「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

ドナーカード …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (22)

2010年08月31日 20時34分43秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ カンファレンスルーム

  美和子、 直哉、 若林、 川添が 幸枝のドナ

  ーカードを前に 座っている。

直哉 「(逡巡しながら) ……… 幸枝は、もし

 自分が死んだら、 使える臓器は全部 役に

 立ててほしいって ……… でも私は最後まで

 このままの体で いてほしいっていう気持ちが

 ………」

川添 「(直哉の肩に手を置いて) 当然です…

 …」

美和子 「奥様のご遺志を 尊重することが、

 何よりのご供養に なるのではないでしょう

 か?」

直哉 「……… 幸枝は、 呼んでも叩いても ぴく

 りともしない ……… このままただ 死んでい

 くのを 見てるだけなのかと思うと ………

 それだったら、 幸枝の体の一部だけでも 生か

 してやったほうが ………」

美和子 「いつまでも 機械で動かしつづけるの

 は、かえって奥様の尊厳を 損なうことにな

 るかも ……」

直哉 「………」

若林 「透析生活に耐えながら 首を長くして

 移植を待っている人もいます」

美和子 「奥様が その人達を 助けることができ

 るならば」

直哉 「………」

川添 「木下さん、 断っていただいていいんで

 すよ」

直哉 「(急にこみ上げるものを 抑えきれず)

 幸枝は …… !  幸枝の父親は、 腎不全で

 亡くなったんです、 10年間も 透析で苦しんで

 …… !  幸枝はそれを何よりも ……… !

 (息が詰まる)」

川添 「木下さん …… !?」

美和子 「(驚きを隠せない) ……… !」

直哉 「(涙を流しながら) …… あいつの気持

 ち、 生かしてやってください ……… ! 

 よろしくお願いします ……… ! (頭を下げ

 る)」

若林 「(感動して 直哉の手を取り) 木下さん、

 ありがとうございます …… ! ご好意、

 決して無駄には致しません」

美和子 「……… (胸に迫るものを感じる)」

(次の記事に続く)
 

気迷う遺族 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (21)

2010年08月30日 20時31分24秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(http://blog.goo.ne.jp/geg07531/e/b83865e1402957af7da94b3cce179e6d  からの続き)

○佐伯家・ 玄関

  興奮して 電話に出ている美和子。

美和子 「…… 倫理委が承認 !?」
 

○東央大病院・ ロビー

  世良が電話をかけている。

世良 「ああ、 若林先生が さっそく木下さんに

 臓器提供の要請をしたんだけど ……、やっ

 ぱり 難色を示してるらしい」
 

○佐伯宅・ 玄関

美和子 「…… (淳一のほうを気にしながら)

 でも あたしがきっと説得する。 臓器が新鮮

 なうちに 決めないと」
 

○東央大病院・ ICUへ向かう廊下

  美和子が歩いてくる。

  向こうに 直哉の姿が見える。

  直哉は 何か小さなものを持って、 ごみ箱

  の前で うろうろしている。

  立ち止まる美和子。

  直哉、 辛さを断ち切るように 持っていた

  ものを ごみ箱に捨てる。

  おずおずとした様子で ICUの中へ入っ

  ていく。

美和子 「? ………」

  美和子、 ごみ箱の所へ行ってみる。

  不振な気持ちで ごみ箱の中を探る。

  2枚のカードが 捨てられている。

  腎臓提供者カードと アイ・バンク登録票

  である。

  「木下幸枝」 の署名。

美和子『これは ……… !? (愕然)』

  思わず 直哉が行った方を 見やる美和子。
 

【*注:現在では 「臓器提供意思表示カード」 として

 1枚に統一されています。】

(次の記事に続く)
 

コハダのシンコ

2010年08月29日 21時17分26秒 | 心子、もろもろ
 
 新聞をめくっていたら、 

 「コハダのシンコ」 という 小さな写真記事がありました。

 「シンコ」 は 「新子」 と書き、 コハダの稚魚のことだそうです。

(コハダは出世魚で、

 シンコ → コハダ → ナカズミ → コノシロ と名前を変えます。)

 新子は体長5センチほどの 小さな魚ですが、

 江戸っ子の寿司屋にとっては こだわりの粋 (すい) だということです。

 酢でしめて、 三枚におろすと 3センチくらいになるので、

 5~6枚はぎ合わせて やっと一貫になります。

 非常に手間がかかる上に、 新子の初物の卸値は、

 何と キロ3~5万円もするとのこと。

 一貫千円ほどにも なるのだそうです。
 

 僕は回転寿司屋に入っても コハダは食べませんが、

 心子と回転寿司に入った 思い出はあります。

 当時、 心子は回転寿司に まだ行ったことがないと言っていて、

 映画を観たあと 一緒に入ったのでした。

 心子は 寿司の食べ方は通なのか、 箸を使わず 手で食べていました。

 そのころ心子は 会社で苛めに遭っていたのですが、

 その日のデートが とても楽しかった, こんな日が 月に一回でもあれば、

 やっていけると思うの、 と 涙ぐみながら言っていたものです。

 ところで、 「三枚におろす」 には、 拙著にも書いたエピソードがあります。

 以下に引用しましょう。

「バイト先の喫茶店で、 魚を三枚に下ろしてくれと 言われたとき、

 心子はあっという間に  『できました』 と言った。

 店長が驚いて見ると、 魚が 頭, 胴体, 尻尾に切断され、

 心子はニコニコしていた。

 本人は大まじめだ。

 豚肉は水で洗った。

 友達からは 心子に料理を作らせるなと 言われている。

 呆れたことに、 心子は調理師免許を持っている。」
 

死刑執行のロープ

2010年08月27日 17時41分14秒 | 死刑制度と癒し
 
 今回の刑場公開では、 死刑囚の首に掛ける ロープは公開されませんでした。

 ロープは 執行に使う厳粛な道具だから という理由です。

 しかし 死刑執行に立ち会ったことのある 元刑務官は、 ロープは見ない方がいい,

 油と汗が染み込んで 黒ずんでいる、 と言っていました。

 市民感情を考慮した 非公開だったのかも知れませんが、

 結局 公開するといっても、 汚いところには蓋をするのでしょう。

 仮に 配慮だったとしても、 だとしたらその理由を 正直に述べるのが情報公開です。

 もし ロープは厳粛な道具だというのなら、 黒ずんだものを使うのではなく、

 1回ずつ真新しい 白無垢のロープを 使用するべきではないでしょうか。

 でも 事態は一歩前進したわけで、

 これからまた 少しずつ情報を 公表していってほしいと思います。

 ニュースの街頭インタビューでは、

 日本の死刑が絞首刑だということを 知らない人が少なからずいて、 驚きました。

 今後、 誰もが裁判員として 死刑判決を下す可能性があるのですから、

 国民も学ぶ必要があり、 国はそのための 情報提供を推進しなければなりません。
 

死刑の刑場を 初公開

2010年08月27日 15時27分58秒 | 死刑制度と癒し
 
 法務省は本日、

 死刑が執行される 東京拘置所の刑場を 初めてマスコミに公開しました。

 先月、 千葉法務大臣が 死刑制度への議論を 促進するするため、

 刑場を公表するよう 指示したのを受けたものです。

 僕も モノクロ写真以外で見るのは 初めてでした。

 50年前に撮影されたという 大阪拘置所の刑場の写真は、

 古めかしい木造で、 いかにもおどろおどろしい 雰囲気がありました。

 本日公開の 東京拘置所の刑場は 地下にあるということですが、

 06年に改築されたものらしく、 非常に新しくて 綺麗な印象でした。

 基本的な構造は 従来の刑場と同じながら、 床には絨毯が敷きつめられ、

 壁や椅子, テーブルなども明るく、 クリーンな体裁です。

 しかし 執行の実情は、 言うまでもなく生々しいものです。

 以前に書いた 記事の一部を、 以下にコピーします。

「高さ5メートルほどの コンクリートの建物で、外観は倉庫のようなものです。

 死刑囚は刑執行後、失禁したり 血管が切れて 血が吹き出たりするので、

 刑場の内部は 水で洗浄しやすい 作りになっています。

(http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/54095758.html )」

 死刑囚は 執行室の中央で クビにロープをかけられ、

 足元の踏み板が外れて 下の部屋に落ちるわけですが、

 東京拘置所の執行室は 絨毯敷きです。

 恐らく、 下の部屋が 水洗いできる作りに なっているのではないかと推察します。

 今回、 下の部屋に 取材陣が入ることは 許可されませんでしたが、

 執行室の正面、 数メートルにある 立ち合い室からは、

 その部屋を 見られるようになっていました。

 「日テレ・ニュース24」 の 動画と記事が下記にあります。

http://www.news24.jp/articles/2010/08/27/07165553.html
 

デイサービス、 新旧交替劇

2010年08月26日 22時31分46秒 | 介護帳
 
 勤務先のデイサービスでは 先月一杯で、

 相談員 (中心的な立場の 介護支援専門員) がふたり、

 同時に 退職することになってしまいました。

 辞職の理由は それぞれ別のもので、 全く偶然 時期が重なってしまったのですが、

 二人とも辞めてしまうというのは 大事でした。

 施設では 相談員の募集をかけましたが、 なかなか集まらず、

 今月頭から 本部の若い相談員が 二人やってきました。

 ところが 前の相談員と 引き継ぎをする間もなく、

 やって来た二人は、 事前に聞いていた話と 現場に来てからやらされる業務が、

 相当に違っていたようです。

 特に一人は 介護職の経験がない社会福祉士で、

 2週間で辞職してしまったのです。 (- -;)

 前後して、 募集中の相談員に応募があり、

 ぎりぎりのところで 二人が緊急に就任しました。

 ところが、 前からいたスタッフが 更に二人、

 今月で辞めることになってしまったのです。 (- -;)

 実は元々 本部の経営者の 姿勢に問題があり、

 それに対する 不平が募っていたのです。

 ここのデイサービスでは 開所以来、 ほぼ5人のスタッフで やってきましたが、

 そのうち 僕を除いた4人が いなくなってしまうという事態です。

 でも 新しい社員3人と パートの僕とで、 やっと一歩を踏み出しました。

 新しいスタッフも それぞれに経験がある 介護福祉士で、 信頼できる人たちです。

 先月からのバタバタで、

 ここのデイサービスのやり方も 前と変わったりしている 過渡期ですが、

 また軌道に乗ってやっていくよう、 新たに進んでいくところです。
 

髪を切られすぎた  ( ̄□ ̄;)!!

2010年08月25日 23時23分17秒 | Weblog
 
 σ(・_・;)  毎度1000円の カットのみの理容店で 散髪するんですが。

 散髪屋へ行く 回数を節減するため、

 毎回 できるだけ長く伸ばしてから、 できるだけ短く切ります。

 いつも 「どうしますか?」 と 店員に聞かれ、

 「耳が出るくらいに」 と言うと、

 どこの店で 誰に言っても、 同じ長さに切ってくれます。

 ところが、 今日の店員は 何となくバサバサ切ってました。

 σ(・_・;)  は目が悪いので、

 メガネをはずすと 鏡に映った 自分の頭が見えません。

 しかし どうも前髪が 短い気がしたので、

 どのくらいの 長さになったか聞き、 メガネをかけさせてもらいました。

 すると、 ( ̄○ ̄;) やっぱし短い !

店員 「耳の長さに 合わせて切ったんですが、 短いですか?」

僕 「いつもこのくらい (眉の辺りを示し) に 切ってもらってたんですけど」

店員 「いつもって いつですか?」

 この言い方に すでにムッときました。

店員 「耳が出るようにと 言ったんで、 それに合わせたんですけど、

 短いですかね」

僕 「短いか短くないかは、 お前が決めるんじゃない!  客が決めるんだ!!

 切った分かえせ!  元に戻せ!」

 …… とは言えず ……。 (- -;)

 会計を済ませるときも、 この店員は何故か 僕をにらんでました。

 おまけに 頭に吸引機をかけてくれなかったので、

 そのあと 髪の毛の切れ端が 服や首などに 一杯付いてしまいました。

 鏡で再三 確かめても、 やはり結構みっともない…… (- -;)

 これって、 キレていいですか? ……
 

 夜は、 その頭を流しに 銭湯へ。

 露天風呂に入ると、 なんと今日は満月。

 名月を眺めながら、 気持ちが癒された次第です。
 

ハゲタカ …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (20)

2010年08月24日 19時45分19秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 売店

  淳一が 雑誌を立ち読みしている。

  後ろから ナースが小声で話すのが 聞こえ

  てくる。

ナース5 「佐伯先生、 ずいぶん派手に 動いて

 るみたいね、 いろんな先生に 頼み込んだり

 して」

淳一 「? ………」

ナース6 「脳死の患者さんの家族に 直接交渉

 までしたってよ」

ナース5 「医者の立場も 考えてほしいわ」

ナース6 「やりすぎよね、 倫理委員会の承認も

 まだ出てないのに」

淳一 「……… (後ろを向いたまま)」

ナース5 「だけど うちの病院で 脳死の移植が

 されたら すごいニュースだね」

ナース6 「テレビなんか 一杯来ちゃうのか

 な」

ナース5 「あたしたちも インタビューされた

 りして?」

ナース6 「(はしゃいで) ワー、 言うこと考

 えとかなきゃ」

淳一 「(頭を落として) ………」
 

○佐伯宅・ ダイニングキッチン (夕方)

  美和子が せわしく食事を作っている。

  淳一はテレビゲームをしている。

美和子 「今日から少し 忙しくなりそうだから

 カレーまとめて作っとくね。 いつでもチン

 して食べなさい」

淳一 「……… (無言)」

美和子 「どうしたの、 さっきからムスッとし

 て」

淳一 「…… 姉キ …… あんまりみっともない

 マネしないでくれよな」

美和子 「何それ ?」

淳一 「……… 脳死の人がいるんだって ……

 ?」

美和子 「え?  …… ええ …… (当惑を取り

 繕って)」

淳一 「…… 死んだ人の周り ウロウロ ………」

美和子 「ウロウロなんて」

淳一 「脳死の人だって 患者さんなんだよ」

美和子 「だって仕方ないじゃない、 移植しな

 きゃならないんだから」

淳一 「無理矢理 しなくてもいいだろ」

美和子 「あたしはあんたのために 一生懸命…

 …」

淳一 「むかつくんだよ、 あんたのため あんた

 のためって …… !」

美和子 「ジュン …… (困惑)」

  玄関の電話が鳴る。

  美和子、 淳一を気にしながら 席を立つ。
 

○同・ 玄関

  受話器を取る 美和子。

美和子 「はい、 佐伯です。 …… ああ、世良さ

 ん ……… え、 ほんと!? ……」

(続く)
http://blog.goo.ne.jp/geg07531/e/80be65b8236abf1e0917d3ceeadab253
 

スタンドプレイ …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (19)

2010年08月23日 20時52分05秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 噴水の広場

  直哉がベンチに座って、 心労を癒してい

  る。

  美和子が直哉を見つける。

  美和子、 一瞬 立ち止まって考えるが、決

  決心して 直哉のほうへ歩み寄る。

美和子 「木下さん ……」

直哉 「(顔を上げる) はい ………?」

美和子 「第二内科の佐伯と申します。 実は

 私が奥様を 病院に運ばせていただいたのです

 が ……」

直哉 「…… それは …… お世話になりました…

 …」

美和子 「この度は 大変残念なことに ……」

直哉 「……… (目を伏せる)」

美和子 「医学の限界を感じます ……」

直哉 「(目頭を押さえて) ……… 仕方ありま

 せん ………」

美和子 「でも、 奥様の死を 無駄にしないこと

 ができるのも 医学なんです」

直哉 「…… はぁ ……?」
 

○同・ 人工透析室

  美和子が直哉に 人工透析の様子を見せる。

  透析患者のなかに 平島多佳子 (17才) の

  姿も見える。

美和子 「腎不全の患者さんは、 5~6時間も

 かかる透析を 毎週3回もしなければならな

 いんです。 それでも 老廃物は取りきれず、

 いつも頭痛や 体じゅうの不快感が抜けません」

直哉 「………」

美和子 「でも この方たちに 健康な生活を 

 取り戻していただくことができるんです」

直哉 「…… 幸枝から 内臓を取って移植を ……

 ?」

美和子 「…… え、 ええ ……」

直哉 「…… でも、 幸枝はまだ 心臓も動いてま

 す ………」

美和子 「心臓が止まる前に 手術をすることが

 必要なんです」

直哉 「それじゃあ 人殺しじゃないですか…

 …!?」

美和子 「残念ですが、 奥様はもう 生きている

 とは ………」

直哉 「家内はまだ死んでない …… !! 

 なのに 内臓取り出すなんて ……… !!」

美和子 「木下さん、 奥様が 誰かの体のなかで

 ずっと生きつづけるんだと 考えていただけ

 れば」

直哉 「やめてください …… !!  そんなことは

 もう ……… !! (その場を走り去る)」

美和子 「木下さん ……… !!」

(次の記事に続く)
 

脳死は人の死か? …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (18)

2010年08月22日 21時02分33秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○公衆電話 (川原沿い)

  美和子が 病院の若林に電話する。

美和子 「若林先生、 佐伯です。はい ……、え、

 木下さんが ……… !? 2回目の判定をして

 …… 脳死が確定 …… ! (息を呑む)」

若林の声 「ただし、 まだ倫理委の承認も 家族

 の承諾もない。 淳一くんには 伏せておくよ

 うに」

美和子 「(緊張して) …… 分かりました ……

 …」

  美和子、 淳一のほうへ 目をやる。

  河川敷で スケボーをしている淳一。

美和子 「………」
 

○東央大病院・ ICU

  人工呼吸器をつけた幸枝。

  器械によって 規則的な呼吸をしている。

  直哉が傍らに寄り添い、 手を握って 悲し

  みに沈んでいる。
 

○同・ 控室

  美和子と世良、 救急医の川添に打診している。

川添 「臓器提供?  僕は木下さんを救おうと

 全力で治療してきたんです。 脳死になった

 途端に 手の平を返して、 臓器をくれなんて

 こと 言えませんよ」

美和子 「一日千秋の想いで 臓器を待ち望んで

 いる 患者さんたちのために、 どうか」

川添 「救急医として、 木下さんの命の最期を

 守るのが僕の仕事です」

世良 「移植を受けられないために、 今この

 瞬間にも 亡くなっていく人達が いるじゃない

 ですか」

川添 「私は 脳死を人の死とは 認められません。

 生きてる人から 臓器を摘出することなんて

 できません」

美和子 「人間として、 その人をその人たらし

 めている 人格の座は脳です。 脳の活動が

 不可逆的に停止すれば、 人の死だと思います」

川添 「脳死の人は 脈もある、 触れば温かい、

 バイタルサインのある死体なんて あります

 か?  赤ちゃんを産むことだって できるん

 ですよ」

 〔*バイタルサイン …… 脈拍数、 血圧、

   呼吸数、 体温など、 人間が生命を営んで

   いる 基本的なサインのことを言う。〕

美和子 「脳死臨調も 脳死を人の死とする 答申

 を出しました」

 〔*脳死臨調 …… 「臨時脳死及び臓器移植

   調査会」。 総理大臣 (海部当時) の

   諮問機関。 平成四年一月に出された 最終

   答申では、 脳死を人の死とする 多数派

   の意見と、 人の死としない 少数派の主

   張が併記される 異例の形となった。

   しかし、 脳死移植を是とすることでは

   全委員の見解は一致した。〕

川添 「臨調委員の多くは 付和雷同の素人です。

 最後まで信念を通した 少数派の見識を

 僕は高く評価しますね」

美和子 「でも 脳死移植は認めてるじゃないで

 すか」

川添 「私の患者さんである以上、 私から 提供

 をお願いすることはできません」

美和子 「川添先生 …… !」

(次の記事に続く)
 

命の重み …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (17)

2010年08月20日 18時58分17秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○河川敷・ 夕暮れ

  淳一が ポチの遺体を埋める。

  (横にはスケートボードが置いてある)

  小さな板で作った墓。

  墓碑銘 『死は訪れるものではなく 成就す

  るもの』

淳一 「ポチの墓地 ……… なんちゃって ………

 (淋しい笑い)」

美和子 「………」

  墓に手を合わせる二人。

淳一 「ポチ、 よく、 最後まで生きたな ……」

  墓碑銘 『死は訪れるものではなく 成就す

  るもの』

淳一 「姉キ、 オレも 生き終わったときには

 誉めてくれよな ……」

美和子 「だめよ、 あたしより先に 死んだりし

 ちゃ ………」

淳一 「(スケボーに逆立ちして乗る) いいじ

 ゃんか、 一人ぐらい 死んでもいいっていう

 逆立ちした人間が いたって」

美和子 「『求めよ、 されば与えられん』 て

 言うでしょうに」

淳一 「オレは 笑うときゃ笑って、 泣くときゃ

 泣いて、 そのまんまで生きてるだけだよ、

 それ以上望まないね」

美和子 「ジュン、 あたしなんかいつも  “高望

 み"  して 生きてきたよ。 ねえ、 あたしが

 高一のときの成績、 覚えてる?」

淳一 「すげえバカだった」

美和子 「ほとんど 下から数えたほうが 早かっ

 たよ。 医学部行きたいなんて 誰も本気にし

 なかった。 けど二年間 メチャクチャ勉強し

 て、 合格したよ、 現役で ……」

淳一 「(逆立ちをやめて) 卒業するときは

 上から数えたほうが 早かったな」

美和子 「いつも 先しか見てなかった」

淳一 「姉キには  “明日"  があるからだよ。

 オレには  “今"  しかないんだもんね」

美和子 「その “今"  が 長くなればもっといい

 じゃない?」

淳一 「(スケボーを転がしながら) ある死刑

 囚がさ、 刑の執行直前に、 もし今 自分が

 自由になったら、 自分は残りの人生を 今まで

 の十倍も百倍も 充実させて生きよう、 自分

 は今まで なんて無駄な人生を 過ごしてしま

 ったんだろうって、 心の底から悔やんだそ

 うだよ。 その死刑囚が 放免になった。 彼は

 その後 どうしたと思う?」

美和子 「伝道師にでもなった?」

淳一 「ブーーッ (ハズレ)。 それまでと同じ

 ように、 だらだらとして 生きていったって

 よ (スケボーを降りる)」

美和子 「………」

淳一 「じゃ、 いきますか (両手を開く)」

美和子 「………?」

淳一 「ポチの一生が 完成したことを祝って、

 お手を拝借!  イヨ~~~オッ !! (大きく

 三三七拍子をする) もう一丁! (パパパン

 パパパンと手を打つ)」

  複雑な想いで 淳一を見る美和子。

  美和子のポケットベルが鳴る。

美和子 「? ……」

(次の記事に続く)
 

悪魔の誘い …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (16)

2010年08月19日 20時58分27秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(http://blog.goo.ne.jp/geg07531/e/d60a0f064de73fb7b81cef14bee02c4b からの続き)

○東央大病院・ 廊下

  川添が 美和子と世良に説明している。

川添 「(憂色を浮かべ) クモ膜下出血です。

 出血の範囲が広くて 難しい状況ですが、

 何とかやってみます」

美和子 「お願いします」

  廊下を 木下直哉 (45才) が血相を変えて

  走ってくる。

直哉 「(狼狽) き、 木下です …… !

 家内が倒れたって ……… !?」

川添 「ご主人ですか?  こちらです!」

  川添、 直哉を 治療室の中へ連れていく。

  ふたりを見送る 美和子と世良。

  幸枝のベッドへ 導かれる直哉。

直哉 「幸枝 ……… !?  ど、 どうしたんだ、

  おまえ ……… !?」

川添 「動かさないでください」

直哉 「(幸枝のベッドにすがりついて) 幸枝、

 しっかりしろ …… !  幸枝~~……… !!

 (泣き崩れる)」

  美和子と世良、 外で見ている。

美和子 「……… (何かを考えている)」

世良 「(美和子を見る) ………」
 

○ディスコ

  眩いばかりのイルミネーション。

  耳をつんざく大音響。

  美和子と世良、 激しく踊っている。

  (以下、 フキダシでなく 「  」 で)

(世良) 「何を考えてた--?」

(美和子) 「何のこと--?」

(世良) 「俺たちはあの人を 助けるために運

 んできた--」

(美和子) 「そうよ--」

(世良) 「今、 心の底から 木下さんが治るこ

 とだけを 望んでると言えるか--?」

(美和子) 「言いたいこと はっきり言えば

 --?」

(世良) 「期待してるんじゃないか--?」

(美和子) 「脳死を?  あの人の--」

(世良) 「心のどこかで---」

(美和子) 「そんなこと--」

(世良) 「--責めてるんじゃないんだ-

 -」

(美和子) 「じゃあ何?--」

(世良) 「--俺は、 自分が恐ろしい 気がす

 る--」

(美和子) 「え---?」

(世良) 「--俺も-- 一瞬期待した--

 -」

(美和子) 「----」

  妄執を振り払おうとするように 我を忘れ

  て踊り狂う二人。

(次の記事に続く)
 

猛暑、 つれづれ (2)

2010年08月18日 19時54分12秒 | Weblog
 
 「夏は暑くなくっちゃ」 という σ (^^;)です。

 今日も酷暑、 水風呂に浸かってきました。  (^^;)

 この銭湯の露天には  「つぼ湯」 があります。

 一人用の 壺というか、 樽 (たる) のような形の湯船で、

 水・ 土曜日は 麻布から黒美水という 温泉を引き入れています。

 湯船に入ると 満杯のお湯が、 ざああ~~っと溢れ出るのが 気持ちいい。 (^^)

 お湯は常に つぎ足されており、

 溢れたお湯は 多分循環して 利用されていると思います。

 温度は 僕の好みの高めで、 つぼ湯で よくあったまってから、 水風呂に入ります。

 体を冷やすのが目的なら、 その前に あったまらなくてもいいじゃないか

 という向きもあるかもしれませんが、 ほてった体を 急冷する感が欲しいのでね。

( ^^;)
 

 夏はもうひとつ、 僕の好物があります。

 氷をたっぷり入れて、 キンキンに冷やした そうめんです。  (^-,^)

 家にいるときは 一日一回は食します。

 薬味は生姜。 (または唐辛子)

 僕は そばやラーメンなど 他の麺類のときは、 色々な具を 一杯乗せるんですが、

 夏のそうめんだけは 何も入れず、

 文字通り 「素麺」 で つるつる食べるのが好きなんです。  (^- ^)

 猛暑日でないと 夏だ! と感じない σ (^^;)ですが、

 本当に暑い時期というのは 一ヶ月弱、

 σ (^^;) としては 物足りない気がしてしまいます。

( 熱中症で 亡くなる人もいるなか、 そんなことは言ってられないんですが、

 個人的な気持ちと、 全体が本当に 暑くなって欲しいということは

 全く別のものです。)

 残された貴重な夏場を、 せいぜい味わいたいと 思ってます。
 

猛暑、 つれづれ

2010年08月17日 22時26分30秒 | Weblog
 
 まだ猛暑日が続く 今年の夏です。 (;^_^A

 新しいエアコンと扇風機の 恩恵にあずかってます。 σ (^^;)。

 以前は、 体力や体温調節能力を付けようと、

 できる限り冷房を入れずに 頑張ってたんですが、

 最近は無理せず エアコンをつけてるσ (^^;)です。

 それにしても 今夏は今までになく、 夜まで冷房がいるほど 熱帯夜も多いですね。

 前の日記に書いた 水風呂にも入ると、 体が芯まで冷えて、

 熱気の午後も 快適に過ごせます。  (^^;)

 最初は 冷たすぎて入れないほどだったんですが、

 水風呂というのは 慣れがあるようですね。

 今はかなり長い間、 入っていられます。

 足の先の 血の気が引いて、 真っ白になったりしますが。  (^^;)

 ここの銭湯は 開店時間の午後1時半頃に行くと、

 20~30人のお客で 人気リゾート地のようににぎわってます。

 年配の人が多いですが、

 露天風呂などを楽しむ 社交場のようにもなっているかもしれません。
 

 今日は 心子の月命日でした。

 墓前にいるだけで だらだらと汗が流れてくる 熱暑でしたが、

 炎天下の墓石に たっぷり水をかけてきました。

 暑いのが苦手だった心子も、 少しは楽になるのではないかと。

 ところで、 墓石の納骨部分の 目地が取れていて、

 水がびちゃびちゃと 中にこぼれ落ちてしまっていました。

 霊園の人に伝えると、

 水はお骨にはかからず、 排水できるようになっているそうですが、

 すぐに直しておくと 言ってくれました。

 心子にも 快適に過ごしてほしいものです。  (^^)
 

ドナー …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (15)

2010年08月16日 21時07分13秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○世良の車の中

  街路を走っている。

  助手席に美和子、 運転席に世良。

世良 「美和子から 肝臓を貰うことが、 ずっと

 ジュンくんの 重荷になってたのかもしれな

 いな」

美和子 「(しょんぼりして) そうなのかな…

 ……」

世良 「自立しようと もがいてるんだよ、 ジュ

 ンくんの自我が、 美和子から ………」

美和子 「………」

  車の前方に 人だかりが見える。

世良 「何かな ?」

美和子 「(目を凝らす) 人が倒れてるみたい。

 止めて」

  世良、 車を止める。
 

○車の外

  美和子、 素早く車を降りて 人々に声をか

  ける。

美和子 「どうしました?  私は医者です」

A 「(美和子に振り返り) あ、 この人が倒れ

 て …… !」

  人々の間に 木下幸枝 (40才) が 意識不明

  で横たわっている。

  世良も車を降りてくる。

美和子 「(幸枝に) 大丈夫ですか!?  ここが

 分かりますか!?」

  反応のない幸枝。

  美和子、 幸枝の額を下げ 顎を上げて気道

  を開放し (頭部後屈・ 頤部挙上法)、

  幸枝の口に 耳を当てて 呼吸を確認する。

  頸動脈を触知して 脈を取る。

世良 「どなたか 救急車は呼びましたか!?」

B「さっき 電話を掛けました!」

  美和子、 幸枝の衣服の 胸を開ける。

  幸枝は びっしょり汗をかいている。

世良 「(美和子に) どうなんだ?」

美和子 「(幸枝の目を開いて 瞳孔を診なが
 ら) 脳卒中かもしれない …… !」

  救急車のサイレンが聞こえる。

  音のほうに 向き返る美和子。
 

○サイレンを響かせて 走る救急車
 

○東央大病院・ 救命救急センター

  川添 (37才) ら、 医師とナース数人が

  幸枝に アンビューバッグで人工呼吸を施し、

  心臓マッサージをしている。

川添 「マニトール10ミリ、 静注の用意を!」

ナース3 「はい!」

川添 「それから ドプラム1バイアル!」

ナース4 「分かりました!」

(続く)
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