ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

「ヒッピーのバイブル・文学編」

2024-05-01 | 雑読日記(古典からSFまで)。
 今回も覚え書き。
 前回あげたロバート・A・ハインラインの作品の中では、たぶん『夏への扉』(ハヤカワ文庫)がいちばん有名だろう。多くのリストで「SFオールタイムベスト」の1位に選ばれている……つまりコアなSFファンにも広く愛されているうえに、「ふだんSFを読まないひとでも、これならば無理なく楽しく読めるんじゃないか」とよく言われる(ぼくもそう思う )。
 ほかに『異星の客(原題 Stranger in a Strange Land)』(創元SF文庫)という長編もあって、これはビル・ゲイツが「私の中学時代からのお気に入りで、わがオールタイムベスト」と絶賛したことで知られる(正直それはそれでどうかと思うが)。アマゾンの当該ページを見ると、「円熟の境にはいったハインラインが、その思想と世界観をそそぎこみ、全米のヒッピーたちの聖典として話題をまいた問題作。」との惹句がついている。
 ヒッピーのバイブル(聖典)。
 ヒッピー文化というのは幅が広くて、「ビートニク」やら「カウンターカルチャー」など、周辺の似た概念群と絡み合ってややこしいのだが、思想としては「カリフォルニアン・イデオロギー」に収斂する。これはたんに文化史的に興味ぶかいのみならず、今日においてもなお重要な概念である。ぼくもかつてnoteにこんな記事を書いた。


カリフォルニアン・イデオロギー
https://note.com/eminus/n/n8909f1e5f384



 それはそれとして、文学(小説/詩)プロパーにかぎっていえば、「ヒッピーのバイブル」と呼ばれる作品は何冊かある。バイブルというのは、「the Bible」と定冠詞をつけて綴られるほどのもので、何冊もあってはいけないのだが、そこはまあ、「とても重要な本」くらいの比喩なのだろう。「聖典」や「聖書」より「経典」と訳すほうがいいかも。
 五木寛之の訳したリチャード・バック『かもめのジョナサン』(新潮文庫)はいくらなんでもシンプルすぎるが、


 ◎J・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝・訳 白水社)/『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(村上春樹・訳 白水社)
 ◎アレン・ギンズバーグ『吠える』(柴田元幸・訳 スイッチパブリッシング)
 ◎ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』(鮎川信夫・訳 河出文庫)
 ◎ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』(青山南・訳 河出文庫)


 などだ。わけても『オン・ザ・ロード(路上)』の影響は大きい。
 さらに源流をたどれば、


 ◎ヘンリー・ソロー『森の生活』(飯田実・訳 岩波文庫)
 ◎ハーマン・メルヴィル『モビー・ディック(白鯨)』(新潮文庫・岩波文庫ほか)
 ◎マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』(岩波文庫ほか)


 あたりに行き着くのだろう。


 アメリカの作家以外では、ヘルマン・ヘッセが1927(昭和2年)に発表した『荒野のおおかみ』(高橋健二・訳 新潮文庫)も逸するわけにはいかない。カナダのロックバンド「ステッペンウルフ」のバンド名の由来となった。さほど関係はなさそうだけど、宇多田ヒカルにも「荒野の狼」という曲がある。





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