二日酔いのワイン
メキシコ料理を堪能した仲間達はかなり出来上がった状態でホテルに帰ってきた。
―なんだか、少し飲みたりないよなー、もうワインもたっぷり飲んだし、そうだ、グラッパがいいよーと誰かが言った。
こちらは、始めて聞く名前である。所長は指を鳴らし、ウェイターを呼んだ。
チョッと細めのワイングラスに濃い目のワイン色が運ばれてきた。
―これは酒盛りの最後の酒だよ、みんなで一気飲みして寝ようー
何か苦いワインの腐ったような口あたり、少しも美味しくないが無理して飲み干した。これがベッドで横になってから効いてきた。二日酔いを予感させる、あのなんと言えない気持ちの悪さが始まった。
次の朝、二日酔いが治まらずに、メキシコ石油公団との一回目の打ち合わせ。会議室に着くなり、冷たいミネラルウォーターとブラックコーヒーを所望する。幸いにプレゼンの順番が4番目なので間に合った。コーヒーを3倍飲んだところで、むかつきが少しずつ弱まっていく。でも、あの酒は何なのか、ワインであんなに苦しくなることはないはずなのに、と考え始めたが、あとで、アルコール度数を確かめて納得する。こちらの手に負える度数ではない。
グラッパとは、ぶどうの搾りかすを発酵させたアルコールを蒸留させて作る。通常は無色透明らしいが、ここで飲んだのは赤ワイン色の濁った感じである。これは、樽熟成の貴重品らしい。うまいものではないが、それはそれなりの歴史の味なのだろう。
因みに、アルコール度数は30―60度とのことで、おそらく、メキシコで飲んだグラッパは、上限に近かったのではないだろうか。水も飲んで一気にグラスをあけたと思うが、余り覚えていない。
この強いワインは要注意である。特に、翌日の会議が迫っている状況では、こちらのような酒に弱い男がうっかり飲んでしまうとトンでもない、しっぺ返しを食らう。
メキシコの仕事も終わり、パナマに飛んだ。現在のパナマ運河の航行容量、つまり、運河を通過する船の数と船の大きさが限界に近づいてきているため、第二パナマ運河計画が動き出していた。
会議の前の晩に、また同じような雰囲気になってきた。ホテルに帰り、皆部屋には戻らず、なんとなく、バーに行く雰囲気となってきた。ここでも、最後の締めはグラッパである。このときもつられて一杯やったばかりに、翌朝、パナマ運河事務所に行く途中、案の定、胸はむかつき、冷や汗ばかり、お冷を飲みのみのプレゼントなった。このグラッパの思いでは二日酔いだけだ。今後は飲むまいと思っているが、どうなることか。