ダルエスサラームの一日
ここは、アフリカ、ナイロビ・オフィスの昼下がり。
モンバサ港でのコンテナターミナルの打ち合わせが空振りとなり、アフリカまで遠征して手ぶらで帰るのもなんだよなーと、二階の窓まで迫ってきた赤いブーゲンビリヤを眺めては、苦いコーヒーを口に運び、タバコに火をつけては灰皿に吸殻の山を造っていた。そんなときに、東京から電話がかかった。ダルエスサラームの零細漁業を援助すべく事業団の漁港建設の入札公示が出たらしい。
本社からの出張打診に応じたかたちで準備を始めたものの、世界地図を広げれば、ナイロビ、ダルエスサラーム間は一センチほどの距離だが、アフリカは広いのだ。豊富なヨーロッパ便に比べ、アフリカでは横への便数が少なく、ビザ取得の時間の余裕もなく、空席の出た最終便に飛び乗るようにしてダルエスに向かった。
教えられた通りに、一番左の入国カウンターに並び、パスポートにドル紙幣を挟みこみ、係官の顔を見ないように提出する。カウンターの外で心配そうに覗いていた出迎えのピーターさんは列を確認し安心した顔つきで待っている。とりあえず、ビザなしで無事に入国し、翌朝、漁港公社に表敬訪問に向かった。
驚いたことに、公社で教えられた漁港予定地は指示書に記された場所とは違う。わざわざ、時間と金をかけて現場視察する競争会社もおらず、これはアフリカまで、たまたま、足を伸ばしていたものしか知りえない特ダネ、この新事実に基づいたプロポーザルは、当然、一番札の栄誉を獲得することになる、高級マグロを釣りにはるばるケニアまでやってきたが、隣国の海岸でアジを一匹釣ってしまった心境で、今一つ達成感はなかったのだが。
炎天下、漁師の小舟がひき上げられた砂浜を歩き回り、火照った体を休めるべく、うらぶれた海辺の食堂で地元料理をつまんだ。ぬるいビールで喉を潤しつつ沖合に目をやると、これから漁に行くのだろうか、夕方のゆるい海風をうけながらダウ船が視界の中をゆったりと移動してゆく。タンザニアの首都ダルエスサラームはアラビア語でー平和の家―という意味を持ち、イスラムが全盛の時代、東アフリカの中心的な貿易港として栄えてきたとの昨日読んだばかりのガイドブックの情報を思い出しながら、のどかな海岸風景に浸っていた。
予定の現地調査を終えたその足で、空港に戻ると、昼の顏とまったく違う夜のアフリカの顏がそこにあった。国際線ロビーにはヨーロッパに遊びに行くのであろうか、酷暑の土地で着飾ることができない自慢のファッションを身にまとった紳士淑女たちが群れていた。薄暗いライトに照らされて、まるで夜の社交場の雰囲気。額に汗をにじませたレディーたちの原色のドレスと強い香水の匂いに圧倒されながら、地球の裏まで仕事探しにきたおじさんは、アフリカの昼と夜の顏にさらされてなぜか不思議な気持ちになってきた。