==小寺君からの投稿です。長文ですので2回に分けて掲載させていただきます。==
似ている? 似ていない?
商標調査だけではリスキー これ常識
東京五輪のエンブレム、佐野研二郎氏制作案の使用中止が2015年9月1日に決定した。このエンブレム、7月24日に発表されたが、即日、ベルギーの劇場のロゴに似ているとの抗議をベルギー人デザイナーから受けた。大会組織委員会は「国際的な商標調査を行い、類似する登録商標は無かった」と言い、使用し続けるのに問題が無いとの立場をとった。
東京医薬品工業協会の商標部会で一緒に仕事をした友人と7月末に話をした折、「商標調査で類似する登録商標が無かった」だけで「問題が無い」とするのは非常識であり、商標出願されていない図形やロゴに類似するものが無いか、なぜ著作権を確認しないのか疑問だなあと意見一致した。登録商標でなくても似たロゴがあれば、リスクを冒して使用継続すべきではなかった。しかし、「IOCも使用継続を認めている」というお墨付きを得て、東京都もスポンサー企業もエンブレムを使い始めてしまった。他方、ネット上で批判が相次いだ。ダウンタウンの松本人志は「たいしたデザインでないのに・・」と酷評した。
8月28日、大会組織委員会は「佐野氏の原案は第三者の商標と類似するおそれがあり、佐野氏へ修正を依頼し、最初の修正案は躍動感が薄まったとして更なる修正を求め、第二次修正をもって正式採用したものである」と発表したが、これが火に油を注いでしまった。結局は使用中止となったが、もっと早くに中止しておれば、被害拡大(300億円以上と推察されている)を防げたのにと惜しまれる。
医療用医薬品の販売名類似
二つの商標が非類似であると特許庁が認定していても、これは識別力のある商標審査官が似ていないと判断したものであって、一般人によるものではない。これは医薬品の販売名を巡っても同じことが言える。医薬品の販売名を採択するとき、登録商標であるというだけで使用するのはリスキーである。他社の医薬品と取り違えを起こさないよう、十分に調査し、使用の安全を期す。今日、医療用医薬品の販売名の採択に当たっては販売名案について日本医薬情報センター(JAPIC)(http://www.japic.or.jp)の「医薬品類似名称検索」で調査し、「新規承認医薬品名称類似回避フローチャート」(2005年10月版)に照らし、
その販売名案を採択できるか検討する。既存の医療用医薬品と販売名が似るものは厚労省が承認しないという仕組みが10年以上前に構築されている。
この仕組みが構築されるよりもはるか昔に承認され、今も販売名変更されていない類似名称薬がある。例えばノルバデックス錠とノルバスク錠のように頭3文字が一致する薬剤があり、何度も注意喚起されているが、取り違えが無くならない。今年5月にもAstraZeneca社とPfizer社の連名で注意喚起のお知らせが出されている。男性患者に対し乳癌用であるノルバデックス錠を処方する医者が未だ存在するのだから外資系会社が呆れるのも仕方が無い。高血圧用であるノルバスク錠は後発品(一般名アムロジピン)が多数出ており、ノルバスク錠の採用を止めた病院でオーダリングシステム収載の医薬品リストから「ノルバスク」を消去したのに、ノルバスク錠を処方しようとして医師がノルバデックス錠をノルバスク錠と思い込んでしまったなんていう事例もあるが、幸いに薬剤師が処方の誤りに気付いて医師へ疑義紹介し、男性患者へ乳癌用の薬剤が渡されるには至らなかったようである。ノルバスク錠を処方されていた高血圧症のあなた、もらった薬を確認しましょう。
2015年7月に「デュファストン錠とフェアストン錠の取り違え事例発生のお知らせ」がAbbott社と日本化薬の連名で出された。Abbottのデュファストン錠は1965年10月に発売され、他方フィンランドOrion社からの輸入品フェアストン錠は1995年6月に発売され、産婦人科領域で長年に亘って共存していた。両者は語尾が共通するものの、販売名が類似しているとは言い難い。薬剤師がなんでこんな取り違えを2件も発生させたのか、お粗末である。2件とも女性患者が気付いて返品されたとのことで障害にはならなかった。
最近に厚労省が承認してしまった販売名類似?
「ザイティガ錠とザルティア錠の販売名類似による取り違え注意のお願い」というお知らせがJanssen社とEli Lilly社の連名で2015年6月に出された。医薬品医療機器総合機構(PMDA)(http://www.pmda.go.jp)で「安全性情報・回収情報・添付文書等」をクリック、「医療用医薬品の情報」の下の「適正使用に関するお知らせ」をクリック、「製薬企業からの医薬品の適正使用等に関するお知らせ」をクリックするとこのお知らせを見れる。実際に取り違えによる事故は発生していないようだが、65歳以上男性患者の前立腺に係る疾病に対して使用される薬剤であるという共通事項があり、注意喚起された模様である。
Eli Lilly社のザルティア錠2.5mg、同5mgは前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤として2014年1月17日に承認され、同年4月17日に薬価収載と同時に販売開始された。他方Janssen社のザイティガ錠250mgは前立腺癌治療剤として同年7月4日に承認され、同年9月2日に薬価収載と同時に販売開始された。販売開始後に医療現場から販売名類似と指摘されたようであるが、本当に類似なのか、分からない。
特許庁はザルティア、Zalutiaを2001年に商標登録、ザイティガ、Zytigaを2011年、2012年に商標登録しており、両者を非類似としている。まあ当然である。 商標部会の友人に依頼してJAPICの「医薬品類似名称検索」で「ザルティア」と「ザイティガ」の類似度を調査してみたが、editは2(2文字目と5文字目の2文字違い)、headは1(頭1文字が一致)、類似度係数cos 1が0.60、等々の結果であり、「新規承認医薬品名称類似回避フローチャート」に照らしても要変更とならない。従って既に発売されていたザルティアと比較し、ザイティガが販売名類似するかについて審議されなかったらしい。ザイティガは2014年4月30日開催の医薬品第二部会で審議されたが、審議議事録を見ても販売名が審議された形跡は無い。結局、これまでの基準で引っかからない事例が出てきたということらしい。
(その2)に続く、1週間後掲載予定)