先月はほとんど毎週末に、安曇野市穂高矢原神明宮の秋祭りに曳かれるコドモブネと山車の調査にでかけていました。
安曇野では、祭で曳く山車・屋台をフネと呼ぶ地域が多く、実際に船形に作ります。作りますというのは、フネは骨組だけは毎年同じ物を保存しておいて使いますが、それを中に入れて外側は毎年新しく作るのです。週末ごとに年番の地域住民が公民館に集まって、フネを制作します。写真を見てください。
ダイシャに骨組みを縛り付け、人形を飾り幕を張るといった工程がわかると思います。時間がかかるのは、ハラと呼ぶフネの前後のふくらんで幕をかけてある部分の制作です。ハラは前を「オトコバラ」後ろを「オンナバラ」といい、オンナバラを大きく(妊娠を表しているのでしょう)作ります。この時使うのは、曲げて縛り付けても折れてしまわない、山から切ってきたナルと呼ぶ、真っ直ぐな木です。最初の写真に示しました。ナルは樹種ではエゴノキとウリハダカエデだそうです。
地元の調査員の方から、ナルとは元々の意味はなんでしょうかと聞かれました。何か標準語が本になって作られた地方名かと。松本近辺で通常の会話で使われる、いや使われたといった方がいいでしょうか、「ナル」とは、つるになる畑の作物の支柱ーこれをテといいますがーをいいます。今はホームセンターで買ってきますが、以前は真っ直ぐな細い棒を山から切ってきて使いました。畑に使うナルよりも太いものをとってきて、フネのハラの部分を作るのです。
おフネを作っている地区では、ほとんどナルを使います。ただ、毎年切ってきて作るのは大変だと、竹を割って作って何年も使いまわしている地区もあるようですが、そこでも以前はナルで作っていました。この「ナル」です。普通名詞が先にあって後から地方名がそれに倣ってできたとは考えない方がいいですと私がいうと、作物のテに使うのだから「実が成る」のナルかねといわれました。
どうもすっきりとしないで、『総合日本民俗語彙』で調べてみました。すると、「ナル」には「ナルイ所を意味していると推測できる」とあり、どうもピッタリしません。ナルの次に「ナルキ」とあり、それがふさわしい気がします。次のように説明しています。
ナルキ 長野県ではハザの横に渡す棒や竿をナルという。静岡県磐田郡でもナル・ナロは稲架である。和歌山県でも淡路でもともにナルであって、ナルイは同時に平坦なるを意味する形容詞であるが、それが一転してそのナルに用いられるような細丸田をナルキまたはナルンボウという土地も多い。云々
稲に注目して説明しようとするあたりは、柳田におもねているような気がしないでもないです。ハゼギとナルとは意識として一緒にはなりません。稲架木の方が太いものですから。さて、ナルとは何なのでしょうか。