G
―お客様の足はとても珍しいサイズでございます。寸法表にはのっておりましたが・・・、この一番右の枠に記されておりますGというサイズになりますー
靴屋の店員が左足にメジャーをあて終わるや、靴のサイズ表から目を離し、口元は遠慮気味だが、目元は少しだけ嬉しそうにこちらの顏を見上げ語りかけてきた。
普通の人は足の長さが、甲の位置での足回り(足囲)より大きいのだが、こちらは足囲が足長より大きい、いわゆる幅広甲高なのだ。初めて耳にする “G”と言う貴重なタイプを喜ぶべきか、嘆くべきか、E表示で言えば6Eということらしい。これ以上のワイドは表に見当たらない。
若かった頃は、見栄えの良い、流行の靴を発見するや、足が入るサイズまで試し続けた結果、余分なつま先を抱えた道化師の専用靴に行きつくので、格好の良い靴は諦めかけていたのだが、この驚くべき事実を知らされてからは、ワイド表示のない靴には目もくれず、ひたすら3E,4Eの文字を追い求めていた。
運よく、4E表示の靴を見つけるや、すぐに試すのだが、日本人もスマートになってきたのか、最近ではこのサイズも品薄になっている。こちらの靴選びで更なる問題点は、右足は2Eサイズで十分間に合うために、右足を立てれば、左足が立たず、その逆も然りと、胴長、頭でっかちの身体の欠点に更なる特異点を発見し、これぞ貴重種と開き直るしかない。
Gの存在を知り、足の指の長さにも興味を持ち始めた。日本人の足は親指が長いエジプト人タイプが多いらしいのだが、こちらはケルト人に近いらしい。じっくり眺めてみると、親指と中指の長さはおなじで人差し指が一番長い。ここでも、我が足の特異性は確認された。
靴選びは朝方よりも午後の時間帯に選ぶのがよいといわれる。それは、十分に歩きこみ、足のはった状態でのフィット感を確認する必要があるからなのだが、左足のGの膨れ方が、右足と違うため、ここでもサイズ選びで苦労させられる。
緩めの靴を選べば、足にあたらず都合が良いように思えるが、決まって脱げやすくなる。むしろ、いくらかきつめ感が残るが、だましだまし使い続けているうちに、いつの間にか、この違和感が消えてゆく靴が最高なのだ。この調整期間に足に寄り添えるかどうかで、その靴の一生が決まってしまう。順応できぬ時は、靴箱でしばらく休まれてからやがて廃品整理される運命だ。
その反対に、相性の良いものは、そのフィット感は他には代えがたく、いくら靴底がすり減っても、何度も修理され履き続けてゆく。長年、愛用するメーカーでも、毎年、微妙にモデルチェンジするゆえ、こちらの左右のGへの相性度を満足させた、永年の連れ合いに勝る靴はなかなか現れない。この歳になれば外出用も、普段用も、こだわりがなく、お気に入りの一足はもう十五年以上も臭い仲を続けている。