旧愚だくさんブログ

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象の消滅

2005年04月29日 | 本と雑誌

3月31日発売の村上春樹「象の消滅」を楽しみにしながらも買えぬまま(良く行く書店3店舗には置いてなかったもので)で、やっと買えたと思ったら、発売後3週間で第二版になっていた。あんなに心待ちにしてたのに初版本が入手出来ないなんて。(ま、別に拘ってないけど)
これは1980~1991年の短編選集。
私が村上春樹の、そして今まで読んできた沢山の作家の沢山の短編の中で一番好きなのが「午後の最後の芝生」。
これを初めて読んだのは、何と大手写植会社モリサワの見本集だった。
ツヤ消しコート紙という上質な紙に、「午後の最後の芝生」が、場面の区切りごとに書体を違えてで綴られ(何せ写植文字の見本集なので)、そして安西水丸のイラストが贅沢なくらいふんだんに配されており、まるで大人の為に作られた贅沢な絵本と言った感じの一冊だった。
夏の陽光は強くエネルギッシュに描かれているのに対し、人物の心情は淡々と描かれる・・・圧倒的な色彩感と抑揚の無い場面展開。
読み始めると直ぐに、その動と静の狭間にストンと落ちるかの様に物語にトランス出来てしまう。見本帳で出会った時から18年後の今も同じように、私は80坪の芝生の庭を持つ家に行き、強くそれでいて透明な夏の陽光を浴びる事が出来る。