月に100Km程度のランニングを楽しんで体力維持をはかりスリムな体形(?)を維持していると自負しています。やっと寒くなって少し走りやすくなってきました。今回ブログ掲載の依頼に昨年の東日本大震災以降問題になっている「原発」について少しまとめてみました。
在職中、原発関連工事を何件か担当しました。とりわけ青森県六ヶ所村の廃棄物貯蔵施設では、再処理されたガラス固化体を自動搬送する遠隔装置を設計しましたが、耐震強度への対応は当然のことながら、万一の場合の救援装置を別に設備するなど異常時の対応は十分にされていると思っていました。
昨年の東日本大震災における東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、原子力技術への信頼が揺らいでいます。そこから原子力に対するパッシングが強くなり、日本政府も2030年代には原発ゼロを目指すと最近表明しました。「原子力怖い」の世界になっています。日本は地震国であり、今回の大震災のように大津波の危険もあります。その中での原子力発電所は多くの危険をはらんでおり、脱原子力でエネルギ問題が処理できればそれに越したことはないと思います。
福島原発の事故で大量の放射能が飛散し、汚染による健康被害が懸念されています。露無さんのバイオによる体内除染処理はすばらしいと思います。ところが、放射線は自然界に飛び交っており、私たちは普段から宇宙や大地から自然放射線を受けています。日本では1.5mSv/年(ミリシーベルト/年)、世界平均では2.4mSv/年ほど自然被曝しているのです。ブラジルでは10mSv/年の所もあります。医療でも胃のバリウム検査で0.6mSv、CTスキャンでは7mSv、日本人は平均的に4.0mSv/年医療被曝していると見られます。
一方国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づき一般の人々は1mSv/年、放射線に従事する作業者は50mSv/年が被曝規制値とされています。これは先の自然被曝と医療被曝分を除くという条件です。除かれた自然被曝等の被曝量より一般の人々への規制値が厳しくなっていますが、この規制値は放射線の健康への影響限界に対してどれ程の尤度があるのでしょう。
この被曝規制は放射能を浴びると発癌等の健康被害リスクが高まるということから来ています。広島、長崎への原爆後の詳細追跡調査結果から200mSv以上被曝した場合は、はっきりと癌のリスクの上昇が確認されました。また、100mSv~200mSvではわずかに癌で死亡するリスクが増えていました。その割合は1Sv当たり5%ほど癌で死亡する確率が上がるというものです。しかし100mSv以下では癌のリスクが上昇する証拠は全く見つかっていません。しかし100mSv以下 0mSv までこの割合で癌のリスクが存在すると仮定して、全ての人々への放射線防護の観点から先ほどの規制は設定されています。
また大変重要なのはこの広島と長崎の原爆のデータは一度に放射線を浴びた場合だということです。人間の体には自己修復機能があるので、同じ放射線量だったら一度に浴びるよりもゆっくり浴びた方が危険度は当然下がります。たとえば4Svを一気に被曝すれば1~2ヶ月で半数の人が死ぬと言われますが、白血病には2Svを2回当てて治療するそうです。放射線に対する耐力には個人差があります。特に、放射線に敏感な乳幼児、子供、妊婦などは当然不必要な放射線被ばくは避けるべきです。その意味で先の1mSv/年は余裕を持った安全規制と言えます。
それにつけても気になるのは「放射線怖い」の報道から出た風評被害が東北各県に出ていることです。0.12μSv/H(マイクロシーベルト/時間)の環境で1年間生活して先の規制値の1mSvの被曝になります。東京成田~ニューヨーク間を往復すると0.19mSvの被曝を受けると言われておりますので、その間7~8μSv/Hの環境で25~26時間居たことになります。国際線搭乗員の方々は多くの被曝を受けますのでガイドラインで5mSv/年を上限として管理されているようです。(女性の場合は一般と同じ1mSv/年)
ところで、私たちは放射線被曝しなくても25~30%の人は癌で死亡すると言われます。そして、タバコを吸う人は癌で死ぬ確率が男性だと2倍程度、女性だと1.6倍程度上昇します。交通事故や、車の排ガス、肥満、運動不足など、低線量の被曝よりもはるかに危険なものに、我々は取り囲まれています。このような危険度に比較して、先の1Sv当たり5%ほど癌で死亡するリスクが上昇する割合で計算すると、100mSv余分な被ばくをすると癌になる確率が0.05%増加することになり、先の25~30%に足されるわけです。これが問題にならないリスクであることは明らかでしょう。不必要な放射線被曝は避けるべきですが、目に見えないことからあまりにも神経質になっていると思います。
次に、発電の代償としての廃棄物問題があります。核燃料サイクルの下流には、二つの流れがあります。原子炉で燃やしたあとの使用済燃料をそのまま放射性廃棄物として廃棄するか、再処理をするかです。使用済燃料の中には、燃料としてまだ使えるウランの燃え残りと、新しく生まれたプルトニウムが含まれています。このプルトニウムとウランを高レベルの放射性廃棄物から分けて取り出すのが再処理です。世界的には再処理をせず使用済燃料をそのまま高レベルの放射性廃棄物として廃棄するのが主流ですが、日本は再処理を行う方を選択しています。これはプルトニウムが増殖する夢の原子炉と言われる「高速増殖炉」を切り札として採用した結果と思われますが、プルトニウムはMOX燃料(プルトニウム入りウラン燃料)として軽水炉でのプルサーマル計画でも使用します。高速増殖炉は取扱が難しく危険が大きいため各国はあきらめ、日本でも事故続きでまだ暗礁に乗り上げています。地震国の日本では特に難しいと思います。
六ヶ所・核燃料サイクル施設で再処理及び貯蔵を行うことになっていますが、これも事故トラブル続きで遅れています。それ以上に先の原発ゼロを目指せば再処理でプルトニウムを取り出す必要もなく再処理工場は貯蔵施設としての役割を果たすしかありません。
原子力発電は、従来から事故のリスクは非常に小さいと考えられ原子炉の炉心が損傷するような重大事故が日本で発生するのは100万年に1回もないと言われて来ました。そのように絶対ないと言っても良いほどないと思われていた重大事故が今回起きてしまったのです。原子力技術への信頼が揺らいでいます。今回の事故の原因は東京電力が利益重視から津波対策に目を向けていなかったことすなわち人災と考えられますが、再度発生する可能性があると思われそうです。ただ、原子力関連の技術者は重大事故発生の危険は、今回の事故の反省から十分な対策をとれば、先の見解と同様にまれであると主張しています。
とはいってもやはり、脱原発に舵を切ることは正しい選択と考えます。ただし、自然エネルギ等の代替エネルギはまだ不十分ですので、今回政府が言うように2030年代に原発ゼロと言うのは社会に与える影響が大きく、今後は低エネルギ消費の方向に進みながら節度を持って徐々に減らしてゆく方策が適当と考えます。