ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

皆川博子(の小説)について01

2023-05-11 | 物語(ロマン)の愉楽
 昨年7月8日のあの事件いこう、すこし熱に浮かされたようになって、主に戦後日本の政治(それはほぼ「米日関係」のありようそのものでもあるのだが……)にかかわる本を読みあさり、いっぱいブログの記事も書いたけれども、直近の統一地方選などの結果を見て、あらためて現状にゼツボーをおぼえ、憑き物が落ちた感じになった。「当分のあいだ政治向きの話はご勘弁」という心境なのだ。日課であった政治系ツイートの閲読をやめたのは、前回の記事のとおり、イーロン・マスクの方針に対する反発もあるけれど、むしろそちらの理由が大きいかもしれない。
 それで、このところ、世情に疎くなっている。
 わが家は新聞を購読しておらず、テレビもほとんど見ないので、こちらから進んでアクセスせぬかぎり、日々の情報を遮断していられる。無人島にいるようなものである。「それはそれでどうなのよ?」とも思うが、気分がとても平穏なのは確かだ。
 ある日ふと気づいたら、「消費税が80%になりました。」とか「本日より徴兵制が始まります。」という話になっていて、慌てふためくことになるのやも知れぬが、さすがにまあ、それまでには戻ってくると思う。
 さて。戦後政治史とか、現状の社会分析といった本から遠ざかったからといって、さりとて読書のほかに趣味もないので、やはり本を読むのだけれど、こうなるとやっぱり、赴く先は文学以外にない。
 「戦後短篇小説再発見」のカテゴリも中断して久しいし、「あらためて文学と向き合う。」も宙ぶらりんになっているけれど、いまは皆川博子さんの小説にしか興味が向かないので、それについて書きましょう。


 本年の3月9日に、「皆川博子・作品リスト(不完全版 2010年代初頭あたりまでのもの)」なる記事を上げたが、あれは昔ネットから頂いたリストを引き写しただけで、ぼく自身の文章とはいえない。たっぷりと補足が必要である。
 皆川さんは、その50年を超えるキャリアにおいて、ミステリー、時代/歴史小説(その中には伝奇色の濃いものと丁寧なリアリズムで紡がれたものとの両方がある)、幻想小説、ときにホラーと、多岐にわたって長編・中編・短編を発表してこられたが、ぼくがトリコになっているのは1997(平成9)年の『死の泉』(ハヤカワ文庫)以後の、ヨーロッパが舞台となったロマンなのだった。


 作品名を上げれば、




 死の泉 1997 ハヤカワ文庫
 冬の旅人 2002 講談社文庫
 総統の子ら 2003 集英社文庫
 薔薇密室 2004 ハヤカワ文庫
 伯林蝋人形館 2006 文春文庫
 聖餐城 2007 光文社文庫
 開かせていただき光栄です 2011 ハヤカワ文庫
 双頭のバビロン 2012 創元推理文庫
 アルモニカ・ディアボリカ 2013 ハヤカワ文庫
 少年十字軍 2013 ポプラ文庫
 海賊女王 2013 光文社文庫
 クロコダイル路地 2016 講談社文庫
 U(ウー) 2017 文春文庫
 インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー 2021 早川書房
(年号は単行本の刊行年度)




 そしてこのたび、2023年5月、河出書房新社より、『風配図(ふうはいず) WIND ROSE』が上梓された。いずれも文庫本にして400ページを下らぬ長編、『クロコダイル路地』など1000ページ超である。しかも文体は華麗にして稠密、むろん内容もぎっしり詰まって、ひとたびページを開けば「巻を措く能わざる」面白さなのだ(そうはいってもぼくはまだこの作品を読んではいないし、じつは上記のリストの中にも、まだ最後まで読み切っていないものがいくつかあるのだが)。
 このほか2007年に『倒立する塔の殺人』が出ており、これも名品なのだが、舞台が太平洋戦争下の日本で、「ヨーロッパが舞台となった歴史ロマン」という条件に当たらないため除かせていただいた。
 なお、1999年から2000年にわたって連載された『碧玉紀(エメラルド)』という作品があり、現状、なぜか未書籍化とのこと。『死の泉』以降の「ヨーロッパが舞台となった歴史ロマン」は、これで全ての筈である。


つづく


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