民俗断想

民俗学を中心に、学校教育や社会問題について論評します。

諏訪信仰5-上社前宮神原周辺

2015-10-11 17:57:50 | 民俗学

 大祝の即位に関する次のような記述があります。

 上社前宮の神殿の西方に柊がある。この宮を鶏冠大明神と呼ぶほか、トサカの宮、柊の宮、楓の宮とも呼び、木の下に平らな要石と呼ぶ石がある。石の上に葦ののござを敷き周囲には簾の垣をめぐらせ、大祝に即位する7,8歳の少年がここに入る。童児は紅、白粉、眉ずみ、おはぐろで化粧され、梶の葉紋の綿織の袴、山鳩色の束帯をつけ、冠をかぶり、神長に手を引かれて要石の上に着座する。
 そこで神長は雅楽吹奏のなかで、秘伝の呪印を結ぶ。このとき神長が柊の木に降ろしたミシャグジ神は石に宿って、それを少年に憑ける。この時少年は昏倒し神がかりする。『諏訪大明神画詞』にある「我において体をなし祝をもって体とす」によって大祝になるのである。この神長の行う神降ろしを「ミシャグジ降ろし」といい、「神長専らの役」とされ守矢神長一子口伝の秘法であった。(宮坂光昭「第二章 強大なる神の国-諏訪信仰の特質」『御柱祭と諏訪大社』 筑摩書房)

 鶏冠社での即位儀礼の様子が、ありありと眼に浮びますが、宮坂さんは出典を示していないので、記録なのか伝承なのか、はたまた想像なのかはっきりしません。さらに、それに続いてオドロオドロしい神事の記述があります。それは、今も跡地に表示がある御室入り行事です。

 十二月二十二日、上社前宮では御室入行事がある。御室入は所末戸社神事とも一ノ御祭ともいい、八日間続く冬の神事で、三月松の所末戸社神事に関係ある一連の神事と考えられる。
 御室入行事とは『画詞』によると「其儀式恐れあるにより是委しくせぬ」と神秘にしている。他の文献から考え合わせると、大よそつぎのようになる。
 前宮神原に大穴を掘り、その中に柱を立て棟を高めて屋根は萱で葺いて垂木が屋根を支えているとあり、縄文時代の竪穴住居址が思い浮かばれる。御室内には「第一の御体」を入れるとあるが、茅とか、わらで作った蛇体で、これをミシャグジとする文献もある。そして八日間の神事には擬祝神事、大巳祭、大夜明祭とあって、御室に小蛇と榛の木の枝で作った蛇体を入れる。いつしか蛇の家と呼ぶ人もいたと伝えられる。(同)

 これも同様に出典が明らかでないが、このまま受け取れば蛇が冬眠して冬を越してよみがえる様を人が演じるものだといえるでしょう。長いものの嫌いな私としては、こんな中で八日も過したら気が変になりそうです。諏訪の神のお使いは蛇だといっていいのではないでしょうか。