医療用配合剤、どうなってるの (最終回)
医療用配合剤の販売名
医療現場では、配合剤と気付かずに同じ成分を含有する2剤を併用し、重複投与してしまうことが懸念され、厚生労働省は2008年9月22日に「配合剤と分かる販売名とするようにという通知(薬食審査発第0922001号)を出している。
① 販売名にブランドに続いて配合錠あるいは配合顆粒と記すこと
② 配合されている特定の成分の名称だけを販売名にしないこと
③ 配合比率が異なる場合は、記号などで表わすこと(含有量を販売名に入れない)
先に示した表で「販売名」という欄を設けずに「ブランド部分」だけを示したが、販売名を記すとなると、プレミネント配合錠LD、プレミネント配合錠MDのように2製品になるもの、カデュエット配合錠1番、カデュエット配合錠2番、カデュエット配合錠3番、カデュエット配合錠4番のように4製品になるものなど、配合比率の異なる販売名で混乱してくる。企業間で記号の用い方に統一がなく、医師、薬剤師にとって迷惑だろうなあと思う。我々患者としては配合成分の各々の量をしっかりと確認してくれる調剤薬局を見つけるしかないだろう。
医療用配合剤の後発品の販売名
プレミネント配合錠LDの後発品31品目が2014年2月14日に承認され、テバ製薬と大正薬品(大正製薬とは全く関係ない)の2品を除く29品目が6月20日に薬価収載された。後発品の販売名はロサルヒド配合錠LD「○○」である。「○○」と承認取得企業名の関係は下表のとおりである。あすか製薬品は武田薬品が、二プロパッチ品は第一三共が、リメディオ品は杏林製薬が、ダイト品は科研製薬が販売している。
「サワイ」 沢井製薬 |
「DK」大興製薬 |
「ファイザー」ファイザー |
「トーワ」 東和薬品 |
「EE」エルメッドエーザイ |
「サンド」サンド |
「日医工」 日医工 |
「EP」 ニプロパッチ |
「タナベ」田辺三菱製薬 |
「アメル」 共和薬品 |
「FFP」 富士フィルム |
「杏林」 リメディオ |
「ニプロ」 ニプロ |
「JG」 日本ジェネリック |
「モチダ」持田製薬 |
「タカタ」 高田製薬 |
「KN」 小林化工 |
「科研」 ダイト |
「ケミファ」日本ケミファ |
「KO」 寿製薬 |
「明治」Meiji Seikaファルマ |
「日新」 日新製薬 |
「KOG」 興和 |
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「三和」 三和化学 |
「SN」 シオノケミカル |
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「ツルハラ」鶴原製薬 |
「TCK」辰巳化学 |
「テバ」テバ製薬 |
「AA」 あすか製薬 |
「YD」 陽進堂 |
「TYK」大正薬品 |
ロサルヒドは配合成分ロサルタンの頭3文字、ヒドロクロロチアジドの頭2文字を組み合わせた造語であり、日本ジェネリック医薬品学会 (GE学会)によって2013年4月22日に商標出願され、2013年9月6日に商標登録第5612630号として登録されている。英名Losarhydも2013年8月26日に商標出願され、2014年1月10日に商標登録第5641122号として登録されている。
プレミネント配合錠LDの後発品に商標が使用されることとなった経緯を商標部会の納涼会で聞いた。製薬業界の新聞に何回か紹介されていたとのことであり、「あれっご存じなかったですか」なんて言われてしまったのだが・・・業界新聞を退職後は見てない。
2013年の7月に業界新聞に出たのは「GE学会は配合剤の統一ブランド名を特許庁に商標登録し、GE薬メーカーが利用できるようにするジェネリック配合剤商標プロジェクトを立ち上げた。」という報道だったという。
医療安全等の観点からGE薬を一般名にすることを厚生労働省が中心となって促しているが、配合剤の場合には一般名にすると名称が長くなったり、逆に処方・調剤ミスを引き起こす可能性もある。そこで、配合剤の場合には一般名ではなく統一ブランド名を使うよう、ルールづくりを進めるということであった。
2013年10月の業界新聞では「日本ジェネリック製薬協会 (GE薬協)は、GE学会が統一商標名を検討するのを受け、来年発売が見込まれるロサルタンとヒドロクロロチアジドの配合剤GE薬について、統一ブランド名として「ロサルヒド」の使用を推奨する通知を会員社向けに発出した。」と報道されたという。推奨と言うが、ロサルヒド使用でないと厚生労働省が承認しないということで、実際は強制的だったようである。その結果ロサルヒド配合錠LD「○○」が誕生したとのことである。
商標ロサルヒドを使用している後発企業はGE学会へ使用料を支払っているとのことで、原則として会員は5年間で15万円、非会員は5年間30万円らしいが、詳しい情報は得られなかった。
プレミネント配合錠LDの後発品については統一商標ロサルヒドの使用で決着したが、今後はどうなるのだろうか。同様な手法で行くとすれば、GE学会は前もって商標を登録させておかねばならないが、どうもそのような手配は十分にはされていないようである。例えば、カンデサルタンとヒドロクロロチアジドの配合錠の後発品ではカンデヒド、Candehydが名称候補となるが、外資Mylan製薬が2014年2月6日に商標出願し、2014年6月20日に登録第5678629号、5678630号を登録させている。Mylan製薬が独占的に使用すると主張すれば、他社は使えなくなる。
使用料を払えとなると、相当な金額になるだろう。バルサルタンとヒドロクロロチアジドの配合錠ではバルサヒド、Valsahyd、テルミサルタンとヒドロクロロチアジドだとテルミヒド、Telmihydとなるだろうと予想されたが、これらの商標は登録されていない。前もって商標を抑えておいて高額な使用料を稼ごうとする輩は中国人だけではない。GE学会が配合剤後発品の商標について早め早めに備えていかないとロサルヒドのような方式はかかる輩によって行き詰ってしまうかも知れない。
2014年7月14日にGE学会は第二弾の統一商標4件を発表し、使用の募集を始めたという。バルサルタンとヒドロクロロチアジドの配合剤用にはバルヒディオ、Valhydioを、バルサルタンとアムロジピンの配合剤用にはアムバロ、Amvaloを、アトルバスタチンとアムロジピンの配合剤用にはアマルエット、Amaluetを、そしてタゾバクタムとピペラシリンの配合注射液用にはタゾピペ、Tazopipeを統一商標としている。いずれもGE学会が商標権を保有しているようである(タゾピペ、Tazopipeは日本ケミファが商標登録したものであるが、GE学会へ譲渡されたのであろう)。なぜバルサヒドが採用されなかったのという疑問の声もある。
他社の商標と抵触した形跡はなく、バルヒディオになった理由は分からない。Novartisのディオバンの名称の一部を取り入れたとすれば、先発品の商標にただ乗りする感があり、よろしくないんじゃないのと思われる。
ロサルヒド方式は日本特有の方式であり、欧米では成分の一般名をすべて記載する長い販売名 (losartan potassium and hydrochlorothiazide) である。後発品に商標・ブランドを採用しないようにというWHOの勧告に欧米は従っており、長ったらしいのは別に構わないという考えである。欧米では処方・調剤ミスを起こさないよう医師・薬剤師の習熟度を上げるという考えも基本にあるようで、これも日本と違う。ロサルヒド方式が生き残るか、または新たな方式へ転換するのか、見守っていこうと思う。
まあ自分が生きている間くらいはロサルヒド方式なのだろうなあ。長生きしようっと。
以上