トラッシュボックス

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朴槿恵大統領就任を伝える朝日の報道にいくつか思ったこと

2013-02-27 00:52:35 | 韓国・北朝鮮
 朴槿恵の韓国大統領就任を報じる朝日新聞2月25日夕刊の社会面に、こんな記事が載っていた。

竹島問題「まず友好図って」

朴・韓国大統領 懸念と期待

○隠岐の島
 竹島問題の前進に期待するのは、島根県隠岐の島町の関係者ら。〔中略〕

「軍事独裁支えた人」

○日本から一票

 昨年の韓国大統領選では、国外在住者に初めて投票が認められた。
 韓国留学中の1975年に「北朝鮮のスパイ」として拷問、投獄され、昨年5月に再審無罪が確定した在日韓国人○○○さん(58)=○○市=〔引用者註・記事では実名と実市名〕は「大統領を自ら選ぶ喜びはあったが、さすがに朴氏に投票する気になれなかった」と話す。60~70年代に軍事独裁を敷いた朴正煕大統領の長女であり、74年に暗殺された母親に代わりファーストレディーを務めたことから、「独裁を支えた一人」と思うからだ。


 記者が言いたくても言えないことを代弁してもらっているのだろうか。
 あるいは、あうんの呼吸というヤツか。

 子は親を選べない。
 朴正煕の娘に生まれたのは朴槿恵の責任ではない。
 朴正煕の夫人が射殺されたため、代わってファーストレディーを務めざるを得なくなった二十歳過ぎの女性が「独裁を支えた」ことになるのか。

 ただ「国民が選んだ大統領でもある。朴氏は過去を反省し、国民のための政治で韓国の民主主義を発展させてほしい」と期待した。


 人は自分に責任のないことを反省することはできない。
 もし反省を表明するとしたら、それはポーズにすぎない。

 朴正煕の娘であるが故に父の罪を反省すべきと言うのなら、朴槿恵の母である陸英修を暗殺したのは誰なのか。
 在日韓国人の文世光である。
 この人物は、同じ在日韓国人として文世光のような者を生み出したことを反省しているだろうか。

 この人物自身がどうなのかは知らないが、この在日留学生スパイ集団事件で有罪とされた者の中には、北朝鮮シンパがいた。実際に北朝鮮と接触していた者がいた。
 そしてこの時代――それ以後もこんにちまで――北朝鮮では朴正煕政権以上の圧政が敷かれていたのではなかったか。朴正煕の独裁強化にはそんな北朝鮮の脅威に対抗する意味合いもあったのではなかったか。
 北朝鮮の状況は一顧だにせず、韓国では軍事独裁が敷かれている、民主化運動が弾圧されていると非難し続けた人々。彼らもまた北朝鮮の「独裁を支えた一人」一人ではなかったか。

 2月26日付けの天声人語も朴槿恵大統領就任を扱っているが、こんな一節がある。

▼親子2代も女性も、韓国大統領で初になる。むろん七光り抜きには語れない。だが父母を殺され涙をからした半生は、乳母(おんば)日傘(ひがさ)のひ弱さとは無縁らしい。天下国家は男の仕事、とされがちな儒教文化圏で殻を破った強靱(きょうじん)さはなかなかのものだ


 「七光り」とは、辞書(デジタル大辞泉)によると、

親や仕えている主人などのおかげで、いろいろな形の利益を受けること。「親の―」


とある。
 朴槿恵が大統領になったのは、もちろん父朴正煕が大統領であったことと無縁ではないだろう。そうでなければ、そもそも彼女が政界入りしていたかどうかも疑わしい。
 しかし、彼女が政界入りしたのは1998年。父の暗殺から20年近く経っている。民主化からも10年ほど経ち、情勢は父の時代とは大きく変化している。
 「七光り」とはいささか不適切な表現ではないだろうか。
 彼女は父の存在によりいったいどれほど「利益を受け」てきたと言えるのだろうか。むしろ不利益も多大に受けてきたのではないだろうか。
 そして「なかなかのものだ」という上から目線は何だろうか。米英仏独やロシアや中国などで2世の女性政治家がリーダーとなっても、同じ表現が採れるだろうか。未だわが国より規模が小さく、かつ独裁者の娘だからという気の緩みがあるのではないか。

 同じ日の社説もこの件を取り上げている。

韓国新大統領―静けさからの出発

 テレビで就任式を見て新鮮に感じた人も多かっただろう。

 韓国の新しい大統領になった朴槿恵(パククネ)氏のことである。男社会のイメージが強い韓国に、日本や中国、米国より早く女性リーダーが登場すると予想した人が何人いただろうか。


 ヒラリー・クリントンが実際に大統領候補となった米国はともかく、何でここに中国が出てくるのか。しかも米国より先に。
 中国にかつて女性リーダーの候補がいただろうか。数年前には第一副首相に呉儀が就いていたが党では政治局員止まりであり、最高幹部である政治局常務委員ではなかった。朴槿恵大統領の就任式に出席した劉延東・国務委員も政治局員にとどまっている。中国に女性リーダーが誕生するなど、共産党政権が続く限り、当分は有り得ないだろう。

 一方、アジア各国には、世界初の女性首相であるスリランカのシリマヴォ・バンダラナイケをはじめ、女性のリーダーは何人も存在する。インドのインディラ・ガンジー首相、フィリピンのコラソン・アキノ大統領、パキスタンのベナジル・ブット首相、バングラデシュのジア首相、インドネシアのメガワティ大統領、タイのインラック首相、等々。
 これらはいずれもいわゆるネポティズムによるものであり、朴槿恵についても同様の評価もできようが、こうした実例が多々あることからも、政界入り当時はともかく2004年にハンナラ党の代表に就任してからは、男社会云々にかかわらず、彼女が将来大統領の座を射止めると予想した人は、少なからずいるのではないだろうか。

 1960~70年代の大統領として経済発展をとげた半面、民主化運動を弾圧した朴正熙(パクチョンヒ)氏の娘。いわば生まれながらの保守なのに、選挙戦で「経済民主化」「民生」「福祉」など野党のような政策を打ち出した。


 「民主化運動を弾圧」するのが「保守」。
 「民生」「福祉」を「打ち出」すのは「野党」。
 朝日の「保守」観、そして「野党」観が実によくわかる。