教育のヒント by 本間勇人

身近な葛藤から世界の紛争まで、問題解決する創造的才能者が生まれる学びを探して

教育の問題解決の黙示録

2009-10-12 09:23:59 | 
教育学 (ヒューマニティーズ)
広田 照幸
岩波書店

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☆今年になって重要な教育学の本が3冊出版されている。これらを読破すれば、教育の問題点、解決方法、未来の姿などがイメージできる。

○まずは「キーワード 現代の教育学」(東京大学出版会2009年1月)

○つぎに「変貌する教育学」(世織書房2009年8月)

○そして今回取り上げている「ヒューマニティーズ教育学」(岩波2009年7月)

☆ただ、今回の書は、編著ではなく、広田照幸氏単独の著書である。

☆三冊を読めば、執筆者が東大教育学部を中心に出会った人脈で、ある種共同主観が形成されていることがわかるし、微妙な政治的葛藤があるのもわかる。

☆それにしても「キーワード現代の教育学」の中心的な編者2人のうち田中智志氏を、広田氏は今回の著書の「はじめ」にで、いきなり誉めたたえているのはおもしろい。

☆「キーワード現代の教育学」のもう一人の中心的な編者は今井康雄氏。今井氏は「変貌する教育学」の中心的な編者でもある。

☆さらにおもしろいのは、広田氏は「キーワード現代の教育学」では執筆していないが、「変貌する教育学」では、あとがきのみをチョロっと書いている。

☆広田氏の微妙なポジショニングが現れている。

☆そんな人脈はどうでもいいじゃないかと思うだろうが、東大教育学部が残念ながらというべきか、ラッキーというべきか全くわからないが、日本の教育政策や教育学のベースを形成していることは確かだから、本筋をだれが押さえているかで、未来の日本の教育がどうなるか予想がつくのである。

☆おそらくここでは、広田氏と田中氏はメインストリームではないことが暗示されているのだ。つまり、このままでは日本の教育全体は危ういよというメッセージ。政権交代でこの流れが変わることを期待はするが・・・。

☆ともあれ、今のところメインストリームである東大教育学部に対して、教育学の閉塞状況を訴えているが、それが理念問題であることを全く見逃しているということを広田氏は投げかけている。そしてその問題解決を実践しているのは田中氏だよと示唆している。自己批判でもあるわけだが・・・。

☆だったら、広田氏も自らやればいいじゃんと思うが、そこはあまりにも人間的で、専門家としての自負をギリギリ捨てられないし、生活の安定も捨てられないんだよねということもチラチラと見え隠れする。

☆知のゲリラとしての自負も謳いながら、それだと東大で学部長になれない。学部長になれるかなれないかでは、いろいろ差がつく。エイそれなら私立大学でということになったのか。ここはあくまで私のゲスノカングリだが・・・。

☆ともあれ、それで、広田氏は、シロウト教育評論家はウザイと語る。しかし、本当はこの範疇に元同僚の東大教育学の教授陣が入っていていて、静かなアイロニーを楽しんでいるところもある・・・のではないだろうか。

☆理念なき教育学は空虚であり、技術なき教育学は愚かであると、思いきり欧米の教育思想をベースに、教育学を組み立てている。

☆シロウト教育評論家は、空虚か愚かのどちらかであるが、これが私たち衆愚のいまここでの教育実態であると。田中氏のように理念と技術両方、つまり実践的教育学と科学としての教育学の両立をせよと。

☆ウ~ム。私立学校に未来があるよということではないか。

☆それにしてもセイブして書いている。本当は東浩紀氏や宮台真司氏のように書きたいところだろうが、それだと「教育学」の専門家としての学者の枠をはみ出てしまう。そこは控えめにということだろう。

☆でもフーコやルーマンがでてきてしまう。それなのにデリダもローティもハーバーマスも出てこない。これだけ博学な広田氏が、彼らを知らないはずはない。ただ、彼らを担ぎ出せば、「教育学」からはみ出てしまう。戦略的執筆。

☆だからデューイを登場させて終わりにしている。

☆さらに宮台真司氏や東浩紀氏なら、廣松渉をどう脱構築するかという話題も得意だ。広田氏も年代的にいっておそらくそうだろう。「物象化された教育学」をいかに脱構築するかというのが、本書の本当のテーマのはず。しかし、廣松渉を出した瞬間に、教育界ではギョッとされるに違いない。あまりにラディカルだから。

☆だから、マルクスの「資本論」なんか読むのもいいよねで終わる。

☆いずれにしても、本書のキーワードである「実践的教育学」と「科学教育」は、カントの三批判の一部がベースである。本物の教育学と未来の姿、それから現状の日本の教育がすべて圧縮されている預言書である。