教育のヒント by 本間勇人

身近な葛藤から世界の紛争まで、問題解決する創造的才能者が生まれる学びを探して

世界標準を超える読解力[01]

2007-10-06 11:32:39 | 文化・芸術
★今、読売新聞の「教育ルネサンス」で連載されている記事「テストを生かす(7)」で、共立女子で行われた教頭渡辺眞人先生と国際教育研究家岡部憲治さんの協働授業が取り上げられていた。

★このジョイント授業が成り立ったのは、ちょっとした理由がある。渡辺先生は、日頃ご自身が行っている想起式問答法授業を可視化=見える化したいという思いがあった。一方岡部さんは、アルザスのプログラムやHonda「発見・体験学習」、教員研修で実践してきた「かんがえ型」(ヘーゲリアン・ウェイがベース)という読解&思考リテラシーを使うと、クローバル・スタンダードでどのレベルまで子供たちがリテラシーを使えるのかがわかることを発見し、ふだんの授業の中で試みられないかと思っていた。

★問答法の展開は、序破急の勢いでレベルが上がっていく(何せプラトン/ソクラテスの対話やヘーゲルの弁証法を渡辺先生は体得しているので)。そのレベルの上がり具合を生徒たちは肌で感じながら、対話していくのだが、もしもそれが見える化できると、対話の戦略を自ら論理的に立てることができる。渡辺先生は、対話戦略を教師だけが持っていたのでは、ポスト産業社会、高度知識社会では、生徒たちはサバイバルできないから、生徒たちが自ら対話戦略を意識化できるようにしたいと模索してきた。生徒たち自らが暗黙知を形式知に転換するにはということだろう。

★そして岡部さんもどのレベルまで到達しているかについて、子供たちがスコアの結果や他者からの評価を待っているだけでは、自律/自立した学びなど到底不可能で、やはり21世紀の情報過剰社会にあって、選択判断できないのではないか・・・、それを解消するには、子供たちが自ら評価、しかもそれは独りよがりや地域や国内だけで通用するものではなく、一気に国際標準に近いものを体得できないものかと模索してきた。

★今回岡部さんは「世界標準の読解力」を出版するにあたり、OECD/PISAの問題と私立中学入試問題の比較によって、後者が前者を上回る読解&思考リテラシーを必要とすることを検証し、グローバル・スタンダードおよびそれを超えるレベルの内容がすでに私立中高一貫校で実践されていることを確信した。しかし、渡辺先生ではないが、それは暗黙知のまま。なんとか見える化したいという思いがつのったに違いない。出版当時は、PISAと私立中学入試の比較で終わる予定だった。だから序と第Ⅰ部と第Ⅱ部で終わる予定だったのだ。しかし、それだとただ解いて、どのくらいのレベルの問題ができたで終わり、子供たちが自ら評価のモノサシを体得できない。そこを見える化したいと。それでずいぶん出版まで年数がかかった。読みながら、考えながら、書きながら、今自分はどのレベルまでは進んでいるかというのを認識できる方法。だから、自らレベルアップできる。それが岡部式世界標準の(を超える)「かんがえ型」。

★ゲラの段階で、岡部さんは渡辺先生にみてもらったようだ。ともに弁証法の素地があったので、渡辺先生は一目見て了解。岡部さんからのジョイント授業のプロポーズを二つ返事でOKした。

★そしてあっという間に「教育ルネサンス」で紹介されているような授業となったのである。この授業の様子について私も書いてみようと思ったが、第一回め(「世界標準を超える共立女子の中三生【1】」)までしか書いていない。つづきは岡部さんが自分のサイトで書くはず。というのも、すでにいくつかの学校の先生からジョイント授業のプロポーズを受けているようだから、見える化しないわけにもいかないだろう。

今「教育ルネサンス」がおもしろい[03]

2007-10-04 09:05:50 | 文化・芸術
読売ルネサンス「テストを生かす(6)」で、池田先生のテスト測定学が紹介されていた。もう10年前になるが、学習評価研究所時代、先生にはお世話になった。今もご健在でますます活躍されているご様子。感慨無量。

★池田先生といっしょに繁桝先生も写真にうつっている。やはり10年前、東大でテスト測定学(「項目反応理論 IRT)の実践事例の研究会があった。私たちのチームも何度か参加し、テストの信頼性・正当性・妥当性を検証することがいかに現場で役に立つかという点と一人ひとりの子どもの理解を促進する最近接領域における問いの発見にとってIRTがたいへん有益であることを事例紹介する機会をいただいた。

★ほかの参加者から、IRTの正当な使い方ではないと指摘を受けたが、繁桝先生は少なくとも信頼性と妥当性はあるし、理論が現場で有効に使われれば、正当かどうかはあとから見えてくるので、今結論を出す必要はないのではとエールをもらったのを記憶している。その後チームは解散したが、私のほうは岡部憲治とほそぼそと試行錯誤していた。

★岡部はその成果の一部を「世界標準の読解力」という出版によって果たした。この紹介記事も「教育ルネサンス」に掲載されている。私は今春中1の「学力診断テスト」実施という形でその一部を果たした。学校別の結果レポートは大変好評だった。やはり生徒一人ひとりの最近接領域の問いの発見はテストの使命であると確信したが、岡部と結果分析しながら、そこを明確にするためには、やはりPISA型のモノサシと結びつける必要があるというところに到達。しかし、これは貧困を生みだす一因である学力格差をなくすものであるから、開発チーム内ではビジョン調整ができず、私は開発チームと別の道を歩むことになった。たしかに、現状では、テストとは選抜の道具だったり到達度を見出せれば十分であり、それにしたがったトレーニングペーパーを出せれば完ぺきである。何も世界の痛みを解消する道具として一企業が乗り出す必要はないなぁ。でもこだわってみたい私である。

★それにしても繁桝先生座長の研究会には、日本の教育界の覇者であるB社のメンバーも参加していた。全国学力テストの流れはあの時点から始まっていたのだな。憶測にすぎないが。「世界標準のテストが貧困問題・環境問題の一因である学力格差を解消する」こういう方向に進んでほしいものである。ICTの技術はそれをあっという間に解決するだろう。池田先生は10年前にこのICT技術によるテストシステムを考案していた。実際アメリカはCBT(コンピューターベースドテスト)にあのころから移行していた。