栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (122) ”ビエンチャンへのフライト”(Okubo_Kiyokuni)

2020年06月10日 | 大久保(清)

 ビエンチャンへのフライト

―国際線ではなく、国内線ターミナルよ、間違えないようにー、と何度も秘書に念を押されていた。タイ・エアーの国内線カウンターで手渡された搭乗券を握りしめ、通路の端まで歩いて来たが、ビエンチャン行らしきゲートは途中どこにも見当たらない。通りがかりの女性職員に搭乗券を見せるや、エプロンの遥か先にポツンと一機だけ取り残されたように駐機している小型機を指さすと、しばし、こちらの風体を眺めなおすようにしてから足早に立ち去っていった。

 塗装がはげ落ち、鉄板がところどころ錆びつく、廃棄寸前の年代物のプロペラ機だが、ここで引き返すわけにもゆかず機体の尻から垂れさがるタラップに足をかけ、低い天井に頭をかがめるように乗り込んだ。暗がりに目を凝らす、足元には竹籠に押し込められた鶏、アヒル、それと豚らしき動物が縛られたままギーギーと唸っている。これは家畜運搬の専用機かと、驚きと焦りが交錯したままに前方に目を向けた。ベニヤ板にボロ布をかぶせたような座席が並んでいる。番号を確認しアタッシュケースを胸に抱えたまま、隣人に占領されつつある窓際の席に無理矢理にからだを押し込んだ。  

 やがて、轟音と共に機体を震わせて離陸したツインのプロペラ機は、緑の密林の姿が見渡せる低空を雨まじりの強風に翻弄され、まるで波乗りをするかのように、雨雲の隙間を降下、上昇を繰り返しながら懸命にビエンチャンに向け飛び続ける。時折、強い向い風を受けてエンジン音が急に弱まるたびに、腰を浮かせ、プロペラの動きを覗き込む状態が何度も続いていた。周りに目を向けると、野良着姿の同乗者は気持ちよさそうに、セロテープで割れ目をふさいだ窓の景色を眺めている。ビエンチャン・・、これはとんでもない場所らしい、と覚悟を決め始めた。

空港まで迎えに来た同僚の車で貧相な土壁の家々を横目に、赤茶けたぬかった土道を港湾予定地に向かう。非公式に現場調査を決行しているゆえ、先ほどから盗み撮りを続けていたが、バックミラーに足早にこちらに近づく男の姿をとらえた。見つかれば、おそらくフィルムは没収、運が悪ければ、カメラも没収されるだろう。そろりそろりと車を動かし、その場から離れてゆく。追っての動きは止まったようだ。ラオスへの外国人の入国はまだ厳しかった時代、たまたま、ビエンチャンに事務所を開設していた国連の農業チームを介して、、ラオスの入国が許された。

雨季と乾季の水位が十メートル近く変動するメコン川に面する現場周辺の写真を撮り終え、宿舎に戻ってきてのニッパヤシのレストランでの夕食は、フランスパン付の、コカ・レストランもどきのタイスキで始まったが、最後は冷や飯をぶち込んだベトナム式の雑炊。それはラオスの歴史、地勢をそのまま反映したような料理だった。最近、ネットで見ていると空港ターミナルは近代化され、外国からの観光客も増え、数十年前の素朴で、騒がしい、あのフライトはもう夢の世界、だが、いまだに、ビエンチャンと聞くとあの動物たちの鳴き声が耳の奥に聴こえるてくる。

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