ソヨゴ
ー旦那さん、どれでも好きなのを選んでよ、あとで地主に値段を聞いておっからよ~と言いつつ、小柄の杵さんは伸びあがるようにして溜め地を見回し、ソヨゴを選び始めた。
ー旦那さん、これどうかな~、なかなか、いい株立ちだよーと一番大きなソヨゴに目印のヒモを付け始めた。
―少し大きすぎないかなーと予算を心配しつつ呟くと、こちらの気持ちを察したかのように、ーそれじゃー 旦那さん、ついでに2番目に、でっかいのも選んでおいてー
と返してきた。どちらも背丈が高く、幹の数が10本以上もある。
予算を尋ねられた折に、庭木をいじる最後の機会だし、主木だからと、奮発した金額を知らせておいたが、どう見ても、その値段では買えそうもない。
選び終わり、帰り支度を始めていると、近くだから、と愛嬌のある顔で誘われた。住宅地を通りぬけ狭い山道を小型トラックは登ってゆく。やがて、道から落ち込んだ雑木林に囲まれた斜面に建てられた古びた平屋の前で止まった。土間から薄暗い部屋に上がると、黒ずんだ畳の上に焼き物や盆栽が無造作に置かれ、その雑然とした空間が奥に見える木立に溶け込み、今まで植木に隠れて見えなかった杵さんの素顔をほんの少しだけ覗けたような気がした。
杵さんとの付き合いは、始めての一戸建ての猫の額ほどの庭に、義父の口利きで石と数本の植木を移植してもらってからの付き合いである。経済的にゆとりのない時代、特別値段で面倒を見てもらっていたが、縁あって新しい家に移り住み、終の棲家の最後の贅沢と、垣根から庭木まですべて杵さんに頼んだ。日本式の庭にこだわった杵さんだったが、常緑の株立ちの木の中から洋風の家に合うソヨゴに決まった。
溜め地で購入したソヨゴは二階のベランダから見上げるまでに成長し、夏には、風にそよぐ緑葉が涼しさを演出し、晩秋のころ、鈴なりになった真っ赤な実は庭に艶やかさを添え、我が家のシンボルツリーとして、毎日の暮らしに潤いをもたらしてくれた。
だが、ソヨゴは年々勢いがなくなり、少しずつ葉先が黒ずみ始めた。―春に新芽が出れば、なんとかなるがー・・、と濡れ縁でタバコに火をつけながら、杵さんは切り詰めたソヨゴを心配そうに見上げていた。
―枯れたらまた一緒に溜め地に見に行きましょうよーと何も考えずに軽く受け答えをしていたのだが、年が明け春も近くなった頃、二人三脚で働いていた奥さんから杵さんの訃報が入った。
それから一年、十分な手当てもできず、あとを追うようにソヨゴも枯れてしまった。庭の真ん中に残された何本もの太い切り株を眺めていると、こちらを覗き込むようにして、少しこちらをからかうように喋っていた、あのしゃがれ声が後ろから聞こえてきたような気がした。―旦那さんも、ほんとーに植木が好きだねー と、ソヨゴを選んでいたときの、あの声が、
植木鋏の小気味よい音とともに。