その心子がときに豹変する。
一緒に映画を観終わって僕の部屋へ来るとき、心子は少し体の具合が悪くなった。地下鉄の駅を降りて僕は気遣った。
「タクシー乗る?」
その途端、心子はキレた。
僕を押しのけ、さっさと自分でタクシーを拾った。邪険にもむくれて一言も口をきかず、料金も自ら支払った。
心子にとっては、乗るかどうか聞く前にタクシーを拾うのが当然だったのだ。
心子が求めるのは、痛みを百%理解され、全てを抱擁される理想的な愛情である。
わずかでもそれが飽き足りないと、その悲しみが怒りと化して荒れ狂い、自他を傷つける。
心子自身、その感情を抑えることができなくなってしまうのだ。
幼いとかわがままという単純なレベルのものではないということは、僕も次第に分かっていくことである。
心子の生を彩る心の深層の不可思議さを、目の当たりにさせられていくのだった。