栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (92)”おままごと”(Okubo_Kiyokuni)

2018年05月08日 | 大久保(清)

 おままごと

  とても暑い日だった。公園前の木陰に入り、婆さま達と一緒に坂の上から現れるはずのバスを、首を長くして待っていた。坂の下に目をやると、ピンクの半袖シャツに白い夏帽子をかぶった幼児と若いお母さんの二人連れが歩いてくる。

 一歳を過ぎ、ようやく歩き始めたばかりの年頃であろうか、まだお尻に赤ちゃん専用のパンツが付いているのか、こんもりも盛り上がった小さなこぶをゆすりながら、危なっかしい足取りで、必死にお母さんの後をついてくる。手には小さな皿らしきものを抱え、よく見ると、、マリーゴールドだろうか、オレンジの花ビラが皿一杯に盛られている。

 婆さまたちは、その愛らしい仕草にくぎ付けになり、口もとをゆるめ、皺クチャ顔をさらに崩しつつ幼児の動きを追っていた。気持ちが通じたのか、黒い瞳をいっぱいに開き、顔を輝かせて花皿を胸の前に抱えたまま、婆さまの前に近寄ってきた。どうぞ召し上がれと言わんばかりの眼差しで、下から真剣に訴えるように、お皿を突き付けてくる。

うしろで心配そうに控えていたお母さんが、オレンジのアイスクリームのつもりなのです、と言葉を添えてくれる。それに反応した婆さまの一人がすかさずお皿を受け取り、―ああ、美味しい、このアイスクリーム美味しいねー

と、さも美味しそうに食べるそぶりをして皿を戻すと、その婆さまを指さしながら、幼児がジージ、ジージと嬉しそうな愛らしい声を発した。今度は、隣の婆さまに向かって、ジージと声をかけていると、たまりかねたのだろう、その隣の婆さまが幼児の顔を誘導するようにこちらを向き、指さしながら、

―ジージはこっち、これが、ジージとけしかげるが・・・・・

おそらく、覚えたての言葉はジージ―のみなのであろう、ジージの連呼である。先ほどから、お尻のこぶに手を回して、さすっては鼻に持っていく仕草を続けているが、癖なのであろう、後ろのお母さんは気にするそぶりはないが、婆さまたちが顔を見合わせて、―出ているみたいねー、と遠慮深げに小声を出し始めた。幼児は手を後ろに回しながらも、もう一人の婆さまにサービスを続けていたが、やっと、本物のジージの前にやってきた。

しゃがみこみ、己の顔を指さしながら、これがジージと幼児の顔を見つめると、少し考え顔でじっくりと見返してきたが、頷きながらジージ―と呼んでくれた。横で見ていた婆さまたちも、嬉しそうに、そー、ジージ、ジージと繰り返し、ようやく一件落着したわね、と、小さな安堵のため息がもれた。

どうも有難うございました、と老人達に礼を述べるお母さんに手を引かれ、将来の別嬪さんは、お尻をフリフリ、大サービスをしおえたような満足げな顔つきで坂を上っていった。

コメント
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