。
 だんだんとコミュニケーションが広がっていくことを願っています。

 そして、拙著「境界に生きた心子」が一人でも多くの方に読まれ、心子や境界性人格障害のことを理解し合い、皆さんと語り合っていきたいと思います。
 どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m

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まえがき(3)

2005年11月15日 09時47分23秒 | 「境界に生きた心子」

 児童虐待に見られるように、現代は親からの適切な愛情の欠如により、子供の人格形成に様々な支障をきたしている。
 また、人同士の親愛なコミュニケーションが薄れ、急速に変化する情報社会で価値観が混沌とし、中核を失った不安の時代を迎えている。
 そのようななかで、日本人になべて境界例的傾向が高まっているという。
 境界例の人は我々に警鐘を鳴らしている。
 拙著によって境界例に関する理解が促され、互いに少しでも苦労を和らげる一助になればと願うものだ。
 そして、人間にとって愛情がいかに必要なものかということを伝えていきたい。
 心子と共に……。

(本書の登場人物,地名などは、著者名と一部を除き全て仮名である。)

                                  稲本 雅之
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「境界に生きた心子」を読んでくれた女医さんのお話(7)

2005年11月14日 20時50分00秒 | 「境界に生きた心子」
 「稲本さんの文章は、『ボーダーの人を理解しようとしている人の視点』だと思います。

 ですから、あくまでも『100%の共感』を求めがちなボーダーの人は、『共感』とは言わないでしょう。
 でもボーダーを支える人々にとって、こんなに参考になる良書はなかなかないと思います。

 またボーダーの人にとっても、『共感』とは言いきれなくても、『こういう人が存在して、支えてくれる可能性があるんだ』と、十分心の支えになる本だと思います。

 お世辞抜きでいい役割を果たしていると思いますよ。
 必ず、本当に必要な人の手元に必要な時期に届くと思います。」

 以上のように、本当にありがたく、嬉しい限りのお言葉でした。(^^;)
 皆さんも「境界に生きた心子」をどうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

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「境界に生きた心子」と心子のお母さん(1)

2005年11月13日 21時02分08秒 | 心子、もろもろ
 「境界に生きた心子」ができ上がったとき、心子のお母さんに拙著を僕からお送りしました。
 お母さんは一気に読んでしまわれたそうです。
 そして、とても嬉しかったと言ってくださいました。
 普通には理解されにくい心子の心の中の気持ちを、きちんと書いてくれたからと。

 拙著を読まれた日は、目の前にずっと彼女がいるようで、お母さんは一晩中眠れなかったとおっしゃっていました。
 そして今も拙著を常に傍らに置かれ、何度も読み返してくださっているそうです。
 本当にこの上なく嬉しいことで、冥利に尽きます。


 実は「境界に生きた心子」を書くに当たって、最初はお母さんには内緒で、ペンネームで出すつもりでいました。
 お母さんは、心子が精神科に通院していたことや自死で亡くなったことを周囲にも話しておらず、心子のことを本にするのは承諾しがたいのではないかと思ったからです。

 そして、お母さんは心子と似たところがあり、一度拒否するとまともに話が成り立たなくなってしまうので、“誠実な説得”も通じないと思ったのです。
 万が一、何らかのルートで本がお母さんの目に入ったとしたら、その時はいかなる非難をも甘んじて受け、全ての責任を引き受ける悲壮な覚悟でいました。

(続く)

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まえがき(2)

2005年11月13日 16時58分55秒 | 「境界に生きた心子」

 拙著は心子と僕の交じらいを、事実のままに書き記した物語である。
 心子が「境界性人格障害(境界例/ボーダー)」という心の障害を持っていることが分かったのは、彼女との深交が始まってしばらく経ってからのことだった。
 感情のアップダウンが凄まじく、微々たることでキレたりうつ状態になったり、自分をコントロールできなくなってしまうのだ。

 「境界性人格障害」という言葉を知っている人は僕の周りでもまだ多くはなく、多重人格や躁鬱病と混同されたりもする。
 しかし境界例の人は現在増えており、苦しみ悩んでいる人は多い。
 彼らはときに人間関係をかき乱し、傍目には身勝手だと疎まれたりしてしまう。
 だが、あふれ出す激情の奔流に呑み込まれ、彼らは逆らう力もなく窒息している。
 幼少期の不運な環境によって、人格の要が発達できなかったのだ。
 それを推して知るところから、彼らと歩む第一歩が始まると思う。

(続く)

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「境界に生きた心子」を読んでくれた女医さんのお話(6)

2005年11月13日 09時40分01秒 | 「境界に生きた心子」

 先生が「境界に生きた心子」について書いてくださったメールを、引き続き引用させていただきます。

「とても文章が推敲してあって、『当事者の人たちに寄り添おう』という気持ちがすごくよく伝わってきます。

 ただボーダーの人は、それぞれの生育歴の中で独特の『地雷』をゲットしています。
 その地雷にあたる言葉や出来事を見たときには、何らかの反応が出るでしょう。
 でもそれは稲本さんが責任をとれる範疇の問題ではなく、彼ら自身の問題です。

 逆にこれだけ推敲された本ならば、
『僕は僕のあらん限りの力で誠意を込めて文章を書いた』
とキッパリ言い切られることの方が、彼らのためにもなると思います。」

(続く)

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まえがき(1)

2005年11月12日 21時34分14秒 | 「境界に生きた心子」

(「境界に生きた心子」の本文から一部を抜粋して紹介させていただきます。)

---愛くるしく楽しい心子。
 純粋で果てない理想を追い求め、我が身の犠牲も厭わない。
 しかしひとたびキレると、その怒りは相手を致命的にこき下ろす。
 そして見捨てられた嬰児のように、寂しがり屋で傷つきやすい心子。
 正に万華鏡のごとく、心子は陰と陽の境界を狂おしくさまよい歩く。

 心子と過ごす日々はすこぶる愛しくて愉快な一方、壮絶な葛藤の連続である。
 激しい感情の起伏に自他を巻き込みながら、心子は天と地のみぎわで千変万化の悲喜劇を繰り広げる。
 彼女が欲するのはただ、際限のない愛情だけなのだ。
 しかし、一%でもそれが欠けようものなら、深い悲しみが恐ろしい怒りとなって襲いかかる。
 彼女を救うことができるのは、ひたすらな愛情でしかなかった---

(続く)


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「境界に生きた心子」を読んでくれた女医さんのお話(5)

2005年11月12日 16時41分27秒 | 「境界に生きた心子」

(境界性人格障害の治療法の続き)

「そうした下準備を丹念にした上で、以下のような様々な訓練を行います。

 認識の歪みを認知させ修正させる
 例えば普通の人が『よいこと,普通のこと』として使っている言葉に、彼女らの場合『悪い意味』が刷りこまれている
 その事実を認識させる

 更にその刷りこみを一つ一つ修正する
 自分と他人の感情を客観的に観察できるようにする
 自分と他人の感情を区別する練習をする
 感情が起こった時に今までと違う行動をとれるように訓練する、等々

 他にも色々な訓練を本当に一つずつ手取り足取りしていく必要があります。
 なのでこうしたタイプで心理学を深く学んだ人は、
 周りの助けの中から自力で上記の方法を探し出すか、
 感性とパワーが自分と同等以上で上記のことを理解している治療者と巡り合う、
 くらいしか脱出方法がないことがあります。

 心子さんもそうしたケースに近かったのではないかと思った次第です」


 心子が生きているときに、先生に診ていただいていたら彼女はどうなっていただろうかと思ってしまいますが、
 先生がボーダーの人と深く関わるようになったのは、時期的に彼女が亡くなったあとで、その経験から色々なものを得たのだということでした。

(続く)

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「境界に生きた心子」を読んでくれた女医さんのお話(4)

2005年11月12日 09時50分16秒 | 「境界に生きた心子」

「こういうタイプの人でプロ意識がある人ほど
『この激しい感情がなくなったら苦しんでいる人達に共感できなくなってしまう。そんな鈍感な人間になるくらいなら感情と共に討ち死にした方がまし!』
と思ってしまいやすく、
感情をコントロールするのを怖がる傾向があります。

 また『感情に巻き込まれず優しく応対してくれる人』に対して
『とってもいい人だけど所詮私の気持ちはわからない!』と、
人柄は認めても感性は見下しがちです。

 ですからこのタイプの人に対しては
『本人の〈その時々の感情と完璧に同じ感情エネルギー〉を表現して共感を示した後、すばやく感情をコントロールして巻き込まれずに対処する』
ということを繰り返しやって見せるのが効果があります。

 そうすることで
『共感できる感情を持った上で、更に感情をコントロールする方法がある。その方がもっと能力が上だ』
と体験的に教えることができます。」

(続く)

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「境界に生きた心子」を読んでくれた女医さんのお話(3)

2005年11月11日 21時23分16秒 | 「境界に生きた心子」

 件の先生は、心子のようなタイプの人の特徴や治療法をメールで書いてくださいました。
 彼女と直接会っていないので推測の域ということでしたが、正に心子はそうだった,またはそう思っていたのかもしれない、ということばかりでした。

 彼女のような人の治療には、やはり相当難しい条件がクリアーされる必要があるそうです。
 とても貴重な内容なのでご紹介したいと思います。
 先生のメールから、心子のようなタイプの人の特徴や治療法を引用させていただきます。

「心理療法を学んでいるタイプの人というのは、とても難しいものを抱えていることが多いんです。
 『治りたい。気持ちよく過ごしたい』と思う反面、心の奥底で、
『私は〈この世で最悪の大変な状況〉と向き合っているの。私以上に大変な状況はない。だからこそ、私は他の大変な人の気持ちがすべて理解できる。そして、私を完全に理解できる人は、世の中にはそうそういないのよ』
と思っていることが多いので。

 こういう人にとっては、〈世の中で一番の大変〉を抱えていることが誇りであり、がんばるエネルギーになっていたりします。

 また『相手の激しい感情に巻き込まれていること=相手を理解し共感できている』と思う傾向があります。
 ですから、〈大変〉を捨てることがなかなかできません。」
(続く)

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