ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

「これは面白い。」と思った小説100and more パート2 その②

2023-08-04 | 物語(ロマン)の愉楽
11 蒼穹の昴 1~4 浅田次郎 講談社文庫
 清朝末、極貧の家に生まれた少年が、老婆の予言を真に受けて、自ら(!)去勢し宦官となって西太后に仕え、異数の出世を遂げていく。しかし歴史の激動は容赦なく大陸全土を揺るがし、彼の運命もまた……という一大ロマン。テレビドラマほか、宝塚で舞台化されたのも宜なる哉で、面白いのは請け合いだが、初読の際は、細部の考証の確かさに感心する反面、「お話の運びがどうも劇画調だなあ。」と正直おもった。しかしそれが現代エンタメのひとつの条件なのかもしれない。なお続編の『珍妃の井戸』『中原の虹』『マンチュリアン・リポート』『天子蒙塵』は未読。


12 鬼龍院花子の生涯 宮尾登美子 文春文庫
13 紀ノ川      有吉佐和子 新潮文庫
 宮尾さんは昭和元年生まれ、有吉さんは昭和6年で、じつは宮尾さんのほうが年長なのだが、ぼくなんかの感じだと、有吉さんの名は幼い頃から知ってたけれど、宮尾さんの名はだいぶ後になってから聞いた気がする。有吉さんが早熟でありすぎたために、デビューがずっと早かったせいだ。
 ここに挙げた二作にしても、『紀ノ川』執筆当時の有吉さんはまだ20代、いっぽう「鬼龍院」執筆時の宮尾さんはすでに50の坂を越えた中堅だった。ゆえに綿密さ、重厚さにおいて「鬼龍院」のほうが読みごたえはあるのだけれど、しかし絶大な才能をもった女性作家が故郷を舞台に描いた叙事詩(的長編)として、ぼくのなかでは両者は対になっている。
 宮尾さんには大正~昭和前期の土佐に材をとった秀作がほかにたくさんあるのだが、ぼくがことのほかこの作品を好むのは、高校生の時に観た五社英雄監督、夏目雅子・仲代達矢主演の映画の記憶が今もなお鮮烈だからだ。
 有吉さんはなにしろ多才だったので色々なジャンルに手を出した。そして53歳で亡くなってしまった。「川」シリーズとしては『有田川』『鬼怒川』『日高川』があるが、それらが『紀ノ川』の達成を凌駕しているといえるかどうかは判断が難しい。願わくばもっと長生きして、円熟の筆で新たな「川もの」を書いていただきたかった。


14 不毛地帯 1~5 山崎豊子 新潮文庫
 大本営の作戦立案参謀であった旧大日本帝国陸軍中佐が、シベリア抑留からの帰還ののち、総合商社にスカウトされ、商社マンとして高度成長期の国際社会で新たな戦いに挑む……。主人公のモデルには瀬島龍三が取り沙汰されるが、生前の作者はそれを否定していた……という挿話はウィキペディアにも載っている。山崎さんのような社会派には、モデル論争はどうしても付いて回る。これは骨太の企業小説であるとともに、戦中の日本と戦後ニッポンとを架橋する一種の日本人論・日本社会論ともいえるのではないか。





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