栄光イレブン会

栄光学園11期卒業生の親睦・連絡・活動記録

ブログ開設:2011年8月23日

きよちゃんのエッセイ (158) ”最後の同期会”(Okubo_Kiyokuni)

2022年12月27日 | 大久保(清)

 最後の同期会

恒例の校歌斉唱が始まった。忘れた奴もいるだろうとの老婆心から、元合唱部の仲間(田中君)が事前に音入れしてくれた伴奏に合わせて、スクリーン上に映し出された歌詞を追ってゆく。皆が口ずさむ『大横須賀の東』も、『七つの海』も、古き世代向けのOB専用バージョン。学園はすでに鎌倉の山の上に移転され、新しい校歌には、『相模野』や『丹沢』『輝く富士』など聴き慣れない地名がはめ込まれ、なぜか別の学校の歌に聞こえる。田浦という田舎町の、海風にさらされた旧式の校舎がまだ我々の母校なのだなあ、と脳みその底に残っている、あの潮のにおいを思い出しながら、参加者全員でかぶりつくようにして、何十年ぶりかの懐かしい歌詞を懸命に歌い続けた。

卒業生は156人、出席者は48名、物故者は27名、他の期と比較して、なぜか逝くのが早い気もする。まだ七十三歳なのに、と考えるのはみな共通の思いだろう。

有志が演壇に立ち一言述べ始めた。耳に残ったスピーチを一つ、二つあげれば、

『これから五年以内にAIによる独居老人の管理体制が確立します、家に備えられたモニターを見ながら病院が診断します。詐欺の犯人は人間ではなくなり、AIに代わります、警察は検挙できません。法律の変更が必須です。これは大手企業の元重役の言葉。今までの経験から言えば、同期会で語られるこの手の話はかなり精度が高い。

もう一人印象に残った男がいた。北海道から遠路はるばるやってきた内科医。確か、校内の成績は上の方ではなかったはずだが、なぜか、東大医学部にストレート入学した。五十数年ぶりの再会である。

『お前さ~、受かると思ってたのか?』(今でも信じられない顔つきで見つめる)

『自信あったよ、だが、一次は自信なかったんだ、だって苦手な数学は一問もとけていないかもしれなかったしさ、でも、一次を通れば、二次は理科と社会、これは大丈夫と思っていたよ』

今は大病院の院長さまだ。当時のガキ大将のような雰囲気を残したまま、マイクの前に立つ彼の姿を見ていると、アスファルト舗装の校庭で軟式テニスボールを蹴りあってミニサッカーに興じていたころの仲間達のどなり声が聞こえてくるような錯覚に陥った。

会場のホテルは横浜の西口から5分と記載さていたのだが、市営地下鉄の出口と西口との関係がわからぬままに、高島屋とか、ジョイナスとかの地下街をただひたすら歩き回り、やっと地上に出たものの、小摩天楼に囲まれて、大勢の人ごみに恐怖心すら覚えた。地図と視界に入るビルの名前を見比べながら、やっと到着した会場だったが、帰り際、数人の仲間たちが喋っていた、 『お前、ここにくるまで迷わなかったか~、お前もそうか~』

このあたりで、閉会の挨拶で述べていた幹事の真意がなんとなく読めてきた。

『諸般の事情により、今回が最後の同期会になりま~す』

幹事さん、長いこと面倒を見て頂き有難うございました。

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きよちゃんのエッセイ (157) ””聖夜(2)”(Okubo_Kiyokuni)

2022年12月18日 | 大久保(清)

 聖夜(2)

ピーヒョロロと耳障りな信号音が鳴り出すや、一拍おいて、ガガガと忙しげなプリント音に押しだされるようにして、一枚の紙が吐きだされてくる。もう夜の九時を回り、まわりに残業をする仲間の姿は見当たらない。今夜はクリスマス・イブなのだ。たった一枚の英文を仕上げるために、当方と外人の助っ人が街に繰り出せずに事務所にくぎ付けになっている。これは、日本が開催国になった『水のフォーラム』の世界会議での説明文の一部が弊社に依頼されたところから始まった。依頼主は国交省。テムズ川の水運の論文を書かれた皇太子さま(現在は天皇陛下)がフォーラムの名誉会長のご縁なのだろうか、水運部会に利用されるらしい。

日本の船舶輸送は紀伊国屋のミカン船が有名だが、これは海運のはなし。日本の河川はヨーロッパやアメリカとは違い急流が多いゆえ、河川の水運の歴史は浅い。現在は川下りの観光船ばかりで、水運と言うにはおこがましい状況下にあるのだが、日本の水運の特質を国の面子にかけて述べ切らねばならない。環境面では鉄道、飛行機、自動車より水運が有利なことを容易に理解させることはできるのだが、これだけで担当者を満足させるには迫力不足。一週間前、第一原稿を送付したが、現在は第5原稿に至っている。

霞が関は不夜城なのだろうが、こちらはクリスマス・ミサに行くべく家人との待ちあわせ時間が迫ってくるが、欠席の電話をするしかない状況になってきた。原作者である当人の舌足らずの英作文を、最初は軽い気持ちで添削していた仲間の英国人は母国の面子にかけても名文を作成してみようか、と、だんだんと熱が入ってきたようだ。じっくりと手を入れ終えた原稿をこちらのテーブルに置くと、上のフロアーに戻っていったが、すぐに電話がかかってきた。

―今、気が付いたんだが、その原稿は、スピーチ用、それとも提出するの?

スピーチの原稿の予定と伝えると、しばらくして文章変更を施して戻ってきた。

それから、しばらくすると、また電話がかかる。

―喋り手は、男? 女??

国交大臣の扇千景さんの可能性が大きいゆえ、スピーチは女性だと返答する。

少々時間がかったが、また修正して手元に届いた、よく見ると、修正はないように見えたが・・・これが最後と、ファックスを国交省の担当官に送付する。電話で送信済みの連絡を入れて待つこと、5分。また、ファックスマシーンが唸り始めた。コメント部分を相棒に見せるや、日本人の英文解釈と英国人の英文表現が微妙に違うようだ。文章の品格を上げ過ぎたためか、凡人の英作文を超えてしまったかもしれない。会議は外国人も多く、英国人が正確に伝える英語が正しいと思うのだが・・、外人の助っ人は黒子ゆえ、国交省とは直接交渉できず、日本人と英国人が電話ケーブルの中を行ったり来たりしているうちに、クリスマスの夜はシンシンと更けていく。

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