おほしさま
子供の番組だろうか、幼稚園の園児に語りかけるように星の先生が喋っている。
ー冬はお星さまがきれいだねー、先生も毎晩楽しみ眺めているんだ、でもね、きのう見ていたお星さまが今日はいなくなっているかもしれないんだよー
精神年齢がほとんど園児に近くなった爺さんは思わず耳をそばだて始めた。
―冬の星座は六つあるの、その中で一等星という明るい星は七つあるの。どうしてだろう、オリオン座には一等星が二つもあるんだよ、青白いリゲル、赤いベテルギウス。この赤い星はとてもお年寄りで、もう死んでいるかもしれないの、今僕たちが見ているのは、500年前の光りなんだよ、お星さまから地球にとどくのに500年もかかるんだ。
あの星まで00億光年とか、xx億光年とか、こちらの脳ミソのタイムスケールが役立たない世界ばかりで、いつも頭の外にうっちゃったままに聞き流していたが、500年という年数は、学校で習った歴史の時間枠に納まる感じに思えてきた。お亡くなりになったのは戦国時代だろうか。あの本能寺が燃えていたころに爆発したベテルギウスの輝きが、今、我が家の庭に降りそそいでいるのかと考え始めると、脳ミソがなんだか感動し揺れ始めた。
頭が少しずつ動き出したが、それでは、今朝は、いつ頃の太陽の光りで目が覚めたのだろうかと、少し心配になってきた。調べてみると、たった八分で地球にとどくらしい。これは人の時間感覚の誤差範囲内である。地球で見る太陽の光はそのままのリアルな光りなのだ。月の光は一秒でとどくらしい。
億光年は夢の世界、ベテルギウスは歴史の世界、太陽と月はリアルの世界。
星の先生がまだ話している。
星座の名前は、誰がつけたか知っているかい、これはねー、夜に寝ずの番をしていた羊飼いさんたちが、夜空とお話しをしたくって彼らの知っている名前をつけたらしいよ。動物の名前が多いよね。ギリシャ神話にも関係があるみたい。冬の星座の、おうし座、オリオン座、オオ犬座、御者座、おとめ座、ふたご座、ウサギ座、みんなそうだねー
この頃は、足元もおぼつかなくなり、転ばないように下ばかり気にして歩くようになったためだろうか、夜空を仰ぐ機会がめっきり少なくなった。思い起こせば、夜空を見上げれば、いつも満天の星が輝いていた。夜は本当に暗かった。それに比べ、この頃は夜の闇は消え失せ、高みにあった夜空がどんどん降りてくるにつれて、お星さまはますます霞んでゆく。
だが、ラジオから流れる星の先生の語りがとても夢があり、星の世界が身近な存在に感じられるようになってきた。こちらの星座は、確か、おとめ座だったはずだ。この歳になると科学の世界もよいが、何故か神話の世界にもどりたくなる。