一方で、心子は本当に人を笑わせてくれる。
思いっきり小節をきかせまくって「いなかっぺ大将」を唸る。
人さし指を横にして鼻の下をこするのが癖だ。わざとそうして僕に見せたりする。僕までその癖が移ってしまった。
また、何にでもニックネームを付ける。僕・稲本雅之(四十三歳)は「マー君」になった。手袋は「おてぶ」だ。
「ん? おでぶ?」
僕が茶々を入れる。
「おてぶゥ! おでぶはしんこ!」
めっぽう三枚目の心子である。
バイト先の喫茶店で、魚を三枚に下ろしてくれと言われたとき、心子はあっという間に
「できました」
と言った。店長が驚いて見ると、魚が頭,胴体,尻尾に切断され、心子はニコニコしていた。本人は大まじめだ。
豚肉は水で洗った。友達からは心子に料理を作らせるなと言われている。
呆れたことに、心子は調理師免許を持っている(調理師の試験は衛生や栄養価などのペーパーテストだけだと聞く)。
(続く)