栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (140) ”花屋さん”(Okubo_Kiyokuni)

2021年10月24日 | 大久保(清)

 花屋さん 

 家の近くに小さな花屋さんが開店した。以前、そこにはおばあちゃんが経営していた婦人用の小物の店があり、しばらくの間、閉店セールの紙が貼られていたが、ついに店内の小物が一掃され、ショーウインドウの向こうに、花籠がチラホラと並び始めていた。

そう若くはないお姉さんが二人、忙しそうに狭い店の中で仕分けした花束を、桶に並び替えている。花鋏を片手に水切りしていた年上に見えるショートカットの女性に話しかける、

―花束を造ってもらいたいのですが、小さな籠に入れて、三千円ぐらいで形になりますか?

―大丈夫ですよ、その値段なら、十分できますよ、どのような使い方をなさいます?

―喜寿のお祝いの花束なのですがー

―どのような雰囲気の方でしょう、なにか好みがおありですか?

難しい質問だが、それに反応し、こちらの口が勝手に喋り始めてしまった。

―奥様はきれいな方で、ブルーの洋服を着せたら、この辺りでは群を抜いているかも・・・

―は??? とこちらの顏を覗き込みながら、機嫌を損ねないよう、笑いをこらえるようにして、

―その喜寿の方は奥様ですか?

と念を押してくるので、すかさず返答する、

―いやー、先輩は男ですー

―はーい、わかりました、では、その先輩の好きそうな花は何かありますか?

―よくわかりませんが、バラなどいいと思いますが・・・、

―わかりました、好きな色はどうでしょうか?

―深い赤がいいと思います、品があり好きですが、サーモンピンクも好きです、ホワイトクリスマスも・・、どうしたことか父が庭で育てていたバラの名前ばかり浮かんでくる

ここで、さっきから尋ねてみたかったことを急に口走る、

―店の名前は、英語でhananatu、面白い名前ですが、何か謂れがあります?

―私の名前が夏子で、花屋にくっつけました、

ここで、これから頑張っていくわよ、と言わんばかりの気合の入った表情になった。

手渡された予約票を見てみると、

=はっきりした色のバラ、メイン= とボールペンで注意書きされている。

ダラダラとしゃべったが、患者さんの主訴を聴く医者のカルテのように、お客様の言いたいところを的確にキャッチして、その気持ちを花束にするのだろう。

予約された日、こちらが描いていた通りの豪華な花籠ができていた。

なかなかいいじゃないか、と満足しつつ、店を出ようとする背に向けて、サービスしておきましたから、と期待を込めた可愛い声が飛んできた。こんどは、家内の古希のお祝いかな、と艶やかな花籠に幸せをもらう。

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【訃報】小野和彦君

2021年10月09日 | ◆お知らせ・行事案内

栄光学園11期の皆様

栄光学園11期の皆様

同窓会事務局より
【小野和彦君】の訃報連絡が有りました。

心よりお冥福をお祈りいたします。

==========================

> 11期委員の皆さま

> いつも大変お世話になっております。

> 11期 小野和彦様が本日10月9日に逝去されたと連絡を頂きました。

> ご存じがわかりませんがお知らせ致します。

> 14日三笠教会でお別れ会をされるそうです。

> 告別式の詳細がわかりましたら御連絡致します。

> 同窓会事務局

> 吉田

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きよちゃんのエッセイ (139) ”音の風景”(Okubo_Kiyokuni)

2021年10月01日 | 大久保(清)

 音の風景

NHKであったと記憶しているが、土地、土地の懐かしい音を録音し、そこに繰り広げられているはずの風景を聞き手の目裏に映し出させてくれるラジオ番組がある。けたたましく騒ぎまくり、テンポが速すぎる今様のテレビ番組に愛想がつきはてた老リスナーにとって、これは何とも心地よく、からだの中をさわやかな風が吹き抜ける、一服の清涼剤のような番組である。放送に聞き耳を立てていると、時々、音が途絶えるときがある。この沈黙の時間、その音の余白を頭の中で埋めてゆく、しばし、想像の世界。また風がそよぎ始めたのか、風鈴の音、その音色の向こうにむかし馴れ親しんでいた光景がゆったりと映し出されてゆく。

初夏の強い陽射しを浴びて、川の土手道を散歩していたときに、これとおなじような雰囲気を味あわせてもらったことがある。ラジオからではなく、はるか先の高台にある中学校のスピーカーから風にのって聞こえてくるとても懐かしいブラスバンドの響き。

そろそろ運動会が始まるのだろうか、予行演習かもしれない。しばらく勢いのある演奏が続いていたが、力強い行進曲のリズムを押しとどめるように、少し緊張した、歯切れのよい女の子の声が聞こえてきた。

「ぜんたーい~、とまれ」、その号令にあわせて軽快なマーチがなりやむと、一瞬、沈黙の時間、やがて、その静寂をそっと押し開くように、

「前へ~ならえ・・・・なおれ!」 と、落ち着いた声が続いた。

耳にする機会から遠ざかってから久しいが、今でも、この号令が耳をかすめると、胸の内がざわつき始め、なぜか、肩に力はいってくる。散歩の足を止め、次に発せられる掛け声に聞き耳を立てているうちに、少年時代の運動会のシーンがふっと蘇ってきた。

スピーカーから流れでる音楽に乗って、小さな手押し車で校庭に白線を引いていた。ツーンと鼻先に感じた、あの石灰のにおい。グニャグニャと曲がってしまった白線が校庭に眩しく光っていた。なんとも言えない、懐かしい運動会の朝の光景だ。

 もう一つ、音の風景。家の近くの小学校まで戻ってきた時のことだ、気合の入ったかけ声が頭上から降ってきた。コンクリ擁壁の上にあるグランドの様子は見ることができないが、体育の時間だろうか、ここでも予行演習をしているらしい。若い女の先生の声が聞こえてくる。何度もおなじ号令を繰り返している。

「いちについて~・・・、よーいどん」、パタパタと小さな可愛い足音が聞こえてくる。

一拍おいて、また、「いちについて~・・よーいどん」。

幼稚園では、お遊戯の延長の、のんびりとしたかけっこだったかもしれないが、小学校では本格的な徒競走だ。まるで、新馬を無事に発走させるスターティングゲートの練習のように、熱の入ったかけ声が、何度も何度も、グランドに響いていた、聞いているうちに、汗だくの先生の顔が目に浮かんできた。

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