老人のおしゃべり
おばちゃんたちは、忍耐力もあり、話し相手もそれなりにあり、常識をふまえた人が多くなってきたのだが、最近、公衆の面前で長々と自説を述べるおじいちゃんの姿が目につくようになってきた。久しぶりにドコモのサービスセンターにやってきた。いつもの通り、受付嬢から手渡された問診表を埋めているところに、背中から、爺ちゃんと若い女性の担当者の会話が飛び込んできた、もうかれこれ十分間以上も話している。
ーハイハイ、よくわかりました、でも、ドコモからそんな電話を差し上げることはありませんよ
ーハイハイ、奥様との話し合いの内容はわかりましたが、お爺ちゃんはどうしたいのですか??
ーハイハイ、よくわかります、奥様が聴いて下さらないのですねー
長々とグチ話がつづいて、結局、問診表は書かずに出口まで送りだされたが、ドアが半開きのまま、また食いさがる、大きな声がホール中に響き渡り、朝の忙しい時間帯、運悪く貧乏くじを引かされた受付係は笑顔を絶やさずに、ようやく次の順番のお客様に向かっていった。
薬局の待合室。薬を受け取った老人が女性の薬剤師に文句を言い始めた。
ーこんなにたくさんもらったって使い切れないよ、前の分もまだ残っているんだから・・・、
=申し訳ございません、処方箋に書いてある通りお出ししましたので、
ー多いから半分返すよ、国の財政も大変なのに、もったいないよ、返しますよ、
=それは出来かねますので・・・はい、すみません・・
ー00先生に連絡して、薬を減らすように言ってよ・・・
=こちらから電話はちょっと・・・・・・・・
診察室で担当医に直接述べればよいところを、薬剤師にクレームをつけている、甘えなのだろうか??
今日はスーパーのレジの混みようは尋常ではない。列の後ろの方で爺ちゃんが前のおばあさんに話しかけている、最初は愛想笑いで相槌を打っていたおばあさん、やがて対応が変わってくる、
ー米朝会談、あれは無理だね、うまくいくはずないよね、どう思います??
=そうですねー、と言ったきり声が途絶えてしまった・
ー安部さんはどっちを向いているのかねーあっちに行ったり、こっちに行ったり、どう思います?? とかまわずに話し続けるのだが、 おばさんは沈黙・・・、
レジの動きが遅く、いっこうに列が進まない、耳に栓をしながら、ただひたすらこらえていたが、たまらなくなり、そっと、首をひねってみた。すると、ハゲ具合といい、ボケ顏といい、こちらとそっくりな老人が、そこに立っていた。他人のことはよく気が付くのだが、自分のことは案外気が付かないものかもしれない。